
定番 教科書によく出る定番の段 類聚章段
枕草子の「にくきもの。急ぐことあるをりに来て長言する客人」から始まる段(「にくきもの」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:清少納言が「しゃくにさわるもの」を次々に挙げる類聚章段。急ぐときの長話の客、眠そうな験者、酒ぐせの悪い人、うわさ好き、耳元の蚊、きしむ車、出しゃばり、戸を閉めない人などを挙げる。
- 文法の要点:係り結び(こそ…らめ・こそ…けれ・やは…する)と結びの省略(にや)、強意の「つ」、自発の「る」、打消意志の「じ」、婉曲の「む」。
- テストの定番:教科書によく出る段。「にくし」=しゃくにさわる(今の「憎い」より軽い)、「蚊の細声にわびしげに名のりて」の表現、「鳴りやはする」の反語。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 古今異義語にくし=しゃくにさわる・気にくわない
- 係り結び:こそ…らめ/こそ…けれ/やは…する(反語)
- 結びの省略:〜にや(あらむ)
- 強意のつ(つべし)、自発のる(思ひやらるれ)
- 打消意志のじ、婉曲のむ
「にくきもの」はどんな段?(類聚章段・宮仕えの目)
「にくきもの」は、枕草子の類聚章段の一つで、作者の清少納言が「しゃくにさわる・気にくわない」と感じるものを集めた段です。三巻本では第二十五段(本によっては第二十六段)とされます。
清少納言は一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、宮中や貴族の家でたくさんの人を見ていました。だからこの段には、客のマナー、酒の席、うわさ話、出しゃばり、新人の女房など、人のふるまいへの細かい観察が多く出てきます。一方で「蚊の羽音」「ねずみ」「のみ」など生活の小さなイライラも並び、千年前の人の気持ちがそのまま伝わってきます。
※別の系統の本(能因本系)では、項目の順番や言い回しが少しちがい、最後に乳母の夫の話などが続きます。このページは教科書で広く読まれる三巻本系の形にそろえています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
にくきもの。急ぐことあるをりに来て長言する客人。あなづりやすき人ならば、「後に」とても追ひやりつべけれど、さすがに心恥づかしき人、いとにくくむつかし。
現代語訳しゃくにさわるもの。急ぐ用事があるときにやって来て長話をする客。軽く扱ってよい人ならば、「後で」と言ってでも追い返してしまえるだろうが、そうはいってもこちらが気おくれするほど立派な人だと、とてもしゃくにさわり、うっとうしい。
- 「にくし」は今の「憎い」(強いうらみ)より軽く、「気にくわない・しゃくにさわる・いやだ」。→古今異義語の一覧(にくし・うつくし・すさまじ)
- 「追ひやりつべけれど」の「つ」は強意(きっと〜)、「べし」は「〜できる」の意味で、「きっと追い返せるだろうが」。→完了の助動詞「つ・ぬ」と強意
- 「心恥づかし」は「(相手が立派で)こちらが気おくれする」。「あなづる」は「軽く見る・ばかにする」。


2
硯に髪の入りてすられたる。また、墨の中に石のきしきしときしみ鳴りたる。
現代語訳硯に髪の毛が入って(墨といっしょに)すられてしまったの。また、墨の中に石がまじっていて、きしきしときしんで音を立てたの。
- 「すられ」の「れ」は受身の「る」(〜される)。→助動詞「る・らる」の4つの意味(受身・尊敬・自発・可能)
- 「〜たる。」と連体形で止める言い方がたくさん出てくる。下に「こと・もの」をおぎなって「〜したの(はしゃくにさわる)」と読む。
3
にはかにわづらふ人のあるに、験者求むるに、例ある所になくて、ほかに尋ねありくほど、いと待ち遠に久しきに、からうじて待ちつけて、喜びながら加持せさするに、このごろもののけにあづかりて、困じにけるにや、ゐるままにすなはち眠り声なる、いとにくし。
現代語訳急に病気になった人がいるので、祈とうをする験者を探すと、いつもいる所にいなくて、ほかの所を探しまわるあいだ、とても待ち遠しく長く感じるのに、やっと待ちうけて、喜んで加持祈とうをさせると、このごろ物の怪の祈とうにかかりきりで疲れてしまっていたのだろうか、座るとすぐに眠そうな声になるのは、とてもしゃくにさわる。
- 「加持せさする」の「さす」は使役(〜させる)。家の人が験者に祈とうをさせる。→使役・尊敬の助動詞「す・さす・しむ」
- 「困じにけるにや」は「に(断定)+や」の下に「あらむ」が省略された形(結びの省略)。「〜たのであろうか」と訳す。→係り結びと結びの省略
- 「験者」は祈とうで病気を治す僧や修験者。当時、病気は物の怪のしわざと考えられていた。


4
なでふことなき人の、笑がちにて、ものいたう言ひたる。
現代語訳たいしたこともない人が、にやにや笑ってばかりいて、ぺらぺらとよくしゃべっているの。
- 「なでふことなき」は「なんということもない・つまらない」。「いたう」は「いたく」のウ音便で「ひどく・たいそう」。
- 身分も実力もない人ほど得意げにしゃべる、という作者の手きびしい観察。
5
火桶の火、炭櫃などに、手のうらうち返しうち返し、おしのべなどしてあぶりをる者。いつか若やかなる人など、さはしたりし。老いばみたる者こそ、火桶のはたに足をさへもたげて、もの言ふままに押しすりなどはすらめ。
現代語訳火桶の火や炭櫃などに、手のひらを何度もひっくり返し、しわをおしのばしなどしてあぶっている者。いつ若々しい人などが、そんなことをしたか(いや、しない)。年寄りじみた者こそ、火桶のふちに足まで持ち上げて、しゃべりながら(足を)こすったりなどするのだろう。
- 「いつか…さはしたりし」は反語(いつ〜したか、いや、しない)。「いつか」を受けて文末が連体形「し」になる。
- 「こそ…らめ」は係り結び。「こそ」の結びは已然形。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「らむ」は目の前にないことを推しはかる現在推量(今ごろ〜しているだろう)。→現在推量の助動詞「らむ」


6
さやうの者は、人のもとに来て、ゐむとする所を、まづ扇してこなたかなたあふぎ散らして、塵掃き捨て、ゐも定まらずひろめきて、狩衣の前、まき入れてもゐるべし。かかることは、言ふかひなき者の際にやと思へど、少しよろしき者の、式部の大夫などいひしが、せしなり。
現代語訳そんな者は、人の家に来て、座ろうとする所を、まず扇であちこちあおいで、ちりを払い捨て、座り方も落ち着かずにばたばたして、狩衣の前のすそを(ひざの下に)巻きこんで座ったりもするだろう。こういうことは、取るに足りない身分の者のすることかと思うが、少しはましな身分の者で、式部の大夫などといった人が、そうしたのである。
- 「ゐむとする」の「む」は意志(〜しよう)。「〜むとす」で「〜しようとする」。→推量の助動詞「む」の意味(推量・意志・婉曲)
- 「際にや」は、下の「あらむ」が省略された形。「身分の者(のすること)であろうか」。
- 「ゐる」は「座る」。「言ふかひなし」は「取るに足りない・つまらない」。
7
また、酒飲みてあめき、口をさぐり、ひげある者はそれをなで、盃、異人に取らするほどのけしき、いみじうにくしと見ゆ。「また飲め」と言ふなるべし、身震ひをし、頭振り、口わきをさへ引き垂れて、童べの「こう殿に参りて」など歌ふやうにする。それはしも、まことによき人のし給ひしを見しかば、心づきなしと思ふなり。
現代語訳また、酒を飲んでわめき、口をまさぐり、ひげのある者はそれをなで、盃をほかの人に渡すときの様子は、とてもしゃくにさわると思われる。「もっと飲め」と言うのであろう、体をゆすり、頭をふり、口の両はしまでたらして、子どもが「こう殿に参りて」などと歌うようなことをする。それは、本当に身分の高い立派な方がなさったのを見たので、気にくわないと思うのである。
- 「し給ひし」の「給ふ」は尊敬語(作者から「よき人」への敬意)。立派な人でも見苦しいと、作者ははっきり書く。→「たまふ」の尊敬と謙譲の見分け方
- 「見しかば」は過去「き」の已然形+ば=「見たので」(理由)。→接続助詞「ば」の未然形+ばと已然形+ば
- 「心づきなし」は「気にくわない・いやだ」。「にくし」と近い意味の語。

8
もの羨みし、身の上嘆き、人の上言ひ、露塵のこともゆかしがり、聞かまほしうして、言ひ知らせぬをば怨じ、そしり、また、わづかに聞き得たることをば、我もとより知りたることのやうに、こと人にも語り調ぶるも、いとにくし。
現代語訳人をうらやみ、自分の身の上をなげき、人のうわさをし、ほんのささいなことも知りたがり、聞きたがって、教えてくれない人をうらみ、悪口を言い、また、ちょっと聞きかじったことを、自分が前から知っていたことのように、ほかの人にもしゃべりたてるのも、とてもしゃくにさわる。
- 「聞かまほしう」は希望の助動詞「まほし」の連用形のウ音便(〜したい)。→希望の助動詞「まほし・たし」
- 「ゆかしがる」は「知りたがる・見たがる」。古語「ゆかし」は「見たい・聞きたい・知りたい」で、心ひかれる気持ちを表す大事な語。
- 「知らせぬ」の「ぬ」は、下に「人」がおぎなえる連体形なので打消。→「ぬ」の識別(完了と打消)
9
もの聞かむと思ふほどに泣くちご。からすの集まりて飛びちがひ、さめき鳴きたる。
現代語訳何かを聞こうと思っているときに泣く赤ん坊。からすが集まって飛びかい、がやがやと鳴きたてているの。
- 「ちご」は幼い子ども・赤ん坊。大事な話を聞きたいときに限って泣き出す。今でもよくある「あるある」。
10
忍びて来る人見知りてほゆる犬。あながちなる所に隠し伏せたる人の、いびきしたる。
現代語訳こっそり通って来る人を見つけてほえる犬。無理な所にかくして寝かせておいた人が、いびきをかいているの。
- 「忍びて来る人」は、人目をしのんで女性のもとに通う男性。平安時代は男性が女性の家に通う結婚の形(通い婚)だった。→古文常識の一覧(通い婚・物忌みなど)
- 「あながちなり」は「むりやりだ・強引だ」。
11
また、忍び来る所に、長烏帽子して、さすがに人に見えじと惑ひ入るほどに、ものにつきさはりて、そよろといはせたる。
現代語訳また、こっそり通って来る所に、長い烏帽子をかぶって来て、それでもやはり人に見られまいとあわてて入るときに、何かにぶつかって、がさっと音を立てたの。
- 「見えじ」の「じ」は打消意志(〜まい)。「む」の反対の意味。→助動詞「じ」(打消推量・打消意志)
- 「いはせたる」の「せ」は使役の「す」で、「(物に)音を言わせた=音を立てた」。
- 「烏帽子」は男性の帽子。長い烏帽子は目立つので、こっそり来るのに向いていない。
12
伊予簾などかけたるに、うちかづきて、さらさらと鳴らしたるも、いとにくし。帽額の簾は、まして、こはじのうち置かるる音、いとしるし。
現代語訳伊予簾などがかけてある所に、頭からかぶるようにくぐって、さらさらと音を立てたのも、とてもしゃくにさわる。帽額のついた簾は、なおさら、下の端の木が床にあたる音が、とてもはっきり聞こえる。
- 「伊予簾」は伊予(今の愛媛県)産の竹で作ったすだれ。「帽額」はすだれの上にかける布の飾り。
- 「しるし」は「はっきりしている・目立つ」。
13
それも、やをら引き上げて入るは、さらに鳴らず。遣戸を荒くたてあくるも、いとあやし。少しもたぐるやうにして開くるは、鳴りやはする。あしう開くれば、障子なども、ごほめかしうほとめくこそしるけれ。
現代語訳それも、そっと持ち上げて入れば、まったく鳴らない。引き戸を乱暴に開け閉めするのも、ひどく見苦しい。少し持ち上げるようにして開ければ、音がするだろうか(いや、しない)。下手に開けるから、障子なども、ごとごとがたがたと音がはっきりするのだ。
