- 歌
- きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む
- 意味
- こおろぎが鳴いている、霜の降りる寒い夜に、粗末なむしろの上に、自分の着物の片袖だけを敷いて、私はひとり寂しく寝るのだろうか。
- 作者
- 後京極摂政前太政大臣(九条良経)(ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん(くじょうよしつね))
- 出典
- 『新古今和歌集』秋下・518番
- 決まり字
- 「きり」(2字決まり)

きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
衣かたしき ひとりかも寝む
読みきりぎりす なくやしもよの さむしろに
ころもかたしき ひとりかもねん
歴史的仮名遣いきりぎりす なくやしもよの さむしろに
ころもかたしき ひとりかもねむ
こおろぎが鳴く霜の降りる寒い夜、むしろの上に自分の着物の片袖を敷いて、ひとり寂しく寝るのだろうか——3番の人麻呂の歌をふまえた、九条良経の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| きりぎりす | きりぎりす | 今の「こおろぎ」のこと。昔は、今のこおろぎを「きりぎりす」と呼んでいました。 |
| 霜夜 | しもよ | 霜の降りる寒い夜。 |
| さむしろ | さむしろ | 「寒し」と「狭筵(さむしろ=幅の狭い粗末なむしろ)」の掛詞です。 |
| 衣かたしき | ころもかたしき | 自分の着物の片袖だけを敷いて。恋人と共寝するときは互いの袖を敷き合ったので、ひとり寝を表します。 |
| ひとりかも寝む | ひとりかもねん | 「ひとりで寝るのだろうか」。3番の人麻呂の歌と同じ言葉です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| きりぎりす | 名詞 | |
| 鳴く | 動詞・カ行四段「鳴く」連体形 | |
| や | 間投助詞 | 詠嘆 |
| 霜夜 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| さむしろ | 名詞 | 掛詞(寒し/狭筵) |
| に | 格助詞 | |
| 衣 | 名詞 | |
| かたしき | 動詞・カ行四段「かたしく」連用形 | 片袖を敷く |
| ひとり | 名詞 | |
| か | 係助詞 | 疑問 |
| も | 係助詞 | 詠嘆 |
| 寝 | 動詞・ナ行下二段「寝」未然形 | |
| む | 助動詞「む」連体形 | 推量(係り結び) |
表現技法・文法のポイント
3番の柿本人麻呂「あしびきの…ひとりかも寝む」と、『古今和歌集』の「さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」の二首をふまえています。
「さむしろ」に「寒し」と「狭筵」を掛けています。
「か」「も」を受けて「む」が連体形になっています。
歌の背景・鑑賞
『新古今和歌集』秋下に入っています。晩秋の霜夜、こおろぎの声だけが聞こえる中でのひとり寝の寂しさを詠んでいます。古い名歌の言葉をいくつも取り入れながら、新しい寂しさの世界を作り出した、新古今時代の本歌取りの代表作です。作者が妻を亡くしたころの歌ともいわれます。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
良経は、摂政・太政大臣として絶頂にあった38歳のとき、ある夜突然亡くなりました。あまりに急な死だったため、天井から矛で刺されたという暗殺のうわさまで立ったと伝えられます。真相はわかっていません。
良経は、『新古今和歌集』の巻頭の仮名序を書き、歌集の最初の歌(巻頭歌)にも選ばれました。若くして、新古今の時代を代表する歌人と認められていたのです。
作者:後京極摂政前太政大臣(九条良経)
平安時代末期から鎌倉時代初期の公卿・歌人、九条良経(くじょうよしつね)です。関白・九条兼実の子で、76番の藤原忠通の孫、95番の慈円の甥にあたります。摂政・太政大臣まで昇り、『新古今和歌集』の仮名序(かな書きの序文)を書きました。38歳の若さで急死しました。
決まり字と覚え方
上の句が「きり」まで読まれたら、取り札が決まります。「き」で始まる歌は3首あります。
覚え方:「きり」と聞いたら「ころもかたしき」。きりぎりすの声で衣(ころも)を敷く、と覚えます。「き」で始まる歌は3首あるので、2字目の「り」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 本歌取り(3番・古今集)
- 掛詞(さむしろ)
- 「きりぎりす」=今のこおろぎ
- 係り結び(か・も→む)
よくある質問
「きりぎりす」は今のキリギリスですか?
いいえ。昔の「きりぎりす」は、今の「こおろぎ」のことです。
3番の歌とどこが似ていますか?
最後の「ひとりかも寝む」が同じです。3番の柿本人麻呂の歌をふまえた本歌取りです。
九条良経はどんな人ですか?
摂政・太政大臣まで昇った貴族で、『新古今和歌集』の仮名序を書いた歌人です。76番藤原忠通の孫です。
あわせて読みたい
- 3番「あしびきの」(柿本人麻呂・恋)
- 76番「わたの原」(法性寺入道前関白太政大臣・雑)
- 95番「おほけなく」(前大僧正慈円・雑)
- 97番「来ぬ人を」(権中納言定家・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
