
定番 教科書によく出る定番の段 回想章段
枕草子の「大進生昌が家に、宮の出でさせたまふに」で始まる段を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。中宮定子が移った平生昌の家で、門が小さいことから始まる作者と生昌のやりとりを描いた、笑いの多い回想の段です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:中宮定子が大進・平生昌の家に移るとき、門が小さくて女房の車が入れず、作者たちは人前を歩かされる。作者は于定国の故事で生昌をからかい、その夜、生昌は作者たちの部屋のふすまを開けて「さぶらはむはいかに」と言い、笑われて退散する。姫宮の衣装のことばづかいでも笑われるが、中宮はいつも生昌をかばう。
- 文法の要点:二重尊敬(出でさせたまふ・のたまはす)と敬意の方向、謙譲語+尊敬語(申されつる)、ざめり・なめり・あめる(撥音便の無表記)、もぞ(〜したら困る)、「ね」の識別、こそ…已然形の逆接、係り結び多数。
- テストの定番:于定国の故事(門を高く造る)、「御道」のしゃれ、「はしたなし」「いとほし」の意味、生昌をかばう中宮定子の人がら。教科書によく出る段です。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 二重尊敬(出でさせたまふ・のたまはす・仰せらるる)は中宮定子に
- 敬意の方向:啓す(作者→中宮)/申されつる(生昌→作者・中納言)
- ざめり・なめり・あめる(撥音便の「ん」が書かれない形)
- もぞ=〜したら困る、ねの識別(居ねば/入りね)
- 古今異義語にくし・はしたなし・いとほしと于定国の故事
「大進生昌が家に」はどんな段?(回想章段・平生昌と中宮定子)
この段は、宮仕えの思い出を書いた回想章段です。長保元年(999年)、中宮定子は出産のため、中宮職の役人である大進・平生昌の家に移りました。このころ定子の実家(中関白家)は父・藤原道隆の死後に力を失っており、定子は身分の高くない役人の家を仮の御所にするしかありませんでした。
段は大きく4つの場面に分かれます。①門が小さくて車が入れず、作者が于定国の故事で生昌をからかう場面、②その夜、生昌が女房の部屋のふすまを開けて笑われる場面、③姫宮の衣装について生昌が独特なことばを使って笑われる場面、④生昌の兄の中納言(平惟仲)が作者の話に感心したと伝えてくる場面です。どの場面でも中宮定子は「まじめな人なのだから」と生昌をかばい、作者はそのやさしさを「めでたし」とたたえています。苦しい立場にあっても明るさを失わない定子の姿が、この段のいちばんの読みどころです。
※明治の『國文大觀』(能因本系)は「陣屋の居ねば」「家あるじ局あるじと定め申すべき事」「せいし給ふ」など、教科書(三巻本系)と言葉が少しちがう所が多くあります。このページは教科書の形にそろえています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
大進生昌が家に、宮の出でさせたまふに、東の門は四足になして、それより御輿は入らせたまふ。
現代語訳大進の平生昌の家に、中宮さまがお出ましになるので、東の門は四本柱の門に造りかえて、そこから中宮さまの御輿はお入りになる。
- 「出でさせたまふ」「入らせたまふ」は、尊敬の助動詞「す・さす」+尊敬の「たまふ」の二重尊敬(最高敬語)。地の文では中宮・帝など特に身分の高い人にだけ使う。→最高敬語(二重尊敬)と絶対敬語
- 「大進」は中宮職の役人(三等官)。平生昌が自分の家を、中宮定子の出産のための仮の御所として差し出した。
- 「四足」は四本の柱で支える、格式の高い門。


2
北の門より、女房の車どもも、まだ陣の居ねば入りなむと思ひて、頭つきわろき人も、いたうもつくろはず、寄せて下るべきものと思ひあなづりたるに、
現代語訳(わたしたち)女房の牛車も北の門から(入るのだが)、まだ警護の武士たちも詰めていないので、(車のまま)入ってしまえるだろうと思って、髪の様子がみっともない人も、たいして身なりを整えず、(建物に)車を寄せて降りればよいものと高をくくっていたところ、
- 「居ねば」の「ね」は打消「ず」の已然形+ば=「(陣が)置かれていないので」。→「ね」の識別(打消の已然形と完了の命令形)
- 「入りなむ」は強意「ぬ」+推量「む」で「きっと入れるだろう」。→「なむ」の識別
- 「あなづる」は「軽く見る・油断する」。
3
檳榔毛の車などは、門小さければ、さはりてえ入らねば、例の筵道敷きて下るるに、いと憎く腹立たしけれども、いかがはせむ。
現代語訳檳榔毛の車(大きな牛車)などは、門が小さいので、つかえて入ることができないので、いつものように筵の通り道を敷いて降りたが、とても気に食わなくて腹立たしいけれど、どうしようもない。
- 「え入らねば」は「え〜ず」(不可能)+ば=「入ることができないので」。→打消の助動詞「ず」(え〜ず)
- 「いかがはせむ」は反語で「どうしようか、いや、どうしようもない」。→推量の助動詞「む」の意味
- 「憎し」は今の「憎い」より軽く、気に食わない・しゃくにさわる。→古今異義語の一覧(にくし・はしたなし・いとほし)
4
殿上人、地下なるも、陣に立ち添ひて見るも、いとねたし。
現代語訳殿上人も、地下の役人たちも、警護の詰め所のそばに立ち並んで(みっともない姿のわたしたちを)見ているのも、とてもしゃくだ。
- 「殿上人」は清涼殿に上がることを許された貴族、「地下」は許されていない身分の人。
- 「ねたし」は「しゃくだ・いまいましい」。人前で、整えていない髪のまま歩かされた悔しさ。


5
御前に参りて、ありつるやう啓すれば、「ここにても、人は見まじうやは。などかはさしもうち解けつる。」と笑はせたまふ。
現代語訳中宮さまの御前に参上して、さっきの様子を申し上げると、「ここでだって、人が見ないことがあろうか(見るでしょう)。どうしてそんなに気をゆるめていたの。」とお笑いになる。
- 「啓す」は中宮・皇太子に申し上げる謙譲語(絶対敬語)。帝には「奏す」。→絶対敬語「奏す・啓す」
- 「などかは…つる」は、疑問の係助詞「か」の係り結び(連体形「つる」)。→係り結びの決まり
- 中宮定子は、作者たちが油断していたことを、やさしくからかっている。
6
「されど、それは目馴れにてはべれば、よくしたてはべらむにしもおどろく人もはべらむ。さても、かばかりの家に、車入らぬ門やはある。見えば笑はむ。」など言ふほどにしも、「これ参らせむ。」とて、御硯などさし入る。
現代語訳「でも、あの人たちはわたしたちを見慣れておりますので、(かえって)きちんと身なりを整えていたら、驚く人もおりましょう。それにしても、これほどの(身分の人の)家に、車が入らない門などあるでしょうか。(生昌が)顔を見せたら笑ってやりましょう。」などと言っているちょうどそのときに、「これをさしあげましょう。」と言って、(生昌が)御硯などを(御簾の中に)さし入れる。
- 「門やはある」は反語(あるだろうか、いや、ない)。係り結びで「ある」は連体形。→係り結び(や・か→連体形)と反語
- 「見えば」は未然形+ば=仮定(顔を見せたら)。→接続助詞「ば」の未然形+ばと已然形+ば
- うわさをしているところに、ちょうど本人が来る。笑いの場面のはじまり。

7
「いで、いとわろくこそおはしけれ。などその門、はた、狭くは造りて住みたまひける。」と言へば、笑ひて、「家のほど、身のほどに合はせてはべるなり。」といらふ。
現代語訳(わたしが)「まあ、ずいぶんひどい方でいらっしゃったのですね。どうしてその門を、よりによって狭く造ってお住まいになっていたのですか。」と言うと、(生昌は)笑って、「家の大きさは、自分の身分に合わせているのでございます。」と答える。
- 係り結び:「こそ」→已然形「けれ」。「けり」はここでは今気づいたことへの驚き(〜だったのですね)。→過去の助動詞「けり」(気づきの用法)
- 「いで」は「さあ・まあ」。「はた」は「よりによって・また」。
- 生昌の答えは「身分の低い者の家ですから」と、へりくだったもっともな答え。
8
「されど、門の限りを高う造る人もありけるは。」と言へば、「あな、おそろし。」とおどろきて、「それは于定国がことにこそはべるなれ。古き進士などにはべらずは、うけたまはり知るべきにもはべらざりけり。たまたまこの道にまかり入りにければ、かうだにわきまへ知られはべる。」と言ふ。
現代語訳(わたしが)「でも、門だけを高く造った人もいたそうですよ。」と言うと、(生昌は)「ああ、恐れ入りました。」と驚いて、「それは于定国の(父の)話でございますね。年季の入った進士(学者)などでなければ、うかがって知ることもできないことでございました。(わたしは)たまたまこの学問の道に入っておりましたので、このくらいはわきまえております。」と言う。
- 于定国の故事:中国・漢の于定国の父は、「子孫がきっと出世して、大きな車で出入りするだろう」と、家の門を高く大きく造らせた。作者は「あなたは子孫の出世も考えないのね」とからかったのである。
- 「ことにこそ」「進士などにはべらずは」の「に」は断定「なり」の連用形(下に「あり・はべり」が来る形)。→「に」の識別(断定のなり)
- 「はべらずは」は「〜でなかったら」(仮定)。「まかり入りにけれ」の「に」は完了「ぬ」。
- 生昌は学問の道(漢学)を学んでいたので、作者の話にすぐ気づいた。作者は漢学の知識でも負けていない。


9
「その御道もかしこからざめり。筵道敷きたれど、みな落ち入り騒ぎつるは。」と言へば、「雨の降りはべりつれば、さもはべりつらむ。よしよし。また仰せられかくることもぞはべる。まかり立ちなむ。」とて往ぬ。
現代語訳(わたしが)「その(学問の)御道も、たいしたことはないようですね。(その証拠に)筵の道を敷いてあったけれど、(わたしたちは)みんな(穴に)落ちこんで大騒ぎしましたよ。」と言うと、(生昌は)「雨が降っておりましたから、きっとそうでございましたでしょう。もう結構、結構。また(何か)言いかけられたら困ります。退散いたしましょう。」と言って立ち去った。
- 「かしこからざめり」は「ざるめり」→「ざんめり」→「ざめり」。打消「ず」+推定「めり」で「〜ないようだ」。「なめり」と同じしくみ。→推定の助動詞「めり」(なめり・ざめり)
- 「御道」は、生昌の言った学問の道と、作者たちが歩いた筵道をかけたしゃれ。
- 「こともぞはべる」の「もぞ」は「〜したら困る」という心配の言い方。→「もぞ・もこそ」(〜したら困る)

10
「何事ぞ、生昌がいみじうおぢつる。」と問はせたまふ。「あらず。車の入りはべらざりつること言ひはべりつる。」と申して下りたり。
現代語訳(中宮さまが)「何事なの、生昌がひどくおじけづいていたのは。」とおたずねになる。「何でもございません。車が入らなかったことを申しておりました。」と申し上げて、(自分の部屋に)下がった。
- 中宮のことばは敬語なし、作者のことばは「はべり」「申す」でていねい。身分の上下が敬語にそのまま出ている。→敬意の方向(誰から誰へ)の見分け方
- 「おづ」は「こわがる・おじけづく」。
11
同じ局に住む若き人々などして、よろづのことも知らず、ねぶたければ、みな寝ぬ。東の対の西の廂、北かけてあるに、北の障子に懸け金もなかりけるを、それもたづねず。家主なれば、案内を知りて開けてけり。
現代語訳同じ部屋に住む若い女房たちといっしょに、何も気にせず、眠かったので、みんな寝てしまった。(わたしたちの部屋は)東の対の西の廂の間で、北に続いている所なのだが、北側のふすまに掛け金もなかったのを、それも確かめなかった。(生昌は)家の主人なので、家の中の様子をよく知っていて、(その戸を)開けてしまった。
- 「寝ぬ」は下二段「寝」の連用形「寝」+完了「ぬ」(寝てしまった)。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「開けてけり」の「て」は、下に「けり」があるので完了「つ」の連用形。→完了の助動詞「つ・ぬ」
- 「障子」は今のふすまのような仕切り。「案内」は「内部の事情・様子」。
12
あやしくかればみさわぎたる者の声にて、「さぶらはむはいかに、いかに。」と、あまたたび言ふ声にぞおどろきて見れば、几帳の後ろに立てたる灯台の光はあらはなり。障子を五寸ばかり開けて言ふなりけり。いみじうをかし。
現代語訳妙にしわがれてうわずった声で、「おそばにうかがうのはいかがでしょう、いかがでしょう。」と何度も言う声に、はっと目がさめて見ると、几帳の後ろに立ててある灯台の光で(あたりは)丸見えである。(生昌が)ふすまを五寸(約15センチ)ほど開けて言っていたのだった。とてもおかしい。
- 「言ふなりけり」は断定「なり」+気づきの「けり」で「〜していたのだった」。→断定の助動詞「なり・たり」
- 「さぶらはむは」の「む」は、下に「は」が続く婉曲(〜ようなこと)。→推量の助動詞「む」の6つの意味
- 「をかし」は、ここでは「こっけいだ・おかしい」の意味。


13
さらにかやうのすきずきしきわざ、ゆめにせぬものを、家におはしましたりとて、むげに心にまかするなめりと思ふも、いとをかし。
現代語訳(生昌は)まったくこのような色めいたことなど、決してしない人なのに、(中宮さまが)自分の家においでになったというので、すっかり気が大きくなって好き勝手にしているようだ、と思うのもとてもおかしい。
- 「なめり」は「なるめり」→「なんめり」→「なめり」。断定「なり」+推定「めり」で「〜であるようだ」。→推定の助動詞「めり」となめり
- 「すきずきし」は「色好みだ・恋に熱心だ」。「むげに」は「むやみに・すっかり」。
14
かたはらなる人をおし起こして、「かれ見たまへ。かかる見えぬ者のあめるは。」と言へば、頭もたげて見やりて、いみじう笑ふ。
現代語訳(わたしは)隣にいる人をゆり起こして、「あれをごらんなさい。こんな見慣れない者がいるようですよ。」と言うと、(その人は)頭を持ち上げて(そちらを)見て、ひどく笑う。
- 「あめる」は「あるめる」→「あんめる」→「あめる」。ラ変「あり」+推定「めり」で「いるようだ」。→推定の助動詞「めり」(あめり・なめり)
- 「見えぬ者」は「(ふだん)見かけない者」。作者はわざと生昌を知らない人のように言っている。
15
「あれは誰ぞ。顕証に。」と言へば、「あらず。家の主と定め申すべきことのはべるなり。」と言へば、「門のことをこそ聞こえつれ、障子開けたまへとやは聞こえつる。」と言へば、
現代語訳(わたしが)「あれはだれ? まる見えですよ。」と言うと、(生昌は)「いえいえ。家の主人として(局の主人と)相談して決めなければならないことがございますのです。」と言うので、「門のことは申し上げましたけれど、ふすまを開けてくださいなどと申し上げたでしょうか。」と言うと、
- 「こそ…つれ、」のように、こそ+已然形で文が終わらずに続くと逆接(〜けれど)になる。→係り結び(こそ+已然形の逆接)
- 「やは…つる」は反語:「申し上げたでしょうか、いや、申し上げていない」。
- 「顕証なり」は「まる見えだ・はっきりしている」。作者は「門の話」と「障子を開けること」をわざとすりかえて、生昌をからかう。
16
「なほそのことも申さむ。そこにさぶらはむはいかに、いかに。」と言へば、「いと見苦しきこと。さらにえおはせじ。」とて笑ふめれば、「若き人おはしけり。」とて引き立てて往ぬるのちに、笑ふこといみじう。
現代語訳(生昌が)「やはりそのことも申し上げましょう。そちらにうかがうのはいかがでしょう、いかがでしょう。」と言うので、(そばの若い女房が)「とてもみっともないこと。決しておいでにはなれないでしょう。」と言って笑っているようなので、(生昌は)「若い方たちがいらっしゃったのか。」と言って、ふすまを閉めて去っていったあとで、(みんなで)大笑いした。
- 「えおはせじ」は「え〜じ」で「決して〜できないだろう」。→打消推量の助動詞「じ」
- 「往ぬる」はナ行変格活用の動詞「往ぬ」の連体形(立ち去る)。完了の助動詞「ぬ」とまちがえない。→「ぬ」の識別(ナ変動詞の一部も)
- 生昌は作者ひとりだと思っていたので、若い女房たちがいたことにあわてて退散した。
17
開けむとならば、ただ入りねかし。消息を言はむに、よかなりとは誰か言はむ、と、げにぞをかしき。
現代語訳(ふすまを)開けようというのなら、ただ黙って入ってしまえばいいのに。(入ってよいかと)断りを言うのに、「いいですよ」とだれが言うだろうか(だれも言わない)と思うと、本当におかしい。
- 「入りねかし」の「ね」は連用形に付く完了「ぬ」の命令形(〜してしまえ)。打消「ず」の已然形の「ね」とくらべよう。→「ね」の識別(完了の命令形と打消の已然形)
- 「よかなり」は「よかるなり」→「よかんなり」→「よかなり」。推定の「なり」(〜ようだ)。→伝聞・推定の「なり」
- 「誰か言はむ」は反語。係り結びが2つ(か→む、ぞ→をかしき)。


18
つとめて、御前に参りて啓すれば、「さることも聞こえざりつるものを。昨夜のことにめでて入りにたりけるなり。あはれ、かれをはしたなう言ひけむこそいとほしけれ。」と笑はせたまふ。
現代語訳翌朝、中宮さまの御前に参上して申し上げると、「そんな(色めいた)ことをする人とは聞いていなかったのに。昨夜の(門の話の)ことに感心して(あなたの部屋に)入ろうとしたのでしょう。まあ、あの人をそっけなく言い負かしたというのは、気の毒なこと。」とお笑いになる。
- 「はしたなし」は「中途半端・きまりが悪い」のほか、「そっけない・ぶしつけだ」の意味もある。ここは後者。「いとほし」は「かわいい」ではなく「気の毒だ」。→古今異義語の一覧(はしたなし・いとほし)
- 「言ひけむ」は過去の婉曲(〜たような・〜たという)。→過去推量の助動詞「けむ」
- 中宮は生昌をかばいつつ笑っている。作者だけでなく中宮の人がらも描かれている。

19
姫宮の御方のわらはべの装束つかうまつるべきよし仰せらるるに、「この衵の上襲は何の色にかつかうまつらすべき。」と申すを、また笑ふもことわりなり。
現代語訳(中宮さまが生昌に)姫宮さまのお付きの女の子たちの衣装を用意するようにとおっしゃったところ、(生昌が)「この衵の上襲は、何色でお作りしたらよいでしょうか。」と申し上げるのを、(女房たちが)また笑うのももっともだ。
- 「仰せらるる」は尊敬語「仰す」+尊敬の「らる」で二重尊敬(作者→中宮)。→「る・らる」の尊敬の用法
- 「上襲」は、童女の上着「汗衫」のことを生昌が独特な言い方で言ったもの。この聞きなれない言い方が笑いのもとになった。
- 「姫宮」は中宮定子の娘の脩子内親王。「ことわりなり」は「もっともだ・当然だ」。
20
「姫宮の御前のものは、例のやうにては憎げにさぶらはむ。ちうせい折敷に、ちうせい高坏などこそよくはべらめ。」と申すを、「さてこそは、上襲着たらむ童も参りよからめ。」と言ふを、
現代語訳(生昌が)「姫宮さまのお食事の器は、ふつうの大きさでは不格好でございましょう。小さい折敷に、小さい高坏などがよろしいでしょう。」と申し上げるのを、(わたしが)「そうしてこそ、上襲を着たような童女もおそばに参りやすいでしょうね。」と言うのを、
- 係り結び:「こそ」→已然形「め」が2回。→係り結びの決まり(こそ→已然形)
- 「ちうせい」は「小さい」の意味の、生昌のなまった言い方とされる。作者は生昌の「上襲」ということばを、わざとまねて言い返している。
- 「折敷」「高坏」は食べ物をのせる器・台。
21
「なほ例の人のやうに、かくな言ひ笑ひそ。いと謹厚なるものを。」と、いとほしがらせたまふもをかし。
現代語訳(中宮さまが)「やはり、ふつうの人と同じように、そんなふうにからかって笑ってはいけません。とてもまじめな人なのですから。」と、気の毒がりなさるのも、すてきだ。
- 「な言ひ笑ひそ」は「な〜そ」で禁止(〜するな)。→終助詞「そ」と「な〜そ」の禁止
- 「謹厚なり」は「まじめで誠実だ」。中宮は生昌のよいところを見ている。


22
中間なるをりに、「大進、まづもの聞こえむとあり。」と言ふを聞こしめして、「また、なでふこと言ひて笑はれむとならむ。」と仰せらるるも、またをかし。
現代語訳(特に用事もない)中途半端な時に、「大進が、まず(少納言に)お話し申し上げたいと言っています。」と(取り次ぎの者が)言うのをお聞きになって、(中宮さまが)「また、どんなことを言って笑われようというのでしょう。」とおっしゃるのも、またおもしろい。
- 「笑はれむ」の「れ」は受身(笑われる)。→「る・らる」の4つの意味
- 「聞こしめす」は「お聞きになる」の尊敬語。→よく出る敬語動詞の一覧(聞こしめす・仰す)
- 「なでふ」は「何といふ」がつまった形で「どんな・何という」。
23
「行きて聞け。」とのたまはすれば、わざと出でたれば、「一夜の門のこと、中納言に語りはべりしかば、いみじう感じ申されて、『いかでさるべからむをりに、心のどかに対面して、申しうけたまはらむ。』となむ申されつる。」とて、またこともなし。
現代語訳(中宮さまが)「行って聞いておいで。」とおっしゃるので、わざわざ出て行ったところ、(生昌は)「先夜の門のことを、(兄の)中納言に話しましたところ、たいそう感心いたしまして、『なんとかして、しかるべき機会に、ゆっくりお会いしてお話をうかがいたい。』と申しておりました。」と言って、ほかには何の話もない。
- 「申され」は謙譲語「申す」+尊敬の「る」。「申す」は話を聞く作者への敬意、「る」は兄の中納言(平惟仲)への敬意。どちらも生昌から。→二方面への敬語(謙譲語+尊敬語)
- 「語りはべりしかば」は過去「き」の已然形+ば=「〜したところ」。→過去の助動詞「き」(せ・○・き・し・しか)
- 作者の于定国の話が、兄の中納言まで感心させた。


24
一夜のことや言はむと、心ときめきしつれど、「今静かに御局にさぶらはむ。」とて往ぬれば、帰り参りたるに、「さて、何事ぞ。」とのたまはすれば、申しつることを、さなむと啓すれば、
現代語訳(生昌が)先夜の(障子の)ことを言うのではないかと、胸がどきどきしたけれど、「そのうち、ゆっくりお部屋にうかがいましょう。」と言って去ったので、(中宮さまのもとに)帰って参上すると、「それで、何の話だったの。」とおっしゃるので、生昌が申したことを、これこれと申し上げると、
- 「や言はむ」は係り結び(や→連体形「む」)。→係り結びの決まり
- 「心ときめく」は「胸がどきどきする」。障子の話を持ち出されるかと、作者も少しあせっている。
- 「御局にさぶらはむ」と言うところに、生昌がまだ夜の件をあきらめていない様子がにじむ。
25
「わざと消息し、呼び出づべきことにはあらぬや。おのづから端つ方、局などにゐたらむ時も言へかし。」とて笑へば、「おのが心地にかしこしと思ふ人のほめたる、うれしとや思ふと、告げ聞かするならむ。」とのたまはする御けしきも、いとめでたし。
現代語訳(わたしが)「わざわざ取り次ぎをたのんで呼び出すようなことではないでしょうに。たまたま(わたしが)縁側の方や部屋などにいるような時にでも言えばいいのに。」と言って笑うと、(中宮さまは)「(生昌は)自分の心の中でりっぱだと思っている人(兄)がほめたことを、(あなたも)うれしいと思うだろうと思って、知らせたのでしょう。」とおっしゃるご様子も、とてもすばらしい。
- 「呼び出づべきことにはあらぬ」は、断定「なり」の連用形「に」+打消「ず」の連体形「ぬ」。→「に」の識別(断定のなり)
- 「めでたし」は「すばらしい・りっぱだ」。最後は、生昌の気持ちまで思いやる中宮定子をほめて終わる。
- 作者は生昌をからかい続けるが、中宮はいつも生昌をかばう。この対比がこの段の読みどころ。
「大進生昌が家に」の敬意の方向を図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 大進 | だいじん | 中宮職の三等官 |
| 四足 | よつあし | 四本柱の格式の高い門 |
| あなづる | あなどる | 軽く見る・油断する |
| 筵道 | えんどう | 筵を敷いた通り道 |
| にくし | にくし | 気に食わない・しゃくだ |
| ねたし | ねたし | しゃくだ・いまいましい |
| 啓す | けいす | (中宮・皇太子に)申し上げる |
| 進士 | しんし | 漢学の試験に合格した学者 |
| すきずきし | すきずきし | 色好みだ |
| 顕証なり | けんしょうなり | まる見えだ・はっきりしている |
| はしたなし | はしたなし | そっけない・きまりが悪い |
| いとほし | いとおし | 気の毒だ |
| 謹厚なり | きんこうなり | まじめで誠実だ |
| なでふ | なじょう | どんな・何という |
| めでたし | めでたし | すばらしい |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「宮の出でさせたまふ」の「させたまふ」のような敬語を何というか。また、この段ではだれに使われているか。
