古文文法辞典 › 敬語
難関大
ひとことで言うと
最高敬語は「せ給ふ・させ給ふ」のように尊敬語を2つ重ねた二重尊敬で、地の文では天皇・上皇・中宮・皇太子だけに使います。絶対敬語は相手が決まった謙譲語で、奏すは天皇・上皇へ、啓すは皇后・中宮・皇太子へ「申し上げる」です。
このページのポイント
- 最高敬語=尊敬+尊敬の二重尊敬(せ給ふ・させ給ふ・しめ給ふ・せおはします・仰せらる)
- 地の文では天皇・上皇・中宮・皇太子に使う → 主語を補う手がかり
- 「させ」はさせられる人がいれば使役。「れ給ふ・られ給ふ」は二重尊敬にならない
- 奏す=天皇・上皇・法皇へ、啓す=皇后・中宮・皇太子へ(絶対敬語)
- 会話文では範囲が広がる。天皇の自敬表現にも注意
はじめて(やさしく)
古文の世界では、身分によって使う敬語の強さが変わります。いちばん上の天皇(帝)・上皇(院)・中宮・皇太子には、ふつうの尊敬語では足りないので、尊敬語を2つ重ねたとても強い敬語を使います。これを最高敬語(さいこうけいご)といいます。「笑ひ給ふ」(お笑いになる)を、帝には「笑はせ給ふ」と言うのです。
うかるくん
「笑はせ給ふ」って、「笑わせなさる」じゃないの?
合格先生
そう見えるけど、だれも笑わせていないなら「お笑いになる」。尊敬の「せ」と尊敬の「給ふ」を重ねた二重尊敬なんだ。
サクラちゃん
じゃあ「せ給ふ」が出てきたら、主語は帝や中宮なの?
合格先生
地の文なら、まずそう考えていい。主語が書かれていなくても、最高敬語が主語を教えてくれるんだ。
もう一つ、申し上げる相手が決まっている敬語もあります。「奏す(そうす)」は天皇・上皇に、「啓す(けいす)」は皇后・中宮・皇太子に「申し上げる」ときだけに使います。相手が決まっているので絶対敬語と呼ばれます。

百人一首にも天皇・上皇の歌があります。68番の三条院「心にもあらで憂き世にながらへば」、99番の後鳥羽院(後鳥羽天皇)「人もをし」、100番の順徳院(順徳天皇)「百敷や」。名前の「院」は、位を退いた天皇(上皇)を表します。こうした人の動作を書くとき、作者は最高敬語を使うのです。敬語の種類の全体は敬語の種類で確かめられます。
ここまでのまとめ
- 最高敬語=尊敬語を2つ重ねた二重尊敬(せ給ふ・させ給ふ)
- 地の文では天皇・上皇・中宮・皇太子など最高の身分の人に使う
- 絶対敬語=相手が決まっている謙譲語。奏す=天皇・上皇へ、啓す=皇后・中宮・皇太子へ
わからないところは、受験掲示板「100点BBS」の〈古典文法のお勉強〉で質問できます。
しっかり(大学受験の基礎〜標準)
最高敬語(二重尊敬)とは(定義)
最高敬語とは、尊敬語に尊敬語を重ねた敬語で、二重尊敬・二重敬語とも呼ばれます。代表は、尊敬の助動詞「す・さす・しむ」に尊敬の補助動詞「給ふ」がついた「せ給ふ・させ給ふ・しめ給ふ」です。地の文では、原則として天皇・上皇・法皇・中宮(皇后)・皇太子など、最高の身分の人の動作にだけ使われます。助動詞「す・さす」の使役と尊敬の見分けは助動詞「す・さす・しむ」で、「給ふ」については「給ふ」(四段と下二段)でくわしく扱っています。
最高敬語の一覧(形・組み立て・訳)
| 形 | 組み立て | 訳し方 | 例 |
|---|---|---|---|
| せ給ふ | 尊敬「す」(四段・ナ変・ラ変の未然形に)+給ふ | お〜になる・〜なさる | 笑はせ給ふ(お笑いになる) |
| させ給ふ | 尊敬「さす」(それ以外の未然形に)+給ふ | お〜になる・〜なさる | 御覧ぜさせ給ふ・起きさせ給ふ |
| しめ給ふ | 尊敬「しむ」+給ふ | お〜になる | 漢文訓読調の文章・中世以降に多い |
| せおはします・させおはします | 尊敬「す・さす」+おはします | お〜になる・〜ていらっしゃる | 出でさせおはします |
| 仰せらる | 仰す(言ふの尊敬)+尊敬「らる」 | おっしゃる | 「〜」と仰せらる |
