- 歌
- 心にも あらで憂き世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな
- 意味
- (本当は早く死にたいのに)心ならずも、このつらい世の中に生きながらえていたならば、そのときにはきっと、今夜のこの美しい夜中の月を、恋しく思い出すことだろうなあ。
- 作者
- 三条院(さんじょういん)
- 出典
- 『後拾遺和歌集』雑一・861番
- 決まり字
- 「こころに」(4字決まり)

心にも あらで憂き世に ながらへば
恋しかるべき 夜半の月かな
読みこころにも あらでうきよに ながらえば
こいしかるべき よわのつきかな
歴史的仮名遣いこゝろにも あらでうきよに ながらへば
こひしかるべき よはのつきかな
心ならずもこのつらい世に生きながらえたなら、きっと今夜の月を恋しく思い出すことだろう——目の病と権力争いに苦しみ、退位を決めた三条天皇の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 心にもあらで | こころにもあらで | 「心ならずも、本意ではなく」。 |
| 憂き世 | うきよ | つらいこの世。 |
| ながらへば | ながらえば | 「生きながらえたならば」。未然形+ば で仮定です。 |
| 恋しかるべき | こいしかるべき | 「きっと恋しく思われるだろう」。「べき」は推量です。 |
| 夜半の月 | よわのつき | 夜中の月。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 心 | 名詞 | |
| に | 助動詞「なり」連用形 | 断定 |
| も | 係助詞 | |
| あら | 動詞・ラ変「あり」未然形 | |
| で | 接続助詞 | 打消接続 |
| 憂き | 形容詞・ク活用「憂し」連体形 | |
| 世 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| ながらへ | 動詞・ハ行下二段「ながらふ」未然形 | |
| ば | 接続助詞 | 仮定条件 |
| 恋しかる | 形容詞・シク活用「恋し」連体形 | |
| べき | 助動詞「べし」連体形 | 推量 |
| 夜半 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 月 | 名詞 | |
| かな | 終助詞 | 詠嘆 |
表現技法・文法のポイント
「ながらへば」は「生きながらえたならば」。
将来の自分が今夜を思い出す、という時間を行き来する構成です。
歌の背景・鑑賞
『後拾遺和歌集』雑一に入っています。詞書によると、天皇が位を退こうと決めたころ、明るい月を見て詠んだ歌です。三条天皇は目の病気に苦しみ、さらに藤原道長から退位を迫られていました。つらい人生の中で見た美しい月を、未来の自分が恋しく思うだろう――深い悲しみがこもった歌です。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
三条天皇は、藤原道長と激しく対立しました。目の病気が悪化すると、道長は「天皇の務めができない」と退位を迫ったといわれます。この歌の「心にもあらで」には、権力者に追いつめられた天皇の無念さがにじんでいるのかもしれません。
三条天皇は目の病を治すため、仙人の薬だというものを飲んだところ、かえって悪化したという話も伝わっています。月の光さえぼんやりとしか見えなかったのかもしれない――そう想像すると、「夜半の月」という言葉が胸にしみます。
作者:三条院
第67代の天皇です。冷泉天皇の皇子で、藤原道長が権力をにぎった時代に即位しました。目の病気を患い、娘を天皇の后にして権力を固めたい道長と対立したすえ、わずか5年ほどで退位しました。66番の行尊はひ孫にあたります。
決まり字と覚え方
上の句が「こころに」まで読まれたら、取り札が決まります。「こ」で始まる歌は6首あります。
覚え方:「こころに」と聞いたら「こひしかるべき」。心に(こころに)恋しい(こひしかる)月、と覚えます。29番「こころあ」と4字目で分かれる4字決まりです。
入試で問われるポイント
- 未然形+ば(仮定条件)
- 推量の「べし」
- 打消接続「で」
- 背景(道長との対立・退位)
よくある質問
なぜ「心にもあらで」なのですか?
目の病気や道長との対立に苦しみ、生きるのがつらいと感じていたため、「本意ではなく生きながらえたら」と言っています。
三条天皇はどんな天皇ですか?
藤原道長の時代の天皇で、目の病気と道長との対立に苦しみ、5年ほどで退位しました。
29番「こころあ」との見分け方は?
68番は「心にも」、29番は「心あてに」です。4字目の「に」と「あ」で決まります。
あわせて読みたい
- 63番「今はただ」(左京大夫道雅・恋)
- 66番「もろともに」(前大僧正行尊・雑)
- 29番「心あてに」(凡河内躬恒・秋)
- 57番「めぐり逢ひて」(紫式部・雑)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
