- 歌
- 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらず
- 意味
- (つれないあなたに)見せたいものです。雄島の漁師の袖でさえ、海水でぬれにぬれても色は変わらないのに、(私の袖は、あなたを思って流す血の涙で、色まで変わってしまいました。)
- 作者
- 殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ)
- 出典
- 『千載和歌集』恋四・884番
- 決まり字
- 「みせ」(2字決まり)

見せばやな 雄島のあまの 袖だにも
濡れにぞ濡れし 色は変はらず
読みみせばやな おじまのあまの そでだにも
ぬれにぞぬれし いろはかわらず
歴史的仮名遣いみせばやな をじまのあまの そでだにも
ぬれにぞぬれし いろはかはらず
あなたに見せたいものです。雄島の漁師の袖でさえ、ぬれにぬれても色は変わらないのに、私の袖は涙で色まで変わってしまいました——48番の作者・源重之の歌をふまえた、殷富門院大輔の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 見せばやな | みせばやな | 「見せたいものだなあ」。「ばや」は自分の願望を表す終助詞です。 |
| 雄島 | おじま | 陸奥の松島(宮城県)にある島。 |
| あま | あま | 漁師。海に入って魚や貝をとる人。 |
| 袖だにも | そでだにも | 「袖でさえも」。「だに」は類推の副助詞です。 |
| ぬれにぞぬれし | ぬれにぞぬれし | 「ぬれにぬれたが」。同じ言葉を重ねて強めています。 |
| 色は変はらず | いろはかわらず | 「色は変わらない(のに)」。言葉の外に「私の袖は血の涙で色が変わった」という意味をふくんでいます。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 見せ | 動詞・サ行下二段「見す」未然形 | |
| ばや | 終助詞 | 自己の願望 |
| な | 終助詞 | 詠嘆(初句切れ) |
| 雄島 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| あま | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 袖 | 名詞 | |
| だに | 副助詞 | 類推 |
| も | 係助詞 | |
| ぬれ | 動詞・ラ行下二段「ぬる」連用形 | |
| に | 格助詞 | 強調 |
| ぞ | 係助詞 | 強意 |
| ぬれ | 動詞・ラ行下二段「ぬる」連用形 | |
| し | 助動詞「き」連体形 | 過去(係り結び) |
| 色 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| 変はら | 動詞・ラ行四段「変はる」未然形 | |
| ず | 助動詞「ず」終止形 | 打消 |
表現技法・文法のポイント
48番の作者・源重之の別の歌「松島や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくはぬれしか」をふまえています。
「見せたい」と自分の願いを表す終助詞です。他への願望「なむ」との区別が入試頻出です。
「私の袖は血の涙で色が変わった」という一番言いたいことを、あえて言わずに伝えています。
歌の背景・鑑賞
『千載和歌集』恋四に入っています。48番の作者・源重之が別の歌で「雄島の漁師の袖ほどぬれた」と詠んだのをもとに、「漁師の袖は色までは変わらないが、私の袖は血の涙で色が変わった」と、さらに強い表現にしています。古典では、悲しみが極まると「血の涙」を流すと表現されました。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
殷富門院大輔は、とにかくたくさんの歌を詠んだことで知られ、「千首大輔」と呼ばれました。歌合や歌会にも数多く参加し、生涯に詠んだ歌の数は相当なものだったと考えられています。
「血の涙」は、悲しみのあまり涙が尽きて血が流れるという、中国の詩から来た表現です。漁師の袖さえ色は変わらないのに、私の袖は真っ赤に染まった――と言わずに伝える技法に、作者の腕前が光ります。
作者:殷富門院大輔
平安時代末期の女性歌人です。後白河天皇の皇女・殷富門院(亮子内親王)に仕えたので、この名で呼ばれます。歌をとてもたくさん詠んだことから「千首大輔(せんしゅたいふ)」とも呼ばれました。俊恵法師(85番)の歌林苑にも参加しています。
決まり字と覚え方
上の句が「みせ」まで読まれたら、取り札が決まります。「み」で始まる歌は5首あります。
覚え方:「みせ」と聞いたら「ぬれにぞぬれし」。見せ(みせ)たい、ぬれ(ぬれ)た袖、と覚えます。「み」で始まる歌は5首あるので、2字目の「せ」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 自己の願望「ばや」
- 本歌取り(48番の作者・源重之の歌)
- 類推の「だに」
- 省略と血の涙(古文常識)
よくある質問
「見せばやな」の「ばや」は何ですか?
自分の願望を表す終助詞で、「見せたい」という意味です。
何をふまえた歌ですか?
48番の作者・源重之の別の歌「松島や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくはぬれしか」をふまえた本歌取りです。
なぜ袖の色が変わるのですか?
悲しみのあまり血の涙を流し、それで袖が赤く染まった、という意味がこめられているからです。
あわせて読みたい
- 48番「風をいたみ」(源重之・恋)
- 85番「夜もすがら」(俊恵法師・恋)
- 89番「玉の緒よ」(式子内親王・恋)
- 65番「恨みわび」(相模・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
