
竹取物語の「右大臣阿倍御主人は、財豊かに家広き人にぞおはしける」から、皮衣が燃えて「あへなし」となるまで(第5章「火鼠の皮衣」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この章を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:大金持ちの右大臣阿倍御主人は、唐の商人の王卿に手紙と代金を送り、火鼠の皮衣を手に入れる。追加の金五十両も喜んで払い、美しい皮衣に歌をそえてかぐや姫の家へ行く。かぐや姫が火に入れて試すと、めらめらと焼けてしまい、右大臣は青ざめて帰る。
- 文法の要点:伝聞の「なり」(いふなる)、「あなれ」「なめり」(撥音便の無表記)、「ぬ」の識別(焼けぬ皮衣=打消/焼けぬ。=完了)、反実仮想「せば〜まし」、禁止「な〜そ」。
- テストの定番:和歌の掛詞「思ひ」の「ひ」=「火」、「思ひのほか」=思いのほか・火の外、語源「あへなし」=阿倍+なし。



この章で覚える文法(テストに出る順)
- 伝聞の「なり」:いふなる物(終止形+なり)
- あなれ・なめり:撥音便の「ん」が書かれない形
- 「ぬ」の識別:焼けぬ皮衣(打消)/焼けぬ。(完了)
- 反実仮想:せば〜まし・なまし
- 和歌の掛詞「思ひ」=「火」、語源あへなし
第5章までのあらすじ(阿倍の右大臣と火鼠の皮衣)
かぐや姫は5人の貴公子に難題を出しました。3人目の右大臣阿倍御主人への難題は、「唐土(中国)にある火鼠の皮衣を持ってきてほしい」というものです。火鼠は中国の伝説に出てくる動物で、その皮で作った衣は火に入れても焼けないとされていました。
前の章では、くらもちの皇子が職人に作らせたにせの玉の枝が、職人たちの訴えでばれました。今度の右大臣は大金持ち。自分で探しに行くのでも、にせ物を作るのでもなく、お金を出して唐から買うという方法をとります。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
右大臣阿倍御主人は、財豊かに家広き人にぞおはしける。その年わたりける唐土船の王卿といふ者のもとに、文を書きて、「火鼠の皮衣といふなる物、買ひておこせよ。」とて、仕うまつる人の中に心確かなるを選びて、小野房守といふ人をつけて遣はす。
現代語訳右大臣の阿倍御主人は、財産が豊かで、一族も栄えている人でいらっしゃった。その年(日本に)渡ってきた唐の貿易船の王卿という者のところに手紙を書いて、「火鼠の皮衣とかいう物を買って送ってくれ」と言って、お仕えする人の中から、しっかりした者を選んで、小野房守という人をつけて送り出す。
- 「いふなる」の「なる」は伝聞(〜とかいう・〜だそうだ)。終止形「いふ」に付いているので断定ではない。→伝聞・推定の「なり」と断定の「なり」の見分け方
- 係り結び:「ぞ」の結びで「ける」(連体形)。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 阿倍御主人は、8世紀はじめに右大臣だった実在の人物と同じ名前です。


2
持て到りて、かの浦にをる王卿に金を取らす。王卿、文を広げて見て、返り事書く。「火鼠の皮衣、我が国になき物なり。音には聞けども、いまだ見ぬ物なり。世にある物ならば、この国にも持てまうで来なまし。いと難きあきなひなり。しかれども、もし天竺にたまさかに持て渡りなば、もし長者のあたりにとぶらひ求めむに、なき物ならば、使ひに添へて金返したてまつらむ。」と言へり。
現代語訳(房守は手紙を)持って(九州の港に)着いて、そこにいる王卿に代金の金を渡す。王卿は手紙を広げて読んで、返事を書く。「火鼠の皮衣は、わたしの国にはない物です。うわさには聞いていますが、まだ見たことのない物です。この世にある物なら、この国(日本)にもだれかが持ってきていたでしょう。たいへんむずかしい取り引きです。しかし、もし天竺(インド)にたまたま持ちこまれていたら、金持ちの家のあたりをたずねて探してみますが、それでもない物なら、使いの者に(持たせて)代金をお返し申し上げましょう」と書いてある。
- 「来なまし」は強意「ぬ」+反実仮想「まし」。「(あるなら)持ってきていたはずだ、でも実際は来ていない」という気持ち。→反実仮想の助動詞「まし」
- 「渡りなば」は完了「ぬ」の未然形+ば=仮定(もし〜したら)。→接続助詞「ば」の未然形+ばと已然形+ば
- 王卿は最初から「むずかしい」と書いています。この正直な返事が、あとの展開と対照的です。


3
かの唐土船来けり。小野房守まうで来てまうのぼるといふことを聞きて、歩み疾うする馬をもちて走らせ迎へさせたまふ時に、馬に乗りて、筑紫よりただ七日に上りまうで来たり。
現代語訳あの唐の船がやって来た。小野房守が(筑紫に)着いて、都へ上ってくるということを(右大臣が)聞いて、足の速い馬を走らせて迎えにいかせなさったので、(房守はその)馬に乗って、筑紫からたった七日で都に上ってきた。
- 「迎へさせたまふ」の「させ」は使役(迎えに行かせる)。→使役・尊敬の助動詞「す・さす・しむ」
- 「疾う」は「疾く(速く)」のウ音便。→古文の音便(イ音便・ウ音便)
- 「まうのぼる」は「参上する(都へ上る)」の謙譲語。右大臣の待ちきれない気持ちが、速い馬を出したことに表れています。

出典:『竹取物語』絵巻 中巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)
4
文を見るに言はく、「火鼠の皮衣、からうじて人を出だして求めてたてまつる。今の世にも昔の世にも、この皮はたやすくなき物なりけり。昔、かしこき天竺の聖、この国に持て渡りてはべりける、西の山寺にありと聞き及びて、朝廷に申して、からうじて買ひ取りてたてまつる。
現代語訳手紙を見ると、こう書いてある。「火鼠の皮衣は、やっとのことで人をつかわして探し求め、お送りいたします。今の世にも昔の世にも、この皮はたやすくは見つからない物だったのです。昔、徳の高い天竺の聖人がこの国(唐)に持ってきておりましたものが、西の山寺にあると聞きつけて、朝廷に申し出て、やっとのことで買い取って、お送りいたします。
- 「なりけり」の「けり」は詠嘆(〜だったのだなあ)。探してみて初めて分かった、という気持ち。→「けり」の過去と詠嘆
- 「はべり」は丁寧語(〜ております)で、手紙の書き手の王卿から読み手の右大臣への敬意。→「侍り・候ふ」の丁寧語と謙譲語
- 「からうじて(やっとのことで)」が2回。苦労して手に入れたことを強く伝える書き方です。
5
価の金少しと、国司、使ひに申ししかば、王卿が物加へて買ひたり。今、金五十両賜はるべし。船の帰らむにつけてたび送れ。もし金賜はぬ物ならば、皮衣の質返したべ。」と言へることを見て、
現代語訳代金の金が足りないと、(その土地の)役人が使いの者に申しましたので、わたし王卿のお金を足して買いました。あと金五十両をいただくのが当然です。船が帰るときに託して送ってください。もし代金をくださらないのなら、皮衣を(代金のかたとして)お返しください」と書いてあるのを見て、
- 「帰らむに」の「む」は名詞のはたらきをする所に付く婉曲(〜ような・〜とき)。→推量の助動詞「む」の意味(推量・意志・婉曲)
- 「賜はぬ」の「ぬ」は下に名詞「物」があるので打消「ず」の連体形。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「たべ」は「たぶ(お与えになる)」の命令形で「ください」。
6
「何おぼす。今金少しのことにこそあなれ。必ず送るべき物にこそあなれ。うれしくしておこせたるかな。」とて、唐土の方に向かひて伏し拝みたまふ。
現代語訳「何を気にしているのか。あとは少しの金のことであるようだ。必ず送らなければならない物であるようだ。よくぞ送ってくれたものだ」と言って、唐の方角に向かってひれ伏して拝みなさる。
- 「あなれ」は「あるなれ」→「あんなれ」→「あ(ん)なれ」。ラ変「あり」の連体形「ある」が撥音便になり、「ん」を書かない形に、推定「なり」の已然形「なれ」が付いたもの。第1章の「なめり」と同じしくみ。→伝聞・推定の「なり」と撥音便の無表記
- 「こそ…あなれ」:「こそ」の結びなので已然形「なれ」。
- 代金を足せと言われても、少しも疑わずに喜んで拝んでいます。お金持ちの右大臣らしい反応で、あとの結末への前ふりになっています。


7
この皮衣入れたる箱を見れば、くさぐさのうるはしき瑠璃を色へて作れり。皮衣を見れば、紺青の色なり。毛の末には金の光輝きたり。げに宝と見え、うるはしきこと比ぶべき物なし。火に焼けぬことよりも、けうらなることならびなし。
現代語訳この皮衣を入れてある箱を見ると、いろいろな美しい瑠璃(宝石)で色どりをつけて作ってある。皮衣を見ると、深い青色である。毛の先には金色の光が輝いている。なるほど宝物だと見えて、その立派さは比べられる物がない。火に焼けないということよりも、その美しさが何よりもすばらしい。
- 「作れり」の「り」は存続(〜てある)。→完了・存続の助動詞「たり・り」
- 「火に焼けぬこと」の「ぬ」は、下に名詞「こと」があるので打消(焼けない)。あとの「めらめらと焼けぬ」と比べよう。
- 「げに」=なるほど・本当に。「けうらなり」=この上なく美しい(第1章にも出た言葉)。
8
「むべ、かぐや姫の好もしがりたまふにこそありけれ。」とのたまひて、「あなかしこ。」とて、箱に入れたまひて、物の枝につけて、御身の化粧いといたくして、やがて泊まりなむものぞとおぼして、歌詠み加へて持ちていましたり。その歌は、
現代語訳「なるほど、かぐや姫がほしがりなさるだけのことはあるのだなあ」とおっしゃって、「ああ、もったいない」と言って箱にお入れになって、(贈り物の習わしどおり)木の枝に結びつけて、ご自分の身なりをたいそう念入りに整えて、そのまま(かぐや姫の家に)泊まることになるだろうとお思いになって、歌を詠みそえて持っていらっしゃった。その歌は、
- 「泊まりなむ」は強意「ぬ」の未然形「な」+推量「む」で「きっと泊まることになるだろう」。→「なむ」の識別(強意+推量・願望・係助詞)
- 「こそ…けれ」:「こそ」の結びで已然形「けれ」。「けり」は詠嘆(〜だなあ)。
- 「います」は「あり・行く・来」の尊敬語(いらっしゃる)。→敬語動詞の一覧(おはす・います・のたまふ)
9
限りなき思ひに焼けぬ皮衣袂かわきて今日こそは着め
現代語訳(右大臣の歌)かぎりなく燃えるあなたへの恋の思いの「火」にも焼けない、この皮衣。(恋の涙でぬれていた)袂もかわいて、今日こそはこれを着て(あなたと会おう)。
- 掛詞:「思ひ」の「ひ」に「火」が掛かっている。恋の「思ひ(火)」にも焼けない皮衣、という意味。→掛詞の見つけ方(思ひ=火など)
- 縁語:「火(思ひ)」と「焼け」は、どちらも火に関係する言葉。→縁語とは(和歌の修辞)
- 「こそ…め」:「こそ」の結びで「む」の已然形「め」(意志:〜しよう)。


10
家の門に持て至りて立てり。竹取出で来て、取り入れて、かぐや姫に見す。かぐや姫の、皮衣を見て言はく、「うるはしき皮なめり。わきてまことの皮ならむとも知らず。」
現代語訳(右大臣は皮衣を)家の門まで持ってきて立っている。竹取の翁が出てきて、(皮衣を)受け取って家に入れ、かぐや姫に見せる。かぐや姫が皮衣を見て言うには、「立派な皮のようです。でも、とりわけ本物の皮かどうかはわかりません」。
- 「なめり」(断定「なり」+推定「めり」)がまた出てきました。「〜であるようだ」。→推定の助動詞「めり」となめり
- 「わきて」=とりわけ・特に。かぐや姫は見た目の美しさにだまされず、本物かどうかを疑っています。

出典:『竹取物語』絵巻 中巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)
11
竹取答へて言はく、「とまれかくまれ、まづ請じ入れたてまつらむ。世の中に見えぬ皮衣のさまなれば、これをまことと思ひたまひね。人ないたくわびさせたまひそ。」と言ひて、呼びすゑたてまつれり。
現代語訳竹取の翁が答えて言うには、「ともかくも、まずはお招き入れ申し上げよう。世の中で見たことのない皮衣のようすだから、これを本物だとお思いなさい。あの方をひどく困らせなさいますな」と言って、(右大臣を)呼び入れてお座らせ申し上げた。
- 「な〜そ」は禁止(〜するな)。「なわびさせたまひそ」=困らせなさいますな。→終助詞の一覧(な〜そ・ばや・なむ)
- 「思ひたまひね」の「ね」は完了(強意)「ぬ」の命令形(きっと〜しなさい)。→「ね」の識別(打消と完了)
- 「とまれかくまれ」=ともかくも。翁はまた、結婚に乗り気です。

12
かく呼びすゑて、「この度は必ずあはむ。」と、嫗の心にも思ひをり。この翁は、かぐや姫のやもめなるを嘆かしければ、「よき人にあはせむ。」と思ひはかれど、せちに「否。」と言ふことなれば、え強ひぬは、ことわりなり。
現代語訳こうして呼び入れて座らせ、「今度はきっと結婚するだろう」と、嫗も心の中で思っている。この翁は、かぐや姫が独り身でいることを嘆かわしく思っていたので、「立派な人と結婚させよう」とあれこれ考えるけれども、(かぐや姫が)ひたすら「いやです」と言うので、無理じいできないのは、もっともなことである。
- 「え強ひぬ」の「ぬ」は、上に「え」があるので打消。「え〜ず」で〜できない(不可能)。
- 「ことわりなり」は形容動詞で「もっともだ・当然だ」。この「なり」は断定の助動詞ではありません。
- 「やもめ」=独り身。「せちに」=ひたすら。
13
かぐや姫、翁に言はく、「この皮衣は、火に焼かむに、焼けずはこそ、まことならめと思ひて、人の言ふことにも負けめ。『世になき物なれば、それをまことと疑ひなく思はむ。』とのたまふ。なほこれを焼きて見む。」と言ふ。
現代語訳かぐや姫が翁に言うには、「この皮衣は、火で焼いてみて、焼けなかったら、そのときこそ本物だろうと思って、あの方の言うことにも従いましょう。(お父さまは)『世にない物だから、それを本物だと疑わずに思おう』とおっしゃいます。(でも)やはりこれを焼いて試してみましょう」と言う。
- 「焼けずは」は「〜ないならば」(打消の仮定)。→打消の助動詞「ず」と「ずは」
- 「火で焼いて確かめる」というかぐや姫の提案が、この章の山場です。
- 「のたまふ」の主語は翁。かぐや姫から翁(親)への敬意です。
14
翁、「それ、さも言はれたり。」と言ひて、大臣に、「かくなむ申す。」と言ふ。大臣答へて言はく、「この皮は、唐土にもなかりけるを、からうじて求め尋ね得たるなり。何の疑ひかあらむ。さは申すとも、はや焼きて見たまへ。」と言へば、
現代語訳翁は「それは、もっともな言い分だ」と言って、右大臣に「このように申しております」と言う。右大臣が答えて言うには、「この皮は、唐にもなかったのを、やっとのことで探し求めて手に入れたのです。何の疑いがありましょうか(いや、ありません)。そうは申しても(ご心配なら)、早く焼いてごらんなさい」と言うので、
- 「何の疑ひかあらむ」は反語(何の疑いがあろうか、いや、ない)。「か」の結びで「む」は連体形。→係り結びと反語の訳し方
- 「かくなむ申す」:「なむ」の結び「申す」は四段動詞なので、連体形も終止形と同じ形。
- 右大臣は自信満々で「焼いてみなさい」と言います。この自信が、次の段で一気にくずれます。
15
火の中にうちくべて焼かせたまふに、めらめらと焼けぬ。「さればこそ、異物の皮なりけり。」と言ふ。大臣これを見たまひて、御顔は草の葉の色してゐたまへり。かぐや姫は「あなうれし。」と喜びてゐたり。かの詠みたまへる歌の返し、箱に入れて返す。
現代語訳(皮衣を)火の中に投げ入れて焼かせなさると、めらめらと焼けてしまった。「やっぱり、(火鼠ではない)別の物の皮だったのだ」と言う。右大臣はこれをご覧になって、お顔は草の葉の色(真っ青)になって座っていらっしゃる。かぐや姫は「ああ、うれしい」と喜んでいる。あの(右大臣が)お詠みになった歌への返歌を、箱に入れて返す。
- 「めらめらと焼けぬ」の「ぬ」は、文の終わり(終止形)なので完了(焼けてしまった)。さっきの「焼けぬ皮衣」(打消)と形は同じでも意味は反対。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「さればこそ」=思ったとおりだ・やっぱり。「異物」=(火鼠とは)別の物。
- 「草の葉の色」=青ざめた顔色。右大臣の顔色と、かぐや姫の「あなうれし」が並んでいるのが読みどころです。


16
名残なく燃ゆと知りせば皮衣思ひのほかにおきて見ましを
とぞありける。されば帰りいましにけり。
現代語訳(かぐや姫の歌)「あとかたもなく燃えてしまうと知っていたなら、(心配などせずに)皮衣を火の外に置いて、ただながめていたでしょうに」と書いてあった。そういうわけで、(右大臣は)帰っていっておしまいになった。
- 「せば〜まし」は反実仮想(もし〜だったら、〜だったろうに)。「せ」は過去「き」の未然形。→反実仮想「せば〜まし・ましかば〜まし」
- 掛詞:「思ひのほか」の「ひ」に「火」が掛かり、「思いのほか(意外にも)」と「火の外」の2つの意味。右大臣の歌の「思ひ(火)」をそのまま使って返しています。→掛詞の見つけ方
- 「ぞ…ける」:「ぞ」の結びで連体形「ける」。
17
世の人々、「阿倍の大臣、火鼠の皮衣持ていまして、かぐや姫にすみたまふとな。ここにやいます。」など問ふ。ある人の言はく、「皮は火にくべて焼きたりしかば、めらめらと焼けにしかば、かぐや姫あひたまはず。」と言ひければ、これを聞きてぞ、とげなき物をば、あへなしとは言ひける。
現代語訳世間の人々は、「阿倍の大臣は火鼠の皮衣を持っていらっしゃって、かぐや姫と結婚なさるそうだね。(今は)ここにいらっしゃるのか」などとたずねる。ある人が言うには、「皮衣は火にくべて焼いたところ、めらめらと焼けてしまったので、かぐや姫はお会いにならない」と言ったので、これを聞いて、やりとげられずに終わることを「あへなし」と言うようになったのである。
- 「すむ」=(男が女の家に)通って結婚する。「〜とな」=〜だそうだね。
- 「焼けにしかば」:「に」は完了「ぬ」の連用形、「しか」は過去「き」の已然形。
- 語源ばなし「あへなし」:「あへなし」はあっけない・張り合いがないという意味の言葉。これを「阿倍(あべ)+なし」=阿倍の大臣の望みはなくなった、に聞こえるように掛けたしゃれです。


「焼けぬ」の「ぬ」を見分ける(打消と完了)

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 唐土 | もろこし | 中国(唐) |
| おこす | おこす | こちらへよこす・送ってくる |
| たまさかに | たまさかに | たまたま・偶然に |
| からうじて | かろうじて | やっとのことで |
| 疾し | とし | 速い |
| むべ | むべ | なるほど |
| けうらなり | きょうらなり | この上なく美しい |
| やがて | やがて | そのまま・すぐに |
| わきて | わきて | とりわけ・特に |
| とまれかくまれ | とまれかくまれ | ともかくも |
| やもめ | やもめ | 独り身 |
| せちに | せちに | ひたすら・しきりに |
| ことわり | ことわり | 道理・もっともなこと |
| さればこそ | さればこそ | 思ったとおりだ・やっぱり |
| あへなし | あえなし | あっけない・張り合いがない |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「火鼠の皮衣といふなる物」の「なる」の文法的説明として正しいものは?
伝聞の助動詞「なり」の連体形。終止形「いふ」に付いているので断定ではない。「〜とかいう物」と訳す。
問2 「今金少しのことにこそあなれ」の「あなれ」を文法的に説明しなさい。
ラ変「あり」の連体形「ある」が撥音便「あん」になり「ん」が書かれない形「あ」+推定の助動詞「なり」の已然形「なれ」(「こそ」の結び)。
問3 「火に焼けぬこと」と「めらめらと焼けぬ」の「ぬ」は、それぞれ何か。
前者は下に名詞「こと」があるので打消「ず」の連体形、後者は文の終わりなので完了「ぬ」の終止形。
問4 右大臣の歌「限りなき思ひに焼けぬ皮衣…」の掛詞は?
「思ひ」の「ひ」に「火」が掛かっている。
問5 「名残なく燃ゆと知りせば皮衣思ひのほかにおきて見ましを」を現代語訳しなさい。
「あとかたもなく燃えると知っていたなら、皮衣を火の外に置いてながめていたでしょうに。」「せば〜まし」は反実仮想。
問6 「人ないたくわびさせたまひそ」を現代語訳しなさい。
「あの方をひどく困らせなさいますな。」「な〜そ」は禁止。
問7 かぐや姫は、皮衣が本物かどうかをどうやって確かめたか。
火の中に入れて焼いてみた。本物の火鼠の皮衣なら焼けないはずだが、めらめらと焼けてしまった。
問8 章の最後の「あへなし」は、どんなしゃれになっているか。
あっけない・張り合いがないという意味の「あへなし」に、「阿倍(あべ)+なし」(阿倍の大臣の望みがなくなった)を掛けている。

竹取物語「火鼠の皮衣」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
右大臣阿倍御主人は、財豊かに家広き人にぞおはしける。その年わたりける唐土船の王卿といふ者のもとに、文を書きて、「火鼠の皮衣といふなる物、買ひておこせよ。」とて、仕うまつる人の中に心確かなるを選びて、小野房守といふ人をつけて遣はす。
持て到りて、かの浦にをる王卿に金を取らす。王卿、文を広げて見て、返り事書く。「火鼠の皮衣、我が国になき物なり。音には聞けども、いまだ見ぬ物なり。世にある物ならば、この国にも持てまうで来なまし。いと難きあきなひなり。しかれども、もし天竺にたまさかに持て渡りなば、もし長者のあたりにとぶらひ求めむに、なき物ならば、使ひに添へて金返したてまつらむ。」と言へり。
かの唐土船来けり。小野房守まうで来てまうのぼるといふことを聞きて、歩み疾うする馬をもちて走らせ迎へさせたまふ時に、馬に乗りて、筑紫よりただ七日に上りまうで来たり。
文を見るに言はく、「火鼠の皮衣、からうじて人を出だして求めてたてまつる。今の世にも昔の世にも、この皮はたやすくなき物なりけり。昔、かしこき天竺の聖、この国に持て渡りてはべりける、西の山寺にありと聞き及びて、朝廷に申して、からうじて買ひ取りてたてまつる。
価の金少しと、国司、使ひに申ししかば、王卿が物加へて買ひたり。今、金五十両賜はるべし。船の帰らむにつけてたび送れ。もし金賜はぬ物ならば、皮衣の質返したべ。」と言へることを見て、
「何おぼす。今金少しのことにこそあなれ。必ず送るべき物にこそあなれ。うれしくしておこせたるかな。」とて、唐土の方に向かひて伏し拝みたまふ。
この皮衣入れたる箱を見れば、くさぐさのうるはしき瑠璃を色へて作れり。皮衣を見れば、紺青の色なり。毛の末には金の光輝きたり。げに宝と見え、うるはしきこと比ぶべき物なし。火に焼けぬことよりも、けうらなることならびなし。
「むべ、かぐや姫の好もしがりたまふにこそありけれ。」とのたまひて、「あなかしこ。」とて、箱に入れたまひて、物の枝につけて、御身の化粧いといたくして、やがて泊まりなむものぞとおぼして、歌詠み加へて持ちていましたり。その歌は、
限りなき思ひに焼けぬ皮衣袂かわきて今日こそは着め
家の門に持て至りて立てり。竹取出で来て、取り入れて、かぐや姫に見す。かぐや姫の、皮衣を見て言はく、「うるはしき皮なめり。わきてまことの皮ならむとも知らず。」
竹取答へて言はく、「とまれかくまれ、まづ請じ入れたてまつらむ。世の中に見えぬ皮衣のさまなれば、これをまことと思ひたまひね。人ないたくわびさせたまひそ。」と言ひて、呼びすゑたてまつれり。
かく呼びすゑて、「この度は必ずあはむ。」と、嫗の心にも思ひをり。この翁は、かぐや姫のやもめなるを嘆かしければ、「よき人にあはせむ。」と思ひはかれど、せちに「否。」と言ふことなれば、え強ひぬは、ことわりなり。
かぐや姫、翁に言はく、「この皮衣は、火に焼かむに、焼けずはこそ、まことならめと思ひて、人の言ふことにも負けめ。『世になき物なれば、それをまことと疑ひなく思はむ。』とのたまふ。なほこれを焼きて見む。」と言ふ。
翁、「それ、さも言はれたり。」と言ひて、大臣に、「かくなむ申す。」と言ふ。大臣答へて言はく、「この皮は、唐土にもなかりけるを、からうじて求め尋ね得たるなり。何の疑ひかあらむ。さは申すとも、はや焼きて見たまへ。」と言へば、
