
類聚章段
枕草子の類聚章段「かたはらいたきもの」(そばで見ていてはらはらする・いたたまれないもの)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:下手な琴を思いきり弾く人、客の前で奥から聞こえる内輪話、酔って同じことをくり返す身内、本人に聞かれていたうわさ話、子どもの親ばか自慢、知ったかぶり、自分の歌の自慢など、そばにいていたたまれないものを挙げる。
- 文法の要点:打消「ず」の連体形「ぬ」(とどめぬ・おぼえぬ)、打消の接続助詞「で」、不可能の「え〜で」、断定「なり」+打消「ず」(ならねど)、類推の「だに」。
- テストの定番:古今異義語「かたはらいたし」=はらはらする・きまりが悪い(今の「片腹痛い」ではない)。「かなし」=いとしい、「才」=漢学の学問。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 古今異義語かたはらいたし=はらはらする・きまりが悪い
- 打消「ず」の連体形ぬ(とどめぬ・おぼえぬ)
- 打消の接続助詞でと不可能のえ〜で
- ならねど=断定「なり」未然形+打消「ず」已然形
- 古今異義語かなし=いとしい、才=漢学
「かたはらいたきもの」はどんな段?(類聚章段)
「かたはらいたきもの」は、「〜もの」という題で同じ種類のことがらを集める類聚章段です。前の段「はしたなきもの」と同じく、人づきあいの中の気まずさを、するどい目で短く切り取っています。
挙げられているのは、他人のふるまいを見ていてはらはらする場面(下手な琴・酔っぱらい・親ばか・知ったかぶり)と、自分がきまりの悪い思いをする場面(客の前の内輪話・聞かれていたうわさ話)の両方です。宮仕えをする女房として、人の目をいつも気にしていた作者らしい段です。本文は三巻本系で読み、能因本系にあるいくつかの項目(寝ている人・舅に会う婿など)は文法メモでふれました。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
かたはらいたきもの。よくも音弾きとどめぬ琴を、よくも調べで、心の限り弾きたてたる。
現代語訳そばで見ていてはらはらするもの。ちゃんと弾きこなせてもいない琴を、よく調子も合わせないで、思いきり弾きたてているの。
- 「かたはらいたし」は(そばで見ていて)はらはらする・見ていられない/(自分が)きまりが悪い。今の「片腹痛い(ちゃんちゃらおかしい)」とはちがう。→古今異義語の一覧(かたはらいたし・はしたなし・あはれ)
- 「調べで」の「で」は打消の接続助詞(〜ないで)。助動詞ではない。→接続助詞「で・ば・ど・ども」の意味
- 「心の限り」は「思いきり・心のままに」。下手なのに本人は大まじめ、というのがはらはらする所。


2
客人などに会ひてもの言ふに、奥の方にうちとけ言など言ふを、えは制せで聞く心地。
現代語訳お客さまなどに会って話をしているときに、奥のほうで(家の者が)気をゆるめた内輪の話などをしているのを、止めることもできずに聞いている気持ち。
- 「え〜で」は「〜できないで」(不可能)。副詞「え」は下に打消(ず・で・じ・まじ)をともなって「〜できない」。
- 「うちとけ言」は、気をゆるめた内輪の話。客に聞こえたら恥ずかしい。


3
思ふ人のいたく酔ひて、同じことしたる。
現代語訳大切に思っている人が、ひどく酔って、同じことをくり返し言ったりしたりしているの。
- 「思ふ人」は「愛する人・大切な人」。他人ならまだしも、身内だからこそ見ていていたたまれない。
- 「いたく」は「ひどく・たいそう」(形容詞「いたし」の連用形)。
4
聞きゐたりけるを知らで、人のうへ言ひたる。それは、何ばかりの人ならねど、使ふ人などだにいとかたはらいたし。
現代語訳(本人が)聞いていたのを知らずに、その人のうわさ話をしてしまったとき。それは、たいした身分の人でなくても、召し使いなどであってさえ、とてもきまりが悪い。
- 「人ならねど」の「なら」は断定「なり」の未然形、「ね」は打消「ず」の已然形。「〜ではないけれど」。→「なり」の識別(断定・伝聞推定・動詞)
- 「だに」は類推(〜でさえ)。召し使いでさえ気まずいのだから、えらい人ならなおさら。→副助詞「だに・すら・さへ」の違い
- ここの「かたはらいたし」は、自分がしたことのきまりの悪さ。前の段の「はしたなし」に近い。

5
旅立ちたる所にて、下衆どものざれゐたる。
現代語訳旅先の宿などで、身分の低い者たちがふざけ合っているの。
- 「旅立ちたる所」は「旅先・外泊先」。人目がある所なので、身内の者のふるまいがはらはらする。
- 「下衆」は「身分の低い者・使用人」。
6
にくげなるちごを、おのが心地のかなしきままに、うつくしみ、かなしがり、これが声のままに、言ひたることなど語りたる。
現代語訳かわいげのない赤ちゃんを、自分の気持ちではいとしく思うままに、かわいがり、いとおしがって、その子の声色をまねて、(その子が)言ったことなどを話しているの。
- 「かなし」は今の「悲しい」だけでなく、いとしい・かわいいの意味がある(愛し)。「うつくしむ」も「かわいがる」。→古今異義語(うつくし・かなし)
- 「にくげなり」は「見た目がかわいくない」。親ばかの話を聞かされる側のいたたまれなさ。今のSNSの子ども自慢にも通じる。


