竹取物語「燕の子安貝」全文と現代語訳・文法|中納言石上麻呂足の、家に使はるる男どものもとに(かひなし・かひあり・掛詞・品詞分解)

ミスターT先生

竹取物語の第7章「燕の子安貝」を、書き出し「中納言石上麻呂足の、家に使はるる男どものもとに」から語源ばなし「かひなし」「かひあり」まで、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この章を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:石上麻呂足の中納言は、燕が持つという子安貝を取ろうとする。くらつまろの案で荒籠に乗り、自分で燕の巣を探るが、綱が切れて鼎の上に落ち、腰を折る。握っていたのは燕の古いふんだった。かぐや姫の見舞いの歌に返歌を書いて中納言は息絶え、かぐや姫は少しあはれと思う。
  • 文法の要点:係り結び(なむ…める・なむ…べき・やは…ぬ・ぞ…ける)、可能の「る」+打消(動かれぬ)、完了「つ」の命令形「てよ」、使役の「しむ・さす」、反語の「やは」。
  • テストの定番:「かひなし」「かひあり」の語源(貝=甲斐)、和歌の掛詞(まつ=松・待つ/かひ=貝・甲斐/すくひ=掬ひ・救ひ)。
うかるくん
うかるくん
T先生、5人目の中納言は、ちゃんと自分で取りに行くんですよね? ちょっと応援したくなります。
ミスターT先生
ミスターT先生
そうなんや。うそもにせ物も使わず、最後は自分で燕の巣に手を入れる。せやけど結果は…。最後にかぐや姫が少しだけ心を動かす、5人の中でも特別な章やで。
合格先生
合格先生
「かひなし」「かひあり」の語源もこの章です。T先生の授業では、黒板に貝の絵を描いて「これが甲斐や」と覚えさせられました。

この章で覚える文法(テストに出る順)

  1. 掛詞:かひ=貝・甲斐、まつ=松・待つ、すくひ=掬ひ・救ひ
  2. 可能の「る」+打消:腰なむ動かれぬ(腰が動かせない)
  3. 係り結び:なむ…める/なむ…べき/やは…ぬ/ずなむ(結びの省略)
  4. 「てよ」=完了(強意)「つ」の命令形
  5. 使役:しむ・さす(取らしめたまふ・吊り上げさせて)

前の章までのあらすじと石上の中納言

5人の貴公子のうち、石作の皇子・くらもちの皇子・阿倍の右大臣・大伴の大納言の4人は、かぐや姫に出された難題の宝物を手に入れられずに失敗しました。最後の5人目が石上麻呂足の中納言で、難題は「燕の子安貝」です。子安貝は安産のお守りとされた貝で、物語では燕が子を産むときに出すとされています。この章の中納言は、家来まかせにせず、自分で燕の巣に手を入れることになります。

1. 燕の巣を探す 子安貝は燕が持つ 2. 足場は失敗 人が多くて燕が来ない 3. 翁の名案 荒籠に一人吊り上げる 4. 自ら籠に 中納言が巣を探る 5. 綱が切れる 鼎の上に落ち腰を折る 6. かひなし 握ったのは燕のふん
図1 第7章「燕の子安貝」の流れ(6場面)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

中納言石上麻呂足の、家に使はるる男どものもとに、「燕の巣くひたらば告げよ。」とのたまふを、承りて、「何の料にかあらむ。」と申す。答へてのたまふやう、「燕の持たる子安貝を取らむ料なり。」とのたまふ。

現代語訳中納言石上麻呂足が、家に仕えている男たちのところに、「燕が巣を作ったら知らせよ。」とおっしゃるのを、(男たちは)承って、「何に使うためでございましょうか。」と申し上げる。(中納言が)答えておっしゃることには、「燕が持っている子安貝を取るためである。」とおっしゃる。

うかるくん
うかるくん
子安貝って、どんな貝なんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
タカラガイのなかまの貝とされていて、昔は安産のお守りにされたんや。「子が安らかに生まれる貝」で子安貝。物語では、燕が子を産むときに出すと考えられてる。
石上中納言の屋敷(燕の子安貝を探させる場面と考えられる)(竹取物語の古い絵)
石上中納言の屋敷(燕の子安貝を探させる場面と考えられる)
出典:『竹取物語』絵巻 中巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)

2

男ども答へて申す、「燕をあまた殺して見るにだにも、腹になきものなり。ただし、子産む時なむ、いかでか出だすらむ、はらはらと、人だに見れば失せぬ。」と申す。

現代語訳男たちが答えて申し上げる、「燕をたくさん殺して(腹の中を)見てさえも、腹の中にはないものです。ただし、子を産む時には、どうやって出すのでしょうか、(その貝は)人が少しでも見ると、ぱっと消えてしまいます。」と申し上げる。

3

また人の申すやう、「大炊寮の飯炊ぐ屋の棟の、つくの穴ごとに、燕は巣くひ侍り。それに、まめならむ男どもを率てまかりて、あぐらを結ひて上げて、うかがはせむに、そこらの燕、子産まざらむやは。さてこそ取らしめたまはめ。」と申す。

