
この記事の結論
- 「一事を必ずなさんと思はば」は、兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)の随筆『徒然草(つれづれぐさ)』第188段の一節。「一つのことを必ず成しとげたいなら、ほかのことはすべて捨てる覚悟を持て」という意味です
- 段の前半は、説経師になるはずが乗馬や歌の練習に夢中になり、肝心の説経を習わないまま年を取った男の話
- 受験生なら、人に笑われても受験勉強を最優先にする覚悟を持とう、というメッセージ
📘 くわしい文法は「古文文法辞典」で
中学受験から難関大まで、「はじめて・しっかり・もっと深く」の3段で、図と練習問題つきで解説しています。

「一事を必ずなさんと思はば」の原文と現代語訳
| 原文 | 現代語訳 |
|---|---|
| 一事を必ずなさんと思はば、 | 一つのことを必ず成しとげようと思うなら、 |
| 他の事の破るるをもいたむべからず、 | ほかのことがだめになっても嘆いてはいけない。 |
| 人の嘲りをも恥づべからず。 | 人にばかにされても恥じてはいけない。 |
| 万事にかへずしては、一の大事成るべからず。 | すべてのことと引きかえにしなければ、一つの大事は成しとげられない。 |
読み方は「いちじを かならず なさんと おもわば、ほかのことの やぶるるをも いたむべからず、ひとの あざけりをも はずべからず。ばんじに かえずしては、いちの だいじ なるべからず」です。「思はば」「恥づ」「かへ」は歴史的仮名遣いなので、「おもわば」「はず」「かえ」と読みます(くわしくは「いずれ」と「いづれ」の記事の早見表へ。ルールの全体は古文文法辞典の歴史的仮名遣いのルール一覧にまとめています)。
「一事を必ずなさんと思はば」の意味をわかりやすく
ひとことで言えば、「本当に大事な一つを手に入れたいなら、ほかの全部を手放す覚悟がいる」という意味です。ここでの「一事(いちじ)」は「たった一つのこと」、「万事(ばんじ)」は「すべてのこと」、「一の大事(いちのだいじ)」は「いちばん大事な一つのこと」です。一と万を向かい合わせにした書き方なので、覚えるときは「一を取るなら万を捨てる」とセットにすると忘れにくくなります。
この一節は、3つの「〜べからず」でできています。
- ほかの事がだめになっても、嘆くな(他の事の破るるをもいたむべからず)
- 人に笑われても、恥じるな(人の嘲りをも恥づべからず)
- 全部と引きかえにしなければ、大事は成らない(万事にかへずしては、一の大事成るべからず)
1と2は「こうしなさい」という心がまえ、3はその理由です。つまり「嘆くな・恥じるな、なぜなら全部と引きかえでないと成功しないから」という順に話が進んでいます。現代の言葉でいえば「選択と集中」「二兎を追う者は一兎をも得ず」に近い考え方です。
徒然草第188段はどんな話?(あらすじ)
ある人が、子どもを法師にして「学問をして、説経(仏の教えを人々に説くこと)で身を立てなさい」と言いました。子は説経師になるために、まず馬に乗る練習をし(法事に招かれたとき、迎えの馬から落ちては困るから)、次に早歌(そうか)という流行歌を習いました(法事のあとの酒の席で芸がなくては困るから)。この2つが上手になるにつれてますます熱中し、肝心の説経を習うひまがないまま、年を取ってしまった――という話です。
兼好は、「この法師だけでなく、世の中の人はみなこうだ」と言い、だからこそ一番大事なことを決めたら、ほかのことは捨てる覚悟を持てと説いています。その結論にあたるのが、この一節です。
第188段ぜんたいの流れ(図解)
教科書では前半の法師の話と結論だけが取り上げられることが多いのですが、第188段はもっと長く、いくつものたとえ話が重なっています。全体の流れは次のとおりです。
③の主張の部分には、「一生のうち、むねとあらまほしからんことの中に、いづれかまさるとよく思ひくらべて」(一生のうちで、ぜひやりたいことの中で、どれがいちばん大事かをよく比べて)という言葉が出てきます。ここにも歴史的仮名遣いの「いづれ(どれ)」が使われています。
④では、碁を打つ人が小さな石を捨てて大きな利益を取ること、京都に住む人が東山に用事で来ても、西山に行くほうが大事だと気づいたら、門の前からでも引き返して西山へ行くべきだ、というたとえが出てきます。せっかくここまで来たのだから、という気持ちを捨てるのがむずかしいのは、今も昔も同じです。
