- 歌
- もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし
- 意味
- 山桜よ、私がお前を懐かしく思うように、お前もいっしょに私のことを懐かしく思っておくれ。(こんな山奥では)花であるお前のほかに、私の心を知ってくれる者は誰もいないのだから。
- 作者
- 前大僧正行尊(さきのだいそうじょうぎょうそん)
- 出典
- 『金葉和歌集』雑上・556番
- 決まり字
- 「もろ」(2字決まり)

もろともに あはれと思へ 山桜
花よりほかに 知る人もなし
読みもろともに あわれとおもえ やまざくら
はなよりほかに しるひともなし
歴史的仮名遣いもろともに あはれとおもへ やまざくら
はなよりほかに しるひともなし
山桜よ、私がお前をいとしく思うように、お前も私をいとしく思っておくれ。こんな山奥では、花のほかに私の心を知る者はいないのだから——修行僧・行尊の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| もろともに | もろともに | いっしょに。おたがいに。 |
| あはれと思へ | あわれとおもえ | 「いとしいと思っておくれ」。命令形で山桜に呼びかけています。 |
| 山桜 | やまざくら | 山に咲く桜。呼びかけの対象です(擬人法)。 |
| 花よりほかに | はなよりほかに | 花のほかに。 |
| 知る人もなし | しるひともなし | 「(私の心を)知る人もいない」。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| もろともに | 副詞 | |
| あはれ | 名詞(形容動詞語幹) | |
| と | 格助詞 | |
| 思へ | 動詞・ハ行四段「思ふ」命令形 | |
| 山桜 | 名詞 | 呼びかけ |
| 花 | 名詞 | |
| より | 格助詞 | 限定 |
| ほか | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 知る | 動詞・ラ行四段「知る」連体形 | |
| 人 | 名詞 | |
| も | 係助詞 | |
| なし | 形容詞・ク活用「なし」終止形 |
表現技法・文法のポイント
山桜を人のように見立てて、心を通わせる相手として呼びかけています。
「山桜」で切れ、下の句でその理由を述べています。
歌の背景・鑑賞
『金葉和歌集』雑上に入っています。詞書によると、作者が奈良の大峰山で修行していたとき、思いがけず山桜が咲いているのを見て詠んだ歌です。厳しい修行の中、人里離れた山奥で出会った桜に、孤独な心を打ち明けています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
行尊は、奈良の大峰山や熊野で、何度も命がけの修行を積みました。人がほとんど入らない山奥で、ひとり桜を見つけたときの喜びと孤独が、この歌には込められています。
行尊は、観音様をまつる三十三の寺をめぐる巡礼を行った記録が残っており、今も人気の「西国三十三所巡礼」の古い記録の一つとされています。
作者:前大僧正行尊
平安時代後期の天台宗の僧侶・歌人、行尊(ぎょうそん)です。参議・源基平の子で、68番の三条天皇のひ孫にあたります。大峰山や熊野で厳しい修行を積んだ修験者として知られ、のちに天台座主や大僧正となりました。
決まり字と覚え方
上の句が「もろ」まで読まれたら、取り札が決まります。「も」で始まる歌は2首あります。
覚え方:「もろ」と聞いたら「はなよりほかに」。もろ(もろとも)に花(はな)と、と覚えます。「も」で始まる歌は100番「もも」と2首あるので、2字目の「ろ」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 擬人法(山桜への呼びかけ)
- 命令形「思へ」
- 修験道(古文常識)
よくある質問
誰に向かって呼びかけているのですか?
山桜です。山桜を人のように見立てて、心を通わせる友として呼びかけています。
どこで詠まれた歌ですか?
奈良の大峰山で修行しているときに詠まれた歌です。
68番の三条院とはどんな関係ですか?
行尊は三条天皇のひ孫にあたります。
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