
類聚章段
枕草子の「鳥は、異所のものなれど、鸚鵡いとあはれなり」で始まる段(「鳥は」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。鳥の名前の読みと今の名前も説明します。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:作者が心ひかれる鳥を挙げる。人のまねをする鸚鵡、仲間を恋しがる山鳥、声が天まで届く鶴、仲のよい鴛鴦などを語ったあと、鶯が宮中で鳴かず、夏・秋まで老い声で鳴くことに不満を述べる。最後はほととぎすを最高の鳥としてたたえ、夜鳴くものでは赤ん坊だけがそうでもないと笑わせる。
- 文法の要点:現在推量・婉曲のらむ、係り結び(ぞ…わろき/こそ…め/やは…する/や…む)、反実仮想(ならましかば…まし)、強意のぬ(ぬべき)、自発のる(待たれて)、謙譲語さぶらふ・まかづ。
- テストの定番:「九重」=宮中、「なつかし」=親しみがもてる、「言ふもおろかなり」=言葉では言いつくせない、鶯への不満の2点。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 現在推量・婉曲のらむ(まねぶらむ・慰むらむ)
- 係り結び:ぞ…わろき/こそ…め/やは…する/や…む
- 反実仮想:ならましかば…まし
- 強意のぬ(ぬべき)、自発のる(待たれて)
- 敬語:さぶらふ・まかづ(謙譲語)
「鳥は」はどんな段?(類聚章段・鶯とほととぎす)
「鳥は」は、ものを集めて挙げる類聚章段の一つで、作者が心ひかれる鳥を順に語ります。外国の鳥の鸚鵡から始まり、山鳥・鶴・鷺・鴛鴦・千鳥など、和歌や漢詩、言い伝えで知られた鳥が出てきます。
いちばん長いのは鶯の部分です。漢詩や和歌でもてはやされる鳥なのに、作者が宮仕えをした宮中ではまったく鳴かず、夏や秋まで老いた声で鳴き続ける――と、期待が大きいぶん不満をぶつけます。ここには作者自身の宮仕えの体験(「十年ばかりさぶらひて」)も出てきます。最後はほととぎすを「言ふべき方なし」とたたえ、夜泣きする赤ん坊で笑いをとって終わります。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
鳥は、異所のものなれど、鸚鵡いとあはれなり。人の言ふらむことをまねぶらむよ。
現代語訳鳥は、外国のものではあるけれど、おうむがとても心ひかれる。人の言うようなことをまねするというのだよ。
- 「異所のもの」は「よその国(外国)のもの」。鸚鵡(おうむ)は日本にいない鳥で、めずらしい外国の鳥として知られていた。
- 「あはれなり」はしみじみと心ひかれること。→古今異義語の一覧(あはれ・をかし)
- 「らむ」は目の前にないことを想像する現在推量。下に名詞がある「言ふらむこと」は婉曲(〜ような)。→現在推量の助動詞「らむ」
- 「まねぶ」は「まねをする」。「学ぶ」と同じ語源の言葉。


2
ほととぎす。水鶏。しぎ。都鳥。ひは。ひたき。
現代語訳ほととぎす(がよい)。くいな。しぎ。都鳥。ひわ。ひたき。
- 水鶏(くいな)は水辺にすむ鳥で、その鳴き声は戸をたたく音にたとえられた。ひは(ひわ)・ひたきは小鳥のなかま。
- 都鳥(みやこどり)は今のユリカモメと考えられている。『伊勢物語』の東下りの「名にし負はばいざこと問はむ都鳥」の歌で有名。
3
山鳥、友を恋ひて、鏡を見すれば慰むらむ、心若う、いとあはれなり。谷隔てたるほどなど、心苦し。
現代語訳山鳥は、仲間を恋しがって(鳴くが)、鏡を見せると(映った自分を仲間だと思って)気持ちがなぐさむというのが、幼くて、とてもいじらしい。(夜、雌と雄が)谷をへだてて(寝て)いる時などは、かわいそうだ。
- 山鳥(やまどり)はキジのなかまで、尾が長い鳥。雌と雄が夜は谷をへだてて別々に寝ると言い伝えられた。百人一首の「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」(柿本人麻呂)の歌でも知られる。