二重尊敬(最高敬語)。中宮定子に使われている。
問2 作者が「門の限りを高う造る人もありけるは」と言ったのは、どんな故事をふまえたものか。
于定国の父が、子孫の出世を予想して、大きな車が通れるように家の門を高く造らせたという中国の故事。
問3 「その御道もかしこからざめり」の「御道」にこめられたしゃれを説明しなさい。
生昌の言った「学問の道」と、女房たちが落ちこんだ「筵道」をかけている。
問4 「かしこからざめり」の「ざめり」を文法的に説明しなさい。
打消の助動詞「ず」の連体形「ざる」が撥音便「ざん」になり、「ん」が書かれない形「ざ」+推定の助動詞「めり」の終止形。「〜ないようだ」。
問5 「また仰せられかくることもぞはべる」の「もぞ」はどんな気持ちを表すか。
「〜したら困る」という心配・懸念。
問6 「ただ入りねかし」の「ね」と、「まだ陣の居ねば」の「ね」をそれぞれ文法的に説明しなさい。
「入りね」の「ね」は完了の助動詞「ぬ」の命令形。「居ねば」の「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形。
問7 「かれをはしたなう言ひけむこそいとほしけれ」を現代語訳しなさい。
「あの人をそっけなく言い負かしたというのは、気の毒なことだ。」
問8 この段の中宮定子は、生昌に対してどのような態度をとっているか。
作者たちが生昌をからかうのをたしなめ、「まじめな人なのだから」とかばい、生昌の気持ちを思いやっている。

枕草子「大進生昌が家に」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
大進生昌が家に、宮の出でさせたまふに、東の門は四足になして、それより御輿は入らせたまふ。
北の門より、女房の車どもも、まだ陣の居ねば入りなむと思ひて、頭つきわろき人も、いたうもつくろはず、寄せて下るべきものと思ひあなづりたるに、
檳榔毛の車などは、門小さければ、さはりてえ入らねば、例の筵道敷きて下るるに、いと憎く腹立たしけれども、いかがはせむ。
殿上人、地下なるも、陣に立ち添ひて見るも、いとねたし。
御前に参りて、ありつるやう啓すれば、「ここにても、人は見まじうやは。などかはさしもうち解けつる。」と笑はせたまふ。
「されど、それは目馴れにてはべれば、よくしたてはべらむにしもおどろく人もはべらむ。さても、かばかりの家に、車入らぬ門やはある。見えば笑はむ。」など言ふほどにしも、「これ参らせむ。」とて、御硯などさし入る。
「いで、いとわろくこそおはしけれ。などその門、はた、狭くは造りて住みたまひける。」と言へば、笑ひて、「家のほど、身のほどに合はせてはべるなり。」といらふ。
「されど、門の限りを高う造る人もありけるは。」と言へば、「あな、おそろし。」とおどろきて、「それは于定国がことにこそはべるなれ。古き進士などにはべらずは、うけたまはり知るべきにもはべらざりけり。たまたまこの道にまかり入りにければ、かうだにわきまへ知られはべる。」と言ふ。
「その御道もかしこからざめり。筵道敷きたれど、みな落ち入り騒ぎつるは。」と言へば、「雨の降りはべりつれば、さもはべりつらむ。よしよし。また仰せられかくることもぞはべる。まかり立ちなむ。」とて往ぬ。
「何事ぞ、生昌がいみじうおぢつる。」と問はせたまふ。「あらず。車の入りはべらざりつること言ひはべりつる。」と申して下りたり。
同じ局に住む若き人々などして、よろづのことも知らず、ねぶたければ、みな寝ぬ。東の対の西の廂、北かけてあるに、北の障子に懸け金もなかりけるを、それもたづねず。家主なれば、案内を知りて開けてけり。
あやしくかればみさわぎたる者の声にて、「さぶらはむはいかに、いかに。」と、あまたたび言ふ声にぞおどろきて見れば、几帳の後ろに立てたる灯台の光はあらはなり。障子を五寸ばかり開けて言ふなりけり。いみじうをかし。
さらにかやうのすきずきしきわざ、ゆめにせぬものを、家におはしましたりとて、むげに心にまかするなめりと思ふも、いとをかし。
かたはらなる人をおし起こして、「かれ見たまへ。かかる見えぬ者のあめるは。」と言へば、頭もたげて見やりて、いみじう笑ふ。
「あれは誰ぞ。顕証に。」と言へば、「あらず。家の主と定め申すべきことのはべるなり。」と言へば、「門のことをこそ聞こえつれ、障子開けたまへとやは聞こえつる。」と言へば、
「なほそのことも申さむ。そこにさぶらはむはいかに、いかに。」と言へば、「いと見苦しきこと。さらにえおはせじ。」とて笑ふめれば、「若き人おはしけり。」とて引き立てて往ぬるのちに、笑ふこといみじう。
開けむとならば、ただ入りねかし。消息を言はむに、よかなりとは誰か言はむ、と、げにぞをかしき。
つとめて、御前に参りて啓すれば、「さることも聞こえざりつるものを。昨夜のことにめでて入りにたりけるなり。あはれ、かれをはしたなう言ひけむこそいとほしけれ。」と笑はせたまふ。