- 「鳴りやはする」は反語の係り結び(「やは」→連体形「する」)。「鳴るだろうか、いや、鳴らない」。
- 「こそ…しるけれ」も係り結び(こそ→已然形)。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「さらに〜ず」は「まったく〜ない」(呼応の副詞)。「やをら」は「そっと・静かに」。ここの「あやし」は「見苦しい・けしからぬ」。


14
ねぶたしと思ひて臥したるに、蚊の細声にわびしげに名のりて、顔のほどに飛びありく。羽風さへその身のほどにあるこそ、いとにくけれ。
現代語訳眠たいと思って横になったときに、蚊がか細い声で心細そうに名のって、顔のあたりを飛びまわる。羽の風までが、体の大きさ相応にあるのが、とてもしゃくにさわる。
- 「蚊の細声にわびしげに名のりて」は、プーンという羽音を、蚊が自分で名のっているとたとえた、この段でいちばん有名な一文。
- 「こそ…にくけれ」は係り結び。形容詞「にくし」の已然形「にくけれ」で結ぶ。


15
きしめく車に乗りてありく者。耳も聞かぬにやあらむと、いとにくし。わが乗りたるは、その車の主さへにくし。
現代語訳きしきしと音を立てる牛車に乗って出歩く者。耳が聞こえないのであろうかと、とてもしゃくにさわる。自分が乗っているときは、その車の持ち主までしゃくにさわる。
- 「にやあらむ」は「に(断定)+や(係助詞)+あら+む(推量・連体形の結び)」で「〜であろうか」。省略されずに全部そろった形。→「に」の識別7種類
16
また、物語するに、さし出でして我ひとりさいまくる者。すべてさし出では、童も大人も、いとにくし。昔物語などするに、我知りたりけるは、ふと出でて言ひくたしなどする、いとにくし。
現代語訳また、話をしているときに、出しゃばって自分ひとりで先回りしてしゃべる者。だいたい出しゃばりは、子どもでも大人でも、とてもしゃくにさわる。昔の話などをしていると、自分が知っていた話のときは、急に口をはさんで(話す人を)けなしたりするのは、とてもしゃくにさわる。
- 「さいまくる」は「出しゃばって先にしゃべる」。「言ひくたす」は「けなす・悪く言う」。
- 人の話を横取りする人への不満。今の会話でもそのまま通じる場面。
17
ねずみの走りありく、いとにくし。あからさまに来たる子ども・童を、見入れらうたがりて、をかしき物取らせなどするに、ならひて常に来つつ、ゐ入りて調度うち散らしぬる、いとにくし。
現代語訳ねずみが走りまわるのは、とてもしゃくにさわる。ちょっと来た子どもや子どもの召し使いを、目をかけてかわいがって、おもしろい物を与えたりなどすると、それに慣れていつも来ては、上がりこんで道具を散らかしてしまうのは、とてもしゃくにさわる。
- 「あからさまに」は古今異義語で「ちょっと・かりそめに」。→古今異義語(あからさまなり・うつくし)
- 「らうたがる」は「かわいがる」。「つつ」はくり返し(〜しては)。
18
家にても宮仕へ所にても、会はでありなむと思ふ人の来たるに、そら寝をしたるを、わがもとにある者、起こしに寄り来て、いぎたなしと思ひ顔に、引きゆるがしたる、いとにくし。今参りの、さし越えて、もの知り顔に教へやうなること言ひ、後見たる、いとにくし。
現代語訳自宅でも宮仕え先でも、会わないですませたいと思う人が来たので、寝たふりをしていたのを、自分の所にいる者が、起こしに寄って来て、寝坊だと言いたげな顔で、ゆり動かしたのは、とてもしゃくにさわる。新入りの女房が、先輩をさしおいて、物知り顔で教えるようなことを言い、世話をやいたのは、とてもしゃくにさわる。
- 「ありなむ」の「な」は強意(完了「ぬ」の未然形)、「む」と合わせて「(会わずに)すませてしまいたい」。→「なむ」の識別(願望・強意+推量・係助詞)
- 「いぎたなし」は「寝坊だ・ぐっすり寝こんでいる」。「今参り」は宮仕えに来たばかりの新人。
- 作者自身も宮仕えをする女房だったので、職場の人間関係のいやなことがよく出てくる。


19
わが知る人にてある人の、はやう見し女のこと、褒め言ひ出でなどするも、ほど経たることなれど、なほにくし。まして、さしあたりたらむこそ思ひやらるれ。されど、なかなかさしもあらぬなどもありかし。
現代語訳自分の恋人である人が、以前つきあっていた女のことを、ほめて話し出したりするのも、時間がたったことであるが、やはりしゃくにさわる。まして、今つきあっている女のことだったら(どんなにしゃくにさわるか)と、自然と想像される。けれども、かえってそれほどでもない場合もあるものだ。
- 「思ひやらるれ」の「るれ」は自発の「る」(自然と〜される)。「思ふ・しのぶ・ながむ」など心の動きを表す語につく「る・らる」は自発が多い。→「る・らる」の自発の見分け方
- 「さしあたりたらむ」の「む」は婉曲(〜ような)。下に名詞(こと)が続く連体形の「む」は婉曲・仮定。→「む」の意味の見分け方
- 「見る」は古文では「男女が結婚する・つきあう」の意味にもなる。「はやう」は「以前・昔」。


20
はなひて誦文する。おほかた、人の家の男主ならでは、高くはなひたる、いとにくし。蚤もいとにくし。衣の下にをどりありきて、もたぐるやうにする。
現代語訳くしゃみをしてまじないの文句をとなえる(人)。だいたい、その家の主人の男でなくて、大きな音でくしゃみをしたのは、とてもしゃくにさわる。のみもとてもしゃくにさわる。着物の下を跳ねまわって、(着物を)持ち上げるようにする。
- 「はなふ」は「くしゃみをする」。当時、くしゃみは縁起が悪いとされ、まじないの言葉(誦文)をとなえた。
- 「男主ならでは」の「で」は打消の接続(〜でなくて)。主人以外が遠慮なく大きなくしゃみをするのが不作法、という感覚。
21
犬のもろ声に長々と鳴き上げたる、まがまがしくさへにくし。開けて出で入る所、たてぬ人、いとにくし。
現代語訳犬がいっしょに声をそろえて長々と遠ぼえしているのは、不吉な感じまでして、しゃくにさわる。開けて出入りする所を、閉めない人は、とてもしゃくにさわる。
- 「まがまがし」は「不吉だ・縁起が悪い」。犬の遠ぼえは不吉なことの前ぶれと考えられた。
- 最後は「戸を閉めない人」。長い段の終わりを、身近な小さなイライラで結んでいる。
「にくし」の意味の強さを図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| にくし | にくし | しゃくにさわる・気にくわない・いやだ |
| 心恥づかし | こころはずかし | (相手が立派で)気おくれする |
| あなづる | あなずる | 軽く見る・ばかにする |
| むつかし | むつかし | うっとうしい・不快だ |
| 験者 | げんざ | 祈とうで病気を治す僧 |
| ゆかし | ゆかし | 見たい・聞きたい・知りたい |
| 心づきなし | こころづきなし | 気にくわない |
| ゐる | いる | 座る |
| やをら | やおら | そっと・静かに |
| しるし | しるし | はっきりしている・目立つ |
| いぎたなし | いぎたなし | 寝坊だ・ぐっすり寝こんでいる |
| あからさまなり | あからさまなり | ちょっと・かりそめに |
| はなふ | はなう | くしゃみをする |
| まがまがし | まがまがし | 不吉だ・縁起が悪い |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「にくきもの」の「にくし」の意味は? 今の「憎い」とのちがいも答えなさい。
「しゃくにさわる・気にくわない・いやだ」。今の「憎い」のような強いうらみではなく、軽い不快感を表す。
問2 「追ひやりつべけれど」の「つ」の意味は?
強意(確述)。「きっと〜」。「つべし」で「きっと〜できるだろう」。
問3 「老いばみたる者こそ…押しすりなどはすらめ」で、「らめ」が已然形になっている理由は?
上に係助詞「こそ」があるから(係り結び)。
問4 「鳴りやはする」を現代語訳しなさい。
「音がするだろうか、いや、しない。」(「やは」は反語)
問5 「蚊の細声にわびしげに名のりて」とは、蚊のどんな様子をたとえたものか。
耳元でプーンと鳴る蚊の羽音を、蚊が自分で名のっているようだとたとえたもの。
問6 「さしあたりたらむこそ思ひやらるれ」の「るれ」の意味は?
自発(自然と〜される)。係助詞「こそ」の結びで已然形。
問7 「人に見えじと」の「じ」の意味は?
打消意志(〜まい)。
問8 「耳も聞かぬにやあらむ」の「に」は何か。
断定の助動詞「なり」の連用形。「にやあらむ」で「〜であろうか」。

枕草子「にくきもの」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
にくきもの。急ぐことあるをりに来て長言する客人。あなづりやすき人ならば、「後に」とても追ひやりつべけれど、さすがに心恥づかしき人、いとにくくむつかし。
硯に髪の入りてすられたる。また、墨の中に石のきしきしときしみ鳴りたる。
にはかにわづらふ人のあるに、験者求むるに、例ある所になくて、ほかに尋ねありくほど、いと待ち遠に久しきに、からうじて待ちつけて、喜びながら加持せさするに、このごろもののけにあづかりて、困じにけるにや、ゐるままにすなはち眠り声なる、いとにくし。
なでふことなき人の、笑がちにて、ものいたう言ひたる。
火桶の火、炭櫃などに、手のうらうち返しうち返し、おしのべなどしてあぶりをる者。いつか若やかなる人など、さはしたりし。老いばみたる者こそ、火桶のはたに足をさへもたげて、もの言ふままに押しすりなどはすらめ。
さやうの者は、人のもとに来て、ゐむとする所を、まづ扇してこなたかなたあふぎ散らして、塵掃き捨て、ゐも定まらずひろめきて、狩衣の前、まき入れてもゐるべし。かかることは、言ふかひなき者の際にやと思へど、少しよろしき者の、式部の大夫などいひしが、せしなり。
また、酒飲みてあめき、口をさぐり、ひげある者はそれをなで、盃、異人に取らするほどのけしき、いみじうにくしと見ゆ。「また飲め」と言ふなるべし、身震ひをし、頭振り、口わきをさへ引き垂れて、童べの「こう殿に参りて」など歌ふやうにする。それはしも、まことによき人のし給ひしを見しかば、心づきなしと思ふなり。
もの羨みし、身の上嘆き、人の上言ひ、露塵のこともゆかしがり、聞かまほしうして、言ひ知らせぬをば怨じ、そしり、また、わづかに聞き得たることをば、我もとより知りたることのやうに、こと人にも語り調ぶるも、いとにくし。
もの聞かむと思ふほどに泣くちご。からすの集まりて飛びちがひ、さめき鳴きたる。
忍びて来る人見知りてほゆる犬。あながちなる所に隠し伏せたる人の、いびきしたる。
また、忍び来る所に、長烏帽子して、さすがに人に見えじと惑ひ入るほどに、ものにつきさはりて、そよろといはせたる。
伊予簾などかけたるに、うちかづきて、さらさらと鳴らしたるも、いとにくし。帽額の簾は、まして、こはじのうち置かるる音、いとしるし。
それも、やをら引き上げて入るは、さらに鳴らず。遣戸を荒くたてあくるも、いとあやし。少しもたぐるやうにして開くるは、鳴りやはする。あしう開くれば、障子なども、ごほめかしうほとめくこそしるけれ。
ねぶたしと思ひて臥したるに、蚊の細声にわびしげに名のりて、顔のほどに飛びありく。羽風さへその身のほどにあるこそ、いとにくけれ。
きしめく車に乗りてありく者。耳も聞かぬにやあらむと、いとにくし。わが乗りたるは、その車の主さへにくし。
また、物語するに、さし出でして我ひとりさいまくる者。すべてさし出では、童も大人も、いとにくし。昔物語などするに、我知りたりけるは、ふと出でて言ひくたしなどする、いとにくし。
ねずみの走りありく、いとにくし。あからさまに来たる子ども・童を、見入れらうたがりて、をかしき物取らせなどするに、ならひて常に来つつ、ゐ入りて調度うち散らしぬる、いとにくし。
家にても宮仕へ所にても、会はでありなむと思ふ人の来たるに、そら寝をしたるを、わがもとにある者、起こしに寄り来て、いぎたなしと思ひ顔に、引きゆるがしたる、いとにくし。今参りの、さし越えて、もの知り顔に教へやうなること言ひ、後見たる、いとにくし。
わが知る人にてある人の、はやう見し女のこと、褒め言ひ出でなどするも、ほど経たることなれど、なほにくし。まして、さしあたりたらむこそ思ひやらるれ。されど、なかなかさしもあらぬなどもありかし。
はなひて誦文する。おほかた、人の家の男主ならでは、高くはなひたる、いとにくし。蚤もいとにくし。衣の下にをどりありきて、もたぐるやうにする。
犬のもろ声に長々と鳴き上げたる、まがまがしくさへにくし。開けて出で入る所、たてぬ人、いとにくし。
枕草子「にくきもの」現代語訳(全文・通し)
しゃくにさわるもの。急ぐ用事があるときにやって来て長話をする客。軽く扱ってよい人ならば、「後で」と言ってでも追い返してしまえるだろうが、そうはいってもこちらが気おくれするほど立派な人だと、とてもしゃくにさわり、うっとうしい。
硯に髪の毛が入って(墨といっしょに)すられてしまったの。また、墨の中に石がまじっていて、きしきしときしんで音を立てたの。
急に病気になった人がいるので、祈とうをする験者を探すと、いつもいる所にいなくて、ほかの所を探しまわるあいだ、とても待ち遠しく長く感じるのに、やっと待ちうけて、喜んで加持祈とうをさせると、このごろ物の怪の祈とうにかかりきりで疲れてしまっていたのだろうか、座るとすぐに眠そうな声になるのは、とてもしゃくにさわる。
たいしたこともない人が、にやにや笑ってばかりいて、ぺらぺらとよくしゃべっているの。
火桶の火や炭櫃などに、手のひらを何度もひっくり返し、しわをおしのばしなどしてあぶっている者。いつ若々しい人などが、そんなことをしたか(いや、しない)。年寄りじみた者こそ、火桶のふちに足まで持ち上げて、しゃべりながら(足を)こすったりなどするのだろう。
そんな者は、人の家に来て、座ろうとする所を、まず扇であちこちあおいで、ちりを払い捨て、座り方も落ち着かずにばたばたして、狩衣の前のすそを(ひざの下に)巻きこんで座ったりもするだろう。こういうことは、取るに足りない身分の者のすることかと思うが、少しはましな身分の者で、式部の大夫などといった人が、そうしたのである。
また、酒を飲んでわめき、口をまさぐり、ひげのある者はそれをなで、盃をほかの人に渡すときの様子は、とてもしゃくにさわると思われる。「もっと飲め」と言うのであろう、体をゆすり、頭をふり、口の両はしまでたらして、子どもが「こう殿に参りて」などと歌うようなことをする。それは、本当に身分の高い立派な方がなさったのを見たので、気にくわないと思うのである。
人をうらやみ、自分の身の上をなげき、人のうわさをし、ほんのささいなことも知りたがり、聞きたがって、教えてくれない人をうらみ、悪口を言い、また、ちょっと聞きかじったことを、自分が前から知っていたことのように、ほかの人にもしゃべりたてるのも、とてもしゃくにさわる。
何かを聞こうと思っているときに泣く赤ん坊。からすが集まって飛びかい、がやがやと鳴きたてているの。
こっそり通って来る人を見つけてほえる犬。無理な所にかくして寝かせておいた人が、いびきをかいているの。
また、こっそり通って来る所に、長い烏帽子をかぶって来て、それでもやはり人に見られまいとあわてて入るときに、何かにぶつかって、がさっと音を立てたの。
伊予簾などがかけてある所に、頭からかぶるようにくぐって、さらさらと音を立てたのも、とてもしゃくにさわる。帽額のついた簾は、なおさら、下の端の木が床にあたる音が、とてもはっきり聞こえる。
それも、そっと持ち上げて入れば、まったく鳴らない。引き戸を乱暴に開け閉めするのも、ひどく見苦しい。少し持ち上げるようにして開ければ、音がするだろうか(いや、しない)。下手に開けるから、障子なども、ごとごとがたがたと音がはっきりするのだ。
眠たいと思って横になったときに、蚊がか細い声で心細そうに名のって、顔のあたりを飛びまわる。羽の風までが、体の大きさ相応にあるのが、とてもしゃくにさわる。
きしきしと音を立てる牛車に乗って出歩く者。耳が聞こえないのであろうかと、とてもしゃくにさわる。自分が乗っているときは、その車の持ち主までしゃくにさわる。
また、話をしているときに、出しゃばって自分ひとりで先回りしてしゃべる者。だいたい出しゃばりは、子どもでも大人でも、とてもしゃくにさわる。昔の話などをしていると、自分が知っていた話のときは、急に口をはさんで(話す人を)けなしたりするのは、とてもしゃくにさわる。
ねずみが走りまわるのは、とてもしゃくにさわる。ちょっと来た子どもや子どもの召し使いを、目をかけてかわいがって、おもしろい物を与えたりなどすると、それに慣れていつも来ては、上がりこんで道具を散らかしてしまうのは、とてもしゃくにさわる。
自宅でも宮仕え先でも、会わないですませたいと思う人が来たので、寝たふりをしていたのを、自分の所にいる者が、起こしに寄って来て、寝坊だと言いたげな顔で、ゆり動かしたのは、とてもしゃくにさわる。新入りの女房が、先輩をさしおいて、物知り顔で教えるようなことを言い、世話をやいたのは、とてもしゃくにさわる。
自分の恋人である人が、以前つきあっていた女のことを、ほめて話し出したりするのも、時間がたったことであるが、やはりしゃくにさわる。まして、今つきあっている女のことだったら(どんなにしゃくにさわるか)と、自然と想像される。けれども、かえってそれほどでもない場合もあるものだ。
くしゃみをしてまじないの文句をとなえる(人)。だいたい、その家の主人の男でなくて、大きな音でくしゃみをしたのは、とてもしゃくにさわる。のみもとてもしゃくにさわる。着物の下を跳ねまわって、(着物を)持ち上げるようにする。
犬がいっしょに声をそろえて長々と遠ぼえしているのは、不吉な感じまでして、しゃくにさわる。開けて出入りする所を、閉めない人は、とてもしゃくにさわる。
枕草子「にくきもの」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- にくきもの(このページ) 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
- 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
- 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
- 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳

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- 古文の敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句
- 竹取物語の全文と現代語訳(全10章・文法解説つき)
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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


