
定番 教科書によく出る定番の段 類聚章段
枕草子の「虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫」で始まる段(「虫は」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。みのむしの「ちちよ、ちちよ」の話が中心です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:作者が好きな虫を挙げる。みのむしは鬼の子なので親に粗末な衣を着せられて置き去りにされ、秋風のころ「ちちよ、ちちよ」と鳴くのがあわれだと語る。額づき虫の信心、蠅のにくらしさ、灯りに寄る夏虫、水の上を歩く蟻のおもしろさも書く。
- 文法の要点:係り結び(ぞ…する/こそ…をかしけれ/こそ…あれ)、「む」の婉曲と意志、強意の「つ」(つべし)、現在推量のらむ、已然形+ば。
- テストの定番:教科書によく出る段。みのむしの話の流れ、「あはれなり」=しみじみとかわいそうだ、「吹かむをり」の「む」=婉曲、きりぎりす=今のコオロギ。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 係り結び:ぞ…する/こそ…をかしけれ/こそ…あれ
- むの意味:吹かむ(婉曲)・来む(意志)・あらむ(推量)
- 強意のつ(入れつべく)
- 現在推量のらむ、已然形+ば(生みたりければ)
- 古今異義語:あはれ・にくし・うとまし・らうたげ
「虫は」はどんな段?(類聚章段・みのむしの話)
「虫は」は、ものを集めて挙げる類聚章段の一つで、作者が好きな虫、気になる虫を次々に語ります。鈴虫・松虫・きりぎりすのように秋に鳴く虫から、蠅・蟻のような身近な虫まで出てきます。
中心はみのむしの話です。鬼の子なので親に置き去りにされ、秋風が吹くころに「ちちよ、ちちよ」と親を呼ぶ――という、作者が聞いた言い伝えのような話が語られ、「いみじうあはれなり」と結ばれます。にくらしいと言う虫にもおもしろさを見つけるところに、清少納言の「をかし」の目が出ています。
平安時代の虫の名前は、今と指すものがちがうことがあります。「きりぎりす」は今のコオロギ、「はたおり」は今のキリギリスと考えられています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひを虫。蛍。
現代語訳虫は、鈴虫(がよい)。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひお虫。蛍。
- 「〜は」で好きな虫を挙げる類聚章段。名前だけを並べるのが枕草子らしいリズム。
- きりぎりすは今のコオロギ、はたおりは今のキリギリス(「機織り」のような音で鳴く)を指すと考えられている。鈴虫と松虫も、今と名前が入れかわっていたという説がある。
- われからは海藻につく小さな生き物(今のワレカラ)。ひを虫(ひおむし)は、生まれてすぐ死ぬはかない虫で、カゲロウのなかまとされる。ひぐらしは夏の夕方に「カナカナ」と鳴くセミ。


2
蓑虫、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれもおそろしき心あらむとて、親のあやしき衣ひき着せて、
現代語訳みのむしは、とてもしみじみとかわいそうだ。鬼が生んだので、親に似てこの子もおそろしい心を持っているだろうと思って、親が粗末な着物を着せて、
- 「あはれなり」はしみじみと心を動かされること。ここは「かわいそうだ・いじらしい」。→古今異義語の一覧(あはれ・をかし)
- 「生みたりければ」は已然形+ばなので「生んだので」(理由)。→接続助詞「ば」の未然形+ばと已然形+ば
- 蓑虫(みのむし)は、ミノガという蛾の幼虫が、枝や葉で「蓑」(わらでできた雨具)のような袋を作って中にこもったもの。「あやしき衣」はその蓑を、親が着せた粗末な着物に見立てている。


3
「今、秋風吹かむをりぞ来むとする。待てよ。」と言ひおきて、逃げて去にけるも知らず、
現代語訳「もうすぐ、秋風が吹くころに迎えに来ようと思う。待っていなさいよ。」と言い残して、逃げて行ってしまったのも知らないで、
- 同じ「む」でも意味がちがう。「吹かむをり」の「む」は婉曲(〜ような)で、下の名詞「をり」にかかる連体形。「来むとする」の「む」は意志(〜しよう)。→助動詞「む」の意味(推量・意志・婉曲)
- 係り結び:「ぞ」があるので、文末はサ変動詞「す」の連体形「する」で結ぶ。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「来む」は「こむ」と読む(カ変動詞「来」の未然形「こ」)。


4
風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ。」とはかなげに鳴く、いみじうあはれなり。
現代語訳(みのむしは)秋風の音を聞いてわかって、八月ごろになると、「父よ、父よ」と心細そうに鳴く。たいへんかわいそうだ。
- 「八月」は旧暦なので、今の9月ごろ。ちょうど秋風が吹き始める時期にあたる。
- 「ちちよ」は「父よ」。親を待ち続けて呼んでいるように聞こえる、ということ。実際のミノムシは鳴かないが、作者は聞こえる声をみのむしの声として受けとめている。
- 「はかなげに」は「心細そうに・頼りなさそうに」。


5
額づき虫、またあはれなり。さる心地に道心おこして、つきありくらむよ。
現代語訳ぬかずき虫も、またしみじみと感心させられる。あんな(小さな虫の)心で仏を信じる心を起こして、(額を地につけて)おじぎをしてまわっているのだろうよ。
- 額づき虫(ぬかずきむし)は今のコメツキムシ。体を地面に打ちつけるように跳ねる様子が、額を地につけて拝むように見えるのでこの名がある。
- 「道心」(どうしん)は仏の道を信じる心。「さる心地に」は「あんな(虫の)心で」。
- 「らむ」は見ていることの理由や心の中を想像する現在推量。→現在推量の助動詞「らむ」


6
思ひかけず、暗き所などにほとめきありきたるこそをかしけれ。
現代語訳思いがけず、暗い所などでことことと音をたてて動きまわっているのは、おもしろい。
- 係り結び:「こそ」→文末は形容詞「をかし」の已然形「をかしけれ」。
- 「ほとめく」は「ほとほと」と音をたてること。
7
蠅こそにくきもののうちに入れつべく、愛敬なきものはあれ。
現代語訳蠅こそは、にくらしいものの中に入れてしまうのがよく、かわいげのないものである。
- 「にくし」は「にくらしい・気にくわない」。→古今異義語の一覧(にくし・あいなし)
- 「入れつべく」の「つ」は強意(きっと・まさに)。「つべし」「ぬべし」の形で出る。→完了の助動詞「つ・ぬ」(強意の用法)
- 係り結び:「こそ」→ラ変動詞「あり」の已然形「あれ」で結ぶ。

8
人々しう、かたきなどにすべきもののおほきさにはあらねど、秋など、ただよろづの物にゐ、顔などに濡れ足してゐるなどよ。人の名につきたる、いとうとまし。
現代語訳一人前に、敵などにするほどの大きさではないけれど、秋などには、ただもうあらゆる物にとまり、顔などにぬれた足でとまったりするのだよ。人の名前に(蠅という字が)ついているのは、たいへんいやな感じだ。
- 「あらねど」の「ね」は打消「ず」の已然形(下に「ど」)。完了の「ぬ」の命令形「ね」と区別する。→「ね」の識別(打消と完了)
- 「うとまし」は「いやな感じだ・近づきたくない」。「ゐる」は「とまる」。
9
夏虫、いとをかしうらうたげなり。火近う取り寄せて物語など見るに、草子の上などに飛びありく、いとをかし。
現代語訳夏の虫は、とても趣があってかわいらしい。灯りを近くに引き寄せて物語などを読んでいると、本の上などを飛びまわるのは、とてもおもしろい。
- 「夏虫」は、夏の夜に灯りに寄ってくる小さな虫のこと。
- 「らうたげなり」は「かわいらしい・いじらしい」。「をかしう」「近う」はウ音便。「草子」(そうし)は紙をとじた本。
10
蟻は、いとにくけれど、軽びいみじうて、水の上などをただ歩みに歩みありくこそをかしけれ。
現代語訳蟻は、とてもにくらしいけれど、身軽さがたいしたもので、水の上などをどんどん歩きまわるのは、おもしろい。
- 「軽び」は身の軽さ。「歩みに歩み」は同じ言葉をくり返して「どんどん歩く」と強める言い方。
- 「にくけれど」と言いながら「をかし」とほめる。きらいなものの中にもおもしろさを見つけるのが、枕草子の「をかし」の目。

みのむしの話と「む」の意味を図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| あはれなり | あわれなり | しみじみと心を動かされる・かわいそうだ |
| あやし | あやし | 粗末だ・みすぼらしい(ほかに「不思議だ」) |
| はかなげなり | はかなげなり | 心細そうだ・頼りなさそうだ |
| 道心 | どうしん | 仏の道を信じる心 |
| ほとめく | ほとめく | ことことと音をたてる |
| にくし | にくし | にくらしい・気にくわない |
| 愛敬なし | あいぎょうなし | かわいげがない |
| 人々し | ひとびとし | 一人前だ・人並みだ |
| うとまし | うとまし | いやな感じだ・近づきたくない |
| らうたげなり | ろうたげなり | かわいらしい・いじらしい |
| 草子 | そうし | 紙をとじた本 |
| 軽び | かろび | 身の軽さ |
| きりぎりす | きりぎりす | 今のコオロギ |
| はたおり | はたおり | 今のキリギリス |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「虫は」の段は、枕草子の3種類の章段のうちどれ?
類聚章段(「〜は」「〜もの」とものを集めて挙げる段)。
問2 みのむしが「おそろしき心あらむ」と思われたのはなぜ?
鬼が生んだ子なので、親に似ておそろしい心を持っているだろうと思われたから。
問3 「今、秋風吹かむをりぞ来むとする」の2つの「む」の意味をそれぞれ答えなさい。
「吹かむ」の「む」は婉曲(連体形)、「来む」の「む」は意志(終止形)。
問4 「来むとする」の「する」が連体形なのはなぜ?
上に係助詞「ぞ」があるから(係り結び)。
問5 みのむしの「ちちよ、ちちよ」は、どういう気持ちを表していると作者は受けとめている?
去っていった親(父)を、秋風が吹くころになって待ちこがれて呼んでいる、という気持ち。
問6 「額づき虫」は今の何という虫? 名前の由来は?
コメツキムシ。跳ねる様子が、額を地につけて拝んでいるように見えるから。
問7 「蠅こそにくきもののうちに入れつべく」の「つ」の意味は?
強意(確述)。「つべし」で「きっと〜するのがよい」。
問8 「いみじうあはれなり」の「あはれなり」を、この段の場面に合わせて訳しなさい。
かわいそうだ・いじらしい(しみじみと心が動かされる)。

枕草子「虫は」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひを虫。蛍。
蓑虫、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれもおそろしき心あらむとて、親のあやしき衣ひき着せて、
「今、秋風吹かむをりぞ来むとする。待てよ。」と言ひおきて、逃げて去にけるも知らず、
風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ。」とはかなげに鳴く、いみじうあはれなり。
額づき虫、またあはれなり。さる心地に道心おこして、つきありくらむよ。
思ひかけず、暗き所などにほとめきありきたるこそをかしけれ。
蠅こそにくきもののうちに入れつべく、愛敬なきものはあれ。
人々しう、かたきなどにすべきもののおほきさにはあらねど、秋など、ただよろづの物にゐ、顔などに濡れ足してゐるなどよ。人の名につきたる、いとうとまし。
夏虫、いとをかしうらうたげなり。火近う取り寄せて物語など見るに、草子の上などに飛びありく、いとをかし。
蟻は、いとにくけれど、軽びいみじうて、水の上などをただ歩みに歩みありくこそをかしけれ。
枕草子「虫は」現代語訳(全文・通し)
虫は、鈴虫(がよい)。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひお虫。蛍。
みのむしは、とてもしみじみとかわいそうだ。鬼が生んだので、親に似てこの子もおそろしい心を持っているだろうと思って、親が粗末な着物を着せて、
「もうすぐ、秋風が吹くころに迎えに来ようと思う。待っていなさいよ。」と言い残して、逃げて行ってしまったのも知らないで、
(みのむしは)秋風の音を聞いてわかって、八月ごろになると、「父よ、父よ」と心細そうに鳴く。たいへんかわいそうだ。
ぬかずき虫も、またしみじみと感心させられる。あんな(小さな虫の)心で仏を信じる心を起こして、(額を地につけて)おじぎをしてまわっているのだろうよ。
思いがけず、暗い所などでことことと音をたてて動きまわっているのは、おもしろい。
蠅こそは、にくらしいものの中に入れてしまうのがよく、かわいげのないものである。
一人前に、敵などにするほどの大きさではないけれど、秋などには、ただもうあらゆる物にとまり、顔などにぬれた足でとまったりするのだよ。人の名前に(蠅という字が)ついているのは、たいへんいやな感じだ。
夏の虫は、とても趣があってかわいらしい。灯りを近くに引き寄せて物語などを読んでいると、本の上などを飛びまわるのは、とてもおもしろい。
蟻は、とてもにくらしいけれど、身軽さがたいしたもので、水の上などをどんどん歩きまわるのは、おもしろい。
枕草子「虫は」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 虫は(このページ) 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
- 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
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- 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳

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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


