漢文文法・句法辞典 › 句法
大学受験難関大
ひとことで言うと
抑揚の句法は前半で抑えて、後半で揚げる言い方で、「A且B、況C乎」を「Aすら且つB、況んやCをや」と読み、「AでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ)」と訳します。後半は「安くんぞ〜んや」など反語になることもあります。
このページのポイント
- 抑揚=前半で抑え、後半で揚げる句法
- A且B、況C乎=Aすら且つB、況んやCをや
- 訳はAでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ)。後半にBを補う
- 後半は「況んや〜をや」のほか、反語の安くんぞ・何ぞ〜んや
- 前半の且(かつ)・猶(なほ)は再読しない
はじめて(やさしく)
抑揚(よくよう)の句法とは、前半でいったん程度を抑え、後半で一気に揚げる言い方です。代表は「A且B、況C乎」で、「Aすら且つB、況んやCをや」と読み、「AでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ)」と訳します。「抑」は抑える、「揚」は揚げる。前半で小さな例を出して、後半で本当に言いたいことを強く言う形です。
抑揚の句形(公式の一覧)
| 句形 | 読み(書き下し) | 意味(訳し方) |
|---|---|---|
| A且B、況C乎 | Aすら且つB、況んやCをや | AでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ) |
| A猶B、況C乎 | Aすら猶ほB、況んやCをや | 同上(猶・尚は「なほ」) |
| 況C乎 | 況んやCをや | ましてCはなおさらだ(前半を省いた形) |
| 況於C乎 | 況んやCに於いてをや | ましてCについてはなおさらだ |
| A且B、安C哉 | Aすら且つB、安くんぞCせんや | AでさえBだ。どうしてCしようか(いや、しない) |
| A且B、何C乎 | Aすら且つB、何ぞCせんや | 同上(反語で揚げる) |
読み方で大切なのは、前半のAにつける「すら」(〜でさえ)と、後半の「況んや〜をや」(まして〜はなおさらだ)の2か所です。「且」は再読文字の「まさに〜んとす」ではなく、「かつ」と1回だけ読みます。
身近なたとえで言うと、「先生でさえ解けない問題だ。まして私たちに解けるはずがない」という言い方が抑揚です。「先生でさえ」と程度の高い人を出して抑え、「まして私たちは」で一気に結論へ持っていきます。前半は相手も「たしかに」と認める例、後半が本当に言いたいことです。
いちばん有名な例は、故事成語「隗より始めよ」の話です。燕の昭王が「すぐれた人材を集めたい」と相談すると、郭隗(かくかい)は昔話をします。千里を走る名馬を求めた王の使いが、死んだ名馬の骨を大金で買ってきた。王が怒ると、使いはこう答えました。
A且B、況C乎(Aすら且つB、況んやCをや)
白文死馬且買之、況生者乎。
書き下し文死馬すら且つ之を買ふ、況んや生ける者をや。
(『十八史略』春秋戦国)
現代語訳死んだ馬でさえ(大金で)買うのだ。まして生きている馬なら、なおさら(高く買うだろう)。
うかるくん
「すら」って古文でも見たことがある! 漢文でも同じ意味なの?
ミスターT先生
そうだよ。「すら」は古い日本語の副助詞で、「〜でさえ」と極端な1つの例をあげる言葉だ。漢文の訓読では、抑揚の前半で、Aの送り仮名として「スラ」を補う。そして後半の「況んや」は「をや」と呼び合う。「況んや…をや」は、係り結びのようにセットで覚えよう。
サクラちゃん
前半が「すら」、後半が「況んや〜をや」。これで抑揚の形は完成ですね!
ここまでのまとめ
- 抑揚=前半で抑え、後半で揚げる言い方
- A且B、況C乎=Aすら且つB、況んやCをや
- 訳=AでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ)
- 「且」はかつ(再読しない)、「すら」と「況んや〜をや」がセット
しっかり(共通テスト)
1. 前半の形:「すら」と且・猶・尚
前半では、Aに「すら」を送り仮名でつけ、その下に「且(かつ)」「猶(なほ)」「尚(なほ)」を置いて、「Aでさえ〜」の気持ちを強めます。字が書かれていなくても、送り仮名の「すら」だけで抑揚の前半になることもあります。
| 前半の形 | 書き下し | 意味 |
|---|---|---|
| A且B | Aすら且つB | AでさえBだ |
| A猶B | Aすら猶ほB | AでさえやはりBだ |
| A尚B | Aすら尚ほB | AでさえやはりBだ |
| A(すら)B | AすらB | AでさえBだ(字なし) |
A尚B、況C乎(Aすら尚ほB、況んやCをや)
書き下し文布衣の交はりすら尚ほ相欺かず、況んや大国をや。
(『史記』廉頗藺相如列伝)
現代語訳庶民どうしのつきあいでさえ、おたがいにだまし合ったりはしない。まして大国(どうしのつきあい)ならなおさら(だまし合うはずがない)。
A猶B、況C乎(Aすら猶ほB、況んやCをや)
書き下し文聖人すら猶ほ学ぶ、況んや凡人をや。
(自作)
現代語訳聖人でさえやはり学ぶ。まして普通の人はなおさら(学ばなければならない)。
2. 後半の形:況〜乎・安〜哉・何〜
後半(揚)の形は大きく3つです。「況んや〜をや」は「ましてCはなおさらだ」。「安くんぞ〜んや」「何ぞ〜んや」は反語(豈・安・何・誰〜乎)で、「どうしてCしようか(いや、しない)」です。反語の形では、前半を受けて「Aでさえ〜なのだから、どうしてCなどしようか」と結論を強く言います。
A且B、安C(Aすら且つB、安くんぞCせんや)
書き下し文臣死すら且つ避けず、卮酒安くんぞ辞するに足らんや。
(『史記』項羽本紀)
現代語訳私は死ぬことでさえ避けはしない。大杯の酒ぐらい、どうして辞退などしようか(いや、辞退などしない)。

A且B、何C乎(Aすら且つB、何ぞCせんや)
書き下し文禽獣すら且つ恩を知る、人何ぞ知らざらんや。
(自作)
現代語訳鳥やけものでさえ恩を知っている。人間がどうして(恩を)知らないことがあろうか(いや、必ず知っている)。
3. 読み方と訳し方の手順
- 「況」を見つけたら抑揚を疑う。「況んや」と読み、文末を「をや」で結ぶ。
- 前半のAに「すら」を補う。「且」は「かつ」、「猶・尚」は「なほ」と1回だけ読む。
- A・B・Cを分ける。A=程度の低い例、B=共通の述語、C=程度の高い例。
- 訳は「AでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ)」。後半で省かれたBを補う。
- 後半が「安・何〜哉・乎」なら反語。「どうしてCしようか、いやしない」まで訳す。
前半が否定の抑揚
書き下し文小過すら且つ赦さず、況んや大罪をや。
(自作)
現代語訳小さなあやまちでさえ許さない。まして大きな罪はなおさら(許さない)。
サクラちゃん
後半で何が省かれているか、わからなくなることがあります……。
ミスターT先生
前半のBをそのまま後半に写せばいいんだ。「死馬すら且つ之を買ふ」なら、後半は「生ける者は(なおさら)買ふ」。「小過すら且つ赦さず」なら「大罪は(なおさら)赦さず」。否定なら否定のまま写すのがポイントだよ。
うかるくん
「すら」と「をや」の間で、Bをコピー&ペースト!
もっと深く(難関大・上級者)
1. 「且・猶・尚」は再読しない
白文で「且」「猶」を見ると、つい再読文字と思ってしまいます。しかし抑揚の前半の「且」「猶」は、下に返る述語がなく、「すら」と組んで程度を強める副詞なので、1回だけ「かつ」「なほ」と読みます。見分けのポイントは、文のどこかに「況」や反語の「安・何」があるかです。
2. 「況んや」と「をや」の成り立ち
「況」の訓「いはんや」は、「言ふ」に推量の「む」と「や」がついた「言はむや(言うまでもあろうか)」から来た言葉と説明されます。つまり「況んやCをや」は、もとは「Cについては言うまでもない」という意味です。文末の「をや」は、助詞の「を」と「や」が重なった強めの言い方で、「況んや」と呼応する(呼び合う)結びとして、訓読で決まった形になりました。古文の副助詞「すら」「だに」と比べると、「すら」は「〜でさえ」と極端な例を示し、「だに」は「せめて〜だけでも」の意味で使われることが多い、と区別されます(古文の副助詞(だに・すら・さへ))。
3. 「況んや〜に於いてをや」と「而るを況んや」
Cが名詞句のとき、「況於C乎」と「於」を入れて「況んやCに於いてをや(ましてCについてはなおさらだ)」と読む形があります。また、前半と後半を「而」でつなぎ、「而況〜乎」となることもあります。この「而」は読まない置き字とするか、「而るを(しかるを)」と読むかが、教科書によって違います。
況於C乎(況んやCに於いてをや)
書き下し文天地すら尚ほ久しきこと能はず、況んや人に於いてをや。
(『老子』第二十三章)
現代語訳天地でさえ(激しい風雨を)長く続けることはできない。まして人間ならなおさら(長く続けることはできない)。
4. 前半が省かれる抑揚、後半が省かれる抑揚
抑揚の前半(Aすら且つB)は、文脈で明らかなときに省かれ、「況んやCをや」だけで使われることがあります。このときは、直前の文が前半の役をしています。逆に、前半の「Aすら且つB」だけを言って、後半を言わずに読み手に考えさせる書き方もあります。記述問題では、省かれた部分を補って「AでさえBなのだから、ましてCは」の形に復元すると、筆者の主張がはっきりします。
況C乎だけの抑揚(前半を省いた形)
書き下し文人皆命を惜しむ。況んや王者をや。
(自作)
現代語訳人はだれでも命を惜しむ。まして王ともなれば、なおさら(命を惜しむ)。
| 形 | 省かれたもの | 補い方 |
|---|---|---|
| 況C乎 | 前半(A・B) | 直前の文からAとBを探す |
| A且B | 後半(C) | 文脈から「まして〜は」を考える |
| A且B、況C乎 | 後半のB | 前半のBを後半に写す |
5. 抑揚の論理:説得の型として読む
抑揚は、論理学でいう「より弱い例から、より強い例を導く推論」にあたる、と説明されることがあります。前半にはだれもが認める事実(死馬でも買う・天地でさえ続かない)を置き、後半で本当に主張したいこと(生きた馬ならなおさら・人間ならなおさら)を導くのです。郭隗の話では、この論理によって「まず私(隗)のような者を大切にすれば、もっとすぐれた人材が自然に集まる」という主張につながっていきます。説得のための型として読むと、筆者・話し手の意図が読み取りやすくなります。
また、累加(不唯・豈唯)は「Aだけでなく、Bも」と横に広げる句法、抑揚は「AでさえBなら、Cはなおさら」と程度の上下で広げる句法です。どちらも「範囲を広げる」点で似ていますが、抑揚には程度の差があることが特徴です。

ミスターT先生
抑揚が読めると、漢文の説得の型が見えてくる。「Aでさえ〜、ましてCは」の形を見つけたら、Cこそが話し手の主張だと考えよう。
よくあるまちがい
まちがい1:「且」「猶」を再読してしまう
抑揚の「且」は「かつ」、「猶」は「なほ」と1回だけ読みます。「死馬すら且に之を買はんとす」は誤りです。
まちがい2:後半を「Cはもちろんだ」で止め、Bを補わない
「況んや生ける者をや」は「まして生きた馬はなおさら」で止めず、「なおさら(買う)」とBを補って訳します。記述ではここが採点の分かれ目です。
まちがい3:前半が否定なのに、後半を肯定で訳す
「小過すら且つ赦さず、況んや大罪をや」の後半は「なおさら許さない」。前半のBが否定なら、後半のBも否定です。
まちがい4:「況んや」と「をや」の片方を忘れる
「況んや生ける者を」「生ける者をや」のように片方だけでは不十分。「況んや〜をや」はセットで書き下します。
練習問題
やさしい
- 「A且B、況C乎」の書き下し文と意味を答えなさい。
答えと解説を見る
書き下し文:Aすら且つB、況んやCをや。意味:AでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ)。
- 次の訓読文を書き下し文にしなさい。(自作)師スラ且ツ誤ル、況ンヤ弟子ヲ乎。
答えと解説を見る
師すら且つ誤る、況んや弟子をや。(師すら且つ誤る、況んや弟子をや。)訳:先生でさえまちがえる。まして弟子はなおさら(まちがえる)。
ふつう
- 「死馬且買之、況生者乎」を現代語に訳しなさい。省かれている語も補うこと。
答えと解説を見る
死んだ馬でさえ買うのだ。まして生きている馬なら、なおさら(買う)。後半では前半のB「之を買ふ」が省かれているので補います。
- 次の白文を書き下し文にし、訳しなさい。(自作)
「愚者且知之、安有智者不知乎」答えと解説を見る
書き下し文:愚者すら且つ之を知る、安くんぞ智者の知らざる有らんや。 訳:おろかな者でさえこれを知っている。どうして知恵のある者が知らないことがあろうか(いや、必ず知っている)。後半が反語の形です。
むずかしい
- 抑揚の前半の「且」が再読文字ではないと判断できる理由を、2つ答えなさい。
答えと解説を見る
①「且」の下に、返って「〜んとす」と読むべき述語がない(返り点がない)。②同じ文に「況んや〜をや」や反語の「安・何」があり、Aに「すら」がついて抑揚の形になっている。だから「かつ」と1回だけ読みます。
- 「天地尚不能久、而況於人乎」(『老子』)を書き下し文にし、後半で省かれている内容を補って訳しなさい。
答えと解説を見る
書き下し文:天地すら尚ほ久しきこと能はず、況んや人に於いてをや。(「而るを況んや」と読む本もあります。)訳:天地でさえ長く続けることはできない。まして人間は、なおさら長く続けることはできない。前半が否定なので、後半も否定で補います。
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例文の話は故事成語の一覧(意味・由来・出典)の「隗より始めよ」「鴻門の会」「完璧」で読めます。古文の「すら」は古文の副助詞(だに・すら・さへ)へ。
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よくある質問
漢文の抑揚の句法とは何ですか?
前半でいったん程度を抑え、後半で強く揚げる言い方です。「A且B、況C乎」を「Aすら且つB、況んやCをや」と読み、「AでさえBだ。ましてCはなおさら(Bだ)」と訳します。
「況んや〜をや」はどう訳しますか?
「ましてCはなおさらだ」と訳します。前半のB(述語)が省かれているので、「なおさら(Bだ)」と補って訳すのがコツです。
抑揚の「且」は再読文字ですか?
いいえ。抑揚の前半の「且」は「かつ」と1回だけ読む副詞です。猶・尚も「なほ」と1回だけ読みます。
「すら」と「をや」はどんな働きですか?
「すら」は前半のAにつけて「〜でさえ」と極端な例を示し、「をや」は後半で「況んや」と呼応して「なおさらだ」と強めます。
抑揚の有名な例文は?
「死馬すら且つ之を買ふ、況んや生ける者をや」(『十八史略』、隗より始めよ)、「臣死すら且つ避けず、卮酒安くんぞ辞するに足らんや」(『史記』項羽本紀、鴻門の会)などです。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:『十八史略』春秋戦国(郭隗)、『史記』(項羽本紀・廉頗藺相如列伝)、『老子』第二十三章。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による
- 高校の漢文句法の標準的な説明(抑揚の句形)にもとづいて作成。「乎」を「や」と読むか置き字とするか、「而況」の「而」の読みなどは教科書によって違いがある
- 画像:勝川春英「樊噲」(1806年刊の浮世絵、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



