嚢中の錐(のうちゅうのきり)の意味と由来|史記の原文・書き下し文・現代語訳とイラストで読む平原君と毛遂の話【故事成語】

嚢中の錐(のうちゅうのきり)の意味と由来|史記の原文・書き下し文・現代語訳とイラストで読む平原君と毛遂の話【故事成語】

故事成語の一覧 › 『史記』

大学受験難関大

嚢中の錐のうちゅうのきり

ひとことで言うと

すぐれた才能のある人は、大勢の中にいても自然と目立つということ。戦国時代、趙の平原君が「賢い人は袋の中の錐のように、すぐ先が見えるもの」と言った話から。

読み方のうちゅうのきり
意味すぐれた才能のある人は、大勢の中にまぎれていても、自然とその才能が表れて目立つということ。
もとの形錐の嚢中に処るがごとし(譬若錐之処嚢中、其末立見)
出典『史記』平原君虞卿列伝
お話趙の平原君が楚へ連れて行く食客を選ぶとき、名乗り出た毛遂に袋の中の錐のたとえを話し、毛遂は「早く袋に入れてもらえば穎脱して出た」と言い返した
似た言葉穎脱・頭角を現す・才気煥発
くらべたい言葉能ある鷹は爪を隠す・大器晩成
漢文の句法比況(譬へば〜のごとし)・再読文字(未だ〜ず)・累加(特だに〜のみに非ず)

このページのポイント

  • 「嚢中の錐」は才能のある人は自然に目立つという意味。袋に入れた錐の先がすぐ外に出るたとえです
  • 出典は『史記』平原君虞卿列伝。平原君のたとえに毛遂が「穎脱して出でん」と言い返した話を、4こまのイラストで読めます
  • 同じ話から「毛遂自薦」「三寸の舌」「穎脱」も生まれました。比況・再読文字・累加の句法も練習できます

「嚢中の錐」の意味と読み方

「嚢中の錐」はのうちゅうのきりと読みます。意味は「すぐれた才能のある人は、大勢の中にまぎれていても、自然とその才能が外に表れて目立つ」ということです。

「嚢(のう)」はふくろ、「嚢中(のうちゅう)」はふくろの中です。「錐(きり)」は、板などに小さな穴をあける、先のとがった道具です。とがった錐を布のふくろに入れておくと、先がふくろを突き破って、すぐ外に出てきます。そのように、本当に力のある人は、かくそうとしてもかくれない、というたとえです。漢文の形では「錐の嚢中に処るがごとし(きりののうちゅうにおるがごとし)」と言います。

袋の中の錐(きり)のたとえ袋其の末立ちどころに見るすぐ先が見える(平原君)袋穎脱して出づ穂先ごと出る(毛遂)才能のある人は、かくしていても自然に外へ表れる
袋に入れた錐は、先がすぐに外に出る。才能のある人も、自然と目立つというたとえです
サクラちゃん

サクラちゃん

「嚢中の錐」って、むずかしい字ですね。ふくろの中にきりを入れるって、どういうことですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

中国の戦国時代、趙の国の平原君(へいげんくん)が言ったたとえなんだ。家来の毛遂(もうすい)に「賢い人は、ふくろの中の錐のように、すぐに先が見えるものだ。あなたは三年もわたしのところにいるのに、うわさを聞かない」と言った。出典は『史記』の平原君虞卿列伝だよ。でも、このたとえには、毛遂のするどい言い返しがついている。それはお話のところで見よう。

ふだんの言い方では、たとえば次のように使います。

  • ○彼は入社一年目から企画が次々に通り、まさに嚢中の錐だ。
  • ○控えの選手だった彼女が、代わりに出た試合で大活躍した。嚢中の錐とはこのことだ。
  • ○本当に実力のある人は、嚢中の錐のように、どこにいてもいつか必ず目立つ。

この言葉は、ほめ言葉として使うのがふつうです。とくに「目立たない場所にいたのに、才能が自然と表に出てきた」という場面にぴったりです。自分で自分のことを言うより、ほかの人の才能をほめるときに使います。

絵で読む「嚢中の錐」のお話

まずは話の流れを、4つの場面で見てみましょう。登場するのは、趙の国の公子で宰相の平原君(へいげんくん)と、その家に身を寄せていた食客(しょっかく)の毛遂(もうすい)です。食客とは、身分の高い人の家で養われ、いざというときに知恵や力を貸す人たちのことです。