| おはします・のたまはす・思し召す・聞こし召す | 1語で特に高い尊敬語 | いらっしゃる・おっしゃる・お思いになる・お聞きになる(召し上がる) | おはす・のたまふ・思す・聞く より上 |
表は横にスクロールできます。「おはします」などの1語の語を最高敬語に含めるかどうかは、説明によってちがいます。各語の意味は主な敬語動詞の一覧へ。
絶対敬語「奏す」「啓す」
| 語 | 読み | 意味 | 申し上げる相手 | 活用 |
|---|---|---|---|---|
| 奏す | そうす | 申し上げる(言ふの謙譲) | 天皇・上皇・法皇 | サ変 |
| 啓す | けいす | 申し上げる(言ふの謙譲) | 皇后・中宮・皇太子(皇太后なども) | サ変 |
「奏す」「啓す」は、文に相手が書かれていなくても、受け手がだれかを教えてくれる語です。「奏す」とあれば天皇・上皇に、「啓す」とあれば中宮などに申し上げているとわかります。ほかに、外出を表す名詞「行幸(ぎょうこう・みゆき)=天皇の外出」「御幸(ごこう・みゆき)=上皇・法皇の外出」「行啓(ぎょうけい)=皇后・皇太子の外出」も、だれの外出かが決まっていることばです。
「せ給ふ・させ給ふ」の読み方の手順
- 上の語を見る。名詞・漢語(行幸・御覧 など)の下の「せ」はサ変「す」(「行幸せさせ給ふ」の「せ」)。
- 上が未然形なら助動詞「す・さす」。させられる人(「〜に」「〜をして」)がいれば使役+尊敬(〜させなさる)。
- いなければ二重尊敬(お〜になる)。
- 地の文なら、主語を天皇・上皇・中宮・皇太子などと考える。会話文なら、話し手が強く敬う相手(大臣などのことも)。

合格先生
地の文の「せ給ふ・させ給ふ」は主語さがしの最強のヒント。帝・中宮・院・東宮のうち、その場面にいる人を当てはめてみよう。
例文で確かめる
最高敬語(帝)
あはれなることは、おりおはしましける夜は、藤壺の上の御局の小戸より出でさせたまひけるに、有明の月のいみじく明かかりければ、「顕証にこそありけれ。いかがすべからむ」と仰せられけるを、
(大鏡・花山院の出家)
現代語訳しみじみと心を打たれるのは、(花山天皇が)退位なさった夜は、藤壺の上の御局の小戸から(宮中を)お出になったところ、有明の月がたいそう明るかったので、「(これでは)目立ってしまうなあ。どうしたらよかろう」とおっしゃったのを、
絶対敬語「奏す」
帝おりさせたまふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。参りて奏せむ。
(大鏡・花山院の出家(安倍晴明のことば))
現代語訳帝が退位なさると見える天の異変があったが、もう(退位が)実現してしまったと見えることよ。(宮中に)参上して(帝に)申し上げよう。
二重尊敬(中宮)
「少納言よ。香炉峰の雪いかならむ」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまふ。
(枕草子「雪のいと高う降りたるを」の段)
現代語訳(中宮様が)「少納言よ、香炉峰の雪はどうでしょう」とおっしゃるので、(女房に)御格子を上げさせて、(私が)御簾を高く巻き上げたところ、(中宮様は)お笑いになる。
絶対敬語「啓す」
「この花をこそ御覧ぜさせめ」と、宮の御前に啓す。
(自作)
現代語訳「この花をこそお見せ申し上げよう」と、中宮様に申し上げる。
もっと深く(難関大・上級者)
1. 会話文では、最高位でない人にも使う
「最高敬語は帝・中宮だけ」というのは、地の文での原則です。会話文では、敬意の出どころは話し手なので、話し手が目の前の相手を強く高めたいとき、大臣や上級の貴族にも「せ給ふ」が使われることがあります。また、大鏡や栄花物語などの歴史物語では、地の文(大鏡は語り手のことば)でも摂政・関白など摂関家の人に二重尊敬を使う例がある、と説明されます。「最高敬語=必ず帝」と決めつけず、場面の人物から考えましょう(主語の補い方)。
