ナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさとは?わかりやすく|100万ドルの懸賞・流れの爆発・未解決

ナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさとは?わかりやすく|100万ドルの懸賞・流れの爆発・未解決

数学の難問・未解決問題の一覧 › 解析

未解決

ナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさ

ひとことで言うと

水や空気の流れの方程式で、「速さが無限になる(爆発する)ことはあるのか」。2000年に100万ドルの懸賞問題に。2026年11月時点で未解決。

問題3次元の水や空気の流れの方程式に、いつまでもなめらかな解があるか(なければ、爆発する例を示す)
方程式ナビエ–ストークス方程式(ナビエ:1822年、ストークス:1845年)
状態未解決(2026年11月時点)
懸賞金100万ドル(クレイ数学研究所、2000年のミレニアム懸賞問題)
公式の問題説明チャールズ・フェファーマン
分かっていること2次元は解決、3次元は短い時間・小さな始まりならなめらか
分野偏微分方程式(解析)

このページのポイント

  • ナビエ–ストークス方程式は水や空気の流れを決める方程式。問題は「3次元で、解がいつまでもなめらかか、それとも爆発するか」
  • 2次元は1960年代に解決。3次元では、うずが引きのばされて速さが増すため難しい。2000年にクレイ数学研究所が100万ドルの懸賞問題に
  • 2026年11月時点で未解決。このページは「いつ解けるか」は予想しない。確認の終わっていない発表は、そのまま信じない

ナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさとは?(ひとことで)

ナビエ–ストークス方程式は、水や空気などの「流れ」の動きを決める方程式です。天気予報、飛行機の設計、血液の流れの研究など、現代の科学と技術のあらゆる場面で使われています。ところがこの方程式について、「3次元の空間で、ふつうの状態から始めたとき、解がずっと存在して、なめらかなままか」という基本的な問いに、まだだれも答えられていません。これがナビエ–ストークス方程式の解の存在となめらかさの問題です。

2000年、アメリカのクレイ数学研究所は、この問題を7つのミレニアム懸賞問題の1つに選びました。7つの問題には、それぞれ100万ドルの賞金が用意されています。クレイ数学研究所のページでは、この問題は「未解決」の扱いで、公式の問題説明は数学者のチャールズ・フェファーマンが書いています。2026年11月時点で、解決は公式に認められていません。このページは「いつ解けるか」を予想しません。

簡単にいうと、問題が聞いているのは「流れの速さが、ある瞬間に無限に大きくなってしまう(爆発する)ことはあるのか」です。現実の水が無限の速さになることはありません。それなのに、方程式の解としては爆発するかもしれない。そのとき「方程式が現実をうまく表していない」のか、それとも「数学の側の理解が足りない」のか。これが、この問題が大切な理由です。

うかるくん

うかるくん

水の流れの方程式なんて、とっくに解けているんじゃないんですか?

合格先生

合格先生

実は、コンピューターで近い答えを出すことはできるんだ。天気予報がそうだね。でも数学の問題は「いつでも、どんな場合でも、答えがちゃんとあって、なめらかなままか」を証明すること。1つ1つの計算がうまくいっても、それは証明にならないんだよ。

ナビエ–ストークス方程式の意味をやさしく解説

流れは「矢印の野原」

プールの水を思い浮かべてください。水の中のそれぞれの場所には、水がその瞬間にどの向きに、どれだけの速さで動いているかが決まっています。これを矢印(向きが流れの向き、長さが速さ)で表すと、空間全体が矢印でうめつくされます。数学ではこれを速度場といい、場所 xx と時間 tt に対して矢印 u(x,t)u(x,t) を決める関数として書きます。

流れ = 矢印の野原向き=流れの向き 長さ=速さ方程式は「矢印が次にどう変わるか」を決める
水の流れは、場所ごとに矢印をならべた「矢印の野原」で表せる。方程式は、この野原が次の瞬間にどう変わるかを決める

知りたいのは「今の矢印の野原がこうなら、1秒後、2秒後の野原はどうなるか」です。それを決めるのがナビエ–ストークス方程式です。

方程式を読んでみよう

3次元で水が非圧縮(ぎゅっとつぶれない)の場合、方程式は次のように書かれます。

∂u∂t+(u⋅∇)u=−∇p+ν Δu+f,∇⋅u=0\frac{\partial u}{\partial t}+(u\cdot\nabla)u=-\nabla p+\nu\,\Delta u+f,\qquad \nabla\cdot u=0

むずかしそうに見えますが、言葉にすると「ニュートンの運動の法則(力=質量×加速度)を、流れにあてはめたもの」です。

  • 左辺 ∂u/∂t+(u⋅∇)u\partial u/\partial t+(u\cdot\nabla)u:水の小さなかたまりの加速です。「その場所の矢印が時間で変わる分」と「流れに乗って別の場所へ運ばれる分」の2つがあります。
  • −∇p-\nabla p:圧力 pp の差が水を押す力です。圧力の高いほうから低いほうへ押されます。
  • ν Δu\nu\,\Delta u:粘りけ(まさつ)の力です。ν\nu(ニュー)が大きいほど粘りが強く、はちみつでは大きく、水では小さな値です。まわりと速さをならそうとする働きがあります。
  • ff:重力やかき混ぜる力など、外から加える力です。
  • ∇⋅u=0\nabla\cdot u=0:水がつぶれず、わき出しも消えもしないという条件です。「流れこむ量=流れ出る量」と言いかえられます。
方程式は「ニュートンの法則」の流れ版 加速(流れの変化)= ① 圧力の差が押す力高いほうから低いほうへ押される ② 粘りけ(まさつ)の力はちみつは大きく、水は小さい ③ 外から加える力重力・かき混ぜる力など さらに「水はつぶれない」という条件がつく
方程式の左辺は水のかたまりの加速、右辺は圧力・粘りけ・外からの力。ニュートンの法則そのもの

使われている記号は、微分係数と導関数(偏微分のもと)の考え方です。偏微分と全微分・連鎖律の公式を知っていると、意味がつかみやすくなります。ベクトルの成分と大きさも、矢印を数で表すときに使います。

なお、粘りけの項(ν Δu\nu\,\Delta u)をなくした方程式はオイラー方程式とよばれ、理想的な「粘りのない流体」を表します。ナビエ–ストークス方程式は、これに粘りを足したものです。粘りは流れの角を丸めてなめらかにする働きがあるので、「粘りがあれば爆発は防げるのでは」と期待されてきましたが、3次元ではそれが証明できていません。

クレイ数学研究所が聞いている問題

公式の問題説明(フェファーマン)の中身を、大づかみに言うとこうなります。なめらかに変化する矢印の野原から始めて、空間は無限に広がる3次元空間か、「繰り返し」のある箱の形(周期的な空間)とします。このとき、次のどちらかを示せば賞金が出ます。

  • そのような流れは、どれだけ時間がたっても解が存在し、なめらかなままで、エネルギーも有限のままである(存在となめらかさの証明)
  • あるいは、ある始まり方(外から力を加える場合をふくむ)の流れで、有限の時間のうちに解がなめらかでなくなる(爆発する)例を作る

つまり、「なめらかな解が永遠に続く」と証明しても、「爆発の例を見つける」でも、どちらでも解決です。どちらが正しいのか、専門家の間でも意見は一致していません。

「なめらか」「爆発」とは

解がなめらかとは、矢印の野原が、どの場所でもとびとびにならず、急な変化もなく、何回でも微分とは何かできることです。反対に爆発(特異点の発生)とは、ある時刻 TT で、どこかの場所の速さ(または速さの変化)が限りなく大きくなってしまうことです。たとえば速さが u(t)=11−tu(t)=\dfrac{1}{1-t} のように変わると、t=1t=1 に近づくにつれて速さは限りなく大きくなります。

なめらかなまま? それとも爆発? 青:有限にとどまる赤:有限の時間で∞ 0T時間速さ 問題は「本物の流れで赤は起こるのか」
青=速さが有限のままのなめらかな流れ、赤=有限の時間で速さが無限になる爆発。本物のナビエ–ストークス方程式で赤が起こるかどうかが問題

爆発がもし起きたら、その時刻より先は「方程式が使えない」ことになります。現実の水が無限の速さになることはないので、爆発が起きるなら、方程式が表しているのは本当の水の動きではない(粘りだけでは足りず、水を粒としてあつかう必要が出てくる)という意味になります。

2次元ではすでに解けている

おもしろいことに、2次元(紙の上の平らな流れ)のナビエ–ストークス方程式は、1960年代にラドィジェンスカヤらによって、解が存在してなめらかなままであることが示されています。2次元だけで済むなら、ポアンカレ予想(形の難問)のように次元が1つ上がるところで急にむずかしくなる、という点が似ています。2次元では、うずが細く引きのばされることがありません。3次元だと、次の「うずの引きのばし」が起こります。

うずが引きのばされると… 太い・ゆっくり 引きのばす 細い・速い回転 スケートの回転と同じ
3次元では、うずが細く引きのばされて回転が速くなる。この働きが強すぎると、爆発につながるのではと心配されている

フィギュアスケートの選手は、広げていた腕をぎゅっと胸に引きよせると、回転が速くなります。うずの管が細く長くなると回転が速くなるのと同じ理由です。粘りけがこの速まりを止めてくれるのか、それとも速まりが粘りに勝つ場合があるのか。これが問題の中心です。

レイノルズ数:流れが乱れるめやす

流れが「なめらかに流れる」か「ぐちゃぐちゃに乱れる(乱流)」かは、レイノルズ数という値で見当がつきます。イギリスのオズボーン・レイノルズが1883年に管の実験で示したもので、速さ × 長さ ÷ 動粘度(動粘度は粘りの強さを表す値)で計算します。水の動粘度はおよそ 1.0×10−6 m2/s1.0\times10^{-6}\,\text{m}^2/\text{s}、空気は 1.5×10−5 m2/s1.5\times10^{-5}\,\text{m}^2/\text{s} 程度です。数が大きいほど、流れは乱れやすくなります。

レイノルズ数 = 速さ×長さ÷動粘度 ゆっくり流れるストロー5.0×10²水道のホース2.0×10⁴歩く人のまわりの空気4.7×10⁴泳ぐ人のまわりの水2.7×10⁶ジェット旅客機の翼のまわり10⁹ 緑=なめらかに流れやすい 赤=乱れやすい
身のまわりのレイノルズ数。管の中の流れでは、およそ2000〜4000をこえると乱れやすくなるとされる

身近な流れの多くは、レイノルズ数が非常に大きい世界です。そこでは、大小さまざまな大きさのうずが入り乱れます。この「乱流」をどう数学でとらえるかが、この問題のむずかしさに直結しています。

ナビエ–ストークス方程式の歴史と年表

1757年:オイラーが「粘りのない流れ」の方程式を書く

スイスの数学者オイラーの業績と生涯は、1757年ごろに、粘りけのない理想的な流体の運動の方程式(オイラー方程式)をまとめました。ニュートンの運動の法則を、つながった流体の動きに初めて広げたものとして知られています。

1822〜1845年:ナビエとストークスが粘りを足す

フランスの技術者クロード=ルイ・ナビエは、1822年に粘りけを入れた方程式を発表しました。その後、イギリスのジョージ・ガブリエル・ストークスが、1845年に、より物理的な考え方で同じ形の方程式を導きました。2人の名前から、ナビエ–ストークス方程式とよばれます。ナビエは橋の設計もした技術者で、方程式を実用の中でも使いました。

1883年:レイノルズが乱れの境目を実験で示す

レイノルズは、ガラス管に色のついた水を流し、速さをあげると、整った流れがある境目で乱れることを実験で見せました。のちに、境目を決める数がレイノルズ数とよばれるようになりました。

1934年:ルレーが「弱い解」を作る

フランスのジャン・ルレーは、1934年に、3次元のナビエ–ストークス方程式に対して「弱い解」とよばれる、なめらかとは限らないが方程式を「平均の意味」でみたす解が、いつでも存在することを示しました。さらに、始まりの流れが十分に小さければ、なめらかな解が存在することも示しています。ただし、弱い解が「なめらかなままか」「ただ1つか」は、いまも分かっていません。これが現在の問題の出発点です。弱い解の考え方は、ドイツのエーベルハルト・ホップが1951年に広げました。

1941年:コルモゴロフの乱流の理論

ソビエトのコルモゴロフの業績と生涯は、1941年に、乱流の中のうずの大きさごとのエネルギーの分布についての理論を発表しました。実験とよく合う理論ですが、方程式から数学的に導いたものではなく、これを証明することも大きな課題です。

