- 歌
- わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波
- 意味
- 大海原に舟を漕ぎ出して見わたすと、はるか遠くの沖では、白い雲と見分けがつかないほどに、白波が立っていることだ。
- 作者
- 法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん(ふじわらのただみち))
- 出典
- 『詞花和歌集』雑下・380番
- 決まり字
- 「わたのはらこ」(6字決まり)

わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の
雲居にまがふ 沖つ白波
読みわたのはら こぎいでてみれば ひさかたの
くもいにまがう おきつしらなみ
歴史的仮名遣いわたのはら こぎいでてみれば ひさかたの
くもゐにまがふ おきつしらなみ
大海原に舟を漕ぎ出して見わたすと、はるか遠くで、雲と見分けがつかないほど沖の白波が立っている——関白・藤原忠通の、スケールの大きな海の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| わたの原 | わたのはら | 大海原。 |
| 漕ぎ出でて見れば | こぎいでてみれば | 「漕ぎ出して見ると」。已然形+ば です。 |
| 久方の | ひさかたの | 「雲居(空)」にかかる枕詞です。 |
| 雲居にまがふ | くもいにまがう | 「雲と見分けがつかない」。「まがふ」は区別がつかないことです。 |
| 沖つ白波 | おきつしらなみ | 沖の白波。「つ」は「の」と同じ古い格助詞です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| わたの原 | 名詞 | |
| 漕ぎ出で | 動詞・ダ行下二段「漕ぎ出づ」連用形 | |
| て | 接続助詞 | |
| 見れ | 動詞・マ行上一段「見る」已然形 | |
| ば | 接続助詞 | 確定条件 |
| 久方の | 枕詞 | 「雲居」にかかる |
| 雲居 | 名詞 | 雲・空 |
| に | 格助詞 | |
| まがふ | 動詞・ハ行四段「まがふ」連体形 | |
| 沖 | 名詞 | |
| つ | 格助詞 | =の |
| 白波 | 名詞 | 体言止め |
表現技法・文法のポイント
沖の白波を、空の白い雲と見分けがつかないものとして描いています。
「雲居」にかかります。33番では「光」にかかっていました。
「沖つ白波」で終わり、雄大な景色を印象づけています。
歌の背景・鑑賞
『詞花和歌集』雑下に入っています。詞書によると、崇徳天皇(77番)の前で「海上遠望(海の上を遠く望む)」という題で詠んだ歌です。11番の小野篁「わたの原八十島かけて」と同じ「わたの原」で始まりますが、こちらは晴れやかな景色の歌です。のちに、この歌を詠んだ天皇と忠通は、保元の乱で敵どうしになります。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
忠通の「忠通」という名前は、73番の大江匡房が付けたとされます。百人一首の中に、名付け親と名付けられた子が並んでいるのです。
忠通はこの歌を崇徳天皇(77番)の前で詠みましたが、のちに保元の乱(1156年)では、後白河天皇の側について崇徳院と戦いました。晴れやかな海の歌を詠んだ二人が、のちに敵どうしになるとは、歴史の皮肉です。
忠通の娘は88番の皇嘉門院別当が仕えた皇嘉門院、子は95番の慈円、孫は91番の九条良経です。忠通は、百人一首に何人もの家族や関係者が登場する「大家族」の中心人物なのです。
作者:法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)
平安時代後期の公卿・歌人、藤原忠通(ふじわらのただみち)です。鳥羽・崇徳・近衛・後白河の4代の天皇に、37年にわたって摂政・関白を務めました。名前の「忠通」は、73番の大江匡房が名付けたとされます。88番皇嘉門院別当が仕えた皇嘉門院(崇徳天皇の中宮)の父で、95番の慈円も子、91番の九条良経は孫にあたります。
決まり字と覚え方
上の句が「わたのはらこ」まで読まれたら、取り札が決まります。「わ」で始まる歌は7首あります。
覚え方:「わたのはらこ」と聞いたら「くもゐにまがふ」。11番も「わたのはら」で始まるので、6字目の「こ」(漕ぎ出でて)と「や」(八十島)で分かれる6字決まりです。漕ぎ(こ)出して雲居(くもゐ)、と覚えます。
入試で問われるポイント
- 枕詞「久方の」→雲居
- 格助詞「つ」(=の)
- 見立て
- 11番との見分け(6字決まり)
- 保元の乱(77番崇徳院との関係)
よくある質問
「雲居にまがふ」とはどういう意味ですか?
「雲と見分けがつかない」という意味です。沖の白波が雲のように見えるのです。
11番「わたの原」との見分け方は?
76番は「わたの原 漕ぎ出でて見れば」、11番は「わたの原 八十島かけて」です。6字目の「こ」と「や」で決まります。
藤原忠通はどんな人ですか?
37年間にわたって摂政・関白を務めた政治家です。名前は73番の大江匡房が付けたとされます。
あわせて読みたい
- 11番「わたの原」(参議篁・旅)
- 77番「瀬をはやみ」(崇徳院・恋)
- 73番「高砂の」(権中納言匡房・春)
- 75番「契りおきし」(藤原基俊・雑)
- 88番「難波江の」(皇嘉門院別当・恋)
- 95番「おほけなく」(前大僧正慈円・雑)
- 91番「きりぎりす」(後京極摂政前太政大臣・秋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