2. 自敬表現(天皇が自分に敬語を使う)
会話文の中で、天皇などが自分の動作に尊敬語を使ったり、相手の動作に自分への謙譲語を使ったりすることがあります。これを自敬表現(自尊敬語)といいます。天皇のことばの中に、こうした例があると説明されます。説明は分かれていて、天皇のことばの口調として実際にそう言ったとする説と、書き手(伝える人)が天皇のことばを敬って書き整えたとする説があります。入試では、「会話文の尊敬語=聞き手か第三者」と機械的に決めず、話し手が天皇なら自分の動作の可能性を考えることが大切です。
「われ、この笛をば、明日聞こし召さむ」と帝仰せらる。
(自作)
現代語訳「私は、この笛(の音)を明日聞こう」と帝がおっしゃる。
3. 「奏す・啓す」のまわりの識別
- 奏せさす・啓せさす:謙譲語の下の「さす」は使役(人に申し上げさせる)。尊敬にはなりません(す・さす・しむ)。
- 奏し給ふ:「奏す(謙譲→帝)+給ふ(尊敬→主語)」の二方面への敬語(二方面への敬語)。
- 奏すは上皇・法皇にも使います。「院に奏す」もあるので、「奏す=今の天皇だけ」とは限りません。
4. 百人一首の詞書に見る最高敬語と絶対敬語
百人一首26番の貞信公(藤原忠平)「小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ」は、拾遺和歌集の詞書によると、宇多上皇(亭子院)が大堰川に出かけたとき、「天皇(醍醐天皇)にも見せたい」と言ったので、忠平が「そのことを天皇に申し上げましょう」と言ってよんだ歌です。ここで「申し上げる」相手は天皇なので、古文では「奏す」が使われます。また、上皇の外出は「御幸」、天皇の外出は「行幸」で、歌の「みゆき」はこの天皇の行幸のことです。

24番の菅家(菅原道真)「このたびは幣も取りあへず手向山」も、宇多上皇の奈良への旅のお供でよまれた歌です。上皇の動作を書く詞書には、「おはします」のような強い尊敬語が使われます。68番の三条院の歌も、退位しようと思っていたころの天皇の思いを伝える詞書を持ち、「おはします」「思しめす」「御覧ず」のような強い尊敬語が並んでいます。
サクラちゃん
「みゆき」が天皇の外出だなんて知らなかった! 詞書を読むと、敬語の勉強にもなるのね。
合格先生
そう。天皇・上皇・中宮が出てくる場面は、最高敬語と絶対敬語の宝庫だよ。「院」「宮」「春宮(東宮)」などの呼び名も覚えておこう。
入試でねらわれる所
- 地の文の「せ給ふ・させ給ふ」から主語(帝・中宮など)を補う
- 「させ」の使役か尊敬か(させられる人の有無)
- 「奏す・啓す」の相手(天皇・上皇/皇后・中宮・皇太子)
- 会話文の最高敬語、作品による例外(大鏡)、自敬表現
よくあるまちがい
まちがい1:「せ給ふ」を全部「〜させなさる」と訳す
させられる人がいなければ二重尊敬で「お〜になる」。「笑はせ給ふ」は「お笑いになる」です。
まちがい2:「奏す」と「啓す」の相手を逆にする
奏す=天皇・上皇・法皇、啓す=皇后・中宮・皇太子。「そう(奏)=帝、けい(啓)=后・東宮」と、セットで覚えましょう。
まちがい3:「られ給ふ」を二重尊敬にする
平安時代の和文では「れ給ふ・られ給ふ」の「る・らる」は尊敬にならず、受身・自発などと説明されます(助動詞「る・らる」)。二重尊敬は「せ給ふ・させ給ふ」です。なお「仰せらる」のように、敬語動詞の下の「らる」は尊敬と考えるのがふつうです。
練習問題
やさしい
- 次の( )に「奏す」か「啓す」を入れなさい(自作)。
① このよしを帝に( )。 ② 東宮に御文のことを( )。答えと解説を見る
① 奏す(天皇へ) ② 啓す(皇太子=東宮へ)。
- 地の文「( )、いみじう笑はせ給ふ。」(自作)の( )に入る人物として、ふさわしいのはどちらですか。ア 帝 イ 女房
答えと解説を見る