京都の町から見て、東山は東側(銀閣寺や清水寺のある山なみ)、西山は西側(嵐山などのある山なみ)にあたります。町をはさんで反対の方角なので、東山の門の前から西山へ行き直すのは、かなりの遠回りです。それでも兼好は「得が大きいと気づいたなら引き返せ」と言います。碁のたとえも同じで、兼好は「三つの石を捨てて十の石を取るのはやさしいが、十を捨てて十一を取るのはむずかしい」という意味のことを書いています。少しでも大きい方を選ぶべきなのに、手元のものが多くなるほど惜しくなって捨てられない――人の心のくせを、碁と道のりの2つでたとえているのです。
⑥の登蓮法師(とうれんほうし)の話では、「ますほの薄(すすき)」という言葉の意味を知る人がいると聞いた登蓮が、雨が降っているのに蓑と笠を借りて、すぐに出かけていきます。「人の命は雨の晴れ間をも待つものかは(人の命は、雨がやむのを待ってくれるだろうか)」という言葉で、学ぶ機会をのがすなという教えがしめくくられています。「ものかは」は「〜だろうか、いや〜ない」という反語の言い方で、「命は待ってくれない」と強く言い切っているのです。
第188段の名言(原文の要所と現代語訳)
第188段には、「一事を必ず…」のほかにも受験生の心にささる言葉がいくつもあります。要所だけを短く抜き出しました(表記は校注本によって少しちがうことがあります)。
| 原文(要所) | 現代語訳 |
|---|---|
| 説経習ふべき隙なくて、年寄りにけり。 | 説経を習うひまもないまま、年を取ってしまった。 |
| 第一の事を案じ定めて、その外は思ひ捨てて、一事を励むべし。 | いちばん大事なことをよく考えて決め、それ以外は思い切って捨て、その一つに励むべきだ。 |
| 一時の懈怠、すなはち一生の懈怠となる。これを恐るべし。 | ちょっとした怠け心が、そのまま一生の怠けになる。これをおそれなければならない。 |
| 人の命は雨の晴れ間をも待つものかは。 | 人の命は、雨がやむのを待ってくれるだろうか(いや、待ってはくれない)。 |
なかでも「一時の懈怠(いちじのけたい)、すなはち一生の懈怠となる」は、「今日だけ休もう」が積み重なると一生の後悔になる、という意味で、受験の格言としてもよく引かれます。「懈怠」は「なまけること」で、仏教の言葉から来ています。

サクラちゃん
「一事を必ず…」が何を選ぶかの話で、「一時の懈怠…」はいつやるかの話なんだ!「大事なことを決めて、今すぐやる」でセットになってるんですね。
うかるくん
「ほかのことは全部捨てろ」って……部活も友だちも、全部やめなきゃダメってことですか?
合格先生
そうじゃないよ。兼好が言いたいのは「いちばん大事なことを先に決めよ」ということ。法師の子は乗馬や歌が悪かったんじゃない。説経より先にそっちに時間を使い切ったのが失敗なんだ。
サクラちゃん
じゃあ受験生なら、まず勉強の時間を確保して、残りの時間で好きなことをする……ってことですね。
合格先生
その通り。そして「ガリ勉だ」と笑われても気にしない。それが「人の嘲りをも恥づべからず」だよ。
古文の文法ポイント(べからずの訳し分け)
| 語句 | ポイント |
|---|---|
| なさん(なさむ)と思はば | 「む」は意志「〜しよう」。「思はば」は未然形+ば で仮定「もし思うなら」 |
| 破るる | 下二段動詞「破る」の連体形。「だめになる・こわれる」 |
| いたむべからず | 「べからず」は禁止「〜してはならない」 |
| かへずしては | 「かふ(替ふ)」+打消「ず」+「して」+「は」。「引きかえにしないでは」 |
| 成るべからず | ここの「べからず」は不可能「〜できない」 |
「なさん」の「ん」は助動詞「む」が「ん」と書かれたもので、ここでは自分の意志「〜しよう」を表します(助動詞「む(ん)」)。「思はば」は四段動詞「思ふ」の未然形+ばで、「もし思うなら」という仮定の意味になります。已然形+ば(思へば=思うので・思うと)とのちがいは接続助詞「ば」のページでくわしく練習できます。「かへずして」の「ず」は打消の助動詞で、「替えないで」という意味です(助動詞「ず」)。
同じ「べからず」でも、前半は禁止、最後は不可能の意味です。文脈で訳し分けるのは、古文の入試でよく問われるポイントです。「べし」は意味が多い助動詞で、「推量・意志・可能・当然・命令・適当」の6つ(頭文字で「スイカ止めて」などと覚える)を区別できるようにしておきましょう。6つの意味の見分け方と練習問題は、古文文法辞典の助動詞「べし」にまとめています。

合格先生
主語が「人(読者)」で「〜してはいけない」と言い聞かせているのが禁止、「大事が成る」かどうかを述べているのが不可能。主語と文の役わりを見て訳し分けよう!
入試で問われるポイントと例題
徒然草は、高校受験から大学入試まで、教科書でも問題集でもよく使われる作品です。第188段で問われやすいのは、一般的には次のような点です。
- 文法:「べからず」の意味の訳し分け、「なさん」の「ん」(意志)、「思はば」(未然形+ば=仮定)
- 現代語訳:「いたむ」(嘆く・残念に思う)、「嘲り」(ばかにすること)など、現代語と意味がずれる言葉
- 内容:法師の子が説経を習えなかった理由、筆者が言いたいこと(主張)を何字以内でまとめる問題
- 文学史:『徒然草』の作者・時代・ジャンル(随筆)、三大随筆の組み合わせ
高校入試の古文は、現代語訳や注が多めについていて、内容をつかむ力が中心です(高校受験の古文)。大学入試の共通テストでは、助動詞の意味と、それをふまえた解釈がセットで問われやすくなります(共通テストの古文文法)。国公立二次では、「筆者の考えを説明せよ」のような記述が多いので、たとえ話と主張を区別して書けるようにしておきましょう(国公立二次・難関私大の古文文法)。
【例題】(この記事で作った練習問題です)
- 「一事を必ずなさんと思はば」の「ん」の文法的な意味を答えなさい。
- 「人の嘲りをも恥づべからず」を現代語訳しなさい。
- 「一の大事成るべからず」の「べからず」の意味を、「禁止」「不可能」から選びなさい。
- 法師の子が説経を習えなかったのはなぜか。20字以内で説明しなさい。
- 『徒然草』と同じく「三大随筆」に数えられる作品を2つ、作者とともに答えなさい。
答えを見る
- 意志(助動詞「む」)
- 人にばかにされても恥じてはならない。
- 不可能
- (例)乗馬と早歌の練習に夢中になったから。
- 『枕草子』(清少納言)、『方丈記』(鴨長明)
受験生へのメッセージ
受験勉強を恥ずかしく思っているのか、「俺は勉強してないぜオーラ」を出している人がいます。一日10時間も勉強するなんて恥ずかしい、と思っている人もいます。⇒受験生の勉強時間アンケート
でも、受験生のやるべきことは受験勉強です。かっこつけなくてよいのです。がむしゃらに勉強する姿を、格好悪いと笑う人がいても、気にすることはありません。第188段の男のように、寄り道に夢中になって本番を迎えてしまうのがいちばんもったいない。それくらいの覚悟を持って受験勉強をしましょう。
勉強そのものの中にも「寄り道」はあります。きれいなノートづくりに何時間もかける、得意科目ばかり解いてしまう、参考書選びだけで一日が終わる――。どれも「説経の前の乗馬」になっていないか、ときどき立ち止まって考えてみてください。
第188段をそのまま受験に当てはめると、次の3つのステップになります。
- 第一の事を決める:「○○大学に合格する」のように、いちばんの目標をはっきり言葉にする(「第一の事を案じ定めて」)。
- やらないことを決める:目標に関係の少ないことを、いったん手放す(「その外は思ひ捨てて」)。
- 今日から始める:「あとで」「明日から」をやめる(「一時の懈怠、すなはち一生の懈怠となる」)。
サクラちゃん
模試の結果を見て、今の勉強のやり方を変えたほうがいいかも……と思ったんです。でも、ここまで続けてきた方法を捨てるのはもったいなくて。
合格先生
それこそ「東山と西山」の話だね。兼好は「せっかく門の前まで来たから」という気持ちに流されるな、と言っている。
うかるくん
じゃあ、思いついたらすぐ変えたほうがいいんですか?
合格先生
大事なのは「よく思ひくらべて」の部分だよ。気分で変えるのではなく、どちらが合格に近いかをよく比べる。そのうえで西山の方が得だとわかったら、惜しまずに引き返す。比べてから決める、決めたら迷わない、だね。
たった一年です。合格してから好きなことをしましょう。
受験の格言・名言にのせている言葉です。⇒受験の格言・名言まとめ
徒然草とは?作者・成立・三大随筆
『徒然草(つれづれぐさ)』は、鎌倉時代の終わりごろに兼好法師が書いた随筆です。序段と243の段からなり、人の生き方、仏教の無常観、季節の美しさ、宮中のしきたり、おもしろい失敗談まで、話題はさまざまです。書かれた年ははっきりせず、1330年ごろとする説が有力ですが、諸説あります。
清少納言の『枕草子(まくらのそうし)』、鴨長明(かものちょうめい)の『方丈記(ほうじょうき)』とあわせて「日本三大随筆」と呼ばれます。文学史の問題では「作品名・作者・時代」の組み合わせがよく出ます。古典・古文という言葉のちがいは古典と古文の違いで整理しています。
徒然草の有名な段の早見表
なかでも第92段は、第188段と考え方がよく似ています。弓を習う人が2本の矢を持って的に向かうと、師匠が「初心の人、二つの矢を持つことなかれ」と言います。2本目があると思うと、1本目に気のゆるみが出るからです。「次があるさ」と思わず、今この一回に集中せよという教えは、模試や入試本番にもそのまま当てはまります。
第137段「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは」は、満開の桜やくもりのない満月だけでなく、散りかけの花や雲にかくれた月にも味わいがある、という美意識を語った段です。徒然草には季節を語る段が多く、旧暦の季節感を知っておくと読みやすくなります(古文文法辞典の旧暦・季節・時刻も参考に)。同じ随筆の『枕草子』については「春はあけぼの」の記事でくわしく読めます。旧暦の月の名前(睦月〜師走)や二十四節気の一覧もあわせてどうぞ。
兼好は歌人としても知られ、「和歌四天王」の一人に数えられます。平安時代の和歌の世界にふれるなら、百人一首 全百首の一覧がおすすめです。たとえば23番「月見れば」(大江千里)は、第137段と同じく「月を見て思う心」をうたった秋の歌です。
作者・兼好法師について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | 兼好法師(けんこうほうし)。俗名は卜部兼好(うらべ かねよし)。「吉田兼好」は後世の呼び名 |
| 生没年 | 1283年ごろ〜1352年以後(諸説あり) |
| 作品 | 『徒然草』(日本三大随筆の一つ。ほかは『枕草子』『方丈記』) |
兼好は、これまで京都の吉田神社の神職の家(吉田流の卜部氏)の出身とされ、そこから「吉田兼好」と呼ばれてきました。吉田神社は京都大学の正門のすぐ近くにあります。⇒吉田神社の節分祭と京大合格祈願
ただし近年、国文学者の小川剛生さんが『兼好法師』(中公新書、2017年)で、兼好を吉田家の一員とする系図は室町時代の吉田兼倶が作った(手を加えた)ものだとする説を出し、大きな話題になりました。出身には諸説あり、教科書や辞書の説明も、今後変わっていくかもしれません。「吉田兼好」という呼び方も後世のものなので、この記事では「兼好法師」を基本にしています。
古文の勉強をまとめて進めたい人は、国語のまとめページから、古文・漢字・百人一首の記事をたどってみてください。
よくある質問
「一事を必ずなさんと思はば」は何の一節ですか?
兼好法師(吉田兼好)が鎌倉時代の終わりごろに書いた随筆『徒然草』の第188段の一節です。
現代語訳は?
「一つのことを必ず成しとげようと思うなら、ほかのことがだめになっても嘆いてはいけない。人にばかにされても恥じてはいけない。すべてのことと引きかえにしなければ、一つの大事は成しとげられない」です。
第188段はどんな話ですか?
説経師になるはずの法師が、乗馬や早歌の練習に夢中になり、肝心の説経を習わないまま年を取ってしまった話です。後半には碁や登蓮法師のたとえも続きます。
「べからず」の意味は?
前半の「いたむべからず」「恥づべからず」は禁止(〜してはならない)、最後の「成るべからず」は不可能(〜できない)の意味です。
兼好法師は吉田神社の出身ですか?
長くそう言われてきましたが、2017年に小川剛生さんが、その根拠となる系図は後世に作られたものだとする説を出しています。
あわせて読みたい
- 古文文法辞典:助動詞「べし」
- 古文文法辞典:助動詞「む(ん)」
- 古文文法辞典:接続助詞「ば」
- 古文文法辞典:歴史的仮名遣いのルール一覧
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- 古文文法辞典:古文文法辞典(表紙)
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- 勇者となれ!受験生へのメッセージ
出典・参考
- 兼好法師『徒然草』序段・第52段・第92段・第109段・第137段・第188段
- コトバンク「兼好」「徒然草」(デジタル大辞泉・日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典)
- 小川剛生『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(中公新書、2017年)
最終更新:2026年10月21日/作成:大学受験合格大作戦