絵で読む「嚢中の錐」のお話(4こま)

1あと一人が足りない十九人…楚へ連れて行く二十人、あと一人が見つからぬ平原君
1戦国時代、秦の大軍に都の邯鄲(かんたん)を囲まれた趙の国。宰相の平原君は、南の大国・楚に助けを求めに行くことになり、食客の中から文武にすぐれた二十人を選ぼうとしますが、十九人しか見つかりません。
2袋の中の錐のたとえ袋賢い人は袋の中の錐のようにすぐに先が見えるものだ平原君毛遂
2そこへ毛遂(もうすい)という食客が名乗り出ます。平原君は「賢い人は、袋の中の錐のように、すぐ先が外に見えるもの。あなたは三年いても評判を聞かない」と断ろうとします。
3毛遂の言い返し袋早く入れてもらえたら全部出ていました!平原君毛遂
3毛遂は「わたしは今日、袋に入れてほしいとお願いしているのです。早く入れてもらえていたら、先どころか穂先ごと飛び出していましたよ(穎脱)」と言い返し、一行に加わります。
4平原君が見直すわたしは毛先生を見落としていた嚢中の錐=才能は自然に表れる
4楚に着くと、毛遂は楚王を説き伏せて同盟(合従)を成功させました。趙に帰った平原君は「わたしは毛先生を見落としていた」と言い、毛遂を上客としてもてなしました。

この話でいちばんおもしろいのは、平原君のたとえを、毛遂がそのまま使って言い返したところです。平原君は「錐なら先が見えるはず。見えないのは錐ではない(才能がない)からだ」と考えました。毛遂は「そもそも、わたしはまだ袋に入れてもらっていない。入れてもらえば、先どころか全部出てみせる」と答えたのです。

人差し指を立てて説明するミスターT先生

ミスターT先生

毛遂の言い返しは、「目立たないのは才能がないからではなく、力を出す場をもらっていないからだ」という意味なんだ。だから「嚢中の錐」には、才能は自然に表れるという意味と、才能が表れるには、活躍する場が必要だという教えの、両方がふくまれているんだよ。

この話の後半、毛遂が楚の王の前で剣に手をかけて説得し、同盟を成功させる場面は、同じ話から生まれたもう一つの故事成語「毛遂自薦(もうすいじせん)」のページでくわしく読めます。「嚢中の錐」は才能が自然に表れること、「毛遂自薦」は自分から名乗り出ることに注目した言葉です。

「嚢中の錐」の原文・書き下し文・現代語訳

ここでは『史記』平原君虞卿列伝の本文で読みます。原文の「處」「囊」「稱」は、ここでは今の字の「処」「嚢」「称」で表示します。書き下し文は代表的な読み方の一例です。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方でくわしく説明しています。

白文(『史記』平原君虞卿列伝より。句読点を補ったもの)平原君曰、「先生処勝之門下幾年於此矣。」毛遂曰、「三年於此矣。」平原君曰、「夫賢士之処世也、譬若錐之処嚢中、其末立見。今先生処勝之門下三年於此矣、左右未有所称誦、勝未有所聞、是先生無所有也。先生不能、先生留。」毛遂曰、「臣乃今日請処嚢中耳。使遂蚤得処嚢中、乃穎脱而出、非特其末見而已。」平原君竟与毛遂偕。

平原君は、まず「先生がわたしの門下に来て、何年になりますか」とたずね、毛遂は「三年です」と答えます。そのあとの平原君の言葉が、「嚢中の錐」のもとになった文です。

1文目:袋の中の錐のたとえ(平原君)

書き下し文夫それ賢けん士しの世よに処をるや、譬たとへば錐きりの嚢中のうちゅうに処をるがごとし、其その末すゑ立たちどころに見あらはる。

(『史記』平原君虞卿列伝(原文は「處」「囊」))

現代語訳そもそも賢い人が世の中にいるのは、たとえるなら、錐が袋の中にあるようなものだ。その先はすぐに外に表れる。

ここがポイント「処(お)る」は「いる・身を置く」。「譬へば〜のごとし」は「たとえるなら〜のようだ」と、ほかのものにたとえる比況の句法(如し・若し)です。「若」は「ごとし」と読み、書き下し文ではひらがなで書きます。「立(た)ちどころに」は「すぐに」。「見(あら)はる」は「見える・表に出る」で、「見る(みる)」ではありません。

