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蟷螂の斧とうろうのおの
ひとことで言うと
弱い者が、自分の力を考えずに強い相手に立ち向かうこと。かまきり(蟷螂)が前足のかまを斧のようにふり上げて、大きな車に向かっていく姿から。
| 読み方 | とうろうのおの |
|---|---|
| 意味 | 弱い者が、自分の力を考えずに強い相手に立ち向かうこと。とてもかなわない、むだな抵抗。 |
| 出典 | 『荘子』人間世・『淮南子』人間訓(斉の荘公の話)。「螳螂之斧」の形は陳琳の檄文(『文選』)。どれを出典とするかは本による |
| お話 | かまきりが前足をふり上げて車輪に向かう。『荘子』では身のほど知らずのたとえ、『淮南子』では荘公がその勇気に感心して車をよけた |
| 似た言葉 | 身のほど知らず・暴虎馮河・ごまめの歯ぎしり |
| 反対の言葉 | 長いものには巻かれろ・君子危うきに近寄らず |
| 漢文の句法 | 再読文字(将)・疑問(乎)・置き字(而) |
このページのポイント
- 「蟷螂の斧」は弱い者が力を考えずに強い相手に立ち向かうこと。かまきりの前足のかまを斧に見立てた言葉です
- 出典は『荘子』と『淮南子』。同じかまきりが「身のほど知らず」と「勇気がある」の正反対に描かれる話を、4こまのイラストで読めます
- 「とうろう」は虫へんの「蟷螂」。明かりの「灯籠」と書くまちがいや、勝った場合に使うまちがいに注意しましょう
「蟷螂の斧」の意味と読み方
「蟷螂の斧」はとうろうのおのと読みます。意味は「弱い者が、自分の力を考えずに、強い相手に立ち向かうこと」です。また、そうしたとてもかなわない、むだな抵抗のたとえとしても使います。「蟷螂の斧を以(もっ)て隆車(りゅうしゃ)の轍(わだち)に当たる」という長い形もあります。
「蟷螂(とうろう)」はかまきりのことです。かまきりは、敵が近づくと前足のかまを高くふり上げて身構えます。その前足を「斧(おの)」に見立てて、小さなかまきりが、大きな車に斧をふり上げて向かっていく姿にたとえた言葉です。
うかるくん
かまきりが車に向かっていくなんて、なんだか勇ましい感じもしますけど…。
ミスターT先生
いいところに気がついたね。実はこの話、中国の昔の本によって、かまきりの評価が正反対なんだ。『荘子(そうじ)』では「身のほど知らず」、『淮南子(えなんじ)』では「勇気がある」。今の日本の「蟷螂の斧」は、おもに身のほど知らずのほうの意味で使われているよ。
ふだんの言い方では、たとえば次のように使います。
- ○大企業を相手に小さな店が値下げで勝負するのは、蟷螂の斧だろう。
- ○横綱に挑む新入幕の力士の姿は、蟷螂の斧とも見えた。
- ○蟷螂の斧と言われても、わたしたちは反対の声を上げ続ける。

絵で読む「蟷螂の斧」のお話
「蟷螂の斧」のもとになった話は、ひとつではありません。ここでは、場面がはっきりしている『淮南子』の斉の荘公(そうこう)の話を3こまで、今の意味に近い『荘子』のたとえを1こまで見てみましょう。
絵で読む「蟷螂の斧」のお話(4こま)
荘公は、退くことを知らないかまきりを見て、おろかだと笑うのではなく、その勇気に感心しました。そして、わざわざ車の向きを変えてよけてやったのです。この話を聞いた勇士たちは、勇気のある者を大切にする殿だと知って、荘公のためなら命をかけようと思ったと書かれています。

ミスターT先生
『淮南子』では、この話は「小さなことで、大きな人の心をつかむ」例として出てくるんだ。かまきり一匹をよけただけで、勇士たちが集まってきた。かまきりそのものより、荘公のふるまいが主役の話なんだね。
ところが、今の日本で「蟷螂の斧」と言うときは、ほめ言葉ではなく、「かなうはずのない相手に、むだに逆らう」という意味がふつうです。この意味は、もうひとつの出典『荘子』の見方に近いものです。どちらを「蟷螂の斧」の出典とするかは、辞書や本によって書き方がちがいます。このページでは両方を紹介します。
「蟷螂の斧」の原文・書き下し文・現代語訳
まず『荘子』人間世(じんかんせい)、次に『淮南子』人間訓(じんかんくん)の原文を、1文ずつ訓読文で読みます(書き下し文は読み方の一例です)。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方へ。
『荘子』人間世:蘧伯玉のたとえ
衛(えい)の国の顔闔(がんこう)が、性格の荒い太子の教育係になることになり、賢者の蘧伯玉(きょはくぎょく)に相談します。蘧伯玉は「相手に合わせながら、気をつけなさい」と答え、かまきりのたとえを持ち出します。
1文目:かまきりを知らないか
書き下し文汝夫の螳蜋を知らざるか?
(『荘子』人間世)
現代語訳あなたは、あのかまきりを知らないのか。
2文目:車の輪に立ち向かう
書き下し文其の臂を怒らせて以て車轍に当たり、其の任に勝へざるを知らざるなり。
(『荘子』人間世(原文は「當」))
現代語訳(かまきりは)その腕をふり上げて車の輪に立ち向かうが、自分にはその役目がとても果たせないことを知らないのだ。
『淮南子』人間訓:斉の荘公とかまきり
3文目:車輪に打ちかかる虫
書き下し文斉の荘公出でて猟す、一虫有り、足を挙げて将に其の輪を搏たんとす。
(『淮南子』人間訓(原文は「齊」「莊」「獵」「蟲」「舉」))
現代語訳斉の荘公が狩りに出かけると、一匹の虫がいて、足を持ち上げて今にもその(車の)輪に打ちかかろうとしていた。
4文目:御者の答え
書き下し文其の虫たるや、進むを知りて卻くを知らず、力を量らずして敵を軽んず。
(『淮南子』人間訓(原文は「蟲」「輕」))
現代語訳この虫というのは、進むことは知っていても退くことを知らず、自分の力を考えずに敵を軽く見るのです。
5文目:荘公のことばと行動
書き下し文荘公曰はく、「此れ人たらば、必ず天下の勇武たらん。」車を迴らして之を避く。
(『淮南子』人間訓(原文は「莊」))
現代語訳荘公は言った、「これがもし人であったなら、きっと天下の勇士となるだろう」。そして車の向きを変えて、かまきりをよけた。
「螳螂の斧」という4字の形
『荘子』と『淮南子』には、じつは「斧」という字は出てきません。「螳螂之斧(螳螂の斧)」という形がはっきり出てくるのは、後漢の終わりごろ、文人の陳琳(ちんりん)が、袁紹(えんしょう)のために書いた檄文(げきぶん=敵を責め、味方を集めるための文書)です。この文章は、のちに詩文集『文選(もんぜん)』におさめられました。
書き下すと「螳螂の斧を以て、隆車の隧(みち)を禦(ふせ)がんと欲す」。「隆車」は大きな車のことで、(曹操の軍は)かまきりの斧で、大きな車の行く手をふさごうとしているという意味です。陳琳は、敵の曹操をかまきりにたとえて、「勝てるはずがない」とあざけったのです。日本の「蟷螂の斧を以て隆車の轍に当たる」という言い方は、この「螳螂之斧」と、『荘子』の「車轍に当たる」が合わさった形と考えられます。
サクラちゃん
「蟷螂の斧」って、一つの本から生まれたわけじゃないんですね。
ミスターT先生
そうなんだ。『荘子』のたとえ、『淮南子』の荘公の話、陳琳の「螳螂之斧」と、少しずつ形を変えながら伝わってきた言葉なんだ。ほかに『韓詩外伝(かんしがいでん)』という本にも斉の荘公の同じ話があるとされているけれど、今回は本文を確かめられなかったので、ここでは原文をのせないでおくね。
出典『荘子』『淮南子』と話の背景
『荘子』と蘧伯玉のたとえ
『荘子(そうじ)』は、戦国時代の思想家荘周(そうしゅう)と、その流れをくむ人たちの考えをまとめた本です。老子とならぶ道家(どうか)の代表的な書物で、「胡蝶の夢」「朝三暮四」「井の中の蛙」など、たとえ話から生まれた故事成語がたくさんあります。道家と儒家・法家のちがいは諸子百家(儒家・道家・法家)の考え方で図にしています。
人間世という篇は、乱れた世の中で、どうすれば身を守りながら人とつきあえるかをテーマにしています。かまきりのたとえは、性格の荒い太子に仕える顔闔への忠告の中で出てきます。蘧伯玉は、「かまきりは自分の腕に自信があるから車にも向かっていく。自分の才能をほこって、強い相手にさからえば、身があぶない」と教えたのです。続けて、トラを飼う人は、トラを怒らせないようにえさのやり方まで気をつける、というたとえも出てきます。
『淮南子』と斉の荘公
『淮南子(えなんじ)』は、前漢の淮南王・劉安(りゅうあん)が、学者たちを集めてまとめさせた本です。道家の考えを中心に、いろいろな学派の考えを集めています。「塞翁が馬」の話も、この本の同じ人間訓に出てきます。
荘公の話は、「聖人は小さなことを行って、大きなことをなしとげる」という段の中の例のひとつです。同じところには、魏の田子方(でんしほう)が年老いた馬を見捨てずに買い取った話も並んでいて、小さなものを大切にするふるまいが、人の心を動かすことを言っています。
なお、中国では今も「螳臂当車(とうひとうしゃ)」(かまきりの腕で車に当たる)という四字の成語がよく使われ、日本の「蟷螂の斧」と同じく身のほど知らずのむだな抵抗という意味です。

「蟷螂の斧」の使い方と例文・似た言葉
「蟷螂の斧」は、「〜は蟷螂の斧だ」「蟷螂の斧をふるう」「蟷螂の斧にすぎない」の形で使います。力の差が大きすぎて、とても勝ち目のない抵抗を表します。相手に向かって言うとかなり失礼なので、自分の力が小さいことを分かったうえで「蟷螂の斧かもしれないが」とへりくだって使う言い方もよく見られます。
- ○一人で大きな組織に立ち向かうのは、蟷螂の斧にすぎない。(勝ち目がない)
- ○蟷螂の斧と知りながら、彼は最後まで自分の意見を曲げなかった。(分かっていて立ち向かう)
- ○わたしの意見など蟷螂の斧かもしれませんが、あえて申し上げます。(へりくだって言う)
- ○強豪校を相手に蟷螂の斧をふるう覚悟で、全力でぶつかった。(自分たちのことを言う)
- ×かまきりが蟷螂の斧でえものをつかまえた。(本物のかまきりの前足のことには使わない)
- ×弱いチームが蟷螂の斧で強いチームに大勝した。(勝った場合には使わない)
英語では、似た意味で a futile resistance(むだな抵抗)や、聖書の話から a David and Goliath fight(小さな者と巨人の戦い。ただしこちらは小さい側が勝つ話)などと言います。
似た言葉
- 身のほど知らず:自分の力や立場をわきまえないこと。ふだんの言い方での「蟷螂の斧」です。
- 暴虎馮河(ぼうこひょうが):素手でトラに立ち向かい、歩いて大河をわたるような、向こう見ずな勇気。『論語』から。
- ごまめの歯ぎしり:力のない者が、くやしがってもどうにもならないこと。「ごまめ」は小さなかたくちいわしの干物です。
- 匹夫(ひっぷ)の勇:考えのない、血気にはやるだけの勇気。『孟子』から。
- 軽挙妄動(けいきょもうどう):よく考えずに、軽はずみに行動すること。
反対の態度を表す言葉
- 長いものには巻かれろ:力の強い相手には、逆らわずに従ったほうがよいということ。
- 君子危うきに近寄らず:かしこい人は、あぶないことには近づかないということ。
- 彼を知り己を知れば百戦殆うからず:相手と自分の力をよく知っていれば、何度戦っても負けない。『孫子』から。蟷螂の斧は、この反対の「己を知らない」状態です。
「蟷螂の斧」のよくあるまちがい
- 「灯籠の斧」と書く:「灯籠(とうろう)」は、お寺や庭にある明かりの道具。同じ読みですが、まったく別の言葉です。「灯」の読み方・書き順・部首・「籠」の読み方・書き順・部首の「灯籠」ではなく、虫へんの「蟷螂」と書きます。
- 「とうりょうのおの」と読む:正しくは「とうろうのおの」。「螂」は「ろう」と読みます。
- 「斧」を「斤」「釜」と書く:「斧(おの)」は、「父」の下に「斤(おのづくり)」を書く字です。
- 勇気をほめる言葉だと思う:『淮南子』では荘公がかまきりの勇気をほめましたが、今の「蟷螂の斧」は「かなわない相手へのむだな抵抗」という意味がふつうです。人をほめるときに使うと、かえって失礼になります。
- 勝った場合に使う:蟷螂の斧は「とても勝ち目がない」ことを言う言葉です。小さい者が大きい者に勝った話には使いません。
うかるくん
「蟷螂」って、画数が多くてむずかしすぎます…。
ミスターT先生
どちらの字も「虫」へん。右側は「当」と「郎」だ。「虫が当たる」と覚えると、かまきりが車に当たる話とつながって忘れにくいよ。ちなみに「蟷」も「螂」も常用漢字ではないから、ふつうは読めれば大丈夫。書き取りより、意味と読みがよく問われるんだ。
入試ではこう出る
「蟷螂の斧」は、高校受験・大学受験で出てくることの多い言葉です。
- 中学受験:むずかしい漢字なので、読みと意味を選ぶ問題が中心です。「( )の斧」に動物(虫)を入れる問題も考えられます。
- 高校受験:故事成語の意味を選ぶ問題、例文の中での正しい使い方。「暴虎馮河」「身のほど知らず」など、似た意味の言葉との組み合わせがよく問われます。漢文の入門は高校受験の漢文(返り点・書き下し文の対策)へ。
- 大学受験:評論文や小説の中で「蟷螂の斧と知りつつ」のように出てきて、意味や筆者の気持ちを問われることがあります。漢文では、「将」の再読、「不知〜乎」の疑問、「為」の読み分けがねらわれます。

サクラちゃん
『荘子』は「身のほど知らず」、『淮南子』は「勇気をほめる」。でも今の意味は「かなわない相手へのむだな抵抗」。この3つを分けて覚えると、ひっかけ問題もこわくないですね!
練習問題
やさしい
- 「蟷螂の斧」の意味として正しいものを選びましょう。
ア 小さな力でも集まれば強くなること イ 弱い者が、力を考えずに強い相手に立ち向かうこと ウ するどい道具を持つこと エ 強い者が弱い者をいじめること答えと解説を見る
イ。かまきりが前足を斧のようにふり上げて、大きな車に立ち向かう姿のたとえです。 - 「蟷螂」は何という虫のことですか。また、何を「斧」にたとえていますか。
答えと解説を見る
かまきり。かまきりの前足のかまを「斧」にたとえています。
ふつう
- 「挙足将搏其輪」を書き下し文に直しましょう。また「将」は何という種類の字ですか。
答えと解説を見る
足を挙げて将に其の輪を搏たんとす。「将」は1字を2回読む再読文字で、「将に〜んとす(今にも〜しようとする)」と読みます。 - 斉の荘公は、かまきりを見てどうしましたか。また、それはなぜですか。
答えと解説を見る
車の向きを変えて、かまきりをよけました。退くことを知らずに立ち向かうかまきりを、「人であれば天下の勇士になる」と、その勇気に感心したからです。
むずかしい
- 『荘子』人間世と『淮南子』人間訓では、かまきりの描き方がどうちがいますか。今の「蟷螂の斧」の意味とも関係づけて説明しましょう。
答えと解説を見る
『荘子』では、自分の力ではかなわないことを知らずに車に向かう身のほど知らずのたとえ。『淮南子』では、退くことを知らない勇気を荘公がほめています。今の「蟷螂の斧」は「かなわない相手へのむだな抵抗」という意味で、『荘子』の見方に近いです。 - 次の文のうち、「蟷螂の斧」の使い方として正しいものを選びましょう。
ア 小さな町工場が蟷螂の斧で大企業に勝った。 イ 蟷螂の斧と知りつつ、市民たちは計画に反対の声を上げた。 ウ 彼は蟷螂の斧のように頼もしい人だ。答えと解説を見る
イ。アは「勝った」場合なので合わず、ウはほめ言葉として使っているので合いません。
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よくある質問
蟷螂の斧の意味を簡単に言うと何ですか?
弱い者が、自分の力を考えずに強い相手に立ち向かうことです。とてもかなわない、むだな抵抗のたとえとしても使います。
蟷螂の斧の「蟷螂」とは何ですか?
かまきりのことです。かまきりが敵に向かって前足のかまをふり上げる姿を、斧をふり上げているのに見立てています。
蟷螂の斧の出典は何ですか?
『荘子』人間世の、車の輪に立ち向かうかまきりのたとえと、『淮南子』人間訓の、斉の荘公がかまきりをよけた話がよく挙げられます。「螳螂の斧」という形は、後漢の陳琳の檄文に出てきます。どれを出典とするかは本によって書き方がちがいます。
蟷螂の斧はほめ言葉ですか?
ふつうはほめ言葉ではありません。『淮南子』では斉の荘公がかまきりの勇気をほめていますが、今の日本では「かなわない相手へのむだな抵抗」という意味で使います。自分のことを「蟷螂の斧かもしれませんが」とへりくだって言うこともあります。
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出典・参考
- 原文:『荘子』人間世、『淮南子』人間訓、陳琳「為袁紹檄豫州」(いずれも維基文庫の本文で確認)
- 書き下し文・現代語訳:合格大作戦(読み方の一例)
- 絵:メトロポリタン美術館(Open Access、パブリックドメイン)
- お話の絵・図:合格大作戦
最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦



