
竹取物語の最後、「いづれの山か天に近き」から「その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ、言ひ伝へたる」まで(第10章「ふじの山(富士の煙)」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この章を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:かぐや姫が月へ帰り、翁と嫗は悲しみのあまり病に伏す。帝はかぐや姫が残した手紙と不死の薬を受け取り、「会えないのに不死の薬は役に立たない」と歌に詠む。帝は天にいちばん近い駿河の国の山の頂上で、手紙と薬を燃やさせる。兵士がたくさん登ったのでその山を「ふじの山」と名づけ、煙は今も立ちのぼると伝える。
- 文法の要点:反語(何せむにか・何にかはせむ)、聞こしめす=召し上がる、伝聞のなり(あなる)、最高敬語(せたまふ・仰せたまふ)、係り結び(なむ…ける・ぞ…たる)。
- テストの定番:「ふじ」の由来(士に富む=富士/不死の薬)、「涙」と「無み」の掛詞、不死の薬を燃やした理由。



この章で覚える文法(テストに出る順)
- 反語:何せむにか…惜しからむ/何にかはせむ
- 聞こしめす=召し上がる(物も聞こしめさず)
- 伝聞のなり:駿河の国にあなる山
- 掛詞:涙=無み(逢ふことも無み)
- 語源ばなし「ふじの山」(士に富む・不死)と係り結び
第9章までのあらすじと物語の結末
第8章で帝はかぐや姫に心ひかれ、二人は手紙を交わすようになりました。第9章「かぐや姫の昇天」で、かぐや姫は自分が月の都の人であることを打ち明けます。八月十五日の夜、帝は中将に兵を率いさせて家を守らせますが、天人たちが迎えに来ると、兵たちは戦うことができません。かぐや姫は帝に手紙と不死の薬を残し、天の羽衣を着て月へ帰っていきました。
この第10章は、残された人たちの悲しみと、物語のしめくくりの語源ばなしです。短い章ですが、全10章の結末として大切です。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
その後、翁・嫗、血の涙を流して惑へど、かひなし。あの書き置きし文を読みて聞かせけれど、「何せむにか命も惜しからむ。誰がためにか。何事も用もなし」とて、薬も食はず、やがて起きもあがらず、病み臥せり。
現代語訳その後、翁と嫗は、血の涙を流して悲しみに取り乱すけれど、どうしようもない。(かぐや姫が)書き残していった手紙を読んで聞かせたけれど、「何のために命が惜しいだろうか(惜しくない)。だれのために(生きるのか)。何もかも、もうむだだ」と言って、薬も飲まず、そのまま起き上がりもしないで、病気になって寝込んでいる。
- 「何せむにか…む」は反語(何のために〜か、いや〜ない)。→係助詞「か」の疑問と反語
- 「誰がためにか。」は下の「生きむ」などが省略された形(結びの省略)。
- 「書き置きし」の「し」は過去「き」の連体形。「臥せり」はエ段+り=存続。→完了・存続の助動詞「たり・り」
- 「血の涙」はこの上なく悲しいときの涙。「やがて」は古文では「そのまま・すぐに」。


2
中将、人々引き具して帰り参りて、かぐや姫を、え戦ひとめずなりぬること、こまごまと奏す。薬の壺に御文添へて参らす。
現代語訳中将は、兵士たちを引き連れて宮中に帰って、かぐや姫を戦って引きとめることができなかったことを、くわしく帝に申し上げる。(かぐや姫が帝に残した不死の)薬の壺に、お手紙を添えて差し上げる。
- 「え〜ず」は不可能(〜できない)。「え戦ひとめずなりぬる」=戦って引きとめられなかった。
- 「奏す」は帝にだけ使う謙譲語(作者から帝への敬意)。→絶対敬語「奏す・啓す」と最高敬語
- 「中将」は前の章で、帝の命令で兵を率いてかぐや姫の家を守った人。

