枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」原文と現代語訳・文法|五月ばかりなどに山里にありく、いとをかし(つれなし・えならず)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 随想章段

枕草子の「五月ばかりなどに山里にありく、いとをかし」で始まる段を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。初夏の山里を牛車で進むときの、水しぶき・木の枝・よもぎの香りを書いた短い随想の段です。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:旧暦五月ごろ、牛車で山里を出歩くのは趣がある。草が茂って何もないように見える道の下にはきれいな水があり、歩くとしぶきが上がる。車に入ってくる枝をつかもうとしてはずれるのは残念で、車輪に押しつぶされたよもぎの香りがただようのもよい。
  • 文法の要点:存続・完了の「たり」、打消「ず」の「ざり」「ね」、気づきの「けり」、意志の「む」(折らむとす)、受身の「る」(押しひしがれ)、こそ…くちをしけれ(係り結び)。
  • テストの定番:「つれなし」=平然としている、「えならず」=何とも言えないほどすばらしい、「くちをし」=残念だ、「ありく」=出歩く。教科書によく出る段です。
うかるくん
うかるくん
T先生、「五月」って言われると、ゴールデンウィークのイメージなんですけど…。
ミスターT先生
ミスターT先生
そこが落とし穴や。古文の五月は旧暦やから、今の6月ごろ。梅雨どきの、水と緑がいっぱいの山里やな。教科書にもよう出る、短くてさわやかな段やで。
合格先生
合格先生
わたしはT先生に「この段は目・手・鼻で読め」と言われました。水しぶきを見て、枝をつかもうとして、よもぎをかぐ。五感の段なんです。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 古今異義語つれなし=平然としている/えならず=何とも言えずすばらしい
  2. 打消「ず」のざり(えならざりける)とね(あらねど)
  3. 気づきのけり(〜だったのだなあ)
  4. 係り結び:こそ…くちをしけれ
  5. 受身のる(押しひしがれ)、意志のむ(折らむとす)

「五月ばかりなどに山里にありく」はどんな段?(随想章段)

この段は、季節の中で感じた楽しさを書いた随想章段です。旧暦五月(今の6月ごろ)、作者は牛車に乗って山里へ出かけます。宮中の話は出てこず、道中で出会った水しぶき・木の枝・よもぎの香りの3つを、短い文で生き生きと描いています。

見どころは、草が茂って何もないような顔をしている道の下に、思いがけずきれいな水があった、という発見です。「えならざりける水」の「けり」に、その気づきの驚きがこめられています。楽しいことだけでなく「枝がつかめなくて残念」という気持ちまで書くところも、清少納言らしい観察です。

※明治の『國文大觀』(能因本系)は「五月ばかり山里にありく、いみじくをかし」「沢水もげにただいと青く見えわたるに」「輪のまひたちたるに」など、教科書(三巻本系)と言葉が少しちがいます。このページは教科書の形にそろえています。

1. 五月の山里 牛車で出歩く楽しさ 2. 青い草と水 一面に青々と見える 3. かくれた水 草の下にきれいな水 4. 水しぶき 歩くと走り上がる 5. 枝をつかむ つかもうとしてはずれて残念 6. 蓬の香り 車輪につぶれた香り
図1 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

五月ばかりなどに山里にありく、いとをかし。

現代語訳(旧暦の)五月ごろなどに、(牛車で)山里を出歩くのは、たいへん趣がある。

サクラちゃん
サクラちゃん
「山里にありく、いとをかし」って、「ありく」のあとに何か足りない気がします。
ミスターT先生
ミスターT先生
するどいな、サクラちゃん。「ありく(こと)、いとをかし」と、ことをおぎなって読むんや。連体形が名詞みたいに働く形やな。

2

草葉も水もいと青く見えわたりたるに、上はつれなくて草生ひ茂りたるを、ながながとたたざまに行けば、下はえならざりける水の、深くはあらねど、人などの歩むに走り上がりたる、いとをかし。

現代語訳草の葉も水も一面にとても青々と見えているところで、上は何事もないような顔で草が茂っている所を、長々とまっすぐに進んで行くと、その下には何とも言えないほどきれいな水があったのだなあ、(その水は)深くはないけれども、お供の人などが歩くにつれて、(しぶきが)はね上がっているのは、とても趣がある。

  • 「つれなし」は今の「冷たい」ではなく、何事もないふりをしている・平然としている様子。ここでは、下に水があるのに上は草だけのような顔をしていること。→古今異義語(つれなし・をかし)
  • 「えならず」は「何とも言えないほどすばらしい」。「え〜ず」(〜できない)からできた言い方。「ざり」は打消「ず」の連用形(下に助動詞「けり」が付くときの形)。→打消の助動詞「ず」(ざり・ざる・ね)
  • 「ける」は、草の下に水があったことに今気づいた驚きを表す「けり」(気づきの「けり」・詠嘆)。→過去の助動詞「き・けり」(詠嘆のけり)
  • 「深くはあらねど」の「ね」は打消「ず」の已然形。「ど」が付いて「〜ないけれど」。完了「ぬ」の命令形「ね」とまちがえない。→「ね」の識別
  • 「たたざま」は「縦の方向・まっすぐ」。
うかるくん
うかるくん
「えならざりける」って、「え〜ず」だから「できない」ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
もとはそうなんやけど、「えならず」でひとかたまり、「何とも言えないほどすばらしい」という意味になる。ほめ言葉や。ここ、テストに出るで! 「ける」は「あ、水があったんや!」という気づきの「けり」。

3

左右にある垣にあるものの枝などの、車の屋形などにさし入るを、急ぎてとらへて折らむとするほどに、ふと過ぎてはづれたるこそ、いとくちをしけれ。

現代語訳左右にある垣根に生えている何かの木の枝などが、牛車の屋形(人が乗る箱の部分)などに入ってくるのを、急いでつかんで折ろうとするうちに、さっと通り過ぎて手からはずれてしまうのは、とても残念だ。

  • 係り結び:「こそ」があるので、文の終わりは已然形「くちをしけれ」。→係り結びの決まり(こそ→已然形)
  • 「折らむとする」の「む」は意志(〜しよう)。「〜むとす」は「〜しようとする」の決まった形。→推量の助動詞「む」の6つの意味
  • 「くちをし」は「残念だ・がっかりだ」。楽しいだけでなく「惜しい」気持ちも書くのが、この段の味わい。
合格先生
合格先生
枝をつかもうとしてスカッとはずれる…。T先生は「楽しいだけやなく、惜しいも書く。そこが随筆のリアルさや」と言っていました。

4

蓬の、車に押しひしがれたりけるが、輪の回りたるに、近ううちかかりたるもをかし。

現代語訳よもぎが、牛車(の車輪)に押しつぶされていたのが、車輪が回るにつれて(巻き上げられて)、すぐ近くに(その香りが)ふっとただよってきたのも趣がある。

サクラちゃん
サクラちゃん
よもぎの香りで終わるんですね! 見るだけじゃないんだ。
ミスターT先生
ミスターT先生
そうや。車輪につぶされたよもぎが、回る輪に巻き上げられて、ふわっと香る。香りで終わるから、読んだあとも余韻が残るんやな。

「上はつれなくて」の道を図で見る(草の下の水)

牛車の屋形 人が歩くと水が走り上がる 押しつぶされた蓬の香り 上:つれなく草が生ひ茂る 下:えならざりける水 見た目(上の草)と、かくれた水(下)のギャップがをかし
図2 「五月ばかりなどに山里にありく」の道のようす(自作の断面図)
ミスターT先生
ミスターT先生
上の草は「つれなく」(知らん顔)で、下には「えならざりける水」がかくれてる。この上と下のギャップが、作者の「をかし」の正体やな。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
ありくありく出歩く・あちこち行く
山里やまざと山の中の村
見えわたるみえわたる一面に見える
つれなしつれなし平然としている・何事もないふりをする
生ひ茂るおいしげる草木がさかんに生える
たたざまたたざま縦の方向・まっすぐ
えならずえならず何とも言えないほどすばらしい
屋形やかた牛車の、人が乗る箱の部分
くちをしくちおし残念だ
蓬よもぎよもぎ(香りの強い草)
押しひしぐおしひしぐ押しつぶす
をかしおかし趣がある

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「五月ばかりなどに山里にありく」の「ありく」の意味は?

出歩く・あちこち行く(ここでは牛車で出かけること)。

問2 「上はつれなくて草生ひ茂りたる」の「つれなし」はどんな意味か。

何事もないふりをしている・平然としている。下に水があるのに、上は草だけのように見えていること。

問3 「えならざりける水」の「えならず」の意味と、「ける」の意味は?

「えならず」は何とも言えないほどすばらしい。「ける」は気づきの「けり」(詠嘆)で、「〜だったのだなあ」。

問4 「深くはあらねど」の「ね」を文法的に説明しなさい。

打消の助動詞「ず」の已然形。

問5 「ふと過ぎてはづれたるこそ、いとくちをしけれ」で、「くちをしけれ」が已然形なのはなぜ?また意味は?

上に係助詞「こそ」があるから(係り結び)。意味は「残念だ」。

問6 「車に押しひしがれたりけるが」の「れ」の意味は?

受身(よもぎが車に押しつぶされる)。助動詞「る」の連用形。

問7 この段で作者が楽しんでいるものを、目で見るもの以外に一つ挙げなさい。

よもぎの香り(車輪に押しつぶされたよもぎの香りがただよってくること)。

うかるくん
うかるくん
「つれなし」「えならず」「くちをし」、3つとも覚えました! 梅雨の時期に山道を歩いたら思い出しそうです。

枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

五月ばかりなどに山里にありく、いとをかし。

草葉も水もいと青く見えわたりたるに、上はつれなくて草生ひ茂りたるを、ながながとたたざまに行けば、下はえならざりける水の、深くはあらねど、人などの歩むに走り上がりたる、いとをかし。

左右にある垣にあるものの枝などの、車の屋形などにさし入るを、急ぎてとらへて折らむとするほどに、ふと過ぎてはづれたるこそ、いとくちをしけれ。

蓬の、車に押しひしがれたりけるが、輪の回りたるに、近ううちかかりたるもをかし。

枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」現代語訳(全文・通し)

(旧暦の)五月ごろなどに、(牛車で)山里を出歩くのは、たいへん趣がある。

草の葉も水も一面にとても青々と見えているところで、上は何事もないような顔で草が茂っている所を、長々とまっすぐに進んで行くと、その下には何とも言えないほどきれいな水があったのだなあ、(その水は)深くはないけれども、お供の人などが歩くにつれて、(しぶきが)はね上がっているのは、とても趣がある。

左右にある垣根に生えている何かの木の枝などが、牛車の屋形(人が乗る箱の部分)などに入ってくるのを、急いでつかんで折ろうとするうちに、さっと通り過ぎて手からはずれてしまうのは、とても残念だ。

よもぎが、牛車(の車輪)に押しつぶされていたのが、車輪が回るにつれて(巻き上げられて)、すぐ近くに(その香りが)ふっとただよってきたのも趣がある。

枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(枕草子の基本)

枕草子の作者は誰?

清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。

枕草子はいつの作品?

平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。

枕草子の冒頭(書き出し)は?

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。

枕草子はどんな作品?

日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。

枕草子の目次(教科書に出る段)

枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。

  1. 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
  2. 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
  3. 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
  4. 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
  5. 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
  6. 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
  7. 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
  8. 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
  9. 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  10. 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
  11. 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
  12. 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
  13. 五月ばかりなどに山里にありく(このページ) 定番
  14. 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
  15. 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  16. 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
  17. 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
  18. 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
  19. 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
  20. 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
  21. 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
  22. 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
  23. 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
  24. 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
  25. 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
  26. 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
  27. 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
  28. 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
  29. 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
  30. 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
  31. 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳
ミスターT先生
ミスターT先生
次は「二月つごもりごろに」。藤原公任から届いた下の句に、作者が上の句をつけるドキドキの場面や。白居易の詩もからむで。お楽しみに!

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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。