原文は國民文庫本をもとに教科書の形に整えたもの、現代語訳は合格大作戦のオリジナルです。
| 原文 | 現代語訳 | |
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| 1 | さて、かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを、帝聞こしめして、内侍中臣のふさ子にのたまふ、「多くの人の身をいたづらになしてあはざなるかぐや姫は、いかばかりの女ぞと、まかりて見て参れ」とのたまふ。 | さて、かぐや姫の顔立ちが世に比べるものがないほどすばらしいことを、帝がお聞きになって、内侍の中臣のふさ子におっしゃるには、「多くの男の身を破滅させてまで結婚しないというかぐや姫は、どれほどの女なのかと、出かけて行って見てまいれ」とおっしゃる。 |
| 2 | ふさ子承りてまかれり。竹取の家にかしこまりて請じ入れて会へり。嫗に内侍のたまふ、「仰せごとに、かぐや姫のかたち優におはすとなり。よく見て参るべきよしのたまはせつるになむ参りつる」と言へば、「さらばかく申しはべらむ」と言ひて入りぬ。 | ふさ子はご命令をお受けして出かけた。竹取の家では恐縮して(ふさ子を)招き入れて会った。内侍が嫗におっしゃるには、「帝のおことばでは、かぐや姫の顔立ちがすぐれていらっしゃるということだ。よく見てまいれとおっしゃったので、参りました」と言うと、(嫗は)「それではそのように(姫に)申しましょう」と言って奥に入った。 |
| 3 | かぐや姫に、「はや、かの御使ひに対面したまへ」と言へば、かぐや姫、「よきかたちにもあらず。いかでか見ゆべき」と言へば、「うたてものたまふかな。帝の御使ひをば、いかでかおろかにせむ」と言へば、 | (嫗が)かぐや姫に「早く、あのお使いにお会いなさい」と言うと、かぐや姫は「美しい顔でもありません。どうしてお会いできましょう」と言うので、(嫗は)「困ったことをおっしゃるね。帝のお使いを、どうしていいかげんに扱えましょうか」と言うと、 |
| 4 | かぐや姫答ふるやう、「帝の召してのたまはむこと、かしこしとも思はず」と言ひて、さらに見ゆべくもあらず。生める子のやうにあれど、いと心恥づかしげに、おろそかなるやうに言ひければ、心のままにもえ責めず。 | かぐや姫が答えるには、「帝がお呼びになっておっしゃるようなことを、恐れ多いとも思いません」と言って、まったく会いそうにもない。(嫗にとっては)自分が産んだ子のようではあるけれど、(姫は)こちらが気おくれするほど立派な様子で、そっけなく言ったので、(嫗は)思いどおりに責めることもできない。 |
| 5 | 嫗、内侍のもとに帰り出でて、「口惜しく、この幼き者は、こはくはべる者にて、対面すまじき」と申す。内侍、「『必ず見たてまつりて参れ』と仰せごとありつるものを、見たてまつらでは、いかでか帰り参らむ。国王の仰せごとを、まさに世に住みたまはむ人の、承りたまはでありなむや。言はれぬことなしたまひそ」と、言葉恥づかしく言ひければ、 | 嫗は内侍のところに戻って、「残念なことに、この幼い者は強情な者でございまして、お会いしそうにありません」と申し上げる。内侍は「『必ずお会いしてまいれ』とおことばがあったのに、お会いしないでは、どうして帰れましょうか。国王のご命令を、この世に住んでいらっしゃる人が、お受けしないでいられましょうか。道理に合わないことはなさいますな」と、(相手が)恥じ入るほどきびしい言葉で言ったので、 |
| 6 | これを聞きて、ましてかぐや姫聞くべくもあらず。「国王の仰せごとを背かば、はや殺したまひてよかし」と言ふ。 | これを聞いて、なおさらかぐや姫は聞き入れそうにもない。「国王のご命令にそむいたというのなら、早く殺してくださいよ」と言う。 |
| 7 | この内侍帰り参りて、このよしを奏す。帝聞こしめして、「多くの人殺してける心ぞかし」とのたまひて、やみにけれど、なほ思しおはしまして、「この女のたばかりにや負けむ」と思して、竹取の翁を召して仰せたまふ、「汝が持ちてはべるかぐや姫奉れ。顔かたちよしと聞こしめして、御使ひを賜びしかど、かひなく見えずなりにけり。かくたいだいしくやはならはすべき」と仰せらる。 | この内侍は宮中に帰って、このことを帝に申し上げる。帝はお聞きになって、「(なるほど)多くの男を死なせてきた心であるよ」とおっしゃって、そのままになったけれど、やはり(姫のことを)思い続けていらっしゃって、「この女の策略に負けてよいものか」とお思いになって、竹取の翁をお呼びになっておっしゃるには、「おまえが持っているかぐや姫を(わたしに)差し出せ。顔立ちがよいと聞いて、使いを送ったが、そのかいもなく会わずに終わってしまった。こんなふうに勝手気ままにしつけてよいものか(いや、よくない)」とおっしゃる。 |
