枕草子「心ときめきするもの」原文と現代語訳・文法|心ときめきするもの。雀の子飼ひ(古今異義語ときめき・おどろく・自発のる)

ミスターT先生

類聚章段

枕草子の「心ときめきするもの。雀の子飼ひ」から始まる段(「心ときめきするもの」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:清少納言が「胸がどきどきするもの」を挙げる短い類聚章段。雀の子を飼うこと、香をたいてひとり寝ること、身分の高い男の車が止まること、おしゃれをすること、待つ人のいる夜の雨風の音などを挙げる。
  • 文法の要点:使役の「す」(遊ばする・問はせ)、自発の「る」(おどろかる)、存続の「たり」、ウ音便(香ばしう)。
  • テストの定番:「心ときめき」=胸がどきどきする、「おどろく」=はっと気づく、「案内す」=取り次ぎをたのむ、「見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし」。
サクラちゃん
サクラちゃん
T先生、「心ときめきするもの」って、恋の話ですよね! ちょっと楽しみです。
ミスターT先生
ミスターT先生
恋の話も出てくるで。けど古文の「心ときめき」は、わくわくだけやなく、はらはら・そわそわもふくむ「胸のどきどき」なんや。雀のひなを飼うことから始まるから、まあ読んでみ。
合格先生
合格先生
わたしはT先生に「ときめき=心臓がとくとく鳴ること。うれしいか不安かは、場面で決まる」と教わりました。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 古今異義語心ときめき=(期待や不安で)胸がどきどきする
  2. おどろく=はっと気づく・目を覚ます
  3. 案内す=取り次ぎをたのむ
  4. 使役のす(遊ばする・問はせたる)
  5. 自発のる(ふとおどろかる)

「心ときめきするもの」はどんな段?(類聚章段・平安の女性の日常)

「心ときめきするもの」は、枕草子の類聚章段の一つで、胸がどきどきするものを集めた短い段です。三巻本では第二十六段(本によっては第二十七段)とされ、「にくきもの」のすぐ後に置かれています。

挙げられているのは、雀の子、お香、鏡、男性の車、おしゃれ、そして待つ夜の雨風。作者の清少納言は中宮定子に仕えた女房で、当時の女性は家の中で人の訪れを待つことが多くありました。最後の「待つ人などのある夜」の項目には、その「待つ」暮らしのどきどきがよく表れています。また「ことに見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし」は、自分のためのおしゃれの楽しさとして、今の読者にも共感されやすい一節です。

1. 雀の子飼ひ ひなは育つかな 2. ちごの前 幼い子の前を通る 3. 香とひとり寝 よい薫物をたいて臥す 4. 唐鏡 少しくもった鏡をのぞく 5. よき男の車 門に止まり取り次ぎを 6. 待つ夜の風 雨や風の音にはっとする
図1 枕草子「心ときめきするもの」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

心ときめきするもの。雀の子飼ひ。ちご遊ばする所の前渡る。

現代語訳胸がどきどきするもの。雀のひなを飼うこと。幼い子を遊ばせている所の前を通ること。

  • 「心ときめき」は「(期待や不安で)胸がどきどきすること」。今の「ときめく」は恋や喜びのわくわくが中心だが、古文では落ち着かない・はらはらする気持ちも含む。→古今異義語の一覧(心ときめき・うつくし・すさまじ)
  • 「遊ばする」の「す」は使役(〜させる)。乳母などが幼い子を遊ばせている。→使役・尊敬の助動詞「す・さす・しむ」
  • 雀のひなは、ちゃんと育つか、逃げないかと気になる。幼い子の前を通るときも、何が起こるかと胸が落ち着かない。どうしてどきどきするのか、作者は理由を書かず、読む人の想像にまかせている。
うかるくん
うかるくん
雀のひなを飼うと、どうしてどきどきするんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
本文には理由が書いてへん。ちゃんと育つかな、えさを食べるかな、逃げへんかな…。どきどきの中身を読む人に想像させるのが、類聚章段のおもしろさや。

2

よき薫物たきて、ひとり臥したる。唐鏡の少し暗き見たる。

現代語訳上等なお香をたいて、ひとりで横になっているとき。舶来の鏡で少しくもっているのをのぞきこんだとき。

  • 「薫物」は香木などを練り合わせたお香。いい香りの中でひとり寝ていると、誰か来るのではと胸がさわぐ。
  • 「唐鏡」は中国から来た鏡(金属の鏡)。少しくもった鏡に自分の顔がどう映るか、のぞくときどきっとする。
  • 「臥したる。」「見たる。」と連体形で止める形。下に「とき・こと」をおぎなって読む。

3

よき男の、車とどめて案内し問はせたる。

現代語訳身分の高そうな男性が、(家の前に)牛車を止めて、(お供に)取り次ぎをたのませているとき。

  • 「よき男」は「身分の高い男性・りっぱな男性」。「よし」は身分や家柄がよいことにも使う。
  • 「案内す」は古文では「取り次ぎをたのむ・来たことを知らせる」。今の「道を案内する」とはちがう。「問はせ」は使役で、男がお供にたずねさせている。
  • 自分をたずねて来たのか、誰に用があるのか――待つあいだの、期待のまじった胸の高なり。
サクラちゃん
サクラちゃん
「案内し問はせたる」の「案内」って、道案内ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
ちゃうちゃう。古文の「案内す」は取り次ぎをたのむこと。りっぱな男の車が門の前に止まって、お供が「どなたかいらっしゃいますか」とたずねてる。自分に用かも…とどきどきするわけや。

4

頭洗ひ、化粧じて、香ばしうしみたる衣など着たる。ことに見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし。

現代語訳髪を洗い、お化粧をして、香りがよくしみこんだ着物などを着ているとき。とくに見てくれる人がいない所でも、心の中はやはりとても晴れやかで楽しい。

  • 「香ばしう」は「香ばしく」のウ音便。→古文の音便(イ音便・ウ音便)
  • 誰にも見られなくても、自分のためにおしゃれをすると気分が上がる。今にも通じる気持ちとして、よく取り上げられる一節。
  • 「をかし」は「趣がある・心ひかれる」。ここでは「気分がはずむ・楽しい」くらいの意味。→古今異義語(をかし・あはれ)
合格先生
合格先生
「見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし」。T先生はここを読むたびに「千年前から、おしゃれは自分のためや」と言っていました。

5

待つ人などのある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふとおどろかる。

現代語訳待っている人などがいる夜は、雨の音や、風が(戸などを)吹きゆらすのにも、はっと胸がどきっとしてしまう。

  • 「おどろかる」の「る」は自発(自然と〜してしまう)。「おどろく」は古文では「はっと気づく・目を覚ます」で、今の「びっくりする」より広い。→助動詞「る・らる」の自発・受身・尊敬・可能
  • 恋人などが来るのを待っている夜は、雨や風の音まで「来たのかな」と聞こえてしまう。待つ心のどきどきで、段をしめくくっている。
  • 平安時代は男性が女性のもとへ通う通い婚で、女性は「待つ」立場だった。→古文常識の一覧(通い婚・物忌みなど)
ミスターT先生
ミスターT先生
「おどろく」は今の「びっくりする」だけやない。はっと気づく・目を覚ます。それに自発の「る」がついて「思わずはっとしてしまう」。「心ときめき」の意味と合わせて、ここ、テストに出るで!
サクラちゃん
サクラちゃん
風で戸がガタッと鳴ると、「来た!」って思っちゃうんですね。

「心ときめき」の意味を図で確かめる

古文の「心ときめき」 胸がどきどきして落ち着かない 期待のどきどき よき男の車が門に止まる 香をしみこませた衣を着る 不安まじりのどきどき 待つ夜の雨や風の音 くもった唐鏡をのぞく 今の「ときめく」=恋や喜びでわくわく(よい意味が中心) ※「時めく」(時流に乗って栄える)は別の語
図2 古文の「心ときめき」は期待も不安もふくむ胸のどきどき
ミスターT先生
ミスターT先生
古文の「心ときめき」は期待も不安もふくむどきどき。「わくわく」だけで訳すと、最後の待つ夜の気持ちが伝わらへんで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
心ときめきこころときめき(期待や不安で)胸がどきどきすること
ちごちご幼い子ども
薫物たきもの練り合わせたお香
臥すふす横になる・寝る
唐鏡からかがみ中国から来た鏡
よき男よきおとこ身分の高い男性
案内すあないす取り次ぎをたのむ
化粧ずけそうずお化粧をする
ことにことにとくに・とりわけ
なほなおやはり
をかしおかし趣がある・心ひかれる
おどろくおどろくはっと気づく・目を覚ます

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「心ときめきするもの」の「心ときめき」の意味は?

(期待や不安で)胸がどきどきすること。

問2 「ちご遊ばする所」の「する」の文法的な説明は?

使役の助動詞「す」の連体形。

問3 「よき男の、車とどめて案内し問はせたる」の「案内し」の意味は?

取り次ぎをたのむこと(来たことを知らせて、取り次ぎを求めること)。

問4 「ことに見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし」を現代語訳しなさい。

「とくに見てくれる人がいない所でも、心の中はやはりとても楽しい(晴れやかだ)。」

問5 「ふとおどろかる」の「る」の意味は?

自発(自然と〜してしまう)。

問6 「おどろく」の古文での意味を2つ答えなさい。

「はっと気づく」「目を覚ます」。

問7 最後の「待つ人などのある夜」の項目で、雨や風の音にどきっとするのはなぜか。

待っている人が来た音ではないかと思ってしまうから。

うかるくん
うかるくん
「心ときめき」=期待も不安もあるどきどき。今の「ときめく」より広いんですね!

枕草子「心ときめきするもの」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

心ときめきするもの。雀の子飼ひ。ちご遊ばする所の前渡る。

よき薫物たきて、ひとり臥したる。唐鏡の少し暗き見たる。

よき男の、車とどめて案内し問はせたる。

頭洗ひ、化粧じて、香ばしうしみたる衣など着たる。ことに見る人なき所にても、心のうちはなほいとをかし。

待つ人などのある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふとおどろかる。

枕草子「心ときめきするもの」現代語訳(全文・通し)

胸がどきどきするもの。雀のひなを飼うこと。幼い子を遊ばせている所の前を通ること。

上等なお香をたいて、ひとりで横になっているとき。舶来の鏡で少しくもっているのをのぞきこんだとき。

身分の高そうな男性が、(家の前に)牛車を止めて、(お供に)取り次ぎをたのませているとき。

髪を洗い、お化粧をして、香りがよくしみこんだ着物などを着ているとき。とくに見てくれる人がいない所でも、心の中はやはりとても晴れやかで楽しい。

待っている人などがいる夜は、雨の音や、風が(戸などを)吹きゆらすのにも、はっと胸がどきっとしてしまう。

枕草子「心ときめきするもの」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(枕草子の基本)

枕草子の作者は誰?

清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。

枕草子はいつの作品?

平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。

枕草子の冒頭(書き出し)は?

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。

枕草子はどんな作品?

日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。

枕草子の目次(教科書に出る段)

枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。

  1. 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
  2. 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
  3. 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
  4. 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
  5. 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
  6. 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
  7. 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
  8. 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
  9. 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  10. 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
  11. 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
  12. 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
  13. 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
  14. 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
  15. 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  16. 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
  17. 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
  18. 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
  19. 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
  20. 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
  21. 心ときめきするもの(このページ)
  22. 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
  23. 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
  24. 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
  25. 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
  26. 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
  27. 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
  28. 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
  29. 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
  30. 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
  31. 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳
ミスターT先生
ミスターT先生
次は「過ぎにしかた恋しきもの」。枯れた葵や昔の手紙を見つけて、昔がなつかしくなる気持ちを集めた段や。お楽しみに!

あわせて読みたい古文のページ

本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。