世界史用語集 › 第3章 古代ローマ
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グラックス兄弟ぐらっくすきょうだい
重要度 ★★★★★ (★は合格大作戦の目安)
ひとことで言うと
グラックス兄弟とは、前2世紀の終わりに、護民官として、没落した農民に土地を分ける改革を進めたローマの政治家です。兄ティベリウス(前133)と弟ガイウス(前123〜前121)はどちらも殺され、内乱の1世紀の始まりとされます。
| 読み方 | ぐらっくすきょうだい |
|---|---|
| 英語 | the Gracchi(Tiberius & Gaius Gracchus) |
| 時代 | 前133年(兄)・前123〜前121年(弟) |
| 地域 | ローマ |
| 章 | 第3章 古代ローマ |
| 人物 | 兄ティベリウス=グラックス・弟ガイウス=グラックス(どちらも護民官) |
| 改革 | 公有地の占有に上限・土地分配・穀物法など |
| 結果 | 元老院の反対で失敗、兄弟とも命を落とす |
| いっしょに覚える | ラティフンディア・護民官・閥族派と民衆派・内乱の1世紀 |
このページのポイント
- グラックス兄弟は護民官。兄ティベリウスは公有地の占有に上限をつける土地改革、弟ガイウスは穀物法・植民・騎士の優遇などを行った。
- 原因はラティフンディアによる中小農民の没落と、軍の兵士不足。改革は元老院に反対されて失敗した。
- 政治の対立が暴力になり、閥族派と民衆派の対立から「内乱の1世紀」に入った。
グラックス兄弟をやさしく言うと
グラックス兄弟は、前2世紀の終わりに、没落した農民を救おうと土地改革をした、ローマの兄弟の政治家です。兄がティベリウス=グラックス、弟がガイウス=グラックスです。どちらも護民官になって改革を進めましたが、元老院の有力者たちに反対され、命を落としました。
改革のねらいは、とてもはっきりしていました。「大金持ちが占めている国の土地を取りもどして、貧しい市民に分け、農民を増やそう」ということです。ラティフンディア(大土地経営)で土地を失う農民が増えて、ローマ軍の兵士も足りなくなっていたからです。
たとえると、クラスで一部の生徒が学級文庫の本を全部独り占めしているのを、委員が「みんなで分けよう」と言い出したようなものです。分けてほしい人は喜びますが、独り占めしていた生徒は怒ります。そして、ローマでは、その怒りが暴力になってしまったのです。
エンリケくん
土地を分けるのは、いいことに思えます。どうして反対されたんですか?
ロダン先生
土地を持っているのは、元老院の議員たちだったからなんだ。自分たちが占有している公有地を取り上げられるわけだから、自分たちの損になる。だから、強く反対した。
エンリケくん
改革する人が、自分の仲間から反対されたんですね。
グラックス兄弟のくわしい流れ(原因・経過・結果)
① 原因:農民の没落と、ローマ軍の危機
ポエニ戦争のあと、ローマは地中海の覇者になりました。けれども国内では、中小の農民が土地を失い、無産市民としてローマ市に集まっていました。ローマ軍の主力は、土地を持つ市民です。農民が減ると、兵士も減ります。これは国の存続に関わる問題でした。
この問題を解決しようとしたのが、名門出身の若い政治家たちです。ティベリウス=グラックスとガイウス=グラックスの兄弟は、母コルネリアが大スキピオの娘で、とても教養の高い家に育ちました。伝承では、母コルネリアは「私の宝物は子どもたちです」と言ったと伝わります。
② 兄ティベリウスの改革(前133年)
前133年、ティベリウスは護民官に選ばれました。そして、公有地を占有している有力者に、占有できる広さの上限をつける法案を出しました。上限をこえた分は国に返し、土地分配委員会が、貧しい市民に分ける、という計画です。昔のリキニウス・セクスティウス法に似た内容で、新しい考えというより、「昔の決まりを守ろう」という主張でした(リキニウス・セクスティウス法)。
元老院は強く反対しました。同じ護民官のオクタウィウスが、拒否権を使って法案を止めようとします。するとティベリウスは、平民会で、オクタウィウスを護民官からやめさせるという、前例のない手段に出ました。法案は通ります。同じころ、小アジアのペルガモン王国が、ローマに国を譲る遺言をしており、ティベリウスは、その財産を土地分配の費用に使おうとしました。これも、元老院の権限に口を出すものだとして、反発を買います。
ティベリウスが、護民官の任期を続けようとしたとき、元老院派の人々が彼を襲い、ティベリウスは殺されました。ローマで、政治の対立が流血になった、最初の大きな事件といわれます。
③ 弟ガイウスの改革(前123〜前121年)
10年ほどあと、弟ガイウスが護民官になりました。ガイウスは、兄より、もっと広い改革をめざします。
- 土地分配の再開:兄の土地改革を続ける。
- 穀物法:ローマ市の市民に、穀物を安い値段で売る。
- 植民市の建設:土地のない市民を、海外の植民市に送る(カルタゴの跡地もその候補とされた)。
- 騎士(エクィテス)を味方にする:商人や金融家である騎士身分に、属州の徴税や、裁判の陪審員の権利を与える。
- 市民権の拡大:イタリアの同盟市の人々にも、ローマ市民権を与えようとする(これは強い反対を受けて失敗)。
ガイウスは、前123年と前122年の2年続けて護民官に選ばれ、民衆から大きな支持を受けました。しかし、同盟市への市民権の拡大に、ローマ市民自身が反対し、人気は下がります。前121年、元老院は「国家非常事態」の決議を出し、ガイウスの支持者と元老院派の間で衝突が起きました。ガイウスは、追い込まれて自ら命を絶った(奴隷に命じて殺させた)と伝えられます。
④ 結果:改革は失敗、そして「内乱の1世紀」へ
グラックス兄弟の改革は、短い間で終わり、土地問題は解決しませんでした。それだけでなく、次のような変化が生まれました。
- 政治の対立が、暴力の対立に変わった:「話し合い」ではなく「殺し合い」で決着をつける前例になった。
- 2つの流れが、はっきりした:元老院を重んじる閥族派(オプティマテス)と、民会や護民官を使って改革をめざす民衆派(ポプラレス)。
- 軍人の力が強まった:次の時代には、マリウスが軍制を改革し、将軍が兵士の支持を集めて政治を動かすようになる。
この後のローマは、同盟市戦争、スラの独裁、スパルタクスの反乱、三頭政治と続く、内乱の1世紀に入ります。最後に、アウグストゥスの元首政で、共和政は終わりました。

ロダン先生
「国のために」と考えた2人が、国の中の人に殺された。ローマの共和政が少しずつこわれていく入口が、ここにあるんだ。重い話だけど、とても大事なところだよ。
年表と対立の図で見るグラックス兄弟
| 兄ティベリウス | 弟ガイウス | |
|---|---|---|
| 護民官になった年 | 前133年 | 前123年・前122年 |
| 中心の政策 | 土地改革(公有地の占有に上限) | 土地・穀物法・植民・騎士の優遇 |
| 終わり | 前133年に殺される | 前121年に命を落とす |
| のこしたもの | 政治の暴力化・2つの流れ | 騎士身分の台頭 |
整理:グラックス兄弟のポイント
だれが:兄ティベリウス+弟ガイウス(護民官)。何を:公有地の占有に上限をつけ、貧しい市民に土地を分ける。結果:失敗・暗殺。ここから「内乱の1世紀」が始まるとされる。
グラックス兄弟と関係する人物・用語
| 用語 | グラックス兄弟との関係 |
|---|---|
| ラティフンディア | 土地問題の原因。大農場による農民の没落 |
| 護民官のしくみ | 兄弟が使った役職。平民会の議長 |
| リキニウス・セクスティウス法 | 公有地の占有制限。ティベリウスが復活させようとした |
| ポエニ戦争 | 農民没落のきっかけ |
| コンスルと元老院 | 改革に反対した、閥族派の中心 |
| 三頭政治 | 内乱の1世紀のなかで起きた |
| カエサル | 民衆派の流れをくむ政治家 |
古代ローマの年や回数は、ローマ数字で書く場面があります。ローマ数字一覧表と書き方の法則で書き方を確かめてみましょう。
サクラちゃん
グラックス兄弟の改革は、結局、何も変わらなかったんですか?
ロダン先生
そんなことはないよ。土地分配委員会は、ティベリウスが死んだあとも、しばらく土地を分けたと伝わる。ただ、土地問題の根っこは解決せず、次の時代の政治家は、兵士に土地を与えるという別の方法を使うようになる。改革そのものよりも、「そのあとの動き」を覚えてほしいんだ。
サクラちゃん
改革が失敗しても、次の歴史の動きを作ったんですね。
グラックス兄弟でまちがえやすい点
まちがえやすい点
- 兄と弟を逆にする:兄ティベリウスは土地改革が中心(前133)。弟ガイウスは穀物法・植民・騎士の優遇など、もっと広い改革(前123〜前121)。
- コンスルの兄弟と思う:2人は護民官。コンスル(執政官)ではない。
- 「土地を取り上げた」と思う:新しく取り上げたのではなく、本来国のものである公有地を、占有しすぎた分だけ返させようとした。
- リキニウス・セクスティウス法と混ぜる:公有地の制限は昔の法にもあった。グラックスはそれを復活させようとした。
- 改革が成功したと思う:土地問題は解決せず、兄弟は殺された。
- 「グラックス」を1人の名前と思う:兄弟2人。苗字が同じ。
入試ではこう出る
- 共通テスト:グラックス兄弟が護民官であること、土地改革の内容、結果(失敗・暗殺)が正誤問題で問われます。「内乱の1世紀」の出発点として、年代の並べかえにも使われます。
- 国公立の2次・論述:「共和政末期のローマの混乱」を、ラティフンディアによる農民没落 → グラックスの改革 → 閥族派と民衆派の対立 → 内乱、の流れで説明させる問題が出ます。
- 私大:「護民官」「土地分配委員会」「閥族派」「民衆派」「騎士」などの語句、兄と弟の政策の区別。
勉強の進め方は世界史の勉強法【共通テスト対策】、論述は世界史の論述の書き方(私大・2次試験編)を見てください。
ロダン先生の「これ知ってる?」
これ知ってる? 「ローマの母」コルネリア
グラックス兄弟の母コルネリアは、大スキピオの娘だよ。「ローマの理想の母」として語り伝えられて、のちの時代まで尊敬された。宝石を自慢する客に、2人の息子を見せて「これが私の宝石です」と言った話が伝わっているけれど、これは後の時代の逸話とされていて、本当にあった話かどうかは分からないんだ。
これ知ってる? 「グラックス」はのちに革命家の名前にも
フランス革命のとき、グラキュス=バブーフという革命家が、ローマのグラックスにあこがれて、この名前を名乗ったんだ。土地や財産を平等にしようとした考えで、後の社会主義につながるといわれる。古代ローマの土地改革の話が、2000年後の革命家の名前になっているなんて、おもしろいよね。

ロダン先生
土地改革の兄弟、ティベリウスとガイウス。「兄は土地、弟は広い改革」と覚えるといいよ。
練習問題
やさしい
- 前133年に護民官になり、公有地の占有に上限をつける改革をめざしたのはだれか。
答えと解説を見る
答え:ティベリウス=グラックス
兄のほうです。 - グラックス兄弟の改革は、何を救おうとするものだったか。
答えと解説を見る
答え:没落した中小の農民(貧しい市民)
土地を分けて自作農を増やそうとしました。
ふつう
- 弟ガイウス=グラックスが行った改革を、2つ以上あげよ。
答えと解説を見る
答えの例:穀物を安く売る法(穀物法)、植民市の建設、騎士身分の優遇(属州の徴税など)、同盟市に市民権を与えようとしたこと、土地分配の再開。
- グラックス兄弟の改革に反対した、元老院を重んじる政治勢力を何というか。
答えと解説を見る
答え:閥族派(オプティマテス)
これに対して、改革をめざす側は民衆派(ポプラレス)といいます。
むずかしい
- 正しいか誤りか答えよ。「グラックス兄弟は、コンスルとして土地改革を進め、改革は成功した。」
答えと解説を見る
答え:誤り
2人は護民官です。改革は元老院の反対で失敗し、兄も弟も命を落としました。 - グラックス兄弟の改革の背景と、その後のローマ政治への影響を、80字ほどで説明せよ。
答えと解説を見る
答えの例:ポエニ戦争後、大土地経営で中小農民が没落し軍が弱まったため土地改革をめざしたが、元老院に殺され、政治の対立が暴力化して内乱の1世紀の始まりとなった。(78字)
「農民の没落」と「改革の失敗・暴力的な対立(内乱へ)」が入れば合格です。
「古代ローマ」の章の用語
- 共和政ローマ(世界史) ★★★★★高校受験
- パトリキとプレブス(世界史) ★★★★★
- コンスルと元老院(世界史) ★★★★★
- 護民官(世界史) ★★★★★
- 十二表法(世界史) ★★★★★
- リキニウス・セクスティウス法(世界史) ★★★★★
- ホルテンシウス法(世界史) ★★★★★
- ポエニ戦争(世界史) ★★★★★
- ハンニバル(世界史) ★★★★★
- ラティフンディア(世界史) ★★★★★
- スパルタクスの反乱(世界史) ★★★★★
- 三頭政治(世界史) ★★★★★
- カエサル(世界史) ★★★★★
- アウグストゥス(世界史) ★★★★★高校受験
- ローマの平和(世界史) ★★★★★
- 五賢帝(世界史) ★★★★★
- カラカラ帝とアントニヌス勅令(世界史) ★★★★★
- 軍人皇帝時代(世界史) ★★★★★
- ディオクレティアヌス帝(世界史) ★★★★★
- コンスタンティヌス帝(世界史) ★★★★★
- ミラノ勅令(世界史) ★★★★★
- ニケーア公会議(世界史) ★★★★★
- テオドシウス帝(世界史) ★★★★★高校受験
- コロナトゥス(世界史) ★★★★★
この章の流れは古代ローマの年表(国と王朝の帯図・同じころの日本つき)で、年の順に確かめられます。
← 前の語:ラティフンディア(世界史) | 次の語:スパルタクスの反乱(世界史) →
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古代ローマの数字
よくある質問
グラックス兄弟とは何ですか?
グラックス兄弟とは、前2世紀末に護民官として土地改革をめざした、ローマの兄ティベリウスと弟ガイウスです。どちらも元老院の反対で命を落とし、改革は失敗しました。
グラックス兄弟は何をしようとしましたか?
兄ティベリウスは、有力者が占有する公有地に上限をつけ、貧しい市民に土地を分けようとしました。弟ガイウスは、土地改革に加え、穀物法・植民・騎士の優遇などを進めました。
グラックス兄弟の改革は、なぜ必要だったのですか?
ポエニ戦争のあと、ラティフンディアが広がり、中小農民が土地を失ったからです。農民はローマ軍の主力だったので、兵士が足りなくなる危機もありました。
グラックス兄弟はなぜ殺されたのですか?
改革で公有地を返させられる元老院の有力者たちが、強く反対したからです。兄は前133年、弟は前121年に、元老院派との衝突の中で命を落としました。
兄ティベリウスと弟ガイウスのちがいは何ですか?
兄は土地改革が中心で、前133年に護民官になりました。弟は前123・前122年に護民官になり、穀物法・植民・騎士の優遇など、もっと広い改革を行いました。
閥族派と民衆派とは何ですか?
閥族派は元老院を重んじ、今の政治を守る側です。民衆派は民会や護民官を使って、土地や穀物などの改革をめざす側です。グラックス兄弟の時代から対立がはっきりしました。
グラックス兄弟の改革の結果、ローマはどうなりましたか?
土地問題は解決せず、政治の対立が暴力になりました。そのあと、マリウスの軍制改革や同盟市戦争などをへて、内乱の1世紀に入りました。
グラックス兄弟は英語で何といいますか?
the Gracchi(ザ・グラッカイ)、または the Gracchus brothers です。兄は Tiberius Gracchus、弟は Gaius Gracchus です。
グラックス兄弟は入試でどう出ますか?
共通テストでは、護民官であること、土地改革の内容、失敗の結果が正誤問題で出ます。2次の論述では、共和政末期の混乱の原因を説明する問題でよく使われます。
あわせて読みたい
出典・参考
- 高校「世界史探究」の教科書の一般的な記述
- プルタルコス『対比列伝』(グラックス兄弟)
- アッピアノス『ローマ史』(内乱史)
最終更新:2026年11月3日/作成:大学受験合格大作戦