出典:『竹取物語』絵巻 下巻(江戸時代前期の写本、国立国会図書館デジタルコレクション)
3
広げて御覧じて、いといたくあはれがらせたまひて、物も聞こしめさず、御遊びなどもなかりけり。
現代語訳(帝は手紙を)広げてご覧になって、たいそう深く悲しまれて、お食事も召し上がらず、管弦の遊びなどもなかった。
- 「聞こしめす」は「お聞きになる」のほかに「召し上がる」の意味がある。ここは「物も」とあるので食べる意味。→敬語動詞の一覧(聞こしめす・奉る・参る)
- 「あはれがらせたまひ」の「せ」は尊敬(最高敬語)。させる相手がいない。→「せ」の識別(使役・尊敬・過去きの未然形)
- 「御遊び」は詩歌や音楽の催し。帝が楽しみをやめるほど悲しんでいる。


4
大臣・上達部を召して、「いづれの山か天に近き」と問はせたまふに、ある人奏す、「駿河の国にある山なむ、この都も近く、天も近くはべる」と奏す。
現代語訳(帝は)大臣や上達部をお呼びになって、「どの山が天に近いか」とお尋ねになると、ある人が申し上げるには、「駿河の国にある山が、この都からも近く、天にも近うございます」と申し上げる。
- 「か…近き」「なむ…はべる」と係り結びが2つ。形容詞「近し」の連体形は「近き」。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
- 「はべる」は丁寧語(〜ございます)。ある人から帝への敬意。→「はべり・さぶらふ」の丁寧語と謙譲語
- 「上達部」(かんだちめ)は三位以上の位の高い貴族。駿河の国は今の静岡県の中部・東部。
5
これを聞かせたまひて、
逢ふことも涙に浮かぶ我が身には死なぬ薬も何にかはせむ
現代語訳(帝は)これをお聞きになって、(歌を詠む。)
「(かぐや姫に)二度と会うこともないので、涙の中に浮かんでいるようなわたしにとって、死なない薬も何の役に立とうか(立ちはしない)」
- 「涙」の「なみ」に「無み」(ないので)を掛けると説明される。「逢ふことも無み」=会うこともないので。→掛詞の見つけ方(和歌の修辞)
- 「死なぬ」は未然形+ぬ=打消(死なない)。→「ぬ」の識別(完了と打消)
- 「何にかはせむ」は反語の決まり文句(何になろうか、何にもならない)。かぐや姫のいない世で長生きしても意味がないという帝の気持ち。

6
かの奉る不死の薬の壺に、御文具して、御使ひに賜はす。勅使には、調の岩笠といふ人を召して、駿河の国にあなる山の頂に持て着くべきよし仰せたまふ。
現代語訳あの(かぐや姫が)差し上げた不死の薬の壺に、お手紙を添えて、お使いにお与えになる。勅使には、調の岩笠という人をお呼びになって、駿河の国にあるという山の頂上に持って行くようにとお命じになる。
- 「あなる」は「あるなる」→「あんなる」→「あ(ん)なる」。伝聞(〜という)。帝は見たことのない山なので伝聞。→伝聞・推定の「なり」と断定の「なり」の見分け方
- 「奉る」はここでは謙譲語(差し上げる)。かぐや姫が帝に差し上げた薬。第8章の「御輿に奉る」(尊敬)とくらべよう。
- 「勅使」は帝の命令を伝える使い。調の岩笠(つきのいわかさ)。國民文庫本は「調岩笠」、「もて行くべき」とある。