| 8 | 翁かしこまりて、御返りごと申すやう、「この女の童は、絶えて宮仕へ仕うまつるべくもあらずはべるを、もてわづらひはべり。さりとも、まかりて仰せたまはむ」と奏す。これを聞こしめして、仰せたまふやう、「などか、翁の手に生ほし立てたらむものを、心にまかせざらむ。この女もし奉りたるものならば、翁に冠を、などか賜はせざらむ」。 | 翁は恐縮して、ご返事を申し上げることには、「この娘は、まったく宮仕えいたしそうにもございませんので、もてあましております。そうではありますが、退出して(姫におことばを)伝えましょう」と申し上げる。これをお聞きになって、帝がおっしゃることには、「どうして、翁が自分の手で育て上げたような者を、思いどおりにできないことがあろうか。この娘をもし(わたしに)差し出したならば、翁に五位の位を、どうして与えないことがあろうか(必ず与えよう)」。 |
| 9 | 翁喜びて、家に帰りて、かぐや姫に語らふやう、「かくなむ帝の仰せたまへる。なほやは仕うまつりたまはぬ」と言へば、かぐや姫答へていはく、「もはら、さやうの宮仕へ仕うまつらじと思ふを、しひて仕うまつらせたまはば、消え失せなむ。御官冠仕うまつりて、死ぬばかりなり」。 | 翁は喜んで、家に帰って、かぐや姫に話して聞かせることには、「このように帝がおっしゃった。それでもまだお仕えなさらないのか」と言うと、かぐや姫が答えて言うには、「まったく、そのような宮仕えはいたすまいと思っておりますのに、むりにお仕えさせなさるなら、(わたしは)消えてしまうでしょう。(あなたが)官位をいただけるようにお仕えして、(そのあとわたしは)死ぬだけです」。 |
| 10 | 翁いらふるやう、「なしたまひそ。官冠も、我が子を見たてまつらでは、何にかはせむ。さはありとも、などか宮仕へをしたまはざらむ。死にたまふやうやはあるべき」と言ふ。 | 翁が答えるには、「そんなことはなさいますな。官位も、わが子にお会いできないのでは、何になろうか(何にもならない)。そうではあっても、どうして宮仕えをなさらないことがあろうか。(宮仕えして)お死にになるなどということがあるはずがない」と言う。 |
| 11 | 「『なほそらごとか』と、仕うまつらせて、死なずやあると見たまへ。あまたの人の心ざしおろかならざりしを、むなしくなしてしこそあれ、昨日今日帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし」と言へば、 | (かぐや姫は)「『やはりうそだろう』と思うなら、(わたしを)お仕えさせて、死なないかどうか見てごらんなさい。たくさんの人の深い愛情を、むだにしてしまったのに、昨日今日(言い出した)帝のおっしゃることに従うのは、人に聞かれて恥ずかしいことです」と言うと、 |
| 12 | 翁答へていはく、「天の下のことは、とありともかかりとも、御命の危ふきこそ大きなる障りなれ。なほ仕うまつるまじきことを、参りて申さむ」とて、参りて申すやう、「仰せのことのかしこさに、かの童を参らせむとて仕うまつれば、『宮仕へに出だし立てなば死ぬべし』と申す。造麻呂が手に生ませたる子にてもあらず。昔、山にて見つけたる。かかれば、心ばせも世の人に似ずぞはべる」と奏せさす。 | 翁が答えて言うには、「世の中のことは、どうであろうとこうであろうと(かまわないが)、お命が危ないことこそ大きな差しさわりだ。やはりお仕えできないということを、(宮中に)参上して申し上げよう」と言って、参上して申し上げることには、「おことばの恐れ多さに、あの子を(宮中に)差し上げようと努めましたが、『宮仕えに出したならば、死んでしまうでしょう』と申します。(あの子は)造麻呂が生ませた子でもありません。昔、山で見つけた子です。そういうわけで、心の持ち方も世間の人に似ていないのでございます」と(取り次ぎの人を通して)申し上げさせる。 |
| 13 | 帝仰せたまはく、「造麻呂が家は、山もと近かなり。御狩の行幸したまはむやうにて、見てむや」とのたまはす。造麻呂が申すやう、「いとよきことなり。何か、心もなくてはべらむに、ふと行幸して御覧ぜられなむ」と奏すれば、 | 帝がおっしゃるには、「造麻呂の家は、山のふもとに近いそうだ。狩りにお出かけになるようなふりをして、(かぐや姫を)見ることはできないか」とおっしゃる。造麻呂が申し上げることには、「とてもよいお考えです。なに、(姫が)何の用心もしておりませんときに、急に行幸なさったら、きっとご覧になれるでしょう」と申し上げると、 |
| 14 | 帝、にはかに日を定めて、御狩に出でたまうて、かぐや姫の家に入りたまうて見たまふに、光満ちてけうらにてゐたる人あり。「これならむ」とおぼして、近く寄らせたまふに、逃げて入る袖をとらへたまへば、面をふたぎてさぶらへど、初めよく御覧じつれば、類なくおぼえさせたまひて、「許さじとす」とて、率ておはしまさむとするに、 | 帝は急に日を決めて、狩りにお出かけになり、かぐや姫の家にお入りになってご覧になると、光が満ちあふれて美しい様子で座っている人がいる。「これがかぐや姫だろう」とお思いになって、近くにお寄りになると、(姫は)逃げて奥へ入る、その袖をおつかまえになると、(姫は)袖で顔をおおってお控えしているけれど、(帝は)最初によくご覧になったので、比べるものがないほどすばらしいとお思いになって、「放すまいぞ」と言って、連れていらっしゃろうとすると、 |
| 15 | かぐや姫答へて奏す、「おのが身は、この国に生まれてはべらばこそ使ひたまはめ、いと率ておはしがたくやはべらむ」と奏す。帝、「などかさあらむ。なほ率ておはしまさむ」とて、御輿を寄せたまふに、このかぐや姫、きと影になりぬ。 | かぐや姫が答えて申し上げるには、「わたしの身が、この国に生まれた者でございましたら、(宮中で)お使いにもなれるでしょうが、(そうではないので)とても連れていらっしゃるのは難しいのではないでしょうか」と申し上げる。帝は「どうしてそんなことがあろうか。やはり連れて行こう」と言って、御輿をお寄せになると、このかぐや姫は、ぱっと影(のように形のないもの)になってしまった。 |
| 16 | はかなく口惜しとおぼして、「げにただ人にはあらざりけり」とおぼして、「さらば御供には率て行かじ。もとの御かたちとなりたまひね。それを見てだに帰りなむ」と仰せらるれば、かぐや姫、もとのかたちになりぬ。 | (帝は)あっけなく残念だとお思いになって、「本当にふつうの人ではなかったのだなあ」とお思いになって、「それならお供には連れて行くまい。もとのお姿になってください。せめてその姿だけでも見て帰ろう」とおっしゃると、かぐや姫はもとの姿になった。 |
| 17 | 帝、なほめでたく思しめさるること、せきとめがたし。かく見せつる造麻呂を喜びたまふ。さて、仕うまつる百官の人々に、あるじいかめしう仕うまつる。帝、かぐや姫をとどめて帰りたまはむことを、飽かず口惜しく思しけれど、魂をとどめたる心地してなむ帰らせたまひける。 | 帝は、やはりすばらしいとお思いになる気持ちを、おさえることができない。このように(姫を)見せてくれた造麻呂に感謝なさる。そうして(翁は)お供をしている大勢の役人たちに、盛大なごちそうをしてもてなし申し上げる。帝は、かぐや姫を残してお帰りになることを、心残りで残念にお思いになったけれど、(自分の)魂をそこに残してきたような気持ちでお帰りになった。 |
| 18 | 御輿に奉りて後に、かぐや姫に、 帰るさの行幸もの憂く思ほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ 御返りごとを、 葎はふ下にも年は経ぬる身の何かは玉のうてなをも見む | (帝は)御輿にお乗りになってから、かぐや姫に(歌を贈る)。 「帰り道の行幸は気が重く思われて(足が進まない)。わたしにそむいて家にとどまるかぐや姫のせいで」 (かぐや姫の)ご返歌は、 「つる草がはうような粗末な家で年月を過ごしてきたわたしが、どうして玉のように美しい宮殿など見ましょうか(見るつもりはありません)」 |
| 19 | これを、帝御覧じて、いとど帰りたまはむ空もなく思さる。御心は、さらに立ち帰るべくも思されざりけれど、さりとて、夜を明かしたまふべきにあらねば、帰らせたまひぬ。 | この歌を帝はご覧になって、ますますお帰りになる気持ちにもなれないようにお思いになる。お心は、まったくお帰りになれそうにも思われなかったけれど、そうかといって、(ここで)夜を明かしなさるわけにもいかないので、お帰りになった。 |
| 20 | 常に仕うまつる人を見たまふに、かぐや姫のかたはらに寄るべくだにあらざりけり。こと人よりはけうらなりと思しける人の、かれに思しあはすれば人にもあらず。かぐや姫のみ御心にかかりて、ただ一人過ごしたまふ。よしなく御方々にも渡りたまはず。かぐや姫の御もとにぞ、御文を書きて通はせたまふ。御返り、さすがに憎からず聞こえかはしたまひて、おもしろき木草につけても、御歌を詠みてつかはす。 | いつもおそばにお仕えしている女性たちをご覧になると、かぐや姫のそばに寄ることさえできそうにない(ほど見劣りする)。ほかの人よりは美しいとお思いになっていた人も、かぐや姫と比べてお考えになると、人並みにも思えない。かぐや姫のことだけがお心にかかって、ただ一人でお過ごしになる。わけもなく、お后たちのところへもお通いにならない。かぐや姫のもとにだけ、お手紙を書いてお送りになる。(かぐや姫も)ご返事は、さすがに冷たくはせず、やりとり申し上げなさって、(帝は)趣のある木や草につけても、お歌を詠んでお送りになる。 |