2文目:三年いて評判を聞かない(平原君)

書き下し文左さ右いう未いまだ称誦しょうしょうする所ところ有あらず、勝しょう未いまだ聞きく所ところ有あらず。是これ先せん生せい有いうする所ところ無なきなり。

(『史記』平原君虞卿列伝)

現代語訳(先生がここに三年いるのに)まわりの者が先生をほめるのを聞いたことがなく、わたしも先生のうわさを聞いたことがない。これは先生に取りえがないということだ。

ここがポイント「左右」は、そばに仕える人たち。「勝(しょう)」は平原君の名前(趙勝)で、自分のことを名前で言っています。「未だ〜ず」は「まだ〜ない」で、1字を2回読む再読文字(未・将・当・須など)の代表です。「所」は下の動詞から返って「〜する所」と読みます。

3文目:今日、袋に入れてほしい(毛遂)

書き下し文臣しん乃すなはち今こん日にち嚢中のうちゅうに処をらんことを請こふのみ。

(『史記』平原君虞卿列伝)

現代語訳わたしは、今日はじめて袋の中に入れてほしいとお願いしているのです。

ここがポイント「臣(しん)」は、家来が主人に話すときの「わたくし」。「〜のみ(耳)」は「〜だけだ」と強く言い切る限定の句法(唯・耳・而已)の字で、書き下し文ではひらがなで書きます。「請ふ」は「お願いする」。

4文目:穎脱して出でん(毛遂)

書き下し文遂すいをして蚤はやく嚢中のうちゅうに処をるを得えしめば、乃すなはち穎脱えいだつして出いでん、特ただに其その末すゑの見あらはるるのみに非あらず。

(『史記』平原君虞卿列伝(原文は「穎脫」))

現代語訳もしわたしを早く袋の中に入れていただけていたなら、穂先ごと突き抜けて外に出ていたでしょう。先が少し見えるくらいではすまなかったはずです。

ここがポイント「Aをして〜しめば」は、使役の句法(使・令・教)「AをしてBしむ」に「ば」がついて、「もしAに〜させたら」という仮定の句法になっています。「蚤(はや)く」は「早く」と同じ。「特だに〜のみに非ず」は「ただ〜だけではない(もっとだ)」という累加の句法(唯だに〜のみならず)。「而」は読まない置き字です。
「嚢中の錐」の原文で覚える句法4つ譬若〜譬へば〜のごとしたとえるなら〜のようだ比況未〜未だ〜ずまだ〜ない再読文字使A〜Aをして〜しめばもしAに〜させたら使役・仮定非特〜而已特だに〜のみに非ずただ〜だけではない累加
「嚢中の錐」の原文で覚えたい句法は4つ。比況・再読文字・使役と仮定・累加が1つの話で練習できます

このあと平原君は、ついに毛遂を一行に加えます。原文は「平原君竟(つひ)に毛遂と偕(とも)にす」です。すでに選ばれていた十九人は「相与(あひとも)に目して之(これ)を笑ふ」、つまり目くばせしあって毛遂を笑いました。しかし楚に着くまでに毛遂と議論した十九人は、みな毛遂に感心してしまった、と『史記』は書いています。錐の先は、もう袋から出はじめていたのです。

うかるくん

うかるくん

「嚢中の錐」って、そのまま原文に出てくるんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

原文は「錐の嚢中に処るがごとし」で、「嚢中の錐」という形は出てこない。大事な語を取り出して、日本では「嚢中の錐」という言い方で使われているんだ。毛遂の言葉からは「穎脱(えいだつ)」という熟語も生まれた。今では「才能がほかの人よりずばぬけて表れること」という意味で使われるよ。

錐の「末」と「穎」末(すえ)穎(えい)つば柄(え)「穎」はもとは稲の穂先。錐ではとがった部分全体を指すとする説明が多い(諸説あり)
錐の「末」はいちばん先、「穎」はとがった部分。平原君は「末が見える」、毛遂は「穎ごと出る」と言いました

「穎(えい)」は、もとは稲などの穂先を表す字です。錐では、とがった金属の部分を指すと説明されることが多いのですが、錐のどこまでを「穎」と言うのかは本によって説明が分かれ、諸説あります。どの説でも、「先っぽが少し見えるどころではなく、もっと大きく全部出てくる」という毛遂の言いたいことは同じです。

出典『史記』平原君虞卿列伝と話の背景

「嚢中の錐」の出典は、前漢の司馬遷(しばせん)が書いた歴史書『史記』の「平原君虞卿列伝(へいげんくんぐけいれつでん)」です。列伝は、いろいろな人物の伝記を集めた部分で、この巻には趙の平原君と、同じ趙の遊説家・虞卿(ぐけい)の伝記が収められています。

平原君はどんな人?

『史記』によると、平原君の名前は趙勝(ちょうしょう)で、趙の国の公子(王の一族)の中でいちばん賢かったとされます。お客を好み、食客は数千人もいたと書かれています。趙の恵文王と孝成王のもとで宰相をつとめ、三度やめて三度もどったとされます。斉の孟嘗君(もうしょうくん)、魏の信陵君(しんりょうくん)、楚の春申君(しゅんしんくん)とならんで「戦国の四君」と呼ばれる人物の一人です。孟嘗君の食客の話は鶏鳴狗盗(けいめいくとう)で読めます。

平原君の考えと、毛遂の言い返し平原君賢い人は錐のように、すぐ先が見えるもの。三年いて評判を聞かない=才能がない毛遂まだ袋に入れてもらっていないだけ。早く入れてもらえば、穂先ごと出ていた楚で毛遂が大活躍平原君「わたしは毛先生を見落としていた」
平原君は「目立たない=才能がない」と考えましたが、毛遂は「袋に入れてもらっていないだけ」と言い返しました

どんな場面の話?

紀元前260年の長平(ちょうへい)の戦いで趙を大きく破った秦は、そのあと趙の都・邯鄲(かんたん)を囲みました。原文は「秦の邯鄲を囲むや、趙、平原君をして救ひを求めしめ、楚に合従せしむ」と始まります。合従(がっしょう)は、秦に対抗するために国どうしがたてに手を結ぶことです。平原君は、楚へ連れて行く「勇気と力があり、文武の備わった者」二十人を、自分の食客の中から選ぼうとしました。十九人までは決まりましたが、あと一人がどうしても見つかりません。

そこへ進み出たのが毛遂です。原文では「自ら平原君に賛して(自分で自分を平原君にすすめて)」と書かれています。このときの平原君とのやりとりが、「嚢中の錐」と「穎脱」の話です。

話のあと、どうなった?

楚の宮殿で、平原君と楚王の話し合いは朝から昼まで決まりませんでした。そこで毛遂が剣に手をかけて階段を上り、楚王を説き伏せて合従を成功させます(くわしくは毛遂自薦の意味と由来)。趙に帰った平原君は「勝敢へて復た士を相(み)ず(わたしはもう二度と、人物を見分けるなどとは言わない)」と言い、毛遂を上客にしました。そして毛遂の弁舌を「三寸の舌は百万の師より彊(つよ)し」とたたえました。これが「三寸の舌」という言葉のもとです。

その後、楚は春申君に兵を率いさせて趙を救いに向かわせ、魏の信陵君も軍を奪って救いに来た、と『史記』は伝えています。平原君の「袋」の中には、まだ見つかっていない錐がほかにもあったのかもしれませんね。

ひらめいたサクラちゃん

サクラちゃん

平原君は「三年いて目立たない人は才能がない」と決めつけていたけれど、まちがっていたんですね! 人の才能は活躍する場をもらって、はじめて見えることもあるんですね。

「嚢中の錐」の使い方と例文・似た言葉

「嚢中の錐」は、大勢の中にいても、すぐれた人は自然と頭角を現すことを表すときに使います。人をほめる言葉なので、職場や学校、スポーツなどで、ある人の才能が目立ちはじめた場面によく合います。

  • ○新人ながら会議で次々と鋭い意見を出す彼は、嚢中の錐のような存在だ。(才能が自然に目立つ)
  • ○嚢中の錐というように、実力があれば、いつか必ずだれかの目にとまる。(実力はかくれない)
  • ○地方の小さな大会から出てきた選手が全国で勝ち進んだ。まさに嚢中の錐だ。(目立たない場所から才能が表れる)
  • ○平原君は毛遂を「錐の嚢中に処るがごとし」というたとえで試したが、見ぬけなかった。(漢文の形で使う)
  • ×かばんの中にきりが入っていて危ないので、嚢中の錐に気をつけよう。(本物の道具の話ではない)
  • ×あの人はいつも目立とうとして前に出る、嚢中の錐な人だ。(自分から目立とうとすることではない。それなら「毛遂自薦」や「出しゃばり」)

