- 歌
- 世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ あまの小舟の 綱手かなしも
- 意味
- この世の中は、いつまでも変わらずにあってほしいものだなあ。波打ちぎわをこいでいく漁師の小舟が、綱で引かれていく様子は、しみじみと心にしみることよ。
- 作者
- 鎌倉右大臣(源実朝)(かまくらのうだいじん(みなもとのさねとも))
- 出典
- 『新勅撰和歌集』羇旅・525番
- 決まり字
- 「よのなかは」(5字決まり)

世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ
あまの小舟の 綱手かなしも
読みよのなかは つねにもがもな なぎさこぐ
あまのおぶねの つなでかなしも
歴史的仮名遣いよのなかは つねにもがもな なぎさこぐ
あまのをぶねの つなでかなしも
世の中がいつまでも変わらずにあってほしい。渚をこいでいく漁師の小舟が綱で引かれていく様子が、しみじみといとおしい——鎌倉幕府3代将軍・源実朝の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 常にもがもな | つねにもがもな | 「いつまでも変わらずにあってほしいなあ」。「もがも」は願望、「な」は詠嘆です。 |
| 渚 | なぎさ | 波打ちぎわ。 |
| あまの小舟 | あまのおぶね | 漁師の小さな舟。 |
| 綱手 | つなで | 舟を引くための綱。 |
| かなしも | かなしも | 「しみじみと心にしみることよ」。古語の「かなし」は「いとおしい」「心が強く動かされる」という意味もあります。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 世の中 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| 常に | 形容動詞・ナリ活用「常なり」連用形 | |
| もがも | 終助詞 | 願望 |
| な | 終助詞 | 詠嘆(二句切れ) |
| 渚 | 名詞 | |
| こぐ | 動詞・ガ行四段「こぐ」連体形 | |
| あま | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 小舟 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 綱手 | 名詞 | |
| かなし | 形容詞・シク活用「かなし」終止形 | |
| も | 終助詞 | 詠嘆 |
表現技法・文法のポイント
「もがもな」「かなしも」など、『万葉集』のような古い言葉づかいで、力強く素朴な調べになっています。
『古今和歌集』の東歌「みちのくはいづくはあれど塩釜の浦こぐ舟の綱手かなしも」などをふまえています。
古語の「かなし」は、悲しいだけでなく「いとおしい」「しみじみと心が動く」という意味があり、入試頻出です。
歌の背景・鑑賞
『新勅撰和歌集』羇旅の部に入っています。海辺で、漁師の小舟が綱で引かれていく、何気ない日常の風景を見て、「このおだやかな世の中がいつまでも続いてほしい」と願った歌です。争いの絶えない時代の将軍だった実朝の、平和への願いが感じられます。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
実朝は、遠く京都にいる藤原定家(97番)に和歌の指導を受けました。定家は実朝のために歌論書『近代秀歌』を書いて送ったといわれます。鎌倉の若き将軍と都の大歌人が、手紙で結ばれていたのです。
実朝は、鶴岡八幡宮で暗殺される日の朝、庭の梅を見て「出でていなば主なき宿となりぬとも軒端の梅よ春を忘るな」という歌を詠んだという話があります。自分の運命を予感していたかのような、悲しい伝説です。
実朝は、中国(宋)へ渡ろうと大きな船を造らせましたが、船は海に浮かばず、計画はかないませんでした。「世の中は常にもがもな」と願った若き将軍は、広い世界を夢見ていたのかもしれません。
作者:鎌倉右大臣(源実朝)
鎌倉幕府の第3代将軍、源実朝(みなもとのさねとも)です。源頼朝と北条政子の子で、兄・頼家の後を継いで12歳で将軍になりました。藤原定家(97番)に和歌を学び、家集『金槐和歌集』を残しました。武士として初めて右大臣になりましたが、その翌年、鶴岡八幡宮で甥の公暁に暗殺されました。28歳でした。
決まり字と覚え方
上の句が「よのなかは」まで読まれたら、取り札が決まります。「よ」で始まる歌は4首あります。
覚え方:「よのなかは」と聞いたら「あまのをぶねの」。83番「よのなかよ」と5字目で分かれる5字決まりです。世の中は(は)、あまの小舟(をぶね)、と覚えます。
入試で問われるポイント
- 願望の「もがも」
- 古語「かなし」の意味(いとおしい)
- 万葉調
- 作者(鎌倉幕府3代将軍・『金槐和歌集』)
よくある質問
「かなしも」の「かなし」は悲しいという意味ですか?
ここでは「しみじみと心にしみる」「いとおしい」という意味です。古語の「かなし」は、心が強く動かされることを表します。
83番「よのなかよ」との見分け方は?
93番は「世の中は」、83番は「世の中よ」です。5字目の「は」と「よ」で決まる5字決まりです。
源実朝はどんな人ですか?
鎌倉幕府の第3代将軍で、藤原定家に和歌を学んだ歌人です。28歳で暗殺されました。
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