
類聚章段
枕草子の類聚章段「遠くて近きもの」と「近うて遠きもの」を、1ページにまとめて全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。ことわざ「遠くて近きは男女の仲」のもとになった段です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:遠いようで近いものとして、極楽・舟の道・人の仲(男女の仲)を挙げる。近いようで遠いものとして、宮のべの祭、仲の悪いきょうだいや親類、鞍馬のつづら折りの道、十二月の最後の日と元日のあいだを挙げる。
- 文法の要点:ウ音便(近う=近く)、打消「ず」の連体形「ぬ」(思はぬ)、体言を並べる類聚章段の書き方。
- テストの定番:「遠くて近きは男女の仲」ということわざのもと。古語「はらから」=兄弟姉妹、「師走」=十二月、「つごもり」=月の最後の日。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 「遠くて近きもの」=極楽・舟の道・人の仲
- 「近うて遠きもの」=宮のべの祭・仲の悪い親類・鞍馬のつづら折り・大みそかと元日
- ウ音便:近う=近く
- 打消「ず」の連体形ぬ(思はぬはらから)
- 古語はらから=兄弟姉妹、つごもり=月末
「遠くて近きもの・近うて遠きもの」はどんな段?(類聚章段)
「遠くて近きもの」と「近うて遠きもの」は、どちらも「〜もの」の題でことがらを集める類聚章段で、となり合った2つのとても短い段です。もとの本では「近うて遠きもの」が先にありますが、このページでは段の名前の順に「遠くて近きもの」から読みます。
理由は一つも書かれず、名前だけがぽんと並んでいます。読む人が「なるほど」と思える組み合わせを選ぶところに、清少納言の機知(とっさの気のきいた頭のはたらき)が表れています。「遠くて近きは男女の仲」ということわざは、この段から生まれたといわれます。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
遠くて近きもの。極楽。
現代語訳遠いようで近いもの。極楽浄土。
- 「極楽」は阿弥陀仏のいる西方の極楽浄土。はるか遠く(十万億の仏の国のかなた)にあるとされるが、念仏をとなえれば死後すぐに生まれ変われる、と信じられた。だから「遠くて近い」。
- 平安時代の中ごろは、極楽往生を願う浄土の教えが貴族のあいだに広まっていた。


2
舟の道。
現代語訳舟で行く道のり。
- 陸の道なら何日もかかる遠い所でも、風や流れにのった舟なら意外に早く着く。だから「遠くて近い」。
- 体言だけをぽんと並べる書き方は、類聚章段のリズム。読むときは一つずつ「なるほど」と考えながら。
3
人の仲。
現代語訳男と女の仲。
- 「人の仲」はここでは男女の仲。はじめは遠い他人どうしでも、あっという間に近しくなる。だから「遠くて近い」。
- 能因本系の本文では「男女の仲」とはっきり書いてある。のちに「遠くて近きは男女の仲」ということわざになった。


4
近うて遠きもの。宮のべの祭。
現代語訳近いようで遠いもの。宮のべの祭り。
- 「近う」は「近く」のウ音便。「遠くて」と「近うて」のように音便があったりなかったりするのも古文らしい。→古文の音便(イ音便・ウ音便・撥音便・促音便)
- 「宮のべの祭」は宮咩(みやのめ)の神をまつる行事で、正月と十二月に行われたといわれる。なぜ「近くて遠い」のかには諸説あり、「十二月と正月で日は近いのに年をまたぐ」などと説明される。能因本系では「宮のほとりの祭り」。


5
思はぬはらから、親族の仲。
現代語訳仲のよくない兄弟姉妹や、親類どうしの間がら。
- 「思はぬ」の「ぬ」は四段「思ふ」の未然形「思は」についた打消「ず」の連体形。下に体言「はらから」がある。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「はらから」は「兄弟姉妹」、「思はぬ」は「(たがいを)大切に思わない=仲の悪い」。血はつながっていて近いのに、心は遠い。

6
鞍馬のつづらをりといふ道。
現代語訳鞍馬山の、つづら折りという道。
- 「つづらをり(つづら折り)」は、つる草のつづらのようにくねくね折れ曲がった坂道。京都の北にある鞍馬寺への参道が有名。
- 見上げればすぐそこに見えるのに、曲がりくねっていて、なかなか着かない。だから「近くて遠い」。


7
師走のつごもりの日、正月の一日の日のほど。
現代語訳十二月の最後の日と、正月一日の日とのあいだ。
- 「師走」は十二月、「つごもり」は月の最後の日(みそか)。月の名前は旧暦の月の異名(睦月・如月・師走)で確かめよう。
- たった一日ちがいなのに、年が変わる。だから「近くて遠い」。この段のしめくくりにふさわしい、気のきいた一つ。

「遠くて近い」と「近くて遠い」を図でくらべる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 極楽 | ごくらく | 阿弥陀仏のいる極楽浄土 |
| 舟の道 | ふねのみち | 舟で行く道のり |
| 人の仲 | ひとのなか | (ここでは)男女の仲 |
| 近う | ちこう | 「近く」のウ音便 |
| はらから | はらから | 兄弟姉妹 |
| 親族 | しぞく | 親類 |
| つづらをり | つづらおり | くねくね折れ曲がった坂道 |
| 師走 | しわす | 十二月 |
| つごもり | つごもり | 月の最後の日(みそか) |
| ほど | ほど | あいだ・ころ |
| 思ふ | おもう | 大切に思う・愛する |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「遠くて近きもの」として挙げられている3つは何?
極楽、舟の道、人の仲(男女の仲)。
問2 「極楽」が「遠くて近きもの」とされるのはなぜ?
はるか遠くにあるとされるが、念仏によって死後すぐに生まれ変われると信じられていたから。
問3 「近うて遠きもの」の「近う」は何という音便?
ウ音便(「近く」の「く」が「う」になった形)。
問4 「思はぬはらから」の「ぬ」を文法的に説明しなさい。
打消の助動詞「ず」の連体形。四段動詞「思ふ」の未然形「思は」に接続している。
問5 「はらから」の意味は?
兄弟姉妹。
問6 「鞍馬のつづらをり」が「近うて遠きもの」とされるのはなぜ?
目の前に見えるのに、道がくねくね曲がっていて、なかなか着かないから。
問7 「師走のつごもりの日、正月の一日の日のほど」が「近うて遠き」理由を説明しなさい。
十二月の最後の日と元日はたった一日ちがいなのに、年が変わってしまうから。

枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
遠くて近きもの。極楽。
舟の道。
人の仲。
近うて遠きもの。宮のべの祭。
思はぬはらから、親族の仲。
鞍馬のつづらをりといふ道。
師走のつごもりの日、正月の一日の日のほど。
枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」現代語訳(全文・通し)
遠いようで近いもの。極楽浄土。
舟で行く道のり。
男と女の仲。
近いようで遠いもの。宮のべの祭り。
仲のよくない兄弟姉妹や、親類どうしの間がら。
鞍馬山の、つづら折りという道。
十二月の最後の日と、正月一日の日とのあいだ。
枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
- 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
- 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
- 遠くて近きもの・近うて遠きもの(このページ)


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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


