
竹取物語の「石作の皇子は、心のしたくある人にて」から「はぢを捨つ」の語源まで(第3章「仏の御石の鉢」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この章を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:石作の皇子は天竺へ行くと言いながら、三年後に大和の国の山寺にあったすすけた鉢を持って来る。本物なら光るはずの鉢が少しも光らず、かぐや姫に見破られる。皇子は鉢を捨ててもなお言い寄ったが、相手にされずに帰る。
- 文法の要点:存在のなり(前なる鉢)、反実仮想のまし、過去推量のけむ、自発のる(頼まるる)、体験の過去き、係り結び(ぞ…ける)。
- テストの定番:「はぢを捨つ」の語源(鉢と恥の掛詞)、小倉山=小暗し、にせ物とばれた理由(光らない)。



この章で覚える文法(テストに出る順)
- 存在のなり:賓頭盧の前なる鉢(場所+なり)
- 反実仮想のまし:光をだにもやどさまし
- 自発のる:頼まるるかな
- 掛詞:小倉山=小暗し、はち=鉢・恥
- 語源ばなし「はぢを捨つ」(ぞ…けるの係り結び)
第2章までのあらすじと石作の皇子
第2章で、かぐや姫は求婚を続ける五人の貴公子に「見たい物を見せてくれた人と結婚する」と言い、一人ずつ難題を出しました。最初に挑むのが石作の皇子で、求められたのは天竺(今のインド)にある「仏の御石の鉢」です。お釈迦さまが使ったと伝えられる石の鉢で、光を放つと考えられていました。
天竺は都からはるかに遠い国です。「心のしたくある人」(前もって計算する人)だった皇子は、本当に旅に出るかわりに、ある方法を考えます。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
なほ、この女見では、世にあるまじき心地のしければ、「天竺にある物も持て来ぬものかは」と思ひめぐらして、石作の皇子は、心のしたくある人にて、「天竺に二つとなき鉢を、百千万里のほど行きたりとも、いかでか取るべき」と思ひて、
現代語訳「やはり、この女性と結婚しないでは、この世に生きていられそうにない」という気持ちがしたので、「天竺にある物でも持って来ないことがあろうか(持って来てみせる)」と思いめぐらしたが、石作の皇子は抜け目のない人で、「天竺に二つとない鉢を、何百何千万里の道のりを行ったとしても、どうして手に入れられようか(できるはずがない)」と思って、
- 「見では」の「で」は打消の接続助詞(〜しないで)。「見る」は結婚する。→接続助詞「で」(〜ないで)
- 「ものかは」は反語(〜だろうか、いや〜ない)。「持て来ぬものかは」=持って来ないことがあろうか、いや持って来る。
- 「心のしたくある人」は前もって準備(計算)する人=ずるがしこい人。國民文庫本は「心のしたくみある人」。
- 「いかでか…べき」は反語の係り結び(「べき」は連体形)。→助動詞「べし」の意味(推量・意志・可能・当然・命令・適当)


2
かぐや姫のもとには、「今日なむ天竺へ石の鉢取りにまかる」と聞かせて、三年ばかり経て、大和の国十市の郡にある山寺に、賓頭盧の前なる鉢の、ひた黒に煤つきたるを取りて、錦の袋に入れて、作り花の枝につけて、かぐや姫の家に持て来て見せければ、
現代語訳かぐや姫のところには「今日、天竺へ石の鉢を取りにまいります」と知らせておいて、三年ほどたってから、大和の国十市の郡にある山寺で、賓頭盧さまの前に置いてある鉢で、真っ黒にすすのついたものを取って、錦の袋に入れ、造花の枝につけて、かぐや姫の家に持って来て見せたので、
- 「前なる」の「なり」は存在(〜にある)。場所を表す語+なり=存在、と覚える。→「なり」の識別(断定・存在・伝聞推定・形容動詞)
- 「まかる」は謙譲語(まいります)。皇子からかぐや姫への敬意。→敬語動詞の一覧(まかる・まうづ・参る)
- 賓頭盧(びんずる)は仏の弟子の一人で、お寺では「おびんずるさま」として親しまれる像。大和の国は今の奈良県。
- 天竺に行ったふりをして、国内の古い鉢ですませたのがこの皇子のずるさ。


3
かぐや姫、あやしがりて見れば、鉢の中に文あり。広げて見れば、
海山の道に心をつくしはてないしのはちの涙ながれき
現代語訳かぐや姫が不思議に思って見ると、鉢の中に手紙がある。広げて見ると、(歌が書いてある。)
「海を越え山を越える旅の道で、心をすっかり使い果たし、石の鉢を求めて、泣いて血の涙を流しました」
- 「流れき」の「き」は過去。「き」は自分が体験した過去に使う。苦労したのは自分だ、と強く言っている(実際は行っていない)。→過去の助動詞「き」と「けり」の違い
- 掛詞:「ないし」に「泣いし(泣いた)」と「(御)石」、「はち」に「鉢」と「血(ち)」を掛ける。教科書の多くはこの形で、國民文庫本は「みいしの鉢の」。

