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疑心暗鬼ぎしんあんき
ひとことで言うと
うたがう心があると、何でもないことまであやしく、こわく思えること。斧をなくした男が、となりの子を何もかも盗人のように見てしまった話から。
| 読み方 | ぎしんあんき |
|---|---|
| 意味 | うたがう心があると、何でもないことまでこわく思えたり、あやしく見えたりすること。「疑心暗鬼を生ず」の略。 |
| 出典 | もとの話は『列子』説符篇(同じ話が『呂氏春秋』去尤篇にも)。「疑心暗鬼を生ず」の形はのちのことわざ |
| お話 | 斧をなくした男がとなりの子をうたがうと、歩き方も顔色も話し方も盗人に見えたが、斧が見つかると少しもそう見えなくなった |
| 似た言葉 | 杯中の蛇影・風声鶴唳・杞憂 |
| 反対の言葉 | 虚心坦懐 |
| 漢文の句法 | 二重否定(無不)・否定(無)・置き字(而) |
このページのポイント
- 「疑心暗鬼」はうたがう心があると、何でもあやしく見えること。「疑心暗鬼を生ず」の略です
- もとの話は『列子』説符。斧をなくした男と、となりの子の話を4こまのイラストで読めます
- 原文の「窃まざるは無し」と「似たる無し」の対比で、二重否定と否定のちがいが練習できます
「疑心暗鬼」の意味と読み方
「疑心暗鬼」はぎしんあんきと読みます。意味は「うたがう心があると、何でもないことまでこわく思えたり、あやしく見えたりすること」です。「疑心暗鬼を生ず」(ぎしん、あんきをしょうず)を短くした言葉で、「うたがう心が、暗やみにいもしない鬼の姿を生み出す」という意味です。
今の日本語では、「疑心暗鬼になる」「疑心暗鬼にかられる」の形で、だれのことも信じられなくなり、何でもうたがってしまう状態を表すことが多いです。
うかるくん
「暗鬼」って、本当に鬼が出てくる話なんですか?
ミスターT先生
いや、鬼は出てこないんだ。もとになったのは、中国の昔の本『列子(れっし)』にある、斧をなくした男の話だよ。となりの子をうたがったら、何もかもが盗人に見えてきた。その「見えてくる」ものを、暗やみの鬼にたとえたのが「疑心暗鬼」なんだ。
ふだんの言い方では、たとえば次のように使います。
- ○財布がなくなってから、クラスのみんなが疑心暗鬼になっている。
- ○一度だまされてから、どんな話にも疑心暗鬼になってしまった。
- ○うわさが広がり、チームの中に疑心暗鬼が生まれた。
絵で読む「疑心暗鬼」のお話
話の流れを、4つの場面で見てみましょう。登場するのは、斧(鈇)をなくした男と、となりの家の子だけです。となりの子は、最初から最後まで何も変わっていない、というところに注目して読んでみてください。
絵で読む「疑心暗鬼」のお話(4こま)
男は、となりの子が盗んだ証拠を見つけたわけではありません。「あの子では」と思いこんだとたん、ふつうの歩き方やしぐさまで、証拠のように見えてしまったのです。そして斧が見つかると、同じ子が、少しもどろぼうらしく見えなくなりました。

ミスターT先生
大事なのは、変わったのは子のほうではなく、男の心のほうだということだ。うたがいの「色眼鏡」をかけると、世界の見え方がまるごと変わってしまう。この話は、その心の動きをとても短い文で描いているんだ。

「疑心暗鬼」の原文・書き下し文・現代語訳
もとになった話は、『列子』説符(せっぷ)篇にあります。とても短い話なので、全文を1文ずつ読んでみましょう。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方でくわしく説明しています(書き下し文は代表的な読み方の一例です)。
1文目:斧をなくし、となりの子をうたがう
書き下し文人に鈇を亡ふ者有り。其の隣の子を意ふ。
(『列子』説符(原文は「鄰」))
現代語訳斧をなくした人がいた。(その人は)となりの家の子を(盗んだのではないかと)うたがった。
2文目:歩き方も顔色も話し方も
書き下し文其の行歩を視るに、鈇を窃むなり。顔色も、鈇を窃むなり。言語も、鈇を窃むなり。
(『列子』説符(原文は「竊鈇」))
現代語訳その子の歩き方を見ると、斧を盗んだ者の歩き方だ。顔色も、斧を盗んだ者の顔色だ。話し方も、斧を盗んだ者の話し方だ。
3文目:しぐさのすべてが
書き下し文動作態度、為すとして鈇を窃まざるは無きなり。
(『列子』説符)
現代語訳動作や態度も、何をしても斧を盗んだ者らしくないものはなかった。
4文目:斧が見つかる
書き下し文俄にして其の谷を抇りて其の鈇を得たり。
(『列子』説符)
現代語訳まもなく、(男が)谷(みぞ)を掘りかえしていると、その斧が見つかった。
5文目:もう一度見ると
書き下し文他日、復た其の隣人の子を見るに、動作態度、鈇を窃む者に似たる無し。
(『列子』説符)
現代語訳別の日に、またとなりの家の子を見ると、動作や態度に、斧を盗んだ者らしいところは少しもなかった。
原典(『列子』説符)の本文では
維基文庫(中国語のウィキソース)で見られる『列子』説符篇の本文と、上の訓読文には、次のようなちがいがあります。
- 旧字体:原典は「鄰(となり)」「竊(ぬすむ)」「步」「顏」などの字で書かれています。上では今の日本の字体にしています。
- 「斧」ではなく「鈇」:原典の字は「鈇(ふ)」で、斧(おの)のことです。教科書や辞典の説明では「斧」と書きかえていることもあります。
- 同じ話が『呂氏春秋』にも:ほぼ同じ文が、『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』の去尤(きょゆう)篇にもあります。どちらが先かは、はっきりしません。
サクラちゃん
あれ? 原文には「疑心暗鬼」っていう言葉が出てきませんね。
ミスターT先生
よく気がついたね。『列子』の本文には「疑心」も「暗鬼」も出てこないんだ。「疑心、暗鬼を生ず」は中国で使われてきたことわざで、明の時代の小説などにも「疑心生暗鬼」という形で出てくる。宋の時代の『列子』の注釈にこの言葉が使われている、と説明する本もあるけれど、ここでは原典で確かめられなかったので、はっきりしたことは言えないとしておくね。
出典『列子』と話の背景
「疑心暗鬼」のもとの話は、『列子(れっし)』の説符篇にあります。『列子』は、戦国時代の道家の思想家・列禦寇(れつぎょこう)の考えをまとめた本とされ、杞憂(きゆう)・朝三暮四・愚公山を移すなどの話も、同じ本に入っています。ただし、今に伝わる『列子』がいつまとめられたかには、後の時代にまとめ直されたとする説など、諸説あります。道家の考え方については諸子百家(儒家・道家・法家)の考え方で図にしています。
説符篇は、「ものごとの表と裏」「見た目と本当のこと」についての短い話を多く集めた篇です。斧の話のすぐ前には、枯れた梧桐(あおぎり)の話が置かれています。
枯れた梧桐の話
ある人の家に、枯れた梧桐の木がありました。となりの家の父親が「枯れた梧桐は縁起が悪い」と言うので、その人はすぐに木を切りました。ところが、となりの父親が「それなら、まきにしたいのでもらえないか」と言うと、その人は不機嫌になり、「となりの父親は、まきがほしくて、わたしに木を切らせたのだ。となりにこんな腹黒い人がいるとは」と言いました。
となりの父親の最初の言葉が親切だったのか、下心があったのかは、話の中では分かりません。あとから聞いた一言で、前の出来事まで悪く見えてしまう。斧の話と同じく、人をうたがう心の動きを描いた話です。
『呂氏春秋』去尤篇の同じ話
『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』は、秦の宰相・呂不韋(りょふい)のもとに集まった学者たちがまとめた本です。その去尤(きょゆう)篇にも、斧をなくした人の話が、ほぼ同じ文で出てきます。篇の名前の「尤」が何を指すかには説がありますが、篇の内容は、心のかたよりについての話です。人は、自分の好ききらいや思いこみによって、ものごとを正しく見られなくなる。だから、まずそのかたよりを取りのぞくことが大切だ、という考えの中で、斧の話が例として使われています。
