
類聚章段
枕草子の「過ぎにしかた恋しきもの。枯れたる葵」で始まる段(「過ぎにしかた恋しきもの」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。短い段なので、言葉の意味と品詞分解をていねいに見ます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:過ぎた昔がなつかしくなるものを挙げる。祭で飾って枯れた葵、人形遊びの道具、本にはさまっていた布の切れはし、雨の日にさがし出した昔の手紙、去年の扇。どれも、ふと目にした品から昔の思い出がよみがえるものである。
- 文法の要点:「過ぎにしかた」=過ぎ+に(完了ぬ)+し(過去き)+かた、体験の過去「き」(あはれなりし)、完了・存続のたり。
- テストの定番:「過ぎにしかた」=過ぎ去った昔、「つれづれなり」=退屈だ、「かはほり」=扇、「葵」=賀茂祭(葵祭)の飾り。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 過ぎにしかた=過ぎ+に(完了「ぬ」)+し(過去「き」)+かた
- 体験の過去き(あはれなりし)
- 完了・存続のたり(枯れたる・見つけたる)
- 語句:つれづれなり・をりから・かはほり・さいで
「過ぎにしかた恋しきもの」はどんな段?(類聚章段・思い出の品)
「過ぎにしかた恋しきもの」は、ものを集めて挙げる類聚章段の一つです。「〜もの」と題を出し、それに当てはまるものを短く並べていきます。
挙げられているのは、祭の葵、人形遊びの道具、布の切れはし、昔の手紙、去年の扇という、ふだんは忘れている小さな品ばかりです。それを見つけた瞬間に昔の思い出がよみがえる――という、時代をこえて共感できる気持ちが書かれています。のちに兼好法師(吉田兼好)も『徒然草』で「よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき」と書いており、同じ言葉が使われています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
過ぎにしかた恋しきもの。枯れたる葵。
現代語訳過ぎ去った昔が恋しくなるもの。枯れてしまった葵。
- 「過ぎにしかた」は過ぎ(動詞)+に(完了「ぬ」の連用形)+し(過去「き」の連体形)+かた(方)で「過ぎ去った昔」。→「に」の識別(完了の「に」)
- 「恋し」は今の恋愛の意味だけでなく、なつかしい・心ひかれること。
- 葵(あふひ、読みは「あおい」)は今のフタバアオイ。旧暦四月の賀茂祭(今の葵祭)で、牛車や冠・柱などに飾った。祭が終わって枯れた葵を見ると、祭の日のにぎわいがよみがえる。


2
雛遊びの調度。
現代語訳人形遊びの道具。
- 「雛遊び」(ひいなあそび)は、紙や布の小さな人形で遊ぶ女の子の遊び。今のひな祭りのもとになったとされる。「調度」(ちょうど)は道具・家具。
- 子どものころに遊んだ道具が出てくると、幼いころを思い出す――今の私たちにもわかる気持ち。
3
二藍・葡萄染めなどのさいでの、押しへされて草子の中などにありける、見つけたる。
現代語訳二藍や葡萄染めなどの布の切れはしが、押しつぶされて本の中などにあったのを、見つけたとき。
- 二藍(ふたあい)は紅花と藍を重ねて染めた青みのあるむらさき色、葡萄染め(えびぞめ)は赤みのあるむらさき色。どちらも平安時代の衣の色の名前。
- 「さいで」は布の切れはし、「押しへす」は「押しつぶす」。「草子」(そうし)は紙をとじた本。
- 見つけたその瞬間に、その布で作った衣を着ていたころがよみがえる。


4
また、をりからあはれなりし人の文、雨など降りつれづれなる日、さがし出でたる。
現代語訳また、その時その時にしみじみと心を動かされた人の手紙を、雨などが降って退屈な日に、さがし出したとき。
- 「あはれなりし」の「し」は過去「き」の連体形で、自分が体験した過去(あのとき心を動かされた)。→過去の助動詞「き・けり」の違い
- 「をりから」は「ちょうどその時にふさわしく」、「つれづれなり」は「することがなくて退屈だ・ものさびしい」。『徒然草』の題名もこの言葉から。
- 「あはれ」はしみじみとした感動。→古今異義語の一覧(あはれ・をかし)

5
去年のかはほり。
現代語訳去年使った扇。
- 「去年」(こぞ)は「去年」。「かはほり」(かわほり)は夏に使う紙張りの扇のこと。広げた形がこうもり(かはほり)の羽に似ているので、この名があるとされる。
- 夏が終わってしまっておいた扇を、次の年に取り出したときの気持ち。
- 明治の『國文大觀』(能因本系)では、このあとに「月のあかき夜」(月の明るい夜)が続くが、教科書で広く読まれる形(三巻本系)は「去年のかはほり」で終わる。


「過ぎにしかた」を品詞分解で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 過ぎにしかた | すぎにしかた | 過ぎ去った昔 |
| 恋し | こいし | なつかしい・心ひかれる |
| 葵 | あおい | フタバアオイ(賀茂祭の飾り) |
| 雛遊び | ひいなあそび | 人形遊び |
| 調度 | ちょうど | 道具・家具 |
| 二藍 | ふたあい | 青みのあるむらさき色 |
| 葡萄染め | えびぞめ | 赤みのあるむらさき色 |
| さいで | さいで | 布の切れはし |
| をりから | おりから | ちょうどその時にふさわしく |
| つれづれなり | つれづれなり | することがなく退屈だ・ものさびしい |
| 去年 | こぞ | 去年 |
| かはほり | かわほり | 夏に使う紙張りの扇 |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「過ぎにしかた」を品詞分解しなさい。
過ぎ(動詞「過ぐ」の連用形)+に(完了の助動詞「ぬ」の連用形)+し(過去の助動詞「き」の連体形)+かた(名詞)。
問2 「過ぎにしかた恋しきもの」を現代語訳しなさい。
過ぎ去った昔が恋しくなる(なつかしくなる)もの。
問3 「枯れたる葵」が昔を思い出させるのはなぜ?
葵は賀茂祭(葵祭)で飾ったもので、枯れた葵を見ると祭の日のことを思い出すから。
問4 「雨など降りつれづれなる日」の「つれづれなり」の意味は?
することがなくて退屈だ・ものさびしい。
問5 「をりからあはれなりし人の文」の「し」の文法的な説明をしなさい。
過去の助動詞「き」の連体形(自分が体験した過去)。
問6 「かはほり」とは何のこと?
夏に使う紙張りの扇(蝙蝠扇)。

枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
過ぎにしかた恋しきもの。枯れたる葵。
雛遊びの調度。
二藍・葡萄染めなどのさいでの、押しへされて草子の中などにありける、見つけたる。
また、をりからあはれなりし人の文、雨など降りつれづれなる日、さがし出でたる。
去年のかはほり。
枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」現代語訳(全文・通し)
過ぎ去った昔が恋しくなるもの。枯れてしまった葵。
人形遊びの道具。
二藍や葡萄染めなどの布の切れはしが、押しつぶされて本の中などにあったのを、見つけたとき。
また、その時その時にしみじみと心を動かされた人の手紙を、雨などが降って退屈な日に、さがし出したとき。
去年使った扇。
枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 過ぎにしかた恋しきもの(このページ)
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
- 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
- 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
- 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳

あわせて読みたい古文のページ
- 古文文法の一覧(動詞・助動詞・係り結び・敬語)
- 古文の助動詞一覧表(全28語の意味・接続・活用)
- 係り結びとは?ぞ・なむ・や・か・こそと結びの形
- 古文の敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句
- 竹取物語の全文と現代語訳(全10章・文法解説つき)
- 徒然草の原文と現代語訳(教科書に出る段の一覧・三大随筆)
- 国語の勉強まとめ(古文・漢文・漢字・百人一首)
本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


