
竹取物語の第6章「竜の首の玉」を、書き出し「大伴御行の大納言は、我が家にありとある人を召し集めて」から語源ばなし「あなたへがた」まで、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この章を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:大伴御行の大納言は家来に竜の首の玉を取りに行かせるが、家来たちは品物だけもらって逃げてしまう。待ちきれずに自分で船を出すと、筑紫の海で嵐と雷にあい、神に千回祈って命びろいする。明石の浜に流れ着き、両目がすもものようにはれた姿で帰り、かぐや姫を「大盗人」とののしってあきらめる。
- 文法の要点:伝聞推定のなり(あなり)、反実仮想(ましかば〜まし)、強意のぬ・つ(ぬべし・てむ)、係り結び(こそ…べけれ・か…べき・にやあらむ)、二方面への敬語(申したまふ)。
- テストの定番:「あな、たへがた」の語源ばなし(堪へ難=食べ難)、「神」=かみなり、「すべかめる」=べかる+めり。



この章で覚える文法(テストに出る順)
- 伝聞推定「なり」:あなり=あるなり(あるそうだ・あるようだ)
- 反実仮想:ましかば〜まし(もし〜だったら〜だろうに)
- 係り結び:こそ…べけれ/か…べき(反語)/にやあらむ
- 二方面への敬語:申したまふ(神へ謙譲・大納言へ尊敬)
- 強意の「ぬ・つ」:ぬべし・てむ(きっと〜)
前の章までのあらすじと大伴の大納言
かぐや姫は、求婚してきた5人の貴公子に、それぞれ手に入れるのがむずかしい宝物を持ってくるよう難題を出しました。石作の皇子(仏の御石の鉢)、くらもちの皇子(蓬莱の玉の枝)、阿倍の右大臣(火鼠の皮衣)は、にせ物やうそがばれて失敗しました。4人目の大伴御行の大納言に出された難題は「竜の首にある五色に光る玉」です。大納言は家来に命じるだけでなく、最後は自分で海に出ることになります。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
大伴御行の大納言は、我が家にありとある人を召し集めて、のたまはく、「竜の首に五色の光ある玉あなり。それを取り奉りたらむ人には、願はむことをかなへむ。」とのたまふ。
現代語訳大伴御行の大納言は、自分の家に仕える者を一人残らず呼び集めて、おっしゃることには、「竜の首に、五色に光る玉があるそうだ。それを取って(わたしに)差し上げた者には、願うことを何でもかなえてやろう。」とおっしゃる。
- 「あなり」は「あるなり」→「あんなり」→「あ(ん)なり」。「ん」が書かれない形。この「なり」は伝聞推定で「あるそうだ」。→伝聞推定の「なり」と断定の「なり」の見分け方
- 「のたまはく」は尊敬語「のたまふ」+「く」で「おっしゃることには」。→よく出る敬語動詞の一覧(のたまふ・申す・奉る)
- 「取り奉りたらむ人」「願はむこと」の「む」は、名詞の前につく婉曲(〜ような)。訳では省いてもよい。→推量の助動詞「む」の意味(推量・意志・婉曲)
- 「ありとある」は「あらゆる・いるかぎりの」。


2
男ども、仰せのことを承りて申さく、「仰せのことは、いとも尊し。ただし、この玉、たはやすくえ取らじを、いはむや竜の首の玉は、いかが取らむ。」と申しあへり。
現代語訳家来たちは、ご命令を承って申し上げることには、「ご命令はまことにもったいのうございます。ただ、こういう玉はそう簡単には取れないでしょう。まして竜の首の玉となると、どうやって取ればよいのでしょうか。」と口々に申し上げた。
- 「え取らじ」はえ+打消で不可能(〜できない)。「じ」は打消推量で「取れないだろう」。→打消推量の助動詞「じ」(〜ないだろう・〜まい)
- 「いはむや」は「まして」。「AだにB、いはむやC」(Aでさえ〜、ましてCは)の形でよく出る。
- 「承る」「申す」は謙譲語で、家来から大納言への敬意。→敬意の方向(誰から誰への敬意か)の見分け方
3
大納言のたまふ、「君の使ひといはむ者は、『命を捨てても、おのが君の仰せごとをばかなへむ。』とこそ思ふべけれ。この国になき、天竺・唐土の物にもあらず。この国の海山より、竜は下り上るものなり。いかに思ひてか、汝ら、難きものと申すべき。」
現代語訳大納言がおっしゃるには、「主君の家来という者は、『命を捨ててでも、自分の主君のご命令はかなえよう』と思うべきなのだ。(竜の玉は)この国にない天竺(インド)や唐土(中国)の物でもない。竜はこの国の海や山から下りたり上ったりするものだ。どう思って、お前たちは難しいものだなどと申すのか(そんなことを言ってよいはずがない)。」
- 係り結びが2つ。「こそ…べけれ」(已然形)、「か…べき」(連体形)。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「いかに思ひてか…申すべき」は形は質問だが反語(〜か、いや〜ない)。「べし」は当然(〜べきだ・〜はずだ)。→助動詞「べし」の6つの意味(スイカトメテ)
- 「物にもあらず」の「に」は断定「なり」の連用形(〜でもない)。「天竺」はインド、「唐土」は中国。


4
男ども申すやう、「さらば、いかがはせむ。難きものなりとも、仰せごとに従ひて、求めにまからむ。」と申す。大納言、見笑ひて、「汝ら、君の使ひと名を流しつ。君の仰せごとをば、いかがは背くべき。」とのたまひて、竜の首の玉取りにとて、出だし立てたまふ。
現代語訳家来たちが申し上げることには、「それならば、しかたがありません。難しいものであっても、ご命令に従って探しに参りましょう。」と申し上げる。大納言は満足そうに笑って、「お前たちは主君の家来として名が知られている。主君の命令にどうして背けようか。」とおっしゃって、竜の首の玉を取りに行かせようと、送り出しなさる。
- 「いかがはせむ」は反語で「どうしようか、いや、どうしようもない」→「しかたがない」。決まり文句として覚える。
- 「まからむ」の「まかる」は「行く」の謙譲語(参る)、「む」は意志(〜しよう)。→古文の敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)
- 「名を流しつ」は「名を世に広めた」。家来としての評判を持ち上げて、断れないようにしている。
5
この人々の道の糧、食ひ物に、殿の内の絹・綿・銭など、あるかぎり取り出でて、添へて遣はす。「この人々ども帰るまで、斎ひをして我はをらむ。この玉取り得では、家に帰り来な。」とのたまはせけり。
現代語訳この家来たちの旅の食料や食べ物として、屋敷の中にある絹・綿・お金などを、あるだけ取り出して持たせて送り出す。「この者たちが帰るまで、わたしは身を清めて(精進して)待っていよう。この玉を取らないうちは、家に帰ってくるな。」とおっしゃった。
- 「取り得では」の「で」は打消の接続助詞(〜ないで)。「帰り来な」の「な」は禁止の終助詞(〜するな)。→古文の終助詞(ばや・なむ・な・そ)
- 「斎ひ」は、神仏に願うために食べ物などをつつしんで身を清めること。
6
おのおの仰せ承りて、まかり出でぬ。「竜の首の玉取り得ずは、帰り来な。」とのたまへば、いづちもいづちも、足の向きたらむ方へ去なむとす。「かかる好き事をしたまふこと。」とそしりあへり。賜はせたる物は、おのおの分けつつ取る。あるいはおのが家に籠りゐ、あるいはおのが行かまほしき所へ去ぬ。「親・君と申すとも、かくつきなきことを仰せたまふこと。」と、ことゆかぬものゆゑ、大納言をそしりあひたり。
現代語訳家来たちはそれぞれご命令を承って退出した。「竜の首の玉を取れないなら、帰ってくるな。」とおっしゃるので、どこへでも、足の向いた方へ行ってしまおうとする。「こんな物好きなことをなさるとは。」と悪口を言い合った。いただいた品物は、それぞれ分けて取る。ある者は自分の家に閉じこもり、ある者は自分の行きたい所へ行ってしまう。「親や主君だといっても、こんなとんでもないことをお命じになるとは。」と、納得がいかないので、大納言の悪口を言い合った。
- 「取り得ずは」=打消の連用形+はで「〜ないならば」。→打消の助動詞「ず」の活用と用法
- 「行かまほしき所へ去ぬ」の「去ぬ」はナ変動詞(行ってしまう)。完了の「ぬ」ではない。「まほし」は希望(〜たい)。→「ぬ」の識別(完了・打消・ナ変)
- 「好き事」は物好きなこと、「つきなし」はふさわしくない・とんでもない、「そしる」は悪口を言う。

7
「かぐや姫据ゑむには、例のやうには見にくし。」とのたまひて、うるはしき屋を造りたまひて、漆を塗り、蒔絵をし、いろへしたまひて、屋の上には糸を染めて色々に葺かせて、内々のしつらひには、言ふべくもあらぬ綾織物に絵を描きて、間ごとに張りたり。もとの妻どもは去りて、「かぐや姫を必ずあはむ。」とまうけして、ひとり明かし暮らしたまふ。
現代語訳「かぐや姫を迎えて住まわせるには、ふつうの家では見苦しい。」とおっしゃって、立派な建物をお造りになって、漆を塗り、蒔絵をし、色どりをほどこしなさって、屋根には糸を染めていろいろな色でふかせて、部屋の中の飾りつけには、言葉にできないほどすばらしい綾織物に絵を描いて、柱の間ごとに張ってある。もとの妻たちとは別れて、「かぐや姫と必ず結婚しよう。」と準備をして、一人で夜を明かし日を暮らしていらっしゃる。
- 「葺かせて」の「せ」は使役(ふかせる)。→使役・尊敬の助動詞「す・さす・しむ」
- 「言ふべくもあらぬ」は「言うこともできないほどの」。「べし」の可能+打消。
- 「あふ」は古文では結婚するの意味。→古文常識の一覧(通い婚・物忌みなど)
- まだ玉も取れていないのに、新しい家を建てて妻たちと別れる。大納言の気の早さが笑いどころ。
8
遣はしし人は、夜昼待ちたまふに、年越ゆるまで音もせず。心もとながりて、いと忍びて、ただ舎人二人、召次として、やつれたまひて、難波の辺におはしまして、問ひたまふことは、「大伴の大納言の人や、船に乗りて竜殺して、そが首の玉取れるとや聞く。」と問はするに、
現代語訳送り出した家来たちを夜も昼もお待ちになるが、年が明けるまで何の便りもない。待ちきれなくなって、ごくこっそりと、ただ舎人(雑用の従者)二人をお供の使いとして、目立たない身なりになって、難波のあたりにいらっしゃって、お尋ねになることには、「大伴の大納言の家来が、船に乗って竜を殺し、その首の玉を取ったと聞いているか。」と(お供に)尋ねさせると、
- 「遣はしし」の「し」は過去「き」の連体形。→過去の助動詞「き・けり」の違い
- 「とや聞く」は係助詞「や」(疑問)の係り結び。「聞く」は連体形(終止形と同じ形)。
- 「心もとながる」はじれったく思う、「やつる」は目立たない地味な姿になる。
9
船人答へていはく、「あやしきことかな。」と笑ひて、「さるわざする船もなし。」と答ふるに、「をぢなきことする船人にもあるかな。え知らで、かく言ふ。」とおぼして、「我が弓の力は、竜あらば、ふと射殺して、首の玉は取りてむ。遅く来る奴ばらを待たじ。」とのたまひて、
現代語訳船乗りが答えて言うには、「おかしなことを言うなあ。」と笑って、「そんなことをする船などありません。」と答えるので、(大納言は)「臆病なことを言う船乗りだなあ。(わたしの力を)知らないから、こんなことを言うのだ。」とお思いになって、「わたしの弓の力なら、竜がいれば、さっと射殺して、首の玉はきっと取ってやる。遅れてやって来る家来どもなど待つまい。」とおっしゃって、
- 「取りてむ」は強意の「つ」+意志の「む」で「きっと〜しよう」。→完了の助動詞「つ・ぬ」の違い(強意のてむ・なむ)
- 「待たじ」の「じ」は打消意志(〜まい)。主語が自分(一人称)なら打消意志。→打消推量の助動詞「じ」(〜ないだろう・〜まい)
- 「え知らで」は「え+打消」で「知ることができないで」。「をぢなし」は臆病だ。
10
船に乗りて、海ごとに歩きたまふに、いと遠くて、筑紫の方の海に漕ぎ出でたまひぬ。いかがしけむ、早き風吹きて、世界暗がりて、船を吹きもて歩く。いづれの方とも知らず、船を海中にまかり入りぬべく吹き回して、波は船にうちかけつつ巻き入れ、神は落ちかかるやうにひらめきかかるに、大納言は惑ひて、「まだかかるわびしき目は見ず。いかならむとするぞ。」とのたまふ。
現代語訳船に乗って、あちこちの海を回りなさるうちに、ずいぶん遠くまで行って、筑紫(九州)の方の海に漕ぎ出しなさった。どうしたのだろうか、激しい風が吹いて、あたり一面が暗くなって、船を吹き回す。どの方角ともわからず、船を今にも海の中に沈めてしまいそうなほど吹き回して、波は船に打ちかかっては巻きこみ、雷は落ちてくるかのようにひらめきかかるので、大納言はうろたえて、「まだこんなにつらい目にあったことはない。いったいどうなるのだ。」とおっしゃる。
- 「入りぬべく」は強意の「ぬ」+推量の「べし」で「きっと〜しそうなほど」。→完了の助動詞「つ・ぬ」の違い(強意のぬべし)
- 「いかがしけむ」は「どうしたのだろうか」という挿入句。「けむ」は過去推量。→過去推量の助動詞「けむ」
- ここの「神」はかみなりのこと(鳴る神)。「わびし」はつらい・やりきれない。



出典:『竹取物語』絵巻 中巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)
11
楫取答へて申す、「ここら船に乗りてまかり歩くに、まだかかるわびしき目を見ず。御船海の底に入らずは、神落ちかかりぬべし。もし幸ひに神の助けあらば、南海に吹かれおはしぬべし。うたてある主の御もとに仕うまつりて、すずろなる死にをすべかめるかな。」とて、楫取泣く。
現代語訳船頭が答えて申し上げる、「長年たくさん船に乗ってあちこち行っておりますが、まだこんなひどい目にあったことはありません。お船が海の底に沈まなければ、きっと雷が落ちてくるでしょう。もし運よく神のお助けがあれば、南の海に吹き流されておしまいになるでしょう。情けないご主人のおそばにお仕えして、思いもよらない死に方をすることになるようですなあ。」と言って、船頭は泣く。
- 「すべかめる」は「すべかるめる」→「すべかんめる」→「すべか(ん)める」。第1章の「なめり」と同じしくみで、「べし」+推定「めり」。→推定の助動詞「めり」となめり・べかめり
- 「吹かれ」の「れ」は受身(吹き流される)。→助動詞「る・らる」の4つの意味(受身・尊敬・自発・可能)
- 「楫取」は船頭。「ここら」はたくさん、「うたてあり」はいやだ・情けない、「すずろなり」は思いがけない。主人を「うたてある主」と言ってしまうほど、船頭も追いつめられている。
12
大納言これを聞きてのたまはく、「船に乗りては、楫取の申すことをこそ高き山と頼め。など、かく頼もしげなきことを申すぞ。」と、青反吐をつきてのたまふ。
現代語訳大納言はこれを聞いておっしゃることには、「船に乗ったら、船頭の言うことこそを高い山のように頼りにするのだ。どうしてこんなに頼りにならないことを申すのか。」と、青い反吐(へど)を吐きながらおっしゃる。
- 「こそ…頼め」は係り結び。四段動詞「頼む」の已然形「頼め」で結んでいる(命令形と同じ形なので注意)。→係り結びの決まり(こその結びは已然形)
- 「など」は「どうして」。「青反吐」は苦しさのあまり吐くこと。えらそうな大納言の、かっこ悪い姿が描かれる。
13
楫取答へて申す、「神ならねば、何わざをか仕うまつらむ。風吹き、波激しけれども、神さへいただきに落ちかかるやうなるは、竜を殺さむと求めたまひさぶらへば、かくあなり。疾風も竜の吹かするなり。はや、神に祈りたまへ。」と言へば、
現代語訳船頭が答えて申し上げる、「(わたしは)神ではないので、何をしてさしあげられましょうか(何もできません)。風が吹き、波が激しいうえに、雷までが頭の上に落ちかかるようなのは、竜を殺そうとお探しになっていらっしゃるので、こうなっているようです。この疾風も竜が吹かせているのです。早く神にお祈りなさいませ。」と言うので、
- 「神ならねば」の「神」は神様。「ならねば」は断定の未然形+打消の已然形+ばで「神ではないので」。→断定の助動詞「なり・たり」
- 「求めたまひさぶらへば」は尊敬(たまふ)+丁寧(さぶらふ)。どちらも船頭から大納言への敬意。→丁寧語「侍り・候ふ」の使い方
- 「かくあなり」の「なり」は伝聞推定。船頭は風や雷の音を聞いて「竜のせいらしい」と判断している。「吹かするなり」の「なり」は連体形につく断定。→「なり」の識別(断定・伝聞推定・形容動詞)
14
「よきことなり。」とて、「楫取の御神聞こしめせ。をぢなく心幼く、竜を殺さむと思ひけり。今より後は、毛一筋をだに動かし奉らじ。」と、よごとを放ちて、立ち居、泣く泣く呼ばひたまふこと、千度ばかり申したまふけにやあらむ、やうやう神鳴りやみぬ。
現代語訳「それはよいことだ。」と言って、「船を守る神様、お聞きください。臆病で考えが浅く、竜を殺そうなどと思いました。今から後は、(竜の)毛一本さえ動かし申し上げますまい。」と、祈りの言葉を声に出して、立ったり座ったりしながら、泣く泣く叫びなさることを、千回ほど申し上げなさったせいであろうか、だんだん雷が鳴りやんだ。
- 「申したまふ」は二方面への敬語。「申す」(謙譲)は作者から神(申し上げる相手)への敬意、「たまふ」(尊敬)は作者から大納言(申す人)への敬意。→二方面への敬語(謙譲語+尊敬語)の考え方
- 「けにやあらむ」は「け(故)」=せい・ため+断定「に」+係助詞「や」+「あらむ」(連体形の結び)で「〜のせいであろうか」。→係り結び(にやあらむ・にこそあらめ)
- 「毛一筋をだに」の「だに」は「〜さえ」。船乗りを「をぢなき」(臆病)と笑った大納言が、ここでは自分を「をぢなく」と言っている。


15
少し明かりて、風はなほ速く吹く。楫取のいはく、「これは竜のしわざにこそありけれ。この吹く風は、よき方の風なり。悪しき方の風にはあらず。よき方におもむきて吹くなり。」と言へども、大納言はこれを聞き入れたまはず。三四日ありて、吹き返し寄せたり。浜を見れば、播磨の明石の浜なりけり。大納言、「南海の浜に吹き寄せられたるにやあらむ。」と思ひて、息つき伏したまへり。
現代語訳少し明るくなって、風はまだ速く吹いている。船頭が言うには、「これは竜のしわざだったのですねえ。この吹く風は、よい方角への風です。悪い方角への風ではありません。よい方へ向かって吹いているのです。」と言うけれど、大納言はこれを聞き入れなさらない。三、四日たって、(風が船を)吹き戻して岸に寄せた。浜を見ると、なんと播磨の明石の浜であった。大納言は「南の海の浜に吹き寄せられたのであろうか。」と思って、ため息をついて横になっていらっしゃる。
- 「〜にこそありけれ」「〜なりけり」の「けり」は、今そうだと気づいたときの気づき(詠嘆)で「〜だったのだなあ」。→過去の助動詞「き・けり」の違い(詠嘆のけり)
- 「にやあらむ」は「〜であろうか」。ここも「や」の結びで「む」は連体形。
- 明石は播磨の国(今の兵庫県)の浜。船頭の言葉を聞かずに「南海に流された」と思いこんでいる大納言が、こっけいに描かれている。
16
船にある男ども、国に告げたれば、国の司まうでとぶらふにも、え起き上がりたまはで、船底に伏したまへり。松原に御筵敷きて、下ろし奉る。
現代語訳船に乗っていた者たちが国の役所に知らせたので、国司が参上してお見舞いするけれども、(大納言は)起き上がることもおできにならず、船底に横になっていらっしゃる。松原にむしろを敷いて、(船から)お下ろし申し上げる。
- 「え起き上がりたまはで」はえ+打消の「で」で「起き上がることがおできにならないで」。→古文の接続助詞(ば・ど・で・つつ)
- 「国の司」は国司(その国を治める役人)。「とぶらふ」は見舞う。
17
その時にぞ、「南海にあらざりけり。」と思ひて、からうじて起き上がりたまへるを見れば、風いと重き人にて、腹いとふくれ、こなたかなたの目には、すももを二つつけたるやうなり。これを見奉りてぞ、国の司もほほゑみたる。
現代語訳その時になってようやく「南の海ではなかったのだなあ。」と思って、やっとのことで起き上がりなさったのを見ると、ひどい風病(重い病気)にかかった人のようで、おなかはひどくふくれ、両方の目には、すももを二つくっつけたようである。これを見申し上げて、国司も思わずほほえんだ。
- 「ぞ…たる」は係り結び(連体形)。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「風」は風病(ふびょう)のこと。悪い風によって起こると考えられた病気。
- 「こなたかなたの目」は両方の目。目がすももの実のようにはれ上がった、という大げさな描写が、最後の語源ばなしにつながる。



出典:『竹取物語』絵巻 中巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)
18
国に仰せたまひて、手輿作らせたまひて、によふによふ担はれて、家に入りたまひぬるを、いかで聞きけむ、遣はしし男ども参りて申すやう、「竜の首の玉をえ取らざりしかばなむ、殿へもえ参らざりし。玉の取りがたかりしことを知りたまへればなむ、勘当あらじとて参りつる。」と申す。
現代語訳国の役所にお命じになって、手輿(手で担ぐこし)を作らせなさって、うんうんうめきながら担がれて、家にお入りになったのを、どうやって聞きつけたのだろうか、送り出した家来たちがやって来て申し上げることには、「竜の首の玉を取ることができなかったので、お屋敷へも参上できなかったのです。(でも今は殿も)玉が取りにくいことをお分かりになったので、おとがめはないだろうと思って参上しました。」と申し上げる。
- 「なむ…し」「なむ…つる」と、なむの係り結びが2つ。どちらも連体形で結ぶ。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「ざりしかば」は打消+過去「き」の已然形「しか」+ば(〜なかったので)。→過去の助動詞「き」の活用(せ・○・き・し・しか)
- 「勘当」はおとがめ。逃げていた家来たちが、大納言が失敗したと聞いて、ちゃっかり戻ってくる。
19
大納言起き出でてのたまはく、「汝ら、よく持て来ずなりぬ。竜は鳴る神の類にこそありけれ。それが玉を取らむとて、そこらの人々の害せられなむとしけり。まして竜を捕らへたらましかば、また事もなく、我は害せられなまし。よく捕らへずなりにけり。
現代語訳大納言は起き上がっておっしゃることには、「お前たち、よくぞ(竜の玉を)持って来ないでくれた。竜は雷の仲間だったのだなあ。その玉を取ろうとして、多くの人々が殺されそうになった。まして竜を捕まえていたら、あっけなくわたしは殺されていただろう。よくぞ捕まえずに済んだものだ。
- 反実仮想:「捕らへたらましかば…害せられなまし」=「もし捕まえていたら、殺されていただろう(実際は捕まえていない)」。→反実仮想の助動詞「まし」(ましかば〜まし)
- 「害せられなむとしけり」は「(きっと)殺されそうになった」。「なむとす」=強意+推量・意志で「今にも〜しそうになる」。
- 「鳴る神」は雷。少し前まで家来を「命を捨てても」としかっていたのに、今は「よく取って来なかった」とほめている。


20
かぐや姫てふ大盗人の奴が、人を殺さむとするなりけり。家のあたりだに、今は通らじ。男どもも、な歩きそ。」とて、家に少し残りたりける物どもは、竜の玉取らぬ者どもに賜びつ。
現代語訳かぐや姫という大泥棒めが、人を殺そうとしていたのだなあ。家のあたりさえ、もう通るまい。お前たちも(あそこへ)行くな。」と言って、家に少し残っていた品物は、竜の玉を取らなかった家来たちにお与えになった。
- 「な歩きそ」はな+連用形+そで「〜するな」(禁止)。→古文の終助詞(な〜そ・ばや・なむ)
- 「家のあたりだに」は「〜さえ」。→古文の副助詞(だに・すら・さへ・のみ)
- 「てふ」は「といふ」がつまった形(ちょう)。宝物の代わりに、竜の玉を取らなかった者にほうびを与える、という逆転がおかしい。
21
これを聞きて、離れたまひしもとの上は、腹を切りて笑ひたまふ。糸を葺かせ作りし屋は、鳶・烏の巣に、みな食ひもて去にけり。
現代語訳これを聞いて、離縁されたもとの奥方は、腹がよじれるほど大笑いなさる。糸でふかせて造った屋根は、トビやカラスが巣の材料にするために、みなくわえて持って行ってしまった。
- 「腹を切りて笑ふ」は切腹ではなく、「腹がよじれるほど笑う」こと。
- 「去にけり」の「去に」はナ変動詞「去ぬ」の連用形。完了「ぬ」の連用形「に」とまちがえない。→「に」の識別7種類
- かぐや姫のために造った豪華な屋根が、鳥の巣になってしまう。
22
世界の人の言ひけるは、「大伴の大納言は、竜の玉や取りておはしたる。」「いな、さもあらず。御眼二つに、すもものやうなる玉をぞ添へていましたる。」と言ひければ、「あな、たへがた。」と言ひけるよりぞ、世にあはぬことをば、「あな、たへがた」とは言ひ始めける。
現代語訳世間の人が言ったことには、「大伴の大納言は、竜の玉を取っていらっしゃったのか。」「いや、そうではない。両方の目に、すももみたいな玉をくっつけていらっしゃった。」と言ったので、「ああ、たえがたい(食べがたい)。」と言ったことから、世の中の道理に合わないことを、「あな、たへがた」と言い始めたのだ。
- 語源ばなし:「たへがた」に、「堪へ難(たへがた)」=がまんできないと、目についた玉がすももなので「食べ難(たべがた)」=食べられないを重ねたダジャレと説明されることが多い(説明には諸説ある)。→掛詞(同じ音に二つの意味)のしくみ
- 竹取物語の5人の求婚の話は、どれも最後に「〜とは言ひける」という言葉の由来で締めくくられる。
- 「や…たる」「ぞ…たる」「ぞ…ける」と係り結びが3つ。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)


「申したまふ」の敬意の向きを図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| ありとある | ありとある | あらゆる・いるかぎりの |
| たはやすし | たわやすし | たやすい・簡単だ |
| 天竺 | てんじく | インド |
| 唐土 | もろこし | 中国 |
| 好き事 | すきごと | 物好きなこと |
| つきなし | つきなし | ふさわしくない・とんでもない |
| そしる | そしる | 悪口を言う |
| 心もとながる | こころもとながる | じれったく思う・待ち遠しがる |
| やつる | やつる | 目立たない地味な姿になる |
| をぢなし | おじなし | 臆病だ・意気地がない |
| わびし | わびし | つらい・やりきれない |
| ここら | ここら | たくさん・大勢 |
| うたてあり | うたてあり | いやだ・情けない |
| すずろなり | すずろなり | 思いがけない・わけもない |
| 勘当 | かんどう | おとがめ |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「竜の首に五色の光ある玉あなり」の「なり」の意味は?
伝聞推定の助動詞「なり」の終止形。「あるなり」→「あんなり」の「ん」が書かれない形で、「あるそうだ」と訳す。
問2 「いかに思ひてか、汝ら、難きものと申すべき」を現代語訳しなさい。
「どう思って、お前たちは難しいものだと申すのか(いや、そう言ってよいはずがない)。」「か…べき」は反語。
問3 「船を海中にまかり入りぬべく吹き回して」の「ぬべく」を文法的に説明しなさい。
強意の助動詞「ぬ」の終止形+推量の助動詞「べし」の連用形。「きっと〜しそうなほど」と訳す。
問4 「千度ばかり申したまふ」の「申し」「たまふ」は、それぞれ誰への敬意?
「申し」(謙譲語)は作者から神への敬意、「たまふ」(尊敬語)は作者から大納言への敬意(二方面への敬語)。
問5 「まして竜を捕らへたらましかば、また事もなく我は害せられなまし」を現代語訳しなさい。
「まして竜を捕まえていたら、あっけなくわたしは殺されていただろう。」「ましかば〜まし」は反実仮想。
問6 「神落ちかかりぬべし」の「神」は何のこと?
かみなり(雷)。「鳴る神」とも言う。
問7 大納言の目が「すもも」のようになったのはなぜか。
嵐の船の上で重い風病(病気)にかかり、両目がはれ上がったから。
問8 「あな、たへがた」という言葉の由来(語源ばなし)を説明しなさい。
竜の玉を取るどころか、目にすももの玉をつけて帰った大納言を見て「ああ、堪へ難い(たえがたい)」と言ったことから、とされる。すももなので「食べ難(たべがた)い」の意味も重ねたダジャレと説明されることが多い。

竹取物語「竜の首の玉」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
大伴御行の大納言は、我が家にありとある人を召し集めて、のたまはく、「竜の首に五色の光ある玉あなり。それを取り奉りたらむ人には、願はむことをかなへむ。」とのたまふ。
男ども、仰せのことを承りて申さく、「仰せのことは、いとも尊し。ただし、この玉、たはやすくえ取らじを、いはむや竜の首の玉は、いかが取らむ。」と申しあへり。
大納言のたまふ、「君の使ひといはむ者は、『命を捨てても、おのが君の仰せごとをばかなへむ。』とこそ思ふべけれ。この国になき、天竺・唐土の物にもあらず。この国の海山より、竜は下り上るものなり。いかに思ひてか、汝ら、難きものと申すべき。」
男ども申すやう、「さらば、いかがはせむ。難きものなりとも、仰せごとに従ひて、求めにまからむ。」と申す。大納言、見笑ひて、「汝ら、君の使ひと名を流しつ。君の仰せごとをば、いかがは背くべき。」とのたまひて、竜の首の玉取りにとて、出だし立てたまふ。
この人々の道の糧、食ひ物に、殿の内の絹・綿・銭など、あるかぎり取り出でて、添へて遣はす。「この人々ども帰るまで、斎ひをして我はをらむ。この玉取り得では、家に帰り来な。」とのたまはせけり。
おのおの仰せ承りて、まかり出でぬ。「竜の首の玉取り得ずは、帰り来な。」とのたまへば、いづちもいづちも、足の向きたらむ方へ去なむとす。「かかる好き事をしたまふこと。」とそしりあへり。賜はせたる物は、おのおの分けつつ取る。あるいはおのが家に籠りゐ、あるいはおのが行かまほしき所へ去ぬ。「親・君と申すとも、かくつきなきことを仰せたまふこと。」と、ことゆかぬものゆゑ、大納言をそしりあひたり。
「かぐや姫据ゑむには、例のやうには見にくし。」とのたまひて、うるはしき屋を造りたまひて、漆を塗り、蒔絵をし、いろへしたまひて、屋の上には糸を染めて色々に葺かせて、内々のしつらひには、言ふべくもあらぬ綾織物に絵を描きて、間ごとに張りたり。もとの妻どもは去りて、「かぐや姫を必ずあはむ。」とまうけして、ひとり明かし暮らしたまふ。
遣はしし人は、夜昼待ちたまふに、年越ゆるまで音もせず。心もとながりて、いと忍びて、ただ舎人二人、召次として、やつれたまひて、難波の辺におはしまして、問ひたまふことは、「大伴の大納言の人や、船に乗りて竜殺して、そが首の玉取れるとや聞く。」と問はするに、
船人答へていはく、「あやしきことかな。」と笑ひて、「さるわざする船もなし。」と答ふるに、「をぢなきことする船人にもあるかな。え知らで、かく言ふ。」とおぼして、「我が弓の力は、竜あらば、ふと射殺して、首の玉は取りてむ。遅く来る奴ばらを待たじ。」とのたまひて、
船に乗りて、海ごとに歩きたまふに、いと遠くて、筑紫の方の海に漕ぎ出でたまひぬ。いかがしけむ、早き風吹きて、世界暗がりて、船を吹きもて歩く。いづれの方とも知らず、船を海中にまかり入りぬべく吹き回して、波は船にうちかけつつ巻き入れ、神は落ちかかるやうにひらめきかかるに、大納言は惑ひて、「まだかかるわびしき目は見ず。いかならむとするぞ。」とのたまふ。
楫取答へて申す、「ここら船に乗りてまかり歩くに、まだかかるわびしき目を見ず。御船海の底に入らずは、神落ちかかりぬべし。もし幸ひに神の助けあらば、南海に吹かれおはしぬべし。うたてある主の御もとに仕うまつりて、すずろなる死にをすべかめるかな。」とて、楫取泣く。
大納言これを聞きてのたまはく、「船に乗りては、楫取の申すことをこそ高き山と頼め。など、かく頼もしげなきことを申すぞ。」と、青反吐をつきてのたまふ。
楫取答へて申す、「神ならねば、何わざをか仕うまつらむ。風吹き、波激しけれども、神さへいただきに落ちかかるやうなるは、竜を殺さむと求めたまひさぶらへば、かくあなり。疾風も竜の吹かするなり。はや、神に祈りたまへ。」と言へば、
「よきことなり。」とて、「楫取の御神聞こしめせ。をぢなく心幼く、竜を殺さむと思ひけり。今より後は、毛一筋をだに動かし奉らじ。」と、よごとを放ちて、立ち居、泣く泣く呼ばひたまふこと、千度ばかり申したまふけにやあらむ、やうやう神鳴りやみぬ。
少し明かりて、風はなほ速く吹く。楫取のいはく、「これは竜のしわざにこそありけれ。この吹く風は、よき方の風なり。悪しき方の風にはあらず。よき方におもむきて吹くなり。」と言へども、大納言はこれを聞き入れたまはず。三四日ありて、吹き返し寄せたり。浜を見れば、播磨の明石の浜なりけり。大納言、「南海の浜に吹き寄せられたるにやあらむ。」と思ひて、息つき伏したまへり。
船にある男ども、国に告げたれば、国の司まうでとぶらふにも、え起き上がりたまはで、船底に伏したまへり。松原に御筵敷きて、下ろし奉る。
その時にぞ、「南海にあらざりけり。」と思ひて、からうじて起き上がりたまへるを見れば、風いと重き人にて、腹いとふくれ、こなたかなたの目には、すももを二つつけたるやうなり。これを見奉りてぞ、国の司もほほゑみたる。
国に仰せたまひて、手輿作らせたまひて、によふによふ担はれて、家に入りたまひぬるを、いかで聞きけむ、遣はしし男ども参りて申すやう、「竜の首の玉をえ取らざりしかばなむ、殿へもえ参らざりし。玉の取りがたかりしことを知りたまへればなむ、勘当あらじとて参りつる。」と申す。
大納言起き出でてのたまはく、「汝ら、よく持て来ずなりぬ。竜は鳴る神の類にこそありけれ。それが玉を取らむとて、そこらの人々の害せられなむとしけり。まして竜を捕らへたらましかば、また事もなく、我は害せられなまし。よく捕らへずなりにけり。
かぐや姫てふ大盗人の奴が、人を殺さむとするなりけり。家のあたりだに、今は通らじ。男どもも、な歩きそ。」とて、家に少し残りたりける物どもは、竜の玉取らぬ者どもに賜びつ。
これを聞きて、離れたまひしもとの上は、腹を切りて笑ひたまふ。糸を葺かせ作りし屋は、鳶・烏の巣に、みな食ひもて去にけり。
世界の人の言ひけるは、「大伴の大納言は、竜の玉や取りておはしたる。」「いな、さもあらず。御眼二つに、すもものやうなる玉をぞ添へていましたる。」と言ひければ、「あな、たへがた。」と言ひけるよりぞ、世にあはぬことをば、「あな、たへがた」とは言ひ始めける。
竹取物語「竜の首の玉」現代語訳(全文・通し)
大伴御行の大納言は、自分の家に仕える者を一人残らず呼び集めて、おっしゃることには、「竜の首に、五色に光る玉があるそうだ。それを取って(わたしに)差し上げた者には、願うことを何でもかなえてやろう。」とおっしゃる。
家来たちは、ご命令を承って申し上げることには、「ご命令はまことにもったいのうございます。ただ、こういう玉はそう簡単には取れないでしょう。まして竜の首の玉となると、どうやって取ればよいのでしょうか。」と口々に申し上げた。
大納言がおっしゃるには、「主君の家来という者は、『命を捨ててでも、自分の主君のご命令はかなえよう』と思うべきなのだ。(竜の玉は)この国にない天竺(インド)や唐土(中国)の物でもない。竜はこの国の海や山から下りたり上ったりするものだ。どう思って、お前たちは難しいものだなどと申すのか(そんなことを言ってよいはずがない)。」
家来たちが申し上げることには、「それならば、しかたがありません。難しいものであっても、ご命令に従って探しに参りましょう。」と申し上げる。大納言は満足そうに笑って、「お前たちは主君の家来として名が知られている。主君の命令にどうして背けようか。」とおっしゃって、竜の首の玉を取りに行かせようと、送り出しなさる。
この家来たちの旅の食料や食べ物として、屋敷の中にある絹・綿・お金などを、あるだけ取り出して持たせて送り出す。「この者たちが帰るまで、わたしは身を清めて(精進して)待っていよう。この玉を取らないうちは、家に帰ってくるな。」とおっしゃった。
家来たちはそれぞれご命令を承って退出した。「竜の首の玉を取れないなら、帰ってくるな。」とおっしゃるので、どこへでも、足の向いた方へ行ってしまおうとする。「こんな物好きなことをなさるとは。」と悪口を言い合った。いただいた品物は、それぞれ分けて取る。ある者は自分の家に閉じこもり、ある者は自分の行きたい所へ行ってしまう。「親や主君だといっても、こんなとんでもないことをお命じになるとは。」と、納得がいかないので、大納言の悪口を言い合った。
「かぐや姫を迎えて住まわせるには、ふつうの家では見苦しい。」とおっしゃって、立派な建物をお造りになって、漆を塗り、蒔絵をし、色どりをほどこしなさって、屋根には糸を染めていろいろな色でふかせて、部屋の中の飾りつけには、言葉にできないほどすばらしい綾織物に絵を描いて、柱の間ごとに張ってある。もとの妻たちとは別れて、「かぐや姫と必ず結婚しよう。」と準備をして、一人で夜を明かし日を暮らしていらっしゃる。
送り出した家来たちを夜も昼もお待ちになるが、年が明けるまで何の便りもない。待ちきれなくなって、ごくこっそりと、ただ舎人(雑用の従者)二人をお供の使いとして、目立たない身なりになって、難波のあたりにいらっしゃって、お尋ねになることには、「大伴の大納言の家来が、船に乗って竜を殺し、その首の玉を取ったと聞いているか。」と(お供に)尋ねさせると、
船乗りが答えて言うには、「おかしなことを言うなあ。」と笑って、「そんなことをする船などありません。」と答えるので、(大納言は)「臆病なことを言う船乗りだなあ。(わたしの力を)知らないから、こんなことを言うのだ。」とお思いになって、「わたしの弓の力なら、竜がいれば、さっと射殺して、首の玉はきっと取ってやる。遅れてやって来る家来どもなど待つまい。」とおっしゃって、
船に乗って、あちこちの海を回りなさるうちに、ずいぶん遠くまで行って、筑紫(九州)の方の海に漕ぎ出しなさった。どうしたのだろうか、激しい風が吹いて、あたり一面が暗くなって、船を吹き回す。どの方角ともわからず、船を今にも海の中に沈めてしまいそうなほど吹き回して、波は船に打ちかかっては巻きこみ、雷は落ちてくるかのようにひらめきかかるので、大納言はうろたえて、「まだこんなにつらい目にあったことはない。いったいどうなるのだ。」とおっしゃる。
船頭が答えて申し上げる、「長年たくさん船に乗ってあちこち行っておりますが、まだこんなひどい目にあったことはありません。お船が海の底に沈まなければ、きっと雷が落ちてくるでしょう。もし運よく神のお助けがあれば、南の海に吹き流されておしまいになるでしょう。情けないご主人のおそばにお仕えして、思いもよらない死に方をすることになるようですなあ。」と言って、船頭は泣く。
大納言はこれを聞いておっしゃることには、「船に乗ったら、船頭の言うことこそを高い山のように頼りにするのだ。どうしてこんなに頼りにならないことを申すのか。」と、青い反吐(へど)を吐きながらおっしゃる。
船頭が答えて申し上げる、「(わたしは)神ではないので、何をしてさしあげられましょうか(何もできません)。風が吹き、波が激しいうえに、雷までが頭の上に落ちかかるようなのは、竜を殺そうとお探しになっていらっしゃるので、こうなっているようです。この疾風も竜が吹かせているのです。早く神にお祈りなさいませ。」と言うので、
「それはよいことだ。」と言って、「船を守る神様、お聞きください。臆病で考えが浅く、竜を殺そうなどと思いました。今から後は、(竜の)毛一本さえ動かし申し上げますまい。」と、祈りの言葉を声に出して、立ったり座ったりしながら、泣く泣く叫びなさることを、千回ほど申し上げなさったせいであろうか、だんだん雷が鳴りやんだ。
少し明るくなって、風はまだ速く吹いている。船頭が言うには、「これは竜のしわざだったのですねえ。この吹く風は、よい方角への風です。悪い方角への風ではありません。よい方へ向かって吹いているのです。」と言うけれど、大納言はこれを聞き入れなさらない。三、四日たって、(風が船を)吹き戻して岸に寄せた。浜を見ると、なんと播磨の明石の浜であった。大納言は「南の海の浜に吹き寄せられたのであろうか。」と思って、ため息をついて横になっていらっしゃる。
船に乗っていた者たちが国の役所に知らせたので、国司が参上してお見舞いするけれども、(大納言は)起き上がることもおできにならず、船底に横になっていらっしゃる。松原にむしろを敷いて、(船から)お下ろし申し上げる。
その時になってようやく「南の海ではなかったのだなあ。」と思って、やっとのことで起き上がりなさったのを見ると、ひどい風病(重い病気)にかかった人のようで、おなかはひどくふくれ、両方の目には、すももを二つくっつけたようである。これを見申し上げて、国司も思わずほほえんだ。
国の役所にお命じになって、手輿(手で担ぐこし)を作らせなさって、うんうんうめきながら担がれて、家にお入りになったのを、どうやって聞きつけたのだろうか、送り出した家来たちがやって来て申し上げることには、「竜の首の玉を取ることができなかったので、お屋敷へも参上できなかったのです。(でも今は殿も)玉が取りにくいことをお分かりになったので、おとがめはないだろうと思って参上しました。」と申し上げる。
大納言は起き上がっておっしゃることには、「お前たち、よくぞ(竜の玉を)持って来ないでくれた。竜は雷の仲間だったのだなあ。その玉を取ろうとして、多くの人々が殺されそうになった。まして竜を捕まえていたら、あっけなくわたしは殺されていただろう。よくぞ捕まえずに済んだものだ。
かぐや姫という大泥棒めが、人を殺そうとしていたのだなあ。家のあたりさえ、もう通るまい。お前たちも(あそこへ)行くな。」と言って、家に少し残っていた品物は、竜の玉を取らなかった家来たちにお与えになった。
これを聞いて、離縁されたもとの奥方は、腹がよじれるほど大笑いなさる。糸でふかせて造った屋根は、トビやカラスが巣の材料にするために、みなくわえて持って行ってしまった。
世間の人が言ったことには、「大伴の大納言は、竜の玉を取っていらっしゃったのか。」「いや、そうではない。両方の目に、すももみたいな玉をくっつけていらっしゃった。」と言ったので、「ああ、たえがたい(食べがたい)。」と言ったことから、世の中の道理に合わないことを、「あな、たへがた」と言い始めたのだ。
竹取物語「竜の首の玉」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(竹取物語の基本)
竹取物語の作者は誰?
作者はわかっていません(未詳)。漢文や仏教の知識がある男性の知識人と考えられています。
竹取物語はいつの作品?
平安時代のはじめ、9世紀後半〜10世紀前半ごろに成立したとされます。
竹取物語の冒頭(書き出し)は?
「今は昔、竹取の翁といふものありけり。」です。現代語訳は「今ではもう昔のことだが、竹取の翁という者がいたそうだ。」です。
なぜ日本最古の物語と言われるの?
『源氏物語』の絵合の巻で「物語の出で来はじめの祖」(物語が生まれた最初の祖先)と呼ばれているからです。
竹取物語 全文の目次
- 竹取物語「なよ竹のかぐや姫」の原文・現代語訳
- 竹取物語「貴公子たちの求婚」の原文・現代語訳
- 竹取物語「仏の御石の鉢」の原文・現代語訳
- 竹取物語「蓬莱の玉の枝」の原文・現代語訳
- 竹取物語「火鼠の皮衣」の原文・現代語訳
- 竜の首の玉(このページ)
- 竹取物語「燕の子安貝」の原文・現代語訳
- 竹取物語「帝の求婚」の原文・現代語訳
- 竹取物語「かぐや姫の昇天」の原文・現代語訳
- 竹取物語「ふじの山」の原文・現代語訳

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- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句
- 国語の勉強まとめ(古文・漢文・漢字・百人一首)
本文は『竹取物語』(國民文庫本、明治末刊)をもとに、教科書で広く読まれる形に合わせ、新字体・現代の送り仮名に直しました。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は、国立国会図書館デジタルコレクションの『竹取物語』絵巻(江戸時代前期)など、著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


