枕草子「ありがたきもの」原文と現代語訳・文法|ありがたきもの。舅にほめらるる婿(古今異義語ありがたし・係り結び)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 類聚章段

枕草子の「ありがたきもの。舅にほめらるる婿」から始まる段(「ありがたきもの」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:清少納言が「めったにないもの」を挙げる類聚章段。舅にほめられる婿、姑にかわいがられる嫁、よく抜ける銀の毛抜き、主人の悪口を言わない従者、欠点のない人、本を汚さずに写すこと、最後まで仲のよい女どうしを挙げる。
  • 文法の要点:受身の「る・らる」(ほめらるる・思はるる)、係り結び(こそ…難けれ・こそ…めれ)、推定の「めり」、打消意志の「じ」、打消「ず」の連体形「ぬ」。
  • テストの定番:教科書によく出る段。「ありがたし」=めったにない(有り+難し)、「舅にほめらるる婿」の受身、「用意」=心づかい。
うかるくん
うかるくん
T先生、「ありがたきもの」って「感謝したいもの」ですか? 親とか先生とか…。
ミスターT先生
ミスターT先生
そう言うてくれるのはうれしいけどな(笑)。古文の「ありがたし」は「有り+難し」=めったにないや。この段は短いけど、教科書・テストによく出る定番やで。
合格先生
合格先生
T先生には「ありがたし、と見たら漢字で『有り難し』と書いてみろ」と言われました。書いてみると「あるのがむずかしい」と自然に読めます。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 古今異義語ありがたし=めったにない(有り+難し)
  2. 受身のる・らる(思はるる・ほめらるる)
  3. 係り結びこそ…難けれ/こそ…めれ
  4. 推定のめり、打消意志のじ
  5. 用意=心づかい、かたみに=おたがいに

「ありがたきもの」はどんな段?(類聚章段・人間関係の観察)

「ありがたきもの」は、枕草子の類聚章段の一つで、「めったにないもの」を集めた短い段です。三巻本では第七十二段(本によっては第七十五段)とされます。

挙げられているのは、婿と舅、嫁と姑、主人と召し使い、宮中の同僚、女どうしの友だちなど、ほとんどが人と人との関係です。どれも「うまくいくのがむずかしい」関係で、今の家庭や学校・職場にもそのまま当てはまります。そのあいだに「よく抜ける銀の毛抜き」「本を汚さずに写すこと」といった身近な物の話がはさまれ、作者の観察の細かさとユーモアが伝わります。

※別の系統の本(能因本系)では、この後に宮中の局(部屋)の話が続きますが、三巻本系ではそれは次の段とされます。

1. 婿と嫁 舅にほめられ姑に愛される 2. 銀の毛抜き 毛がよく抜ける 3. 悪口なし 主人をそしらない従者 4. 欠点なし かたち・心がすぐれた人 5. 本を汚さず 書き写しても墨をつけない 6. 仲よき友 女どうしで最後まで
図1 枕草子「ありがたきもの」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

ありがたきもの。舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。

現代語訳めったにないもの。妻の父にほめられる婿。また、夫の母にかわいがられるお嫁さん。

  • 「ありがたし」は「有り+難し」で、「存在するのがむずかしい=めったにない」。今の「ありがたい(感謝する)」ではない。→古今異義語の一覧(ありがたし・うつくし・すさまじ)
  • 「ほめらるる」「思はるる」は受身(〜される)。「る」は四段などの未然形(a の音)、「らる」はそれ以外の未然形につく。→助動詞「る・らる」の4つの意味と接続
  • 「舅」は夫または妻の父、「姑」は夫または妻の母。ここでは婿から見た妻の父、嫁から見た夫の母。「思ふ」は「かわいがる・大切に思う」。
サクラちゃん
サクラちゃん
「舅にほめらるる婿」が、どうしてめったにないんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
当時は男が妻の家に通うたり住んだりする形が多くて、婿は妻の父の目につねにさらされてた。その舅に「ええ婿や」とほめられるのは、めったにないことやったんやな。「ありがたし」=めったにない。ここ、テストに出るで!