『列子』と『呂氏春秋』のどちらが先にこの話をのせたのか、またどちらかがもう一方から写したのかは、本の成り立ちに諸説があるため、はっきりしたことは言えません。どちらの本でも、「見る人の心が、見えるものを変えてしまう」という教えの例になっている点は同じです。
今の言葉でいうと
思いこみに合う情報ばかりが目に入り、合わない情報は見えなくなる心の動きは、今の心理学では「確証バイアス」などの言葉で説明されることがあります。二千年以上前の短い話が、今でもそのまま通じるところが、この故事の強さです。
「疑心暗鬼」の使い方と例文・似た言葉
「疑心暗鬼」は、「疑心暗鬼になる」「疑心暗鬼にかられる」「疑心暗鬼におちいる」の形でよく使います。もとの形の「疑心暗鬼を生ず」も、文章の中で使われます。
- ○内部の情報がもれたと知り、社員はおたがいに疑心暗鬼になった。(だれも信じられない)
- ○返信がおそいだけで、きらわれたのではと疑心暗鬼にかられる。(何でもないことが不安に見える)
- ○「疑心暗鬼を生ずというから、証拠もないのに人を決めつけてはいけない」(もとの形で)
- ○根拠のないうわさで、町じゅうが疑心暗鬼におちいった。(集団のうたがい合い)
- ×おばけ屋敷がこわくて、疑心暗鬼になった。(本物のおばけへのこわさには使わない)
- ×テストの答えに自信がなく、疑心暗鬼だ。(「自信がない」「迷う」だけの意味では使わない。この場合は「半信半疑」)
受験生が「疑心暗鬼」にならないために
受験の時期には、「あの人はもう志望校の過去問を全部解いたらしい」「この参考書ではだめらしい」といったうわさが飛びかいます。うわさを聞くと、自分の勉強法まで全部まちがっているように見えてくることがあります。これも小さな疑心暗鬼です。斧の話の男のように、証拠を確かめる前に決めつけていないか、一度立ち止まって考えてみましょう。模試の結果や、先生・先輩から聞いた具体的な情報など、確かなものをもとに判断することが、思いこみの「暗鬼」を消すいちばんの方法です。
似た言葉
- 杯中の蛇影(はいちゅうのだえい):杯の酒にうつった弓の影を蛇だと思いこみ、病気になってしまった人の話から。うたがえば、何でもないものにまでおびえることのたとえ。
- 風声鶴唳(ふうせいかくれい):にげる兵が、風の音や鶴の鳴き声まで敵の声だと思っておびえた話から。おじけづいて、ちょっとしたことにもおびえること。
- 杞憂(きゆう):心配しなくてよいことを心配すること。同じ『列子』の話です。
- 色眼鏡で見る・思いこみ:かたよった見方で、ものごとを見ること。
少しちがう言葉・反対の言葉
- 半信半疑(はんしんはんぎ):半分は信じ、半分はうたがっていること。疑心暗鬼ほど強いうたがいではありません。
- 虚心坦懐(きょしんたんかい):心にわだかまりがなく、すなおな気持ちでものごとにのぞむこと。疑心暗鬼の反対の心の持ち方です。
「疑心暗鬼」のよくあるまちがい
- 「暗鬼」を「暗記」と書く:「あんき」でも、「暗記(覚えること)」ではなく「暗鬼(暗やみの鬼)」です。字の形は「鬼」の読み方・書き順・部首、「暗」の読み方・書き順・部首で確かめましょう。
- 「疑心」を「疑信」と書く:「うたがう心」なので「疑心」。「疑」の読み方・書き順・部首も、左下の形に注意して書きましょう。
- 「疑心暗鬼」を「うたがい深い性格」の意味だけだと思う:もとは、うたがう心のせいで見えるものがゆがむことを言う言葉です。「あの人は疑心暗鬼な人だ」より、「疑心暗鬼になる」「疑心暗鬼にかられる」のように、その時の心の状態を表す使い方がふつうです。
- 出典の話に鬼が出てくると思う:『列子』の話に鬼は出てきません。「暗鬼」は、うたがう心が生み出すまぼろしのたとえです。
- 漢文で「無不〜」と「無似〜」の意味を取りちがえる:「無不窃鈇(窃まざるは無し)」は「すべてどろぼうに見える」、「無似窃鈇者(窃む者に似たる無し)」は「少しもどろぼうに見えない」。正反対です。
うかるくん
「窃まざるは無し」って、打ち消しが2つでややこしいです…。
ミスターT先生
「〜しないものは、ない」と、2つの打ち消しを順番に訳してから、「つまり、全部〜する」と言いかえるといいよ。くわしくは二重否定の句法(無不・不可不・非不)で練習できる。この話では、最初は「全部あやしい」、最後は「少しもあやしくない」。その対比が読み取れれば、話の中心がつかめるね。
入試ではこう出る
- 中学受験:四字熟語「疑心暗鬼」の意味を選ぶ問題、「ぎしんあんき」を漢字で書く問題(「暗記」とのまちがいに注意)。物語文で、登場人物が人を信じられなくなる場面の気持ちを表す言葉として問われることもあります。
- 高校受験:漢文の資料として、返り点に従って書き下す問題、「意」の意味、男の見方が変わった理由などが問われます。高校受験の漢文の対策は高校受験の漢文(返り点・書き下し文の対策)へ。
- 大学受験:「無為而不窃鈇」の二重否定、「無似窃鈇者」の否定の訳、話から読み取れる教訓を説明させる問題などが考えられます。評論文では「疑心暗鬼」が社会の不信感を表す言葉として出てきます。共通テストの漢文の出方は共通テストの漢文(配点・時間配分)へ。

サクラちゃん
男の見方が変わった理由は、「となりの子が変わったのではなく、斧が見つかってうたがいが消えたから」と、変わったのは男の心のほうだと書くのがポイントですね!
練習問題
やさしい
- 「疑心暗鬼」の意味として正しいものを選びましょう。
ア 暗い所で鬼を見ること イ うたがう心があると、何でもないことまであやしく思えること ウ まよって答えが決まらないこと エ 急いで覚えること答えと解説を見る
イ。「疑心、暗鬼を生ず」を短くした言葉で、うたがう心が、いもしない鬼の姿を生み出すという意味です。 - 「ぎしんあんき」を漢字で書きましょう。
答えと解説を見る
疑心暗鬼。「暗記」ではなく、暗やみの鬼の「暗鬼」です。
ふつう
- 「俄而抇其谷而得其鈇」を書き下し文に直しましょう。
答えと解説を見る
俄にして其の谷を抇りて其の鈇を得たり。「而」は2つとも読まない置き字です。 - 斧が見つかったあと、男にとなりの子がどろぼうらしく見えなくなったのはなぜですか。
答えと解説を見る
斧が見つかって、うたがう心が消えたからです。となりの子は何も変わっておらず、変わったのは男の心(見方)のほうでした。
むずかしい
- 「動作態度、無為而不窃鈇也」の「無〜不〜」は何という句法ですか。句法の名前と、現代語訳を答えましょう。
答えと解説を見る
二重否定。「動作や態度も、何をしても斧を盗んだ者らしくないものはなかった(すべて斧どろぼうに見えた)」という意味です。
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よくある質問
疑心暗鬼の意味を簡単に言うと何ですか?
うたがう心があると、何でもないことまでこわく思えたり、あやしく見えたりすることです。「疑心暗鬼になる」の形で、人を信じられなくなる様子を表します。
疑心暗鬼の由来はどんな話ですか?
『列子』説符篇の話です。斧をなくした男がとなりの子をうたがうと、歩き方も顔色も話し方も盗人に見えましたが、谷を掘って斧が見つかると、同じ子が少しも盗人らしく見えなくなりました。
「疑心暗鬼を生ず」はどこから出た言葉ですか?
もとになった斧の話は『列子』説符篇にありますが、本文には「疑心暗鬼」という言葉は出てきません。「疑心生暗鬼」は中国のことわざで、明の時代の小説などにも見えます。いちばん古い出どころは、はっきりした資料が見つかりませんでした。
疑心暗鬼の反対の言葉は何ですか?
虚心坦懐(きょしんたんかい)などです。心にわだかまりがなく、すなおな気持ちでものごとにのぞむことを表します。
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出典・参考
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- 「疑心生暗鬼」の用例:明代の小説『初刻拍案驚奇』など(維基文庫で確認)
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- お話の絵・図:合格大作戦
最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦



