- 歌
- おほけなく 憂き世の民に おほふかな わが立つ杣に 墨染めの袖
- 意味
- 身のほど知らずではありますが、このつらい世に生きる人々の上に、(仏のご加護があるように)おおいかけることだ。比叡山に住み始めた私の、この墨染めの袖を。
- 作者
- 前大僧正慈円(さきのだいそうじょうじえん)
- 出典
- 『千載和歌集』雑中・1134番
- 決まり字
- 「おほけ」(3字決まり)

おほけなく 憂き世の民に おほふかな
わが立つ杣に 墨染めの袖
読みおおけなく うきよのたみに おおうかな
わがたつそまに すみぞめのそで
歴史的仮名遣いおほけなく うきよのたみに おほふかな
わがたつそまに すみぞめのそで
身のほど知らずだけれど、つらい世に生きる人々の上に、比叡山に住む私の墨染めの袖をおおいかけて、仏の力で守りたい——『愚管抄』を書いた慈円の、決意の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| おほけなく | おおけなく | 身のほど知らずに、おそれ多くも。 |
| 憂き世の民 | うきよのたみ | つらい世の中に生きる人々。 |
| おほふかな | おおうかな | 「おおうことだなあ」。仏法の力で人々を守ることを表しています。 |
| わが立つ杣 | わがたつそま | 「私が住む山」、つまり比叡山のこと。比叡山を開いた最澄の歌の言葉をふまえています。 |
| 墨染めの袖 | すみぞめのそで | 僧の着る黒い衣の袖。「住み初め(住みはじめ)」を掛けています。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| おほけなく | 形容詞・ク活用「おほけなし」連用形 | |
| 憂き | 形容詞・ク活用「憂し」連体形 | |
| 世 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 民 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| おほふ | 動詞・ハ行四段「おほふ」終止形 | |
| かな | 終助詞 | 詠嘆(三句切れ) |
| わ | 代名詞 | |
| が | 格助詞 | |
| 立つ | 動詞・タ行四段「立つ」連体形 | |
| 杣 | 名詞 | 比叡山 |
| に | 格助詞 | |
| 墨染め | 名詞 | 掛詞(墨染め/住み初め) |
| の | 格助詞 | |
| 袖 | 名詞 | 体言止め |
表現技法・文法のポイント
「墨染めの袖を憂き世の民におほふ」の順を入れかえ、決意を強めています。
「墨染め」に「住み初め(住みはじめる)」を掛けています。
比叡山を開いた伝教大師最澄の歌「阿耨多羅三藐三菩提の仏たち我が立つ杣に冥加あらせたまへ」の言葉をふまえています。
歌の背景・鑑賞
『千載和歌集』雑中に入っています。作者が若いころ、比叡山の僧として、乱れた世の中の人々を仏の力で救いたいという決意を詠んだ歌です。源平の争乱で多くの人が苦しんだ時代の、宗教者としての使命感がこもっています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
慈円が書いた『愚管抄』は、日本の歴史を「道理」という考え方で説明しようとした書物で、日本で最初の歴史哲学書ともいわれます。武士の時代へと移り変わる激動の世の中を、僧侶の目で見つめたのです。
慈円は後鳥羽院(99番)と親しく、歌の仲間でもありましたが、鎌倉幕府と争うことには反対し、『愚管抄』でもそれをいさめようとしたといわれます。しかし院は承久の乱を起こしてしまいました。
作者:前大僧正慈円
平安時代末期から鎌倉時代初期の天台宗の僧侶・歌人、慈円(じえん)です。76番の藤原忠通の子で、関白・九条兼実の弟、91番の九条良経の叔父にあたります。天台宗の最高位である天台座主を4度務めました。日本の歴史を独自の考えでまとめた歴史書『愚管抄(ぐかんしょう)』の作者です。
決まり字と覚え方
上の句が「おほけ」まで読まれたら、取り札が決まります。「お」で始まる歌は7首あります。
覚え方:「おほけ」と聞いたら「わがたつそまに」。大きな(おほけ)決意でわが立つ(わがたつ)、と覚えます。60番「おほえ」と3字目で分かれます。
入試で問われるポイント
- 倒置・掛詞(墨染め/住み初め)
- 最澄の歌をふまえた表現
- 作者(『愚管抄』)=文学史・日本史
よくある質問
「わが立つ杣」とはどこですか?
比叡山のことです。比叡山を開いた最澄の歌の言葉をふまえています。
「墨染めの袖」の掛詞は?
「墨染め(僧の黒い衣)」と「住み初め(住みはじめる)」を掛けています。
慈円はどんな人ですか?
76番藤原忠通の子で、天台座主を4度務めた僧侶です。歴史書『愚管抄』を書きました。
あわせて読みたい
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大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