7
峰にてすべきやう教へさせたまふ。御文、不死の薬の壺並べて、火をつけて燃やすべきよし仰せたまふ。
現代語訳峰ですべきことをお教えになる。お手紙と不死の薬の壺を並べて、火をつけて燃やすようにとお命じになる。
- 「べし」は当然・命令(〜するべきだ・〜せよ)。「〜べきよし仰せたまふ」は「〜するようにお命じになる」の決まった言い方。→助動詞「べし」の6つの意味
- 「教へさせたまふ」の「させ」は、尊敬(最高敬語)とも、人に命じて教えさせる使役とも読める。
- 帝は手紙と不死の薬を燃やすことで、天(月)にいるかぐや姫へ思いを届けようとした、と読まれる。
8
そのよし承りて、士どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を「ふじの山」とは名づけける。その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ、言ひ伝へたる。
現代語訳そのご命令をお受けして、兵士たちをたくさん連れて山へ登ったことから、その山を「ふじの山(富士の山)」と名づけた。その煙は、今もまだ雲の中へ立ちのぼっていると、言い伝えている。
- 語源ばなし:士(つわもの)に富む山=兵士がたくさん登った山だから「富士」。さらに、不死の薬を燃やした山なので「不死(ふし)」にも通じる。二つのダジャレが重なっている。
- 「なむ…ける」「ぞ…たる」と、最後の2文も係り結びで終わる。→係り結びの決まり
- 平安時代の富士山は煙を上げる火山だった。物語は「その煙は今も立ちのぼっている」と結び、全10章が終わる。



出典:竹取物語の屏風絵(江戸時代、立教大学図書館蔵、Wikimedia Commons)
「ふじの山」の名前の由来を図で確かめる

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 惑ふ | まどう | 取り乱す・悲しみにくれる |
| かひなし | かいなし | どうしようもない・効き目がない |
| やがて | やがて | そのまま・すぐに |
| 引き具す | ひきぐす | 引き連れる |
| え〜ず | え〜ず | 〜できない |
| 奏す | そうす | (帝に)申し上げる |
| 聞こしめす | きこしめす | 召し上がる・お聞きになる |
| 御遊び | おんあそび | 詩歌や管弦の催し |
| 上達部 | かんだちめ | 三位以上の位の高い貴族 |
| 勅使 | ちょくし | 帝の命令を伝える使い |
| 具す | ぐす | 添える・連れて行く |
| 士 | つわもの | 兵士 |
| いまだ | いまだ | 今もまだ |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「何せむにか命も惜しからむ」を現代語訳しなさい。
「何のために命が惜しいだろうか(いや、惜しくはない)。」反語。
問2 「物も聞こしめさず」の「聞こしめす」の意味は?
「召し上がる」(食べる・飲むの尊敬語)。
問3 「逢ふことも涙に浮かぶ我が身には」の歌で、「涙」に掛けられている言葉と意味は?
「無み」(ないので)。「逢ふことも無み」=会うこともないので。
問4 「駿河の国にあなる山」の「なる」の意味は?
伝聞(〜という)。「あるなる」の撥音便「あんなる」の「ん」が書かれない形。
問5 帝は、かぐや姫が残した不死の薬をどうしたか。
手紙と一緒に、天にいちばん近い駿河の国の山の頂上で燃やさせた。
問6 「ふじの山」という名前の由来を、本文に即して説明しなさい。
帝の使いが兵士(士)をたくさん連れて登ったので「士に富む山=富士」。不死の薬を燃やした「不死」にも通じる。
問7 「その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ、言ひ伝へたる」の係り結びを説明しなさい。
係助詞「ぞ」を受けて、文末が存続の助動詞「たり」の連体形「たる」で結ばれている。

竹取物語「ふじの山(富士の煙)」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
その後、翁・嫗、血の涙を流して惑へど、かひなし。あの書き置きし文を読みて聞かせけれど、「何せむにか命も惜しからむ。誰がためにか。何事も用もなし」とて、薬も食はず、やがて起きもあがらず、病み臥せり。
中将、人々引き具して帰り参りて、かぐや姫を、え戦ひとめずなりぬること、こまごまと奏す。薬の壺に御文添へて参らす。
広げて御覧じて、いといたくあはれがらせたまひて、物も聞こしめさず、御遊びなどもなかりけり。
大臣・上達部を召して、「いづれの山か天に近き」と問はせたまふに、ある人奏す、「駿河の国にある山なむ、この都も近く、天も近くはべる」と奏す。
これを聞かせたまひて、
逢ふことも涙に浮かぶ我が身には死なぬ薬も何にかはせむ
かの奉る不死の薬の壺に、御文具して、御使ひに賜はす。勅使には、調の岩笠といふ人を召して、駿河の国にあなる山の頂に持て着くべきよし仰せたまふ。
峰にてすべきやう教へさせたまふ。御文、不死の薬の壺並べて、火をつけて燃やすべきよし仰せたまふ。
そのよし承りて、士どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を「ふじの山」とは名づけける。その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ、言ひ伝へたる。
竹取物語「ふじの山(富士の煙)」現代語訳(全文・通し)
その後、翁と嫗は、血の涙を流して悲しみに取り乱すけれど、どうしようもない。(かぐや姫が)書き残していった手紙を読んで聞かせたけれど、「何のために命が惜しいだろうか(惜しくない)。だれのために(生きるのか)。何もかも、もうむだだ」と言って、薬も飲まず、そのまま起き上がりもしないで、病気になって寝込んでいる。
中将は、兵士たちを引き連れて宮中に帰って、かぐや姫を戦って引きとめることができなかったことを、くわしく帝に申し上げる。(かぐや姫が帝に残した不死の)薬の壺に、お手紙を添えて差し上げる。
(帝は手紙を)広げてご覧になって、たいそう深く悲しまれて、お食事も召し上がらず、管弦の遊びなどもなかった。
(帝は)大臣や上達部をお呼びになって、「どの山が天に近いか」とお尋ねになると、ある人が申し上げるには、「駿河の国にある山が、この都からも近く、天にも近うございます」と申し上げる。
(帝は)これをお聞きになって、(歌を詠む。)
「(かぐや姫に)二度と会うこともないので、涙の中に浮かんでいるようなわたしにとって、死なない薬も何の役に立とうか(立ちはしない)」
あの(かぐや姫が)差し上げた不死の薬の壺に、お手紙を添えて、お使いにお与えになる。勅使には、調の岩笠という人をお呼びになって、駿河の国にあるという山の頂上に持って行くようにとお命じになる。
峰ですべきことをお教えになる。お手紙と不死の薬の壺を並べて、火をつけて燃やすようにとお命じになる。
そのご命令をお受けして、兵士たちをたくさん連れて山へ登ったことから、その山を「ふじの山(富士の山)」と名づけた。その煙は、今もまだ雲の中へ立ちのぼっていると、言い伝えている。
竹取物語「ふじの山(富士の煙)」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(竹取物語の基本)
竹取物語の作者は誰?
作者はわかっていません(未詳)。漢文や仏教の知識がある男性の知識人と考えられています。
竹取物語はいつの作品?
平安時代のはじめ、9世紀後半〜10世紀前半ごろに成立したとされます。
竹取物語の冒頭(書き出し)は?
「今は昔、竹取の翁といふものありけり。」です。現代語訳は「今ではもう昔のことだが、竹取の翁という者がいたそうだ。」です。
なぜ日本最古の物語と言われるの?
『源氏物語』の絵合の巻で「物語の出で来はじめの祖」(物語が生まれた最初の祖先)と呼ばれているからです。
竹取物語 全文の目次
- 竹取物語「なよ竹のかぐや姫」の原文・現代語訳
- 竹取物語「貴公子たちの求婚」の原文・現代語訳
- 竹取物語「仏の御石の鉢」の原文・現代語訳
- 竹取物語「蓬莱の玉の枝」の原文・現代語訳
- 竹取物語「火鼠の皮衣」の原文・現代語訳
- 竹取物語「竜の首の玉」の原文・現代語訳
- 竹取物語「燕の子安貝」の原文・現代語訳
- 竹取物語「帝の求婚」の原文・現代語訳
- 竹取物語「かぐや姫の昇天」の原文・現代語訳
- ふじの山(富士の煙)(このページ)

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本文は『竹取物語』(國民文庫本、明治末刊)をもとに、教科書で広く読まれる形に合わせ、新字体・現代の送り仮名に直しました。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は、国立国会図書館デジタルコレクションの『竹取物語』絵巻(江戸時代前期)など、著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


