
定番 教科書によく出る定番の段 随想章段
枕草子の「九月ばかり、夜一夜降り明かしつる雨の」で始まる段を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。雨上がりの朝、蜘蛛の巣にかかった露が真珠のように光る、短くて美しい随想の段です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:旧暦九月、ひと晩降り続いた雨がやんだ朝、庭の植え込みの露や、蜘蛛の巣にかかった雨のしずくが白い玉をつないだように光る。日が高くなると、露が落ちた萩の枝が誰も触れないのにはね上がる。作者はそれを「をかし」と書き、ほかの人はおもしろく思わないだろうと考えることまで「をかし」と結ぶ。
- 文法の要点:こそ…をかしけれ(係り結び2回)、完了の「つ」「ぬ」、存続の「たり」、打消の「ず」の連体形「ぬ」、打消推量「じ」、イ音便「かいたる」。
- テストの定番:「たけぬれば」(完了)と「手触れぬに」(打消)の「ぬ」の識別、「つゆ〜じ」=少しも〜ないだろう、「をかし」「あはれなり」の意味。教科書によく出る段です。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 「ぬ」の識別:たけぬれば(完了)/手触れぬに(打消「ず」の連体形)
- 係り結び:こそ…をかしけれ(2回)
- 完了のつ(降り明かしつる)と存続のたり
- 呼応の副詞つゆ〜じ=少しも〜ないだろう
- 古今異義語をかし・あはれなり
「九月ばかり」はどんな段?(随想章段・場面)
「九月ばかり」は、自然を見て感じたことをそのまま書いた随想章段です。旧暦の九月(今の10月ごろ)、ひと晩じゅう降った雨が上がった朝の庭が舞台です。宮中の人物は出てこず、作者の目が露・蜘蛛の巣・萩の枝という小さなものを順に追っていきます。
見どころは、蜘蛛の巣に残った雨のしずくを「白き玉を貫きたるやう」(真珠を糸に通したよう)とたとえたところと、最後に「ほかの人はちっともおもしろくないだろう」と考えることまで「をかし」と言い切るところです。自分の感覚を大事にする、清少納言らしさがよく出ています。
※明治の『國文大觀』(能因本系)では「降りあかしたる雨」「ぜんざいの菊の露」「すいがい、らもんすすきなどの上に」など、教科書(三巻本系)と少し言葉がちがいます。このページは教科書の形にそろえています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
九月ばかり、夜一夜降り明かしつる雨の、今朝はやみて、朝日いとけざやかにさし出でたるに、前栽の露はこぼるばかり濡れかかりたるも、いとをかし。
現代語訳九月ごろ、ひと晩じゅう降り続いて夜を明かした雨が、今朝はやんで、朝日がとてもくっきりとさし始めたときに、庭の植え込みの露が、こぼれ落ちそうなほどびっしょりとかかっているのも、たいへん趣がある。
- 「降り明かしつる」の「つる」は完了「つ」の連体形(〜た)。下の「雨」にかかる。→完了の助動詞「つ・ぬ」の違い
- 「九月」は旧暦なので、今の10月ごろ。秋の深まった季節。→旧暦の月の名前と季節(睦月〜師走)
- 「をかし」は「おかしい(笑える)」ではなく「趣がある・すてきだ」。→古今異義語の一覧(をかし・あはれ・うつくし)
- 「前栽」は庭の植え込み。「けざやかなり」は「くっきりと目立つ様子」。


2
透垣の羅文、軒の上などは、かいたる蜘蛛の巣のこぼれ残りたるに、雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ。
現代語訳透垣(すきまのある垣根)の上の飾りや軒の上などに、張ってある蜘蛛の巣が破れて残っているところに、雨(のしずく)がかかっているのが、白い玉を糸に通したように見えるのは、たいそうしみじみとして趣がある。
- 係り結び:「こそ」があるので、文の終わりは已然形「をかしけれ」。→係り結びの決まり(こそ→已然形)
- 「かいたる」は「かき(掻き)たる」のイ音便。蜘蛛が巣を張っている様子。→古文の音便(イ音便・ウ音便)
- 「あはれなり」は「かわいそう」ではなくしみじみと心を動かされること。「をかし」(明るい趣)と並べて、感動の強さを表している。→古今異義語(あはれ・をかし)
- 「いみじう」は「いみじく」のウ音便。「たいそう・とても」。


3
少し日たけぬれば、萩などのいと重げなるに、露の落つるに枝のうち動きて、人も手触れぬに、ふと上ざまへ上がりたるも、いみじうをかし、
現代語訳少し日が高くなると、萩などが(露で)たいそう重そうにたれていたのに、露が落ちると枝がふっと動いて、だれも手を触れていないのに、さっと上の方へはね上がったのも、とても趣がある、
- 「ぬ」の識別:「たけぬれば」は連用形に付く完了「ぬ」の已然形。「手触れぬに」は未然形に付く打消「ず」の連体形。同じ段に両方出る。→「ぬ」の識別(完了と打消の見分け方)
- 「たけぬれば」は已然形+ばで「〜すると」。→接続助詞「ば」の未然形+ばと已然形+ば
- 「日たく」は「日が高くのぼる」。「上ざま」は「上の方」。

4
と言ひたることどもの、人の心には、つゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。
現代語訳と(わたしが)言ったようなことが、ほかの人の心には、少しも趣深くはないだろうと思うのが、またおもしろいのだ。
- 「つゆ〜じ」は「少しも〜ないだろう」。「つゆ」は下に打消の語が来る呼応の副詞。→打消推量の助動詞「じ」
- ここも「こそ」→「をかしけれ」(已然形)の係り結び。この段の最後の一文。
- 自分の感じ方が人とちがうことまで「をかし」と楽しむ、清少納言らしい結び方です。


「ぬ」の識別を図で確かめる(完了と打消)

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 夜一夜 | よひとよ | ひと晩じゅう |
| けざやかなり | けざやかなり | くっきりと目立つ |
| 前栽 | せんざい | 庭の植え込み |
| 透垣 | すいがい | 板や竹をすきまをあけて組んだ垣根 |
| 羅文 | らもん | 透垣の上の、ひし形に組んだ飾り |
| 軒 | のき | 屋根のはし |
| 貫く | つらぬく | (玉に)糸を通す |
| いみじ | いみじ | たいそう・はなはだしい |
| あはれなり | あわれなり | しみじみと心を動かされる |
| をかし | おかし | 趣がある・すてきだ |
| 日たく | ひたく | 日が高くのぼる |
| 上ざま | かみざま | 上の方 |
| つゆ(〜打消) | つゆ | 少しも(〜ない) |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「九月ばかり」の「九月」は今の何月ごろ?
今の10月ごろ。古文の月は旧暦なので、今より1か月ほど後の季節になる。
問2 「夜一夜降り明かしつる雨」の「つる」の文法的説明は?
完了の助動詞「つ」の連体形(下の「雨」にかかる)。
問3 「白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ」で、「をかしけれ」が已然形なのはなぜ?
上に係助詞「こそ」があるから(係り結び)。
問4 「少し日たけぬれば」の「ぬれ」と「人も手触れぬに」の「ぬ」をそれぞれ文法的に説明しなさい。
「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形(連用形に接続)。「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形(未然形に接続)。
問5 「白き玉を貫きたるやうなる」とは何が何のように見えるのか。
蜘蛛の巣にかかった雨のしずくが、白い玉(真珠)を糸に通したように見える。
問6 「つゆをかしからじ」を現代語訳しなさい。
「少しも趣深くはないだろう」。「つゆ〜じ」は呼応の副詞+打消推量。
問7 最後の一文「人の心には、つゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ」には、作者のどんな気持ちが表れているか。
自分が感動したことを、ほかの人は少しもおもしろいと思わないだろう、と考えることまでおもしろがる気持ち(自分の感じ方への自信と、人との感じ方のちがいを楽しむ心)。

枕草子「九月ばかり」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
九月ばかり、夜一夜降り明かしつる雨の、今朝はやみて、朝日いとけざやかにさし出でたるに、前栽の露はこぼるばかり濡れかかりたるも、いとをかし。
透垣の羅文、軒の上などは、かいたる蜘蛛の巣のこぼれ残りたるに、雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ。
少し日たけぬれば、萩などのいと重げなるに、露の落つるに枝のうち動きて、人も手触れぬに、ふと上ざまへ上がりたるも、いみじうをかし、
と言ひたることどもの、人の心には、つゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。
枕草子「九月ばかり」現代語訳(全文・通し)
九月ごろ、ひと晩じゅう降り続いて夜を明かした雨が、今朝はやんで、朝日がとてもくっきりとさし始めたときに、庭の植え込みの露が、こぼれ落ちそうなほどびっしょりとかかっているのも、たいへん趣がある。
透垣(すきまのある垣根)の上の飾りや軒の上などに、張ってある蜘蛛の巣が破れて残っているところに、雨(のしずく)がかかっているのが、白い玉を糸に通したように見えるのは、たいそうしみじみとして趣がある。
少し日が高くなると、萩などが(露で)たいそう重そうにたれていたのに、露が落ちると枝がふっと動いて、だれも手を触れていないのに、さっと上の方へはね上がったのも、とても趣がある、
と(わたしが)言ったようなことが、ほかの人の心には、少しも趣深くはないだろうと思うのが、またおもしろいのだ。
枕草子「九月ばかり」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 九月ばかり(このページ) 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
- 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
- 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
- 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳

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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