現代語訳また別の男が申し上げることには、「大炊寮(宮中の食事をつかさどる役所)の、飯をたく建物の棟の、木組みの穴ごとに、燕は巣を作っております。そこに、まじめな男たちを連れて参って、足場を組んで上げて、のぞかせたら、たくさんいる燕が子を産まないことがありましょうか(いや、きっと産みます)。そうしてこそ(子安貝を)お取らせになるのがよいでしょう。」と申し上げる。

サクラちゃん
サクラちゃん
「子産まざらむやは」の「やは」は疑問ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
ここは反語。「子を産まないことがあろうか、いや、きっと産む」。文の終わりの「やは」「かは」は反語になることが多いで。

4

中納言喜びたまひて、「をかしきことにもあるかな。もつともえ知らざりけり。興あること申したり。」とのたまひて、まめなる男ども二十人ばかり遣はして、あななひに上げ据ゑられたり。

現代語訳中納言はお喜びになって、「おもしろいことだなあ。まったく知らなかったよ。おもしろいことを申したな。」とおっしゃって、まじめな男たちを二十人ほど行かせて、足場の上に上げて待たせなさった。

5

殿より、使ひ間なく賜はせて、「子安貝取りたるか。」と問はせたまふ。「燕も、人のあまた上りゐたるに怖ぢて、巣に上り来ず。」かかるよしの御返事を申しければ、聞きたまひて、「いかがすべき。」と思しわづらふに、

現代語訳お屋敷から、ひっきりなしに使いをおよこしになって、「子安貝を取ったか。」とお尋ねになる。「燕も、人がたくさん上っているのをこわがって、巣に上って来ません。」というようなお返事を申し上げたので、(中納言は)お聞きになって、「どうしたらよいだろう。」と思い悩みなさっていると、

  • 「いかがすべき」の「べき」は適当(〜したらよい)。疑問の「いかが」を受けて連体形になっている。→助動詞「べし」の6つの意味(スイカトメテ)
  • 「怖づ」はこわがる。中納言はせっかちに、何度も使いを出して結果を聞いている。

6

かの寮の官人、くらつまろと申す翁申すやう、「子安貝取らむと思しめさば、たばかり申さむ。」とて、御前に参りたれば、中納言、額を合はせて向かひたまへり。

現代語訳その役所の役人で、くらつまろという老人が申し上げることには、「子安貝を取ろうとお思いになるなら、よい方法をお考え申し上げましょう。」と言って、(中納言の)御前に参上したので、中納言は、額を突き合わせるようにして向かい合っていらっしゃる。

  • 「思しめす」は「思ふ」の尊敬語(お思いになる)、「申す」は謙譲語。どちらも、くらつまろから中納言への敬意。→敬意の方向(誰から誰への敬意か)の見分け方
  • 「たばかる」は工夫する・計略をめぐらす。「額を合はす」は顔を近づけて熱心に話し合うようす。

7

くらつまろが申すやう、「この燕の子安貝は、悪しくたばかりて取らせたまふなり。さては、え取らせたまはじ。あななひにおどろおどろしく、二十人の人の上りてはべれば、あれて寄りまうで来ずなむ。

現代語訳くらつまろが申し上げることには、「この燕の子安貝は、まずいやり方で取らせようとなさっているのです。それでは、お取らせになることはできないでしょう。足場に、仰々しく二十人もの人が上っておりますので、(燕は)離れてしまって寄って来ないのです。

8

せさせたまふべきやうは、このあななひをこほちて、人みな退きて、まめならむ人一人を荒籠に乗せ据ゑて、綱を構へて、鳥の子産まむ間に綱を吊り上げさせて、ふと子安貝を取らせたまはむなむ、よかるべき。」と申す。

現代語訳なさるのがよいやり方は、この足場をこわして、人はみな引き下がって、まじめな人を一人だけ荒籠(目のあらいかご)に乗せて、綱を仕掛けておいて、燕が子を産むような時に綱を吊り上げさせて、さっと子安貝をお取らせになるのが、よいでしょう。」と申し上げる。

うかるくん
うかるくん
「よかるべき」の「べき」が連体形なのは、どうしてですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
上になむがあるからや。なむ→連体形「べき」。その前の段の「寄りまうで来ずなむ」みたいに、なむの後ろが省かれて結びがない形もある。両方見分けられるようにしとこ。

9

中納言のたまふやう、「いとよきことなり。」とて、あななひをこほちて、人みな帰りまうで来ぬ。中納言、くらつまろにのたまはく、「燕は、いかなる時にか子産むと知りて、人をば上ぐべき。」とのたまふ。くらつまろ申すやう、「燕は子産まむとする時は、尾をささげて七度めぐりてなむ産み落とすめる。さて、七度めぐらむをり、引き上げて、そのをり、子安貝は取らせたまへ。」と申す。

現代語訳中納言がおっしゃることには、「とてもよい考えだ。」と言って、足場をこわして、人はみな帰って参った。中納言がくらつまろにおっしゃることには、「燕はどんな時に子を産むと見きわめて、人を上げたらよいのか。」とおっしゃる。くらつまろが申し上げることには、「燕は子を産もうとする時は、尾を高く上げて七回まわって産み落とすようです。そこで、七回まわるような時に(籠を)引き上げて、その時に子安貝をお取らせください。」と申し上げる。