7
才ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に人の名など言ひたる。
現代語訳学問のある人の前で、学問のない人が、もの知り顔の声で(昔の)人の名前などを口にしているの。
- 「才」は「ざえ」と読み、漢学(漢詩文)の学問のこと。和歌などの教養は「才」とは言わないことが多い。
- 「ものおぼえ声」は「物知りぶった声」。知ったかぶりは見ていてはらはらする。


8
ことによしともおぼえぬわが歌を、人に語りて、人のほめなどしたるよし言ふも、かたはらいたし。
現代語訳特によいとも思われない自分の歌を、人に話して聞かせて、人がほめてくれたことなどを言うのも、聞いていて恥ずかしくなる。
- 「おぼえぬ」の「ぬ」は「おぼゆ」の未然形「おぼえ」についた打消「ず」の連体形。下に体言「わが歌」がある。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「よし」は「〜ということ(旨)」。自分の歌の自慢話は、聞く側がいたたまれない。
- 能因本系の本文では、このあとに「人の起きて物語などするかたはらに寝ている人」「舅に会う婿」などがさらに続く。

古今異義語「かたはらいたし」を図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| かたはらいたし | かたわらいたし | はらはらする・きまりが悪い |
| 調ぶ | しらぶ | (楽器の)調子を合わせる |
| 客人 | まろうど | お客 |
| うちとけ言 | うちとけごと | 気をゆるめた内輪の話 |
| 制す | せいす | 止める |
| 思ふ人 | おもうひと | 愛する人・大切な人 |
| 人のうへ | ひとのうえ | 他人のうわさ |
| 下衆 | げす | 身分の低い者 |
| ざる | ざる | ふざける |
| にくげなり | にくげなり | かわいげがない |
| かなし | かなし | いとしい・かわいい |
| うつくしむ | うつくしむ | かわいがる |
| 才 | ざえ | 漢学(漢詩文)の学問 |
| よし | よし | 〜ということ(旨) |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「かたはらいたし」の意味を2つ答えなさい。
①(そばで見ていて)はらはらする・見ていられない、②(自分が)きまりが悪い・恥ずかしい。
問2 「よくも調べで」の「で」は何?
打消の接続助詞「で」(〜ないで)。
問3 「えは制せで聞く心地」を現代語訳しなさい。
「止めることもできずに聞いている気持ち。」「え〜で」で不可能を表す。
問4 「何ばかりの人ならねど」の「なら」「ね」を文法的に説明しなさい。
「なら」は断定の助動詞「なり」の未然形、「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形。
問5 「おのが心地のかなしきままに」の「かなし」の意味は?
いとしい・かわいい。
問6 「才ある人」の「才」の読みと意味は?
「ざえ」。漢学(漢詩文)の学問・教養。
問7 「ことによしともおぼえぬわが歌」の「ぬ」は何?
打消の助動詞「ず」の連体形(未然形「おぼえ」に接続、下に体言)。

枕草子「かたはらいたきもの」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
かたはらいたきもの。よくも音弾きとどめぬ琴を、よくも調べで、心の限り弾きたてたる。
客人などに会ひてもの言ふに、奥の方にうちとけ言など言ふを、えは制せで聞く心地。
思ふ人のいたく酔ひて、同じことしたる。
聞きゐたりけるを知らで、人のうへ言ひたる。それは、何ばかりの人ならねど、使ふ人などだにいとかたはらいたし。
旅立ちたる所にて、下衆どものざれゐたる。
にくげなるちごを、おのが心地のかなしきままに、うつくしみ、かなしがり、これが声のままに、言ひたることなど語りたる。
才ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に人の名など言ひたる。
ことによしともおぼえぬわが歌を、人に語りて、人のほめなどしたるよし言ふも、かたはらいたし。
枕草子「かたはらいたきもの」現代語訳(全文・通し)
そばで見ていてはらはらするもの。ちゃんと弾きこなせてもいない琴を、よく調子も合わせないで、思いきり弾きたてているの。
お客さまなどに会って話をしているときに、奥のほうで(家の者が)気をゆるめた内輪の話などをしているのを、止めることもできずに聞いている気持ち。
大切に思っている人が、ひどく酔って、同じことをくり返し言ったりしたりしているの。
(本人が)聞いていたのを知らずに、その人のうわさ話をしてしまったとき。それは、たいした身分の人でなくても、召し使いなどであってさえ、とてもきまりが悪い。
旅先の宿などで、身分の低い者たちがふざけ合っているの。
かわいげのない赤ちゃんを、自分の気持ちではいとしく思うままに、かわいがり、いとおしがって、その子の声色をまねて、(その子が)言ったことなどを話しているの。
学問のある人の前で、学問のない人が、もの知り顔の声で(昔の)人の名前などを口にしているの。
特によいとも思われない自分の歌を、人に話して聞かせて、人がほめてくれたことなどを言うのも、聞いていて恥ずかしくなる。
枕草子「かたはらいたきもの」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- かたはらいたきもの(このページ)
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
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- 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳

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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


