- 歌
- わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ あまの釣舟
- 意味
- 大海原に浮かぶたくさんの島々をめざして、(私は)舟を漕ぎ出していったと、都にいる人には伝えておくれ、漁師の釣り舟よ。
- 作者
- 参議篁(小野篁)(さんぎたかむら(おののたかむら))
- 出典
- 『古今和歌集』羇旅・407番
- 決まり字
- 「わたのはらや」(6字決まり)

わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと
人には告げよ あまの釣舟
読みわたのはら やそしまかけて こぎいでぬと
ひとにはつげよ あまのつりぶね
歴史的仮名遣いわたのはら やそしまかけて こぎいでぬと
ひとにはつげよ あまのつりぶね
大海原の島々を目指して漕ぎ出していったと、都の人に伝えてくれ、漁師の釣り舟よ——隠岐へ流される小野篁が、さびしさを押し殺して詠んだ歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| わたの原 | わたのはら | 大海原。「わた」は海のことです。 |
| 八十島 | やそしま | たくさんの島々。「八十」は数が多いことを表します。 |
| かけて | かけて | 目指して。 |
| 漕ぎ出でぬ | こぎいでぬ | 「漕ぎ出してしまった」。「ぬ」は完了の助動詞です。 |
| 告げよ | つげよ | 「伝えてくれ」。命令形です。 |
| あまの釣舟 | あまのつりぶね | 漁師(海人)の釣り舟。舟に呼びかけています(擬人法)。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| わたの原 | 名詞 | |
| 八十島 | 名詞 | |
| かけ | 動詞・カ行下二段「かく」連用形 | 目指す |
| て | 接続助詞 | |
| 漕ぎ出で | 動詞・ダ行下二段「漕ぎ出づ」連用形 | |
| ぬ | 助動詞「ぬ」終止形 | 完了 |
| と | 格助詞 | 引用 |
| 人 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| は | 係助詞 | |
| 告げよ | 動詞・ガ行下二段「告ぐ」命令形 | |
| あま | 名詞 | 漁師 |
| の | 格助詞 | |
| 釣舟 | 名詞 | 呼びかけ(擬人法) |
表現技法・文法のポイント
釣り舟を人のように見立てて「伝えておくれ」と呼びかけています。話し相手がいない孤独さが伝わります。
「漕ぎ出でぬ」の「ぬ」は完了。打消の「ず」の連体形「ぬ」と区別しましょう。
「あまの釣舟」で終わり、広い海に小さな舟が浮かぶ情景を残します。
歌の背景・鑑賞
『古今和歌集』羇旅の部に入っています。詞書には、隠岐国(今の島根県の隠岐諸島)に流されることになり、舟に乗って出発するときに、都の人に送った歌とあります。篁は遣唐使の副使に任じられましたが、大使とのもめごとから乗船を拒み、さらに遣唐使を批判する詩を作ったため、嵯峨上皇の怒りを買って流罪になりました。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
小野篁には、昼は朝廷に仕え、夜は井戸を通って地獄へ行き、閻魔大王の補佐をしていたという不思議な伝説があります。京都の六道珍皇寺には、篁が地獄へ通ったという井戸が今も残っています。反骨の人だった篁の強烈な個性が、こうした伝説を生んだのかもしれません。
9番の小野小町は、篁の孫だという説があります。確かな証拠はありませんが、もし本当なら、百人一首の中に祖父と孫が並んでいることになります。
流罪で遠い島へ向かうのに、歌には泣き言が一つもありません。「堂々と漕ぎ出していったと伝えてくれ」という言葉の裏に、都の家族を心配させまいとする強がりがあったのでは――そう想像すると、胸が熱くなります。
作者:参議篁(小野篁)
平安時代初期の公卿・文人、小野篁(おののたかむら)です。漢詩や書にすぐれた学者で、反骨精神の強さから「野狂(やきょう)」とも呼ばれました。隠岐に流されましたが、のちに許されて都に戻り、参議まで昇りました。
決まり字と覚え方
上の句が「わたのはらや」まで読まれたら、取り札が決まります。「わ」で始まる歌は7首あります。
覚え方:「わたのはらや」と聞いたら「ひとにはつげよ」。76番も「わたのはら」で始まるので、6字目の「や」(八十島)と「こ」(漕ぎ出でて)で分かれます。「や」は八(や)、人(ひと)に告げよ、と覚えます。
入試で問われるポイント
- 完了の助動詞「ぬ」と打消の「ず」の連体形「ぬ」の識別
- 命令形「告げよ」
- 背景(隠岐への流罪)
よくある質問
「わたの原」とはどういう意味ですか?
大海原のことです。「わた」は海を表す古い言葉です。
小野篁はなぜ隠岐へ流されたのですか?
遣唐使の副使に任じられたのに乗船を拒み、遣唐使を批判する詩を作ったため、嵯峨上皇の怒りを買ったと伝えられます。
76番「わたの原」との見分け方は?
11番は「わたの原 八十島かけて」、76番は「わたの原 漕ぎ出でて見れば」です。6字目の「や」と「こ」で決まる6字決まりです。
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