10

中納言喜びたまひて、よろづの人にも知らせたまはで、みそかに寮にいまして、男どもの中にまじりて、夜を昼になして取らしめたまふ。

現代語訳中納言はお喜びになって、だれにもお知らせにならないで、こっそり役所にいらっしゃって、男たちの中にまじって、夜を昼にして(昼も夜も休まず)取らせなさる。

  • 「知らせたまはで」の「で」は打消の接続助詞(〜ないで)。→古文の接続助詞(ば・ど・で・つつ)
  • 「みそかに」はこっそりと。身分の高い中納言が、身分の低い者たちにまじって自分で現場に行く。

11

くらつまろかく申すを、いといたく喜びたまひてのたまふ、「ここに使はるる人にもなきに、願ひをかなふることのうれしさ。」とのたまひて、御衣脱ぎてかづけたまひつ。さらに、「夜さり、この寮にまうでこ。」とのたまひて、遣はしつ。

現代語訳くらつまろがこのように申し上げるのを、たいそうお喜びになっておっしゃることには、「わたしに仕えている者でもないのに、願いをかなえてくれることのうれしさよ。」とおっしゃって、着ていたお召し物を脱いでほうびとしてお与えになった。さらに、「夜になったら、この役所に参れ。」とおっしゃって、帰らせた。

  • 「かづく」(下二段)はほうびとして与えること。着物を相手の肩にかけて与えたことから。→古文常識の一覧(禄・かづけ物など)
  • 「人にもなき」の「に」は断定「なり」の連用形(〜でもない)。「夜さり」は夜・夜になるころ。

12

日暮れぬれば、かの寮におはして見たまふに、まことに燕巣作れり。くらつまろ申すやうに、尾をささげてめぐるに、荒籠に人を乗せて吊り上げさせて、燕の巣に手をさし入れさせて探るに、「物もなし。」と申すに、

現代語訳日が暮れたので、その役所にいらっしゃって見なさると、本当に燕が巣を作っている。くらつまろが申し上げたとおりに、(燕が)尾を上げてまわるので、荒籠に人を乗せて吊り上げさせて、燕の巣に手を入れさせて探らせると、「何もありません。」と申し上げるので、

  • 「作れり」の「り」は存続(作っている)。「り」は四段の已然形(命令形)とサ変の未然形につく(サミシイ)。→完了・存続の助動詞「たり・り」
  • 「させ」が2回。人に「吊り上げさせ」、人に「手を入れさせ」る。中納言はまだ人まかせ。

13

中納言、「悪しく探ればなきなり。」と腹立ちて、「誰ばかりおぼえむに。」とて、「我上りて探らむ。」とのたまひて、籠に乗りて吊られ上りて、うかがひたまへるに、燕尾をささげていたくめぐるに合はせて、手をささげて探りたまふに、手にひらめる物さはる時に、

現代語訳中納言は「探り方が悪いからないのだ。」と腹を立てて、「(わたしのほかに)だれがうまく探り当てられようか。」と言って、「わたしが上って探ろう。」とおっしゃって、籠に乗って吊られて上って、(巣を)のぞきこみなさると、燕が尾を上げてさかんにまわるのに合わせて、手を上げて探りなさると、手に平たい物がさわった時に、

14

「我、物握りたり。今は下ろしてよ。翁、し得たり。」とのたまひて、集まりて、「とく下ろさむ。」とて、綱を引き過ぐして、綱絶ゆるすなはちに、やしまの鼎の上に、のけざまに落ちたまへり。

現代語訳「わたしは物をつかんだぞ。もう下ろしてくれ。じいや、やったぞ。」とおっしゃって、(人々が)集まって、「早く下ろそう。」と言って、綱を引っぱりすぎて、綱が切れたとたんに、やしまの鼎(煮炊きに使う大きな金属の器)の上に、あおむけに落ちなさった。

  • 「下ろしてよ」の「てよ」は完了(強意)「つ」の命令形で「さっさと〜してくれ」。→完了の助動詞「つ・ぬ」の活用(てよ・ね)
  • 「し得たり」は「やりとげた」。「翁」はくらつまろへの呼びかけ。
  • 「すなはち」は「〜するとすぐに」、「のけざまに」はあおむけに。
サクラちゃん
サクラちゃん
「今は下ろしてよ」の「てよ」は何ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
「てよ」は完了(強意)の助動詞「つ」の命令形。「さっさと下ろしてくれ」と急かしてるんや。この直後に綱が切れるんやから、気の毒な話やで。

15

人々あさましがりて、寄りて抱へ奉れり。御目は白目にて伏したまへり。人々、御口に水をすくひ入れ奉る。からうじて息出でたまへるに、また鼎の上より、手取り足取りして下げ下ろし奉る。

現代語訳人々はびっくりあきれて、近寄ってお抱え申し上げた。(中納言は)白目をむいて倒れていらっしゃる。人々が、お口に水をすくって入れ申し上げる。やっとのことで息を吹き返しなさったので、また鼎の上から、手を取り足を取りしてお下ろし申し上げる。

  • 「抱へ奉れり」の「奉る」は謙譲、「伏したまへり」の「たまふ」は尊敬。どちらも作者から中納言への敬意(動作を受ける人/する人)。→敬意の方向(誰から誰への敬意か)の見分け方
  • 「あさまし」は驚きあきれる。「からうじて」はやっとのことで(かろうじて)。
子安貝を取ろうとして落ちた中納言を、人々が抱きかかえる(左にはしご)(竹取物語の古い絵)
子安貝を取ろうとして落ちた中納言を、人々が抱きかかえる(左にはしご)
出典:『竹取物語』絵巻 中巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)

16

からうじて、「御心地はいかが思さるる。」と問へば、息の下にて、「物は少しおぼゆれど、腰なむ動かれぬ。されど、子安貝をふと握り持たれば、うれしくおぼゆるなり。まづ紙燭さしてこ。この貝顔見む。」と、御ぐしもたげて、御手を広げたまへるに、燕のまり置ける古糞を握りたまへるなりけり。

現代語訳やっとのことで、(人々が)「ご気分はいかがですか。」と尋ねると、(中納言は)息も絶え絶えに、「意識は少しはっきりしているが、腰が動かせない。けれども、子安貝をさっとつかんで持っているので、うれしく思うのだ。まず紙燭をともして持って来い。この貝の姿を見よう。」と言って、頭を持ち上げて、お手を広げなさると、燕がしておいた古いふんを握っていらっしゃったのだった。

  • 「腰なむ動かれぬ」:「れ」は可能の「る」、「ぬ」は打消「ず」の連体形(なむの結び)。完了「ぬ」の終止形とまちがえない。可能の「る」は打消といっしょに出ることが多い。→「ぬ」の識別(完了と打消)
  • 「思さるる」の「るる」は自発(自然とお感じになる)。→助動詞「る・らる」の4つの意味(受身・尊敬・自発・可能)
  • 「紙燭」は室内用の小さな明かり。「まる」は大小便をする。「〜なりけり」は「なんと〜だったのだ」という気づき。
うかるくん
うかるくん
「腰なむ動かれぬ」の「ぬ」は完了ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
上に「なむ」があるやろ? 結びは連体形やから、この「ぬ」は打消「ず」の連体形。「れ」は可能の「る」で、「腰が動かせない」。可能の「る」は打消といっしょに出ることが多い。ここ、テストに出るで!

17

それを見たまひて、「あな、かひなのわざや。」とのたまひけるよりぞ、思ふに違ふことをば、「かひなし」とは言ひける。

現代語訳それをご覧になって、「ああ、貝がない、かいのないことだったよ。」とおっしゃったことから、思っていたことと違う結果になることを、「かひなし」と言うようになったのだ。

サクラちゃん
サクラちゃん
つかんだのが燕のふん…! それで「かひなし」なんですね。
ミスターT先生
ミスターT先生
そうや。「貝が無い」と「甲斐(やったかい)が無い」を重ねたダジャレ。今でも「がんばったかいがあった」って言うやろ? あの「かい」が甲斐や。

18

「貝にもあらず。」と見たまひけるに、御心地も違ひて、唐櫃の蓋に入れられたまふべくもあらず、御腰は折れにけり。

現代語訳「貝でもない。」とご覧になったとたんに、ご気分も悪くなって、唐櫃(からびつ)のふたに乗せられて(運ばれる)こともおできにならないほど、お腰は折れてしまっていた。

  • 「折れにけり」の「に」は完了「ぬ」の連用形(にけり)。→「に」の識別7種類
  • 「心地違ふ」は気分が悪くなる。「唐櫃」は脚のついた大きな箱。

19

中納言は、いはけたるわざして病むことを、人に聞かせじとしたまひけれど、それを病にて、いと弱くなりたまひにけり。貝をえ取らずなりにけるよりも、人の聞き笑はむことを日にそへて思ひたまひければ、ただに病み死ぬるよりも、人聞き恥づかしくおぼえたまふなりけり。

現代語訳中納言は、子どもじみたことをして病気になったことを、人に知られまいとなさったけれど、それが原因で病気になって、ひどく弱ってしまわれた。貝を取れなかったことよりも、人が聞いて笑うようなことを日がたつにつれて気になさったので、ただ病気で死ぬことよりも、世間に知られることを恥ずかしく思いなさったのだった。

  • 「聞かせじ」は使役「す」+打消意志「じ」で「聞かせまい(知られまい)」。→打消推量の助動詞「じ」(〜ないだろう・〜まい)
  • 「日にそへて」は日がたつにつれて。「人聞き」は世間のうわさ。中納言が何より気にしたのは、笑いものになることだった。

20

これをかぐや姫聞きて、とぶらひにやる歌、
 年を経て波立ち寄らぬ住の江のまつかひなしと聞くはまことか 
とあるを、読みて聞かす。

現代語訳このことをかぐや姫が聞いて、お見舞いに送った歌、
「年月がたっても波が寄ってこない住の江の松——その『まつ(待つ)』ではありませんが、待っていたかいもなく、貝がなかったと聞きましたが、本当ですか。」
と書いてあるのを、(そばの人が)読んで聞かせる。

  • 掛詞:「まつ」=松と待つ、「かひ」=貝と甲斐。→掛詞(同じ音に二つの意味)のしくみ
  • 「波」「住の江」「松」「貝」は海辺に関係のある言葉で、歌の中でつながりを持たせている(縁語)。→縁語とは?掛詞との違い
  • 「住の江」は今の大阪市住吉のあたりの海辺で、松の名所として歌によまれた。「とぶらふ」は見舞う。
うかるくん
うかるくん
かぐや姫の歌、どこが掛詞なんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
「まつ」が松と待つ、「かひ」が貝と甲斐。住の江は松の名所やから、「住の江の松」から「待つかひなし」へつなげてる。「待っていたかいもなく、貝がなかったそうですね」と、ちょっとからかってるんやな。

21

いと弱き心地に、頭もたげて、人に紙を持たせて、苦しき心地に、からうじて書きたまふ。
 かひはかくありけるものをわびはてて死ぬる命をすくひやはせぬ 
と書きはてて、絶え入りたまひぬ。

現代語訳ひどく弱った気分の中で、頭を持ち上げて、人に紙を持たせて、苦しい気持ちで、やっとのことでお書きになる。
「(貝はありませんでしたが)あなたからお見舞いをいただいて、かいはこのようにあったのですね。それなのに、つらさに弱り果てて死んでいくわたしの命を、(貝をすくうように)救ってはくださらないのですか。」
と書き終えて、息が絶えてしまわれた。

  • 掛詞:「かひ」=貝と甲斐、「すくひ」=掬ひ(すくい取る)と救ひ。かぐや姫の歌の「かひなし」に「かひはあった」と答えている。
  • 「すくひやはせぬ」はやは…ぬの係り結び。「ぬ」は打消「ず」の連体形で「救ってはくれないのか」。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
  • 「わぶ」はつらく思う、「絶え入る」は息が絶える。最後の力をふりしぼって返歌を書いた。

22

これを聞きて、かぐや姫、少しあはれとおぼしけり。それよりなむ、少しうれしきことをば、「かひあり」とは言ひける。

現代語訳これを聞いて、かぐや姫は、少しかわいそうだとお思いになった。それから、少しうれしいことを「かひあり」と言うようになったのだ。

  • 語源ばなし:中納言の返歌の「かひはかくありける」から、少しうれしいことを「かひあり」(甲斐がある)と言うようになった、という話。直前の「かひなし」と対になっている。
  • 「あはれ」は、しみじみと心が動くこと。ここは「気の毒だ」。→古今異義語(うつくし・あはれ・をかし)
  • 5人の求婚者のうち、かぐや姫が「あはれ」と心を動かしたと書かれるのは、この中納言だけ。
合格先生
合格先生
T先生はここで「5人の中で、かぐや姫があはれと思ったのは中納言だけや」と力をこめていました。命がけの返歌が、少しだけ届いたんですね。

「かひ」=貝と甲斐を図で確かめる

「かひ」に二つの意味(語源ばなしと和歌の掛詞) かひ 貝 子安貝が無い 甲斐 やったかいが無い 二つを重ねて 「かひなし」 → 思いどおりにならない=「かひなし」、少しうれしい=「かひあり」 和歌の掛詞:まつ=松/待つ かひ=貝/甲斐 すくひ=掬ひ/救ひ
図2 「かひ」=貝と甲斐(第7章の語源ばなしと掛詞)
ミスターT先生
ミスターT先生
「かひ」1つで、語源ばなしと和歌の掛詞の両方が解ける。この章は「かひ」を押さえた人の勝ちや。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
料りょうため・用途
あまたあまたたくさん
まめなりまめなりまじめだ・誠実だ
あななひあなない高い所に上るための足場
たばかるたばかる工夫する・計略をめぐらす
おどろおどろしおどろおどろし大げさだ・仰々しい
こほつこぼつこわす
みそかなりみそかなりこっそりとしている
かづくかずく(下二段)ほうびとして与える
夜さりよさり夜・夜になるころ
あさましあさまし驚きあきれる
からうじてかろうじてやっとのことで
とぶらふとぶらう見舞う・訪ねる
わぶわぶつらく思う・思い悩む
あはれなりあわれなりしみじみと気の毒だ

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「何の料にかあらむ」の係り結びを説明しなさい。

係助詞「か」を受けて、推量の助動詞「む」が連体形で結んでいる(形は終止形と同じ「む」)。「に」は断定「なり」の連用形。訳は「何のためであろうか」。

問2 「そこらの燕、子産まざらむやは」を現代語訳しなさい。

「たくさんいる燕が、子を産まないことがあろうか(いや、きっと産むだろう)。」「やは」は反語。

問3 「腰なむ動かれぬ」の「れ」と「ぬ」を文法的に説明しなさい。

「れ」は可能の助動詞「る」の未然形、「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形(係助詞「なむ」の結び)。訳は「腰が動かせない」。

問4 「今は下ろしてよ」の「てよ」は何?