- 「心若う」は「心若く」のウ音便で「幼い・すなお」。「心苦し」は「かわいそうだ・気の毒だ」。


4
鶴は、いとこちたきさまなれど、鳴く声の雲居まで聞こゆる、いとめでたし。
現代語訳鶴は、とても大げさな姿をしているけれど、鳴く声が空の上まで聞こえるというのが、とてもすばらしい。
- 「こちたし」は「大げさだ・ぎょうぎょうしい」。「雲居」(くもい)は空・雲のある高い所。
- 鶴の声が天まで届くという言い方は、中国の古い詩集『詩経』の「鶴鳴于九皐、声聞于天」(鶴が奥深い沢で鳴くと、その声は天に聞こえる)をふまえるとされる。
- 「めでたし」は「すばらしい」。→古今異義語の一覧(めでたし・こちたし)
5
頭赤き雀。斑鳩の雄鳥。巧鳥。
現代語訳頭の赤い雀。いかるがの雄鳥。たくみ鳥。
- 斑鳩(いかるが)は今のイカルという鳥。巧鳥(たくみどり)は巣を上手に作る小鳥で、ミソサザイのこととされる。「頭赤き雀」がどの鳥かは、はっきりしない。
6
鷺は、いと見目も見苦し。眼居なども、うたてよろづになつかしからねど、ゆるぎの森にひとりは寝じとあらそふらむ、をかし。
現代語訳鷺は、とても見た目もみっともない。目つきなども、いやな感じで何もかも親しみがわかないけれど、「ゆるぎの森でひとりでは寝まい」と(相手を)取り合うというのは、おもしろい。
- 「寝じ」の「じ」は打消意志(〜まい)。「おぼろけならじ」のような打消推量(〜ないだろう)と、主語で見分ける。→打消推量・打消意志の「じ」と「まじ」
- 「ゆるぎの森」は近江国(今の滋賀県)にあった森で、「鷺もひとりでは寝まいと争う」という内容の古い和歌で知られた。
- 「なつかし」は今の「昔がなつかしい」ではなく「親しみがもてる・心ひかれる」。「眼居」(まなこい)は目つき。


7
水鳥、鴛鴦いとあはれなり。かたみに居かはりて、羽の上の霜払ふらむほどなど。千鳥いとをかし。
現代語訳水鳥では、おしどりがとても心ひかれる。(雌と雄が)かわるがわる場所を入れかわって、羽の上の霜を払うというようすなど(がよい)。千鳥はとても趣がある。
- 鴛鴦(をし、読みは「おし」)は今のオシドリ。雌と雄がいつもいっしょにいるので、仲のよい夫婦のたとえにされる(「おしどり夫婦」)。
- 「かたみに」は「たがいに・かわるがわる」。千鳥(ちどり)は水辺の小鳥で、冬の和歌によくよまれた。
8
鶯は、文などにもめでたきものに作り、声よりはじめて、さまかたちも、さばかりあてにうつくしきほどよりは、九重の内に鳴かぬぞ、いとわろき。
現代語訳うぐいすは、漢詩などにもすばらしいものとして作られ、声をはじめとして、姿や形も、あれほど上品でかわいらしいわりには、宮中で鳴かないのが、とてもよくない。
- 係り結び:「ぞ」→文末は形容詞「わろし」の連体形「わろき」。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「九重」(ここのえ)は宮中のこと。「あてなり」は「上品だ」。
- 「うつくし」は「かわいらしい」、「わろし」は「よくない」(「悪し」より軽い)。→古今異義語の一覧(うつくし・わろし)

9
人の「さなむある」と言ひしを、さしもあらじと思ひしに、十年ばかりさぶらひて聞きしに、まことにさらに音せざりき。
現代語訳ある人が「そう(宮中では鳴かないの)だ」と言ったのを、そうでもないだろうと思っていたが、十年ほど宮仕えをして聞いていたところ、本当にまったく鳴き声がしなかった。
- 「き」は自分が体験した過去。作者自身の宮仕えの体験なので「き・し」が続く。→過去の助動詞「き・けり」の違い
- 「さぶらふ」は謙譲語で「お仕えする」。→敬語動詞の一覧(さぶらふ・まかづ)
- 「さらに〜ず」は「まったく〜ない」(呼応の副詞)。

10
さるは、竹近き紅梅も、いとよく通ひぬべきたよりなりかし。まかでて聞けば、あやしき家の見所もなき梅の木などには、かしがましきまでぞ鳴く。
現代語訳そのくせ、(清涼殿の)竹の近くにある紅梅も、(鶯が)きっとよく通ってくるにちがいない手がかりなのだよ。宮中から退出して(里で)聞くと、粗末な家の見ばえもしない梅の木などでは、やかましいほど鳴く。
- 「通ひぬべき」の「ぬ」は強意(きっと)。「ぬべし」は「きっと〜にちがいない」。→完了の助動詞「つ・ぬ」(強意の用法)
- 「まかづ」は宮中から退出するという謙譲語。「かしがまし」は「やかましい」。
- 「ぞ…鳴く」も係り結び。四段動詞は終止形と連体形が同じ形なので、見た目は変わらない。
11
夜鳴かぬもいぎたなき心地すれども、今はいかがせむ。夏・秋の末まで老い声に鳴きて、「虫食ひ」など、ようもあらぬ者は名をつけかへて言ふぞ、くちをしくくすしき心地する。
現代語訳夜鳴かないのも寝坊な感じがするけれど、今さらどうしようもない。夏や秋の終わりまで年寄りじみた声で鳴いて、「虫食い」などと、教養のない者は名前を言いかえて呼ぶのが、残念で変な気持ちがする。
- 「いぎたなし」は「ぐっすり寝こんでいる・寝坊だ」。「いかがせむ」は「どうしようか、いやどうしようもない」(反語)。
- 係り結び:「ぞ」→サ変動詞「す」の連体形「する」で結ぶ。「くちをし」は「残念だ」。
12
それもただ雀などのやうに常にある鳥ならば、さもおぼゆまじ。春鳴くゆゑこそはあらめ。
現代語訳それも、ただ雀などのようにいつもいる鳥なら、そうも思わないだろう。春に鳴く(鳥である)からこそ(そう思うの)であろう。
- 「鳥ならば」は未然形+ばなので「もし〜ならば」(仮定)。→接続助詞「ば」の未然形+ばと已然形+ば
- 係り結び:「こそ」→推量「む」の已然形「め」。「こそ〜め」の形はよく出る。
13
「年たちかへる」など、をかしきことに、歌にも文にも作るなるは。なほ春のうちならましかば、いかにをかしからまし。
現代語訳「年たちかへる(新しい年になる)」など、趣のあることとして、和歌にも漢詩にも作るというのは(春の鶯だからだ)。(鳴くのが)ずっと春のうちだけであったなら、どんなにすばらしかっただろうに。
- 反実仮想:「〜ましかば…まし」で「もし〜だったら…だろうに」。実際はそうではない(夏・秋も鳴く)ことを残念がる。→反実仮想の助動詞「まし」
- 「年たちかへる」は新年になること。新年に鶯の声を待つ和歌の言葉として知られた。


14
人をも、人げなう、世のおぼえあなづらはしうなりそめにたるをば、謗りやはする。鳶・烏などのうへは、見入れ聞き入れなどする人、世になしかし。
現代語訳人の場合でも、一人前でなく、世間の評判が軽く見られるようになってしまった人を、悪く言ったりするだろうか、いやしない。とびやからすなどのことは、目にとめたり耳にとめたりする人は、世の中にいないものだよ。
- 「やは」は反語(〜か、いや〜ない)。係り結びで文末は連体形「する」。→係り結び(反語の「やは」)
- 「人げなし」は「一人前でない」、「あなづらはし」は「軽く見られる」。「なりそめにたる」は「なり始めてしまった」。


15
されば、いみじかるべきものとなりたれば、と思ふに、心ゆかぬ心地するなり。
現代語訳だから(鶯は)、すばらしいはずのものとなっているので(あれこれ言いたくなるのだ)、と思うと、すっきりしない気持ちがするのである。
- ここまでが鶯への不満。期待が大きいからこそ文句を言いたくなる、という作者の正直な気持ち。
- 「心ゆかぬ」は「満足できない・すっきりしない」。
16
祭のかへさ見るとて、雲林院・知足院などの前に車を立てたれば、ほととぎすも忍ばぬにやあらむ、鳴くに、いとようまねび似せて、木高き木どもの中に、もろ声に鳴きたるこそ、さすがにをかしけれ。
現代語訳賀茂祭の帰りの行列を見ようとして、雲林院や知足院などの前に牛車をとめていると、ほととぎすも(季節を)こらえきれないのであろうか、鳴くと、(鶯が)とても上手にまねて似せて、高い木々の中で、声を合わせて鳴いたのは、やはり趣がある。
- 「祭」は平安時代、ふつう賀茂祭(今の葵祭)のこと。「かへさ」はその帰りの行列。雲林院・知足院は京都の紫野にあった寺。
- 「にやあらむ」は断定「なり」の連用形「に」+係助詞「や」+あら+推量「む」で「〜であろうか」。係り結びで「む」は連体形。→「に」の識別(断定の「に」)
- 「もろ声」は声をそろえること。「さすがに」は「(不満はあっても)やはり」。
17
ほととぎすは、なほさらに言ふべき方なし。いつしかしたり顔にも聞こえたるに、卯の花、花橘などに宿りをして、はた隠れたるも、ねたげなる心ばへなり。
現代語訳ほととぎすは、やはりまったく言いようもない(ほどすばらしい)。いつの間にか得意顔に(鳴いているように)聞こえているのに、卯の花や花橘などにとまって、半分隠れているのも、しゃくにさわるほど心にくい気だてだ。
- 卯の花は今のウツギの花、花橘は花の咲いた橘(みかんのなかま)。どちらも、ほととぎすといっしょに和歌によまれる初夏の花。
- 「したり顔」は得意そうな顔。「ねたげなり」は「しゃくにさわるほどすぐれている」。「はた隠れ」は半分隠れること。
18
五月雨の短き夜に寝覚めをして、いかで人よりさきに聞かむと待たれて、夜深くうち出でたる声の、らうらうじう愛敬づきたる、いみじう心あくがれ、せむ方なし。
現代語訳五月雨のころの短い夜に目をさまして、なんとかして人より先に聞こうと自然と待たれて、夜ふけに鳴き出した声が、洗練されていて魅力にあふれているのは、たいへん心がうっとりとさまよい出て、どうしようもない。
- 「待たれて」の「れ」は自発(自然と〜される)。心の動きを表す動詞につくことが多い。→助動詞「る・らる」の4つの意味(自発・可能・受身・尊敬)
- 「五月雨」(さみだれ)は旧暦五月の長雨で、今の梅雨。「らうらうじ」は「洗練されている」、「あくがる」は「心が体からぬけ出る・うっとりする」。
- 「いかで〜む」は「なんとかして〜しよう」(意志)。→助動詞「む」の意味(推量・意志・婉曲)

19
六月になりぬれば、音もせずなりぬる、すべて言ふもおろかなり。夜鳴くもの、何も何もめでたし。ちごどものみぞさしもなき。
現代語訳六月になると、まったく鳴かなくなってしまうのは、何もかも言葉では言いつくせない(ほど残念だ)。夜に鳴くものは、何もかもすばらしい。赤ん坊たちだけは、そうでもない。
- 「言ふもおろかなり」は「言葉では言いつくせない」(「言へばおろかなり」も同じ)。
- 最後に「夜鳴くもの」として赤ん坊の夜泣きを出して笑わせる、枕草子らしい終わり方。
- 係り結び:「ぞ」→形容詞「なし」の連体形「なき」。

「らむ」の使い方を図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 鸚鵡 | おうむ | オウム(外国の鳥) |
| まねぶ | まねぶ | まねをする |
| 水鶏 | くいな | クイナ(水辺の鳥) |
| 鴛鴦 | おし | オシドリ |
| 斑鳩 | いかるが | イカル(小鳥) |
| かたみに | かたみに | たがいに・かわるがわる |
| なつかし | なつかし | 親しみがもてる・心ひかれる |
| 九重 | ここのえ | 宮中 |
| あてなり | あてなり | 上品だ |
| まかづ | まかず | 退出する(謙譲語) |
| かしがまし | かしがまし | やかましい |
| いぎたなし | いぎたなし | ぐっすり寝こんでいる・寝坊だ |
| したり顔 | したりがお | 得意そうな顔 |
| らうらうじ | ろうろうじ | 洗練されている・上品で美しい |
| あくがる | あくがる | 心が体からぬけ出る・うっとりする |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「人の言ふらむことをまねぶらむよ」の2つの「らむ」の意味をそれぞれ答えなさい。
「言ふらむ」は婉曲(〜ような)、「まねぶらむ」は現在推量(〜しているだろう・〜するという)。
問2 「九重の内に鳴かぬぞ、いとわろき」の「九重」とは何のこと? また「わろき」が連体形なのはなぜ?
宮中のこと。上に係助詞「ぞ」があるから(係り結び)。
問3 「十年ばかりさぶらひて聞きしに」の「さぶらひ」の敬語の種類を答えなさい。
謙譲語(お仕えする)。作者から、仕えている宮中の主人への敬意。
問4 「なほ春のうちならましかば、いかにをかしからまし」を現代語訳しなさい。
(鳴くのが)やはり春のうちだけであったなら、どんなにすばらしかっただろうに。(反実仮想)
問5 「謗りやはする」の「やは」の意味は?
反語(悪く言うだろうか、いや言わない)。
問6 「いかで人よりさきに聞かむと待たれて」の「れ」の意味は?
自発(自然と待たれる)。
問7 作者が鶯について不満に思っていることを2つ答えなさい。
宮中で鳴かないこと。夏・秋の終わりまで老いた声で鳴き、「虫食ひ」などと呼ばれてしまうこと。
問8 「鴛鴦」「斑鳩」「水鶏」の読みを答えなさい。
鴛鴦=をし(おし/オシドリ)、斑鳩=いかるが(イカル)、水鶏=くいな。

枕草子「鳥は」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
鳥は、異所のものなれど、鸚鵡いとあはれなり。人の言ふらむことをまねぶらむよ。
ほととぎす。水鶏。しぎ。都鳥。ひは。ひたき。
山鳥、友を恋ひて、鏡を見すれば慰むらむ、心若う、いとあはれなり。谷隔てたるほどなど、心苦し。
鶴は、いとこちたきさまなれど、鳴く声の雲居まで聞こゆる、いとめでたし。
頭赤き雀。斑鳩の雄鳥。巧鳥。
鷺は、いと見目も見苦し。眼居なども、うたてよろづになつかしからねど、ゆるぎの森にひとりは寝じとあらそふらむ、をかし。
水鳥、鴛鴦いとあはれなり。かたみに居かはりて、羽の上の霜払ふらむほどなど。千鳥いとをかし。
鶯は、文などにもめでたきものに作り、声よりはじめて、さまかたちも、さばかりあてにうつくしきほどよりは、九重の内に鳴かぬぞ、いとわろき。
人の「さなむある」と言ひしを、さしもあらじと思ひしに、十年ばかりさぶらひて聞きしに、まことにさらに音せざりき。
さるは、竹近き紅梅も、いとよく通ひぬべきたよりなりかし。まかでて聞けば、あやしき家の見所もなき梅の木などには、かしがましきまでぞ鳴く。
夜鳴かぬもいぎたなき心地すれども、今はいかがせむ。夏・秋の末まで老い声に鳴きて、「虫食ひ」など、ようもあらぬ者は名をつけかへて言ふぞ、くちをしくくすしき心地する。
それもただ雀などのやうに常にある鳥ならば、さもおぼゆまじ。春鳴くゆゑこそはあらめ。
「年たちかへる」など、をかしきことに、歌にも文にも作るなるは。なほ春のうちならましかば、いかにをかしからまし。
人をも、人げなう、世のおぼえあなづらはしうなりそめにたるをば、謗りやはする。鳶・烏などのうへは、見入れ聞き入れなどする人、世になしかし。
されば、いみじかるべきものとなりたれば、と思ふに、心ゆかぬ心地するなり。
祭のかへさ見るとて、雲林院・知足院などの前に車を立てたれば、ほととぎすも忍ばぬにやあらむ、鳴くに、いとようまねび似せて、木高き木どもの中に、もろ声に鳴きたるこそ、さすがにをかしけれ。
ほととぎすは、なほさらに言ふべき方なし。いつしかしたり顔にも聞こえたるに、卯の花、花橘などに宿りをして、はた隠れたるも、ねたげなる心ばへなり。
五月雨の短き夜に寝覚めをして、いかで人よりさきに聞かむと待たれて、夜深くうち出でたる声の、らうらうじう愛敬づきたる、いみじう心あくがれ、せむ方なし。
六月になりぬれば、音もせずなりぬる、すべて言ふもおろかなり。夜鳴くもの、何も何もめでたし。ちごどものみぞさしもなき。
枕草子「鳥は」現代語訳(全文・通し)
鳥は、外国のものではあるけれど、おうむがとても心ひかれる。人の言うようなことをまねするというのだよ。
ほととぎす(がよい)。くいな。しぎ。都鳥。ひわ。ひたき。
山鳥は、仲間を恋しがって(鳴くが)、鏡を見せると(映った自分を仲間だと思って)気持ちがなぐさむというのが、幼くて、とてもいじらしい。(夜、雌と雄が)谷をへだてて(寝て)いる時などは、かわいそうだ。
鶴は、とても大げさな姿をしているけれど、鳴く声が空の上まで聞こえるというのが、とてもすばらしい。
頭の赤い雀。いかるがの雄鳥。たくみ鳥。
鷺は、とても見た目もみっともない。目つきなども、いやな感じで何もかも親しみがわかないけれど、「ゆるぎの森でひとりでは寝まい」と(相手を)取り合うというのは、おもしろい。
水鳥では、おしどりがとても心ひかれる。(雌と雄が)かわるがわる場所を入れかわって、羽の上の霜を払うというようすなど(がよい)。千鳥はとても趣がある。
うぐいすは、漢詩などにもすばらしいものとして作られ、声をはじめとして、姿や形も、あれほど上品でかわいらしいわりには、宮中で鳴かないのが、とてもよくない。
ある人が「そう(宮中では鳴かないの)だ」と言ったのを、そうでもないだろうと思っていたが、十年ほど宮仕えをして聞いていたところ、本当にまったく鳴き声がしなかった。
そのくせ、(清涼殿の)竹の近くにある紅梅も、(鶯が)きっとよく通ってくるにちがいない手がかりなのだよ。宮中から退出して(里で)聞くと、粗末な家の見ばえもしない梅の木などでは、やかましいほど鳴く。
夜鳴かないのも寝坊な感じがするけれど、今さらどうしようもない。夏や秋の終わりまで年寄りじみた声で鳴いて、「虫食い」などと、教養のない者は名前を言いかえて呼ぶのが、残念で変な気持ちがする。
それも、ただ雀などのようにいつもいる鳥なら、そうも思わないだろう。春に鳴く(鳥である)からこそ(そう思うの)であろう。
「年たちかへる(新しい年になる)」など、趣のあることとして、和歌にも漢詩にも作るというのは(春の鶯だからだ)。(鳴くのが)ずっと春のうちだけであったなら、どんなにすばらしかっただろうに。
人の場合でも、一人前でなく、世間の評判が軽く見られるようになってしまった人を、悪く言ったりするだろうか、いやしない。とびやからすなどのことは、目にとめたり耳にとめたりする人は、世の中にいないものだよ。
だから(鶯は)、すばらしいはずのものとなっているので(あれこれ言いたくなるのだ)、と思うと、すっきりしない気持ちがするのである。
賀茂祭の帰りの行列を見ようとして、雲林院や知足院などの前に牛車をとめていると、ほととぎすも(季節を)こらえきれないのであろうか、鳴くと、(鶯が)とても上手にまねて似せて、高い木々の中で、声を合わせて鳴いたのは、やはり趣がある。
ほととぎすは、やはりまったく言いようもない(ほどすばらしい)。いつの間にか得意顔に(鳴いているように)聞こえているのに、卯の花や花橘などにとまって、半分隠れているのも、しゃくにさわるほど心にくい気だてだ。
五月雨のころの短い夜に目をさまして、なんとかして人より先に聞こうと自然と待たれて、夜ふけに鳴き出した声が、洗練されていて魅力にあふれているのは、たいへん心がうっとりとさまよい出て、どうしようもない。
六月になると、まったく鳴かなくなってしまうのは、何もかも言葉では言いつくせない(ほど残念だ)。夜に鳴くものは、何もかもすばらしい。赤ん坊たちだけは、そうでもない。
枕草子「鳥は」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
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- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 鳥は(このページ)
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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


