竹取物語「帝の求婚」全文と現代語訳・文法|かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを(最高敬語・二方面の敬語・せの識別・影になる)

ミスターT先生

竹取物語の「かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを、帝聞こしめして」から、帝とかぐや姫が手紙を交わすようになるまで(第8章「帝の求婚」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この章を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:帝は内侍の中臣のふさ子を使いに出すが、かぐや姫は会わない。帝は翁に五位の位を約束するが、姫は「宮仕えさせるなら消える」と拒む。帝は狩りのふりをして家を訪ね、姫の袖をとらえるが、姫はぱっと影になる。帝はあきらめて帰り、その後は二人で手紙と歌を交わすようになる。
  • 文法の要点:奏す(帝だけへの謙譲語)、最高敬語(せたまふ・させたまふ・のたまはす)、自敬表現、二方面の敬語、せの使役と尊敬の見分け、こそ〜已然形の逆接、ねの識別。
  • テストの定番:「御輿に奉る」=お乗りになる(尊敬)、「やさし」=恥ずかしい、「きと影になりぬ」=人間でない証拠。
サクラちゃん
サクラちゃん
T先生、五人の貴公子がみんな失敗して、今度は帝が出てくるんですね!
ミスターT先生
ミスターT先生
そうや、サクラちゃん。相手が帝になると、文章の敬語がぐっとレベルアップする。「奏す」「せたまふ」「のたまはす」…。この章は敬語の練習問題の宝庫やで。
合格先生
合格先生
敬語が苦手だったわたしに、T先生は「まず誰が誰に話してるかに線を引け」と言いました。登場人物は帝・内侍・翁・嫗・かぐや姫の5人。そこさえ押さえれば大丈夫です。

この章で覚える文法(テストに出る順)

  1. 奏す=帝にだけ使う謙譲語、のたまはす・せたまふ=最高敬語
  2. せの見分け:仕うまつらせたまはば(使役)/寄らせたまふ(尊敬)
  3. 二方面の敬語:仕うまつりたまはぬ・承りたまはで
  4. 奉る=お乗りになる(尊敬)、自敬表現(帝が自分に敬語)
  5. こそ〜已然形、の逆接、ねの識別

第7章までのあらすじと帝

第3章から第7章で、五人の貴公子はそれぞれ難題に挑みましたが、にせ物を作ったり、だまされたり、命からがら逃げ帰ったりして、だれも宝物を手に入れられませんでした。

この第8章では、かぐや姫のうわさがとうとう帝(天皇)の耳にとどきます。帝は国でいちばん身分の高い人で、地の文でも会話でも、とても高い敬語が使われます。使いの内侍(帝のそばに仕える女官)、翁(造麻呂)、嫗が、帝とかぐや姫の間を行ったり来たりするので、誰が誰に話しているかを確かめながら読みましょう。

1. 内侍の使い 姫は会わない「殺して」とまで 2. 位の約束 翁に五位の冠を与えよう 3. 姫の拒否 宮仕えなら消えてしまう 4. 狩りの行幸 帝が家を訪ね袖をとらえる 5. 影になる きと影に人ではない 6. 歌のやりとり 手紙を交わす仲になる
図1 第8章「帝の求婚」の流れ(6場面)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

さて、かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを、帝聞こしめして、内侍中臣のふさ子にのたまふ、「多くの人の身をいたづらになしてあはざなるかぐや姫は、いかばかりの女ぞと、まかりて見て参れ」とのたまふ。

現代語訳さて、かぐや姫の顔立ちが世に比べるものがないほどすばらしいことを、帝がお聞きになって、内侍の中臣のふさ子におっしゃるには、「多くの男の身を破滅させてまで結婚しないというかぐや姫は、どれほどの女なのかと、出かけて行って見てまいれ」とおっしゃる。

  • 「あはざなる」は「あはざるなる」→「あはざんなる」→「あはざ(ん)なる」。打消「ず」+伝聞「なり」(〜ないという)。→伝聞・推定の「なり」の見分け方
  • 帝が自分のもとへ来ることを「参れ」と言うのは自敬表現(帝が自分に敬語を使う)。帝の会話だけに出る特別な形。→最高敬語と自敬表現
  • 「内侍」は帝のそばに仕える女官。「いたづらになす」は「むだにする・死なせる」。前の章までの貴公子たちの失敗を指す。
うかるくん
うかるくん
「あはざなる」って、また「ん」が消えてるやつですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
その通りや、うかるくん!「あはざるなる」→「あはざんなる」→「あはざなる」。撥音便の「ん」が書かれへん形の下の「なり」は伝聞・推定や。第2章の「あなり」と同じやで。

2

ふさ子承りてまかれり。竹取の家にかしこまりて請じ入れて会へり。嫗に内侍のたまふ、「仰せごとに、かぐや姫のかたち優におはすとなり。よく見て参るべきよしのたまはせつるになむ参りつる」と言へば、「さらばかく申しはべらむ」と言ひて入りぬ。

現代語訳ふさ子はご命令をお受けして出かけた。竹取の家では恐縮して(ふさ子を)招き入れて会った。内侍が嫗におっしゃるには、「帝のおことばでは、かぐや姫の顔立ちがすぐれていらっしゃるということだ。よく見てまいれとおっしゃったので、参りました」と言うと、(嫗は)「それではそのように(姫に)申しましょう」と言って奥に入った。

  • 「承る」は謙譲語(お受けする)。地の文なので作者から帝への敬意。→敬意の方向(誰から誰へ)の見分け方
  • 「のたまはす」は「のたまふ」より一段高い最高敬語。帝や中宮など、とても身分の高い人に使う。
  • 「なむ…つる」の係り結び。「請じ入る」は招き入れる。
帝の使いが牛車で竹取の家に来る場面と考えられる(竹取物語の古い絵)
帝の使いが牛車で竹取の家に来る場面と考えられる
出典:『竹取物語』絵巻 下巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)

3

かぐや姫に、「はや、かの御使ひに対面したまへ」と言へば、かぐや姫、「よきかたちにもあらず。いかでか見ゆべき」と言へば、「うたてものたまふかな。帝の御使ひをば、いかでかおろかにせむ」と言へば、

現代語訳(嫗が)かぐや姫に「早く、あのお使いにお会いなさい」と言うと、かぐや姫は「美しい顔でもありません。どうしてお会いできましょう」と言うので、(嫗は)「困ったことをおっしゃるね。帝のお使いを、どうしていいかげんに扱えましょうか」と言うと、

  • 「見ゆ」は(人に)見られる・会う。女性が男性に姿を見せる=会う・結婚する。
  • 「いかでか…べき」「いかでか…む」はどちらも反語。→係助詞「か」の疑問と反語
  • 「うたて」は「いやなことに・困ったことに」。

4

かぐや姫答ふるやう、「帝の召してのたまはむこと、かしこしとも思はず」と言ひて、さらに見ゆべくもあらず。生める子のやうにあれど、いと心恥づかしげに、おろそかなるやうに言ひければ、心のままにもえ責めず。

現代語訳かぐや姫が答えるには、「帝がお呼びになっておっしゃるようなことを、恐れ多いとも思いません」と言って、まったく会いそうにもない。(嫗にとっては)自分が産んだ子のようではあるけれど、(姫は)こちらが気おくれするほど立派な様子で、そっけなく言ったので、(嫗は)思いどおりに責めることもできない。

5

嫗、内侍のもとに帰り出でて、「口惜しく、この幼き者は、こはくはべる者にて、対面すまじき」と申す。内侍、「『必ず見たてまつりて参れ』と仰せごとありつるものを、見たてまつらでは、いかでか帰り参らむ。国王の仰せごとを、まさに世に住みたまはむ人の、承りたまはでありなむや。言はれぬことなしたまひそ」と、言葉恥づかしく言ひければ、

現代語訳嫗は内侍のところに戻って、「残念なことに、この幼い者は強情な者でございまして、お会いしそうにありません」と申し上げる。内侍は「『必ずお会いしてまいれ』とおことばがあったのに、お会いしないでは、どうして帰れましょうか。国王のご命令を、この世に住んでいらっしゃる人が、お受けしないでいられましょうか。道理に合わないことはなさいますな」と、(相手が)恥じ入るほどきびしい言葉で言ったので、

  • 二方面の敬語:「承りたまはで」の「承り」(謙譲)は内侍から帝への敬意、「たまは」(尊敬)は内侍からかぐや姫への敬意。→二方面への敬語(謙譲+尊敬)
  • 「な〜そ」は禁止(〜するな)。「なしたまひそ」=なさいますな。→終助詞「そ」と「な〜そ」の禁止
  • 「こはし」は「強情だ」。「ものを」は逆接(〜のに)。
サクラちゃん
サクラちゃん
内侍の言葉、敬語が多すぎて、誰をうやまってるのかわかりません…。
ミスターT先生
ミスターT先生
「承りたまはで」を分けてみよか。「承る」(お受けする)は謙譲語やから、受ける命令を出した帝へ。「たまふ」は尊敬語やから、お受けするかぐや姫へ。話し手は内侍やから、内侍から帝へ・内侍から姫への二方面や。

6

これを聞きて、ましてかぐや姫聞くべくもあらず。「国王の仰せごとを背かば、はや殺したまひてよかし」と言ふ。

現代語訳これを聞いて、なおさらかぐや姫は聞き入れそうにもない。「国王のご命令にそむいたというのなら、早く殺してくださいよ」と言う。

  • 「てよ」は完了「つ」の命令形(〜してしまえ)。「かし」は念を押す終助詞。→完了の助動詞「つ・ぬ」の活用
  • 「背かば」は未然形+ば=仮定(そむくなら)。帝の命令でも動じない、かぐや姫の強さが出ている。

7

この内侍帰り参りて、このよしを奏す。帝聞こしめして、「多くの人殺してける心ぞかし」とのたまひて、やみにけれど、なほ思しおはしまして、「この女のたばかりにや負けむ」と思して、竹取の翁を召して仰せたまふ、「汝が持ちてはべるかぐや姫奉れ。顔かたちよしと聞こしめして、御使ひを賜びしかど、かひなく見えずなりにけり。かくたいだいしくやはならはすべき」と仰せらる。

現代語訳この内侍は宮中に帰って、このことを帝に申し上げる。帝はお聞きになって、「(なるほど)多くの男を死なせてきた心であるよ」とおっしゃって、そのままになったけれど、やはり(姫のことを)思い続けていらっしゃって、「この女の策略に負けてよいものか」とお思いになって、竹取の翁をお呼びになっておっしゃるには、「おまえが持っているかぐや姫を(わたしに)差し出せ。顔立ちがよいと聞いて、使いを送ったが、そのかいもなく会わずに終わってしまった。こんなふうに勝手気ままにしつけてよいものか(いや、よくない)」とおっしゃる。

  • 「奏す」は帝(天皇・上皇)にだけ使う謙譲語(申し上げる)。中宮・皇太子には「啓す」。→絶対敬語「奏す・啓す」と最高敬語
  • 「賜びしかど」の「しか」は過去「き」の已然形。帝が自分でしたことなので「き」を使う。→過去の助動詞「き」と「けり」の違い
  • 「やは…べき」は反語。國民文庫本は「たいしく」とあり、教科書では「たいだいしく」(ふつごうだ・けしからぬ)と読むことが多い。
合格先生
合格先生
帝が自分のことに「聞こしめす」「賜ぶ」と敬語を使うのを、T先生は「帝は自分にも敬語を使う。自敬表現や」と教えてくれました。初めて聞いたとき、びっくりしたのを覚えています。

8

翁かしこまりて、御返りごと申すやう、「この女の童は、絶えて宮仕へ仕うまつるべくもあらずはべるを、もてわづらひはべり。さりとも、まかりて仰せたまはむ」と奏す。これを聞こしめして、仰せたまふやう、「などか、翁の手に生ほし立てたらむものを、心にまかせざらむ。この女もし奉りたるものならば、翁に冠を、などか賜はせざらむ」。

現代語訳翁は恐縮して、ご返事を申し上げることには、「この娘は、まったく宮仕えいたしそうにもございませんので、もてあましております。そうではありますが、退出して(姫におことばを)伝えましょう」と申し上げる。これをお聞きになって、帝がおっしゃることには、「どうして、翁が自分の手で育て上げたような者を、思いどおりにできないことがあろうか。この娘をもし(わたしに)差し出したならば、翁に五位の位を、どうして与えないことがあろうか(必ず与えよう)」。

  • 「などか…ざらむ」は反語で、打消と合わせて強い肯定(必ず〜する)。
  • 「冠(かうぶり)」は五位の位のこと。五位以上になると貴族の仲間入り。翁へのごほうびとして持ち出している。
  • 「仰せたまはむ」は、翁が帝のおことばを姫に伝える、という意味に読むのがふつう。本によって「仰せ賜はむ」などの形もある。

9

翁喜びて、家に帰りて、かぐや姫に語らふやう、「かくなむ帝の仰せたまへる。なほやは仕うまつりたまはぬ」と言へば、かぐや姫答へていはく、「もはら、さやうの宮仕へ仕うまつらじと思ふを、しひて仕うまつらせたまはば、消え失せなむ。御官冠仕うまつりて、死ぬばかりなり」。

現代語訳翁は喜んで、家に帰って、かぐや姫に話して聞かせることには、「このように帝がおっしゃった。それでもまだお仕えなさらないのか」と言うと、かぐや姫が答えて言うには、「まったく、そのような宮仕えはいたすまいと思っておりますのに、むりにお仕えさせなさるなら、(わたしは)消えてしまうでしょう。(あなたが)官位をいただけるようにお仕えして、(そのあとわたしは)死ぬだけです」。

  • 「せたまふ」の見分け:ここの「仕うまつらせたまはば」の「せ」は使役(翁がかぐや姫に仕えさせる)。誰かにさせる相手がいれば使役、いなければ尊敬(最高敬語)。→「す・さす」の使役と尊敬の見分け方
  • 「仕うまつりたまはぬ」は二方面:謙譲「仕うまつる」は翁から帝へ、尊敬「たまふ」は翁からかぐや姫への敬意。
  • 「もはら〜じ」=決して〜まい。「じ」は打消意志。→助動詞「じ」の打消推量と打消意志
ミスターT先生
ミスターT先生
「仕うまつらせたまはば」の「せ」は使役、「寄らせたまふ」の「せ」は尊敬。させる相手がいるかどうかで決まる。ここ、テストに出るで!
うかるくん
うかるくん
させる相手…。翁がかぐや姫に仕えさせるから使役、なんですね!

10

翁いらふるやう、「なしたまひそ。官冠も、我が子を見たてまつらでは、何にかはせむ。さはありとも、などか宮仕へをしたまはざらむ。死にたまふやうやはあるべき」と言ふ。

現代語訳翁が答えるには、「そんなことはなさいますな。官位も、わが子にお会いできないのでは、何になろうか(何にもならない)。そうではあっても、どうして宮仕えをなさらないことがあろうか。(宮仕えして)お死にになるなどということがあるはずがない」と言う。

  • 「何にかはせむ」は反語の決まり文句(何になろうか、何にもならない)。→係助詞「かは・やは」の反語
  • 翁は、位よりもかぐや姫が大事。でも宮仕えはしてほしい。親の気持ちのゆれが出ている。

11

「『なほそらごとか』と、仕うまつらせて、死なずやあると見たまへ。あまたの人の心ざしおろかならざりしを、むなしくなしてしこそあれ、昨日今日帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし」と言へば、

現代語訳(かぐや姫は)「『やはりうそだろう』と思うなら、(わたしを)お仕えさせて、死なないかどうか見てごらんなさい。たくさんの人の深い愛情を、むだにしてしまったのに、昨日今日(言い出した)帝のおっしゃることに従うのは、人に聞かれて恥ずかしいことです」と言うと、

12

翁答へていはく、「天の下のことは、とありともかかりとも、御命の危ふきこそ大きなる障りなれ。なほ仕うまつるまじきことを、参りて申さむ」とて、参りて申すやう、「仰せのことのかしこさに、かの童を参らせむとて仕うまつれば、『宮仕へに出だし立てなば死ぬべし』と申す。造麻呂が手に生ませたる子にてもあらず。昔、山にて見つけたる。かかれば、心ばせも世の人に似ずぞはべる」と奏せさす。

現代語訳翁が答えて言うには、「世の中のことは、どうであろうとこうであろうと(かまわないが)、お命が危ないことこそ大きな差しさわりだ。やはりお仕えできないということを、(宮中に)参上して申し上げよう」と言って、参上して申し上げることには、「おことばの恐れ多さに、あの子を(宮中に)差し上げようと努めましたが、『宮仕えに出したならば、死んでしまうでしょう』と申します。(あの子は)造麻呂が生ませた子でもありません。昔、山で見つけた子です。そういうわけで、心の持ち方も世間の人に似ていないのでございます」と(取り次ぎの人を通して)申し上げさせる。

  • 「奏せさす」の「さす」は使役。翁は帝に直接は申し上げられないので、取り次ぎの人に申し上げさせた。→使役・尊敬の助動詞「す・さす・しむ」
  • 「造麻呂」(みやつこまろ)は翁の名前。第1章の「さぬきの造」のこと。國民文庫本は「造麿」と書く。
  • 「こそ…なれ」「ぞ…はべる」と、係り結びが2つ出てくる。

13

帝仰せたまはく、「造麻呂が家は、山もと近かなり。御狩の行幸したまはむやうにて、見てむや」とのたまはす。造麻呂が申すやう、「いとよきことなり。何か、心もなくてはべらむに、ふと行幸して御覧ぜられなむ」と奏すれば、

現代語訳帝がおっしゃるには、「造麻呂の家は、山のふもとに近いそうだ。狩りにお出かけになるようなふりをして、(かぐや姫を)見ることはできないか」とおっしゃる。造麻呂が申し上げることには、「とてもよいお考えです。なに、(姫が)何の用心もしておりませんときに、急に行幸なさったら、きっとご覧になれるでしょう」と申し上げると、

  • 「近かなり」は「近かるなり」→「近かんなり」→「近か(ん)なり」。撥音便の下は伝聞・推定の「なり」。
  • 「行幸(みゆき)」は帝のお出かけ。ここでも帝は自分に「御狩」「たまふ」と敬語を使っている(自敬表現)。
  • 「御覧ぜられなむ」の「られ」は可能(ご覧になれる)と読むことが多い。

14

帝、にはかに日を定めて、御狩に出でたまうて、かぐや姫の家に入りたまうて見たまふに、光満ちてけうらにてゐたる人あり。「これならむ」とおぼして、近く寄らせたまふに、逃げて入る袖をとらへたまへば、面をふたぎてさぶらへど、初めよく御覧じつれば、類なくおぼえさせたまひて、「許さじとす」とて、率ておはしまさむとするに、

現代語訳帝は急に日を決めて、狩りにお出かけになり、かぐや姫の家にお入りになってご覧になると、光が満ちあふれて美しい様子で座っている人がいる。「これがかぐや姫だろう」とお思いになって、近くにお寄りになると、(姫は)逃げて奥へ入る、その袖をおつかまえになると、(姫は)袖で顔をおおってお控えしているけれど、(帝は)最初によくご覧になったので、比べるものがないほどすばらしいとお思いになって、「放すまいぞ」と言って、連れていらっしゃろうとすると、

  • 「寄らせたまふ」「おぼえさせたまひ」の「せ・させ」は尊敬。させる相手がいないので尊敬で、「せたまふ・させたまふ」は最高敬語(作者から帝への敬意)。→最高敬語(せたまふ・させたまふ)
  • 「けうらにて」の「に」は形容動詞「けうらなり」の連用形の一部。断定ではない。→「に」の識別7種類
  • 「出でたまうて」は「出でたまひて」のウ音便。
帝が御狩の行幸として、かぐや姫の家を訪れる(中央に御輿)(竹取物語の古い絵)
帝が御狩の行幸として、かぐや姫の家を訪れる(中央に御輿)
出典:『竹取物語』絵巻 下巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)

15

かぐや姫答へて奏す、「おのが身は、この国に生まれてはべらばこそ使ひたまはめ、いと率ておはしがたくやはべらむ」と奏す。帝、「などかさあらむ。なほ率ておはしまさむ」とて、御輿を寄せたまふに、このかぐや姫、きと影になりぬ。

現代語訳かぐや姫が答えて申し上げるには、「わたしの身が、この国に生まれた者でございましたら、(宮中で)お使いにもなれるでしょうが、(そうではないので)とても連れていらっしゃるのは難しいのではないでしょうか」と申し上げる。帝は「どうしてそんなことがあろうか。やはり連れて行こう」と言って、御輿をお寄せになると、このかぐや姫は、ぱっと影(のように形のないもの)になってしまった。

  • 「生まれてはべらばこそ使ひたまはめ、」はこそ〜已然形の逆接。「この国の人ならお使いになれるだろうが(わたしはちがう)」と、月の人であることをほのめかしている。
  • 國民文庫本は「仕へ給はめ」。意味の通りやすい「使ひたまはめ」の形で読む本が多い。
  • 「きと」は「さっと・ぱっと」。影になる=人間ではない証拠。
サクラちゃん
サクラちゃん
「きと影になりぬ」って、かぐや姫が消えちゃったんですか!?
ミスターT先生
ミスターT先生
姿が影のように形のないものになったんや。帝も「げにただ人にはあらざりけり」(本当にふつうの人ではなかったのだなあ)と気づく。第1章の「三か月で大人」と同じ、月の人であるサインやな。

16

はかなく口惜しとおぼして、「げにただ人にはあらざりけり」とおぼして、「さらば御供には率て行かじ。もとの御かたちとなりたまひね。それを見てだに帰りなむ」と仰せらるれば、かぐや姫、もとのかたちになりぬ。

現代語訳(帝は)あっけなく残念だとお思いになって、「本当にふつうの人ではなかったのだなあ」とお思いになって、「それならお供には連れて行くまい。もとのお姿になってください。せめてその姿だけでも見て帰ろう」とおっしゃると、かぐや姫はもとの姿になった。

17

帝、なほめでたく思しめさるること、せきとめがたし。かく見せつる造麻呂を喜びたまふ。さて、仕うまつる百官の人々に、あるじいかめしう仕うまつる。帝、かぐや姫をとどめて帰りたまはむことを、飽かず口惜しく思しけれど、魂をとどめたる心地してなむ帰らせたまひける。

現代語訳帝は、やはりすばらしいとお思いになる気持ちを、おさえることができない。このように(姫を)見せてくれた造麻呂に感謝なさる。そうして(翁は)お供をしている大勢の役人たちに、盛大なごちそうをしてもてなし申し上げる。帝は、かぐや姫を残してお帰りになることを、心残りで残念にお思いになったけれど、(自分の)魂をそこに残してきたような気持ちでお帰りになった。

  • 「思しめさるる」の「るる」は自発(自然とそう思われる)。気持ちを表す動詞につく「る」は自発が多い。→「る・らる」の4つの意味
  • 「あるじ」は「もてなし・ごちそう」。家の主人のことではない。「飽かず」は「心残りだ・満ち足りない」。
  • 「魂をとどめたる心地」=心をかぐや姫のもとに置いてきたような気持ち。帝の恋心の強さを表す。

18

御輿に奉りて後に、かぐや姫に、
帰るさの行幸もの憂く思ほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ
御返りごとを、
葎はふ下にも年は経ぬる身の何かは玉のうてなをも見む

現代語訳(帝は)御輿にお乗りになってから、かぐや姫に(歌を贈る)。
「帰り道の行幸は気が重く思われて(足が進まない)。わたしにそむいて家にとどまるかぐや姫のせいで」
(かぐや姫の)ご返歌は、
「つる草がはうような粗末な家で年月を過ごしてきたわたしが、どうして玉のように美しい宮殿など見ましょうか(見るつもりはありません)」

  • 「奉る」の尊敬の用法:「御輿に奉る」=お乗りになる。ふつうは謙譲語(差し上げる)だが、「乗る・着る・食ふ」の意味のときは尊敬語。→敬語動詞の一覧(奉る・参る・聞こしめす)
  • 「帰るさ」は帰り道。「葎(むぐら)」はつる草で、荒れた家の象徴。「玉のうてな」は美しい宮殿=宮中。
  • 「何かは…む」は反語。宮仕えをはっきり断る歌。
合格先生
合格先生
「御輿に奉る」を「差し上げる」と訳して、T先生に「帝が御輿を誰に差し上げるんや」と笑われました。「乗る・着る・食べる」のときの「奉る」は尊敬語、と覚えておくと安心です。

19

これを、帝御覧じて、いとど帰りたまはむ空もなく思さる。御心は、さらに立ち帰るべくも思されざりけれど、さりとて、夜を明かしたまふべきにあらねば、帰らせたまひぬ。

現代語訳この歌を帝はご覧になって、ますますお帰りになる気持ちにもなれないようにお思いになる。お心は、まったくお帰りになれそうにも思われなかったけれど、そうかといって、(ここで)夜を明かしなさるわけにもいかないので、お帰りになった。

  • 「あらねば」の「ね」は打消「ず」の已然形(未然形「あら」の下)。前の段の「たまひね」(完了の命令形)とくらべよう。
  • 「空もなし」は「〜する気持ちになれない」。「いとど」は「ますます」。

20

常に仕うまつる人を見たまふに、かぐや姫のかたはらに寄るべくだにあらざりけり。こと人よりはけうらなりと思しける人の、かれに思しあはすれば人にもあらず。かぐや姫のみ御心にかかりて、ただ一人過ごしたまふ。よしなく御方々にも渡りたまはず。かぐや姫の御もとにぞ、御文を書きて通はせたまふ。御返り、さすがに憎からず聞こえかはしたまひて、おもしろき木草につけても、御歌を詠みてつかはす。

現代語訳いつもおそばにお仕えしている女性たちをご覧になると、かぐや姫のそばに寄ることさえできそうにない(ほど見劣りする)。ほかの人よりは美しいとお思いになっていた人も、かぐや姫と比べてお考えになると、人並みにも思えない。かぐや姫のことだけがお心にかかって、ただ一人でお過ごしになる。わけもなく、お后たちのところへもお通いにならない。かぐや姫のもとにだけ、お手紙を書いてお送りになる。(かぐや姫も)ご返事は、さすがに冷たくはせず、やりとり申し上げなさって、(帝は)趣のある木や草につけても、お歌を詠んでお送りになる。

  • 「聞こえかはしたまひて」は二方面:謙譲「聞こゆ」は作者から帝へ、尊敬「たまふ」は作者からかぐや姫への敬意。→二方面への敬語
  • 「御方々」は帝のお后たち。「憎からず」は「感じがよく・好ましく」。
  • こうして帝とかぐや姫は、三年ほど手紙をやりとりする仲になる(第9章へ続く)。
うかるくん
うかるくん
結局、帝とかぐや姫は手紙をやりとりする仲になったんですね。
ミスターT先生
ミスターT先生
そうや。会うことはできへんけど、心は通いあってる。だからこそ、次の「かぐや姫の昇天」で別れがつらくなるんや。

二方面の敬語を図で確かめる

なほやは仕うまつりたまはぬ(翁のことば) 翁(話し手) 帝(仕える相手) かぐや姫(仕える人) 謙譲「仕うまつる」=受け手(帝)へ 尊敬「たまふ」=する人(姫)へ 見分けのコツ:謙譲語は「動作を受ける人」、尊敬語は「動作をする人」を うやまう。敬意の出どころは、会話文なら話し手、地の文なら作者。 同じ形:承りたまはで(内侍→帝・姫)、聞こえかはしたまひて(作者→帝・姫)
図2 二方面の敬語「仕うまつりたまはぬ」の敬意の方向
ミスターT先生
ミスターT先生
謙譲語は「受ける人」、尊敬語は「する人」。この矢印を自分でかけたら、敬語の問題はこわくないで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
聞こしめすきこしめすお聞きになる・召し上がる(尊敬語)
内侍ないし帝のそばに仕える女官
奏すそうす(帝に)申し上げる
見ゆみゆ見られる・(女性が)会う
うたてうたていやなことに・困ったことに
こはしこわし強情だ
たばかりたばかり計略・策略
冠こうぶり五位の位
やさしやさし恥ずかしい・身がやせる思いだ
心ばせこころばせ心の持ち方・気だて
行幸みゆき(ぎょうこう)帝のお出かけ
きときとさっと・ぱっと
あるじあるじもてなし・ごちそう
飽かずあかず心残りだ・満ち足りない
葎むぐらつる草(荒れた家の象徴)

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「多くの人の身をいたづらになしてあはざなるかぐや姫」の「ざなる」を文法的に説明しなさい。

打消の助動詞「ず」の連体形「ざる」が撥音便「ざん」になり「ん」が書かれない形「ざ」+伝聞の助動詞「なり」の連体形。訳は「結婚しないという」。

問2 「このよしを奏す」の「奏す」は、どんな人に対して使う敬語か。

帝(天皇・上皇)に対してだけ使う謙譲語(絶対敬語)。

問3 「しひて仕うまつらせたまはば」の「せ」と、「近く寄らせたまふに」の「せ」の違いを答えなさい。

前者は使役(翁がかぐや姫に仕えさせる)、後者は尊敬(「せたまふ」で最高敬語)。

問4 「承りたまはでありなむや」の敬語は、それぞれ誰から誰への敬意か。

「承り」(謙譲)は内侍から帝へ、「たまは」(尊敬)は内侍からかぐや姫への敬意。

問5 「御輿に奉りて後に」の「奉る」の意味と敬語の種類は?

「お乗りになる」という意味の尊敬語。

問6 「人聞きやさし」の「やさし」の意味は?

恥ずかしい(身がやせるほどつらい)。

問7 帝が近寄ったとき、かぐや姫はどうなったか。またそれは何を表しているか。

「きと影になりぬ」、ぱっと影のように形のないものになった。かぐや姫がふつうの人間ではないことを表す。

問8 「もとの御かたちとなりたまひね」の「ね」と、「夜を明かしたまふべきにあらねば」の「ね」を識別しなさい。

前者は完了の助動詞「ぬ」の命令形、後者は打消の助動詞「ず」の已然形。

サクラちゃん
サクラちゃん
敬語の矢印、やっとわかりました! 誰が誰に話しているかに線を引いたら読めました。

竹取物語「帝の求婚」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

さて、かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを、帝聞こしめして、内侍中臣のふさ子にのたまふ、「多くの人の身をいたづらになしてあはざなるかぐや姫は、いかばかりの女ぞと、まかりて見て参れ」とのたまふ。

ふさ子承りてまかれり。竹取の家にかしこまりて請じ入れて会へり。嫗に内侍のたまふ、「仰せごとに、かぐや姫のかたち優におはすとなり。よく見て参るべきよしのたまはせつるになむ参りつる」と言へば、「さらばかく申しはべらむ」と言ひて入りぬ。

かぐや姫に、「はや、かの御使ひに対面したまへ」と言へば、かぐや姫、「よきかたちにもあらず。いかでか見ゆべき」と言へば、「うたてものたまふかな。帝の御使ひをば、いかでかおろかにせむ」と言へば、

かぐや姫答ふるやう、「帝の召してのたまはむこと、かしこしとも思はず」と言ひて、さらに見ゆべくもあらず。生める子のやうにあれど、いと心恥づかしげに、おろそかなるやうに言ひければ、心のままにもえ責めず。

嫗、内侍のもとに帰り出でて、「口惜しく、この幼き者は、こはくはべる者にて、対面すまじき」と申す。内侍、「『必ず見たてまつりて参れ』と仰せごとありつるものを、見たてまつらでは、いかでか帰り参らむ。国王の仰せごとを、まさに世に住みたまはむ人の、承りたまはでありなむや。言はれぬことなしたまひそ」と、言葉恥づかしく言ひければ、

これを聞きて、ましてかぐや姫聞くべくもあらず。「国王の仰せごとを背かば、はや殺したまひてよかし」と言ふ。

この内侍帰り参りて、このよしを奏す。帝聞こしめして、「多くの人殺してける心ぞかし」とのたまひて、やみにけれど、なほ思しおはしまして、「この女のたばかりにや負けむ」と思して、竹取の翁を召して仰せたまふ、「汝が持ちてはべるかぐや姫奉れ。顔かたちよしと聞こしめして、御使ひを賜びしかど、かひなく見えずなりにけり。かくたいだいしくやはならはすべき」と仰せらる。

翁かしこまりて、御返りごと申すやう、「この女の童は、絶えて宮仕へ仕うまつるべくもあらずはべるを、もてわづらひはべり。さりとも、まかりて仰せたまはむ」と奏す。これを聞こしめして、仰せたまふやう、「などか、翁の手に生ほし立てたらむものを、心にまかせざらむ。この女もし奉りたるものならば、翁に冠を、などか賜はせざらむ」。

翁喜びて、家に帰りて、かぐや姫に語らふやう、「かくなむ帝の仰せたまへる。なほやは仕うまつりたまはぬ」と言へば、かぐや姫答へていはく、「もはら、さやうの宮仕へ仕うまつらじと思ふを、しひて仕うまつらせたまはば、消え失せなむ。御官冠仕うまつりて、死ぬばかりなり」。

翁いらふるやう、「なしたまひそ。官冠も、我が子を見たてまつらでは、何にかはせむ。さはありとも、などか宮仕へをしたまはざらむ。死にたまふやうやはあるべき」と言ふ。

「『なほそらごとか』と、仕うまつらせて、死なずやあると見たまへ。あまたの人の心ざしおろかならざりしを、むなしくなしてしこそあれ、昨日今日帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし」と言へば、

翁答へていはく、「天の下のことは、とありともかかりとも、御命の危ふきこそ大きなる障りなれ。なほ仕うまつるまじきことを、参りて申さむ」とて、参りて申すやう、「仰せのことのかしこさに、かの童を参らせむとて仕うまつれば、『宮仕へに出だし立てなば死ぬべし』と申す。造麻呂が手に生ませたる子にてもあらず。昔、山にて見つけたる。かかれば、心ばせも世の人に似ずぞはべる」と奏せさす。

帝仰せたまはく、「造麻呂が家は、山もと近かなり。御狩の行幸したまはむやうにて、見てむや」とのたまはす。造麻呂が申すやう、「いとよきことなり。何か、心もなくてはべらむに、ふと行幸して御覧ぜられなむ」と奏すれば、

帝、にはかに日を定めて、御狩に出でたまうて、かぐや姫の家に入りたまうて見たまふに、光満ちてけうらにてゐたる人あり。「これならむ」とおぼして、近く寄らせたまふに、逃げて入る袖をとらへたまへば、面をふたぎてさぶらへど、初めよく御覧じつれば、類なくおぼえさせたまひて、「許さじとす」とて、率ておはしまさむとするに、

かぐや姫答へて奏す、「おのが身は、この国に生まれてはべらばこそ使ひたまはめ、いと率ておはしがたくやはべらむ」と奏す。帝、「などかさあらむ。なほ率ておはしまさむ」とて、御輿を寄せたまふに、このかぐや姫、きと影になりぬ。

はかなく口惜しとおぼして、「げにただ人にはあらざりけり」とおぼして、「さらば御供には率て行かじ。もとの御かたちとなりたまひね。それを見てだに帰りなむ」と仰せらるれば、かぐや姫、もとのかたちになりぬ。

帝、なほめでたく思しめさるること、せきとめがたし。かく見せつる造麻呂を喜びたまふ。さて、仕うまつる百官の人々に、あるじいかめしう仕うまつる。帝、かぐや姫をとどめて帰りたまはむことを、飽かず口惜しく思しけれど、魂をとどめたる心地してなむ帰らせたまひける。

御輿に奉りて後に、かぐや姫に、
帰るさの行幸もの憂く思ほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ
御返りごとを、
葎はふ下にも年は経ぬる身の何かは玉のうてなをも見む

これを、帝御覧じて、いとど帰りたまはむ空もなく思さる。御心は、さらに立ち帰るべくも思されざりけれど、さりとて、夜を明かしたまふべきにあらねば、帰らせたまひぬ。

常に仕うまつる人を見たまふに、かぐや姫のかたはらに寄るべくだにあらざりけり。こと人よりはけうらなりと思しける人の、かれに思しあはすれば人にもあらず。かぐや姫のみ御心にかかりて、ただ一人過ごしたまふ。よしなく御方々にも渡りたまはず。かぐや姫の御もとにぞ、御文を書きて通はせたまふ。御返り、さすがに憎からず聞こえかはしたまひて、おもしろき木草につけても、御歌を詠みてつかはす。

竹取物語「帝の求婚」現代語訳(全文・通し)

さて、かぐや姫の顔立ちが世に比べるものがないほどすばらしいことを、帝がお聞きになって、内侍の中臣のふさ子におっしゃるには、「多くの男の身を破滅させてまで結婚しないというかぐや姫は、どれほどの女なのかと、出かけて行って見てまいれ」とおっしゃる。

ふさ子はご命令をお受けして出かけた。竹取の家では恐縮して(ふさ子を)招き入れて会った。内侍が嫗におっしゃるには、「帝のおことばでは、かぐや姫の顔立ちがすぐれていらっしゃるということだ。よく見てまいれとおっしゃったので、参りました」と言うと、(嫗は)「それではそのように(姫に)申しましょう」と言って奥に入った。

(嫗が)かぐや姫に「早く、あのお使いにお会いなさい」と言うと、かぐや姫は「美しい顔でもありません。どうしてお会いできましょう」と言うので、(嫗は)「困ったことをおっしゃるね。帝のお使いを、どうしていいかげんに扱えましょうか」と言うと、

かぐや姫が答えるには、「帝がお呼びになっておっしゃるようなことを、恐れ多いとも思いません」と言って、まったく会いそうにもない。(嫗にとっては)自分が産んだ子のようではあるけれど、(姫は)こちらが気おくれするほど立派な様子で、そっけなく言ったので、(嫗は)思いどおりに責めることもできない。

嫗は内侍のところに戻って、「残念なことに、この幼い者は強情な者でございまして、お会いしそうにありません」と申し上げる。内侍は「『必ずお会いしてまいれ』とおことばがあったのに、お会いしないでは、どうして帰れましょうか。国王のご命令を、この世に住んでいらっしゃる人が、お受けしないでいられましょうか。道理に合わないことはなさいますな」と、(相手が)恥じ入るほどきびしい言葉で言ったので、

これを聞いて、なおさらかぐや姫は聞き入れそうにもない。「国王のご命令にそむいたというのなら、早く殺してくださいよ」と言う。

この内侍は宮中に帰って、このことを帝に申し上げる。帝はお聞きになって、「(なるほど)多くの男を死なせてきた心であるよ」とおっしゃって、そのままになったけれど、やはり(姫のことを)思い続けていらっしゃって、「この女の策略に負けてよいものか」とお思いになって、竹取の翁をお呼びになっておっしゃるには、「おまえが持っているかぐや姫を(わたしに)差し出せ。顔立ちがよいと聞いて、使いを送ったが、そのかいもなく会わずに終わってしまった。こんなふうに勝手気ままにしつけてよいものか(いや、よくない)」とおっしゃる。

翁は恐縮して、ご返事を申し上げることには、「この娘は、まったく宮仕えいたしそうにもございませんので、もてあましております。そうではありますが、退出して(姫におことばを)伝えましょう」と申し上げる。これをお聞きになって、帝がおっしゃることには、「どうして、翁が自分の手で育て上げたような者を、思いどおりにできないことがあろうか。この娘をもし(わたしに)差し出したならば、翁に五位の位を、どうして与えないことがあろうか(必ず与えよう)」。

翁は喜んで、家に帰って、かぐや姫に話して聞かせることには、「このように帝がおっしゃった。それでもまだお仕えなさらないのか」と言うと、かぐや姫が答えて言うには、「まったく、そのような宮仕えはいたすまいと思っておりますのに、むりにお仕えさせなさるなら、(わたしは)消えてしまうでしょう。(あなたが)官位をいただけるようにお仕えして、(そのあとわたしは)死ぬだけです」。

翁が答えるには、「そんなことはなさいますな。官位も、わが子にお会いできないのでは、何になろうか(何にもならない)。そうではあっても、どうして宮仕えをなさらないことがあろうか。(宮仕えして)お死にになるなどということがあるはずがない」と言う。

(かぐや姫は)「『やはりうそだろう』と思うなら、(わたしを)お仕えさせて、死なないかどうか見てごらんなさい。たくさんの人の深い愛情を、むだにしてしまったのに、昨日今日(言い出した)帝のおっしゃることに従うのは、人に聞かれて恥ずかしいことです」と言うと、

翁が答えて言うには、「世の中のことは、どうであろうとこうであろうと(かまわないが)、お命が危ないことこそ大きな差しさわりだ。やはりお仕えできないということを、(宮中に)参上して申し上げよう」と言って、参上して申し上げることには、「おことばの恐れ多さに、あの子を(宮中に)差し上げようと努めましたが、『宮仕えに出したならば、死んでしまうでしょう』と申します。(あの子は)造麻呂が生ませた子でもありません。昔、山で見つけた子です。そういうわけで、心の持ち方も世間の人に似ていないのでございます」と(取り次ぎの人を通して)申し上げさせる。

帝がおっしゃるには、「造麻呂の家は、山のふもとに近いそうだ。狩りにお出かけになるようなふりをして、(かぐや姫を)見ることはできないか」とおっしゃる。造麻呂が申し上げることには、「とてもよいお考えです。なに、(姫が)何の用心もしておりませんときに、急に行幸なさったら、きっとご覧になれるでしょう」と申し上げると、

帝は急に日を決めて、狩りにお出かけになり、かぐや姫の家にお入りになってご覧になると、光が満ちあふれて美しい様子で座っている人がいる。「これがかぐや姫だろう」とお思いになって、近くにお寄りになると、(姫は)逃げて奥へ入る、その袖をおつかまえになると、(姫は)袖で顔をおおってお控えしているけれど、(帝は)最初によくご覧になったので、比べるものがないほどすばらしいとお思いになって、「放すまいぞ」と言って、連れていらっしゃろうとすると、

かぐや姫が答えて申し上げるには、「わたしの身が、この国に生まれた者でございましたら、(宮中で)お使いにもなれるでしょうが、(そうではないので)とても連れていらっしゃるのは難しいのではないでしょうか」と申し上げる。帝は「どうしてそんなことがあろうか。やはり連れて行こう」と言って、御輿をお寄せになると、このかぐや姫は、ぱっと影(のように形のないもの)になってしまった。

(帝は)あっけなく残念だとお思いになって、「本当にふつうの人ではなかったのだなあ」とお思いになって、「それならお供には連れて行くまい。もとのお姿になってください。せめてその姿だけでも見て帰ろう」とおっしゃると、かぐや姫はもとの姿になった。

帝は、やはりすばらしいとお思いになる気持ちを、おさえることができない。このように(姫を)見せてくれた造麻呂に感謝なさる。そうして(翁は)お供をしている大勢の役人たちに、盛大なごちそうをしてもてなし申し上げる。帝は、かぐや姫を残してお帰りになることを、心残りで残念にお思いになったけれど、(自分の)魂をそこに残してきたような気持ちでお帰りになった。

(帝は)御輿にお乗りになってから、かぐや姫に(歌を贈る)。
「帰り道の行幸は気が重く思われて(足が進まない)。わたしにそむいて家にとどまるかぐや姫のせいで」
(かぐや姫の)ご返歌は、
「つる草がはうような粗末な家で年月を過ごしてきたわたしが、どうして玉のように美しい宮殿など見ましょうか(見るつもりはありません)」

この歌を帝はご覧になって、ますますお帰りになる気持ちにもなれないようにお思いになる。お心は、まったくお帰りになれそうにも思われなかったけれど、そうかといって、(ここで)夜を明かしなさるわけにもいかないので、お帰りになった。

いつもおそばにお仕えしている女性たちをご覧になると、かぐや姫のそばに寄ることさえできそうにない(ほど見劣りする)。ほかの人よりは美しいとお思いになっていた人も、かぐや姫と比べてお考えになると、人並みにも思えない。かぐや姫のことだけがお心にかかって、ただ一人でお過ごしになる。わけもなく、お后たちのところへもお通いにならない。かぐや姫のもとにだけ、お手紙を書いてお送りになる。(かぐや姫も)ご返事は、さすがに冷たくはせず、やりとり申し上げなさって、(帝は)趣のある木や草につけても、お歌を詠んでお送りになる。

竹取物語「帝の求婚」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(竹取物語の基本)

竹取物語の作者は誰?

作者はわかっていません(未詳)。漢文や仏教の知識がある男性の知識人と考えられています。

竹取物語はいつの作品?

平安時代のはじめ、9世紀後半〜10世紀前半ごろに成立したとされます。

竹取物語の冒頭(書き出し)は?

「今は昔、竹取の翁といふものありけり。」です。現代語訳は「今ではもう昔のことだが、竹取の翁という者がいたそうだ。」です。

なぜ日本最古の物語と言われるの?

『源氏物語』の絵合の巻で「物語の出で来はじめの祖」(物語が生まれた最初の祖先)と呼ばれているからです。

竹取物語 全文の目次

竹取物語の入口(全10章のあらすじと目次・登場人物)

  1. 竹取物語「なよ竹のかぐや姫」の原文・現代語訳
  2. 竹取物語「貴公子たちの求婚」の原文・現代語訳
  3. 竹取物語「仏の御石の鉢」の原文・現代語訳
  4. 竹取物語「蓬莱の玉の枝」の原文・現代語訳
  5. 竹取物語「火鼠の皮衣」の原文・現代語訳
  6. 竹取物語「竜の首の玉」の原文・現代語訳
  7. 竹取物語「燕の子安貝」の原文・現代語訳
  8. 帝の求婚(このページ)
  9. 竹取物語「かぐや姫の昇天」の原文・現代語訳
  10. 竹取物語「ふじの山」の原文・現代語訳
ミスターT先生
ミスターT先生
次は「かぐや姫の昇天」。八月十五日の夜、かぐや姫は自分が月の都の人やと打ち明ける。帝の兵が守る中、天人が迎えに来るで。いよいよクライマックスや!

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本文は『竹取物語』(國民文庫本、明治末刊)をもとに、教科書で広く読まれる形に合わせ、新字体・現代の送り仮名に直しました。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は、国立国会図書館デジタルコレクションの『竹取物語』絵巻(江戸時代前期)など、著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。