火の中にうちくべて焼かせたまふに、めらめらと焼けぬ。「さればこそ、異物の皮なりけり。」と言ふ。大臣これを見たまひて、御顔は草の葉の色してゐたまへり。かぐや姫は「あなうれし。」と喜びてゐたり。かの詠みたまへる歌の返し、箱に入れて返す。
名残なく燃ゆと知りせば皮衣思ひのほかにおきて見ましを
とぞありける。されば帰りいましにけり。
世の人々、「阿倍の大臣、火鼠の皮衣持ていまして、かぐや姫にすみたまふとな。ここにやいます。」など問ふ。ある人の言はく、「皮は火にくべて焼きたりしかば、めらめらと焼けにしかば、かぐや姫あひたまはず。」と言ひければ、これを聞きてぞ、とげなき物をば、あへなしとは言ひける。
竹取物語「火鼠の皮衣」現代語訳(全文・通し)
右大臣の阿倍御主人は、財産が豊かで、一族も栄えている人でいらっしゃった。その年(日本に)渡ってきた唐の貿易船の王卿という者のところに手紙を書いて、「火鼠の皮衣とかいう物を買って送ってくれ」と言って、お仕えする人の中から、しっかりした者を選んで、小野房守という人をつけて送り出す。
(房守は手紙を)持って(九州の港に)着いて、そこにいる王卿に代金の金を渡す。王卿は手紙を広げて読んで、返事を書く。「火鼠の皮衣は、わたしの国にはない物です。うわさには聞いていますが、まだ見たことのない物です。この世にある物なら、この国(日本)にもだれかが持ってきていたでしょう。たいへんむずかしい取り引きです。しかし、もし天竺(インド)にたまたま持ちこまれていたら、金持ちの家のあたりをたずねて探してみますが、それでもない物なら、使いの者に(持たせて)代金をお返し申し上げましょう」と書いてある。
あの唐の船がやって来た。小野房守が(筑紫に)着いて、都へ上ってくるということを(右大臣が)聞いて、足の速い馬を走らせて迎えにいかせなさったので、(房守はその)馬に乗って、筑紫からたった七日で都に上ってきた。
手紙を見ると、こう書いてある。「火鼠の皮衣は、やっとのことで人をつかわして探し求め、お送りいたします。今の世にも昔の世にも、この皮はたやすくは見つからない物だったのです。昔、徳の高い天竺の聖人がこの国(唐)に持ってきておりましたものが、西の山寺にあると聞きつけて、朝廷に申し出て、やっとのことで買い取って、お送りいたします。
代金の金が足りないと、(その土地の)役人が使いの者に申しましたので、わたし王卿のお金を足して買いました。あと金五十両をいただくのが当然です。船が帰るときに託して送ってください。もし代金をくださらないのなら、皮衣を(代金のかたとして)お返しください」と書いてあるのを見て、
「何を気にしているのか。あとは少しの金のことであるようだ。必ず送らなければならない物であるようだ。よくぞ送ってくれたものだ」と言って、唐の方角に向かってひれ伏して拝みなさる。
この皮衣を入れてある箱を見ると、いろいろな美しい瑠璃(宝石)で色どりをつけて作ってある。皮衣を見ると、深い青色である。毛の先には金色の光が輝いている。なるほど宝物だと見えて、その立派さは比べられる物がない。火に焼けないということよりも、その美しさが何よりもすばらしい。
「なるほど、かぐや姫がほしがりなさるだけのことはあるのだなあ」とおっしゃって、「ああ、もったいない」と言って箱にお入れになって、(贈り物の習わしどおり)木の枝に結びつけて、ご自分の身なりをたいそう念入りに整えて、そのまま(かぐや姫の家に)泊まることになるだろうとお思いになって、歌を詠みそえて持っていらっしゃった。その歌は、
(右大臣の歌)かぎりなく燃えるあなたへの恋の思いの「火」にも焼けない、この皮衣。(恋の涙でぬれていた)袂もかわいて、今日こそはこれを着て(あなたと会おう)。
(右大臣は皮衣を)家の門まで持ってきて立っている。竹取の翁が出てきて、(皮衣を)受け取って家に入れ、かぐや姫に見せる。かぐや姫が皮衣を見て言うには、「立派な皮のようです。でも、とりわけ本物の皮かどうかはわかりません」。
竹取の翁が答えて言うには、「ともかくも、まずはお招き入れ申し上げよう。世の中で見たことのない皮衣のようすだから、これを本物だとお思いなさい。あの方をひどく困らせなさいますな」と言って、(右大臣を)呼び入れてお座らせ申し上げた。
こうして呼び入れて座らせ、「今度はきっと結婚するだろう」と、嫗も心の中で思っている。この翁は、かぐや姫が独り身でいることを嘆かわしく思っていたので、「立派な人と結婚させよう」とあれこれ考えるけれども、(かぐや姫が)ひたすら「いやです」と言うので、無理じいできないのは、もっともなことである。
かぐや姫が翁に言うには、「この皮衣は、火で焼いてみて、焼けなかったら、そのときこそ本物だろうと思って、あの方の言うことにも従いましょう。(お父さまは)『世にない物だから、それを本物だと疑わずに思おう』とおっしゃいます。(でも)やはりこれを焼いて試してみましょう」と言う。
翁は「それは、もっともな言い分だ」と言って、右大臣に「このように申しております」と言う。右大臣が答えて言うには、「この皮は、唐にもなかったのを、やっとのことで探し求めて手に入れたのです。何の疑いがありましょうか(いや、ありません)。そうは申しても(ご心配なら)、早く焼いてごらんなさい」と言うので、
(皮衣を)火の中に投げ入れて焼かせなさると、めらめらと焼けてしまった。「やっぱり、(火鼠ではない)別の物の皮だったのだ」と言う。右大臣はこれをご覧になって、お顔は草の葉の色(真っ青)になって座っていらっしゃる。かぐや姫は「ああ、うれしい」と喜んでいる。あの(右大臣が)お詠みになった歌への返歌を、箱に入れて返す。
(かぐや姫の歌)「あとかたもなく燃えてしまうと知っていたなら、(心配などせずに)皮衣を火の外に置いて、ただながめていたでしょうに」と書いてあった。そういうわけで、(右大臣は)帰っていっておしまいになった。
世間の人々は、「阿倍の大臣は火鼠の皮衣を持っていらっしゃって、かぐや姫と結婚なさるそうだね。(今は)ここにいらっしゃるのか」などとたずねる。ある人が言うには、「皮衣は火にくべて焼いたところ、めらめらと焼けてしまったので、かぐや姫はお会いにならない」と言ったので、これを聞いて、やりとげられずに終わることを「あへなし」と言うようになったのである。
竹取物語「火鼠の皮衣」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(竹取物語の基本)
竹取物語の作者は誰?
作者はわかっていません(未詳)。漢文や仏教の知識がある男性の知識人と考えられています。
竹取物語はいつの作品?
平安時代のはじめ、9世紀後半〜10世紀前半ごろに成立したとされます。
竹取物語の冒頭(書き出し)は?
「今は昔、竹取の翁といふものありけり。」です。現代語訳は「今ではもう昔のことだが、竹取の翁という者がいたそうだ。」です。
なぜ日本最古の物語と言われるの?
『源氏物語』の絵合の巻で「物語の出で来はじめの祖」(物語が生まれた最初の祖先)と呼ばれているからです。
竹取物語 全文の目次
- 竹取物語「なよ竹のかぐや姫」の原文・現代語訳
- 竹取物語「貴公子たちの求婚」の原文・現代語訳
- 竹取物語「仏の御石の鉢」の原文・現代語訳
- 竹取物語「蓬莱の玉の枝」の原文・現代語訳
- 火鼠の皮衣(このページ)
- 竹取物語「竜の首の玉」の原文・現代語訳
- 竹取物語「燕の子安貝」の原文・現代語訳
- 竹取物語「帝の求婚」の原文・現代語訳
- 竹取物語「かぐや姫の昇天」の原文・現代語訳
- 竹取物語「ふじの山」の原文・現代語訳

あわせて読みたい古文のページ
- 古文文法の一覧(動詞・助動詞・係り結び・敬語)
- 古文の助動詞一覧表(全28語の意味・接続・活用)
- 係り結びとは?ぞ・なむ・や・か・こそと結びの形
- 古文の敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)
- 枕草子の原文と現代語訳・文法(教科書に出る段の一覧)
- 枕草子「春はあけぼの」の原文・現代語訳とテストに出る語句
- 国語の勉強まとめ(古文・漢文・漢字・百人一首)
本文は『竹取物語』(國民文庫本、明治末刊)をもとに、教科書で広く読まれる形に合わせ、新字体・現代の送り仮名に直しました。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は、国立国会図書館デジタルコレクションの『竹取物語』絵巻(江戸時代前期)など、著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