完了(強意)の助動詞「つ」の命令形。「さっさと下ろしてくれ」の意味。

問5 中納言が握っていたものは何だったか。

燕がしておいた古いふん(古糞)。子安貝ではなかった。

問6 「かひなし」という言葉の由来(語源ばなし)を説明しなさい。

中納言が子安貝ではなく燕のふんを握っていたのを見て「あな、かひなのわざや」と言ったことから。「貝無し」と「甲斐無し」をかけている。

問7 かぐや姫の歌「年を経て波立ち寄らぬ住の江のまつかひなしと聞くはまことか」の掛詞を二つ答えなさい。

「まつ」=松と待つ、「かひ」=貝と甲斐。

問8 「かひあり」という言葉はどのようにして生まれたとされるか。

中納言が死ぬ前にかぐや姫へ「かひはかくありけるものを」と返歌し、かぐや姫が少しあはれと思ったことから、少しうれしいことを「かひあり」と言うようになったとされる。

サクラちゃん
サクラちゃん
「かひなし」と「かひあり」、もう忘れません! 歌の掛詞もばっちりです。

竹取物語「燕の子安貝」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

中納言石上麻呂足の、家に使はるる男どものもとに、「燕の巣くひたらば告げよ。」とのたまふを、承りて、「何の料にかあらむ。」と申す。答へてのたまふやう、「燕の持たる子安貝を取らむ料なり。」とのたまふ。

男ども答へて申す、「燕をあまた殺して見るにだにも、腹になきものなり。ただし、子産む時なむ、いかでか出だすらむ、はらはらと、人だに見れば失せぬ。」と申す。

また人の申すやう、「大炊寮の飯炊ぐ屋の棟の、つくの穴ごとに、燕は巣くひ侍り。それに、まめならむ男どもを率てまかりて、あぐらを結ひて上げて、うかがはせむに、そこらの燕、子産まざらむやは。さてこそ取らしめたまはめ。」と申す。

中納言喜びたまひて、「をかしきことにもあるかな。もつともえ知らざりけり。興あること申したり。」とのたまひて、まめなる男ども二十人ばかり遣はして、あななひに上げ据ゑられたり。

殿より、使ひ間なく賜はせて、「子安貝取りたるか。」と問はせたまふ。「燕も、人のあまた上りゐたるに怖ぢて、巣に上り来ず。」かかるよしの御返事を申しければ、聞きたまひて、「いかがすべき。」と思しわづらふに、

かの寮の官人、くらつまろと申す翁申すやう、「子安貝取らむと思しめさば、たばかり申さむ。」とて、御前に参りたれば、中納言、額を合はせて向かひたまへり。

くらつまろが申すやう、「この燕の子安貝は、悪しくたばかりて取らせたまふなり。さては、え取らせたまはじ。あななひにおどろおどろしく、二十人の人の上りてはべれば、あれて寄りまうで来ずなむ。

せさせたまふべきやうは、このあななひをこほちて、人みな退きて、まめならむ人一人を荒籠に乗せ据ゑて、綱を構へて、鳥の子産まむ間に綱を吊り上げさせて、ふと子安貝を取らせたまはむなむ、よかるべき。」と申す。

中納言のたまふやう、「いとよきことなり。」とて、あななひをこほちて、人みな帰りまうで来ぬ。中納言、くらつまろにのたまはく、「燕は、いかなる時にか子産むと知りて、人をば上ぐべき。」とのたまふ。くらつまろ申すやう、「燕は子産まむとする時は、尾をささげて七度めぐりてなむ産み落とすめる。さて、七度めぐらむをり、引き上げて、そのをり、子安貝は取らせたまへ。」と申す。

中納言喜びたまひて、よろづの人にも知らせたまはで、みそかに寮にいまして、男どもの中にまじりて、夜を昼になして取らしめたまふ。

くらつまろかく申すを、いといたく喜びたまひてのたまふ、「ここに使はるる人にもなきに、願ひをかなふることのうれしさ。」とのたまひて、御衣脱ぎてかづけたまひつ。さらに、「夜さり、この寮にまうでこ。」とのたまひて、遣はしつ。

日暮れぬれば、かの寮におはして見たまふに、まことに燕巣作れり。くらつまろ申すやうに、尾をささげてめぐるに、荒籠に人を乗せて吊り上げさせて、燕の巣に手をさし入れさせて探るに、「物もなし。」と申すに、

中納言、「悪しく探ればなきなり。」と腹立ちて、「誰ばかりおぼえむに。」とて、「我上りて探らむ。」とのたまひて、籠に乗りて吊られ上りて、うかがひたまへるに、燕尾をささげていたくめぐるに合はせて、手をささげて探りたまふに、手にひらめる物さはる時に、

「我、物握りたり。今は下ろしてよ。翁、し得たり。」とのたまひて、集まりて、「とく下ろさむ。」とて、綱を引き過ぐして、綱絶ゆるすなはちに、やしまの鼎の上に、のけざまに落ちたまへり。

人々あさましがりて、寄りて抱へ奉れり。御目は白目にて伏したまへり。人々、御口に水をすくひ入れ奉る。からうじて息出でたまへるに、また鼎の上より、手取り足取りして下げ下ろし奉る。

からうじて、「御心地はいかが思さるる。」と問へば、息の下にて、「物は少しおぼゆれど、腰なむ動かれぬ。されど、子安貝をふと握り持たれば、うれしくおぼゆるなり。まづ紙燭さしてこ。この貝顔見む。」と、御ぐしもたげて、御手を広げたまへるに、燕のまり置ける古糞を握りたまへるなりけり。

それを見たまひて、「あな、かひなのわざや。」とのたまひけるよりぞ、思ふに違ふことをば、「かひなし」とは言ひける。

「貝にもあらず。」と見たまひけるに、御心地も違ひて、唐櫃の蓋に入れられたまふべくもあらず、御腰は折れにけり。

中納言は、いはけたるわざして病むことを、人に聞かせじとしたまひけれど、それを病にて、いと弱くなりたまひにけり。貝をえ取らずなりにけるよりも、人の聞き笑はむことを日にそへて思ひたまひければ、ただに病み死ぬるよりも、人聞き恥づかしくおぼえたまふなりけり。

これをかぐや姫聞きて、とぶらひにやる歌、
 年を経て波立ち寄らぬ住の江のまつかひなしと聞くはまことか 
とあるを、読みて聞かす。

いと弱き心地に、頭もたげて、人に紙を持たせて、苦しき心地に、からうじて書きたまふ。
 かひはかくありけるものをわびはてて死ぬる命をすくひやはせぬ 
と書きはてて、絶え入りたまひぬ。

これを聞きて、かぐや姫、少しあはれとおぼしけり。それよりなむ、少しうれしきことをば、「かひあり」とは言ひける。

竹取物語「燕の子安貝」現代語訳(全文・通し)

中納言石上麻呂足が、家に仕えている男たちのところに、「燕が巣を作ったら知らせよ。」とおっしゃるのを、(男たちは)承って、「何に使うためでございましょうか。」と申し上げる。(中納言が)答えておっしゃることには、「燕が持っている子安貝を取るためである。」とおっしゃる。

男たちが答えて申し上げる、「燕をたくさん殺して(腹の中を)見てさえも、腹の中にはないものです。ただし、子を産む時には、どうやって出すのでしょうか、(その貝は)人が少しでも見ると、ぱっと消えてしまいます。」と申し上げる。

また別の男が申し上げることには、「大炊寮(宮中の食事をつかさどる役所)の、飯をたく建物の棟の、木組みの穴ごとに、燕は巣を作っております。そこに、まじめな男たちを連れて参って、足場を組んで上げて、のぞかせたら、たくさんいる燕が子を産まないことがありましょうか(いや、きっと産みます)。そうしてこそ(子安貝を)お取らせになるのがよいでしょう。」と申し上げる。

中納言はお喜びになって、「おもしろいことだなあ。まったく知らなかったよ。おもしろいことを申したな。」とおっしゃって、まじめな男たちを二十人ほど行かせて、足場の上に上げて待たせなさった。

お屋敷から、ひっきりなしに使いをおよこしになって、「子安貝を取ったか。」とお尋ねになる。「燕も、人がたくさん上っているのをこわがって、巣に上って来ません。」というようなお返事を申し上げたので、(中納言は)お聞きになって、「どうしたらよいだろう。」と思い悩みなさっていると、

その役所の役人で、くらつまろという老人が申し上げることには、「子安貝を取ろうとお思いになるなら、よい方法をお考え申し上げましょう。」と言って、(中納言の)御前に参上したので、中納言は、額を突き合わせるようにして向かい合っていらっしゃる。

くらつまろが申し上げることには、「この燕の子安貝は、まずいやり方で取らせようとなさっているのです。それでは、お取らせになることはできないでしょう。足場に、仰々しく二十人もの人が上っておりますので、(燕は)離れてしまって寄って来ないのです。

なさるのがよいやり方は、この足場をこわして、人はみな引き下がって、まじめな人を一人だけ荒籠(目のあらいかご)に乗せて、綱を仕掛けておいて、燕が子を産むような時に綱を吊り上げさせて、さっと子安貝をお取らせになるのが、よいでしょう。」と申し上げる。

中納言がおっしゃることには、「とてもよい考えだ。」と言って、足場をこわして、人はみな帰って参った。中納言がくらつまろにおっしゃることには、「燕はどんな時に子を産むと見きわめて、人を上げたらよいのか。」とおっしゃる。くらつまろが申し上げることには、「燕は子を産もうとする時は、尾を高く上げて七回まわって産み落とすようです。そこで、七回まわるような時に(籠を)引き上げて、その時に子安貝をお取らせください。」と申し上げる。

中納言はお喜びになって、だれにもお知らせにならないで、こっそり役所にいらっしゃって、男たちの中にまじって、夜を昼にして(昼も夜も休まず)取らせなさる。

くらつまろがこのように申し上げるのを、たいそうお喜びになっておっしゃることには、「わたしに仕えている者でもないのに、願いをかなえてくれることのうれしさよ。」とおっしゃって、着ていたお召し物を脱いでほうびとしてお与えになった。さらに、「夜になったら、この役所に参れ。」とおっしゃって、帰らせた。

日が暮れたので、その役所にいらっしゃって見なさると、本当に燕が巣を作っている。くらつまろが申し上げたとおりに、(燕が)尾を上げてまわるので、荒籠に人を乗せて吊り上げさせて、燕の巣に手を入れさせて探らせると、「何もありません。」と申し上げるので、

中納言は「探り方が悪いからないのだ。」と腹を立てて、「(わたしのほかに)だれがうまく探り当てられようか。」と言って、「わたしが上って探ろう。」とおっしゃって、籠に乗って吊られて上って、(巣を)のぞきこみなさると、燕が尾を上げてさかんにまわるのに合わせて、手を上げて探りなさると、手に平たい物がさわった時に、

「わたしは物をつかんだぞ。もう下ろしてくれ。じいや、やったぞ。」とおっしゃって、(人々が)集まって、「早く下ろそう。」と言って、綱を引っぱりすぎて、綱が切れたとたんに、やしまの鼎(煮炊きに使う大きな金属の器)の上に、あおむけに落ちなさった。

人々はびっくりあきれて、近寄ってお抱え申し上げた。(中納言は)白目をむいて倒れていらっしゃる。人々が、お口に水をすくって入れ申し上げる。やっとのことで息を吹き返しなさったので、また鼎の上から、手を取り足を取りしてお下ろし申し上げる。

やっとのことで、(人々が)「ご気分はいかがですか。」と尋ねると、(中納言は)息も絶え絶えに、「意識は少しはっきりしているが、腰が動かせない。けれども、子安貝をさっとつかんで持っているので、うれしく思うのだ。まず紙燭をともして持って来い。この貝の姿を見よう。」と言って、頭を持ち上げて、お手を広げなさると、燕がしておいた古いふんを握っていらっしゃったのだった。

それをご覧になって、「ああ、貝がない、かいのないことだったよ。」とおっしゃったことから、思っていたことと違う結果になることを、「かひなし」と言うようになったのだ。

「貝でもない。」とご覧になったとたんに、ご気分も悪くなって、唐櫃(からびつ)のふたに乗せられて(運ばれる)こともおできにならないほど、お腰は折れてしまっていた。

中納言は、子どもじみたことをして病気になったことを、人に知られまいとなさったけれど、それが原因で病気になって、ひどく弱ってしまわれた。貝を取れなかったことよりも、人が聞いて笑うようなことを日がたつにつれて気になさったので、ただ病気で死ぬことよりも、世間に知られることを恥ずかしく思いなさったのだった。

このことをかぐや姫が聞いて、お見舞いに送った歌、
「年月がたっても波が寄ってこない住の江の松——その『まつ(待つ)』ではありませんが、待っていたかいもなく、貝がなかったと聞きましたが、本当ですか。」
と書いてあるのを、(そばの人が)読んで聞かせる。

ひどく弱った気分の中で、頭を持ち上げて、人に紙を持たせて、苦しい気持ちで、やっとのことでお書きになる。
「(貝はありませんでしたが)あなたからお見舞いをいただいて、かいはこのようにあったのですね。それなのに、つらさに弱り果てて死んでいくわたしの命を、(貝をすくうように)救ってはくださらないのですか。」
と書き終えて、息が絶えてしまわれた。

これを聞いて、かぐや姫は、少しかわいそうだとお思いになった。それから、少しうれしいことを「かひあり」と言うようになったのだ。

竹取物語「燕の子安貝」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(竹取物語の基本)

竹取物語の作者は誰?

作者はわかっていません(未詳)。漢文や仏教の知識がある男性の知識人と考えられています。

竹取物語はいつの作品?

平安時代のはじめ、9世紀後半〜10世紀前半ごろに成立したとされます。

竹取物語の冒頭(書き出し)は?

「今は昔、竹取の翁といふものありけり。」です。現代語訳は「今ではもう昔のことだが、竹取の翁という者がいたそうだ。」です。

なぜ日本最古の物語と言われるの?

『源氏物語』の絵合の巻で「物語の出で来はじめの祖」(物語が生まれた最初の祖先)と呼ばれているからです。

竹取物語 全文の目次

竹取物語の入口(全10章のあらすじと目次・登場人物)

  1. 竹取物語「なよ竹のかぐや姫」の原文・現代語訳
  2. 竹取物語「貴公子たちの求婚」の原文・現代語訳
  3. 竹取物語「仏の御石の鉢」の原文・現代語訳
  4. 竹取物語「蓬莱の玉の枝」の原文・現代語訳
  5. 竹取物語「火鼠の皮衣」の原文・現代語訳
  6. 竹取物語「竜の首の玉」の原文・現代語訳
  7. 燕の子安貝(このページ)
  8. 竹取物語「帝の求婚」の原文・現代語訳
  9. 竹取物語「かぐや姫の昇天」の原文・現代語訳
  10. 竹取物語「ふじの山」の原文・現代語訳
ミスターT先生
ミスターT先生
5人の貴公子はみんな失敗。次は「帝の求婚」。いよいよ帝が登場して、かぐや姫の心にも変化が…? お楽しみに!

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本文は『竹取物語』(國民文庫本、明治末刊)をもとに、教科書で広く読まれる形に合わせ、新字体・現代の送り仮名に直しました。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は、国立国会図書館デジタルコレクションの『竹取物語』絵巻(江戸時代前期)など、著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。