- 歌
- 高砂の 尾の上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ
- 意味
- 遠くの高い山の峰の桜が咲いたことだなあ。(その桜が見えなくならないように)手前の低い山の霞よ、どうか立ちこめないでいてほしい。
- 作者
- 権中納言匡房(大江匡房)(ごんちゅうなごんまさふさ(おおえのまさふさ))
- 出典
- 『後拾遺和歌集』春上・120番
- 決まり字
- 「たか」(2字決まり)

高砂の 尾の上の桜 咲きにけり
外山の霞 立たずもあらなむ
読みたかさごの おのえのさくら さきにけり
とやまのかすみ たたずもあらなん
歴史的仮名遣いたかさごの をのへのさくら さきにけり
とやまのかすみ たたずもあらなむ
遠くの高い山の峰に、桜が咲いたなあ。手前の山の霞よ、どうか立たないでほしい、桜が見えなくなるから——学者の家・大江氏の天才、大江匡房の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 高砂 | たかさご | ここでは地名ではなく「高い山」のこと(34番の兵庫県の高砂とは別)。 |
| 尾の上 | おのえ | 山の峰、頂上。 |
| 咲きにけり | さきにけり | 「咲いたことだなあ」。「に」は完了、「けり」は詠嘆です。 |
| 外山 | とやま | 人里に近い、手前の低い山。「深山(みやま)」の反対です。 |
| 立たずもあらなむ | たたずもあらなん | 「立たないでいてほしい」。「なむ」は未然形に付く願望の終助詞です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 高砂 | 名詞 | 高い山 |
| の | 格助詞 | |
| 尾の上 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 桜 | 名詞 | |
| 咲き | 動詞・カ行四段「咲く」連用形 | |
| に | 助動詞「ぬ」連用形 | 完了 |
| けり | 助動詞「けり」終止形 | 詠嘆(三句切れ) |
| 外山 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 霞 | 名詞 | 呼びかけ |
| 立た | 動詞・タ行四段「立つ」未然形 | |
| ず | 助動詞「ず」連用形 | 打消 |
| も | 係助詞 | |
| あら | 動詞・ラ変「あり」未然形 | |
| なむ | 終助詞 | 他への願望 |
表現技法・文法のポイント
遠くの「高砂(高い山)」と手前の「外山(低い山)」を対比し、奥行きのある景色を描いています。
霞に「立たないでくれ」と人のように呼びかけています。
未然形「あら」に付く「なむ」は願望の終助詞。26番「待たなむ」と同じ用法です。
歌の背景・鑑賞
『後拾遺和歌集』春上に入っています。詞書によると、内大臣・藤原師通の家で人々が酒を飲みながら歌を詠んだとき、「はるかに山桜を望む」という題で詠んだ歌です。遠くの山の桜と、手前の山の霞を一首の中に描き分けた、絵のように雄大な春の歌です。漢詩の教養を持つ学者らしい、格調の高さが感じられます。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
匡房は、自分の若いころを振り返って「4歳で本を読みはじめ、8歳で『史記』や『漢書』に通じ、11歳で漢詩を作って神童と呼ばれた」と書いています。学問の家・大江氏の中でも、飛びぬけた天才だったようです。
前九年の役で活躍した武士・源義家(八幡太郎)は、匡房に兵法を習ったという話があります。後三年の役で、義家は飛んでいる雁の列が乱れたのを見て伏兵に気づき、勝利しました。これは匡房に教わった「雁が列を乱すのは伏兵がいるしるし」という兵法のおかげだった、と伝えられています。学者が武士の先生になった、意外な伝説です。
匡房のひ孫・大江広元は、源頼朝に仕えて鎌倉幕府の政治を支えた重要人物です。歴史の教科書にも出てくる大江広元のルーツは、百人一首73番の作者だったのです。
23番の大江千里のページで紹介した「大江氏の祖・大江音人は阿保親王の子で、在原業平・行平の兄弟にあたる」という言い伝えは、実は匡房がまとめたものではないか、という研究者の説があります。一族の歴史を誇らしく語りたかったのかもしれません。真相はわかっていませんが、大江氏の物語を語り継いだ人物として、匡房の存在はとても大きいのです。
匡房が生まれたとき、ひいおばあさんの赤染衛門(59番)はまだ元気で、ひ孫の誕生を喜ぶ歌を詠んでいます。この歌は『後拾遺和歌集』に収められています。百人一首の歌人どうしが、ひいおばあさんとひ孫として出会っていたのです。
作者:権中納言匡房(大江匡房)
平安時代後期の公卿・学者・歌人、大江匡房(おおえのまさふさ)です。学問の家・大江氏の出身で、59番の赤染衛門はひいおばあさんにあたります。4歳で本を読み、11歳で漢詩を作って「神童」と呼ばれました。後三条・白河・堀河の三代の天皇に仕え、権中納言まで昇りました。大宰権帥(「帥(そち)」)を務めたことから「江帥(ごうのそち)」と呼ばれます。有職故実(朝廷のしきたり)の書『江家次第』や、話を書きとめた『江談抄』でも知られます。鎌倉幕府を支えた大江広元は、匡房のひ孫です。
決まり字と覚え方
上の句が「たか」まで読まれたら、取り札が決まります。「た」で始まる歌は6首あります。
覚え方:「たか」と聞いたら「とやまのかすみ」。高(たか)い山と外山(とやま)、と高い・低いの対比で覚えます。「た」で始まる歌は6首あるので、2字目の「か」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 「なむ」の識別(未然形+なむ=願望)
- 「高砂」「外山」の意味
- 対比・擬人法
- 大江氏(23・59・73番のつながり)
よくある質問
「高砂」は兵庫県の高砂のことですか?
この歌では地名ではなく、「高い山」という意味で使われています。34番の「高砂の松」の高砂(兵庫県)とは別です。
「立たずもあらなむ」の「なむ」は何ですか?
未然形「あら」に付いているので、願望の終助詞で「立たないでいてほしい」という意味です。
大江匡房はどんな人ですか?
学問の家・大江氏に生まれた天才学者で、権中納言まで昇りました。23番の大江千里と同じ大江氏で、59番の赤染衛門のひ孫です。
あわせて読みたい
- 23番「月見れば」(大江千里・秋)
- 59番「やすらはで」(赤染衛門・恋)
- 56番「あらざらむ」(和泉式部・恋)
- 65番「恨みわび」(相模・恋)
- 76番「わたの原」(法性寺入道前関白太政大臣・雑)
- 34番「誰をかも」(藤原興風・雑)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
