故事成語の一覧 › 『柳宗元「陸文通先生墓表」』
大学受験
汗牛充棟かんぎゅうじゅうとう
ひとことで言うと
蔵書がとても多いこと。運べば牛が汗をかき、積めば家の棟木まで届くほど本が多い、という唐の柳宗元の文から。
| 読み方 | かんぎゅうじゅうとう |
|---|---|
| 意味 | 蔵書がとても多いこと。本がたくさんあることのたとえ。 |
| 出典 | 唐の柳宗元「陸文通先生墓表」(原文は「処則充棟宇、出則汗牛馬」) |
| お話 | 孔子の『春秋』の注釈を書く学者が百千人も言い争い、その本は置けば棟木まで届き、運べば牛馬が汗をかくほどだった(もとは批判の言葉) |
| 似た言葉 | 万巻の書・五車の書 |
| くらべたい言葉 | 韋編三絶(本の読み方)・読書百遍 |
| 漢文の句法 | 条件(則)・使役の読み・詠嘆(甚矣) |
このページのポイント
- 「汗牛充棟」は蔵書がとても多いこと。運べば牛が汗、積めば棟木までのたとえです
- 出典は唐の柳宗元「陸文通先生墓表」。原文は「充棟宇」「汗牛馬」で、順番が逆です
- もとは注釈書が多すぎて言い争うことへの批判。今は「本が多い」意味で使います
「汗牛充棟」の意味と読み方
「汗牛充棟」はかんぎゅうじゅうとうと読みます。意味は「蔵書(持っている本)がとても多いこと」のたとえです。図書館や読書家の書斎など、本がたくさんある様子を言うときに使います。
4つの字は、2字ずつに分かれます。「汗牛(かんぎゅう)」は、本を車に積んで運ぶと、引く牛が汗をかくこと。「充棟(じゅうとう)」は、本を家の中に積み上げると、屋根の棟木(むなぎ)までいっぱいになること。どちらも「本がとても多い」ことを、目に見えるように大げさに言ったものです。
うかるくん
牛が汗をかくほどの本って、どれくらいなんですか? ぼくの部屋の本なら、ぼくでも運べますけど…。
ミスターT先生
ははは。これは本の重さを量った言葉じゃなくて、「とにかくものすごく多い」ことを大げさに言ったたとえなんだ。それにね、この言葉が生まれた唐の時代の本は、紙の巻物や、もっと昔なら竹の札(竹簡)だったから、今の本よりずっとかさばって重かったんだよ。
ふだんの言い方では、次のように使います。
- ○先生の書斎は、まさに汗牛充棟で、床まで本が積まれていた。
- ○この分野の研究書は汗牛充棟で、全部を読むのはとても無理だ。
- ○受験の参考書は汗牛充棟だが、大切なのは一冊をくり返し使うことだ。
「汗牛充棟」は四字熟語の一覧にも入っています。書きことばで使うことが多く、大学入試の現代文や語彙問題で見かける言葉です。
絵で読む「汗牛充棟」のお話
「汗牛充棟」は、だれかの事件や失敗を描いた話ではありません。唐の時代の文人・柳宗元(りゅうそうげん)が書いた文章の中の、一つのたとえから生まれた言葉です。その文章の流れを、4つの場面にしてみました(絵は文章をもとにした想像の場面です)。
絵で読む「汗牛充棟」(4こま・柳宗元の文をもとにした想像の場面)
ここで大事なのは、柳宗元が本が多いことをほめていたわけではないという点です。孔子の『春秋』について、学者たちがそれぞれ勝手な説を立てて言い争い、注釈の本ばかりが増えていく。その結果、後の学者は年をとるまで力をつくしても、何が孔子のもとの考えなのか分からなくなってしまった。柳宗元は、そのありさまを「棟宇に充ち、牛馬に汗せしむ」と書いたのです。

ミスターT先生
つまり、もとは「多すぎて困る」という批判の言葉だった。それが今では「蔵書が多い」という、ほめる・ふつうの意味で使われている。言葉の意味が、生まれたときから少しずれてきた例として覚えておくといいね。
「汗牛充棟」の原文・書き下し文・現代語訳
出典は、柳宗元の「陸文通先生墓表(りくぶんつうせんせいぼひょう)」です。正式な題は「唐故給事中皇太子侍読陸文通先生墓表」と長く、『春秋』の学者・陸質(りくしつ)の墓に立てる石碑のために書かれた文章です。維基文庫(中国語のウィキソース)の本文を、日本の教科書でよく使う字にして示します。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方で説明しています(書き下し文は読み方の一例です)。
1文目:孔子が『春秋』を作って千五百年
書き下し文孔子春秋を作りて千五百年、名を以て伝と為す者五家、今其の三を用ふ。
(柳宗元「陸文通先生墓表」)
現代語訳孔子が『春秋』を作ってから千五百年、(その注釈で)名のある伝は五つあり、今はそのうち三つを用いている。
2文目:本は棟木まで、牛馬は汗
書き下し文其の書たる、処れば則ち棟宇に充ち、出だせば則ち牛馬に汗せしむ。
(柳宗元「陸文通先生墓表」)
現代語訳(言い争う学者たちの)その書物ときたら、家に置けば棟木や軒までいっぱいになり、運び出せば(車を引く)牛や馬に汗をかかせるほどだ。
3文目:後の学者は、もとが分からない
書き下し文後の学者、老を窮め気を尽くし、左に視右に顧みるも、本づくを得る莫し。
(柳宗元「陸文通先生墓表」)
現代語訳後の学者は、年をとるまで力をつくし、あちらを見こちらを見て調べても、何がもとなのかをつかむことができない。
4文目:聖人の心は知りがたい
書き下し文甚だしきかな、聖人の知り難きや。
(柳宗元「陸文通先生墓表」)
現代語訳なんとはなはだしいことか、聖人(孔子)の考えを知ることのむずかしさは。
サクラちゃん
原文は「汗牛充棟」じゃなくて、「充棟宇」と「汗牛馬」なんですね。順番も逆だし…。
ミスターT先生
そうなんだ。原文の6字を、「汗牛」と「充棟」の4字にまとめて、順番を入れかえたのが今の四字熟語だ。いつ、だれがこの4字の形にしたのかは、はっきりした資料が見つからなかった。出典を聞かれたら「柳宗元の陸文通先生墓表」と答えればいいよ。
出典「陸文通先生墓表」と話の背景
作者の柳宗元(りゅうそうげん、773〜819年)は、唐の時代の文人・政治家です。すぐれた文章家として、韓愈(かんゆ)とならんで「唐宋八大家」の一人に数えられます。若くして役人になりましたが、政治の改革に加わって失敗し、都から遠い永州・柳州へ流されました。漢詩「江雪」(千山鳥飛ぶこと絶え…)の作者としても知られ、漢詩の読み方は漢詩の形式と決まり(絶句・律詩)で説明しています。
墓表とは、陸質とはだれか
「墓表(ぼひょう)」は、亡くなった人の墓の前に立てる石碑に刻む文章です。「陸文通先生」は、唐の学者陸質(りくしつ)のこと。陸質は、師や友にあたる啖助(たんじょ)・趙匡(ちょうきょう)とともに、『春秋』を新しい方法で読み直した学者です。亡くなったあと、弟子たちが「文通先生」という名を贈ったと、墓表に書かれています。
『春秋』は、孔子が手を入れたとされる魯の国の年代記です。短い記事ばかりなので、その意味を説明する「伝」がいくつも作られました。今に伝わるのは左氏伝・公羊伝・穀梁伝の三つです。さらに後の時代には、その伝にまた注釈がつけられ、学者たちは自分の説が正しいと言い争いました。牛耳を執るや宋襄の仁は、三つの伝のうち『春秋左氏伝』から生まれた言葉です。
柳宗元の言いたかったことは、本の数が多ければよいわけではないということでした。言い争いのための本が積み重なると、かえって大もとの考えが見えなくなる。そうした中で陸質は、孔子の本当の考えをはっきりさせ、ふつうの人や子どもでも学べるようにした、と柳宗元はたたえています。
昔の本はかさばった
紙が広まる前の中国の本は、竹や木の札(竹簡・木簡)をひもでとじたものでした。韋編三絶で孔子が何度もひもを切ったのも、この竹簡の本です。唐の時代には紙の巻物が多くなりましたが、それでも今の本にくらべれば、ずっと場所をとりました。「牛が汗をかく」「棟木まで届く」というたとえも、こうした本の形を思いうかべると、大げさすぎるとは言えません。紙と本の話は、洛陽の紙価を高めるのページも読んでみてください。
「汗牛充棟」の使い方と例文・似た言葉
「汗牛充棟」は、本や資料がとても多いことを言うときに使います。「汗牛充棟の書」「汗牛充棟の蔵書」「〜は汗牛充棟だ」の形が多いです。今はふつう、ほめる意味や、ありのままを言う意味で使いますが、「多すぎて読みきれない」という意味をこめて使うこともあります。
- ○祖父の家には汗牛充棟の蔵書があり、子どものころは本の山の中で遊んだ。
- ○夏目漱石についての研究は汗牛充棟で、新しいことを言うのはむずかしい。
- ○勉強法の本は汗牛充棟だが、どれも自分に合うとは限らない。
- ○この図書館は、まさに汗牛充棟というにふさわしい。
- ×マラソンのあと、汗牛充棟になってしまった。(汗をたくさんかく意味ではない。本がとても多いことのたとえ)
似た言葉
- 万巻(まんがん)の書:非常にたくさんの書物。「万巻の書を読む」のように使います。
- 五車(ごしゃ)の書:車五台分の書物。『荘子』天下篇で、学者の恵施(けいし)について「其の書五車」と言ったことから、たくさんの本や、学問が広いことのたとえになりました。
- 蔵書家・本の虫:本をたくさん持っている人、本が大好きな人。
本の「読み方」の言葉とくらべる
- 韋編三絶・韋編三絶:同じ本をとじひもが切れるほど何度も読むこと。本の数ではなく、読みこみの深さを言う言葉です。
- 読書百遍義自ずから見る:むずかしい本も、百回読めば意味が自然に分かってくる、という教え。
- 晴耕雨読(せいこううどく):晴れた日は畑をたがやし、雨の日は本を読む、のんびりした暮らし。
「汗牛充棟」には、決まった反対の言葉はあまりありません。あえて言えば「本が少ない」「蔵書がとぼしい」などの言い方になります。
使うときの3つの注意
- 人そのものには使わない:「彼は汗牛充棟だ」とは言いません。「彼の書斎は汗牛充棟だ」「汗牛充棟の蔵書を持つ人」のように、本や資料について使います。物知りな人をほめたいときは「博識」「物知り」などを使いましょう。
- 書きことばの言葉:会話で使うと少しかたい感じになります。作文や手紙、説明文などで使うと、文章が引きしまります。
- 本以外の「量」にはあまり使わない:服やおもちゃが多いことには使いません。本・書物・研究・資料など、読むものについて使うのがふつうです。
情報があふれる今こそ、柳宗元の言葉を
今は、本だけでなく、インターネットの記事や動画など、読みきれないほどの情報があふれています。まさに「汗牛充棟」の時代です。柳宗元が心配したのは、たくさんの説がぶつかり合うなかで、大もとの考えが見えなくなることでした。勉強でも、参考書や勉強法の情報を集めすぎて、かえって何をすればよいか分からなくなることがあります。そんなときは、教科書という「大もと」にもどり、一冊をくり返し使う韋編三絶の読み方を思い出してみましょう。
「汗牛充棟」のよくあるまちがい
- 「汗」を「汁」と書く:「汗」は、さんずいに「干」。「汗」の読み方・書き順・部首で形を確かめましょう。
- 「棟」を「凍」「陳」と書く:屋根のいちばん高い所の木(棟木)なので「きへん」。「棟」の読み方・書き順・部首、「充」の読み方・書き順・部首も確かめておきましょう。
- 「かんうしじゅうとう」「あせうしみつむね」と読む:正しくは「かんぎゅうじゅうとう」。すべて音読みです。
- 汗をかくほど働く・努力する意味だと思う:「汗」が入っていますが、本がとても多いことのたとえです。努力の意味なら蛍雪の功などを使います。
- 出典を「荘子」「史記」などと答える:出典は唐の柳宗元「陸文通先生墓表」です。似た言葉の「五車の書」が『荘子』です。
うかるくん
汗をかくって聞くと、どうしても「がんばる」の意味だと思っちゃいます…。
ミスターT先生
それなら「汗をかくのは人じゃなくて牛」と覚えよう。本を運ぶ牛が汗をかくほど、本が多い。がんばっている人の話ではなく、本の量の話なんだ。
入試ではこう出る
「汗牛充棟」は、漢文の本文として出ることは少なく、四字熟語・語彙の問題や現代文の文章の中で出てくる言葉です。
- 大学受験(語彙・現代文):「汗牛充棟」の意味を選ぶ問題、空欄に入る四字熟語を選ぶ問題。「汗=努力」と取りちがえた選択肢がよく混ざります。評論文では「汗牛充棟の研究書」のように、資料が多いことを言う場面で使われます。
- 大学受験(漢文・文学史):柳宗元は唐宋八大家の一人として文学史でも問われます。文学史のまとめは漢文の文学史(諸子百家・史記・唐詩)へ。
- 漢字の書き取り:「かんぎゅうじゅうとう」を漢字で書く問題。「汗」「棟」の形に注意しましょう。共通テストの漢文の出方は共通テストの漢文(配点・時間配分)へ。

サクラちゃん
「汗牛充棟」は本の量、「韋編三絶」は読む回数。セットで覚えたら、まちがえませんね!
練習問題
やさしい
- 「汗牛充棟」の意味として正しいものを選びましょう。
ア 汗をかくほど努力すること イ 蔵書がとても多いこと ウ 牛を大切に育てること エ 家を大きく建てること答えと解説を見る
イ。本を運べば牛が汗をかき、積めば棟木まで届くほど多い、というたとえです。 - 「かんぎゅうじゅうとう」を漢字で書きましょう。
答えと解説を見る
汗牛充棟。「汗」は「汁」、「棟」は「凍」とまちがえないようにしましょう。
ふつう
- 「処則充棟宇、出則汗牛馬」を書き下し文に直しましょう。
答えと解説を見る
処れば則ち棟宇に充ち、出だせば則ち牛馬に汗せしむ。(読み方の一例) - 「汗牛充棟」の出典を答えましょう。作者名と作品名を書きます。
答えと解説を見る
柳宗元「陸文通先生墓表」(唐の時代)。
むずかしい
- 柳宗元のもとの文では、「棟宇に充ち、牛馬に汗せしむ」はどのような気持ちで書かれていましたか。今の使い方とのちがいも説明しましょう。
答えと解説を見る
もとの文では、『春秋』の注釈を書く学者が多すぎて言い争い、本が増えすぎてかえって孔子の本当の考えが分からなくなったことを批判する気持ちで書かれていました。今は「蔵書がとても多い」ことを、ほめる意味やありのままの意味で使うことが多いです。 - 「汗牛充棟」と「韋編三絶」のちがいを説明しましょう。
答えと解説を見る
「汗牛充棟」は本の量がとても多いことを言う言葉で、「韋編三絶」は同じ本を何度もくり返し読むこと(読みこみの深さ)を言う言葉です。
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よくある質問
汗牛充棟の意味を簡単に言うと何ですか?
蔵書(持っている本)がとても多いことのたとえです。本を運べば牛が汗をかき、積めば家の棟木まで届くほど多い、という意味です。
汗牛充棟の出典は何ですか?
唐の柳宗元が書いた「陸文通先生墓表」です。原文は「処れば則ち棟宇に充ち、出だせば則ち牛馬に汗せしむ」で、四字熟語とは順番が逆になっています。
汗牛充棟はもともとどんな意味でしたか?
柳宗元のもとの文では、孔子の『春秋』の注釈を書く学者が多すぎて言い争い、本が増えすぎてかえって孔子の考えが分からなくなったことを批判する文脈で使われていました。今は蔵書が多いことを言う意味で使います。
汗牛充棟は人に使えますか?
人そのものには使いません。「彼の書斎は汗牛充棟だ」「汗牛充棟の蔵書」のように、本や資料が多いことについて使います。物知りな人をほめるときは「博識」などを使います。
汗牛充棟と韋編三絶のちがいは何ですか?
汗牛充棟は本の量がとても多いこと、韋編三絶は同じ本を何度もくり返し読むことを言います。量の言葉と、読み方の言葉のちがいです。
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出典・参考
- 原文:柳宗元「唐故給事中皇太子侍読陸文通先生墓表」(維基文庫の本文〈全唐文 巻588 による〉で確認。字は日本の教科書でよく使う形に改め、一部を省略した)
- 書き下し文・現代語訳:合格大作戦(読み方の一例)
- 「五車の書」:『荘子』天下篇による
- お話の絵・図:合格大作戦
最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦



