- 歌
- 立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
- 意味
- あなたと別れて、(私は)因幡の国へ行ってしまうけれど、その因幡山の峰に生えている松のように、あなたが私を「待っている」と聞いたなら、すぐにでも帰ってこよう。
- 作者
- 中納言行平(在原行平)(ちゅうなごんゆきひら(ありわらのゆきひら))
- 出典
- 『古今和歌集』離別・365番
- 決まり字
- 「たち」(2字決まり)

立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる
まつとし聞かば 今帰り来む
読みたちわかれ いなばのやまの みねにおうる
まつとしきかば いまかえりこん
歴史的仮名遣いたちわかれ いなばのやまの みねにおふる
まつとしきかば いまかへりこむ
あなたと別れて因幡の国へ行っても、因幡山の峰の松のように「待っている」と聞いたら、すぐに帰ってこよう——掛詞を重ねた在原行平の別れの歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 立ち別れ | たちわかれ | 別れて出発して。 |
| いなば | いなば | 「往なば(行ってしまったならば)」と地名「因幡(いなば)」の掛詞です。因幡は今の鳥取県東部。 |
| まつ | まつ | 「松」と「待つ」の掛詞です。 |
| まつとし聞かば | まつとしきかば | 「待っていると聞いたならば」。「し」は強意の副助詞、「聞かば」は未然形+ば で仮定です。 |
| 今帰り来む | いまかえりこん | 「すぐに帰ってこよう」。「今」は「すぐに」、「む」は意志です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 立ち別れ | 動詞・ラ行下二段「立ち別る」連用形 | |
| いなば | 動詞「往ぬ」未然形+接続助詞「ば」/名詞「因幡」 | 掛詞(仮定) |
| の | 格助詞 | |
| 山 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 峰 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 生ふる | 動詞・ハ行上二段「生ふ」連体形 | |
| まつ | 名詞「松」/動詞「待つ」終止形 | 掛詞 |
| と | 格助詞 | |
| し | 副助詞 | 強意 |
| 聞か | 動詞・カ行四段「聞く」未然形 | |
| ば | 接続助詞 | 仮定条件 |
| 今 | 副詞 | すぐに |
| 帰り来 | 動詞・カ変「帰り来」未然形 | |
| む | 助動詞「む」終止形 | 意志 |
表現技法・文法のポイント
「いなば(往なば/因幡)」と「まつ(松/待つ)」。地名と植物に、別れと再会の気持ちを重ねています。
「往なば」「聞かば」は未然形+ばで仮定条件「〜ならば」。入試頻出です。
歌の背景・鑑賞
『古今和歌集』離別の部に入っています。行平は855年に因幡守(今の鳥取県東部の長官)に任じられました。この歌は、都の人々との別れの宴で詠んだものと考えられています。百人一首で離別の部から選ばれたのは、この1首だけです。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
行平は、ある時期、須磨(今の神戸市)に退いていたと伝えられます。そこで出会った海女の姉妹・松風と村雨と恋に落ちたという話が、能の名作『松風』になりました。都に帰った行平を、姉妹は「待つ」と言って待ち続けた――この歌の「まつとし聞かば」が、物語の中で切なく響きます。
江戸時代のころから、この歌を紙に書いて、いなくなった猫やペットの食器の下などに置くと帰ってくる、というおまじないが伝わっています。「待っていると聞いたらすぐ帰ろう」という歌の言葉にあやかったものです。
須磨にいたとき、浜辺に流れ着いた木で一弦の琴(須磨琴)を作り、さびしさをまぎらわせたという話も残っています。
作者:中納言行平(在原行平)
平安時代前期の公卿・歌人、在原行平(ありわらのゆきひら)です。平城天皇の皇子・阿保親王の子で、17番の在原業平の兄にあたります。中納言まで昇り、一族の子弟の学問所「奨学院」を作りました。
決まり字と覚え方
上の句が「たち」まで読まれたら、取り札が決まります。「た」で始まる歌は6首あります。
覚え方:「たち」と聞いたら「まつとしきかば」。立ち(たち)止まって待つ(まつ)、と覚えます。「た」で始まる歌は6首あるので、2字目の「ち」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 掛詞(往なば/因幡、松/待つ)
- 未然形+ば(仮定条件)
- 強意の副助詞「し」
よくある質問
この歌の掛詞はどこですか?
「いなば」(往なば/因幡)と「まつ」(松/待つ)の二つです。
「いなばの山」はどこにありますか?
因幡国(今の鳥取県東部)の山で、鳥取市にある稲葉山のことだとされます。
在原業平とはどんな関係ですか?
行平は業平の兄です。二人とも阿保親王の子で、百人一首に兄弟そろって選ばれています。
あわせて読みたい
- 17番「ちはやぶる」(在原業平朝臣・秋)
- 23番「月見れば」(大江千里・秋)
- 7番「天の原」(阿倍仲麻呂・旅)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
