漢文文法・句法辞典 › 句法
大学受験難関大
ひとことで言うと
累加の句法は「ただAだけでなく(Bも)」と範囲を広げる言い方で、限定の字に否定をかぶせた「不唯A=唯だにAのみならず」と、反語をかぶせた「豈唯A哉=豈に唯だにAのみならんや」が基本です。限定(唯だAのみ)をうち消して、つけ加える形です。
このページのポイント
- 累加=「ただAだけでなく、Bも」と範囲を広げる句法
- 不唯A=唯だにAのみならず、非独A=独りAのみに非ず
- 豈唯A哉=豈に唯だにAのみならんや(反語の累加)
- 限定の字+否定・反語で作る。送り仮名「ダニ」が目印
- 「唯不A(唯だAせざるのみ)」は限定。語順に注意
はじめて(やさしく)
累加(るいか)の句法とは、「ただAだけではなく、(Bも)」と、話の範囲を広げて、つけ加える言い方です。「累」は「重ねる」、「加」は「加える」。つまり上に積み重ねる句法です。漢文では、限定(唯・独・耳)の字の上に、否定の「不・非」や反語の「豈・何」をかぶせて作ります。
累加の句形(公式の一覧)
| 句形 | 読み(書き下し) | 意味(訳し方) |
|---|---|---|
| 不唯A、B | 唯だにAのみならず、B | ただAだけでなく、Bも |
| 非唯A、B | 唯だにAのみに非ず、B | ただAだけでなく、Bも |
| 不独A | 独りAのみならず | ただAだけでなく |
| 非独A | 独りAのみに非ず | ただAだけでなく |
| 不徒A・不但A | 徒だに(但だに)Aのみならず | ただAだけでなく |
| 豈唯A哉 | 豈に唯だにAのみならんや | どうしてただAだけであろうか(いや、Aだけではない) |
| 何独A乎 | 何ぞ独りAのみならんや | どうしてただAだけであろうか(いや、Aだけではない) |
まず覚えるのは一番上の「不唯A=唯だにAのみならず」です。「不」は最後に返って「ず」と読み、「唯」には「ダニ」と送ります。後ろには「B亦〜(Bもまた〜)」「又(また)」などが続き、つけ加える内容を示します。
身近な例で考えてみましょう。「この店はおいしいだけでなく、安くもある」。「おいしい」に「安い」を重ねて、ほめる範囲を広げています。これが累加です。反対に「この店は、ただおいしいだけだ」と範囲をせまくするのが限定です。累加は、限定をうち消して広げる句法だと言えます。
うかるくん
限定の「唯だAのみ」に「不」がつくだけで、意味が逆向きになるの?
ミスターT先生
そのとおり。「ただAだけ」を「〜ではない」とうち消すと、「ただAだけではない」、つまり「A以外にもある」になる。だから累加は、限定の読み方を知っていればすぐ読めるんだ。目印は「唯」の送り仮名が「ダ」から「ダニ」に変わることだよ。
サクラちゃん
「唯だ」と「唯だに」。たった1字の「に」で見分けるんですね!
有名な例として、孟子の言葉を読んでみましょう。人の心には、命よりも大切にしたいもの(正義)を求める気持ちがある、という話の中の一節です。
非独A(独りAのみに非ず)
白文非独賢者有是心也。人皆有之。
書き下し文独り賢者のみ是の心有るに非ざるなり。人皆之有り。
(『孟子』告子上)
現代語訳ただ賢い人だけがこの心を持っているのではない。人はだれでもこの心を持っている。
ここまでのまとめ
- 累加=「ただAだけでなく、Bも」と範囲を広げる言い方
- 作り方:限定の字(唯・独・徒・但)の上に不・非をかぶせる
- 不唯A=唯だにAのみならず、非独A=独りAのみに非ず
- 送り仮名「ダニ」が累加の目印
しっかり(共通テスト)
1. 否定の累加:不唯・非唯・不独・非独
否定の字が「不」なら「〜のみならず」、「非」なら「〜のみに非ず」と結びます。意味はどちらも同じ「ただ〜だけではない」です。「不」は助動詞にあたるのでひらがなで「ず」、「非」は返読文字として漢字で「非ず」と書くのが一般的です。
非唯A、B亦〜(唯だにAのみに非ず、B亦〜)
書き下し文唯だに我が国のみに非ず、天下も亦然り。
(自作)
現代語訳ただわが国だけではない。天下(世の中全体)もまたそうである。
| 限定の字 | 不 をかぶせる | 非 をかぶせる |
|---|---|---|
| 唯 | 唯だにAのみならず | 唯だにAのみに非ず |
| 独 | 独りAのみならず | 独りAのみに非ず |
| 徒 | 徒だにAのみならず | 徒だにAのみに非ず |
| 但 | 但だにAのみならず | 但だにAのみに非ず |
| 啻・翅 | 啻だに(翅だに)Aのみならず | — |
2. 読み方の手順
- 「不・非」の下に「唯・独・徒・但」があるか見る。あれば累加。
- 「不・非」はとばして、「唯」を「唯だに」と読む(独は「独り」)。
- Aを読み、最後に「のみ」をつける。「のみ」は送り仮名で補う。
- 「不・非」に返る。不なら「ならず」、非なら「に非ず」。
- 後ろのBを「B亦〜」「又〜」と読み、「AだけでなくBも〜」と訳す。
不唯A、而B亦〜(唯だにAのみならず、B亦〜)
書き下し文唯だに詩を善くするのみならず、書も亦巧みなり。
(自作)
現代語訳ただ詩がうまいだけでなく、書もまたじょうずだ。
非徒A(徒だにAのみに非ず)
書き下し文徒だに益無きのみに非ず、又之を害す。
(『孟子』公孫丑上)
現代語訳(無理に苗を引っぱるのは)ただ役に立たないだけでなく、そのうえ苗をだめにしてしまう。
不独A(独りAせず)
書き下し文故に人独り其の親を親とせず、独り其の子を子とせず。
(『礼記』礼運)
現代語訳だから人々は、自分の親だけを親として大切にするのではなく、自分の子だけを子としてかわいがるのでもなかった。

3. 反語の累加:豈唯〜哉・何独〜乎
否定の「不」の代わりに、反語の「豈(あに)」「何(なんぞ)」をかぶせると、「どうしてAだけであろうか(いや、Aだけではない)」という反語の累加になります。結局の意味は「Aだけではない」と同じですが、問いかける形のぶん、強い言い方です。文末には「哉・乎・也」などを置き、「〜のみならんや」と読みます(反語は反語の句法(豈・安・何〜乎))。
豈唯A哉(豈に唯だにAのみならんや)
書き下し文豈に唯だに一人のみならんや。
(自作)
現代語訳どうしてただ一人だけであろうか(いや、一人だけではない)。
何独A乎(何ぞ独りAのみならんや)
書き下し文何ぞ独り我のみならんや。
(自作)
現代語訳どうして私だけであろうか(いや、私だけではない)。
サクラちゃん
「不唯A」と「豈唯A哉」は、意味が同じなら、なぜ2つあるんですか?
ミスターT先生
日本語でも「Aだけではない」と言うより、「どうしてAだけなものか!」と言うほうが強いよね。反語の累加は、気持ちを強く打ち出したいときに使う。訳すときは、反語の調子と「いや、〜だけではない」の両方を書くのがコツだ。
うかるくん
不・非なら「のみならず」、豈・何なら「のみならんや」。セットで覚える!
もっと深く(難関大・上級者)
1. 限定か累加か:「唯不A」と「不唯A」
難関大で問われるのは、語順による意味の違いです。「不唯A」(否定が上)は累加で「ただAだけではない」。ところが「唯不A」(否定が下)は、「唯だAせざるのみ(ただAしないだけだ)」という限定です。これは、部分否定と全部否定(不常・常不)で「不常(常には〜ず)」と「常不(常に〜ず)」の意味が変わるのと同じしくみで、否定の字がどこまでをうち消しているかで決まります。
| 形 | 書き下し | 意味 | 句法 |
|---|---|---|---|
| 不唯A | 唯だにAのみならず | ただAだけではない | 累加 |
| 唯不A | 唯だAせざるのみ | ただAしないだけだ | 限定 |
| 非独A | 独りAのみに非ず | Aだけではない | 累加 |
| 独非A | 独りAに非ず | Aだけが〜でない | 限定 |
唯不A耳(唯だAせざるのみ)=限定
書き下し文唯だ言はざるのみ。
(自作)
現代語訳ただ口に出して言わないだけだ。
2. 「ダ」と「ダニ」:送り仮名の慣習
累加の「唯」に「ダニ」と送るのは、限定の「唯だ」と区別するための訓読の慣習です。現在の高校の教科書や参考書では「唯だに〜のみならず」が一般的ですが、「唯だ〜のみならず」と「に」を送らない本もあります。意味は変わらないので、試験では問題文の送り仮名にしたがえば大丈夫です。「独」は累加でも「独り」と送り、「に」はつけません。
3. めずらしい字:啻・翅・特・直
上級の文章では、限定の字として「啻」「翅」も出てきます。どちらも「ただに」と読み、「不啻(啻だに〜のみならず)」「奚翅(奚ぞ翅だに〜のみならんや)」のように、ほとんど累加の形でだけ使われます。また「不特(特だに〜のみならず)」「不直(直だに〜のみならず)」の形もあります。初めて見る字でも、否定・反語の字+「ただ」と読める字+文末「のみならず」という骨組みがわかれば、読み方は同じです。
不啻A(啻だにAのみならず)
書き下し文其の功は啻だに千金のみならず。
(自作)
現代語訳その手がらは、ただ千金(大金)にあたるだけではない(千金よりもっと大きい)。
なお、累加の文は、「Aだけ」と思われがちなことを打ち消して、話の範囲を広げるために使われます。孟子の「独り賢者のみ是の心有るに非ざるなり」は、「正義を重んじる心は特別な人だけのものだ」という思いこみを打ち消し、「人はみな持っている」と広げています。『礼記』の「独り其の親を親とせず」も、「自分の親だけ」という狭い愛情を打ち消し、世の中の人すべてを大切にする理想の社会(大同)を描いています。記述で「筆者の主張」を問われたら、打ち消された狭い考えと広げられた考えの両方を対比して書くと、論理が伝わる答えになります。
4. つけ加える後半の読み方
累加の文では、後半に「つけ加える内容」が来ます。その目印になる字を整理しておきましょう。記述問題では、前半(Aだけでなく)と後半(Bも)をセットで訳すことが大切です。
| 後半の字 | 読み | 訳 |
|---|---|---|
| 亦 | また | 〜もまた |
| 又 | また | そのうえ・さらに |
| 且 | かつ | そのうえ |
| 而 | 置き字/しかして・しかも | そして・そのうえ |
| 皆・人皆 | みな | だれもが(範囲を全体に広げる) |
5. 累加・限定・抑揚の関係
累加は、限定(ただ〜のみ)と抑揚(Aすら且つB、況んやCをや)の間にある句法と考えると整理できます。限定は「Aだけ」とせまくし、累加は「Aだけでなく」と広げ、抑揚は「Aでさえそうなのだから、Cはなおさらだ」と、程度の低いものから高いものへ一気に広げます。いずれも「範囲」や「程度」をあつかう句法なので、3つをまとめて学ぶと、文章の論理(筆者が何を強調したいか)が読み取りやすくなります。

合格先生
累加は「否定(不・非)または反語(豈・何)」+「限定の字(唯・独・徒・但)」の組み合わせ。ばらばらに覚えずに、限定のページとセットで覚えると、一気に読めるようになるよ。
よくあるまちがい
まちがい1:累加を限定の意味で訳す
「不唯A」を「ただAだけだ」と訳すのは誤り。「ただAだけではない」です。上の「不」がかかっているかどうかを、必ず確かめましょう。
まちがい2:「不」を上から先に読んでしまう
「不唯A」を「ず唯だA…」と読むのは誤り。「不」は最後に返って「〜のみならず」と読みます。
まちがい3:「唯不A」と「不唯A」を同じに読む
「唯不A」は「唯だAせざるのみ」(Aしないだけ)の限定、「不唯A」は「唯だにAのみならず」(Aだけでない)の累加。語順で意味が逆になります。
まちがい4:反語の累加で「いや〜」を書き忘れる
「豈に唯だにAのみならんや」は「どうしてAだけであろうか」で止めず、「いや、Aだけではない」まで書くと、反語の意味がはっきり伝わります。
練習問題
やさしい
- 「不唯A」の書き下し文と意味を答えなさい。
答えと解説を見る
書き下し文:唯だにAのみならず。意味:ただAだけではない(Aだけでなく、ほかにもある)。
- 次の訓読文を書き下し文にしなさい。(自作)非ズ二独リ我ノミニ一。
答えと解説を見る
独り我のみに非ず。(独り我のみに非ず。)意味は「私だけではない」。「非」は最後に返って「非ず」と読みます。
ふつう
- 次の白文を書き下し文にし、訳しなさい。(自作)
「不但愛其子、亦愛人之子」答えと解説を見る
書き下し文:但だに其の子を愛するのみならず、亦人の子を愛す。 訳:ただ自分の子をかわいがるだけでなく、他人の子もまたかわいがる。「不但」が累加、後半の「亦」がつけ加えの目印です。
- 「不唯A」と「豈唯A哉」の意味の違いを説明しなさい。
答えと解説を見る
どちらも結局は「Aだけではない」という累加の意味です。「不唯A」は否定で言い切る形、「豈唯A哉」は「どうしてAだけであろうか(いや、Aだけではない)」と反語で強く言う形です。
むずかしい
- 次の二文を書き下し文にし、意味の違いを説明しなさい。(自作)
ア「不唯読書」 イ「唯不読書」答えと解説を見る
ア:唯だに書を読むのみならず(ただ本を読むだけではない)=累加。イ:唯だ書を読まざるのみ(ただ本を読まないだけだ)=限定。否定の「不」が「唯」の上にあるか下にあるかで、うち消す範囲が変わります。
- 「非徒無益、而又害之」(『孟子』公孫丑上)を書き下し文にし、どの故事成語の由来か答えなさい。
答えと解説を見る
書き下し文:徒だに益無きのみに非ず、又之を害す。(「而」を「而も」と読む教科書もあります。)故事成語は「助長」。苗を引っぱって早く育てようとした宋の人の話で、「役に立たないだけでなく、かえって害になる」という意味です。
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よくある質問
漢文の累加の句法とは何ですか?
「ただAだけでなく、Bも」と範囲を広げてつけ加える言い方です。「不唯A(唯だにAのみならず)」「豈唯A哉(豈に唯だにAのみならんや)」などの形があります。
「不唯」の書き下し文は?
「唯だにAのみならず」と読みます。「不」は最後に返って「ず」と読み、「唯」には送り仮名「ダニ」をつけるのが一般的です。
「豈唯〜哉」はどう訳しますか?
「どうしてただ〜だけであろうか、いや〜だけではない」と訳します。反語の形をとった累加で、「不唯」より強い言い方です。
累加と限定はどう違いますか?
限定は「ただAだけ」と範囲をしぼり、累加は「ただAだけではない」と広げます。累加は、限定の字の上に否定の不・非や反語の豈・何をかぶせて作ります。
「唯不A」は累加ですか?
いいえ。「唯不A」は「唯だAせざるのみ(ただAしないだけだ)」という限定です。否定の字が「唯」の上にある「不唯A」が累加です。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:『孟子』(告子上・公孫丑上)、『礼記』礼運。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による
- 高校の漢文句法の標準的な説明(累加・限定の句形)にもとづいて作成。「唯だに」の送り仮名、「而」を読むかどうかは教科書によって違いがある
- 画像:「至聖先賢半身像」より孟軻(元代、国立故宮博物院蔵、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



