竹取物語「竜の首の玉」原文と現代語訳(印刷用・A4)

 竹取物語「竜の首の玉」の解説ページ(文法・問題つき)へ戻る

原文は國民文庫本をもとに教科書の形に整えたもの、現代語訳は合格大作戦のオリジナルです。

原文現代語訳
1大伴御行の大納言は、我が家にありとある人を召し集めて、のたまはく、「竜の首に五色の光ある玉あなり。それを取り奉りたらむ人には、願はむことをかなへむ。」とのたまふ。大伴御行の大納言は、自分の家に仕える者を一人残らず呼び集めて、おっしゃることには、「竜の首に、五色に光る玉があるそうだ。それを取って(わたしに)差し上げた者には、願うことを何でもかなえてやろう。」とおっしゃる。
2男ども、仰せのことを承りて申さく、「仰せのことは、いとも尊し。ただし、この玉、たはやすくえ取らじを、いはむや竜の首の玉は、いかが取らむ。」と申しあへり。家来たちは、ご命令を承って申し上げることには、「ご命令はまことにもったいのうございます。ただ、こういう玉はそう簡単には取れないでしょう。まして竜の首の玉となると、どうやって取ればよいのでしょうか。」と口々に申し上げた。
3大納言のたまふ、「君の使ひといはむ者は、『命を捨てても、おのが君の仰せごとをばかなへむ。』とこそ思ふべけれ。この国になき、天竺・唐土の物にもあらず。この国の海山より、竜は下り上るものなり。いかに思ひてか、汝ら、難きものと申すべき。」大納言がおっしゃるには、「主君の家来という者は、『命を捨ててでも、自分の主君のご命令はかなえよう』と思うべきなのだ。(竜の玉は)この国にない天竺(インド)や唐土(中国)の物でもない。竜はこの国の海や山から下りたり上ったりするものだ。どう思って、お前たちは難しいものだなどと申すのか(そんなことを言ってよいはずがない)。」
4男ども申すやう、「さらば、いかがはせむ。難きものなりとも、仰せごとに従ひて、求めにまからむ。」と申す。大納言、見笑ひて、「汝ら、君の使ひと名を流しつ。君の仰せごとをば、いかがは背くべき。」とのたまひて、竜の首の玉取りにとて、出だし立てたまふ。家来たちが申し上げることには、「それならば、しかたがありません。難しいものであっても、ご命令に従って探しに参りましょう。」と申し上げる。大納言は満足そうに笑って、「お前たちは主君の家来として名が知られている。主君の命令にどうして背けようか。」とおっしゃって、竜の首の玉を取りに行かせようと、送り出しなさる。
5この人々の道の糧、食ひ物に、殿の内の絹・綿・銭など、あるかぎり取り出でて、添へて遣はす。「この人々ども帰るまで、斎ひをして我はをらむ。この玉取り得では、家に帰り来な。」とのたまはせけり。この家来たちの旅の食料や食べ物として、屋敷の中にある絹・綿・お金などを、あるだけ取り出して持たせて送り出す。「この者たちが帰るまで、わたしは身を清めて(精進して)待っていよう。この玉を取らないうちは、家に帰ってくるな。」とおっしゃった。
6おのおの仰せ承りて、まかり出でぬ。「竜の首の玉取り得ずは、帰り来な。」とのたまへば、いづちもいづちも、足の向きたらむ方へ去なむとす。「かかる好き事をしたまふこと。」とそしりあへり。賜はせたる物は、おのおの分けつつ取る。あるいはおのが家に籠りゐ、あるいはおのが行かまほしき所へ去ぬ。「親・君と申すとも、かくつきなきことを仰せたまふこと。」と、ことゆかぬものゆゑ、大納言をそしりあひたり。家来たちはそれぞれご命令を承って退出した。「竜の首の玉を取れないなら、帰ってくるな。」とおっしゃるので、どこへでも、足の向いた方へ行ってしまおうとする。「こんな物好きなことをなさるとは。」と悪口を言い合った。いただいた品物は、それぞれ分けて取る。ある者は自分の家に閉じこもり、ある者は自分の行きたい所へ行ってしまう。「親や主君だといっても、こんなとんでもないことをお命じになるとは。」と、納得がいかないので、大納言の悪口を言い合った。
7「かぐや姫据ゑむには、例のやうには見にくし。」とのたまひて、うるはしき屋を造りたまひて、漆を塗り、蒔絵をし、いろへしたまひて、屋の上には糸を染めて色々に葺かせて、内々のしつらひには、言ふべくもあらぬ綾織物に絵を描きて、間ごとに張りたり。もとの妻どもは去りて、「かぐや姫を必ずあはむ。」とまうけして、ひとり明かし暮らしたまふ。「かぐや姫を迎えて住まわせるには、ふつうの家では見苦しい。」とおっしゃって、立派な建物をお造りになって、漆を塗り、蒔絵をし、色どりをほどこしなさって、屋根には糸を染めていろいろな色でふかせて、部屋の中の飾りつけには、言葉にできないほどすばらしい綾織物に絵を描いて、柱の間ごとに張ってある。もとの妻たちとは別れて、「かぐや姫と必ず結婚しよう。」と準備をして、一人で夜を明かし日を暮らしていらっしゃる。
8遣はしし人は、夜昼待ちたまふに、年越ゆるまで音もせず。心もとながりて、いと忍びて、ただ舎人二人、召次として、やつれたまひて、難波の辺におはしまして、問ひたまふことは、「大伴の大納言の人や、船に乗りて竜殺して、そが首の玉取れるとや聞く。」と問はするに、送り出した家来たちを夜も昼もお待ちになるが、年が明けるまで何の便りもない。待ちきれなくなって、ごくこっそりと、ただ舎人(雑用の従者)二人をお供の使いとして、目立たない身なりになって、難波のあたりにいらっしゃって、お尋ねになることには、「大伴の大納言の家来が、船に乗って竜を殺し、その首の玉を取ったと聞いているか。」と(お供に)尋ねさせると、
9船人答へていはく、「あやしきことかな。」と笑ひて、「さるわざする船もなし。」と答ふるに、「をぢなきことする船人にもあるかな。え知らで、かく言ふ。」とおぼして、「我が弓の力は、竜あらば、ふと射殺して、首の玉は取りてむ。遅く来る奴ばらを待たじ。」とのたまひて、船乗りが答えて言うには、「おかしなことを言うなあ。」と笑って、「そんなことをする船などありません。」と答えるので、(大納言は)「臆病なことを言う船乗りだなあ。(わたしの力を)知らないから、こんなことを言うのだ。」とお思いになって、「わたしの弓の力なら、竜がいれば、さっと射殺して、首の玉はきっと取ってやる。遅れてやって来る家来どもなど待つまい。」とおっしゃって、
10船に乗りて、海ごとに歩きたまふに、いと遠くて、筑紫の方の海に漕ぎ出でたまひぬ。いかがしけむ、早き風吹きて、世界暗がりて、船を吹きもて歩く。いづれの方とも知らず、船を海中にまかり入りぬべく吹き回して、波は船にうちかけつつ巻き入れ、神は落ちかかるやうにひらめきかかるに、大納言は惑ひて、「まだかかるわびしき目は見ず。いかならむとするぞ。」とのたまふ。船に乗って、あちこちの海を回りなさるうちに、ずいぶん遠くまで行って、筑紫(九州)の方の海に漕ぎ出しなさった。どうしたのだろうか、激しい風が吹いて、あたり一面が暗くなって、船を吹き回す。どの方角ともわからず、船を今にも海の中に沈めてしまいそうなほど吹き回して、波は船に打ちかかっては巻きこみ、雷は落ちてくるかのようにひらめきかかるので、大納言はうろたえて、「まだこんなにつらい目にあったことはない。いったいどうなるのだ。」とおっしゃる。
11楫取答へて申す、「ここら船に乗りてまかり歩くに、まだかかるわびしき目を見ず。御船海の底に入らずは、神落ちかかりぬべし。もし幸ひに神の助けあらば、南海に吹かれおはしぬべし。うたてある主の御もとに仕うまつりて、すずろなる死にをすべかめるかな。」とて、楫取泣く。船頭が答えて申し上げる、「長年たくさん船に乗ってあちこち行っておりますが、まだこんなひどい目にあったことはありません。お船が海の底に沈まなければ、きっと雷が落ちてくるでしょう。もし運よく神のお助けがあれば、南の海に吹き流されておしまいになるでしょう。情けないご主人のおそばにお仕えして、思いもよらない死に方をすることになるようですなあ。」と言って、船頭は泣く。
12大納言これを聞きてのたまはく、「船に乗りては、楫取の申すことをこそ高き山と頼め。など、かく頼もしげなきことを申すぞ。」と、青反吐をつきてのたまふ。大納言はこれを聞いておっしゃることには、「船に乗ったら、船頭の言うことこそを高い山のように頼りにするのだ。どうしてこんなに頼りにならないことを申すのか。」と、青い反吐(へど)を吐きながらおっしゃる。
13楫取答へて申す、「神ならねば、何わざをか仕うまつらむ。風吹き、波激しけれども、神さへいただきに落ちかかるやうなるは、竜を殺さむと求めたまひさぶらへば、かくあなり。疾風も竜の吹かするなり。はや、神に祈りたまへ。」と言へば、船頭が答えて申し上げる、「(わたしは)神ではないので、何をしてさしあげられましょうか(何もできません)。風が吹き、波が激しいうえに、雷までが頭の上に落ちかかるようなのは、竜を殺そうとお探しになっていらっしゃるので、こうなっているようです。この疾風も竜が吹かせているのです。早く神にお祈りなさいませ。」と言うので、
14「よきことなり。」とて、「楫取の御神聞こしめせ。をぢなく心幼く、竜を殺さむと思ひけり。今より後は、毛一筋をだに動かし奉らじ。」と、よごとを放ちて、立ち居、泣く泣く呼ばひたまふこと、千度ばかり申したまふけにやあらむ、やうやう神鳴りやみぬ。「それはよいことだ。」と言って、「船を守る神様、お聞きください。臆病で考えが浅く、竜を殺そうなどと思いました。今から後は、(竜の)毛一本さえ動かし申し上げますまい。」と、祈りの言葉を声に出して、立ったり座ったりしながら、泣く泣く叫びなさることを、千回ほど申し上げなさったせいであろうか、だんだん雷が鳴りやんだ。
15少し明かりて、風はなほ速く吹く。楫取のいはく、「これは竜のしわざにこそありけれ。この吹く風は、よき方の風なり。悪しき方の風にはあらず。よき方におもむきて吹くなり。」と言へども、大納言はこれを聞き入れたまはず。三四日ありて、吹き返し寄せたり。浜を見れば、播磨の明石の浜なりけり。大納言、「南海の浜に吹き寄せられたるにやあらむ。」と思ひて、息つき伏したまへり。少し明るくなって、風はまだ速く吹いている。船頭が言うには、「これは竜のしわざだったのですねえ。この吹く風は、よい方角への風です。悪い方角への風ではありません。よい方へ向かって吹いているのです。」と言うけれど、大納言はこれを聞き入れなさらない。三、四日たって、(風が船を)吹き戻して岸に寄せた。浜を見ると、なんと播磨の明石の浜であった。大納言は「南の海の浜に吹き寄せられたのであろうか。」と思って、ため息をついて横になっていらっしゃる。
16船にある男ども、国に告げたれば、国の司まうでとぶらふにも、え起き上がりたまはで、船底に伏したまへり。松原に御筵敷きて、下ろし奉る。船に乗っていた者たちが国の役所に知らせたので、国司が参上してお見舞いするけれども、(大納言は)起き上がることもおできにならず、船底に横になっていらっしゃる。松原にむしろを敷いて、(船から)お下ろし申し上げる。
17その時にぞ、「南海にあらざりけり。」と思ひて、からうじて起き上がりたまへるを見れば、風いと重き人にて、腹いとふくれ、こなたかなたの目には、すももを二つつけたるやうなり。これを見奉りてぞ、国の司もほほゑみたる。その時になってようやく「南の海ではなかったのだなあ。」と思って、やっとのことで起き上がりなさったのを見ると、ひどい風病(重い病気)にかかった人のようで、おなかはひどくふくれ、両方の目には、すももを二つくっつけたようである。これを見申し上げて、国司も思わずほほえんだ。
18国に仰せたまひて、手輿作らせたまひて、によふによふ担はれて、家に入りたまひぬるを、いかで聞きけむ、遣はしし男ども参りて申すやう、「竜の首の玉をえ取らざりしかばなむ、殿へもえ参らざりし。玉の取りがたかりしことを知りたまへればなむ、勘当あらじとて参りつる。」と申す。国の役所にお命じになって、手輿(手で担ぐこし)を作らせなさって、うんうんうめきながら担がれて、家にお入りになったのを、どうやって聞きつけたのだろうか、送り出した家来たちがやって来て申し上げることには、「竜の首の玉を取ることができなかったので、お屋敷へも参上できなかったのです。(でも今は殿も)玉が取りにくいことをお分かりになったので、おとがめはないだろうと思って参上しました。」と申し上げる。
19大納言起き出でてのたまはく、「汝ら、よく持て来ずなりぬ。竜は鳴る神の類にこそありけれ。それが玉を取らむとて、そこらの人々の害せられなむとしけり。まして竜を捕らへたらましかば、また事もなく、我は害せられなまし。よく捕らへずなりにけり。大納言は起き上がっておっしゃることには、「お前たち、よくぞ(竜の玉を)持って来ないでくれた。竜は雷の仲間だったのだなあ。その玉を取ろうとして、多くの人々が殺されそうになった。まして竜を捕まえていたら、あっけなくわたしは殺されていただろう。よくぞ捕まえずに済んだものだ。
20かぐや姫てふ大盗人の奴が、人を殺さむとするなりけり。家のあたりだに、今は通らじ。男どもも、な歩きそ。」とて、家に少し残りたりける物どもは、竜の玉取らぬ者どもに賜びつ。かぐや姫という大泥棒めが、人を殺そうとしていたのだなあ。家のあたりさえ、もう通るまい。お前たちも(あそこへ)行くな。」と言って、家に少し残っていた品物は、竜の玉を取らなかった家来たちにお与えになった。
21これを聞きて、離れたまひしもとの上は、腹を切りて笑ひたまふ。糸を葺かせ作りし屋は、鳶・烏の巣に、みな食ひもて去にけり。これを聞いて、離縁されたもとの奥方は、腹がよじれるほど大笑いなさる。糸でふかせて造った屋根は、トビやカラスが巣の材料にするために、みなくわえて持って行ってしまった。
22世界の人の言ひけるは、「大伴の大納言は、竜の玉や取りておはしたる。」「いな、さもあらず。御眼二つに、すもものやうなる玉をぞ添へていましたる。」と言ひければ、「あな、たへがた。」と言ひけるよりぞ、世にあはぬことをば、「あな、たへがた」とは言ひ始めける。世間の人が言ったことには、「大伴の大納言は、竜の玉を取っていらっしゃったのか。」「いや、そうではない。両方の目に、すももみたいな玉をくっつけていらっしゃった。」と言ったので、「ああ、たえがたい(食べがたい)。」と言ったことから、世の中の道理に合わないことを、「あな、たへがた」と言い始めたのだ。