
定番 教科書によく出る定番の段 回想章段
枕草子の回想章段「中納言参りたまひて」(くらげの骨)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。中納言隆家の自慢を、清少納言がひと言のしゃれで切り返す短い段です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:中納言藤原隆家が姉の中宮定子に扇を献上しようとして、「まだだれも見たことのないすばらしい骨を手に入れた」と自慢する。清少納言が「それなら扇の骨ではなく、くらげの骨のようですね」と言うと、隆家は「これは隆家の言ったことにしよう」と笑った。
- 文法の要点:二方面への敬語(参りたまふ・申したまふ)、最高敬語「させたまふ」(中宮定子)、ななり(断定なり+推定なり)、強意の「てむ」、こそ〜已然形の逆接、禁止の「な〜そ」。
- テストの定番:教科書によく出る段。敬語が誰から誰への敬意か、「くらげのななり」の意味としゃれの中身、「かたはらいたし」の意味がよく問われる。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 二方面への敬語:参りたまふ・申したまふ(謙譲→中宮、尊敬→隆家)
- 最高敬語「させたまふ」=中宮定子の動作
- ななり=断定「なり」+推定「なり」(〜であるようだ)
- 強意のてむ、こそ〜已然形、の逆接
- 古今異義語かたはらいたし=きまりが悪い
「中納言参りたまひて」はどんな段?(回想章段・隆家と中宮定子)
枕草子の回想章段(日記的章段)の一つで、清少納言が中宮定子に仕えていたころの宮中のできごとを書いています。中納言は藤原隆家で、中宮定子の弟、関白藤原道隆の息子です。
登場人物は、中宮定子(作者が仕える主人)、隆家(中宮の弟)、作者(清少納言)の3人です。地の文では、中宮には最高敬語、隆家には尊敬語が使われ、二人の身分の差が敬語の重さに表れています。最後の一文では、自分がほめられた話を書くことへの照れを、「みんなが書けと言うから」と言いわけしています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
中納言参りたまひて、御扇奉らせたまふに、
現代語訳中納言(藤原隆家)が(中宮定子さまのところへ)参上なさって、(中宮さまに)扇を差し上げなさるときに、
- 二方面への敬語:「参りたまひ」の「参り」は謙譲語で、行き先の中宮定子を高め、「たまひ」は尊敬語で、動作をする隆家を高める。どちらも書き手(作者)からの敬意。→二方面への敬語(謙譲語+尊敬語)
- 中納言隆家は中宮定子の弟。姉の中宮に扇を献上しようとしている場面。


2
「隆家こそいみじき骨は得てはべれ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの紙はえ張るまじければ、求めはべるなり」と申したまふ。
現代語訳「隆家はすばらしい(扇の)骨を手に入れております。それに(紙を)張らせて差し上げようと思うのですが、ありきたりの紙は張ることができそうにないので、(ふさわしい紙を)探しているのです」と申し上げなさる。
- 係り結び:「こそ」があるので、結びは已然形「はべれ」。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「はべり」は会話の中の丁寧語。話し手の隆家から、聞き手の中宮定子への敬意。→「はべり」「さぶらふ」の丁寧語と謙譲語の見分け方
- 「え張るまじければ」は「え+打消」=〜できないの形。「まじ」は打消推量で「張ることができそうにない」。→打消推量の助動詞「まじ」
- 「おぼろけの」は「ふつうの・ありきたりの」。自分のことを「隆家」と名前で言っているのは、身内の姉に向けた言い方。
3
「いかやうにかある」と問ひきこえさせたまへば、
現代語訳(中宮さまが)「(その骨は)どのような様子なのですか」とお尋ね申し上げなさると、
- 最高敬語「させたまふ」:尊敬の助動詞「さす」+尊敬の補助動詞「たまふ」で、尊敬を二重にした形。地の文で使われるのは天皇・中宮などとても身分の高い人だけ。ここで動作をするのは中宮定子。→最高敬語(せたまふ・させたまふ)と二重敬語
- 「きこえ」は謙譲語で、問われる相手の隆家を高める。中宮が弟に問う動作でも、作者は弟の隆家に敬意をはらっている。
- 係助詞「か」(疑問)→結びは連体形「ある」。


4
「すべていみじうはべり。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ」と言高くのたまへば、
現代語訳「(骨は)すべてがすばらしいのです。『まったくまだ見たことのない骨の様子だ』と人々が申します。本当にこれほどの骨は見たことがありませんでした」と、声高におっしゃるので、
- 「見ぬ骨」の「ぬ」は、下が「骨」(体言)なので打消「ず」の連体形。完了「ぬ」ではない。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「さらに〜打消」は「まったく〜ない」。「見えざりつ」の「見ゆ」はここでは「見られる・目にする」。
- 「なむ」→結びは連体形「申す」(四段活用なので終止形と同じ形)。
- 「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語(おっしゃる)。→敬語動詞の一覧(のたまふ・聞こゆ・参る)
5
「さては、扇のにはあらで、くらげのななり」と聞こゆれば、
現代語訳(わたしが)「それでは、扇の骨ではなくて、くらげの骨であるようですね」と申し上げると、
- くらげには骨がない。「まだだれも見たことのない骨」なら、それは「くらげの骨」(=この世にない骨)だろう、というしゃれ。隆家の自慢を、作者がからかった。
- 「ななり」=断定「なり」の連体形「なる」→「なん」→「な」+推定「なり」(終止形接続の「なり」)。訳は「〜であるようだ」。→伝聞・推定の「なり」と断定の「なり」の見分け方
- 「扇のにはあらで」の「に」は断定「なり」の連用形(「にあり」の形)、「で」は打消の接続助詞(〜ないで)。→「に」の識別7種類


6
「これは隆家が言にしてむ」とて、笑ひたまふ。
現代語訳(隆家は)「これは(わたし)隆家が言ったことにしてしまおう」と言って、お笑いになる。
- 「てむ」=強意の「つ」の未然形+意志の「む」。「きっと〜しよう・〜してしまおう」。「なむ・てむ・つべし・ぬべし」の「つ・ぬ」は強意(確述)。→完了の助動詞「つ・ぬ」と強意の用法
- 作者のしゃれがうまかったので、隆家は「自分の手柄にしたい」と笑った。ここでも隆家の動作には「たまふ」が付いている。
7
かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つな落としそ」と言へば、いかがはせむ。
現代語訳このような(自分がほめられた)話は、聞いていて見苦しいものの中に入れるべきだろうけれど、(まわりの人が)「一つも書き落とすな」と言うので、どうしようか、いや、どうしようもない(書くしかない)。
- こそ〜已然形、で文が続くと逆接(〜けれど)。「入れつべけれど」=入れるべきだけれど。→係り結びの「こそ〜已然形」の逆接
- 「かたはらいたし」は古今異義語。今の「片腹痛い(ちゃんちゃらおかしい)」ではなく、そばで見ていて苦々しい・きまりが悪い。ここは自慢話を書く気まずさ。→古今異義語の一覧(かたはらいたし・をかし・あはれ)
- 「な〜そ」は禁止(〜するな)。「いかがはせむ」は反語(どうしようか、いやどうしようもない)。

敬意の方向を図で確かめる(中宮定子・隆家・作者)

