数学の難問・未解決問題の一覧 › 解析
未解決
ナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさ
ひとことで言うと
水や空気の流れの方程式で、「速さが無限になる(爆発する)ことはあるのか」。2000年に100万ドルの懸賞問題に。2026年11月時点で未解決。
| 問題 | 3次元の水や空気の流れの方程式に、いつまでもなめらかな解があるか(なければ、爆発する例を示す) |
|---|---|
| 方程式 | ナビエ–ストークス方程式(ナビエ:1822年、ストークス:1845年) |
| 状態 | 未解決(2026年11月時点) |
| 懸賞金 | 100万ドル(クレイ数学研究所、2000年のミレニアム懸賞問題) |
| 公式の問題説明 | チャールズ・フェファーマン |
| 分かっていること | 2次元は解決、3次元は短い時間・小さな始まりならなめらか |
| 分野 | 偏微分方程式(解析) |
このページのポイント
- ナビエ–ストークス方程式は水や空気の流れを決める方程式。問題は「3次元で、解がいつまでもなめらかか、それとも爆発するか」
- 2次元は1960年代に解決。3次元では、うずが引きのばされて速さが増すため難しい。2000年にクレイ数学研究所が100万ドルの懸賞問題に
- 2026年11月時点で未解決。このページは「いつ解けるか」は予想しない。確認の終わっていない発表は、そのまま信じない
ナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさとは?(ひとことで)
ナビエ–ストークス方程式は、水や空気などの「流れ」の動きを決める方程式です。天気予報、飛行機の設計、血液の流れの研究など、現代の科学と技術のあらゆる場面で使われています。ところがこの方程式について、「3次元の空間で、ふつうの状態から始めたとき、解がずっと存在して、なめらかなままか」という基本的な問いに、まだだれも答えられていません。これがナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさの問題です。
2000年、アメリカのクレイ数学研究所は、この問題を7つのミレニアム懸賞問題の1つに選びました。7つの問題には、それぞれ100万ドルの賞金が用意されています。クレイ数学研究所のページでは、この問題は「未解決」の扱いで、公式の問題説明は数学者のチャールズ・フェファーマンが書いています。2026年11月時点で、解決は公式に認められていません。このページは「いつ解けるか」を予想しません。
簡単にいうと、問題が聞いているのは「流れの速さが、ある瞬間に無限に大きくなってしまう(爆発する)ことはあるのか」です。現実の水が無限の速さになることはありません。それなのに、方程式の解としては爆発するかもしれない。そのとき「方程式が現実をうまく表していない」のか、それとも「数学の側の理解が足りない」のか。これが、この問題が大切な理由です。
うかるくん
水の流れの方程式なんて、とっくに解けているんじゃないんですか?
合格先生
実は、コンピューターで近い答えを出すことはできるんだ。天気予報がそうだね。でも数学の問題は「いつでも、どんな場合でも、答えがちゃんとあって、なめらかなままか」を証明すること。1つ1つの計算がうまくいっても、それは証明にならないんだよ。
ナビエ–ストークス方程式の意味をやさしく解説
流れは「矢印の野原」
プールの水を思い浮かべてください。水の中のそれぞれの場所には、水がその瞬間にどの向きに、どれだけの速さで動いているかが決まっています。これを矢印(向きが流れの向き、長さが速さ)で表すと、空間全体が矢印でうめつくされます。数学ではこれを速度場といい、場所 と時間 に対して矢印 を決める関数として書きます。
知りたいのは「今の矢印の野原がこうなら、1秒後、2秒後の野原はどうなるか」です。それを決めるのがナビエ–ストークス方程式です。
方程式を読んでみよう
3次元で水が非圧縮(ぎゅっとつぶれない)の場合、方程式は次のように書かれます。
むずかしそうに見えますが、言葉にすると「ニュートンの運動の法則(力=質量×加速度)を、流れにあてはめたもの」です。
- 左辺 :水の小さなかたまりの加速です。「その場所の矢印が時間で変わる分」と「流れに乗って別の場所へ運ばれる分」の2つがあります。
- :圧力 の差が水を押す力です。圧力の高いほうから低いほうへ押されます。
- :粘りけ(まさつ)の力です。(ニュー)が大きいほど粘りが強く、はちみつでは大きく、水では小さな値です。まわりと速さをならそうとする働きがあります。
- :重力やかき混ぜる力など、外から加える力です。
- :水がつぶれず、わき出しも消えもしないという条件です。「流れこむ量=流れ出る量」と言いかえられます。
使われている記号は、微分係数と導関数(偏微分のもと)の考え方です。偏微分と全微分・連鎖律の公式を知っていると、意味がつかみやすくなります。ベクトルの成分と大きさも、矢印を数で表すときに使います。
なお、粘りけの項()をなくした方程式はオイラー方程式とよばれ、理想的な「粘りのない流体」を表します。ナビエ–ストークス方程式は、これに粘りを足したものです。粘りは流れの角を丸めてなめらかにする働きがあるので、「粘りがあれば爆発は防げるのでは」と期待されてきましたが、3次元ではそれが証明できていません。
クレイ数学研究所が聞いている問題
公式の問題説明(フェファーマン)の中身を、大づかみに言うとこうなります。なめらかに変化する矢印の野原から始めて、空間は無限に広がる3次元空間か、「繰り返し」のある箱の形(周期的な空間)とします。このとき、次のどちらかを示せば賞金が出ます。
- そのような流れは、どれだけ時間がたっても解が存在し、なめらかなままで、エネルギーも有限のままである(存在となめらかさの証明)
- あるいは、ある始まり方(外から力を加える場合をふくむ)の流れで、有限の時間のうちに解がなめらかでなくなる(爆発する)例を作る
つまり、「なめらかな解が永遠に続く」と証明しても、「爆発の例を見つける」でも、どちらでも解決です。どちらが正しいのか、専門家の間でも意見は一致していません。
「なめらか」「爆発」とは
解がなめらかとは、矢印の野原が、どの場所でもとびとびにならず、急な変化もなく、何回でも微分とは何かできることです。反対に爆発(特異点の発生)とは、ある時刻 で、どこかの場所の速さ(または速さの変化)が限りなく大きくなってしまうことです。たとえば速さが のように変わると、 に近づくにつれて速さは限りなく大きくなります。
爆発がもし起きたら、その時刻より先は「方程式が使えない」ことになります。現実の水が無限の速さになることはないので、爆発が起きるなら、方程式が表しているのは本当の水の動きではない(粘りだけでは足りず、水を粒としてあつかう必要が出てくる)という意味になります。
2次元ではすでに解けている
おもしろいことに、2次元(紙の上の平らな流れ)のナビエ–ストークス方程式は、1960年代にラドィジェンスカヤらによって、解が存在してなめらかなままであることが示されています。2次元だけで済むなら、ポアンカレ予想(形の難問)のように次元が1つ上がるところで急にむずかしくなる、という点が似ています。2次元では、うずが細く引きのばされることがありません。3次元だと、次の「うずの引きのばし」が起こります。
フィギュアスケートの選手は、広げていた腕をぎゅっと胸に引きよせると、回転が速くなります。うずの管が細く長くなると回転が速くなるのと同じ理由です。粘りけがこの速まりを止めてくれるのか、それとも速まりが粘りに勝つ場合があるのか。これが問題の中心です。
レイノルズ数:流れが乱れるめやす
流れが「なめらかに流れる」か「ぐちゃぐちゃに乱れる(乱流)」かは、レイノルズ数という値で見当がつきます。イギリスのオズボーン・レイノルズが1883年に管の実験で示したもので、速さ × 長さ ÷ 動粘度(動粘度は粘りの強さを表す値)で計算します。水の動粘度はおよそ 、空気は 程度です。数が大きいほど、流れは乱れやすくなります。
身近な流れの多くは、レイノルズ数が非常に大きい世界です。そこでは、大小さまざまな大きさのうずが入り乱れます。この「乱流」をどう数学でとらえるかが、この問題のむずかしさに直結しています。
ナビエ–ストークス方程式の歴史と年表
1757年:オイラーが「粘りのない流れ」の方程式を書く
スイスの数学者オイラーの業績と生涯は、1757年ごろに、粘りけのない理想的な流体の運動の方程式(オイラー方程式)をまとめました。ニュートンの運動の法則を、つながった流体の動きに初めて広げたものとして知られています。
1822〜1845年:ナビエとストークスが粘りを足す
フランスの技術者クロード=ルイ・ナビエは、1822年に粘りけを入れた方程式を発表しました。その後、イギリスのジョージ・ガブリエル・ストークスが、1845年に、より物理的な考え方で同じ形の方程式を導きました。2人の名前から、ナビエ–ストークス方程式とよばれます。ナビエは橋の設計もした技術者で、方程式を実用の中でも使いました。
1883年:レイノルズが乱れの境目を実験で示す
レイノルズは、ガラス管に色のついた水を流し、速さをあげると、整った流れがある境目で乱れることを実験で見せました。のちに、境目を決める数がレイノルズ数とよばれるようになりました。
1934年:ルレーが「弱い解」を作る
フランスのジャン・ルレーは、1934年に、3次元のナビエ–ストークス方程式に対して「弱い解」とよばれる、なめらかとは限らないが方程式を「平均の意味」でみたす解が、いつでも存在することを示しました。さらに、始まりの流れが十分に小さければ、なめらかな解が存在することも示しています。ただし、弱い解が「なめらかなままか」「ただ1つか」は、いまも分かっていません。これが現在の問題の出発点です。弱い解の考え方は、ドイツのエーベルハルト・ホップが1951年に広げました。
1941年:コルモゴロフの乱流の理論
ソビエトのコルモゴロフの業績と生涯は、1941年に、乱流の中のうずの大きさごとのエネルギーの分布についての理論を発表しました。実験とよく合う理論ですが、方程式から数学的に導いたものではなく、これを証明することも大きな課題です。
1980年代:爆発が起きるとしても「ごく小さな場所」
1982年に、カファレリ、コーン、ニーレンバーグの3人が、爆発が起きるとしても、空間と時間の中でごく小さな(次元の低い)集まりの場所でしか起きないことを示しました。1984年には、ボー、加藤敏夫、マジダが、爆発が起きるなら、うずの強さが限りなく大きくなることを示しました。どちらも、爆発の「ありうる姿」をせばめる結果です。
2000年:100万ドルの懸賞問題
2000年5月24日、クレイ数学研究所はパリのコレージュ・ド・フランスで、7つのミレニアム懸賞問題を発表しました。各問題に100万ドルの賞金があります。この問題もその1つで、ほかにはリーマン予想、P≠NP予想、ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題、ホッジ予想、バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想があります。解決された問題はポアンカレ予想だけです。
2016年:タオが「平均した方程式」で爆発を示す
テレンス・タオの数学は、2016年に、ナビエ–ストークス方程式の非線形の部分を「平均した」別の方程式を作り、その方程式では爆発が起きることを示す論文を発表しました。本物の方程式の問題が解けたわけではありませんが、「どの性質が爆発をふせいでいるのか」をはっきりさせた研究として注目されました。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1757年 | オイラーが、粘りのない流体の運動の方程式(オイラー方程式)をまとめる |
| 1822年 | ナビエが、粘りけを入れた方程式を発表 |
| 1845年 | ストークスが、ナビエ–ストークス方程式の今の形を導く |
| 1883年 | レイノルズが、管の実験で流れが乱れる境目を示す |
| 1934年 | ルレーが、3次元の弱い解がつねに存在することを示す |
| 1941年 | コルモゴロフが、乱流の理論を発表 |
| 1969年 | ラドィジェンスカヤらにより、2次元の場合は解決(なめらかな解が存在) |
| 1982年 | カファレリ・コーン・ニーレンバーグが、爆発が起きても小さな場所に限られることを示す |
| 1984年 | ボー・加藤・マジダが、爆発が起きるならうずの強さが無限になることを示す |
| 2000年 | クレイ数学研究所が、100万ドルの懸賞問題に選ぶ |
| 2016年 | タオが、平均した方程式で爆発が起きることを示す |
ナビエ–ストークス方程式は今どこまで分かっている?(2026年11月時点)
この問題は未解決です。クレイ数学研究所のページでも、2026年11月に確認した範囲では、解決とは認められていません。私たちは「いつ解けるか」を予想しません。ここでは、分かっていることと、分かっていないことを分けて整理します。
分かっていること
- 2次元はすでに解決:なめらかな解がずっと存在します(1960年代)。
- 3次元でも短い時間なら大丈夫:なめらかな始まりなら、短い時間のあいだ、なめらかな解がただ1つ存在します。問題は「その時間が、どこまでのびるか」です。
- 始まりが十分に小さければ、ずっとなめらか:ルレー以来の結果で、始まりの流れが「十分に小さい」場合は、なめらかな解が永遠に続くことが分かっています。ただし「十分に小さい」の範囲は限られています。
- 弱い解は必ず存在する:なめらかさをあきらめれば、解はつねにあります(ルレー、1934年)。
- 爆発するなら、うずの強さが無限になる(ボー・加藤・マジダ、1984年)。爆発が起きても小さな場所に限られる(カファレリ・コーン・ニーレンバーグ、1982年)。
- よく似た方程式では爆発する例がある:タオの2016年の研究のほか、粘りのないオイラー方程式の爆発を、コンピューターで調べる研究も進んでいます。ただし、粘りけのある本物のナビエ–ストークス方程式に当てはまるかどうかは、別の問題です。
分かっていないこと
- 3次元の本物の方程式で、なめらかな解がいつまでも続くのか、爆発する始まり方があるのか。
- 弱い解が、ただ1つに決まるのか。
- 乱流のコルモゴロフの理論が、方程式から数学として導けるのか。
最近の動きと、気をつけたい点
ネット上では「解けた」という話が出ることがありますが、クレイ数学研究所が解決として認めたという発表は、2026年11月に確認した範囲ではありません。査読(専門家による確認)が終わっていない主張は、そのまま信じず、結果を待つことが大切です。

合格先生
数学では「そうなりそう」と「証明できた」はまったくちがうんだ。入試の答案でも、図や数値でたしかめただけで「いつでも成り立つ」と書いてはいけないよ。
ナビエ–ストークス方程式はなぜ難しいのか
1. 「非線形」だから、足し算が使えない
方程式の左辺の は、自分自身にかかる項です。流れが流れを運ぶので、「小さな流れを足し合わせて大きな流れを作る」という便利な方法が使えません。このような性質を非線形といいます。1階線形微分方程式の解き方のように、線形の方程式なら公式で解けることが多いのに、非線形になると公式がほとんどありません。
2. エネルギーだけでは、爆発を止められない
流れの「エネルギー」(運動の勢い)は、粘りのおかげで時間とともに減ることが分かります。ところが、エネルギーが有限だからといって、1点の速さまで有限とは限りません。ごく細い場所に勢いが集まって、速さが無限になるかもしれないからです。エネルギーでおさえられる量と、爆発をおさえるのに必要な量との間に、すき間があります。このすき間を数学的にうめる方法が、まだ見つかっていません。
3. 「大きさ」ごとに、別の世界がある
大きなうずは小さなうずを生み、小さなうずは粘りけで消えていきます。この「大から小へのエネルギーの流れ」は、大きさにして何けたもの範囲にまたがります。レイノルズ数が10億にもなるジェット機の翼のまわりでは、かかわる大きさの範囲がとても広く、コンピューターでもすべてを直接計算するのは困難です。
4. 次元によって話がちがう
2次元では解決しているのに、3次元で止まる理由は、先ほどのうずの引きのばしです。2次元では起こらない働きが、3次元では爆発の引き金になるかもしれない。ポアンカレ予想でも次元の数が決定的でした。次元がひとつ上がるだけで、まったく別の問題になることは、数学ではよくあります。
5. どちらが正しいか、決め手がない
P≠NP予想のように、専門家の多くが同じ答えを予想している問題もありますが、この問題はちがいます。「なめらかなままだろう」と考える人もいれば、「爆発が起きるのではないか」と考える人もいて、どちらも決め手に欠けています。証明する側は、「一生に一度の発見」に近い仕事ですが、反例(爆発する例)を作る側も、どんな始まり方にすればよいかの手がかりが乏しい状態です。
サクラちゃん
爆発したら、水が本当に無限の速さになるんですか?
合格先生
いや、現実の水は無限の速さにならないよ。もし数学の解が爆発するなら、方程式が現実をうまく表せなくなる場所があるということ。水を「つながった連続体」と考えるのをやめて、水の分子の動きまで考える必要が出てくるんだ。だから、どちらの答えが出ても、物理の見方に大きな影響があるんだよ。
受験・勉強とナビエ–ストークス方程式のつながり
中学受験:速さと水の量の問題
中学受験の算数には、水そうに水を入れる問題や、管の太さと流れる速さの問題があります。じつは、水がつぶれないという条件 の一番かんたんな形が、「管の断面積 × 流れる速さ = 一定」という関係です。管の太さが半分(直径が半分)になると、断面積は4分の1になるので、流れる速さは4倍になります。水道のホースの先をつまむと水が勢いよく出るのは、この理由です。
高校・大学受験:微分と偏微分
ナビエ–ストークス方程式にでてくる は、偏微分の公式と使い方です。大学入試の数学IIIでも、速さや変化の割合を扱う微分の公式を使います。時間によって速さがどう変わるかを調べる問題は、極限とは何かと微分とは何かの考え方の入り口です。たとえば先ほどの のように、分母が0に近づくと値が限りなく大きくなるグラフは、数学IIIの「関数の極限」でおなじみです。
理系の勉強:物理の流体と、数学の解析
大学の物理では「流体力学」、数学では「偏微分方程式」の分野で、この方程式を学びます。空気の流れの研究は、飛行機・新幹線・車の設計や、天気予報、気候の研究、血液の流れの研究(心臓の病気の診断)など、多くの技術につながっています。
勉強法として:「たしかめた」と「証明した」を分ける
この問題から学べるのは、計算でうまくいくことと、いつでも成り立つことを証明することは別だという点です。入試の証明問題でも、いくつかの数でためしただけでは、減点か0点になります。数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)では、証明問題の練習のしかたも紹介しています。また、京大理系数学の出題分析(頻出の微積分と整数)を見ると、微分・積分が入試でどれだけ大切かが分かります。
ナビエ–ストークス方程式が数学・社会にあたえる影響
- 天気予報・気候:大気の動きは、ナビエ–ストークス方程式をもとにしたコンピューター計算で予測されます。方程式の性質が数学として理解されれば、計算の信頼性をもっとはっきり示せます。
- 飛行機・車・建物の設計:空気の流れによる抵抗や振動を調べるときに使われます。流れがなめらかか乱れるかで、燃料の使いやすさや安全性が変わります。
- 医療:血液が血管の中でどう流れるかをコンピューターで再現し、動脈瘤などの病気の研究に使われています。
- 数学の発展:この方程式の研究が、偏微分方程式の理論、関数解析、調和解析を大きく育てました。ルレーの「弱い解」の考え方は、のちの偏微分方程式の標準的な方法になっています。
- ほかの難問とのつながり:リーマン予想やホッジ予想のような代数や数論の問題とちがい、この問題は現実の世界の現象と直結しています。ヤン–ミルズ方程式の問題も物理に近い難問で、どちらも「物理で当たり前に使われている方程式を、数学として正しく理解する」という問題です。
ニュートンの業績と生涯の運動の法則から出発し、オイラー、ナビエ、ストークスが築いた流れの理論は、300年近くたった今も、数学に新しい問いを投げかけています。
ナビエ–ストークス方程式に挑戦!練習問題
やさしい
- 水道のホース(直径0.02m)の中を、水が秒速1mで流れています。レイノルズ数(=速さ×長さ÷動粘度)はいくつですか。水の動粘度は m²/s とします。
答えと解説を見る
速さ1×長さ0.02÷=20000(2×10⁴)。管の中の流れは、およそ2000〜4000をこえると乱れやすくなるので、この流れは乱れやすい状態です。 - 内側の直径が2cmのホースに、秒速1mで水が流れています。先をつまんで出口の直径を1cmにすると、出口での水の速さは秒速何mになりますか(水はつぶれないものとします)。
答えと解説を見る
断面積は直径の2乗に比べるので、直径が半分になると断面積は4分の1。流れる水の量は同じなので、速さは4倍で秒速4m。
ふつう
- 速さが で変わる流れがあります。、 のときの速さをそれぞれ求めなさい。
答えと解説を見る
のとき 1÷0.1=10、 のとき 1÷0.01=100。 が1に近づくほど、速さが限りなく大きくなります(爆発のイメージ)。 - 上の が初めて1000になる時刻 を求めなさい。また、 での速さはどうなりますか。
答えと解説を見る
1÷(1−t)=1000 より 1−t=0.001、。 では分母が0になるので、値が決まりません(限りなく大きくなる)。
むずかしい
- 流れ は、「水がつぶれない」条件 ()をみたしますか。また はどうですか。
答えと解説を見る
前者は でみたします。後者は 1+1=2 で0にならないのでみたしません(外へわき出す流れ)。 - ジェット旅客機が、長さ60mのものとして、秒速250mで飛んでいます。まわりの空気(動粘度 m²/s)のレイノルズ数を求め、水道のホースの流れ(20000)の何倍か答えなさい。
答えと解説を見る
250×60÷(1.5×10⁻⁵)=1.5×10⁴÷(1.5×10⁻⁵)=10⁹(約10億)。10⁹÷2×10⁴=5万倍。
ナビエ–ストークス方程式と関係する数学者・難問
- オイラーの業績と生涯:1757年ごろに、流体の運動の方程式をまとめました。
- ニュートンの業績と生涯:運動の法則を築き、流体の粘りけについても考えました。
- コルモゴロフの業績と生涯:1941年に乱流の理論を発表しました。
- テレンス・タオの数学:2016年に、平均した方程式での爆発を示しました。
- フーリエの業績と生涯:熱の伝わり方の方程式を研究し、偏微分方程式の解き方の基礎を作りました。
- リーマン予想・P≠NP予想・ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題・ホッジ予想・BSD予想・ポアンカレ予想:同じミレニアム懸賞問題の仲間です。
ほかの未解決の難問
- 奇数の完全数はあるかとは(未解決)
6・28のように約数の和が自分の2倍になる完全数。偶数のものは52個見つかっているが、奇数の完全数は1つも見つかっていない - ゴールドバッハ予想とは(未解決)
4以上の偶数は2つの素数の和で表せるか。とても大きな数まで確かめられているが証明はない(奇数版の「弱い予想」は2013年に証明が発表された) - 双子素数予想とは(未解決)
3と5、11と13のように差が2の素数の組は無限にあるか。2013年に「差が7000万以下の組は無限」と分かり、その後246まで縮まった - リーマン予想とは(未解決)
ゼータ関数の「自明でない零点」は、すべて実部が1/2の直線上にあるか。素数の分布のかぎ。ミレニアム懸賞問題 - コラッツ予想とは(未解決)
偶数なら2でわり、奇数なら3倍して1を足す。どんな数から始めても1にたどり着くか - ホッジ予想とは(未解決)
図形の「形のかけら」は代数的な式で作れるか。ミレニアム懸賞問題 - バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想とは(未解決)
楕円曲線の上の有理数の点の個数を、関数で読み取れるか。ミレニアム懸賞問題 - P≠NP 予想とは(未解決)
答えを確かめるのが速い問題は、答えを見つけるのも速いのか。コンピューターの世界の最大の難問。ミレニアム懸賞問題 - ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題とは(未解決)
素粒子の力を表す理論を数学として厳密に作れるか。ミレニアム懸賞問題
← 前の時代:ABC予想とは(解決と発表・評価が分かれる) | 次の時代:ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題とは(未解決) →
数学の難問・未解決問題の一覧(いつ・だれが解いたか) | 有名な数学者一覧
読みもの(合格大作戦の数学の記事)
- 算数・数学の公式一覧(公式辞典)
公式・証明・例題を1つずつ - 数学用語辞典(用語の意味を1語1ページ)
素数・漸近線など200語 - 算数・数学 公式と用語の一覧(学年別・分野別)
公式辞典と用語辞典の入口 - 数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)
青・黄・赤チャートの使い分け - 京大理系数学の出題分析(1999〜2026年度)
大問別一覧と頻出分野ランキング - フェルマーの最終定理とは?わかりやすく解説
n=2と3以上の違い、ワイルズの証明
よくある質問
ナビエ–ストークス方程式とは何ですか?
ナビエ–ストークス方程式とは、水や空気のような流体の動きを表す方程式です。ニュートンの運動の法則を流れにあてはめたもので、圧力、粘りけ、外から加える力による流れの変化を表します。天気予報や飛行機の設計に使われています。
「解の存在となめらかさ」の問題とは何ですか?
3次元の空間で、なめらかな流れから始めたとき、ナビエ–ストークス方程式の解がいつまでも存在して、なめらかなままかを問う問題です。速さが有限の時間で無限になる「爆発」が起こらないことの証明、または爆発する例を示すことが求められます。
100万ドルの懸賞金とは何ですか?
2000年にアメリカのクレイ数学研究所が、この問題を含む7つの問題を「ミレニアム懸賞問題」に選び、各問題の解決に100万ドルの懸賞金をつけました。解決とされた問題はポアンカレ予想だけです。
この問題は解けているのですか?
2026年11月時点で、解決とは公式に認められていません。2次元の場合は1960年代に解決していますが、3次元の場合は、なめらかな解が続くかどうかも、爆発する例があるかどうかも分かっていません。
なぜ3次元だけがむずかしいのですか?
3次元では、うずが細く引きのばされて回転が速まる働きがあり、これが速さの急な増加を引き起こすかもしれないからです。2次元ではこの働きが起こらないため、なめらかな解が続くことが示されています。
「爆発」とは何のことですか?
有限の時間のうちに、流れの速さやその変化が限りなく大きくなり、方程式の解がなめらかでなくなることです。現実の水が無限の速さになることはないので、爆発が起きるなら、方程式が現実の流れを表せなくなる場所があることになります。
ルレーの「弱い解」とは何ですか?
1934年にルレーが示した、なめらかとは限らないが方程式を平均の意味でみたす解です。3次元でもつねに存在することが分かっていますが、なめらかなままか、ただ1つに決まるかは分かっていません。
レイノルズ数とは何ですか?
流れが整うか乱れるかを見分けるめやすの数で、速さ×長さ÷動粘度で計算します。管の中の流れでは、およそ2000〜4000をこえると乱れやすくなるとされます。ジェット旅客機のまわりでは約10億にもなります。
「解けた」という話を聞きましたが本当ですか?
2026年11月時点で、クレイ数学研究所が解決と認めたという発表はありません。専門家による確認が終わるまで、解決とは考えられません。
この問題は受験に出ますか?
問題そのものは出ませんが、微分と偏微分、極限、速さの問題、管の太さと流れる速さの関係など、基本の考え方は中学受験から大学入試まで関わります。
あわせて読みたい
出典・参考
- C. L. Fefferman, “Existence and smoothness of the Navier–Stokes equation”(クレイ数学研究所の公式問題説明)
- クレイ数学研究所「Navier–Stokes Equation」のページ(claymath.org/millennium/navier-stokes-equation/)
- J. Leray, “Sur le mouvement d’un liquide visqueux emplissant l’espace”(Acta Mathematica, 1934年)
- L. Caffarelli, R. Kohn, L. Nirenberg, “Partial regularity of suitable weak solutions of the Navier–Stokes equations”(1982年)
- T. Tao, “Finite time blowup for an averaged three-dimensional Navier–Stokes equation”(Journal of the AMS, 2016年)
最終更新:2026年11月3日/作成:大学受験合格大作戦



