覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)の意味と由来|太公望の話・原文・書き下し文とイラスト【故事成語】

覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)の意味と由来|太公望の話・原文・書き下し文とイラスト【故事成語】

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覆水盆に返らずふくすいぼんにかえらず

ひとことで言うと

一度してしまったことは、取り返しがつかないこと。こぼした水を「器に収めてみよ」と言って、もどりたいと言う元の妻をことわった太公望の話から。

読み方ふくすいぼんにかえらず
意味一度してしまったことは、取り返しがつかないということ。もとは、一度別れた夫婦はもとにもどらないということ。
出典諸説あり。太公望と妻の話は宋の『野客叢書』巻二十八など(『拾遺記』とする辞書も)。朱買臣の話とする説も。「覆水不可収」の句は『後漢書』何進伝
お話貧しさに去った妻が、出世した太公望のもとにもどろうとすると、太公望は水を地にこぼして「収めてみよ」と言った
似た言葉後悔先に立たず・破鏡再び照らさず・落花枝に返らず・綸言汗のごとし
反対の言葉元のさやに収まる・焼けぼっくいに火がつく
漢文の句法使役(令)・仮定(若)・否定(不・不可)

このページのポイント

  • 「覆水盆に返らず」は取り返しがつかないこと。もとは「別れた夫婦はもとにもどらない」という意味です
  • 太公望(呂尚)が水を地にこぼして元の妻をことわった話を、4こまのイラストで読めます
  • 出典は『野客叢書』・『拾遺記』・朱買臣の話など諸説あり。原文で確かめられた所と、確かめられない所を分けて説明します

「覆水盆に返らず」の意味と読み方

「覆水盆に返らず」はふくすいぼんにかえらずと読みます。意味は「一度してしまったことは、取り返しがつかない」ということです。もとは「一度別れた夫婦は、もとにはもどれない」という意味で使われた言葉で、今もその意味でも使います。

「覆水(ふくすい)」はひっくり返してこぼした水、「盆(ぼん)」は水を入れる浅い器のことです。地面にこぼれた水を、もとの器にもどすことはできません。この「どうしてももどせない」ようすを、取り返しのつかないことのたとえにしています。

「覆水盆に返らず」を分けると覆水ひっくり返してこぼした水盆水を入れる浅い器(はち)返らずもとにもどらないこぼした水は、もとの器にもどらない=一度してしまったことは取り返しがつかない
「覆水」=こぼした水、「盆」=器、「返らず」=もどらない。合わせて「取り返しがつかない」
うかるくん

うかるくん

「盆」って、夏の「お盆」のことですか? お盆に水を返す…?

ミスターT先生

ミスターT先生

よくある勘ちがいだね。ここの「盆」は行事ではなくて、水を入れる器のことなんだ。中国の言葉では「盆」は、はちやたらいのような器を指す。日本でも、お茶を運ぶ「お盆」は器の仲間だね。こぼれた水は、器にはもどらない――その絵を思いうかべると、意味がすぐに分かるよ。

ふだんの言い方では、たとえば次のように使います。

  • ○口が軽くて秘密をもらしてしまった。覆水盆に返らずで、もう取り消せない。
  • ○一度こわれた信用は、覆水盆に返らずだ。だからこそ、約束は大事にしよう。
  • ○けんか別れした二人は、覆水盆に返らずで、もとの仲にはもどらなかった。
白地に青で人物と木が描かれた焼き物の表面。木の下に立つ人物と、そのまわりの人々、右には武器を持った兵士たちが描かれている
周の文王と太公望(呂尚)を描いた、中国・明の時代の筆立て(染付)の絵の部分。文王が、のちに太公望と呼ばれる呂尚をたずねる場面とされます。画像:「Brush Pot with King Wen and the Scholar Jiang Taigong」(中国・明 崇禎年間 1628〜44年、メトロポリタン美術館蔵、パブリックドメイン)

絵で読む「覆水盆に返らず」のお話

この言葉の由来としていちばんよく知られているのは、太公望(たいこうぼう)こと呂尚(りょしょう)と、その妻の話です。古い本によって細かいところが違うので、ここでは、宋の時代の本『野客叢書(やかくそうしょ)』にのっている形をもとに、4つの場面で見てみましょう。

絵で読む「覆水盆に返らず」のお話(4こま)

1妻が出て行くこんな貧しい暮らしはもういやです!呂尚(のちの太公望)
1まだ貧しかった呂尚(のちの太公望)は、本を読んでばかり。妻は貧しい暮らしにたえられず、家を出て行ってしまいます。
2出世して斉の殿様に斉太公望さま!太公望(呂尚)
2やがて呂尚は周の文王に見いだされ、殷をたおす手柄を立てて、斉の国の殿様になりました。
3元の妻がもどってくるもう一度、妻にしてください元の妻
3すると、出て行った元の妻がもどってきて、「もう一度、妻にしてください」とたのみます。
4こぼれた水は戻らないこの水をもとにもどせるか?覆水定めて収め難し
4太公望は水を地面にこぼし、「これを収めてみよ」と言いました。すくえるのは泥ばかり。こぼれた水は、もとにはもどらないのです。

出て行った妻は、夫が出世したと聞いてもどってきました。しかし太公望は、こぼした水を「収めてみよ」と言うことで、「一度別れたものは、もとにはもどらない」と答えたのです。言葉でことわるより、目の前で水をこぼして見せたほうが、ずっと分かりやすいですね。

人差し指を立てて説明するミスターT先生

ミスターT先生

ポイントは、太公望が「もどれない理由」を説明せずに、水で見せたところだ。地面にしみこんだ水は、どんなにがんばってもすくえない。だからこの言葉は、「どんなに後悔しても、やり直せないことがある」というたとえになったんだね。

なお、太公望の妻の名前は、『野客叢書』では「馬氏(ばし)」と書かれています。ただし、ほかの本では妻の名前が出てこなかったり、話の細かいところが違ったりします。お話の中身は、本によって違う「諸説あり」の話だと覚えておきましょう。

「覆水盆に返らず」の原文・書き下し文・現代語訳

ここでは、宋の王楙(おうぼう)が書いた『野客叢書』巻二十八の「心堅石穿覆水難収」という項目の文を読みます(維基文庫=中国語のウィキソースの本文で確かめました。書き下し文は合格大作戦による読み方の一例です)。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方でくわしく説明しています。

白文(『野客叢書』巻二十八より。句読点を補ったもの)又言「覆水難収」、案姜太公妻馬氏、不堪其貧而去。及太公既貴、再来。太公取一壺水傾於地、令妻収之、乃語之曰、「若言離更合、覆水定難収。」

1文目:妻が去る

書き下し文姜きやう太たい公こうの妻つま馬ば氏し、其その貧ひんに堪たへずして去さる。

(『野客叢書』巻二十八(宋・王楙))

現代語訳姜太公(太公望)の妻の馬氏は、その貧しさにたえられずに去った。

ここがポイント「不(ず)」は打ち消しの字で、否定の句法の基本です。「不レ堪二其貧一」は、レ点と一二点が組み合わさった形で、「其の貧に→堪へ→ず」の順に読みます。「而」は読まない置き字で、ここでは「〜して」の働きをしています。太公望の姓は「姜(きょう)」なので「姜太公」とも呼ばれます。

2文目:出世すると、もどってきた

書き下し文太たい公こう既すでに貴たふときに及およびて、再ふたたび来きたる。

(『野客叢書』巻二十八(宋・王楙))

現代語訳太公が出世して身分が高くなると、(元の妻は)再びもどってきた。

ここがポイント「及(およ)ぶ」は「〜の時になる」。上下点をはさんで、「太公既に貴きに」を読んでから「及びて」へ返ります。「貴し(たふとし)」は、ここでは「身分が高い」という意味です。

3文目:水をこぼして「収めよ」

書き下し文太たい公こう一いつ壺この水みづを取とりて地に傾かたむけ、妻つまをして之これを収をさめしむ。

(『野客叢書』巻二十八(宋・王楙))

現代語訳太公は壺一つ分の水を取って地面にこぼし、妻にそれを(器に)収めさせた。

ここがポイント「令A〜(Aをして〜しむ)」は「Aに〜させる」という使役の句法。「令」は「使」と同じ働きで、書き下し文ではひらがなの「しむ」になります。「於」は読まない置き字で、「地に」の「に」の働き。読み方は「於」の読み方と働きへ。

4文目:決めぜりふ

書き下し文乃すなはち之これに語かたりて曰いはく、「若もし離はなれて更さらに合あふと言いはば、覆ふく水すい定さだめて収をさめ難かたし。」

(『野客叢書』巻二十八(宋・王楙))

現代語訳そこで妻に語って言うには、「もし、一度別れた者がまたいっしょになれると言うのなら(それは、こぼれた水を器にもどすようなものだ)。こぼれた水は、きっと収めることはできない。」

ここがポイント「若(も)し〜ば」は「もし〜なら」という仮定の句法。「難(かた)し」は「〜するのがむずかしい」で、レ点で「収め→難し」と返ります。「定(さだ)めて」は「きっと・必ず」。この「覆水定難収(覆水定めて収め難し)」が、言葉のもとになった一句です。
「覆水」の原文で覚える句法4つ令A〜Aをして〜しむAに〜させる使役難〜〜し難し(がたし)〜するのがむずかしい難しさ若〜若し(もし)〜ばもし〜なら仮定不可〜〜べからず〜できない否定+可能
「覆水」の原文と『後漢書』の一句に出てくる句法は4つ。使役・難しさ・仮定・不可能を1つの話で練習できます

『後漢書』の「覆水収むべからず」

「こぼれた水はもどらない」という言い方そのものは、もっと古い本にも出てきます。後漢の終わりの歴史を書いた『後漢書(ごかんじょ)』の何進(かしん)の伝(竇何列伝)では、何進の弟の何苗(かびょう)が兄をいさめる場面で、次のように言っています。

『後漢書』何進伝の一句

書き下し文覆ふく水すい収をさむべからず。

(『後漢書』竇何列伝(何進伝))

現代語訳こぼれた水は、もとに収めることはできない(一度してしまったことは、取り返しがつかない)。

ここがポイント「不可〜(〜べからず)」は「〜できない」。可能の句法(可・能・得)を「不」で打ち消した形です。レ点が2つ続くので、「収む→べから→ず」と下から順に返ります。ここでは太公望の話ではなく、ことばだけがたとえとして使われています。
サクラちゃん

サクラちゃん

原文には「盆」の字が出てこないんですね。「壺(つぼ)」になってる…。

ミスターT先生

ミスターT先生

よく気づいたね。『野客叢書』では「一壺の水」なんだ。中国では「覆水難収(覆水収め難し)」という形でよく言われる。日本で「盆」の字を使った「覆水盆に返らず」の形がいつ、どの本から広まったのかは、はっきりした資料が見つからなかったので、ここでは決めつけないでおくね。

出典と話の背景(太公望説・朱買臣説)

「覆水盆に返らず」は、出典がはっきり1つに決まらない故事成語です。国語辞典や故事成語の本によって、のっている書名や人物が違います。分かっていることを、図にまとめました。

出典は1つではない(諸説あり)太公望いちばん有名呂尚と、出て行った妻『野客叢書』(宋)に水をこぼす話『拾遺記』とする辞書もあるが、今の本文では確かめられなかった朱買臣別の説前漢の役人と、出て行った妻『漢書』朱買臣伝:妻が去る話はあるが、水をこぼす場面はない。水の場面は後の芝居などでつけられたとされる何進伝ことばだけ『後漢書』何進伝「覆水収むべからず」と、ことばだけ出てくる(人の話のたとえではない)※どれが最初かは、はっきりしていません
太公望の話・朱買臣の話・ことばだけの例。どれが最初かは、はっきりしていません

太公望(呂尚)の話とする説

いちばん有名なのが太公望の話です。太公望は、紀元前11世紀ごろ、周(しゅう)の文王・武王に仕えた軍師として知られる人物で、本名は呂尚、姓は姜(きょう)、字(あざな)は子牙(しが)とされます。

太公望(呂尚)の一生と、この話1貧しいころ本を読み、釣りをして暮らす2妻が去る貧しさにたえられず出て行く3文王と出会う渭水のほとりで見いだされる4殷をたおす武王を助けて周の天下に5斉の殿様に斉の国をあたえられる6元の妻がもどる水をこぼして断る(野客叢書)
太公望(呂尚)の一生の流れ。妻とのやりとりは、出世したあとの話です

『史記』斉太公世家によると、呂尚は年をとるまで世に出ず、渭水(いすい)のほとりで釣りをしていたところを文王に見いだされたといいます。文王が「わが太公(先代の君)が望んでいた人物だ」と喜んだことから「太公望」と呼ばれるようになった、と伝えられています。ただし『史記』自身が、呂尚と文王の出会い方についていくつかの言い伝えを並べてのせているので、ここも細かいところは諸説ありです。日本で、釣りの好きな人を「太公望」と呼ぶのは、この釣りの話から来ています。

呂尚はその後、武王を助けて殷(いん)の紂王(ちゅうおう)をたおし、手柄によって斉(せい)の国をあたえられました。斉はのちに戦国七雄の一つになる大国です。

妻とのやりとりについては、宋の時代の『野客叢書』が、上で読んだ形で伝えています。辞書によっては出典を、晋の時代の王嘉(おうか)がまとめた『拾遺記(しゅういき)』とするものもあります。けれども、維基文庫で読める今の『拾遺記』の本文では、この話を見つけることができませんでした(一部の巻は読めませんでした)。本が伝わるうちに失われた部分にあった、別の本に引用されて伝わった、などの可能性もあり、はっきりしたことは分かりません。

朱買臣(しゅばいしん)の話とする説

もう一つ、前漢の朱買臣という人と、その妻の話だとする説もあります。『漢書(かんじょ)』朱買臣伝によると、朱買臣は貧しく、薪(たきぎ)を売りながら本を読んでいました。妻はそれをはずかしく思って去ってしまいます。のちに朱買臣は出世して故郷の会稽(かいけい)の長官になり、道の手入れをしていた元の妻とその夫を見つけて屋敷に引き取りますが、1か月ほどして元の妻は亡くなった、という悲しい結末で書かれています。

この『漢書』の話には、水をこぼす場面は出てきません(維基文庫の本文で確かめました)。のちの時代の物語や芝居では、朱買臣が馬の前で水をこぼして見せる場面がつけられ、京劇の「馬前潑水(ばぜんはっすい)」などとして演じられるようになったとされます。「出世する前に去った妻が、出世したあとにもどろうとする」という筋が太公望の話とよく似ているため、二つの話が混ざって伝わったと考える人もいます。

サクラちゃん

サクラちゃん

入試では「太公望の話」として出ることが多いけれど、出典は1つに決まっていないんですね。答えに書くときは、問題文にのっている話にしたがえばいいんだ!

ミスターT先生

ミスターT先生

そのとおり。問題文に「朱買臣」と書いてあれば朱買臣の話として読めばいい。どちらの話でも「出世する前に去った妻が、もどれなかった」という筋は同じだから、意味をまちがえることはないよ。

このように、「覆水盆に返らず」は、一つの本から生まれたというより、似た話とことばが重なりあって広まった故事成語だと言えます。読み比べると、昔の人が「取り返しのつかないこと」をどれほど印象深く感じていたかが分かりますね。

「覆水盆に返らず」の使い方と例文・似た言葉

「覆水盆に返らず」は、すでに起きてしまって、もうやり直せないことについて使います。「〜は覆水盆に返らずだ」「覆水盆に返らずで、〜」のように、文の中にそのまま入れて使うのがふつうです。

  • ○一度送ったメールは覆水盆に返らず。送る前に、宛先をよく確かめよう。(取り消せない行動)
  • ○試験の答案を出してしまった以上、覆水盆に返らずだ。次の科目に気持ちを切りかえよう。(すんだことは変えられない)
  • ○言ってしまった悪口は覆水盆に返らずで、あやまっても、なかったことにはならない。(言葉は取り消せない)
  • ○一度別れた夫婦が、覆水盆に返らずのとおり、もとにはもどらなかった。(もとの意味に近い使い方)
  • ×消しゴムで消せばいいから、まちがえても覆水盆に返らずだ。(やり直せることには使わない)
  • ×水をこぼしたので、ぞうきんでふいた。覆水盆に返らずだ。(本当に水をこぼした話ではなく、たとえとして使う)
覆水盆に返らず似た言葉後悔先に立たず破鏡再び照らさず落花枝に返らず綸言汗のごとし英語:It is no use crying over spilt milk.反対の意味の言葉元のさやに収まるやり直しがきく焼けぼっくいに火がつく
似た言葉・反対の意味の言葉。英語にも「こぼれた牛乳」を使った、よく似たことわざがあります

似た言葉

  • 後悔先に立たず:すんでしまったことは、あとで悔やんでもどうにもならない。日本のことわざです。
  • 破鏡再び照らさず(はきょうふたたびてらさず):割れた鏡はもとのように物を映さない。別れた夫婦はもとにもどらないという意味で、「覆水盆に返らず」のもとの意味にいちばん近い言葉です。
  • 落花枝に返らず(らっかえだにかえらず):散った花は枝にもどらない。「覆水盆に返らず」と並べて言われることもあります。
  • 綸言汗のごとし(りんげんあせのごとし):天子の言葉は、出た汗が体にもどらないように、一度口にしたら取り消せない。
  • It is no use crying over spilt milk.:英語のことわざで、「こぼれた牛乳を嘆いてもむだだ」。こぼれた液体を使うところまでそっくりです。

反対の意味の言葉

  • 元のさやに収まる:けんかや仲たがいをした二人が、もとの仲にもどること。「別れた二人はもどらない」の反対です。
  • 焼けぼっくいに火がつく:一度切れた関係が、またもとにもどること。
  • やり直しがきく:まちがえても、もう一度できること。

同じく「後悔」や「失敗」に関係する故事成語には、余計なことをして失敗する「蛇足(だそく)」や、幸と不幸は予想できないという「塞翁が馬(さいおうがうま)」もあります。「覆水盆に返らず」は過ぎたことはもどらない、塞翁が馬はこれから先は分からないと、時間の向きが反対なのもおもしろいところです。

「覆水盆に返らず」のよくあるまちがい

「覆水」の「覆」を書きまちがえない覆にしかんむりひっくり返す○ 覆水復ぎょうにんべんもとにもどる× 復水複ころもへんかさなる× 複水「ふく」と読む字は多いので、意味で選びます
「ふく」と読む字は多いけれど、「ひっくり返す」意味の「覆」を使います
  • 「覆」を「復」「複」と書く:「復」は復習の「ふく」で「もとにもどる」、「複」は複数の「ふく」で「かさなる」。こぼす・ひっくり返す意味の「覆」は、部首が「にしかんむり(襾)」の字です。字の形は「覆」の読み方・書き順・部首、「盆」の読み方・書き順・部首で確かめましょう。
  • 「覆水盆に戻らず」と言う:ことわざとしては「返らず」の形が一般的です。テストで書くときは「返らず」と書きましょう。
  • 「盆」を夏の「お盆」だと思う:ここの「盆」は器のこと。行事のお盆とは関係ありません。
  • 「やり直せばいい」という意味で使う:反対です。「覆水盆に返らず」はやり直せないことを言う言葉です。
  • 読み方を「ふくみず」「くつがえすみず」とする:正しくは「ふくすいぼんにかえらず」。「覆」の訓読みは「おおう」「くつがえす」ですが、ここでは音読みです。
うかるくん

うかるくん

「後悔先に立たず」と「覆水盆に返らず」って、どう使い分けたらいいんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

どちらも「すんだことはどうにもならない」だけど、後悔先に立たずは「後悔する気持ち」に目を向けた言葉、覆水盆に返らずは「もとにもどらない事実」に目を向けた言葉なんだ。それに覆水盆に返らずには、「別れた人とはもどれない」という、もとの話から来た意味もある。そこが大きなちがいだね。

入試ではこう出る

「覆水盆に返らず」は、中学受験・高校受験の故事成語の問題でよく見かける言葉です。

  • 中学受験:意味を選ぶ問題、「□水盆に返らず」の□に漢字を入れる問題、似た意味のことわざ(後悔先に立たず など)を選ぶ問題。「ふくすい」を漢字で書く問題では「覆」の字がねらわれます。
  • 高校受験:故事成語と由来の話を結びつける問題。「太公望」と「覆水盆に返らず」をつなぐ問題のほか、「令妻収之」のような使役の返り点・書き下しが出ることもあります。漢文の基本は高校受験の漢文(返り点・書き下し文の対策)にまとめています。
  • 大学受験:漢文で「覆水難収」「破鏡」などがたとえとして出てくることがあります。「難〜」「不可〜」の訳し方や、使役の「令」を正しく読めるようにしておきましょう。
親指を立てるミスターT先生

ミスターT先生

お話を覚えるときは、「貧しい→妻が去る→出世→妻がもどる→水をこぼす」の5つの流れで覚えよう。最後の水の場面さえ覚えていれば、意味はまちがえないぞ。

練習問題

やさしい

  1. 「覆水盆に返らず」の意味として正しいものを選びましょう。
    ア 水はむだにしてはいけない イ 一度してしまったことは取り返しがつかない ウ 失敗してもやり直せばよい エ お盆には家に帰るべきだ
    答えと解説を見るイ。こぼした水が器にもどらないように、すんだことはもとにもどらない、という意味です。ウは反対の意味です。
  2. 「ふくすいぼんにかえらず」を漢字とひらがなで書きましょう。
    答えと解説を見る覆水盆に返らず。「覆」は「ひっくり返す」意味の字で、「復」「複」ではありません。

ふつう

  1. この言葉の由来として最もよく知られている話に出てくる人物はだれですか。また、その人の名前から生まれた、「釣りの好きな人」を指す言葉は何ですか。
    答えと解説を見る太公望(呂尚)。釣りの好きな人を「太公望」と呼ぶのは、呂尚が釣りをしていて周の文王に見いだされた話から来ています。
  2. 「令妻収之」を書き下し文に直し、現代語訳しましょう。
    答えと解説を見る書き下し文:妻をして之を収めしむ。現代語訳:妻にそれ(こぼした水)を収めさせた。「令A〜」は「Aをして〜しむ」と読む使役の句法です。

むずかしい

  1. 「覆水定難収」の「難」はどのような意味ですか。書き下し文と合わせて答えましょう。
    答えと解説を見る書き下し文は「覆水定めて収め難し」。「難し(かたし)」は「〜するのがむずかしい・〜できない」という意味で、「こぼれた水は、きっと収めることはできない」となります。
  2. 「覆水盆に返らず」の出典について、「太公望の話」とされることが多いものの、注意が必要なのはなぜですか。
    答えと解説を見る太公望と妻の話は宋の『野客叢書』などに見えるが、出典を『拾遺記』とする説や、前漢の朱買臣の話とする説もあり、本によって書名や人物が違うから。『後漢書』には「覆水不可収」ということばだけも出てきます。

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よくある質問

覆水盆に返らずの意味を簡単に言うと何ですか?

一度してしまったことは取り返しがつかない、という意味です。こぼした水がもとの器にもどらないことにたとえています。もとは、一度別れた夫婦はもとにもどらないという意味でも使われました。

覆水盆に返らずの由来はどんな話ですか?

よく知られているのは太公望(呂尚)の話です。貧しさにたえられず去った妻が、太公望が出世したあとにもどりたいと言うと、太公望は水を地面にこぼして「これを収めてみよ」と言い、もとにはもどれないことを示しました。

覆水盆に返らずの出典は何ですか?

諸説あります。太公望と妻の話は宋の『野客叢書』巻二十八などに見え、出典を『拾遺記』とする辞書もあります。前漢の朱買臣の話とする説もあり、「覆水不可収(覆水収むべからず)」という句は『後漢書』何進伝に出てきます。

覆水盆に返らずの「盆」とは何ですか?

水を入れる浅い器(はち・たらい)のことです。夏の行事のお盆とは関係ありません。

覆水盆に返らずに似た言葉は何ですか?

後悔先に立たず、破鏡再び照らさず、落花枝に返らず、綸言汗のごとしなどです。英語では It is no use crying over spilt milk. がよく似ています。

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出典・参考

  • 原文:宋・王楙『野客叢書』巻二十八「心堅石穿覆水難収」、『後漢書』竇何列伝(何進伝)、『漢書』朱買臣伝、『史記』斉太公世家(いずれも維基文庫の本文で確認)。『拾遺記』は維基文庫の本文で該当の話を確認できず
  • 書き下し文・現代語訳:合格大作戦(読み方の一例)
  • 写真:メトロポリタン美術館(Open Access、パブリックドメイン)
  • お話の絵・図:合格大作戦

最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