沐猴にして冠す(もっこうにしてかんす)の意味と由来|項羽と「繍を衣て夜行く」史記の原文・書き下し文・現代語訳、例文・似た言葉をイラストで【故事成語】

沐猴にして冠す(もっこうにしてかんす)の意味と由来|項羽と「繍を衣て夜行く」史記の原文・書き下し文・現代語訳、例文・似た言葉をイラストで【故事成語】

故事成語の一覧 › 『史記』

大学受験難関大

沐猴にして冠すもっこうにしてかんす

ひとことで言うと

猿が冠をかぶったように、見かけや地位は立派でも中身がともなわないこと。咸陽を焼いて故郷へ帰ろうとした項羽を、ある人が「楚人は沐猴にして冠するのみ」とあざけった話から。

読み方もっこうにしてかんす(沐猴而冠=もっこうじかん)
意味見かけは立派でも、中身(心・器量)がともなわないこと。地位にふさわしくない人物をあざける言葉。
出典『史記』項羽本紀「人言楚人沐猴而冠耳、果然」
お話咸陽を焼き、「富貴にして故郷に帰らざるは繍を衣て夜行くが如し」と言って東へ帰ろうとした項羽を、関中を都にとすすめた人があざけった
似た言葉羊頭狗肉(ようとうくにく)・見かけ倒し・張り子の虎・有名無実
反対の言葉名実ともに・能ある鷹は爪を隠す
漢文の句法置き字(而)・限定(耳)・比況(如)・反語(誰か〜者ぞ)

このページのポイント

  • 「沐猴にして冠す」は、見かけや地位は立派でも中身がないこと。沐猴は猿
  • もとは『史記』項羽本紀。鴻門の会のあと、咸陽を焼いて故郷へ帰ろうとした項羽をあざけった言葉
  • 「繍を衣て夜行く」と「故郷に錦を飾る」、『史記』と『漢書』のちがい、句法、入試の出方まで分かります

「沐猴にして冠す」の意味と読み方

「沐猴にして冠す」はもっこうにしてかんすと読みます。意味は「猿が冠をかぶったように、見かけや地位だけは立派でも、中身(心・考え・器量)がともなっていないこと」です。地位にふさわしくない、つまらない人物をあざけって言う、きびしい言葉です。4字のまま「沐猴而冠(もっこうじかん)」とも言います。

「沐猴(もっこう)」は猿(さる)のことです。昔の注釈では「獼猴(びこう)」という猿のこととされています。「冠す」は、冠(かんむり)をかぶること。冠は、昔の中国では役人や身分の高い人がかぶるものでした。猿が冠をかぶっても、見かけだけ人のまねをしているだけで、中身は猿のまま――というたとえです。もとは中国の歴史書『史記』項羽本紀で、楚の項羽(こうう)をあざけった言葉です。

「沐猴而冠」を分けると沐猴もっこう猿(さる)而(にして)読まない字冠かんす冠をかぶる猿が冠をかぶっている見かけは人(役人)でも中身は猿のまま見かけだけ立派で中身がともなわない
「沐猴(猿)」が「冠」をかぶる。見かけだけ立派で、中身がともなわないたとえです
うかるくん

うかるくん

項羽って、「抜山蓋世」のあのすごく強い武将ですよね? どうして猿なんて言われたんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

そう、抜山蓋世(ばつざんがいせい)の項羽だ。戦いの強さはだれも疑わなかった。でも、秦をほろぼして天下の頂点に立ったあと、「天下を治める王としての中身」があるかどうかは別の話だよね。都の宮殿を焼き、いちばん大事な土地を捨てて、「出世した姿を故郷に見せたい」と言った。それを聞いた人が、「冠(王の地位)をかぶっていても、中身は猿だ」とあざけったんだ。

ふだんの言い方では、たとえば次のように使います。

  • ○肩書きばかり立派で、何も決められない社長は、まさに沐猴にして冠すだ。
  • ○高級なスーツを着ても、約束を守らないようでは沐猴にして冠すと言われてもしかたがない。
  • ○役職につくなら、沐猴にして冠すと笑われないよう、中身をみがかなければならない。

「冠」は「冠」の読み方・書き順・部首、「猿」は「猿」の読み方・書き順・部首で、読み方と書き順を確かめておきましょう。「沐」「猴」は常用漢字ではありません。「沐」は「髪を洗う」という字(「沐浴」のもく)、「猴」は「さる」を表す字です。

絵で読む「沐猴にして冠す」のお話

お話の舞台は、今から2200年ほど前、秦がほろびた直後の中国です。秦の都・咸陽(かんよう)に先に入ったのは劉邦(りゅうほう)でしたが、40万の大軍をひきいる項羽がそのあとにやって来ました。二人が顔を合わせたのが有名な鴻門の会の意味と由来(項羽と劉邦の宴会)です。この話は、その数日後の出来事です。4つの場面で見てみましょう。

絵で読む「沐猴にして冠す」(『史記』項羽本紀の4こま)

1咸陽の宮殿を焼く秦の宮室を焼き、火三月滅えず
1鴻門の会の数日後、項羽は秦の都・咸陽(かんよう)に入り、秦の宮殿を焼きはらいました。火は三か月も消えなかったといいます。項羽は宝物を集めて、東へ帰ろうとしました。
2関中を都に関中は山と川に守られ土地も豊かです。ここを都にしましょう(故郷の楚に帰りたい…)進言した人項羽
2ある人が項羽に「関中(かんちゅう)は山と川に守られた土地で、作物もよくとれます。ここを都にすれば、天下の覇者になれます」とすすめました。しかし項羽は、故郷の楚に帰りたい気持ちでいっぱいでした。
3繍を衣て夜行く??出世して故郷に帰らないのは夜に晴れ着で歩くのと同じ!だれにも分からない項羽
3項羽は答えます。「富貴(出世してお金も地位も手に入れたの)に故郷に帰らないのは、きれいな刺しゅうの着物を着て夜道を歩くようなものだ。だれが気づいてくれるものか」。
4沐猴にして冠す人は言ふ、楚人は沐猴にして冠するのみと
4すすめた人は、こうつぶやきました。「人は『楚の人は、猿が冠をかぶっているだけだ』と言うが、本当にそのとおりだ」。これが「沐猴にして冠す」です。

2こま目で進言した人は、関中を「四塞(しそく)の地」と言いました。東西南北の四方を山や川でふさがれ、敵が攻めこみにくい土地という意味です。しかも土地がこえていて、作物がよくとれました。天下を治める都として、これ以上の場所はなかったのです。

人差し指を立てて説明するミスターT先生

ミスターT先生

この話のポイントは、項羽が都を選ぶ理由が「天下を治めやすいか」ではなく、「故郷の人に出世した姿を見せたい」だったことだ。だから「王の冠をかぶっていても、中身は猿」と言われたんだね。

3こま目の「繍(しゅう)を衣(き)て夜行く」は、「刺しゅうをした美しい着物を着て、夜道を歩く」ことです。どんなに立派な着物でも、夜ではだれにも見てもらえません。「出世したのに故郷に帰らないのは、それと同じでつまらない」というのが項羽の考えでした。日本の「故郷に錦を飾る」(出世して故郷に帰る)は、この言葉がもとになったとされています。

関中(かんちゅう)と彭城(ほうじょう)咸陽関中彭城(楚)項羽の故郷の方東へ・関中は山と川に囲まれた「四塞の地」・項羽は関中を捨て、東の彭城を都にした・劉邦はのちに関中を都に(長安)
守りやすい関中を捨て、項羽は東の故郷へ帰りました

「沐猴にして冠す」の原文・書き下し文・現代語訳

もとになった文章は、『史記』項羽本紀にあります。1文ずつ、返り点と送り仮名をつけた訓読文で見ていきましょう(書き下し文は代表的な読み方の一例です)。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方とルールでくわしく説明しています。

白文(『史記』項羽本紀、一部)焼秦宮室、火三月不滅。…人或説項王曰、関中阻山河四塞、地肥饒、可都以霸。項王見秦宮皆以焼残破、又心懐思欲東帰、曰、富貴不帰故郷、如衣繍夜行、誰知之者。説者曰、人言楚人沐猴而冠耳。果然。