姫宮の御方のわらはべの装束つかうまつるべきよし仰せらるるに、「この衵の上襲は何の色にかつかうまつらすべき。」と申すを、また笑ふもことわりなり。
「姫宮の御前のものは、例のやうにては憎げにさぶらはむ。ちうせい折敷に、ちうせい高坏などこそよくはべらめ。」と申すを、「さてこそは、上襲着たらむ童も参りよからめ。」と言ふを、
「なほ例の人のやうに、かくな言ひ笑ひそ。いと謹厚なるものを。」と、いとほしがらせたまふもをかし。
中間なるをりに、「大進、まづもの聞こえむとあり。」と言ふを聞こしめして、「また、なでふこと言ひて笑はれむとならむ。」と仰せらるるも、またをかし。
「行きて聞け。」とのたまはすれば、わざと出でたれば、「一夜の門のこと、中納言に語りはべりしかば、いみじう感じ申されて、『いかでさるべからむをりに、心のどかに対面して、申しうけたまはらむ。』となむ申されつる。」とて、またこともなし。
一夜のことや言はむと、心ときめきしつれど、「今静かに御局にさぶらはむ。」とて往ぬれば、帰り参りたるに、「さて、何事ぞ。」とのたまはすれば、申しつることを、さなむと啓すれば、
「わざと消息し、呼び出づべきことにはあらぬや。おのづから端つ方、局などにゐたらむ時も言へかし。」とて笑へば、「おのが心地にかしこしと思ふ人のほめたる、うれしとや思ふと、告げ聞かするならむ。」とのたまはする御けしきも、いとめでたし。
枕草子「大進生昌が家に」現代語訳(全文・通し)
大進の平生昌の家に、中宮さまがお出ましになるので、東の門は四本柱の門に造りかえて、そこから中宮さまの御輿はお入りになる。
(わたしたち)女房の牛車も北の門から(入るのだが)、まだ警護の武士たちも詰めていないので、(車のまま)入ってしまえるだろうと思って、髪の様子がみっともない人も、たいして身なりを整えず、(建物に)車を寄せて降りればよいものと高をくくっていたところ、
檳榔毛の車(大きな牛車)などは、門が小さいので、つかえて入ることができないので、いつものように筵の通り道を敷いて降りたが、とても気に食わなくて腹立たしいけれど、どうしようもない。
殿上人も、地下の役人たちも、警護の詰め所のそばに立ち並んで(みっともない姿のわたしたちを)見ているのも、とてもしゃくだ。
中宮さまの御前に参上して、さっきの様子を申し上げると、「ここでだって、人が見ないことがあろうか(見るでしょう)。どうしてそんなに気をゆるめていたの。」とお笑いになる。
「でも、あの人たちはわたしたちを見慣れておりますので、(かえって)きちんと身なりを整えていたら、驚く人もおりましょう。それにしても、これほどの(身分の人の)家に、車が入らない門などあるでしょうか。(生昌が)顔を見せたら笑ってやりましょう。」などと言っているちょうどそのときに、「これをさしあげましょう。」と言って、(生昌が)御硯などを(御簾の中に)さし入れる。
(わたしが)「まあ、ずいぶんひどい方でいらっしゃったのですね。どうしてその門を、よりによって狭く造ってお住まいになっていたのですか。」と言うと、(生昌は)笑って、「家の大きさは、自分の身分に合わせているのでございます。」と答える。
(わたしが)「でも、門だけを高く造った人もいたそうですよ。」と言うと、(生昌は)「ああ、恐れ入りました。」と驚いて、「それは于定国の(父の)話でございますね。年季の入った進士(学者)などでなければ、うかがって知ることもできないことでございました。(わたしは)たまたまこの学問の道に入っておりましたので、このくらいはわきまえております。」と言う。
(わたしが)「その(学問の)御道も、たいしたことはないようですね。(その証拠に)筵の道を敷いてあったけれど、(わたしたちは)みんな(穴に)落ちこんで大騒ぎしましたよ。」と言うと、(生昌は)「雨が降っておりましたから、きっとそうでございましたでしょう。もう結構、結構。また(何か)言いかけられたら困ります。退散いたしましょう。」と言って立ち去った。
(中宮さまが)「何事なの、生昌がひどくおじけづいていたのは。」とおたずねになる。「何でもございません。車が入らなかったことを申しておりました。」と申し上げて、(自分の部屋に)下がった。
同じ部屋に住む若い女房たちといっしょに、何も気にせず、眠かったので、みんな寝てしまった。(わたしたちの部屋は)東の対の西の廂の間で、北に続いている所なのだが、北側のふすまに掛け金もなかったのを、それも確かめなかった。(生昌は)家の主人なので、家の中の様子をよく知っていて、(その戸を)開けてしまった。
妙にしわがれてうわずった声で、「おそばにうかがうのはいかがでしょう、いかがでしょう。」と何度も言う声に、はっと目がさめて見ると、几帳の後ろに立ててある灯台の光で(あたりは)丸見えである。(生昌が)ふすまを五寸(約15センチ)ほど開けて言っていたのだった。とてもおかしい。
(生昌は)まったくこのような色めいたことなど、決してしない人なのに、(中宮さまが)自分の家においでになったというので、すっかり気が大きくなって好き勝手にしているようだ、と思うのもとてもおかしい。
(わたしは)隣にいる人をゆり起こして、「あれをごらんなさい。こんな見慣れない者がいるようですよ。」と言うと、(その人は)頭を持ち上げて(そちらを)見て、ひどく笑う。
(わたしが)「あれはだれ? まる見えですよ。」と言うと、(生昌は)「いえいえ。家の主人として(局の主人と)相談して決めなければならないことがございますのです。」と言うので、「門のことは申し上げましたけれど、ふすまを開けてくださいなどと申し上げたでしょうか。」と言うと、
(生昌が)「やはりそのことも申し上げましょう。そちらにうかがうのはいかがでしょう、いかがでしょう。」と言うので、(そばの若い女房が)「とてもみっともないこと。決しておいでにはなれないでしょう。」と言って笑っているようなので、(生昌は)「若い方たちがいらっしゃったのか。」と言って、ふすまを閉めて去っていったあとで、(みんなで)大笑いした。
(ふすまを)開けようというのなら、ただ黙って入ってしまえばいいのに。(入ってよいかと)断りを言うのに、「いいですよ」とだれが言うだろうか(だれも言わない)と思うと、本当におかしい。
翌朝、中宮さまの御前に参上して申し上げると、「そんな(色めいた)ことをする人とは聞いていなかったのに。昨夜の(門の話の)ことに感心して(あなたの部屋に)入ろうとしたのでしょう。まあ、あの人をそっけなく言い負かしたというのは、気の毒なこと。」とお笑いになる。
(中宮さまが生昌に)姫宮さまのお付きの女の子たちの衣装を用意するようにとおっしゃったところ、(生昌が)「この衵の上襲は、何色でお作りしたらよいでしょうか。」と申し上げるのを、(女房たちが)また笑うのももっともだ。
(生昌が)「姫宮さまのお食事の器は、ふつうの大きさでは不格好でございましょう。小さい折敷に、小さい高坏などがよろしいでしょう。」と申し上げるのを、(わたしが)「そうしてこそ、上襲を着たような童女もおそばに参りやすいでしょうね。」と言うのを、
(中宮さまが)「やはり、ふつうの人と同じように、そんなふうにからかって笑ってはいけません。とてもまじめな人なのですから。」と、気の毒がりなさるのも、すてきだ。
(特に用事もない)中途半端な時に、「大進が、まず(少納言に)お話し申し上げたいと言っています。」と(取り次ぎの者が)言うのをお聞きになって、(中宮さまが)「また、どんなことを言って笑われようというのでしょう。」とおっしゃるのも、またおもしろい。
(中宮さまが)「行って聞いておいで。」とおっしゃるので、わざわざ出て行ったところ、(生昌は)「先夜の門のことを、(兄の)中納言に話しましたところ、たいそう感心いたしまして、『なんとかして、しかるべき機会に、ゆっくりお会いしてお話をうかがいたい。』と申しておりました。」と言って、ほかには何の話もない。
(生昌が)先夜の(障子の)ことを言うのではないかと、胸がどきどきしたけれど、「そのうち、ゆっくりお部屋にうかがいましょう。」と言って去ったので、(中宮さまのもとに)帰って参上すると、「それで、何の話だったの。」とおっしゃるので、生昌が申したことを、これこれと申し上げると、
(わたしが)「わざわざ取り次ぎをたのんで呼び出すようなことではないでしょうに。たまたま(わたしが)縁側の方や部屋などにいるような時にでも言えばいいのに。」と言って笑うと、(中宮さまは)「(生昌は)自分の心の中でりっぱだと思っている人(兄)がほめたことを、(あなたも)うれしいと思うだろうと思って、知らせたのでしょう。」とおっしゃるご様子も、とてもすばらしい。
枕草子「大進生昌が家に」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 大進生昌が家に(このページ) 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
- 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
- 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
- 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳

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- 古文の助動詞一覧表(全28語の意味・接続・活用)
- 係り結びとは?ぞ・なむ・や・か・こそと結びの形
- 古文の敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句
- 竹取物語の全文と現代語訳(全10章・文法解説つき)
- 徒然草の原文と現代語訳(教科書に出る段の一覧・三大随筆)
- 国語の勉強まとめ(古文・漢文・漢字・百人一首)
本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