2

毛のよく抜くる銀の毛抜き。主そしらぬ従者。

現代語訳毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人の悪口を言わない召し使い。

  • 銀の毛抜きは高級品だが、やわらかくて毛がはさみにくい。だから「よく抜ける銀の毛抜き」はめったにない。
  • 「そしらぬ」の「ぬ」は下に名詞「従者」が続くので打消「ず」の連体形。→「ぬ」の識別(完了と打消)
  • 「そしる」は「悪口を言う」。「従者」は「召し使い・家来」。
うかるくん
うかるくん
毛抜きの話が急に出てきて、ちょっと笑っちゃいました。
ミスターT先生
ミスターT先生
そこが清少納言のうまいとこや。人間関係の重い話の間に、身近な小物をぽんとはさむ。読む人が「あるある」とうなずくのを、ちゃんと計算してるんやで。

3

つゆの癖なき。かたち・心・ありさますぐれ、世に経るほど、いささかの疵なき。

現代語訳少しの欠点もない人。顔かたちも心も態度もすぐれていて、世の中で暮らしているあいだ、少しの欠点もない人。

  • 「つゆ(〜打消)」は「少しも〜ない」。ここは「なし」と組んで「少しの癖もない」。
  • 「かたち」は「顔かたち・容貌」。「ありさま」は「態度・ふるまい」。「世に経」は「この世で暮らす」。
  • 「癖なき」「疵なき」は、形容詞の連体形の下に「人」をおぎなって読む。

4

同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはし、いささかのひまなく用意したりと思ふが、つひに見えぬこそ難けれ。

現代語訳同じ所(職場)に住んでいる人で、おたがいに気をつかい合い、少しのすきもなく気を配っていると思う人が、最後まで(欠点を)見せないのは、めったにない。

  • 「こそ…難けれ」は係り結び。「こそ」の結びは已然形なので、形容詞「難し」が「難けれ」になる。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
  • 「用意」は古文では「心づかい・気配り」。今の「準備」とは少しちがう。「かたみに」は「おたがいに」。
  • 「同じ所に住む人」は、宮中でいっしょに暮らす女房仲間のこと。毎日いっしょにいると、どこかで本性が見えてしまう。
合格先生
合格先生
「用意」は今の「準備」ではなく「心づかい」。T先生は「用意=心を用いること」と漢字の意味から説明していました。

5

物語・集など書き写すに、本に墨つけぬ。よき草子などは、いみじう心して書けど、必ずこそきたなげになるめれ。

現代語訳物語や歌集などを書き写すときに、もとの本に墨をつけないこと。りっぱな本などは、とても気をつけて書くけれど、必ずといっていいほど汚くなってしまうようだ。

  • 「なるめれ」の「めり」は目で見て推しはかる推定(〜ようだ)。「こそ」の結びで已然形「めれ」。→推定の助動詞「めり」
  • 当時は印刷がなく、本は人から借りて手で書き写すものだった。借りた本を汚さないのはむずかしい。
  • 「集」は歌集。「草子」は紙をとじた本。「書けど」は已然形+ど=逆接(書くけれども)。

6

男、女をば言はじ、女どちも、契り深くて語らふ人の、末まで仲よき人かたし。

現代語訳男と女(の仲)のことは言うまい、女どうしでも、かたい約束をして親しくつきあっている人で、最後まで仲のよい人はめったにない。

  • 「言はじ」の「じ」は打消意志(〜まい)。主語が作者自身(一人称)なので意志。→助動詞「じ」(打消推量・打消意志)
  • 「かたし(難し)」は「むずかしい・めったにない」。段の最後をふたたび「ありがたし」と同じ意味の語で結んでいる。
  • 「語らふ」は「親しくつきあう・語り合う」。「契り」は「約束・縁」。
サクラちゃん
サクラちゃん
「男、女をば言はじ」の「じ」は、打消推量ですか、打消意志ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
主語を考えるんや。「言うまい」と決めてるのは作者自身やろ? 一人称の「じ」は打消意志。男女の仲がつづかんのは言うまでもない、女どうしでさえむずかしい――という流れやな。

「ありがたし」の成り立ちを図で確かめる

有り 存在する + 難し むずかしい ありがたし =めったにない めったにない幸運だ、もったいない (のちに感謝の気持ちへ) 今の「ありがたい」=感謝 枕草子の「ありがたきもの」はめったにないもの(感謝ではない)
図2 「ありがたし」は「有り+難し」=めったにない。今の「ありがたい」は後の時代の意味
ミスターT先生
ミスターT先生
「有り+難し」と分けて考えたら、めったにないの意味は二度と忘れへん。今の「感謝」は、そこから後で生まれた意味や。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
ありがたしありがたしめったにない・むずかしい
舅しゅうと夫または妻の父
姑しゅうとめ夫または妻の母
思ふおもうかわいがる・大切に思う
そしるそしる悪口を言う
従者ずさ召し使い・家来
つゆつゆ(下に打消)少しも
かたちかたち顔かたち・容貌
かたみにかたみにおたがいに
用意ようい心づかい・気配り
草子そうし紙をとじた本
語らふかたらう親しくつきあう
かたしかたしむずかしい・めったにない

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「ありがたきもの」の「ありがたし」の意味は? 語の成り立ちも答えなさい。

「めったにない」。「有り」+「難し」で「存在するのがむずかしい」から。今の「感謝する」の意味ではない。

問2 「舅にほめらるる婿」の「らるる」の意味と活用形は?

受身の助動詞「らる」の連体形。

問3 「よく抜くる銀の毛抜き」がめったにないのはなぜか。

銀はやわらかく、銀の毛抜きは毛をはさみにくいから。

問4 「つひに見えぬこそ難けれ」の係り結びを説明しなさい。

係助詞「こそ」を受けて、形容詞「難し」が已然形「難けれ」になっている。

問5 「必ずこそきたなげになるめれ」の「めれ」の文法的な説明は?

推定の助動詞「めり」の已然形。「こそ」の結び。

問6 「男、女をば言はじ」の「じ」の意味は?

打消意志(〜まい)。

問7 この段で、作者が最後に挙げた「めったにないもの」は何か。

女どうしでも、親しくつきあう人が最後まで仲よくしていること。

サクラちゃん
サクラちゃん
「ありがたし」=有り+難し。漢字で書いたら一発でわかりました!

枕草子「ありがたきもの」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

ありがたきもの。舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。

毛のよく抜くる銀の毛抜き。主そしらぬ従者。

つゆの癖なき。かたち・心・ありさますぐれ、世に経るほど、いささかの疵なき。

同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはし、いささかのひまなく用意したりと思ふが、つひに見えぬこそ難けれ。

物語・集など書き写すに、本に墨つけぬ。よき草子などは、いみじう心して書けど、必ずこそきたなげになるめれ。

男、女をば言はじ、女どちも、契り深くて語らふ人の、末まで仲よき人かたし。

枕草子「ありがたきもの」現代語訳(全文・通し)

めったにないもの。妻の父にほめられる婿。また、夫の母にかわいがられるお嫁さん。

毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人の悪口を言わない召し使い。

少しの欠点もない人。顔かたちも心も態度もすぐれていて、世の中で暮らしているあいだ、少しの欠点もない人。

同じ所(職場)に住んでいる人で、おたがいに気をつかい合い、少しのすきもなく気を配っていると思う人が、最後まで(欠点を)見せないのは、めったにない。

物語や歌集などを書き写すときに、もとの本に墨をつけないこと。りっぱな本などは、とても気をつけて書くけれど、必ずといっていいほど汚くなってしまうようだ。

男と女(の仲)のことは言うまい、女どうしでも、かたい約束をして親しくつきあっている人で、最後まで仲のよい人はめったにない。

枕草子「ありがたきもの」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(枕草子の基本)

枕草子の作者は誰?

清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。

枕草子はいつの作品?

平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。

枕草子の冒頭(書き出し)は?

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。

枕草子はどんな作品?

日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。

枕草子の目次(教科書に出る段)

枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。

  1. 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
  2. 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
  3. 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
  4. 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
  5. ありがたきもの(このページ) 定番
  6. 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
  7. 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
  8. 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
  9. 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  10. 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
  11. 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
  12. 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
  13. 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
  14. 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
  15. 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  16. 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
  17. 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
  18. 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
  19. 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
  20. 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
  21. 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
  22. 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
  23. 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
  24. 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
  25. 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
  26. 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
  27. 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
  28. 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
  29. 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
  30. 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
  31. 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳
ミスターT先生
ミスターT先生
次は「木の花は」。梅・桜・藤・橘・梨の花を、清少納言が好みで語っていくで。中国の詩に出てくる梨の花の話もあるから、お楽しみに!

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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。