自家薬籠中の物の意味と由来|旧唐書の原文・書き下し文・現代語訳と狄仁傑・元行沖の話、例文をイラストで解説【故事成語】

自家薬籠中の物の意味と由来|旧唐書の原文・書き下し文・現代語訳と狄仁傑・元行沖の話、例文をイラストで解説【故事成語】

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自家薬籠中の物じかやくろうちゅうのもの

ひとことで言うと

自分の家の薬箱の薬のように、いつでも思いのままに使えるもの。身につけた技術や知識などに使う。

読み方じかやくろうちゅうのもの
意味自分の家の薬箱の中の薬のように、いつでも自分の思いのままに使えるもの。すっかり身につけた知識や技術、思うように動いてくれる人。
出典『旧唐書』元行沖伝「此吾薬籠中物、何可一日無也」(『新唐書』元行沖伝にも)
だれの言葉唐の宰相・狄仁傑が、若い役人の元行沖のことを言った
似た言葉お手の物・十八番・自由自在
反対の言葉手に余る・宝の持ち腐れ・付け焼き刃
英語have something at one's fingertips
漢文の句法願望(願はくは)・反語(何ぞ〜んや)・二重否定(不可〜無)

このページのポイント

  • 「自家薬籠中の物」は、自分の思いのままに使えるもの。身につけた技術や知識に使う
  • もとは『旧唐書』元行沖伝。狄仁傑が元行沖を「此れ吾が薬籠中の物なり」と言った
  • 元行沖の「薬になりたい」の意味、『新唐書』とのちがい、句法、入試での出方まで分かります

「自家薬籠中の物」の意味と読み方

「自家薬籠中の物」はじかやくろうちゅうのものと読みます。意味は「自分の家の薬箱の中にある薬のように、いつでも自分の思いのままに使えるもの」です。今は、すっかり身につけて自由に使いこなせる技術や知識、または自分の思うように動いてくれる人について使います。「英語を自家薬籠中の物にする」「その理論はもう彼の自家薬籠中の物だ」のように使います。

「自家(じか)」は自分の家、「薬籠(やくろう)」は薬を入れておく箱(薬箱)のことです。昔の中国では、薬草や薬を引き出しのついた箱に入れて、必要なときにすぐ取り出せるようにしていました。自分の家の薬箱に入っている薬なら、だれにことわる必要もなく、いつでも好きなときに使えます。そこから、「自分のものになっていて、思いのままに使えるもの」という意味になりました。

言葉を3つに分けると自家じか自分の家薬籠やくろう薬を入れておく箱(薬箱)中の物ちゅうのものその中に入っている物(薬)自分の薬箱の薬のように、いつでも思いのままに使えるもの
「自家」「薬籠」「中の物」の3つに分けると、意味がよく分かります
うかるくん

うかるくん

「自分の薬箱の薬」が、どうして「使いこなせる知識」の意味になるんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

いい質問だね。薬箱の薬は、必要なときに、すぐ取り出して使えるよね。知識や技術も、本当に身についていれば、テストや仕事の場面で、さっと取り出して使える。それが「自家薬籠中の物にする」ということなんだ。もとは唐の時代の宰相と若い役人のやりとりから生まれた言葉だよ。

ふだんの言い方では、たとえば次のように使います。

  • ○毎日練習を重ねて、彼はついにピアノのその曲を自家薬籠中の物にした。
  • ○古文の助動詞の意味は、もう自家薬籠中の物だ。どんな文でもすぐに見分けられる。
  • ○先輩は、新しいソフトの使い方をすっかり自家薬籠中の物にしている。

「薬」は「薬」の読み方・書き順・部首、「籠」は「籠」の読み方・書き順・部首、「家」は「家」の読み方・書き順・部首で、書き順と読み方を確かめておきましょう。「籠」は「かご」「こもる」のほかに、音読みで「ろう」と読みます(「籠城〈ろうじょう〉」など)。

絵で読む「自家薬籠中の物」のお話

「自家薬籠中の物」は、唐の歴史書『旧唐書(くとうじょ)』の元行沖伝にある話から生まれた言葉です。登場するのは、則天武后の時代の名宰相狄仁傑(てきじんけつ)と、学問にすぐれた若い役人元行沖(げんこうちゅう)の2人です。4こまの絵で見てみましょう。

絵で読む「自家薬籠中の物」(『旧唐書』元行沖伝の話)

1遠慮なく意見を言う宰相・狄仁傑若い元行沖それは、おやめになるほうがよいと存じます
1唐の時代、則天武后(そくてんぶこう)の朝廷。宰相の狄仁傑(てきじんけつ)は、若い元行沖(げんこうちゅう)をとても大切にしていました。元行沖は人にこびず、えんりょなく意見を言う人でした。
2元行沖ごちそう(多い)薬(わたし)ごちそう役の人は多いので、わたしは「薬」の一つになりたいのです
2元行沖は言いました。「あなたのもとには、ごちそうのように気持ちのよい人はたくさんいます。わたしは薬の一つになりたいのです」。
3君はわたしの薬だ狄仁傑元行沖君は、わたしの薬籠の中の薬だ!
3狄仁傑は笑って答えました。「君は、わたしの薬籠(くすりばこ)の中の薬のようなものだ」。
4一日もなくてはならない一日もなくてはならぬ此れ吾が薬籠中の物なり
4そして人々に「此れ吾が薬籠中の物なり。一日もなくてはならない」と話しました。

ここで大事なのは、「薬籠中の物」と言ったのは狄仁傑で、そう呼ばれたのは元行沖だということです。元行沖は、自分を「ごちそう」ではなく「薬」にたとえて、「あなたのためになる忠告をする役になりたい」と申し出ました。それを聞いた狄仁傑が、「君はもう、わたしの薬箱の中の薬だ。一日もなくてはならない」と答えたのです。つまり、もとの話では「なくてはならない、大切な人物」という、とてもよい意味のほめ言葉でした。

だれが、だれをたとえた?元行沖若い役人・学者狄仁傑宰相(納言)① 元行沖が申し出る(自分を薬に)「わたしを薬の一つにしてください」② 狄仁傑が答える(元行沖を薬籠中の物と)「此れ吾が薬籠中の物なり」「薬籠中の物」と言ったのは狄仁傑
元行沖は自分を「薬」にたとえ、狄仁傑はその元行沖を「吾が薬籠中の物」と呼びました
人差し指を立てて説明するミスターT先生

ミスターT先生

元行沖の言う「薬」は、耳の痛い忠告のことなんだ。おいしいことばかり言う人より、苦い薬のような忠告をしてくれる人こそ大切――狄仁傑はそれが分かっていたから、元行沖を手ばなさなかったんだね。

「自家薬籠中の物」の原文・書き下し文・現代語訳

もとの話は、『旧唐書』巻一〇二の元行沖伝にあります(後の『新唐書』巻二〇〇の元行沖伝にも、少し字のちがう同じ話があります)。1文ずつ、返り点と送り仮名をつけた訓読文で見ていきましょう(書き下し文は代表的な読み方の一例です)。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方とルールでくわしく説明しています。

白文(『旧唐書』元行沖伝・一部)納言狄仁傑甚重之。行沖性不阿順、多進規誡。嘗謂仁傑曰、下之事上、亦猶蓄聚以自資也。譬貴家儲積、則脯臘膎胰以供滋膳、参術芝桂以防屙疾。伏想門下賓客、堪充旨味者多、願以小人備一薬物。仁傑笑而謂人曰、此吾薬籠中物、何可一日無也。

1文目:宰相の狄仁傑は、元行沖をとても重んじた

書き下し文納なふ言げん狄てき仁じん傑けつ甚はなはだ之これを重おもんず。

(『旧唐書』元行沖伝)

現代語訳納言(宰相の位)の狄仁傑は、元行沖をたいへん重く用いた。

ここがポイント「納言(のうげん)」は、皇帝の命令を審査する役所の長官で、宰相にあたる重い位です。「之(これ)」は、ここでは元行沖のことを指しています。

2文目:元行沖は人にこびず、よく忠告した

書き下し文行かう沖ちゆうは性せいとして阿あ順じゆんせず、多おほく規き誡かいを進すすむ。

(『旧唐書』元行沖伝)

現代語訳元行沖は、生まれつき人にこびへつらうことをせず、たびたび(狄仁傑に)いましめの意見を申し上げた。

ここがポイント「阿順(あじゅん)」は、相手の気に入るように、こびて従うこと。「不〜」は否定で、一二点で「阿順せず」と返ります(否定の句法(不・無・非・莫・弗))。「規誡(きかい)」は、正しい道にもどすための忠告です。

3文目:わたしを一つの薬にしてください

書き下し文願ねがはくは小せう人じんを以もつて一いつ薬やく物ぶつに備そなへん。

(『旧唐書』元行沖伝)

現代語訳どうか、わたしを(あなたの家の)一つの薬として、そなえておいてください。

ここがポイント「願はくは〜ん」は「どうか〜させてください」という願望の形です(願望の句法(願・請「ねがはくは〜」))。「以(もつ)て」は「〜を使って・〜を」の意味で、「以」の読み方と用法(以て・以為)にまとめています。「小人(しょうじん)」は、ここでは自分をへりくだって言う言葉です。

4文目:狄仁傑「これはわが薬籠中の物だ」

書き下し文仁じん傑けつ笑わらひて人ひとに謂いひて曰いはく、此これ吾わが薬やく籠ろう中ちゆうの物ものなり、何なんぞ一いち日じつも無なかるべけんや。

(『旧唐書』元行沖伝)

現代語訳狄仁傑は笑って、人々に言った。「これ(元行沖)は、わたしの薬箱の中の薬だ。どうして一日でもなくてよいことがあろうか(いや、一日もなくてはならない)」。

ここがポイントここが言葉の出どころです。「何ぞ〜んや」は「どうして〜か、いや〜ない」という反語(反語の句法(豈・安・何・孰「〜んや」))。「而」は読まない置き字で、「笑ひて」の「て」にはたらきが残っています。

『新唐書』の形:一日も無かるべからざるなり

書き下し文君きみは正まさに吾わが薬やく籠ろう中ちゆうの物ものなり、一いち日じつも無なかるべからざるなり。

(『新唐書』元行沖伝)

現代語訳君はまさに、わたしの薬箱の中の薬だ。一日もいないわけにはいかないのだ。

ここがポイント「不可〜無」は「〜無かるべからず(〜ないわけにはいかない)」という二重否定で、強い肯定になります。くわしくは二重否定の句法(無不・不可不・非不)で練習できます。『旧唐書』の反語と、『新唐書』の二重否定は、どちらも「絶対に必要だ」という同じ意味を表しています。
家のたくわえには2種類あるごちそう干し肉など食事をおいしく=気持ちのよい人薬人参・朮・霊芝・肉桂病気を防ぐ=忠告してくれる人ごちそう役は多いので、わたしは薬の役に耳の痛いことも言う「薬」になりたい
元行沖は、ごちそう役(気持ちのよい人)より、薬役(忠告する人)になりたいと言いました

原典(維基文庫)の本文では

維基文庫(中国語のウィキソース)の『旧唐書』『新唐書』の本文では、次のようになっています(句読点は維基文庫の本文のとおり)。

『旧唐書』元行沖伝行沖性不阿順,多進規誡,嘗謂仁傑曰:「下之事上,亦猶蓄聚以自資也。譬貴家儲積,則脯臘膎胰以供滋膳,參術芝桂以防屙疾。伏想門下賓客,堪充旨味者多,願以小人備一藥物。」仁傑笑而謂人曰:「此吾藥籠中物,何可一日無也!」
『新唐書』元行沖伝嘗謂仁傑曰:「下之事上,譬富家儲積以自資也,脯臘膎胰以供滋膳,參術芝桂以防疾疢。門下充旨味者多矣,願以小人備一藥石,可乎?」仁傑笑曰:「君正吾藥籠中物,不可一日無也。」
  • 「藥」は「薬」の旧字体:「薬籠」は昔の字で「藥籠」と書きます。
  • 「薬物」と「薬石」:『旧唐書』は「一薬物」、『新唐書』は「一薬石」。「薬石(やくせき)」は薬と、治療に使う石の針のことで、「忠告」のたとえとしても使われます。
  • 「参・術・芝・桂」:人参(にんじん)・朮(じゅつ、おけら。本文では「術」の字)・霊芝(れいし)・肉桂(にっけい)など、病気を防ぐための薬になる植物です。「脯臘(ほろう)」は干し肉で、こちらはごちそうです。
原文で覚える句法4つ願ねがはくは〜んどうか〜させてください願望以もつて〜を使って・〜で「以」の用法何〜也なんぞ〜んやどうして〜か(いや〜ない)反語不可〜無〜無かるべからず〜ないわけにはいかない二重否定
原文には、願望の「願」、「以」の用法、反語の「何〜也」、二重否定の「不可〜無」が出てきます

出典『旧唐書』と話の背景

『旧唐書(くとうじょ)』は、唐(618〜907年)の歴史をしるした歴史書で、五代の後晋の時代にまとめられました。のちに北宋の時代に、書き直した『新唐書(しんとうじょ)』が作られたので、古いほうを「旧」と呼んで区別しています。「自家薬籠中の物」の話は、その両方の元行沖伝にのっています。

狄仁傑(630〜700年)は、中国でただ一人の女性皇帝として知られる則天武后の時代に宰相をつとめた人で、正しい裁判を行い、すぐれた人材をたくさん推薦したことで知られる名臣です。『資治通鑑』には、狄仁傑が推薦した人々が朝廷の重い役についたことから、「天下の桃李、悉く公門に在り(天下のすぐれた人材は、みなあなたの門下にいる)」と言われた、という話があります。「桃李」をすぐれた人のたとえに使うのは、桃李言わざれども下自ずから蹊を成す(史記)と同じ発想です。

元行沖は、学問の広い学者でもありました。進士の試験に合格して役人になり、狄仁傑にその才能を見こまれました。狄仁傑のまわりには、宰相にとりいって気に入られようとする人も多かったはずです。そんな中で、元行沖はあえて「苦い薬」の役を買って出たのです。狄仁傑が笑って「一日もなくてはならない」と答えたのは、耳の痛い忠告をしてくれる人のありがたさを知っていたからでしょう。

意味の変化もとの話(『旧唐書』)なくてはならない大切な人物狄仁傑が元行沖を「一日もなくてはならない」と今の日本語思いのままに使いこなせるもの身につけた技術・知識、手なずけた人など※人に使うと「思い通りに動かせる手下」と受け取られることがあるので注意
もとは「なくてはならない大切な人物」、今は「思いのままに使いこなせるもの」の意味でよく使います

日本での意味の変化

もとの話では、「薬籠中の物」は「いつも手もとに置いておきたい、なくてはならない人物」というほめ言葉でした。それが日本では、「自家(自分の家の)」をつけた「自家薬籠中の物」の形で、「自分の思いのままに使えるもの」の意味が中心になりました。今の国語辞典でも、「自分の思うままに使えるもの・人」と説明されています。「技術を自家薬籠中の物にする」のように、知識や技術をすっかり身につける意味でよく使われるのは、このためです。

「自家」の2字がいつごろからつけられたのかは、はっきりした資料が見つかりませんでした(諸説あり)。

サクラちゃん

サクラちゃん

元行沖が「薬になりたい」って言ったのは、「良薬は口に苦し」と同じ考えですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

その通り! 「良薬は口に苦し」(史記・孔子家語)は、ためになる忠告ほど聞くのがつらいという意味だね。元行沖は、まさに「苦いけれど体によい薬」の役をしようとしたんだ。そして狄仁傑も、その苦い薬をよろこんで手もとに置いた。忠告する人と、それを聞き入れる人、どちらもりっぱだよ。

「自家薬籠中の物」の使い方と例文・似た言葉

「自家薬籠中の物」は、知識・技術・道具などを、すっかり自分のものにして自由に使いこなせるときに使います。「〜を自家薬籠中の物にする」「〜は彼の自家薬籠中の物だ」の形がふつうです。少しかたい言葉なので、文章やスピーチでよく使われます。

  • ○三年間の留学で、彼女は英語を自家薬籠中の物にした。
  • ○何度も解き直したので、この解き方はもう自家薬籠中の物だ。
  • ○名監督は、ベテランの選手たちを自家薬籠中の物のように使いこなした。
  • ×かぜをひいたので、自家薬籠中の物を飲んだ。(本当の家の常備薬のことには使わない)
  • ×きのう覚えたばかりの公式を、もう自家薬籠中の物にした。(すっかり身についていない、覚えたてのものには使わない)
自家薬籠中の物似た言葉お手の物十八番自由自在手の内に入れる手足のように反対の言葉手に余る宝の持ち腐れ付け焼き刃
似た言葉と反対の言葉

似た言葉

  • お手の物(おてのもの):なれていて、たやすくできること。得意なこと。
  • 十八番(おはこ):その人がいちばん得意とする芸や技。
  • 手の内に入れる:自分の思うままにできるようにする。
  • 自由自在(じゆうじざい):思いのままにできること。
  • 手足のように使う:人を自分の思うままに動かす。

反対の言葉

  • 手に余る:自分の力では、あつかいきれない。
  • 宝の持ち腐れ:役に立つものや才能を持っているのに、使いこなせていないこと。
  • 付け焼き刃(つけやきば):その場しのぎに覚えた、身についていない知識や技術。

英語では、"have something at one's fingertips"(指先にある=すぐに使える)や、"have something down pat"(すっかり身につけている)が近い言い方です。人について言うときは "someone one cannot do without"(なくてはならない人)と訳すと、もとの話の意味に近くなります。

受験勉強への生かし方

受験勉強のゴールは、まさに知識を「自家薬籠中の物」にすることです。参考書を読んで「分かった」と思っても、それはまだ人の家の薬箱の薬。テストの本番で、自分の手でさっと取り出して使えてはじめて、自分の薬箱の薬になります。そのためには、同じ問題を何度も解き直し、見た瞬間に使えるところまで練習することが大切です。「Practice makes perfect.」の意味(習うより慣れよ)は、くり返しの演習で知識を身につける考え方をまとめています。

あれこれ手を広げるより、1冊を自分のものにするほうが、知識は自家薬籠中の物になりやすくなります。英単語の覚え方(単語帳は1冊を極める)や、「問題集を終わらせることを目標にするな」の意味(成績が伸びる問題集の使い方)もあわせて読んでみてください。そして、元行沖のように苦い忠告をしてくれる先生や友だちは、あなたにとっての「薬」です。まちがいを指摘されたら、いやがらずに受け入れましょう。

「自家薬籠中の物」のよくあるまちがい

  • 「薬籠」を「やくかご」「やくりゅう」と読む:正しくは「やくろう」。「籠」の音読みは「ろう」です。
  • 「自家薬篭中の物」と書く:「篭」は「籠」の略した形(俗字)で、正式には「籠」と書きます。
  • 「自家薬籠の物」と「中」をぬかす:正しくは「自家薬籠中の物」。薬箱の中にある物、という意味です。
  • 家にある常備薬のことだと思う:本物の薬のことではなく、思いのままに使えるもののたとえです。
  • 元行沖が自分で「わたしは薬籠中の物です」と言ったと思う:元行沖は「薬の一つになりたい」と申し出ただけで、「吾が薬籠中の物」と言ったのは狄仁傑です。
  • 目上の人や友だちに向かって「あなたはわたしの自家薬籠中の物だ」と言う:今の日本語では「思い通りに動かせる人」の意味にとられ、失礼になることがあります。人について使うときは気をつけましょう。
うかるくん

うかるくん

「この先生は、ぼくの自家薬籠中の物です」って作文に書いたら、ほめ言葉になりますか?

ミスターT先生

ミスターT先生

それはやめておいたほうがいいね(笑)。もとの話ではほめ言葉だったけれど、今は「思いのままに使える」という意味が中心だから、先生を自分の道具のように言っているように聞こえてしまう。人ではなく、知識や技術に使うのがいちばん安全だよ。

入試ではこう出る

「自家薬籠中の物」は、おもに高校受験・大学受験で出てくる言葉です。

  • 高校受験:故事成語・慣用句の意味を選ぶ問題や、「自家□□中の物」の空欄補充、「薬籠」の読み方が問われることがあります。評論文の中で「知識を自家薬籠中の物にする」という形で出てきたとき、意味を正しくとれるようにしておきましょう。高校受験の漢文は高校受験の漢文(返り点・書き下し文の対策)にまとめています。
  • 大学受験:現代文の評論で、外国の思想や技術を「自家薬籠中の物にする(自分のものとして使いこなす)」という文脈でよく使われ、意味を問う問題になります。漢文では、「何可一日無也」の反語や、「不可一日無也」の二重否定の書き下しが問われる形が考えられます。共通テストの漢文の対策は共通テストの漢文(句法と時間配分)へ。
ひらめいたサクラちゃん

サクラちゃん

評論文で「自家薬籠中の物にする」と出てきたら「自分のものにして使いこなす」。読みは「やくろう」! これで選択肢もすぐ選べますね!

練習問題

やさしい

  1. 「自家薬籠中の物」の意味として正しいものを選びましょう。
    ア 家にある古い薬 イ 自分の思いのままに使えるもの ウ なかなか手に入らないめずらしい物 エ 人から借りた物
    答えと解説を見るイ。自分の家の薬箱の薬のように、いつでも思いのままに使えるもの、という意味です。
  2. 「薬籠」の読み方をひらがなで答えましょう。
    答えと解説を見るやくろう。「籠」の音読みは「ろう」です。

ふつう

  1. 「自家薬籠中の物」のもとの話で、「吾が薬籠中の物」と言ったのはだれで、だれのことを言ったのですか。
    答えと解説を見る狄仁傑が、元行沖のことを言いました。元行沖は自分を「一つの薬」にしてほしいと申し出て、狄仁傑が「これはわが薬籠中の物だ」と答えました。
  2. 「自家薬籠中の物」と反対の意味に近い言葉を、次から選びましょう。
    ア お手の物 イ 十八番 ウ 付け焼き刃 エ 自由自在
    答えと解説を見るウ。「付け焼き刃」は、その場しのぎで身についていない知識や技術のこと。ア・イ・エは似た意味の言葉です。

むずかしい

  1. 「此吾薬籠中物、何可一日無也。」を書き下し文に直し、後半の句法の名前を答えましょう。
    答えと解説を見る此れ吾が薬籠中の物なり、何ぞ一日も無かるべけんや。「何ぞ〜んや」は反語で、「どうして一日でもなくてよいことがあろうか、いや、一日もなくてはならない」という意味です。
  2. 元行沖が、自分を「ごちそう」ではなく「薬」にしてほしいと言ったのはなぜですか。原文の内容をふまえて説明しましょう。
    答えと解説を見る狄仁傑の門下には、ごちそう(旨味)のように気持ちのよいことを言う人はたくさんいたので、自分は病気を防ぐ薬のように、耳の痛い忠告(規誡)をする役になって、狄仁傑の役に立ちたいと考えたからです。

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よくある質問

自家薬籠中の物とはどういう意味ですか?

自家薬籠中の物とは、自分の家の薬箱の薬のように、いつでも自分の思いのままに使えるものという意味です。今は、すっかり身につけて自由に使いこなせる知識や技術について使うことが多い言葉です。

自家薬籠中の物の読み方は何ですか?

「じかやくろうちゅうのもの」と読みます。「薬籠」は「やくろう」で、「やくかご」と読むのはまちがいです。

自家薬籠中の物の由来・出典は何ですか?

出典は唐の歴史書『旧唐書』の元行沖伝です。若い役人の元行沖が宰相の狄仁傑に「わたしを一つの薬にしてください」と申し出たところ、狄仁傑が笑って「此れ吾が薬籠中の物なり」と答えた話から生まれました。

「薬籠中の物」と言ったのはだれですか?

「吾が薬籠中の物」と言ったのは、唐の宰相の狄仁傑です。たとえられたのは元行沖で、元行沖自身は「一つの薬になりたい」と申し出ただけです。

自家薬籠中の物の原文と書き下し文は?

『旧唐書』の原文は「此吾薬籠中物、何可一日無也」で、書き下し文は「此れ吾が薬籠中の物なり、何ぞ一日も無かるべけんや」です。『新唐書』では「君正吾薬籠中物、不可一日無也」となっています。

自家薬籠中の物の例文を教えてください。

「三年間の留学で、彼女は英語を自家薬籠中の物にした」のように使います。「〜を自家薬籠中の物にする」の形がふつうです。

自家薬籠中の物は人に使えますか?ビジネスで使っても失礼になりませんか?

人について使うこともできますが、今の日本語では「思い通りに動かせる人」という意味にとられやすいので、目上の人や本人に向かって使うのは避けたほうが無難です。ビジネスでは「技術を自家薬籠中の物にする」のように、知識や技術について使うのが安全です。

自家薬籠中の物に似た言葉・反対の言葉は?

似た言葉は「お手の物」「十八番」「自由自在」などです。反対の意味に近い言葉には「手に余る」「宝の持ち腐れ」「付け焼き刃」があります。

自家薬籠中の物は英語で何と言いますか?

"have something at one's fingertips"(すぐに使えるように身についている)が近い言い方です。人について言うときは "someone one cannot do without"(なくてはならない人)と訳すと、もとの話の意味に近くなります。

自家薬籠中の物は入試でどう出ますか?

高校受験・大学受験で、意味を選ぶ問題や「薬籠」の読み方の問題として出ることがあります。大学受験の現代文では「知識を自家薬籠中の物にする」という形で評論に出てくるので、「自分のものにして使いこなす」と意味をとれるようにしておきましょう。

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出典・参考

  • 原文:『旧唐書』巻一〇二・元行沖伝、『新唐書』巻二〇〇・元行沖伝(いずれも維基文庫の本文で確認)
  • 『資治通鑑』久視元年「天下桃李、悉在公門矣」は、成語辞典の出典表示で確認
  • 書き下し文・現代語訳:合格大作戦(教科書で多い読み方をもとにした一例)
  • お話の絵・図:合格大作戦

最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