ア 帝。させられる人がいないので「せ給ふ」は二重尊敬(最高敬語)。地の文では最高の身分の人に使います。
ふつう
- 「中宮、女房に琴弾かせ給ふ。」(自作)の「せ」の意味を答え、訳しなさい。
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「女房に」とさせられる人がいるので使役。「中宮は、女房に琴を弾かせなさる」。敬意は「給ふ」が表しています。
- 「行幸せさせ給ふ」(自作)を品詞分解し、訳しなさい。
答えと解説を見る
行幸(名詞)+せ(サ変「す」の未然形)+させ(尊敬の助動詞「さす」の連用形)+給ふ(尊敬の補助動詞)。「(帝が)お出かけになる」。名詞の下の「せ」はサ変です。
むずかしい
- 会話文の中で、女房が大臣に「いと尊く思さるることを、のたまはせよ」(自作)と言った。「のたまはせ」の敬意について、地の文の場合とのちがいに注意して説明しなさい。
答えと解説を見る
「のたまはす」は「のたまふ」より高い尊敬語で、地の文なら最高位の人に使うのが原則。ここは会話文なので、話し手の女房から、聞き手の大臣への敬意。会話文では、話し手が目の前の相手を強く高めるために、最高位でない人にも使うことがある。
- 帝のことば「われ、明日この笛を聞こし召さむ」(自作)の「聞こし召さ」はだれの動作で、どう説明されるか答えなさい。
答えと解説を見る
話し手である帝自身の動作。天皇が自分の動作に尊敬語を使う自敬表現で、帝の口調として実際に使ったとする説と、書き手が帝のことばを敬って書き整えたとする説がある。
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- 古文文法辞典の目次
敬語の全体は読みものの古文の敬語で、助動詞「す・さす」は古文の助動詞一覧でも確かめられます。
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よくある質問
最高敬語(二重尊敬)とは何ですか?
尊敬の助動詞「す・さす・しむ」と尊敬の補助動詞「給ふ」などを重ねた「せ給ふ・させ給ふ」などの形です。地の文では天皇・上皇・中宮・皇太子など最高の身分の人に使います。
「奏す」と「啓す」の違いは?
どちらも「申し上げる」という謙譲語ですが、奏すは天皇・上皇・法皇に、啓すは皇后・中宮・皇太子に申し上げるときだけ使います。相手が決まっているので絶対敬語と呼ばれます。
「させ給ふ」はいつも最高敬語ですか?
いいえ。「〜に」など、させられる人がいれば使役+尊敬で「〜させなさる」です。いなければ二重尊敬で「お〜になる」になります。
最高敬語は会話文でも天皇だけに使いますか?
会話文では、話し手が相手を強く敬うときに、大臣など最高位でない人にも使うことがあります。地の文でも、大鏡などでは摂関家の人に使う例があります。
自敬表現とは何ですか?
天皇などが会話の中で自分の動作に尊敬語を使う言い方です。天皇の口調とする説と、書き手が敬って書き整えたとする説があります。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:大鏡(花山院の出家)、枕草子(「雪のいと高う降りたるを」の段)。表記は読みやすいように一部改めています。百人一首26番・24番・68番の詞書の内容は要約です
- 高校の古典文法の標準的な説明(最高敬語・二重尊敬、絶対敬語の奏す・啓す、敬意の方向)にもとづいて作成。1語の高い尊敬語を最高敬語に含めるか、会話文や歴史物語での使われ方、自敬表現の解釈などは説明が分かれるため、本文中に「〜と説明される」と記した
- 画像:百人一首の絵札「Hyakuninisshu 068」「Hyakuninisshu 026」(パブリックドメイン、Wikimedia Commons)
最終更新:2026年10月21日/作成:大学受験合格大作戦