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 中納言 | ちゅうなごん | 大臣・大納言の下の役職。ここでは藤原隆家 |
| 参る | まいる | 参上する(謙譲語) |
| 奉る | たてまつる | 差し上げる(謙譲語) |
| いみじ | いみじ | すばらしい・ひどい(程度がはなはだしい) |
| おぼろけなり | おぼろけなり | ふつうだ・ありきたりだ |
| はべり | はべり | 〜です・〜ます(丁寧語) |
| さらに〜ず | さらに〜ず | まったく〜ない |
| かばかり | かばかり | これほど |
| のたまふ | のたまう | おっしゃる(尊敬語) |
| 聞こゆ | きこゆ | 申し上げる(謙譲語) |
| 言高し | ことだかし | 声が大きい |
| かたはらいたし | かたわらいたし | そばで見ていて苦々しい・きまりが悪い |
| いかがはせむ | いかがはせん | どうしようか、いやどうしようもない |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「中納言参りたまひて」の「参り」と「たまひ」は、それぞれ誰への敬意を表す?
「参り」(謙譲語)は作者から中宮定子への敬意、「たまひ」(尊敬語)は作者から中納言隆家への敬意(二方面への敬語)。
問2 「問ひきこえさせたまへば」で、動作をしているのは誰? また「させたまへ」を何という?
中宮定子。尊敬の助動詞「さす」+尊敬の補助動詞「たまふ」で、最高敬語(二重敬語)という。
問3 「隆家こそいみじき骨は得てはべれ」の「はべれ」が已然形なのはなぜ?
上に係助詞「こそ」があるから(係り結び)。
問4 「くらげのななり」の「ななり」を文法的に説明し、現代語訳しなさい。
断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の撥音便「なん」の「ん」が書かれない形「な」+推定の助動詞「なり」。訳は「くらげの骨であるようだ」。
問5 作者は、なぜ「くらげの骨」と言ったのか?
隆家が「まだ見たことのない骨」と自慢したので、骨のないくらげの骨(=ありもしない骨)だろうと、しゃれで切り返したから。
問6 「これは隆家が言にしてむ」の「てむ」の意味は?
強意の助動詞「つ」の未然形+意志の助動詞「む」。「きっと〜しよう・〜してしまおう」。
問7 「かたはらいたき」の意味は?
そばで見ていて苦々しい・きまりが悪い。今の「片腹痛い」の意味ではない。
問8 「一つな落としそ」を現代語訳しなさい。
「一つも書き落とすな。」(「な〜そ」は禁止)

枕草子「中納言参りたまひて(くらげの骨)」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
中納言参りたまひて、御扇奉らせたまふに、
「隆家こそいみじき骨は得てはべれ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの紙はえ張るまじければ、求めはべるなり」と申したまふ。
「いかやうにかある」と問ひきこえさせたまへば、
「すべていみじうはべり。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ」と言高くのたまへば、
「さては、扇のにはあらで、くらげのななり」と聞こゆれば、
「これは隆家が言にしてむ」とて、笑ひたまふ。
かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つな落としそ」と言へば、いかがはせむ。
枕草子「中納言参りたまひて(くらげの骨)」現代語訳(全文・通し)
中納言(藤原隆家)が(中宮定子さまのところへ)参上なさって、(中宮さまに)扇を差し上げなさるときに、
「隆家はすばらしい(扇の)骨を手に入れております。それに(紙を)張らせて差し上げようと思うのですが、ありきたりの紙は張ることができそうにないので、(ふさわしい紙を)探しているのです」と申し上げなさる。
(中宮さまが)「(その骨は)どのような様子なのですか」とお尋ね申し上げなさると、
「(骨は)すべてがすばらしいのです。『まったくまだ見たことのない骨の様子だ』と人々が申します。本当にこれほどの骨は見たことがありませんでした」と、声高におっしゃるので、
(わたしが)「それでは、扇の骨ではなくて、くらげの骨であるようですね」と申し上げると、
(隆家は)「これは(わたし)隆家が言ったことにしてしまおう」と言って、お笑いになる。
このような(自分がほめられた)話は、聞いていて見苦しいものの中に入れるべきだろうけれど、(まわりの人が)「一つも書き落とすな」と言うので、どうしようか、いや、どうしようもない(書くしかない)。
枕草子「中納言参りたまひて(くらげの骨)」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
- 中納言参りたまひて(くらげの骨)(このページ) 定番
- 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
- 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
- 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
- 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
- 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
- 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
- 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
- 枕草子「正月一日は」の原文・現代語訳
- 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
- 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳

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- 国語の勉強まとめ(古文・漢文・漢字・百人一首)
本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


