マンデルブロは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|フラクタル・マンデルブロ集合・海岸線の長さ

マンデルブロは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|フラクタル・マンデルブロ集合・海岸線の長さ

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マンデルブロBenoit Mandelbrot

ひとことで言うと

「フラクタル」という言葉を作り、拡大しても同じようにぎざぎざした形を数学の対象にした数学者。マンデルブロ集合と海岸線の長さの研究で知られる。

名前ブノワ・マンデルブロ(Benoit B. Mandelbrot)
生没年1924年11月20日〜2010年10月14日(85歳)
国フランス・アメリカ(ポーランドのワルシャワ生まれ)
分野幾何学・フラクタル・複素力学系・経済学・物理学
主な業績フラクタルの提唱(1975年)、イギリスの海岸線の長さの論文(1967年)、マンデルブロ集合、『フラクタル幾何学』(1982年)
主な受賞フランクリン・メダル(1986年)、ウルフ賞物理学部門(1993年)、日本国際賞(2003年)
名前がつくものマンデルブロ集合・マンデルブロの法則(言葉の頻度の式)

このページのポイント

  • 1975年に「フラクタル」という言葉を作り、部分が全体と似ている「自己相似」な形を数学として広めた
  • マンデルブロ集合は zn+1=zn2+cz_{n+1}=z_n^2+c のくり返しで発散しない cc の集まり。コッホ曲線の次元は log4÷log3 ≈ 1.26
  • 1967年の論文で「海岸線の長さはものさししだい」と示した。高校数学の等比数列・極限・複素数平面・対数とつながる

マンデルブロは何をした人?(業績をひとことで)

ブノワ・マンデルブロ(1924〜2010年)は、ポーランドのワルシャワで生まれ、フランスとアメリカで活躍した数学者です。1975年に「フラクタル」という言葉を作り、1982年の本『自然のフラクタル幾何学』で、「どれだけ拡大しても同じようにギザギザした形」を数学の対象として世の中に広めました。海岸線・雲・山・木の枝・血管のように、自然の中にある「ぎざぎざした形」を、数で測ることに成功した人です。

マンデルブロの名前は、複素数の計算から生まれる不思議な模様マンデルブロ集合に残っています。この集合は、数式はとても短いのに、拡大するたびに新しい模様が現れ、コンピューターグラフィックスの代表的な作品として世界中で知られるようになりました。もう一つ有名なのが、「イギリスの海岸線の長さはどれくらいか」という論文(1967年)です。ものさしを細かくするほど長さが増えていくことを示し、「長さ」という身近な言葉に新しい見方をもたらしました。

受験生にとっては、フラクタルは「入試にそのまま出る」ものではありません。ただ、フラクタルの入口は高校数学にたくさんあります。コッホ曲線の周りの長さは等比数列の和の公式で計算できますし、マンデルブロ集合は複素数平面とはの上に描かれます。数列の極限の考え方がそのまま使われているのも見どころです。この記事では、マンデルブロの仕事を「くり返し」「自己相似」「次元」の3つのキーワードで、図と計算を交えながらやさしく説明します。

うかるくん

うかるくん

フラクタルって、ネットで見るカラフルな渦巻きの絵のことですか?

合格先生

合格先生

あの絵はフラクタルのいちばん有名な例だね。でも本当の意味は、「部分を拡大すると全体とそっくりな形」のこと。ブロッコリーの小房を分けると、また小さなブロッコリーに見えるでしょう。あの感じを、数学として扱ったのがマンデルブロなんだ。

マンデルブロの生涯と年表

ワルシャワに生まれ、パリへ

ブノワ・マンデルブロは、1924年11月20日にポーランドのワルシャワで生まれました。家族はリトアニア系のユダヤ人の家庭だったと伝えられています。1936年ごろ、11歳のときにフランスのパリに移りました。パリには、おじのゾレム・マンデルブロワがいました。解析学の研究で知られる数学者で、少年ブノワの勉強に大きな影響をあたえたことが、MacTutor の伝記などに書かれています。

戦争の時代と、ほぼ独学の勉強

第二次世界大戦のあいだ、マンデルブロは学校に通い続けることがむずかしい時期がありました。MacTutor の伝記では、この時期はほぼ独学だったとされています。決まった型の計算練習よりも、図形を頭の中で思いうかべて考えることが得意だった、と本人が後年語ったと伝えられます。この「図で考える」くせは、のちのフラクタル幾何学の発想とつながっていきます。

高等教育と博士号

1944年に名門のエコール・ポリテクニークで学びはじめ、そのあとアメリカのカリフォルニア工科大学(Caltech)にも学びました。1952年にパリ大学で博士号を受けています。博士号のあとはさまざまな研究所をまわり、アメリカのプリンストン高等研究所では、のちにコンピューターの基礎を作ったことで有名なフォン・ノイマンの業績と生涯の支援を受けたと、MacTutor に書かれています。

IBMで、分野をまたぐ研究者に

1958年にアメリカへ移り、ニューヨーク州ヨークタウンハイツのIBMのトーマス・J・ワトソン研究所で働きはじめました。ここでマンデルブロは、数学だけでなく、言葉の出てくる頻度、綿花の価格の変動、電話回線のノイズ、川の水位など、さまざまな「ふぞろいなもの」を研究しました。IBMにはコンピューターがあり、自由に研究できる環境だったことが、のちの大発見を支えました。

1975年「フラクタル」の誕生、1980年マンデルブロ集合

1975年、マンデルブロはフランス語の本Les objets fractals(フラクタルな対象)を出し、ラテン語で「こわれた」「砕けた」という意味の fractus から「フラクタル」という言葉を作りました。1980年ごろには、IBMのコンピューターでマンデルブロ集合の図を描き出し、その姿を広く知らせたと伝えられています(これより前の1978年に、ブルックスとマテルスキーが粗い図を描いていたことも知られています)。1982年には英語の本The Fractal Geometry of Nature(日本語では『フラクタル幾何学』)を出し、世界的に有名になりました。

晩年:イェール大学の教授として

IBMを退いたあとは、アメリカのイェール大学で教えました。1993年には、フラクタルの業績によってウルフ賞(物理学部門)を受けています。2010年10月14日、アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジで85歳で亡くなりました。

年できごと
1924年11月20日、ポーランドのワルシャワで生まれる
1936年ごろ家族とともにフランスのパリへ移る(おじは数学者のゾレム・マンデルブロワ)
1944年エコール・ポリテクニークで学びはじめる
1952年パリ大学で博士号を受ける
1958年アメリカへ移り、IBMのワトソン研究所で働きはじめる
1967年論文「イギリスの海岸線の長さは?」を発表(科学雑誌 Science)
1975年「フラクタル」という言葉を作り、フランス語の本を出す
1980年IBMのコンピューターでマンデルブロ集合の図を描き出す(と伝えられる)
1982年『フラクタル幾何学(The Fractal Geometry of Nature)』を出版
1986年フランクリン・メダルを受ける
1993年ウルフ賞(物理学部門)を受ける
2003年日本国際賞を受ける
2010年10月14日、アメリカで亡くなる(85歳)

マンデルブロの主な業績をやさしく解説

業績1 フラクタル:「拡大しても同じ形」を数学にした

ふつうの図形(円・三角形・直線)は、拡大していくと、だんだん「まっすぐ」に見えてきます。地球は丸いのに、足もとの地面は平らに見えるのと同じです。ところが雲・山・海岸線・木の枝は、拡大しても、またでこぼこが見えてくるのです。マンデルブロは、こうした形を調べるために「フラクタル」という言葉を作りました。

フラクタルの代表的な特徴は自己相似性です。部分を拡大すると、全体とよく似た形になることをいいます。そのもっとも分かりやすい例がコッホ曲線です。長さ1の線分を3等分し、まん中の3分の1を、正三角形の2辺に置きかえます。この作業を、できた線分すべてにくり返します。

コッホ曲線を作る0回長さ 11回長さ 4/32回長さ 16/93回長さ 64/271回ごとに長さが 4/3 倍。ずっと続けると…
コッホ曲線の作り方。1回ごとに線の長さが 4/3 倍になる

1回ごとに、線分1本が4本になり、1本の長さは3分の1になります。だから全体の長さは 4/3 倍になります。くり返す回数を nn とすると、長さは (43)n\left(\dfrac{4}{3}\right)^n です。これは等比数列の和の公式で調べる等比数列そのもので、nn を大きくすると限りなく大きくなります。つまり、極限のコッホ曲線は、長さが無限なのに、はしからはしまでの距離は変わらず1のままです。ふしぎですね。

業績2 「イギリスの海岸線の長さ」:長さは、はかり方で変わる

1967年、マンデルブロは「イギリスの海岸線の長さは?」という題の論文を発表しました。答えは「はかるものさしの長さしだい」です。大きなものさしでは、小さな入り江やでこぼこを飛びこえてしまうので短く出ます。小さなものさしで細かくはかると、出入りが増えて長くなります。

同じ海岸線、ものさしで長さが変わる大きなものさし(長さ60):5歩、合計 約307小さなものさし(長さ15):26歩、合計 約438
同じ海岸線でも、ものさしを小さくするほど、はかった長さは大きくなる

この考え方のもとになったのは、イギリスの科学者ルイス・フライ・リチャードソンが調べていた、国境や海岸線の長さのデータです。リチャードソンは、ものさしを細かくするほど国境の長さが増えていくことに気づいていました。マンデルブロはそのデータを数学的に整理し、長さの増え方を表す数を、図形の「次元」として考えられると示しました。

細かくはかるほど長くなる(模式図)ものさしを細かくする →長さ円(なめらかな線):ほぼ一定イギリスの海岸傾き 約0.25次元 ≈ 1 + 0.25 = 1.25リチャードソンのデータにもとづく考え方(1967年)
ものさしを細かくするほど、海岸線は長くなる。傾きから次元が分かる

ふつうの線は次元が1、平面は次元が2です。ところが、イギリスの西海岸のようなぎざぎざの線は、リチャードソンのデータにもとづくと次元が約1.25になります。「1と2のあいだの次元」があり得る、というのが、この論文の大きな発見でした。ただし、実際の海岸線は、ある程度より細かくはかるとフラクタルでなくなります(砂つぶより小さいものさしは意味がありません)。ですから、海岸線は「ある範囲でフラクタルのように見える」と考えるのが正確です。

業績3 フラクタル次元:1.26次元や1.585次元とは?

では、「次元が小数」とはどういう意味でしょうか。次の考え方で説明できます。線分を3倍に拡大すると、同じ線分が3つ分(3¹)になります。正方形を3倍に拡大すると、同じ正方形が9つ分(3²)になります。立方体を3倍に拡大すると、27個分(3³)です。つまり「拡大する倍率を kk、同じ形がいくつ分になるかを NN」とすると、N=kDN=k^D の形になり、この DD が次元です。

コッホ曲線は、3倍に拡大すると、同じ形が4つ分になります。だから 4=3D4=3^D、つまり

D=log⁡4log⁡3≈1.26D=\frac{\log 4}{\log 3}\approx 1.26

になります。対数とはを使って次元を求めるのが面白いところです。同じ考え方で、下のシェルピンスキーのギャスケット(三角形からまん中をくり抜くことをくり返した形)は、2倍に拡大すると3つ分になるので、D=log⁡3log⁡2≈1.585D=\dfrac{\log 3}{\log 2}\approx 1.585 です。

自分と同じ形が3つ集まる半分の大きさの自分が3つ次元=log 3 ÷ log 2≈ 1.585(線と面のあいだ)三角形のまん中をくり抜く作業を4回くり返した形
シェルピンスキーのギャスケット。半分の大きさの自分が3つ集まっているので、次元は log3÷log2 ≈ 1.585

このように、次元を「分数や小数で表せる」ようにしたのは、ドイツの数学者ハウスドルフが1918年に考えた「ハウスドルフ次元」などにもとづく考え方です(ヒルベルトの業績と同じ時代の数学者です)。マンデルブロはこれを自然界の形にまで広げて、「ふぞろいなもの」に数をあたえました。カントールの業績と無限が作ったカントール集合も、フラクタルの仲間として知られています。

業績4 マンデルブロ集合:短い式から生まれる無限の模様

マンデルブロ集合の定義は、とても短いものです。複素数 cc を一つ決めます。そして z0=0z_0=0 から始めて、

zn+1=zn2+cz_{n+1}=z_n^2+c

というくり返しの計算をします。この計算をずっと続けたとき、数がどこまでも大きくならずに、ある範囲にとどまるような cc の集まりが、マンデルブロ集合です。

z → z²+c をくり返すc=−10−10−1…行き来するだけ → 集合に入るc=i0i−1+i−i−1+iせまい範囲をぐるぐる → 入るc=1012526どんどん大きく → 外はじめは z=0。2乗して c を足すだけの計算
0から始めて2乗して c を足す計算。c=−1や c=i では大きくならず、c=1では急に大きくなる

たとえば c=−1c=-1 なら、0→−1→0→−1→⋯0\to-1\to0\to-1\to\cdots と2つの値を行き来します。大きくならないので、−1-1 は集合に入っています。c=ic=i のときは、0→i→−1+i→−i→−1+i→⋯0\to i\to-1+i\to-i\to-1+i\to\cdots となり、やはり小さな範囲にとどまります(虚数 i の書き方も参考にしてください)。一方、c=1c=1 だと、0→1→2→5→26→⋯0\to1\to2\to5\to26\to\cdots と、どんどん大きくなってしまうので、集合には入りません。

マンデルブロ集合(黒い部分)c=0c=−1c=0.5横が実数、たてが虚数。黒=発散しない c の集まり
複素数平面にマンデルブロ集合を描いた図。黒い部分が集合、まわりの青の濃さは大きくなる速さを表す

この集合は、複素数平面の上に、はっきりと描くことができます。そして、境界に近づいて拡大すると、本体と似た小さな形がいくつも現れます。形は似ていても、まったく同じにはならないので、拡大するたびに新しい発見があります。この集合の境界は、数学的に非常に複雑で、1998年に日本人研究者の宍倉光広が、境界の次元が2になることを証明しています。

マンデルブロ集合のもとになったのは、フランスの数学者ガストン・ジュリアやピエール・ファトゥが、1910年代に研究した「複素数のくり返し」の理論です。当時はコンピューターがなかったので、形を目で見ることはできませんでした。マンデルブロは、コンピューターグラフィックスの力で、ジュリアたちの理論の世界を、多くの人に「見える形」で示したのです。

業績5 お金の世界・言葉の世界にも広がった

マンデルブロの関心は、図形だけではありませんでした。1960年代には、綿花の価格の動きを調べて、価格の変動が、ふつうの正規分布(つりがね形)より極端な動きをしやすいことに気づきました。ガウスの業績が整理した正規分布は、「極端に大きな変動」がほとんど起きないと考える分布ですが、現実の相場では、大きな変動が思ったより頻繁に起きます。この考えは、のちに金融市場のリスクの研究にも影響をあたえたといわれています。2004年には、金融の専門家ハドソンとの共著で、相場とフラクタルをテーマにした本も出しています。

また、言葉の出てくる頻度の研究(ジップの法則の拡張)でも、マンデルブロの名前をとった式が知られています。数学者が一つの分野にとどまらず、経済・言語・物理学を自由に行き来したのも、マンデルブロの特徴でした。

マンデルブロの名前がつく公式・定理・用語

  • マンデルブロ集合:zn+1=zn2+cz_{n+1}=z_n^2+c(z0=0z_0=0)が発散しない複素数 cc の集合。→ 複素数平面の意味と使い方
  • フラクタル:部分が全体と似ている「自己相似」な図形。1975年にマンデルブロが名づけた。
  • フラクタル次元:N=kDN=k^D で決まる、小数をふくむ次元。コッホ曲線は log⁡4/log⁡3\log4/\log3。
  • コッホ曲線:スウェーデンの数学者ヘルゲ・フォン・コッホ(1904年)が考えた曲線。マンデルブロがフラクタルの例として広めた。
  • ジュリア集合:z→z2+cz\to z^2+c で cc を固定して、zz の出発点を動かしてできる集合。マンデルブロ集合とは親子のような関係。
  • マンデルブロ分布・マンデルブロの法則:言葉の出現頻度に関する式。

高校数学までで、フラクタルとつながる公式は次のとおりです。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

フラクタルのポイントは「同じ作業をくり返す」こと。コッホ曲線も、マンデルブロ集合も、短いルールを何度もくり返すだけで、複雑な形が生まれるんだ。数列の漸化式と同じ発想だね。

マンデルブロの逸話と名言

「雲は球ではない」

マンデルブロの本『フラクタル幾何学』の書き出しは、とても有名です。大意は次のようなものです。

雲は球ではなく、山は円すいではなく、海岸線は円ではなく、木の皮はなめらかでなく、いなずまもまっすぐ走らない。

マンデルブロ(著書の中の言葉の大意)(The Fractal Geometry of Nature(1982年)の冒頭の趣旨。日本語は大意で、正確な訳は本で確かめてください)

従来の幾何学(ユークリッドの『原論』以来の図形)は、円や三角形のような「きれいな形」を中心に発展してきました。マンデルブロは、自然は「きれいな形」ではなく「ぎざぎざした形」でできていることが多いのに、数学はそれを扱ってこなかったと指摘したのです。

名前の「B.」は何?

マンデルブロは、自分の名前を「Benoit B. Mandelbrot」と書きました。この「B.」が何の略か聞かれたとき、「Benoit B. Mandelbrot(ブノワ・B・マンデルブロ)の B だ」と答えた、という冗談が伝えられています。名前の中にまた同じ名前が入っていて、「自己相似」になっているというジョークです。本人の言葉かどうかは、はっきり確かめられていません。

「誰も見たことのない形」を見せた

マンデルブロ集合の画像は、1980年代に科学雑誌やコンピューターの雑誌で紹介され、一般の人にも広く知られるようになりました。数学の論文より、まず「絵」が人々の心をとらえたのです。数学者の中には、「コンピューターで描いた絵は数学ではない」と考える人もいたと伝えられますが、のちにコンピューターを使った実験は数学研究の大事な方法の一つになりました。

専門の枠を越えた学者

マンデルブロは、大学の特定の学科にとどまらず、IBMの研究所で、経済・物理・言語・数学を自由に研究しました。日本語版の紹介などでは、「どの学科にも収まらない学者」と評されることがあります。のちには、イェール大学でも数学の教授として教えました。ウルフ賞は物理学部門で受賞しており、数学の枠を越えた評価を受けたことが分かります。

数学者たちへの影響

マンデルブロの本が出る前から、フラクタルの例は数学者たちに知られていました。ポアンカレの業績は、複雑な動きの研究に取り組みましたし、カントールのカントール集合、コッホ曲線、シェルピンスキーのギャスケットなどは、「奇妙な反例」として知られていたのです。マンデルブロは、これらをバラバラの「奇妙な例」から、自然を理解する道具へと見直しました。

サクラちゃん

サクラちゃん

長さが無限なのに、場所は決まったせまい範囲にあるなんて……ふしぎです!

合格先生

合格先生

そうだね。受験でも、無限に続く計算でも答えが有限になることがあるよ。1+1/2+1/4+…=2 みたいにね。コッホ曲線の面積も、実は有限なんだ。長さは無限でも、面積は有限。そこがおもしろいところだよ。

受験・勉強とマンデルブロのつながり

中学受験・高校受験:規則性とくり返し

中学受験の算数に出てくる「図形を決まった規則で変えていく問題」は、フラクタルの入口です。たとえば、三角形の3つの辺の真ん中をつないで小さい三角形をくり抜く操作をくり返し、白い三角形の数や面積を調べる問題があります。これはシェルピンスキーのギャスケットそのものです。段階ごとに「数がどう増えるか」を表にまとめる習慣が大切です。

大学受験:等比数列と極限

大学受験では、フラクタルの図形が「無限等比級数」の応用問題としてよく登場します。コッホ曲線の周の長さ、面積、図形を無限にくり返して作る図形の面積の和などです。等比数列の和の公式と、公比の絶対値が1より小さいときの極限をしっかり覚えておくことが、こうした問題を解く力になります。京都大学や東京大学の数学では、規則に従って図形が増えていく問題が出題されることもあります。出題の傾向は京大理系数学の出題分析(1999〜2026年度)が参考になります。

複素数平面:マンデルブロ集合の土台

数学Cの複素数平面は、マンデルブロ集合を描く舞台そのものです。複素数 a+bia+bi を点 (a,b)(a,b) で表す考え方は、ガウスの業績と生涯が広めたものです。複素数の絶対値 ∣z∣|z| は原点からの距離で、マンデルブロ集合の判定では、∣z∣|z| が2を超えたら発散すると考えます(その理由は、実は高校の三角不等式で説明できます)。

対数:次元を計算する道具

フラクタル次元を求めるには、対数の意味と性質を使います。log⁡4÷log⁡3\log 4\div\log 3 のような計算は、数学IIの対数の知識で実際に求められます。電卓があれば、log⁡104=0.602\log_{10}4=0.602、log⁡103=0.477\log_{10}3=0.477 を使って約1.26という値を確かめられます。常用対数の使い方は常用対数とけた数の問題の解き方も読んでみてください。

勉強法として:「小さなルール」を見つける

マンデルブロの発見は、複雑に見えるものを「短いルールのくり返し」としてとらえ直したことでした。受験でも、むずかしそうな図形や数列の問題は、最初の数回を実際に書き出すと、くり返しのルールが見えてきます。「3回目まで実際に書いてみる」「前の回との差を比べる」。この2つで、規則性の問題の多くは解けます。勉強の進め方は数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)も読んでください。

マンデルブロがその後の数学・科学にあたえた影響

  • コンピューターグラフィックス:山や雲、海岸線のような自然の形を、短い規則のくり返しで作る方法として、映画やゲームの背景作りに使われています。
  • カオス理論・力学系:マンデルブロ集合の研究は、複素数の力学系(ジュリア集合など)の研究を一気に盛り上げました。ポアンカレに始まる「カオス」の研究と深く結びついています。
  • 自然科学:血管・肺の気管支・川の流れ・稲妻など、枝分かれする形をフラクタルとして分析する研究が進みました。
  • 経済・金融:相場の変動をフラクタルな性質で見直す研究が行われました。評価は分かれますが、金融市場の「極端な変動」を考えるきっかけになりました。
  • 通信・アンテナ:フラクタル形のアンテナなど、工学的な応用も研究されています。
  • 数学教育:フラクタルは、無限・極限・次元の考え方を、図で体験できる題材として教えられています。

マンデルブロの仕事から学べるのは、「数学は、きれいな形だけでなく、ぎざぎざの現実も扱える」ということです。チューリングの業績と生涯が計算の理論を築き、コンピューターが一般的になったことで、数学は「実験できる学問」にもなりました。マンデルブロはその先駆けだったともいえます。

身のまわりでフラクタルのように見えるものを探してみましょう。ブロッコリー・ロマネスコ(カリフラワーの仲間)・シダの葉・雪の結晶・川の支流・稲妻・肺の中の気管支などが、よく例に挙げられます。ただし、自然のものは「ある範囲で」フラクタルのように見えるだけで、数学的な意味でのフラクタルとは少しちがいます。それでも、「部分と全体が似ている」という見方を知ると、いつもの景色が少し違って見えてくるでしょう。

マンデルブロに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 長さ1の線分に、コッホ曲線の作り方を3回行ったときの長さを求めなさい。
    答えと解説を見る1回で長さが 43\dfrac43 倍になるので、3回では (43)3=\left(\dfrac43\right)^3=64/27(約2.37)。
  2. z0=0z_0=0、zn+1=zn2+cz_{n+1}=z_n^2+c で c=−1c=-1 のとき、z1z_1、z2z_2、z3z_3 を求めなさい。
    答えと解説を見るz1=02−1=−1z_1=0^2-1=-1、z2=(−1)2−1=0z_2=(-1)^2-1=0、z3=−1z_3=-1。−1-1 と 00 をくり返すので、大きくならず、c=−1c=-1 はマンデルブロ集合に入ります。

ふつう

  1. c=1c=1 のとき、z1z_1 から z4z_4 までを求めなさい。マンデルブロ集合に入りますか。
    答えと解説を見るz1=1z_1=1、z2=1+1=2z_2=1+1=2、z3=4+1=5z_3=4+1=5、z4=25+1=26z_4=25+1=26。どんどん大きくなるので、集合には入りません。
  2. コッホ曲線の次元 log⁡4log⁡3\dfrac{\log4}{\log3} を、log⁡102=0.3010\log_{10}2=0.3010、log⁡103=0.4771\log_{10}3=0.4771 を使って小数第2位まで求めなさい。
    答えと解説を見るlog⁡104=2×0.3010=0.6020\log_{10}4=2\times0.3010=0.6020。0.6020÷0.4771=1.261⋯0.6020\div0.4771=1.261\cdots なので約1.26。

むずかしい

  1. ある海岸線の次元が D=1.25D=1.25 のとき、長さは「ものさしの長さ」の −0.25-0.25 乗に比例します(D=1.25D=1.25 とする)。ものさしを 116\dfrac1{16} にすると、はかった長さは何倍になりますか。
    答えと解説を見る長さは ε−0.25\varepsilon^{-0.25} に比例。ε\varepsilon が 116\dfrac1{16} になると 160.25=164=16^{0.25}=\sqrt[4]{16}=2倍。
  2. 面積 SS の正三角形から、コッホ曲線の作り方で雪の結晶(コッホ雪片)を作ります。1回目に増える面積は S3\dfrac S3 で、次からは前の回に増えた面積の 49\dfrac49 倍ずつ増えます。極限の面積を SS で表しなさい。
    答えと解説を見る増える面積の合計は、初項 S3\dfrac S3、公比 49\dfrac49 の無限等比級数。S/31−4/9=S3⋅95=3S5\dfrac{S/3}{1-4/9}=\dfrac{S}{3}\cdot\dfrac95=\dfrac{3S}{5}。よって全体は S+3S5=S+\dfrac{3S}{5}=85S\dfrac{8}{5}S。(周の長さは無限なのに、面積は有限です)

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よくある質問

マンデルブロは何をした人ですか?

マンデルブロは、ポーランド生まれでフランスとアメリカで活躍した数学者です。1975年に「フラクタル」という言葉を作り、自己相似な形を数学として広めました。マンデルブロ集合や、イギリスの海岸線の長さの研究でも知られます。

フラクタルとは何ですか?

フラクタルとは、部分を拡大すると全体とよく似た形になる「自己相似」な図形のことです。ラテン語の「砕けた」を意味する言葉から、1975年にマンデルブロが名づけました。コッホ曲線やシェルピンスキーのギャスケットが代表例です。

マンデルブロ集合とは何ですか?

マンデルブロ集合は、複素数 c について、0から始めて「2乗して c を足す」計算をくり返しても、値がどこまでも大きくならないような c の集まりです。複素数平面に描くと、複雑で美しい形になります。

イギリスの海岸線の長さの話とは何ですか?

1967年にマンデルブロが発表した論文の題材です。海岸線の長さは、はかるものさしを小さくするほど増えていき、決まった値にならないことを示しました。この増え方から、約1.25のような「次元」が考えられます。

フラクタル次元とは何ですか?

図形を k 倍に拡大したとき同じ形が N 個分になるとして、N=k の D 乗となる D のことです。コッホ曲線は log4÷log3 で約1.26、シェルピンスキーのギャスケットは log3÷log2 で約1.585です。

コッホ曲線の長さはどうなりますか?

作り方を1回行うごとに長さが4/3倍になるので、無限にくり返すと長さは限りなく大きくなります。ただし、はしからはしまでの距離は変わらず、コッホ雪片の面積は元の三角形の8/5倍と有限です。

マンデルブロは何歳で亡くなりましたか?

1924年11月20日に生まれ、2010年10月14日にアメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジで亡くなりました。85歳でした。晩年はイェール大学で教えていました。

マンデルブロはどんな賞を受けましたか?

フランクリン・メダル(1986年)、ウルフ賞の物理学部門(1993年)、日本国際賞(2003年)などを受けています。数学だけでなく、物理学や科学技術の分野でも高く評価されました。

フラクタルは入試に関係がありますか?

フラクタルそのものはほとんど出ませんが、コッホ曲線の周の長さや面積、シェルピンスキーの三角形のような図形を、等比数列や無限等比級数で調べる問題は大学入試でよく出ます。複素数平面や対数も使います。

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出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「Benoit Mandelbrot」(セント・アンドルーズ大学)
  • B. Mandelbrot, “How Long Is the Coast of Britain? Statistical Self-Similarity and Fractional Dimension”, Science 156(1967年)
  • B. Mandelbrot, “The Fractal Geometry of Nature”(W. H. Freeman、1982年)
  • L. F. Richardson, “The problem of contiguity”(1961年)

最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