出典:『竹取物語』絵巻 上巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)
4
かぐや姫、「光やある」と見るに、蛍ばかりの光だになし。
置く露の光をだにもやどさまし小倉山にて何もとめけむ
とて、返し出だすを、
現代語訳かぐや姫が「光があるか」と見ると、蛍ほどの光さえない。(そこで歌を詠んだ。)
「(本物の仏の鉢なら)草に置く露ほどの光でも宿しているでしょうに。(光のない鉢を持って来るとは、)小倉山(小暗い山)で何を探していらしたのでしょうか」
と言って、(鉢を)返すと、
- 「まし」は反実仮想(もし〜なら…だろうに)。本物なら光るはずなのに光らない=にせ物だ、という皮肉。→反実仮想の助動詞「まし」
- 「小倉山(をぐらやま)」に「小暗し(をぐらし)」=うす暗いを掛ける。光らない鉢へのあてこすり。→掛詞の見つけ方(和歌の修辞)
- 「けむ」は過去推量(〜したのだろう)。→助動詞「けむ」の意味
- 「だに」は「〜さえ」。仏の御石の鉢は光を放つものと考えられていた。

5
鉢を門に捨てて、この歌の返しをす。
白山にあへば光の失するかとはちを捨てても頼まるるかな
とよみて入れたり。
現代語訳(皇子は)鉢を門のところに捨てて、この歌への返歌をする。
「白山のように輝くあなたに会ったので、(鉢の)光が消えてしまったのかと思い、鉢を捨てても(恥を捨てても)、まだ期待してしまうことですよ」
と詠んで(家の中に)さし入れた。
- 掛詞:「はち」に「鉢」と「恥」を掛ける。鉢を捨てる=恥を捨てる(あつかましく言い寄る)。
- 「頼まるる」の「るる」は自発(自然と〜してしまう)。心情を表す動詞につく「る」は自発が多い。→「る・らる」の4つの意味(受身・尊敬・自発・可能)
- 「白山」は雪で白く輝く山(加賀の白山)。かぐや姫のまぶしさにたとえて、光が消えたのはあなたのせいだと言いわけしている。


6
かぐや姫、返しもせずなりぬ。耳にも聞き入れざりければ、言ひわづらひて帰りぬ。
現代語訳かぐや姫は返歌もしなくなった。(皇子の言葉に)耳も貸さなかったので、(皇子は)言い寄りかねて帰ってしまった。
- 「せずなりぬ」:「ず」は打消、「ぬ」は連用形(なり)+ぬ=完了。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「ざりければ」は已然形+ば=確定条件(〜ので)。
7
かの鉢を捨てて、また言ひけるよりぞ、面なきことをば、「はぢを捨つ」とは言ひける。
現代語訳あの鉢を捨てても、また言い寄ったことから、あつかましいことを「はぢを捨つ(恥を捨てる)」と言うようになった。
- 語源ばなし:鉢(はち)を捨ててまた言い寄った皇子の行い→恥(はぢ)を捨てる=あつかましい。「はち」と「はぢ」のダジャレ。
- 「ぞ…ける」は係り結び(結びは連体形)。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「面なし」(おもなし)は「あつかましい・恥知らずだ」。國民文庫本は「かれ鉢を棄てて」。


「はぢを捨つ」の語源と掛詞を図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 天竺 | てんじく | インド |
| したく | したく | 前もっての準備・計画 |
| まかる | まかる | 参ります・退出する(謙譲語) |
| ひた黒 | ひたぐろ | 真っ黒 |
| 錦 | にしき | 金銀の糸で模様を織った絹の布 |
| 作り花 | つくりばな | 造花 |
| あやしがる | あやしがる | 不思議に思う |
| 文 | ふみ | 手紙 |
| 返し | かえし | 返歌(答えの歌) |
| 頼む | たのむ | あてにする・期待する |
| 言ひわづらふ | いいわずらう | 言い寄りかねる |
| 面なし | おもなし | あつかましい・恥知らずだ |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 石作の皇子はどのようにして「仏の御石の鉢」を用意したか。
天竺へ行くと言って三年ほど姿を隠し、大和の国十市の郡の山寺の賓頭盧の前にあった、すすで真っ黒な鉢を持って来た。
問2 かぐや姫が鉢をにせ物だと見破ったのはなぜか。
本物の仏の御石の鉢なら光るはずなのに、蛍ほどの光さえなかったから。
問3 「賓頭盧の前なる鉢」の「なる」の文法的意味は?
存在の助動詞「なり」の連体形(〜にある)。
問4 「置く露の光をだにもやどさまし」の「まし」の意味は?
反実仮想(もし本物なら、露ほどの光でも宿しているだろうに)。
問5 「小倉山」に掛けられている意味は?
「小暗し(をぐらし)」=うす暗い。光らない鉢をあてこすっている。
問6 「はちを捨てても頼まるるかな」の掛詞と「るる」の意味を答えなさい。
「はち」に「鉢」と「恥」を掛ける。「るる」は自発(自然と期待してしまう)。
問7 「はぢを捨つ」という言葉の由来を説明しなさい。
石作の皇子が鉢を捨てても、なおかぐや姫に言い寄ったことから、あつかましいことを「(鉢=)恥を捨てる」と言うようになった。