1980年代:爆発が起きるとしても「ごく小さな場所」

1982年に、カファレリ、コーン、ニーレンバーグの3人が、爆発が起きるとしても、空間と時間の中でごく小さな(次元の低い)集まりの場所でしか起きないことを示しました。1984年には、ボー、加藤敏夫、マジダが、爆発が起きるなら、うずの強さが限りなく大きくなることを示しました。どちらも、爆発の「ありうる姿」をせばめる結果です。

2000年:100万ドルの懸賞問題

2000年5月24日、クレイ数学研究所はパリのコレージュ・ド・フランスで、7つのミレニアム懸賞問題を発表しました。各問題に100万ドルの賞金があります。この問題もその1つで、ほかにはリーマン予想、P≠NP予想、ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題、ホッジ予想、バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想があります。解決された問題はポアンカレ予想だけです。

2016年:タオが「平均した方程式」で爆発を示す

テレンス・タオの数学は、2016年に、ナビエ–ストークス方程式の非線形の部分を「平均した」別の方程式を作り、その方程式では爆発が起きることを示す論文を発表しました。本物の方程式の問題が解けたわけではありませんが、「どの性質が爆発をふせいでいるのか」をはっきりさせた研究として注目されました。

年できごと
1757年オイラーが、粘りのない流体の運動の方程式(オイラー方程式)をまとめる
1822年ナビエが、粘りけを入れた方程式を発表
1845年ストークスが、ナビエ–ストークス方程式の今の形を導く
1883年レイノルズが、管の実験で流れが乱れる境目を示す
1934年ルレーが、3次元の弱い解がつねに存在することを示す
1941年コルモゴロフが、乱流の理論を発表
1969年ラドィジェンスカヤらにより、2次元の場合は解決(なめらかな解が存在)
1982年カファレリ・コーン・ニーレンバーグが、爆発が起きても小さな場所に限られることを示す
1984年ボー・加藤・マジダが、爆発が起きるならうずの強さが無限になることを示す
2000年クレイ数学研究所が、100万ドルの懸賞問題に選ぶ
2016年タオが、平均した方程式で爆発が起きることを示す
流れの方程式の歩み1757オイラーが粘りけのない流れの方程式1822ナビエが粘りけを入れる1845ストークスが今の形に1934ルレーが「弱い解」2000クレイ研究所が懸賞問題に2016タオが平均した方程式で爆発2026年10月時点で、問題は未解決
1757年のオイラーから、2000年の懸賞問題、2016年のタオの研究まで

ナビエ–ストークス方程式は今どこまで分かっている?(2026年11月時点)

この問題は未解決です。クレイ数学研究所のページでも、2026年11月に確認した範囲では、解決とは認められていません。私たちは「いつ解けるか」を予想しません。ここでは、分かっていることと、分かっていないことを分けて整理します。

分かっていること

  • 2次元はすでに解決:なめらかな解がずっと存在します(1960年代)。
  • 3次元でも短い時間なら大丈夫:なめらかな始まりなら、短い時間のあいだ、なめらかな解がただ1つ存在します。問題は「その時間が、どこまでのびるか」です。
  • 始まりが十分に小さければ、ずっとなめらか:ルレー以来の結果で、始まりの流れが「十分に小さい」場合は、なめらかな解が永遠に続くことが分かっています。ただし「十分に小さい」の範囲は限られています。
  • 弱い解は必ず存在する:なめらかさをあきらめれば、解はつねにあります(ルレー、1934年)。
  • 爆発するなら、うずの強さが無限になる(ボー・加藤・マジダ、1984年)。爆発が起きても小さな場所に限られる(カファレリ・コーン・ニーレンバーグ、1982年)。
  • よく似た方程式では爆発する例がある:タオの2016年の研究のほか、粘りのないオイラー方程式の爆発を、コンピューターで調べる研究も進んでいます。ただし、粘りけのある本物のナビエ–ストークス方程式に当てはまるかどうかは、別の問題です。

分かっていないこと

  • 3次元の本物の方程式で、なめらかな解がいつまでも続くのか、爆発する始まり方があるのか。
  • 弱い解が、ただ1つに決まるのか。
  • 乱流のコルモゴロフの理論が、方程式から数学として導けるのか。

最近の動きと、気をつけたい点

ネット上では「解けた」という話が出ることがありますが、クレイ数学研究所が解決として認めたという発表は、2026年11月に確認した範囲ではありません。査読(専門家による確認)が終わっていない主張は、そのまま信じず、結果を待つことが大切です。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

数学では「そうなりそう」と「証明できた」はまったくちがうんだ。入試の答案でも、図や数値でたしかめただけで「いつでも成り立つ」と書いてはいけないよ。

ナビエ–ストークス方程式はなぜ難しいのか

1. 「非線形」だから、足し算が使えない

方程式の左辺の (u⋅∇)u(u\cdot\nabla)u は、自分自身にかかる項です。流れが流れを運ぶので、「小さな流れを足し合わせて大きな流れを作る」という便利な方法が使えません。このような性質を非線形といいます。1階線形微分方程式の解き方のように、線形の方程式なら公式で解けることが多いのに、非線形になると公式がほとんどありません。

2. エネルギーだけでは、爆発を止められない

流れの「エネルギー」(運動の勢い)は、粘りのおかげで時間とともに減ることが分かります。ところが、エネルギーが有限だからといって、1点の速さまで有限とは限りません。ごく細い場所に勢いが集まって、速さが無限になるかもしれないからです。エネルギーでおさえられる量と、爆発をおさえるのに必要な量との間に、すき間があります。このすき間を数学的にうめる方法が、まだ見つかっていません。

3. 「大きさ」ごとに、別の世界がある

大きなうずは小さなうずを生み、小さなうずは粘りけで消えていきます。この「大から小へのエネルギーの流れ」は、大きさにして何けたもの範囲にまたがります。レイノルズ数が10億にもなるジェット機の翼のまわりでは、かかわる大きさの範囲がとても広く、コンピューターでもすべてを直接計算するのは困難です。

4. 次元によって話がちがう

2次元では解決しているのに、3次元で止まる理由は、先ほどのうずの引きのばしです。2次元では起こらない働きが、3次元では爆発の引き金になるかもしれない。ポアンカレ予想でも次元の数が決定的でした。次元がひとつ上がるだけで、まったく別の問題になることは、数学ではよくあります。

5. どちらが正しいか、決め手がない

P≠NP予想のように、専門家の多くが同じ答えを予想している問題もありますが、この問題はちがいます。「なめらかなままだろう」と考える人もいれば、「爆発が起きるのではないか」と考える人もいて、どちらも決め手に欠けています。証明する側は、「一生に一度の発見」に近い仕事ですが、反例(爆発する例)を作る側も、どんな始まり方にすればよいかの手がかりが乏しい状態です。

サクラちゃん

サクラちゃん

爆発したら、水が本当に無限の速さになるんですか?

合格先生

合格先生

いや、現実の水は無限の速さにならないよ。もし数学の解が爆発するなら、方程式が現実をうまく表せなくなる場所があるということ。水を「つながった連続体」と考えるのをやめて、水の分子の動きまで考える必要が出てくるんだ。だから、どちらの答えが出ても、物理の見方に大きな影響があるんだよ。

受験・勉強とナビエ–ストークス方程式のつながり

中学受験:速さと水の量の問題

中学受験の算数には、水そうに水を入れる問題や、管の太さと流れる速さの問題があります。じつは、水がつぶれないという条件 ∇⋅u=0\nabla\cdot u=0 の一番かんたんな形が、「管の断面積 × 流れる速さ = 一定」という関係です。管の太さが半分(直径が半分)になると、断面積は4分の1になるので、流れる速さは4倍になります。水道のホースの先をつまむと水が勢いよく出るのは、この理由です。

高校・大学受験:微分と偏微分

ナビエ–ストークス方程式にでてくる ∂/∂t\partial/\partial t は、偏微分の公式と使い方です。大学入試の数学IIIでも、速さや変化の割合を扱う微分の公式を使います。時間によって速さがどう変わるかを調べる問題は、極限とは何かと微分とは何かの考え方の入り口です。たとえば先ほどの u(t)=11−tu(t)=\dfrac{1}{1-t} のように、分母が0に近づくと値が限りなく大きくなるグラフは、数学IIIの「関数の極限」でおなじみです。

理系の勉強:物理の流体と、数学の解析

大学の物理では「流体力学」、数学では「偏微分方程式」の分野で、この方程式を学びます。空気の流れの研究は、飛行機・新幹線・車の設計や、天気予報、気候の研究、血液の流れの研究(心臓の病気の診断)など、多くの技術につながっています。

勉強法として:「たしかめた」と「証明した」を分ける

この問題から学べるのは、計算でうまくいくことと、いつでも成り立つことを証明することは別だという点です。入試の証明問題でも、いくつかの数でためしただけでは、減点か0点になります。数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)では、証明問題の練習のしかたも紹介しています。また、京大理系数学の出題分析(頻出の微積分と整数)を見ると、微分・積分が入試でどれだけ大切かが分かります。

ナビエ–ストークス方程式が数学・社会にあたえる影響

  • 天気予報・気候:大気の動きは、ナビエ–ストークス方程式をもとにしたコンピューター計算で予測されます。方程式の性質が数学として理解されれば、計算の信頼性をもっとはっきり示せます。
  • 飛行機・車・建物の設計:空気の流れによる抵抗や振動を調べるときに使われます。流れがなめらかか乱れるかで、燃料の使いやすさや安全性が変わります。
  • 医療:血液が血管の中でどう流れるかをコンピューターで再現し、動脈瘤などの病気の研究に使われています。
  • 数学の発展:この方程式の研究が、偏微分方程式の理論、関数解析、調和解析を大きく育てました。ルレーの「弱い解」の考え方は、のちの偏微分方程式の標準的な方法になっています。
  • ほかの難問とのつながり:リーマン予想やホッジ予想のような代数や数論の問題とちがい、この問題は現実の世界の現象と直結しています。ヤン–ミルズ方程式の問題も物理に近い難問で、どちらも「物理で当たり前に使われている方程式を、数学として正しく理解する」という問題です。

ニュートンの業績と生涯の運動の法則から出発し、オイラー、ナビエ、ストークスが築いた流れの理論は、300年近くたった今も、数学に新しい問いを投げかけています。

ナビエ–ストークス方程式に挑戦!練習問題

やさしい

  1. 水道のホース(直径0.02m)の中を、水が秒速1mで流れています。レイノルズ数(=速さ×長さ÷動粘度)はいくつですか。水の動粘度は 1.0×10−61.0\times10^{-6} m²/s とします。
    答えと解説を見る速さ1×長さ0.02÷10−610^{-6}=20000(2×10⁴)。管の中の流れは、およそ2000〜4000をこえると乱れやすくなるので、この流れは乱れやすい状態です。
  2. 内側の直径が2cmのホースに、秒速1mで水が流れています。先をつまんで出口の直径を1cmにすると、出口での水の速さは秒速何mになりますか(水はつぶれないものとします)。
    答えと解説を見る断面積は直径の2乗に比べるので、直径が半分になると断面積は4分の1。流れる水の量は同じなので、速さは4倍で秒速4m。

ふつう

  1. 速さが u(t)=11−tu(t)=\dfrac{1}{1-t} で変わる流れがあります。t=0.9t=0.9、t=0.99t=0.99 のときの速さをそれぞれ求めなさい。
    答えと解説を見るt=0.9t=0.9 のとき 1÷0.1=10、t=0.99t=0.99 のとき 1÷0.01=100。tt が1に近づくほど、速さが限りなく大きくなります(爆発のイメージ)。
  2. 上の u(t)=11−tu(t)=\dfrac{1}{1-t} が初めて1000になる時刻 tt を求めなさい。また、t=1t=1 での速さはどうなりますか。
    答えと解説を見る1÷(1−t)=1000 より 1−t=0.001、t=0.999t=0.999。t=1t=1 では分母が0になるので、値が決まりません(限りなく大きくなる)。

むずかしい

  1. 流れ u=(x, −y, 0)u=(x,\,-y,\,0) は、「水がつぶれない」条件 ∇⋅u=0\nabla\cdot u=0(∂u1/∂x+∂u2/∂y+∂u3/∂z=0\partial u_1/\partial x+\partial u_2/\partial y+\partial u_3/\partial z=0)をみたしますか。また u=(x, y, 0)u=(x,\,y,\,0) はどうですか。
    答えと解説を見る前者は ∂x/∂x+∂(−y)/∂y+0=1−1=0\partial x/\partial x+\partial(-y)/\partial y+0=1-1=0 でみたします。後者は 1+1=2 で0にならないのでみたしません(外へわき出す流れ)。
  2. ジェット旅客機が、長さ60mのものとして、秒速250mで飛んでいます。まわりの空気(動粘度 1.5×10−51.5\times10^{-5} m²/s)のレイノルズ数を求め、水道のホースの流れ(20000)の何倍か答えなさい。
    答えと解説を見る250×60÷(1.5×10⁻⁵)=1.5×10⁴÷(1.5×10⁻⁵)=10⁹(約10億)。10⁹÷2×10⁴=5万倍。

ナビエ–ストークス方程式と関係する数学者・難問

ほかの未解決の難問

← 前の時代:ABC予想とは(解決と発表・評価が分かれる) | 次の時代:ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題とは(未解決) →

数学の難問・未解決問題の一覧(いつ・だれが解いたか) | 有名な数学者一覧

読みもの(合格大作戦の数学の記事)

よくある質問

ナビエ–ストークス方程式とは何ですか?

ナビエ–ストークス方程式とは、水や空気のような流体の動きを表す方程式です。ニュートンの運動の法則を流れにあてはめたもので、圧力、粘りけ、外から加える力による流れの変化を表します。天気予報や飛行機の設計に使われています。

「解の存在となめらかさ」の問題とは何ですか?

3次元の空間で、なめらかな流れから始めたとき、ナビエ–ストークス方程式の解がいつまでも存在して、なめらかなままかを問う問題です。速さが有限の時間で無限になる「爆発」が起こらないことの証明、または爆発する例を示すことが求められます。

100万ドルの懸賞金とは何ですか?

2000年にアメリカのクレイ数学研究所が、この問題を含む7つの問題を「ミレニアム懸賞問題」に選び、各問題の解決に100万ドルの懸賞金をつけました。解決とされた問題はポアンカレ予想だけです。

この問題は解けているのですか?

2026年11月時点で、解決とは公式に認められていません。2次元の場合は1960年代に解決していますが、3次元の場合は、なめらかな解が続くかどうかも、爆発する例があるかどうかも分かっていません。

なぜ3次元だけがむずかしいのですか?

3次元では、うずが細く引きのばされて回転が速まる働きがあり、これが速さの急な増加を引き起こすかもしれないからです。2次元ではこの働きが起こらないため、なめらかな解が続くことが示されています。

「爆発」とは何のことですか?

有限の時間のうちに、流れの速さやその変化が限りなく大きくなり、方程式の解がなめらかでなくなることです。現実の水が無限の速さになることはないので、爆発が起きるなら、方程式が現実の流れを表せなくなる場所があることになります。

ルレーの「弱い解」とは何ですか?

1934年にルレーが示した、なめらかとは限らないが方程式を平均の意味でみたす解です。3次元でもつねに存在することが分かっていますが、なめらかなままか、ただ1つに決まるかは分かっていません。

レイノルズ数とは何ですか?

流れが整うか乱れるかを見分けるめやすの数で、速さ×長さ÷動粘度で計算します。管の中の流れでは、およそ2000〜4000をこえると乱れやすくなるとされます。ジェット旅客機のまわりでは約10億にもなります。

「解けた」という話を聞きましたが本当ですか?

2026年11月時点で、クレイ数学研究所が解決と認めたという発表はありません。専門家による確認が終わるまで、解決とは考えられません。

この問題は受験に出ますか?

問題そのものは出ませんが、微分と偏微分、極限、速さの問題、管の太さと流れる速さの関係など、基本の考え方は中学受験から大学入試まで関わります。

あわせて読みたい

出典・参考

  • C. L. Fefferman, “Existence and smoothness of the Navier–Stokes equation”(クレイ数学研究所の公式問題説明)
  • クレイ数学研究所「Navier–Stokes Equation」のページ(claymath.org/millennium/navier-stokes-equation/)
  • J. Leray, “Sur le mouvement d’un liquide visqueux emplissant l’espace”(Acta Mathematica, 1934年)
  • L. Caffarelli, R. Kohn, L. Nirenberg, “Partial regularity of suitable weak solutions of the Navier–Stokes equations”(1982年)
  • T. Tao, “Finite time blowup for an averaged three-dimensional Navier–Stokes equation”(Journal of the AMS, 2016年)

最終更新:2026年11月3日/作成:大学受験合格大作戦