「嚢中の錐」は、本人が目立とうとしなくても、才能のほうが勝手に出てくるところがポイントです。自分から「やらせてください」と名乗り出ることは、同じ話から生まれた「毛遂自薦」で表します。

嚢中の錐似た言葉穎脱頭角を現す才気煥発同じ話から毛遂自薦三寸の舌くらべたい言葉能ある鷹は爪を隠す大器晩成
似た言葉は「穎脱」「頭角を現す」。「能ある鷹は爪を隠す」は、才能をわざと見せないこと

似た言葉

  • 穎脱(えいだつ):毛遂の言葉「穎脱して出づ」から生まれた熟語。才能がほかの人より抜きんでて表れること。
  • 頭角を現す(とうかくをあらわす):才能や力がほかの人よりすぐれていて、目立ってくること。唐の韓愈が柳宗元をたたえた文の言葉がもとだとされます。
  • 才気煥発(さいきかんぱつ):すぐれた才能が、生き生きと外にあふれ出ること。

くらべたい言葉

  • 能ある鷹は爪を隠す(のうあるたかはつめをかくす):本当に力のある人は、それをむやみに見せびらかさない、ということわざ。「嚢中の錐」は「かくしてもかくれない」なので、向きが反対です。
  • 大器晩成(たいきばんせい):大きな才能は、時間をかけてからようやく表れる、ということ。「すぐに先が見える」錐とは反対の考え方です。
  • 毛遂自薦:同じ話から生まれた言葉で、自分から進んで名乗り出ること。

「嚢中の錐」のよくあるまちがい

  • 「のうちゅう」を「脳中」「農中」と書く:正しくは「嚢中」。「嚢」は「ふくろ」の意味の字です。「土嚢(どのう)」「胆嚢(たんのう)」の「嚢」と同じです。ふくろの意味は、常用漢字の「袋」の読み方・書き順・部首と同じと覚えましょう。
  • 「錐」を「錘(すい・おもり)」と書く:きりは「錐(かねへんに隹)」、おもりは「錘(かねへんに垂)」です。形が似ているので注意します。
  • 「錐」を「すい」と読む:音読みは「スイ」ですが、この言葉では訓読みで「きり」と読みます。全体で「のうちゅうのきり」です。
  • 「目立ちたがりの人」の意味だと思う:反対です。本人が目立とうとしなくても、才能が自然と表に出てくることです。悪口ではなく、ほめ言葉です。
  • 錐が袋を「やぶってしまう」ことから、悪い意味だと思う:袋をやぶることは失敗ではなく、「かくれていられないほどの才能」のたとえです。
  • 言ったのは毛遂だと思う:「錐の嚢中に処るがごとし」と言ったのは平原君です。毛遂は、そのたとえを使って「穎脱して出でん」と言い返しました。
うかるくん

うかるくん

「見はる」って、「みはる」じゃないんですか? 「見」を「あらはる」って読むなんて…。

ミスターT先生

ミスターT先生

漢文の「見」には、「みる」のほかに「あらはる(表に出る)」「まみゆ(お目にかかる)」、それに「る・らる」(〜される)という読み方もある。「其の末立ちどころに見はる」は、錐の先が外に表れるという意味だから「あらはる」と読むんだ。「〜される」の「見」は受身の句法(見・被・為〜所〜)でまとめているよ。

入試ではこう出る

「嚢中の錐」は、おもに大学受験の国語で出てきます。四字熟語ではない故事成語なので、意味を選ぶ問題や、漢文の本文の一部としてよく問われます。

  • 意味の問題:「すぐれた人は大勢の中でも自然と目立つ」という意味を選ぶ問題。「能ある鷹は爪を隠す」とのちがい、「毛遂自薦」とのちがいを問う形もあります。
  • 漢文の読解:『史記』平原君虞卿列伝の毛遂の話は、長文の漢文としても読まれます。「譬へば〜のごとし」(比況)、「未だ〜ず」(再読文字)、「Aをして〜しめば」(使役と仮定)、「特だに〜のみに非ず」(累加)などの句法、「見」の読み方、「穎脱」の意味がよく問われます。
  • 内容の説明:「毛遂が『早く袋に入れてもらえれば穎脱して出た』と言ったのは、どういうことか」を説明させる問題。共通テストの漢文の出方は共通テストの漢文(配点・時間配分)へ。
サクラちゃん

サクラちゃん

毛遂の言い返しを説明する問題は、どうまとめればいいですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

「自分に才能がないのではなく、これまで力を発揮する機会を与えられなかっただけで、機会さえあれば、才能はわずかに表れる程度ではなく、すっかり表に出るはずだ」とまとめよう。「袋に入る=活躍の場をもらう」「穎脱=才能が全部出る」と、たとえを言いかえるのがコツだよ。

練習問題

やさしい

  1. 「嚢中の錐」の意味として正しいものを選びましょう。
    ア 危ない道具は袋に入れて運べ イ すぐれた人は自然に才能が表れて目立つ ウ 才能はかくしておくのがよい エ お金は袋に入れてしまっておけ
    答えと解説を見るイ。袋の中の錐の先がすぐ外に出るように、すぐれた人は大勢の中でも自然に目立つ、という意味です。ウは「能ある鷹は爪を隠す」に近い考えです。
  2. 「嚢中の錐」の読み方を、ひらがなで書きましょう。
    答えと解説を見るのうちゅうのきり。「錐」はここでは「きり」と読みます。

ふつう

  1. 「譬若錐之処嚢中」を書き下し文に直しましょう。
    答えと解説を見る譬へば錐の嚢中に処るがごとし。「若」は「ごとし」と読む比況の字で、書き下し文ではひらがなにします。
  2. 平原君が、毛遂を一行に加えるのをはじめ断ろうとした理由を説明しましょう。
    答えと解説を見る毛遂が三年も平原君の門下にいたのに、まわりの者からほめられることもなく、平原君もうわさを聞いたことがなかったので、才能がないと考えたからです。

むずかしい

  1. 「使遂蚤得処嚢中、乃穎脱而出、非特其末見而已」を現代語訳しましょう。
    答えと解説を見る「もしわたし(毛遂)を早く袋の中に入れていただけていたら、穂先ごと突き抜けて外に出ていたでしょう。先が少し見えるだけではすまなかったはずです」。「Aをして〜しめば」は使役+仮定、「特だに〜のみに非ず」は累加です。

「嚢中の錐」とあわせて覚えたい関連ページ

『史記』から生まれた故事成語(絵で読む)

出典の本別の故事成語一覧(『史記』の語をすべて見る)

← 前の語:項荘剣を舞わすの意味と由来 | 次の語:毛遂自薦の意味と由来 →

読みもの(合格大作戦の記事)

受験掲示板「100点BBS」で質問・相談しよう

よくある質問

嚢中の錐の意味を簡単に言うと何ですか?

すぐれた才能のある人は、大勢の中にいても自然と目立つ、という意味です。袋に入れた錐の先が、袋を突き破ってすぐ外に出ることにたとえています。

嚢中の錐の由来となった話はどんな話ですか?

中国の戦国時代、趙の平原君が楚へ連れて行く食客を選んだとき、名乗り出た毛遂に「賢い人は袋の中の錐のようにすぐ先が見えるもの。三年いて評判を聞かない」と言いました。毛遂は「早く袋に入れてもらえば穂先ごと出ていた」と言い返し、のちに楚で大活躍しました。

嚢中の錐の出典は何ですか?

前漢の司馬遷が書いた『史記』の平原君虞卿列伝です。原文は「夫賢士之処世也、譬若錐之処嚢中、其末立見」です。

穎脱とはどういう意味ですか?

毛遂の言葉「穎脱して出づ」から生まれた熟語で、錐の穂先が袋を突き抜けて出るように、才能がほかの人より抜きんでて表れることです。

嚢中の錐と毛遂自薦のちがいは何ですか?

どちらも同じ毛遂の話から生まれた言葉です。嚢中の錐は「才能が自然に表れて目立つこと」、毛遂自薦は「自分から進んで名乗り出ること」を表します。

あわせて読みたい

出典・参考

  • 原文:『史記』平原君虞卿列伝(維基文庫の本文で確認。原文の「處」「囊」「稱」「穎脫」はここでは今の字で表示)
  • 書き下し文・現代語訳:合格大作戦(代表的な読み方をもとにした一例)
  • お話の絵・図:合格大作戦

最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