枕草子「正月一日は」原文と現代語訳・文法|正月一日、三月三日は、いとうららかなる(五節句・菊の着せ綿・ぬべし)

ミスターT先生

類聚章段

枕草子の類聚章段「正月一日は」を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。元日・ひな祭り・端午・七夕・重陽の日に「この天気がいちばん」と、作者が自分の好みを挙げた段です。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:正月一日と三月三日はうららかな晴れ、五月五日は一日じゅう曇り、七月七日は昼は曇って夕方晴れ、月と星が見えるのがよい。九月九日は明け方に少し雨が降って菊の着せ綿が濡れ、翌朝も今にも降りそうに曇っているのが趣深い。
  • 文法の要点:連体止め(うららかなる・曇り暮らしたる)、存続の「たり」、受身の「る」(もてはやされたる)、完了「ぬ」の連用形「に」(やみにたれど)、強意+推量の「ぬべし」。
  • テストの定番:五節句と天気の組み合わせ、重陽の「菊の着せ綿」、「つとめて」=早朝・翌朝、「こちたし」=たっぷりだ。
うかるくん
うかるくん
T先生、「正月一日は」って、お正月の話ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
お正月だけやないで、うかるくん。元日・三月三日・五月五日・七月七日・九月九日と、年中行事の日をならべて「この日はこんな天気がええ」と言うてる段なんや。
合格先生
合格先生
T先生は「奇数が重なる日は節句や」と教えてくれました。三月三日・五月五日・七月七日・九月九日。いまの年中行事にもつながっています。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 連体止め:うららかなる・曇り暮らしたる(余韻)
  2. 存続のたりと受身のる(もてはやされたる)
  3. 完了「ぬ」の連用形に(やみにたれど)
  4. 強意+推量のぬべし=今にも〜しそうだ
  5. 重陽の菊の着せ綿、つとめて=早朝・翌朝

「正月一日は」はどんな段?(類聚章段・五節句)

「正月一日は」は、「〜は」の形で同じ種類のことがらを集める類聚章段です。宮中の年中行事の日を挙げ、それぞれにふさわしい天気を作者の好みで決めています。

三月三日(上巳)・五月五日(端午)・七月七日(七夕)・九月九日(重陽)は、正月七日(人日)とあわせて五節句と呼ばれます。暦はすべて旧暦なので、五月五日は梅雨どき、九月九日は秋のさかりです。とくに九月九日の「菊の着せ綿」は古文常識としてよく問われます。なお、この段は本によって「七月七日は曇り暮らして」など少し形がちがいます。

1. 正月一日 元日はうららかな晴れ 2. 三月三日 桃の節句もうららかな晴れ 3. 五月五日 端午は一日じゅう曇り 4. 七月七日 七夕は夕方晴れ月と星が見える 5. 九月九日 重陽は小雨菊の綿が濡れる 6. つとめて 翌朝も曇り降りそうでをかし
図1 枕草子「正月一日は」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

正月一日、三月三日は、いとうららかなる。

現代語訳正月一日(元日)と三月三日(桃の節句)は、とてもうららかに晴れた日(がよい)。

  • 「うららかなる」は形容動詞「うららかなり」の連体形。下に「(日が)よい」などが省かれていて、連体形で止めて余韻を残す書き方(連体止め)。
  • 「三月三日」は上巳の節句(今のひな祭り・桃の節句)。春の行事にはのどかな晴れがふさわしい、という作者の好み。
サクラちゃん
サクラちゃん
「いとうららかなる」で文が終わってますけど、連体形で終わっていいんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
ええ質問や。係り結びやないのに連体形で終わるのは連体止め。下に「日(がよい)」みたいな言葉が省かれてると考えたらええ。言い切らずに余韻を残す書き方なんや。

2

五月五日は、曇り暮らしたる。

現代語訳五月五日(端午の節句)は、一日じゅう曇っている日(がよい)。

  • 「曇り暮らす」は「一日じゅう曇っている」。「暮らす」は「日が暮れるまで〜する」。
  • 「たる」は存続(〜ている)の「たり」の連体形。ここも連体形で止めている。→完了・存続の助動詞「たり・り」
  • 端午の節句は旧暦の五月で、今の6月ごろの梅雨どき。菖蒲(しょうぶ)やよもぎを軒にさす行事の日。
うかるくん
うかるくん
五月五日に曇りがいいなんて、変わってませんか?
ミスターT先生
ミスターT先生
旧暦の五月は今の6月ごろ、梅雨の季節や。しっとり曇った日に、軒の菖蒲やよもぎの香りがただよう。作者はその季節らしさが好きやったんやろな。