1文目:秦の宮殿を焼く

書き下し文秦しんの宮きゆう室しつを焼やき、火ひ三さん月げつ滅きえず。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳(項羽は)秦の宮殿を焼き、火は三か月のあいだ消えなかった。

ここがポイント「不」は否定で「〜ず」と読みます(否定の句法(不・弗・非・無・莫))。「火三月滅えず」は、それほど大きな宮殿が、すっかり焼けたということです。

2文目:富貴にして故郷に帰らざるは

書き下し文富ふう貴きにして故こ郷きやうに帰かへらざるは、繍しうを衣きて夜よる行ゆくが如ごとし。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳出世して金持ちになったのに故郷に帰らないのは、刺しゅうの着物を着て夜道を歩くようなものだ。

ここがポイント「如(ごとし)」は「〜のようだ」とたとえる字で、比況の句法(如・若・猶)でくわしく練習できます。上・下点と一・二点、レ点がまざった形なので、読む順番の番号をよく見ましょう。

3文目:誰か之を知る者ぞ

書き下し文誰たれか之これを知しる者ものぞ。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳だれがそれを知ってくれるだろうか(だれも知ってくれない)。

ここがポイント「誰か〜者ぞ」は「だれが〜か、いや、だれも〜ない」という反語の形です。反語の句法(豈・安・誰・何)で整理しています。

4文目:楚人は沐猴にして冠するのみ

書き下し文人ひと言いふ、楚そ人ひとは沐もく猴こうにして冠かんするのみと。果はたして然しかり。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳人々は「楚の人は、猿が冠をかぶっているだけだ」と言うが、本当にそのとおりだ。

ここがポイントここが「沐猴にして冠す」のもとの文です。「而」は読まない置き字(而・於・于・乎・矣・焉)で、前の語に「にして」をつけて読みます。「耳(のみ)」は「〜だけだ」と範囲をしぼる限定の句法(唯・只・耳・而已)の字です。「果たして然り」は「思ったとおりだ」。
原文で覚える句法4つ而〜にして読まない置き字置き字耳〜のみ〜だけだ限定如〜が如し〜のようだ比況誰〜者誰か〜者ぞだれが〜か(いや、いない)反語
「沐猴にして冠す」の原文には、置き字・限定・比況・反語の形が入っています

原典(『史記』項羽本紀)の本文では

維基文庫(中国語のウィキソース)の『史記』項羽本紀では、この場面は次のようになっています(句読点は維基文庫の本文のとおり)。

『史記』項羽本紀の本文(一部)人或說項王曰:「關中阻山河四塞,地肥饒,可都以霸。」項王見秦宮皆以燒殘破,又心懷思欲東歸,曰:「富貴不歸故鄉,如衣繡夜行,誰知之者!」說者曰:「人言楚人沐猴而冠耳,果然。」
  • 「說者(ぜいしゃ)」:進言した人。「説」は、ここでは「とく(意見を述べてすすめる)」の意味で、「ぜい」と読みます。『史記』は名前を書いていません。
  • 「可都以霸(都して以て霸たるべし)」:ここを都にすれば、天下の覇者になれる。
  • 「心懷思欲東歸(心に懐ひ思ひて東に帰らんと欲す)」:故郷を恋しく思って、東へ帰りたくなった。
  • 「衣繡(いしゅう)」:刺しゅうの着物を着ること。「衣」はここでは動詞で「きる」と読みます。

昔の注釈書『史記集解(しきしっかい)』は、張晏(ちょうあん)という学者の説として「沐猴は獼猴なり(沐猴とは獼猴という猿のことだ)」と書いています。また『史記索隠(しきさくいん)』は、「猿は冠や帯を長く身につけていられない。楚の人が気短で荒っぽいことのたとえだ」と説明しています。今の国語辞典では「見かけだけ立派で中身がない」という意味で説明されるのがふつうですが、昔はこういう見方もあったのです。

「猿が冠」のたとえ、2つの見方見方1 見かけだけで中身がない冠をかぶっても、中身は猿のまま地位や服は立派でも、心や器量が足りない→ 今の国語辞典の意味はこちら見方2 冠をがまんできない(注釈)猿は冠を長くかぶっていられない楚の人は気が短く、荒っぽいというたとえ→『史記索隠』の説明(諸説あり)
今の意味は「見かけだけ」。昔の注釈には「冠をがまんできない=気短」という見方もあります
サクラちゃん

サクラちゃん

「猿」と言われた人は、だれなんですか? そして、言った人はどうなったんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

言われたのは「楚の人」、つまり項羽たちのことだ。言った人の名前は『史記』には書かれていないけれど、『漢書』では「韓生(かんせい)」、ほかの本では「蔡生(さいせい)」とされている。その人は、この言葉を項羽に聞かれてしまい、項羽の怒りにふれて罰を受け、命を落としたと書かれているんだ。思ったことをそのまま口に出すのは、昔もとても危険なことだったんだね。

出典『史記』と話の背景

『史記』は、前漢の司馬遷(しばせん)が書いた歴史書です。王の記録「本紀」、人物の伝記「列伝」などからなる全130巻の大作で、項羽の記録は皇帝と同じ「本紀」に入れられています。この話は、鴻門の会、そして項荘剣を舞わすの意味と由来の場面のすぐあとに続く部分です。

『史記』と『漢書』のちがい

同じ出来事は、後の時代にまとめられた歴史書『漢書(かんじょ)』項籍伝にも書かれています。内容はほぼ同じですが、言葉が少しちがいます。とくに、項羽の言葉の着物が、『史記』では「繍(しゅう=刺しゅう)」、『漢書』では「錦(にしき)」になっています。日本の「錦を飾る」は、この「錦」の形とつながっています。

『史記』と『漢書』の書き方『史記』項羽本紀『漢書』項籍伝言った人説者(名前なし)韓生(かんせい)着物繍(しゅう)錦(にしき)悪口の文人言楚人沐猴而冠耳人謂楚人沐猴而冠進言の言葉可都以霸可都以伯『楚漢春秋』などは言った人を「蔡生」とする(『史記集解』)
同じ場面でも、『史記』と『漢書』では言葉が少しちがいます

「故郷に錦を飾る」とのつながり

項羽の「繍を衣て夜行くが如し」は、日本語の「故郷に錦を飾る(出世して晴れがましく故郷へ帰る)」のもとになった言葉の一つとされています。「錦」は、色とりどりの糸でもようを織り出した豪華な絹の布のことで、「錦」の読み方・書き順・部首で読み方を確かめられます。反対に、夜に錦を着て歩くのは、「せっかくの立派なことも、人に知られなければ意味がない」たとえとして使われるようになりました。

「夜行く」と「錦を飾る」項羽の言葉(『史記』)富貴にして故郷に帰らざるは、繍を衣て夜行くが如し『史記』繍(しゅう)刺しゅうの着物『漢書』錦(にしき)もようを織った絹日本語「故郷に錦を飾る」出世して、晴れがましく故郷へ帰ること
「繍を衣て夜行く」から、日本の「故郷に錦を飾る」へ

昔の中国の「冠」とは

このたとえがきびしく聞こえるのは、昔の中国で「冠」がとても大切なものだったからです。男子は成人すると「冠礼(かんれい)」という儀式で初めて冠をかぶり、一人前の大人として認められました。『礼記(らいき)』曲礼には「二十を弱と曰ひ、冠す」とあり、ここから20歳のことを「弱冠(じゃっかん)」と言います(今は「若い」という意味で「弱冠18歳」のようにも使います)。冠婚葬祭の「冠」も、この成人の儀式のことです。

つまり冠は、「礼儀をわきまえた一人前の人間」であることのしるしでした。その冠を猿がかぶっている、というのは、「見かけは礼儀正しい大人や役人でも、中身は礼儀も分別もない」という、とても強い悪口なのです。地位の高い人ほど、冠にふさわしい中身が求められました。

都を捨てた項羽、関中を選んだ劉邦

項羽は結局、関中を都にせず、東の彭城(ほうじょう)を都にして「西楚の覇王」と名のりました。そして関中は、秦から降った3人の将軍に分けあたえました。ところが劉邦は、まもなく関中を手に入れ、そこを足がかりに項羽と争います。天下をとったあとも、劉邦は張良たちのすすめで関中を都にしました(のちの長安)。「関中を捨てた項羽」と「関中を選んだ劉邦」のちがいが、天下の行方を分けたとも言えます。

項羽はその後、垓下(がいか)で劉邦の軍に囲まれ、四面楚歌の意味と由来(垓下の戦い)の夜をむかえます。そこで歌われたのが「力は山を抜き、気は世を蓋ふ」――抜山蓋世の意味と由来(項羽の垓下の歌)の歌です。戦いの「力」はだれにも負けなかった項羽が、なぜ「冠をかぶった猿」とまで言われたのか。2つのページを読みくらべると、項羽という人物がよく分かります。

「沐猴にして冠す」の使い方と例文・似た言葉

「沐猴にして冠す」は、地位・肩書き・服装などの見かけは立派だが、それにふさわしい中身がない人を、きびしく批判するときに使います。人をあざける強い言葉なので、目の前の人に向かって使うのはさけ、文章や評論の中で使うことが多い言葉です。

  • ○実力もないのに親の七光りで社長になった彼を、世間は沐猴にして冠すと評した。
  • ○制服だけ立派にしても、規律がなければ沐猴にして冠すの軍隊にすぎない。
  • ○リーダーの座についた以上、沐猴にして冠すと言われないよう努力したい。
  • ○形ばかりのルールを作っても、守る人がいなければ沐猴にして冠すだ。
  • ×動物園の猿が帽子をかぶっていて、沐猴にして冠すでかわいかった。(本物の猿の話ではなく、人をあざけるたとえ)
  • ×彼は見た目も中身もすばらしく、まさに沐猴にして冠すだ。(ほめ言葉ではない)

使うときのコツは、「何が冠(見かけ)で、何が中身か」をはっきりさせることです。冠にあたるのは、肩書き・役職・制服・ブランド品・立派な建物など、外から見えるもの。中身にあたるのは、実力・判断力・礼儀・責任感など、行動でしか分からないものです。人を直接批判するより、「わたしも肩書きに見合う中身をつけないと、沐猴にして冠すになってしまう」のように、自分をいましめる形で使うと、角が立ちません。

似た言葉

  • 羊頭狗肉(ようとうくにく)の意味と由来:看板には羊の頭、売っているのは犬の肉。見かけと中身がちがうこと。
  • 見かけ倒し:見かけは立派だが、中身はおとっていること。
  • 張り子の虎:見かけは強そうだが、じつは弱いこと。
  • 虎の威を借る狐の意味と由来:強い者の力をたのんでいばる、中身のない者。
  • 有名無実(ゆうめいむじつ):名前ばかりで、中身がともなわないこと。

反対の言葉・考え方

  • 名実ともに:名前(評判・地位)と中身が、どちらもそろっていること。
  • 能ある鷹は爪を隠す:本当に実力のある人は、それを見せびらかさないこと。
  • 大器晩成(たいきばんせい)の意味:大人物は、時間をかけて中身が育ち、やがて大成すること。
見かけと中身の4つの組み合わせ中身がある中身がない見かけが立派見かけは地味名実ともに見かけも中身もそろっている沐猴にして冠す羊頭狗肉見かけ倒し能ある鷹は爪を隠す(実力を隠す)これから見かけより先に中身を育てよう
見かけは立派でも中身がない――それが「沐猴にして冠す」

英語では、"a monkey in a crown"(冠をかぶった猿)とそのまま訳すほか、"all show and no substance"(見かけばかりで中身がない)、"Fine feathers don't make fine birds."(立派な羽根が立派な鳥を作るのではない)ということわざが近い意味です。

受験勉強への生かし方

受験勉強にも「冠をかぶった猿」はひそんでいます。たとえば、色ペンで美しくまとめたノート、本だなにずらりとならんだ参考書、長い時間机に向かっていたという記録。どれも「勉強しているように見える冠」ですが、それで問題が解けるようになっていなければ、中身は猿のままです。

大事なのは、見かけではなく「解ける力」という中身です。「問題集を終わらせることを目標にするな」の意味(成績が伸びる問題集の使い方)を読むと、「終わらせた」という見かけより、解けなかった問題を解けるようにすることが大切だと分かります。英単語でも、何冊もの単語帳をそろえるより、英単語の覚え方(単語帳は1冊を極める)ことが近道です。勉強道具を新しくそろえたくなったら、受験生に買ってはいけないグッズも読んでみてください。冠ではなく、中身をみがきましょう。

「沐猴にして冠す」のよくあるまちがい

  • 「もくこう」「ぼっこう」と読む:正しくは「もっこう」です。「沐(もく)」+「猴(こう)」がつまって「もっこう」になります。
  • 「冠す」を「かむす」「かんむりす」と読む:「かんす」と読みます。「冠をかぶる」という意味の動詞です。
  • 「沐」を「木」「休」と書く:さんずいの「沐」です。もとは「髪を洗う」意味の字で、猿がよく顔をなでるしぐさが顔を洗うように見えるから「沐猴」と言う、という説明もあります(諸説あり)。
  • 項羽が言った言葉だと思う:項羽が言ったのは「繍を衣て夜行くが如し」です。「沐猴にして冠す」は、それを聞いた進言した人が項羽たちをあざけった言葉です。
  • 「猿まね」の意味だと思う:人のまねをすることではなく、見かけや地位にふさわしい中身がないことを表します。
  • ほめ言葉やかわいいたとえだと思う:人をきびしくあざける言葉です。
うかるくん

うかるくん

「羊頭狗肉」と「沐猴にして冠す」、どうちがうんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

「羊頭狗肉」は、看板(羊の頭)と商品(犬の肉)がちがう――つまり宣伝と中身がくいちがう、ごまかしに使うことが多い。お店や商品、計画などにも使えるね。「沐猴にして冠す」は、人が地位や服装にふさわしい器でないことをあざける言葉だ。「人の器」の話なら沐猴、「看板と中身のずれ」なら羊頭狗肉、と覚えよう。

入試ではこう出る

「沐猴にして冠す」は、おもに大学受験の漢文や国語で出会う言葉です。

  • 大学受験(漢文):『史記』項羽本紀の「鴻門の会」に続く部分として読まれることがあります。「富貴にして故郷に帰らざるは」の返り点と書き下し文、「如」の比況、「誰か之を知る者ぞ」の反語、「耳(のみ)」の限定、「果たして然り」の意味がよく問われます。共通テストの漢文の力をつけるには共通テストの漢文の対策も参考にしてください。
  • 人物の心情を問う問題:項羽が関中を都にしなかった理由(故郷に出世した姿を見せたい)や、進言した人が「沐猴にして冠す」と言った気持ち(項羽に天下を治める器がないと思った)を説明させる問題が考えられます。
  • 国語の語彙:評論文の中で「沐猴而冠」が使われ、意味を選ばせる問題や、「故郷に錦を飾る」の由来を問う問題が出ることがあります。高校受験で出ることは多くありません。
ひらめいたサクラちゃん

サクラちゃん

「沐猴にして冠す」は見かけだけ立派で、中身がないこと! 沐猴は猿。項羽が「繍を衣て夜行くが如し」と言ったのを聞いた人が、あざけった言葉です!

練習問題

やさしい

  1. 「沐猴にして冠す」の読み方を、ひらがなで答えましょう。
    答えと解説を見るもっこうにしてかんす。「沐猴」は「もっこう」、「冠す」は「かんす」と読みます。
  2. 「沐猴にして冠す」の意味として正しいものを選びましょう。
    ア 人のまねばかりすること イ 見かけは立派でも、中身がともなわないこと ウ 力がきわめて強いこと エ 故郷に帰って出世を見せること
    答えと解説を見るイ。「沐猴」は猿のことで、猿が冠をかぶっても中身は猿のまま、というたとえです。

ふつう

  1. 「人言楚人沐猴而冠耳」を書き下し文に直しましょう。また、「耳」の読み方と意味を答えましょう。
    答えと解説を見る人言ふ、楚人は沐猴にして冠するのみと。「耳」は「のみ」と読み、「〜だけだ」という限定を表します。
  2. 「富貴にして故郷に帰らざるは、繍を衣て夜行くが如し」は、どういう意味ですか。また、この言葉とつながる日本語の言い方を答えましょう。
    答えと解説を見る出世したのに故郷に帰らないのは、美しい着物を着て夜道を歩くようなもので、だれにも見てもらえないという意味。つながる言い方は「故郷に錦を飾る」です。

むずかしい

  1. 「誰知之者」を書き下し文に直し、句法の名前と現代語訳を答えましょう。
    答えと解説を見る誰か之を知る者ぞ。句法は反語で、訳は「だれがそれを知ってくれるだろうか(いや、だれも知らない)」です。
  2. 進言した人が項羽たちを「沐猴にして冠するのみ」とあざけったのはなぜですか。項羽の行動にふれて説明しましょう。
    答えと解説を見る項羽が、守りやすく豊かな関中を都にせず、出世した姿を故郷に見せたいという理由で東へ帰ろうとしたため。王の地位(冠)はあっても、天下を治める器(中身)がないと考えたからです。

「沐猴にして冠す」とあわせて覚えたい関連ページ

『史記』から生まれた故事成語(絵で読む)

出典の本別の故事成語一覧(『史記』の語をすべて見る)

← 前の語:抜山蓋世の意味と由来 | 次の語:和光同塵の意味と由来 →

読みもの(合格大作戦の記事)

受験掲示板「100点BBS」で質問・相談しよう

よくある質問

沐猴にして冠すとはどういう意味ですか?

沐猴にして冠すとは、猿が冠をかぶったように、見かけや地位は立派でも中身(心や器量)がともなわないという意味です。地位にふさわしくない人物をあざけるときに使います。

沐猴にして冠すの読み方は何ですか?

「もっこうにしてかんす」と読みます。4字の「沐猴而冠」は「もっこうじかん」と読みます。

「沐猴」とは何ですか?

沐猴(もっこう)とは猿のことです。『史記』の昔の注釈では「獼猴(びこう)」という猿のこととされています。

沐猴にして冠すの由来・出典は何ですか?

『史記』項羽本紀が由来です。秦の都の咸陽を焼き、「富貴にして故郷に帰らざるは繍を衣て夜行くが如し」と言って東へ帰ろうとした項羽を、関中を都にするようすすめた人が「楚人は沐猴にして冠するのみ」とあざけりました。

沐猴にして冠すの原文と書き下し文は?

原文は「人言楚人沐猴而冠耳、果然」で、書き下し文は「人言ふ、楚人は沐猴にして冠するのみと。果たして然り」です。「而」は置き字、「耳」は「のみ」と読む限定の字です。

沐猴にして冠すと羊頭狗肉のちがいは?

どちらも見かけと中身がちがうことを表しますが、沐猴にして冠すは人が地位や服装にふさわしい器でないことをあざける言葉で、羊頭狗肉は看板や宣伝と中身がくいちがうごまかしに使うことが多い言葉です。

沐猴にして冠すの似た言葉・反対の言葉は?

似た言葉には「羊頭狗肉」「見かけ倒し」「張り子の虎」「有名無実」があります。反対の意味の言葉には「名実ともに」「能ある鷹は爪を隠す」があります。

沐猴にして冠すはビジネスで使えますか?

使えますが、人を強くあざける言葉なので注意が必要です。「肩書きだけでは沐猴にして冠すと言われる」のように、自分をいましめる形や、評論の文章で使うのが無難です。

沐猴にして冠すは英語で何と言いますか?

直訳は "a monkey in a crown" です。意味が近い言い方に "all show and no substance"(見かけばかりで中身がない)や、ことわざ "Fine feathers don't make fine birds." があります。

「故郷に錦を飾る」と関係がありますか?

あります。同じ場面で項羽が言った「富貴にして故郷に帰らざるは、繍を衣て夜行くが如し」(『漢書』では錦)が、日本の「故郷に錦を飾る」のもとになった言葉の一つとされています。

あわせて読みたい

出典・参考

  • 原文:『史記』項羽本紀(維基文庫の本文で確認)
  • 注釈:『史記』三家注の集解(張晏「沐猴,獼猴也」、言った人を『楚漢春秋』などは蔡生、『漢書』は韓生とする)・索隠(維基文庫で確認)
  • 『漢書』項籍伝(維基文庫で確認)
  • 書き下し文・現代語訳:合格大作戦(教科書で多い読み方をもとにした一例)
  • お話の絵・図:合格大作戦

最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