竹取物語「仏の御石の鉢」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
なほ、この女見では、世にあるまじき心地のしければ、「天竺にある物も持て来ぬものかは」と思ひめぐらして、石作の皇子は、心のしたくある人にて、「天竺に二つとなき鉢を、百千万里のほど行きたりとも、いかでか取るべき」と思ひて、
かぐや姫のもとには、「今日なむ天竺へ石の鉢取りにまかる」と聞かせて、三年ばかり経て、大和の国十市の郡にある山寺に、賓頭盧の前なる鉢の、ひた黒に煤つきたるを取りて、錦の袋に入れて、作り花の枝につけて、かぐや姫の家に持て来て見せければ、
かぐや姫、あやしがりて見れば、鉢の中に文あり。広げて見れば、
海山の道に心をつくしはてないしのはちの涙ながれき
かぐや姫、「光やある」と見るに、蛍ばかりの光だになし。
置く露の光をだにもやどさまし小倉山にて何もとめけむ
とて、返し出だすを、
鉢を門に捨てて、この歌の返しをす。
白山にあへば光の失するかとはちを捨てても頼まるるかな
とよみて入れたり。
かぐや姫、返しもせずなりぬ。耳にも聞き入れざりければ、言ひわづらひて帰りぬ。
かの鉢を捨てて、また言ひけるよりぞ、面なきことをば、「はぢを捨つ」とは言ひける。
竹取物語「仏の御石の鉢」現代語訳(全文・通し)
「やはり、この女性と結婚しないでは、この世に生きていられそうにない」という気持ちがしたので、「天竺にある物でも持って来ないことがあろうか(持って来てみせる)」と思いめぐらしたが、石作の皇子は抜け目のない人で、「天竺に二つとない鉢を、何百何千万里の道のりを行ったとしても、どうして手に入れられようか(できるはずがない)」と思って、
かぐや姫のところには「今日、天竺へ石の鉢を取りにまいります」と知らせておいて、三年ほどたってから、大和の国十市の郡にある山寺で、賓頭盧さまの前に置いてある鉢で、真っ黒にすすのついたものを取って、錦の袋に入れ、造花の枝につけて、かぐや姫の家に持って来て見せたので、
かぐや姫が不思議に思って見ると、鉢の中に手紙がある。広げて見ると、(歌が書いてある。)
「海を越え山を越える旅の道で、心をすっかり使い果たし、石の鉢を求めて、泣いて血の涙を流しました」
かぐや姫が「光があるか」と見ると、蛍ほどの光さえない。(そこで歌を詠んだ。)
「(本物の仏の鉢なら)草に置く露ほどの光でも宿しているでしょうに。(光のない鉢を持って来るとは、)小倉山(小暗い山)で何を探していらしたのでしょうか」
と言って、(鉢を)返すと、
(皇子は)鉢を門のところに捨てて、この歌への返歌をする。
「白山のように輝くあなたに会ったので、(鉢の)光が消えてしまったのかと思い、鉢を捨てても(恥を捨てても)、まだ期待してしまうことですよ」
と詠んで(家の中に)さし入れた。
かぐや姫は返歌もしなくなった。(皇子の言葉に)耳も貸さなかったので、(皇子は)言い寄りかねて帰ってしまった。
あの鉢を捨てても、また言い寄ったことから、あつかましいことを「はぢを捨つ(恥を捨てる)」と言うようになった。
竹取物語「仏の御石の鉢」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(竹取物語の基本)
竹取物語の作者は誰?
作者はわかっていません(未詳)。漢文や仏教の知識がある男性の知識人と考えられています。
竹取物語はいつの作品?
平安時代のはじめ、9世紀後半〜10世紀前半ごろに成立したとされます。
竹取物語の冒頭(書き出し)は?
「今は昔、竹取の翁といふものありけり。」です。現代語訳は「今ではもう昔のことだが、竹取の翁という者がいたそうだ。」です。
なぜ日本最古の物語と言われるの?
『源氏物語』の絵合の巻で「物語の出で来はじめの祖」(物語が生まれた最初の祖先)と呼ばれているからです。
竹取物語 全文の目次
- 竹取物語「なよ竹のかぐや姫」の原文・現代語訳
- 竹取物語「貴公子たちの求婚」の原文・現代語訳
- 仏の御石の鉢(このページ)
- 竹取物語「蓬莱の玉の枝」の原文・現代語訳
- 竹取物語「火鼠の皮衣」の原文・現代語訳
- 竹取物語「竜の首の玉」の原文・現代語訳
- 竹取物語「燕の子安貝」の原文・現代語訳
- 竹取物語「帝の求婚」の原文・現代語訳
- 竹取物語「かぐや姫の昇天」の原文・現代語訳
- 竹取物語「ふじの山」の原文・現代語訳

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本文は『竹取物語』(國民文庫本、明治末刊)をもとに、教科書で広く読まれる形に合わせ、新字体・現代の送り仮名に直しました。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は、国立国会図書館デジタルコレクションの『竹取物語』絵巻(江戸時代前期)など、著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