3

七月七日は、曇り、夕方は晴れたる空に、月いと明かく、星の数見えたる。

現代語訳七月七日(七夕)は、(昼は)曇っていて、夕方には晴れた空に、月がとても明るく、星がたくさん見えている日(がよい)。

  • 七夕は牽牛(ひこぼし)と織女(おりひめ)が年に一度会う夜。夜に晴れてくれないと二人が会えない、という気持ちがこもる。
  • 旧暦の七月七日は月の七日目なので、夜空に半月に近い月が出る。「明かし」は「明るい」。

4

九月九日は、暁方より雨少し降りて、菊の露もこちたく、覆ひたる綿などもいたく濡れ、移しの香ももてはやされたる。

現代語訳九月九日(重陽の節句)は、明け方から雨が少し降って、菊の露もたっぷりとおり、(菊に)かぶせてある綿などもひどく濡れて、(綿に)移った菊の香りもいっそう引き立てられている日(がよい)。

  • 九月九日は重陽の節句(菊の節句)。前の夜に菊の花に綿をかぶせて露と香りを移し、朝その綿で体をぬぐって長生きを願う「菊の着せ綿」という風習があった。
  • 「こちたし」は「ことごとしい・たっぷりだ・うるさいほど多い」。「いたく」は「ひどく」。
  • 「もてはやされ」の「れ」は受身(引き立てられる)。→助動詞「る・らる」の4つの意味(受身・尊敬・自発・可能)
合格先生
合格先生
菊の着せ綿、T先生の授業で初めて知りました。綿に菊の露と香りを移して、体をぬぐうと長生きできる……。雨で綿が濡れて香りが強まるのを「をかし」と見たんですね。

5

つとめては、やみにたれど、なほ曇りて、ややもすれば降り落ちぬべく見えたるもをかし。

現代語訳早朝には(雨は)やんでしまっているけれど、まだ曇っていて、ともすると今にも降り出しそうに見えているのも趣がある。

  • 「やみにたれど」の「に」は完了「ぬ」の連用形。「にき・にけり・にたり」の形で出る。→「に」の識別(完了の「に」)
  • 「降り落ちぬべく」の「ぬ」は強意(きっと〜)。「ぬべし」で「きっと〜しそうだ・今にも〜しそうだ」。→完了の助動詞「つ・ぬ」と強意のぬべし
  • 「つとめて」は「早朝」または「翌朝」。「ややもすれば」は「ともすると・どうかすると」。
サクラちゃん
サクラちゃん
「降り落ちぬべく」の「ぬ」は打消ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
ちゃうで。下に「べし」がある「ぬべし」の「ぬ」は強意。「きっと〜しそうだ」「今にも〜しそうだ」。打消の「ず」の連体形やったら下に「べし」はつかへん。ここ、テストに出るで!

5つの日と天気を表で確かめる

日付 行事 作者が好む天気 正月一日 元日 うららかな晴れ 三月三日 上巳(桃の節句) うららかな晴れ 五月五日 端午 一日じゅう曇り 七月七日 七夕 曇り→夕方晴れて月と星 九月九日 重陽(菊の節句) 明け方に小雨→翌朝も曇り
図2 「正月一日は」に出る5つの日と、作者が好む天気
ミスターT先生
ミスターT先生
5つの日付と天気の組み合わせ、表で覚えたら完ぺきや。とくに重陽=菊の着せ綿は古文常識の定番やで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
うららかなりうららかなりのどかに晴れている
曇り暮らすくもりくらす一日じゅう曇っている
明かしあかし明るい
暁あかつき夜明け前
こちたしこちたしたっぷりだ・おおげさだ
いたくいたくひどく
移しの香うつしのか(綿に)移った香り
もてはやすもてはやす引き立てる・ほめそやす
つとめてつとめて早朝・翌朝
ややもすればややもすればともすると
重陽ちょうよう九月九日の菊の節句
上巳じょうし三月三日の節句

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 この段で挙げられている5つの日付と、それぞれにふさわしいとされた天気を答えなさい。

正月一日・三月三日=うららかな晴れ、五月五日=一日じゅう曇り、七月七日=昼は曇りで夕方晴れて月と星が見える、九月九日=明け方に雨が少し降り、翌朝も曇り。

問2 「いとうららかなる」のように、文を連体形で終える書き方を何という?

連体止め(連体形止め)。余韻を残す書き方。

問3 九月九日に菊に綿をかぶせる風習を何という? 何のためにする?

菊の着せ綿。露と香りを移した綿で体をぬぐい、長寿を願う。

問4 「やみにたれど」の「に」を文法的に説明しなさい。

完了の助動詞「ぬ」の連用形。

問5 「ややもすれば降り落ちぬべく見えたる」を現代語訳しなさい。

「ともすると今にも降り出しそうに見えている。」「ぬべし」は強意+推量で「きっと〜しそうだ」。

問6 「つとめて」の意味を2つ答えなさい。

早朝、翌朝。

問7 この段は枕草子の三つの章段のうち、どれにあたる?

類聚章段(「〜は」の形で、同じ種類のことがらを集める段)。

サクラちゃん
サクラちゃん
五節句と天気、表で全部覚えました! 七夕の夜は晴れてほしいのは今も同じですね。

枕草子「正月一日は」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

正月一日、三月三日は、いとうららかなる。

五月五日は、曇り暮らしたる。

七月七日は、曇り、夕方は晴れたる空に、月いと明かく、星の数見えたる。

九月九日は、暁方より雨少し降りて、菊の露もこちたく、覆ひたる綿などもいたく濡れ、移しの香ももてはやされたる。

つとめては、やみにたれど、なほ曇りて、ややもすれば降り落ちぬべく見えたるもをかし。

枕草子「正月一日は」現代語訳(全文・通し)

正月一日(元日)と三月三日(桃の節句)は、とてもうららかに晴れた日(がよい)。

五月五日(端午の節句)は、一日じゅう曇っている日(がよい)。

七月七日(七夕)は、(昼は)曇っていて、夕方には晴れた空に、月がとても明るく、星がたくさん見えている日(がよい)。

九月九日(重陽の節句)は、明け方から雨が少し降って、菊の露もたっぷりとおり、(菊に)かぶせてある綿などもひどく濡れて、(綿に)移った菊の香りもいっそう引き立てられている日(がよい)。

早朝には(雨は)やんでしまっているけれど、まだ曇っていて、ともすると今にも降り出しそうに見えているのも趣がある。

枕草子「正月一日は」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(枕草子の基本)

枕草子の作者は誰?

清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。

枕草子はいつの作品?

平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。

枕草子の冒頭(書き出し)は?

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。

枕草子はどんな作品?

日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。

枕草子の目次(教科書に出る段)

枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。

  1. 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句 定番
  2. 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
  3. 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
  4. 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
  5. 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
  6. 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
  7. 枕草子「虫は」の原文・現代語訳 定番
  8. 枕草子「上にさぶらふ御猫は」の原文・現代語訳 定番
  9. 枕草子「中納言参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  10. 枕草子「雪のいと高う降りたるを」の原文・現代語訳 定番
  11. 枕草子「宮に初めて参りたるころ」の原文・現代語訳 定番
  12. 枕草子「九月ばかり」の原文・現代語訳 定番
  13. 枕草子「五月ばかりなどに山里にありく」の原文・現代語訳 定番
  14. 枕草子「二月つごもりごろに」の原文・現代語訳 定番
  15. 枕草子「頭の弁の、職に参りたまひて」の原文・現代語訳 定番
  16. 枕草子「大進生昌が家に」の原文・現代語訳 定番
  17. 枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを」の原文・現代語訳 定番
  18. 枕草子「ころは」の原文・現代語訳
  19. 枕草子「鳥は」の原文・現代語訳
  20. 枕草子「草の花は」の原文・現代語訳
  21. 枕草子「心ときめきするもの」の原文・現代語訳
  22. 枕草子「過ぎにしかた恋しきもの」の原文・現代語訳
  23. 枕草子「うれしきもの」の原文・現代語訳
  24. 枕草子「はしたなきもの」の原文・現代語訳
  25. 枕草子「かたはらいたきもの」の原文・現代語訳
  26. 枕草子「清涼殿の丑寅の隅の」の原文・現代語訳
  27. 枕草子「野分のまたの日こそ」の原文・現代語訳
  28. 枕草子「月のいと明かきに」の原文・現代語訳
  29. 正月一日は(このページ)
  30. 枕草子「職の御曹司におはしますころ」の原文・現代語訳
  31. 枕草子「遠くて近きもの・近うて遠きもの」の原文・現代語訳
ミスターT先生
ミスターT先生
次は「職の御曹司におはしますころ」。中宮定子のもとで、雪の山がいつまで残るか女房たちが賭けをする、ちょっと長めの回想章段や。

あわせて読みたい古文のページ

本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。