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尾を泥中に曳くおをでいちゅうにひく
ひとことで言うと
地位や名誉にしばられるより、貧しくても自由に暮らすほうがよい。楚の王に国の政治をまかせたいと言われた荘子が、「死んでまつられる亀より、生きて泥の中で尾を引く亀がよい」と断った話から。
| 読み方 | おをでいちゅうにひく |
|---|---|
| 意味 | 高い地位や名誉にしばられるより、貧しくても自由でのどかに暮らすほうがよいこと。 |
| 出典 | 『荘子』秋水篇(原文は「曳尾於塗中」) |
| お話 | 濮水で釣りをする荘子に、楚王の使者が国の政治をまかせたいと伝えた。荘子は廟堂にまつられる神亀のたとえで、生きて泥の中で尾を引くほうがよいと断った |
| 似た言葉 | 曳尾塗中・悠々自適・晴耕雨読 |
| 反対の言葉 | 立身出世 |
| 漢文の句法 | 選択(寧ろ〜か)・再読文字(将)・使役(使)・願望(願はくは) |
このページのポイント
- 「尾を泥中に曳く」は地位や名誉より、自由でのどかな暮らしを選ぶこと
- 出典は『荘子』秋水篇。廟堂の神亀と泥の中の亀のたとえで、荘子が楚王の申し出を断った話を、4こまのイラストで読めます
- 原文は「吾将に尾を塗中に曳かんとす」。「泥中」は原文では「塗中」と書きます
「尾を泥中に曳く」の意味と読み方
「尾を泥中に曳く」はおをでいちゅうにひくと読みます。意味は、高い地位や名誉にしばられるより、貧しくても自由でのどかに暮らすほうがよいということです。「泥中に尾を曳く」とも言います。
「尾(お)」はしっぽ、「泥中(でいちゅう)」は泥の中、「曳(ひ)く」は引きずることです。中国の思想家荘子(そうし)が、楚の王から国の政治をまかせたいと言われたとき、「死んで大切にまつられる亀より、生きて泥の中でしっぽを引きずっている亀のほうがいい」と言って断った話から生まれました。出典の『荘子(そうじ・そうし)』秋水篇では、「泥中」は「塗中(とちゅう)」と書かれています。
うかるくん
国の政治をまかされるなんて、すごく出世なのに、どうして断ったんですか?
ミスターT先生
荘子は、高い位につけば、王の命令にしばられて、自分らしく生きられなくなると考えたんだ。大切にまつられても、死んでしまった亀は自由に動けないよね。荘子にとっては、名誉より、生きて自由でいることのほうがずっと大事だったんだよ。
ふだんの言い方では、次のように使います。
- ○社長にと言われたが断り、ふるさとで畑をたがやしている。まさに尾を泥中に曳く暮らしだ。
- ○名誉ある役職より、好きな研究を続ける道を選んだ先生は、尾を泥中に曳くことをよしとした。
- ○出世争いからはなれ、泥中に尾を曳くような気ままな毎日を楽しんでいる。

絵で読む「尾を泥中に曳く」のお話
主人公は、荘子自身です。荘子の本名は荘周(そうしゅう)で、戦国時代(紀元前4世紀ごろ)に生きた人です。南の大国・楚(そ)の王が、荘子のうわさを聞いて、使者を送ってきました。4つの場面で見てみましょう。
絵で読む「尾を泥中に曳く」のお話(4こま)
話のおもしろさは、荘子が「行きません」とは一言も言っていないところです。神亀の話をして、「その亀ならどちらを選ぶか」と、使者たち自身に答えさせています。使者が「生きて泥の中にいたいでしょう」と答えた時点で、荘子の答えは決まっていました。「それなら、わたしもそうします」――じょうずな断り方ですね。

ミスターT先生
1こま目の「竿を持ったまま、ふり向かない」(竿を持して顧みず)にも注目しよう。王の使者が来ても釣りをやめない。荘子が地位やお金に心を動かされない人だということが、この短い一言でよく分かるんだ。
「尾を泥中に曳く」の原文・書き下し文・現代語訳
出典は『荘子』の秋水(しゅうすい)篇です。1文ずつ、返り点と送り仮名をつけた訓読文で読んでいきましょう。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方で説明しています。
原典では「泥中」ではなく「塗中」と書かれています。「塗」には「どろ・ぬかるみ」という意味があり、「塗中」は「泥の中」のことです。日本では「泥中」の字で言いならわされてきました。また「境内」は、本によって「竟内」と書かれています。
1文目:使者がやって来る
書き下し文荘子濮水に釣る。楚王大夫二人をして往きて先んぜしむ。
(『荘子』秋水)
現代語訳荘子が濮水で釣りをしていた。楚の王は、大夫(身分の高い家臣)二人を先に行かせて、(自分の考えを)伝えさせた。
2文目:国のことをおまかせしたい
書き下し文願はくは境内を以て累はさん。
(『荘子』秋水(「境」は一本に「竟」))
現代語訳どうか、国内のこと(国の政治)をあなたにおまかせして、お手数をかけたいのです。
3文目:廟堂の神亀
書き下し文吾聞く、楚に神亀有り、死して已に三千歳なりと。王巾笥して之を廟堂の上に蔵す。
(『荘子』秋水(原文の字は「龜」「歲」「藏」))
現代語訳わたしはこう聞いている。楚には神聖な亀があり、死んでからもう三千年になる、と。王はそれを布で包み、箱に入れて、廟堂(先祖をまつる建物)の上に大切にしまっている。
4文目:死んで大切にされたいか、生きて泥の中にいたいか
書き下し文此の亀は、寧ろ其れ死して骨を留めて貴ばるることを為さんか、寧ろ其れ生きて尾を塗中に曳かんか。
(『荘子』秋水(原文は「此龜者,寧其死爲留骨而貴乎?寧其生而曳尾於塗中乎?」))
現代語訳この亀は、死んで骨を残して大切にされるほうを望むだろうか。それとも、生きて泥の中でしっぽを引きずっているほうを望むだろうか。
5文目:わたしも泥の中で尾を引こう
書き下し文往け。吾将に尾を塗中に曳かんとす。
(『荘子』秋水(原文の字は「將」))
現代語訳お帰りなさい。わたしも、泥の中でしっぽを引きずっていようと思う。
サクラちゃん
使者たちは、自分で「生きて泥の中にいたいでしょう」と答えちゃったんですね。
ミスターT先生
そう。原文では「寧ろ生きて尾を塗中に曳かん」と、荘子の問いの言葉をそのまま使って答えているね。すると荘子は「往け。吾将に尾を塗中に曳かんとす」と、また同じ言葉で返す。同じ言葉のくり返しで、話がきれいにしめくくられているんだ。入試の漢文でも、こういうくり返しは大事な手がかりになるよ。
出典『荘子』と話の背景
出典の『荘子』は、戦国時代の思想家・荘周と、その流れをくむ人々の考えをまとめた本です。荘周は宋の国の蒙(もう)という所の人で、漆の畑の役人をしたことがあると、『史記』は伝えています。老子とならぶ道家(どうか)の代表的な人物です。秋水篇は「外篇」の一つで、荘周の後の人々が書いた部分もふくむと考えられています(どこまでが本人の文章かは諸説あります)。道家の考え方は諸子百家(儒家・道家・法家)の考え方で図にしています。
なぜ「亀」なのか
古代中国では、亀のこうらを火であぶり、できたひびの形で吉か凶かを占いました。これを亀卜(きぼく)と言います。殷の時代の甲骨文字も、こうした占いの記録です。占いに使われた亀は神聖なものとして大切にされ、王の宝になりました。荘子は、その「大切にされている死んだ亀」を、国の宰相として名誉を受けながら、王のために命をすりへらす人にたとえたのです。
『史記』に伝わる似た話
荘子が仕官を断った話は、司馬遷の『史記』老子韓非列伝にも出てきます。そこでは、楚の威王が荘周のうわさを聞いて、たくさんの贈り物とともに使者を送り、宰相(さいしょう)にむかえようとしました。荘周は笑って、「祭りのいけにえの牛は、何年も大事に養われ、美しい布を着せられるが、いざ宗廟に引かれていくときには、ただの子豚になりたいと思っても、もうかなわない。わたしは汚れた溝の中で楽しく遊んでいたい」と答えた、と書かれています。
『荘子』列御寇篇にも、同じいけにえの牛のたとえで仕官を断る話があります。亀か牛かのちがいはありますが、「大切にされることと引きかえに自由を失うより、自由に生きたい」という点は同じです。一覧の説明などで「楚の王が宰相の位を勧めた」と言われるのは、『史記』のほうの話と重なっています。『荘子』秋水篇の本文は「国のことをおまかせしたい(境内を以て累はさん)」という言い方で、「宰相」という語は出てきません。
同じ秋水篇の話
秋水篇には、ほかにも有名な話が集まっています。いちばん初めには、黄河の神(河伯)が海の神(北海若)に海の広さを教えられる話があり、「井戸の中のカエルに海の話をしても通じない」という言葉が出てきます。これが「井の中の蛙」のもとです。
この「尾を泥中に曳く」のすぐあとには、荘子の友人恵子(けいし)の話が続きます。梁の国の宰相になった恵子は、「荘子が宰相の地位をうばいに来る」と聞いてあわてます。荘子は、「南の空を飛ぶ鵷鶵(えんすう)という気高い鳥は、腐った鼠をくわえたふくろうに『シッ』とおどされても、そんなものはほしくない」と言いました。宰相の地位を「腐った鼠」にたとえたのです。さらに、川の魚を見て「魚は楽しそうだ」と言う荘子と、「君は魚ではないのに、どうして魚の楽しみが分かるのか」と言う恵子の、「魚の楽しみ」の問答も秋水篇にあります。

サクラちゃん
泥の中の亀、腐った鼠、魚の楽しみ…。秋水篇の荘子は、いつも地位やお金より、自分らしく自由に生きることを大切にしているんですね!
荘子のほかの話には、夢で蝶になる「胡蝶の夢」(斉物論篇)や、かたつむりの角の上の戦争の「蝸牛角上の争い」(則陽篇)などもあります。どの話も、世の中の人がこだわっていることを、大きな目で見直させるところが共通しています。
「尾を泥中に曳く」の使い方と例文・似た言葉
「尾を泥中に曳く」は、高い地位・名誉・お金よりも、自由で気ままな暮らしを選ぶことを言うときに使います。少しかたい言い方なので、作文や評論文、人物の紹介などで使われることが多い言葉です。
- ○大臣の話を断り、山里で本を読んで暮らした学者は、尾を泥中に曳く生き方をつらぬいた。
- ○名門の家をつがず、小さな店を開いた彼は「尾を泥中に曳くほうが性に合っている」と笑う。
- ○役職につけば忙しくなるだけだ。わたしは泥中に尾を曳いて、好きな仕事を続けたい。
- ×試合に負けて、いつまでも尾を泥中に曳いている。(「くよくよ引きずる」意味ではない)
- ×泥だらけになって部活の練習をすることを、尾を泥中に曳くと言う。(「泥まみれでがんばる」意味ではない)
似た言葉
- 悠々自適(ゆうゆうじてき):世間のことにしばられず、自分の思うままに、ゆったりと暮らすこと。
- 晴耕雨読(せいこううどく):晴れた日は畑をたがやし、雨の日は本を読む。世間からはなれ、のんびり暮らすこと。
- 曳尾塗中(えいびとちゅう):原文の字をそのまま4字にした言い方。「曳尾」とも言います。
- 鶏口牛後:大きな組織の後ろにつくより、小さな組織のかしらになれ。「大きなものの一部になるより、自分らしく」という点で、少し通じるところがあります。
反対の意味に近い言葉
- 立身出世(りっしんしゅっせ):高い地位について、世に名をあげること。荘子が断ったのは、まさにこれです。
- 自由自在は似た方向の言葉ですが、「地位をすてる」という意味はふくみません。
「尾を泥中に曳く」のよくあるまちがい
- 「どろなか」「でいなか」と読む:正しくは「でいちゅう」。「泥」は「泥」の読み方・書き順・部首、「尾」は「尾」の読み方・書き順・部首で確かめましょう。
- 「曳く」を「引く」「弾く」と書く:「曳く」は「引きずる」こと。意味は「引く」に近いですが、この言葉は「曳く」と書くのがふつうです。「曳」は常用漢字ではないので、ふりがなをつけて書かれることも多い字です。
- 「失敗をいつまでも引きずる」意味で使う:この言葉の「曳く」は、亀がしっぽを引きずって自由に歩き回る様子です。くよくよ引きずる、という意味ではありません。
- 「泥まみれでがんばる」意味で使う:泥の中にいるのは「地位がなくても自由」だからです。苦労してがんばる意味ではありません。
- 話の亀を「生きている亀」とだけ覚える:話には二ひき出てきます。死んで廟堂にまつられる「神亀」と、生きて泥の中にいる亀です。荘子は、仕官(宰相になること)を神亀に、自由な暮らしを泥の中の亀にたとえました。「亀」の字は「亀」の読み方・書き順・部首へ。
うかるくん
「泥」なのに、原文は「塗」なんですか? 「塗る」の字ですよね?
ミスターT先生
いいところに気づいたね。「塗」には、もともと「どろ・ぬかるみ」という意味があるんだ。「塗炭(とたん)の苦しみ」の「塗」も泥のことだよ。だから原文の「塗中」は「泥の中」。日本では分かりやすく「泥中」と書いて言いならわされてきた、というわけだね。
入試ではこう出る
- 大学受験(漢文):『荘子』秋水篇のこの話は、短くてまとまっているので、漢文の問題にしやすい文章です。「寧ろ〜か、寧ろ〜か」の選択の形、「将に〜んとす」の再読文字、「大夫二人をして〜しむ」の使役、「願はくは」の願望などの句法がよく問われます。そして、荘子が神亀の話で何を言いたかったのか(仕官を断る理由)を説明させる問題が考えられます。
- 大学受験(現代文・小論文):「出世と自由」「仕事と生き方」をテーマにした文章で、荘子の考え方の例として引かれることがあります。
- 共通テストの漢文の全体像は共通テストの漢文(配点・時間配分)にまとめています。
練習問題
やさしい
- 「尾を泥中に曳く」の読み方と意味を答えましょう。
答えと解説を見る
読み方はおをでいちゅうにひく。意味は、高い地位や名誉にしばられるより、自由でのどかに暮らすほうがよいこと。 - この話で、荘子は楚の王からの申し出を受けましたか、断りましたか。
答えと解説を見る
断った。死んで大切にまつられる亀より、生きて泥の中で尾を引きずる亀のほうがよい、とたとえた。
ふつう
- 「吾将曳尾於塗中」を書き下し文に直しましょう。
答えと解説を見る
吾将に尾を塗中に曳かんとす。(「将」は再読文字で「まさに〜んとす」、「於」は置き字) - 「寧其死為留骨而貴乎、寧其生而曳尾於塗中乎」の「寧〜乎、寧〜乎」は、どんな意味を表す形ですか。
答えと解説を見る
選択。「〜だろうか、それとも〜だろうか」と、二つのうちどちらがよいかをたずねる形。
むずかしい
- 荘子は、廟堂の神亀と泥の中の亀を、それぞれ何にたとえていますか。説明しましょう。
答えと解説を見る
廟堂の神亀は、楚の国の政治をまかされて高い地位と名誉を得るが、自由を失う生き方のたとえ。泥の中の亀は、地位はなくても、自由に生きる生き方のたとえ。荘子は後者を選んだ。 - 使者が「寧生而曳尾塗中」と答えたあと、荘子が「往矣」と言ったのはなぜですか。
答えと解説を見る
使者自身が「生きて泥の中にいるほうがよい」と認めたので、同じ理由で自分も仕官しないことがはっきりしたから。「帰りなさい」と言って、申し出を断ったのである。
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よくある質問
尾を泥中に曳くの意味を簡単に言うと何ですか?
高い地位や名誉にしばられるより、貧しくても自由でのどかに暮らすほうがよい、という意味です。
尾を泥中に曳くの由来となった話はどんな話ですか?
『荘子』秋水篇の話です。濮水で釣りをしていた荘子に、楚の王の使者が国の政治をまかせたいと伝えました。荘子は「死んで廟堂に大切にまつられる神亀と、生きて泥の中で尾を引きずる亀と、亀ならどちらを望むか」とたずね、使者が後者だと答えると、「わたしも泥の中で尾を引きずっていよう」と断りました。
尾を泥中に曳くの書き下し文はどうなりますか?
中心は「此の亀は、寧ろ其れ死して骨を留めて貴ばるることを為さんか、寧ろ其れ生きて尾を塗中に曳かんか」と「往け。吾将に尾を塗中に曳かんとす」です。
原文は「泥中」ですか、「塗中」ですか?
『荘子』の原文は「塗中」です。「塗」には泥・ぬかるみという意味があり、日本では「泥中」の字で言いならわされています。
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出典・参考
- 原文:『荘子』秋水(維基文庫の本文で確認。原文の字は「龜」「將」「塗中」など。「境」は一本に「竟」)
- 似た話:『史記』老子韓非列伝(維基文庫の本文で確認)、『荘子』列御寇
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最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦



