
随想章段
枕草子の随想章段「野分のまたの日こそ」(台風の次の日の趣)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。荒れた庭と、そこにたたずむ二人の女性の姿を描いた、絵のような段です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:台風の次の日は趣がある。垣根が倒れ、大木が草花の上に倒れ、格子のます目には木の葉が一枚ずつ吹きこまれている。寝起きの美しい女性が「むべ山風を」と古歌を口ずさみ、十七、八歳の少女は庭で草木を起こす人々を、簾ごしにうらやましそうに見ている。
- 文法の要点:係り結び(こそ…をかしけれ/こそ…おぼえね/や…あらむ)、存続「り」(伏せる・かかれる)、可能の「らる」(寝られざりければ)、婉曲の「む」、断定「なり」の連用形「に」(にやあらむ)。
- テストの定番:古今異義語「野分」=台風、「心苦し」=痛々しい、「めでたし」=すばらしい。「にやあらむ」=〜であろうか。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 古今異義語野分=台風、心苦し=痛々しい
- 係り結び:こそ…をかしけれ/こそ…おぼえね(打消の已然形)
- 存続のり(伏せる・かかれる)はサ未四已
- にやあらむ=断定「に」+係助詞「や」+推量「む」
- 可能のらるは打消とセット(寝られざりければ)
「野分のまたの日こそ」はどんな段?(随想章段・野分)
「野分のまたの日こそ」は、自然や人のようすを見て感じたことを書く随想章段です。ふつうなら「荒れてしまって残念」と思う台風のあとの庭を、作者はふだん見られない景色として楽しんでいます。
前半は庭のようす(倒れた垣根・草花の上の大木・格子の木の葉)、後半は二人の女性の姿です。寝起きの髪のまま古歌を口ずさむ大人の女性と、庭に出たくてうずうずしている少女。景色と人物を一枚の絵のように並べた書き方は、『源氏物語』の「野分」の巻と並べて語られることもあります。なお、能因本系の本文は風について書いた段の終わりにこの話を続けていて、形が少しちがいます(このページは三巻本系の形で読みます)。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。
現代語訳台風の吹いた次の日は、たいそうしみじみとして趣がある。
- 「野分」は秋に吹く強い風=今の台風。「野の草を分けて吹く風」から。今の日本語ではほとんど使わない古語。→古今異義語の一覧(あはれ・をかし・めでたし)
- 係り結び:「こそ」があるので、文末は形容詞「をかし」の已然形「をかしけれ」。→係り結びの決まり(こそ→已然形)
- 「またの日」は「次の日・翌日」。「いみじう」は「いみじく」のウ音便で「たいそう」。


2
立蔀、透垣などの乱れたるに、前栽どもいと心苦しげなり。
現代語訳立蔀や透垣などが(倒れて)乱れているところに、庭の植えこみの草木がとても痛々しいようすだ。
- 「立蔀」「透垣」はどちらも庭の仕切りや目かくし。「前栽」は庭に植えた草木。
- 「心苦しげなり」は見ていて気の毒だ・痛々しい。今の「申し訳ない」とはちがう。
3
大きなる木どもも倒れ、枝など吹き折られたるが、萩・女郎花などの上に、よろぼひ這ひ伏せる、いと思はずなり。
現代語訳大きな木々も倒れ、枝などが吹き折られているのが、萩や女郎花などの上に、よろけるように横倒しになっているのは、まったく思いもよらない(光景だ)。
- 「伏せる」の「る」は存続「り」の連体形。「り」は四段の已然形(伏せ)につく(サ未四已)。→完了・存続の助動詞「たり・り」
- 「吹き折られ」の「れ」は受身(風に吹き折られる)。→助動詞「る・らる」の4つの意味
- 「思はずなり」は「思いがけない・意外だ」。大木が小さな草花の上に倒れている、ふだんでは見られない景色。


4
格子の壺などに、木の葉をことさらにしたらむやうに、こまごまと吹き入れたるこそ、荒かりつる風のしわざとはおぼえね。
現代語訳格子の一つ一つのます目などに、木の葉をわざわざ(一枚ずつ)入れたかのように、細かく吹き入れてあるのは、あの荒々しかった風のしわざとは思われない。
- 係り結び:「こそ」→文末は打消「ず」の已然形「ね」。「ね」を見たら「こそ」の結びかどうかを確かめる。→「ね」の識別(打消「ず」の已然形と完了「ぬ」の命令形)
- 「したらむやうに」の「む」は婉曲(〜ような)。下に体言(やう)があるときの「む」によくある。→助動詞「む」の意味(推量・意志・婉曲・仮定)
- 荒い風とこまやかな木の葉の並びの対比が、この段でいちばん「をかし」と感じた所。

5
いと濃き衣のうはぐもりたるに、黄朽葉の織物、薄物などの小袿着て、まことしうきよげなる人の、夜は風のさわぎに寝られざりければ、久しう寝起きたるままに、母屋よりすこしゐざり出でたる、
現代語訳とても濃い色の着物の、つやが少しくもっているものに、黄朽葉色の織物や薄い絹の小袿を重ねて着て、本当にきれいな女の人が、夜は風の騒がしさで眠れなかったので、遅くまで寝ていて起きたそのままの姿で、母屋から少しひざで進み出てきたところ、
- 「寝られざりければ」の「られ」は可能。平安時代の「る・らる」の可能は、ほとんど下に打消がついて「〜できない」になる。→「る・らる」の可能は打消とセット
- 「ゐざる」は、ひざをついたまま進むこと。身分の高い女性の室内での動き方。
- 「黄朽葉」は秋らしい色の名前(黄色がかった朽葉色)。野分の季節に合わせた服の色。


6
髪は風に吹きまよはされて、すこしうちふくだみたるが、肩にかかれるほど、まことにめでたし。
現代語訳髪は風に吹き乱されて、少しふくらんでいるのが、肩にかかっているようすは、本当にすばらしい。
- 「ふくだむ」は「(髪が)けば立つ・ふくらむ」。きちんと整っていない寝起きの髪を、作者はかえって美しいと見ている。
- 「めでたし」は「すばらしい」。今の「おめでたい」ではない。
- 「かかれる」も「かかれ(四段已然形)+存続『り』連体形」。
7
ものあはれなるけしきに見出だして、「むべ山風を」など言ひたるも、心あらむと見ゆるに、
現代語訳(その人が)しみじみとしたようすで外をながめて、「むべ山風を」などと(古歌を)口ずさんでいるのも、情趣を解する人なのだろうと見えるが、
- 「むべ山風を」は、『古今和歌集』の文屋康秀の歌「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ」(百人一首22番)の一部。「山」と「風」で「嵐」という字になる、という言葉遊びの歌。
- 野分の次の朝に、ぴったりの古歌をさっと口にできる=教養のある人。「心あり」は「情趣が分かる」。


8
十七、八ばかりにやあらむ、ちひさうはあらねど、わざと大人とは見えぬが、生絹の単衣のいみじうほころび絶え、花もかへり濡れなどしたる薄色の宿直物を着て、
現代語訳十七、八歳くらいであろうか、小さくはないけれど、とりたてて大人とは見えない少女が、生絹の単衣のひどくほころびて糸が切れたものや、色もあせて(夜露に)濡れたりしている薄紫色の夜着を着て、
- 「〜にやあらむ」は、「に」=断定「なり」の連用形、「や」=係助詞(疑問)、「む」=推量の連体形(結び)。「〜であろうか」と訳す決まった形。→「に」の識別(断定のにやあらむ)
- 「ちひさう」は「ちひさく」のウ音便。「ね」は打消「ず」の已然形で、下に「ど」があるので「〜ないけれど」。
- 「生絹」は生糸で織った薄い絹。「宿直物」は夜に着る着物。


9
髪、色に、こまごまとうるはしう、末も尾花のやうにて、丈ばかりなりければ、衣の裾にかくれて、袴のそばそばより見ゆるに、
現代語訳髪はつやつやとして、一本一本までこまやかで美しく、毛先もすすきの穂のようにふさふさしていて、背丈ほどの長さだったので、着物の裾にかくれて、袴のわきのあちこちから見えているが、
- 「尾花」はすすきの穂。秋の七草の一つ。野分の段にふさわしいたとえ。
- 「丈ばかりなり」の「なり」は名詞「丈」+副助詞「ばかり」についているので断定(〜である)。
- 平安時代の女性は、背丈ほどある長い黒髪が美しいとされた。
10
童べ、若き人々の、根ごめに吹き折られたる、ここかしこに取り集め、起こし立てなどするを、うらやましげに押し張りて、簾に添ひたる後ろでもをかし。
現代語訳女の童や若い女房たちが、根こそぎ吹き倒された草木を、あちこちで拾い集めたり、起こして立て直したりしているのを、(自分も庭に出たいと)うらやましそうに(簾を)押し広げて、簾にぴったり寄りそっている後ろ姿も趣がある。
- 「根ごめに」は「根もろとも・根こそぎ」。
- 少女は庭に下りて手伝いたいのに、身分がら出られない。そのもどかしさが「うらやましげに」に表れている。
- 最後は「をかし」で終わり、最初の「あはれにをかしけれ」とつながる。荒れた庭と二人の女性の姿を、絵のように描いた段。

「野分」の段の古今異義語を表で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 野分 | のわき | 秋の強い風・台風 |
| またの日 | またのひ | 次の日・翌日 |
| 前栽 | せんざい | 庭に植えた草木 |
| 心苦しげなり | こころぐるしげなり | 見ていて痛々しい |
| 思はずなり | おもわずなり | 思いがけない・意外だ |
| ことさらなり | ことさらなり | わざとだ |
| まことし | まことし | 本当だ・本格的だ |
| きよげなり | きよげなり | きれいだ・美しい |
| ゐざる | いざる | ひざで進む |
| ふくだむ | ふくだむ | (髪が)ふくらむ・けば立つ |
| めでたし | めでたし | すばらしい |
| むべ | むべ | なるほど・もっともだ |
| 心あり | こころあり | 情趣を解する |
| 尾花 | おばな | すすきの穂 |
| 根ごめに | ねごめに | 根こそぎ |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「野分」の読みと意味は?
「のわき(のわけ)」。秋に吹く強い風で、今の台風のこと。
問2 「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ」で、文末が「をかしけれ」になっているのはなぜ?
上に係助詞「こそ」があるので、文末が已然形になる(係り結び)。
問3 「よろぼひ這ひ伏せる」の「る」を文法的に説明しなさい。
存続の助動詞「り」の連体形。四段動詞「伏す」の已然形「伏せ」に接続している。
問4 「荒かりつる風のしわざとはおぼえね」の「ね」は何?
打消の助動詞「ず」の已然形。上の係助詞「こそ」の結び。
問5 「夜は風のさわぎに寝られざりければ」の「られ」の意味は?
可能(下に打消があり「眠ることができなかったので」)。
問6 「むべ山風を」は何という歌の一部か。作者と歌集も答えなさい。
「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ」。文屋康秀の歌で『古今和歌集』(百人一首22番)。
問7 「十七、八ばかりにやあらむ」を文法に注意して現代語訳しなさい。
「十七、八歳くらいであろうか。」「に」は断定「なり」の連用形、「や」は疑問の係助詞、「む」は推量の連体形(結び)。
問8 「心苦しげなり」「めでたし」の、この段での意味は?
「心苦しげなり」=見ていて痛々しい・気の毒だ。「めでたし」=すばらしい。

枕草子「野分のまたの日こそ」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。
立蔀、透垣などの乱れたるに、前栽どもいと心苦しげなり。
大きなる木どもも倒れ、枝など吹き折られたるが、萩・女郎花などの上に、よろぼひ這ひ伏せる、いと思はずなり。
格子の壺などに、木の葉をことさらにしたらむやうに、こまごまと吹き入れたるこそ、荒かりつる風のしわざとはおぼえね。
いと濃き衣のうはぐもりたるに、黄朽葉の織物、薄物などの小袿着て、まことしうきよげなる人の、夜は風のさわぎに寝られざりければ、久しう寝起きたるままに、母屋よりすこしゐざり出でたる、
髪は風に吹きまよはされて、すこしうちふくだみたるが、肩にかかれるほど、まことにめでたし。
ものあはれなるけしきに見出だして、「むべ山風を」など言ひたるも、心あらむと見ゆるに、
十七、八ばかりにやあらむ、ちひさうはあらねど、わざと大人とは見えぬが、生絹の単衣のいみじうほころび絶え、花もかへり濡れなどしたる薄色の宿直物を着て、
髪、色に、こまごまとうるはしう、末も尾花のやうにて、丈ばかりなりければ、衣の裾にかくれて、袴のそばそばより見ゆるに、
童べ、若き人々の、根ごめに吹き折られたる、ここかしこに取り集め、起こし立てなどするを、うらやましげに押し張りて、簾に添ひたる後ろでもをかし。
枕草子「野分のまたの日こそ」現代語訳(全文・通し)
台風の吹いた次の日は、たいそうしみじみとして趣がある。
立蔀や透垣などが(倒れて)乱れているところに、庭の植えこみの草木がとても痛々しいようすだ。
大きな木々も倒れ、枝などが吹き折られているのが、萩や女郎花などの上に、よろけるように横倒しになっているのは、まったく思いもよらない(光景だ)。
格子の一つ一つのます目などに、木の葉をわざわざ(一枚ずつ)入れたかのように、細かく吹き入れてあるのは、あの荒々しかった風のしわざとは思われない。
とても濃い色の着物の、つやが少しくもっているものに、黄朽葉色の織物や薄い絹の小袿を重ねて着て、本当にきれいな女の人が、夜は風の騒がしさで眠れなかったので、遅くまで寝ていて起きたそのままの姿で、母屋から少しひざで進み出てきたところ、
髪は風に吹き乱されて、少しふくらんでいるのが、肩にかかっているようすは、本当にすばらしい。
(その人が)しみじみとしたようすで外をながめて、「むべ山風を」などと(古歌を)口ずさんでいるのも、情趣を解する人なのだろうと見えるが、
十七、八歳くらいであろうか、小さくはないけれど、とりたてて大人とは見えない少女が、生絹の単衣のひどくほころびて糸が切れたものや、色もあせて(夜露に)濡れたりしている薄紫色の夜着を着て、
髪はつやつやとして、一本一本までこまやかで美しく、毛先もすすきの穂のようにふさふさしていて、背丈ほどの長さだったので、着物の裾にかくれて、袴のわきのあちこちから見えているが、
女の童や若い女房たちが、根こそぎ吹き倒された草木を、あちこちで拾い集めたり、起こして立て直したりしているのを、(自分も庭に出たいと)うらやましそうに(簾を)押し広げて、簾にぴったり寄りそっている後ろ姿も趣がある。
枕草子「野分のまたの日こそ」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(枕草子の基本)
枕草子の作者は誰?
清少納言です。一条天皇の中宮定子に仕えた女房で、歌人の清原元輔の娘です。
枕草子はいつの作品?
平安時代の中ごろ、1000年(長保2年)前後に書かれたとされます。
枕草子の冒頭(書き出し)は?
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」です。
枕草子はどんな作品?
日本最古の随筆とされ、鴨長明『方丈記』、兼好法師(吉田兼好)『徒然草』と並ぶ三大随筆の一つです。「〜もの」と物を集める類聚章段、自然や人を見て感じたことを書く随想章段、宮仕えの思い出を書く回想(日記)章段の3種類の段があり、「をかし」の文学と呼ばれます。
枕草子の目次(教科書に出る段)
枕草子の入口(教科書に出る段の一覧・作者清少納言と中宮定子) 「定番」は教科書によく出る段です。
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- 枕草子「うつくしきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「にくきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「すさまじきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「ありがたきもの」の原文・現代語訳 定番
- 枕草子「木の花は」の原文・現代語訳 定番
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本文は『枕草子』を、教科書で広く読まれる形(三巻本系)にそろえ、新字体・現代の送り仮名に直したものです(参考にした古い本:Wikisource の枕草子、明治の『國文大觀』〈能因本系〉)。枕草子は本によって語句や段の分け方が少しずつちがうため、段の番号ではなく段の名前で示しています。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


