古文文法辞典 › 助動詞
大学受験難関大
ひとことで言うと
「まし」は未然形につき、事実と反対のことを想像する反実仮想の助動詞。「〜せば・〜ましかば・〜ませば・未然形+ば、…まし」の形で「もし〜だったら、…だろうに」と訳します。疑問語といっしょならためらいの意志(〜しようかしら)です。
このページのポイント
- 接続は未然形、活用は特殊型:ませ/ましか・○・まし・まし・ましか・○
- 中心は反実仮想「もし〜だったら、…だろうに」
- 4つの型:ませば・ましかば・せば・未然形+ば 〜まし
- 疑問語+まし→ためらいの意志、「ましかば」で言いさし→実現不可能な希望
- 難関大は仮定の省略(〜ましものを)、ましかの未然形・已然形、「まじ」との識別
はじめて(やさしく)
「まし」は、本当はそうではないことを「もし〜だったら、…だろうに」と想像する助動詞です。このはたらきを反実仮想(はんじつかそう)といいます。「反実」は「事実に反する」、「仮想」は「かりに想像する」という意味です。
たとえば、テストの点が悪かったときに「もっと勉強していたら、合格していたのになあ」と言いますね。本当は勉強しなかった、本当は合格しなかった。その事実の反対を思いえがいて、ざんねんな気持ちを表すのが「まし」です。
うかるくん
「まし」って、「〜よりまし」の「まし」?
合格先生
それは形容詞の「増し(ましだ)」で、別の語だよ。助動詞の「まし」は、「もし〜だったら」とセットで使うのが特ちょう。下の業平の歌が、いちばん有名な例だね。
サクラちゃん
「もし桜がなかったら、春はのんびりできたのに」……桜が好きすぎて落ち着かない、ってことだね!
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
(古今和歌集・春上・在原業平(伊勢物語・第八十二段にも))
現代語訳もし世の中にまったく桜がなかったとしたら、春の人の心はのどかだっただろうに。
「まし」の意味は、ほかに「〜しようかしら」(ためらい)と「〜だったらよかったのに」(かなわない願い)があります。どれも「まし」のまわりの形を見れば決められます。

サクラちゃん
「まし」を見たら、まず上に「〜ば」がないかさがす! あったら「もし〜だったら、…だろうに」だね。
わからないところは、受験掲示板「100点BBS」の〈古典文法のお勉強〉で質問できます。
ここまでのまとめ
- 「まし」=反実仮想:事実の反対を想像して「もし〜だったら、…だろうに」
- 上に「〜せば」「〜ましかば」など仮定の「ば」があるのが目印
- ほかにためらいの意志(〜しようかしら)、実現不可能な希望(〜ならよかったのに)
しっかり(大学受験の基礎〜標準)
「まし」の接続と活用表(特殊型)
「まし」は未然形につきます(行かまし・見まし・あらまし)。活用は、ほかのどの用言とも同じでない特殊型です。
| 語 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用の型 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| まし | ませ/ましか | ○ | まし | まし | ましか | ○ | 特殊型 |
未然形は「ませ」と「ましか」の2つがあり、どちらも下に「ば」がついて仮定(もし〜だったら)を作ります。「ませ」は奈良時代の歌に多く、平安時代以降は「ましか」がふつうです。已然形も「ましか」なので、「ましか」を見たら未然形か已然形かを確かめます(もっと深くで説明)。連用形と命令形はありません。接続の仲間(む・むず・ず・じ・まほし など未然形接続)は助動詞の接続でまとめて確かめられます。
「まし」の意味と訳し方
| 意味 | 訳し方 | 目印になる形 |
|---|---|---|
| 反実仮想 | (もし)〜だったら、…だろうに | 〜ませば/〜ましかば/〜せば/未然形+ば … まし |
| ためらいの意志 | 〜しようかしら・〜したものだろうか | 疑問語(何・いかに・いづれ)や係助詞「や・か」といっしょに使う |
| 実現不可能な希望 | 〜だったらよかったのに・〜ならよいのに | 「〜ましかば」「〜ませば」で言いさす(後半を省く) |
| 推量(中世以降) | 〜だろう | 仮定も疑問語もなく、「む」と同じように使う。中世の文章に見られる |
4つ目の推量は、反実仮想の意味がうすれて「む」とほぼ同じになったもので、中世以降の文章に見られる、と説明されることが多い用法です。入試では、まず上の3つを考えましょう。
反実仮想の4つの型
反実仮想の「まし」は、前半に事実と反対の仮定(〜ば)を置きます。その仮定の作り方に4つの型があります。
| 型 | 前半(仮定) | 例 | 前半の文法 |
|---|---|---|---|
| ① | 〜ませば | 二人見ませば | 「まし」の未然形「ませ」+ば(上代に多い) |
| ② | 〜ましかば | あらましかば | 「まし」の未然形「ましか」+ば |
| ③ | 〜せば | なかりせば | 過去「き」の未然形「せ」+ば(サ変「す」とする説も) |
| ④ | 未然形+ば | なくは(なくば)・ずは | ふつうの順接仮定条件。形容詞・打消「ず」の「く」+「は」も |
「まし」の見分け方の手順
- 「まし」の上が未然形であることを確かめる(上が終止形なら打消の「まじ」ではないか)。
- 上(同じ文の前半)に仮定の「〜ば」(せば・ましかば・ませば・未然形+ば)があれば反実仮想。
- なければ、疑問語・や・かがあるかを見る。あればためらいの意志「〜しようかしら」。
- 「〜ましかば」「〜ませば」で文が終わっていれば実現不可能な希望「〜ならよかったのに」。
- どれもなければ、仮定が省略されていないか(「〜ましものを」など)、前後の文から事実と反対の内容を補う。
例文で確かめる
わが背子と二人見ませばいくばくかこの降る雪の嬉しからまし
(万葉集・巻八・光明皇后)
現代語訳あなた(天皇)と二人で見るのだったら、どんなにかこの降る雪がうれしいことでしょうに。
鏡に色・形あらましかば、映らざらまし。
(徒然草・第二百三十五段)
現代語訳もし鏡に色や形があったなら、(ものの姿は)映らないだろうに。
逢ふことの絶えてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし
(百人一首44番・中納言朝忠(藤原朝忠)「逢ふことの」)
現代語訳もし逢うことがまったくないのならば、かえって相手のつれなさも自分の不運も恨みはしないだろうに。
これに何を書かまし。
(枕草子・跋文)
現代語訳これに何を書こうかしら。
この木なからましかばと覚えしか。
(徒然草・第十一段)
現代語訳この木がなかったらよかったのに、と思われた。
もっと深く(難関大・上級者)
1. 仮定が省略された反実仮想:「〜ましものを」
反実仮想の前半(〜ば)は、いつも書かれるとは限りません。とくに和歌では、「〜ましものを」の形で後半だけを言い、「(もし〜だったら)…だっただろうに」と後悔・残念をこめることが多くあります。省かれた仮定は、文脈から補って訳します。
やすらはで寝なましものを小夜更けてかたぶくまでの月を見しかな
(百人一首59番・赤染衛門(やすらはで))
現代語訳(あなたが来ないとわかっていたら)ためらわずに寝てしまったでしょうに。(来るのを待って)夜がふけて、西にかたむくまでの月を見てしまいましたよ。

2. 「ましか」の識別:未然形か已然形か
「ましか」は未然形にも已然形にもあります。下に「ば」があれば未然形で仮定(もし〜だったら)、係助詞「こそ」の結びなら已然形で「〜だろうに」と言い切ります(係り結び)。また、濁点のない本文では「まじ」(打消推量)と形が似ますが、「まし」は未然形、「まじ」は終止形(ラ変型は連体形)につくので、上の語で見分けられます(助動詞「まじ」)。
3. 反実仮想と、ふつうの仮定「〜ば〜む」のちがい
「雨降らば、行かじ」(自作。もし雨が降ったら行くまい)のような「未然形+ば〜む・じ」は、これから起こりうることの仮定です。一方、「〜ば〜まし」は事実ではない(起こりえない・起こらなかった)ことの仮定です。④の型(未然形+ば)は形だけでは区別できないので、下が「まし」かどうかと、事実との関係で判断します。現代語訳でも、反実仮想は「〜だろうに」「〜のに」と、残念さがにじむ訳にすると差がはっきりします。
4. ためらいの意志は「疑問語+まし」
ためらいの意志は、「いかにせまし(どうしようかしら)」「行きやせまし、行かずやあらまし(行こうか、行くまいか)」(どちらも自作)のように、疑問語や係助詞「や・か」と使われます。迷っているのは話し手自身なので、主語はふつう一人称です。疑問語がなく一人称でも、仮定があれば反実仮想が先です。
うかるくん
「寝なましものを」は「〜ば」がないのに反実仮想なんだ!
合格先生
そう。和歌は字数が少ないから、仮定を言わずに「まし」だけで「本当はちがったけれど」とにおわせる。訳では「(もし〜だったら)」と補うのが得点のコツだよ。
5. 「せば〜まし」の「せ」と、上代の「ませ」
③の型の「せ」は過去の助動詞「き」の未然形と説明されるのがふつうですが、サ変動詞「す」の未然形とみる説もあります。①の「ませ」は奈良時代の未然形で、平安時代の歌では「ましか」がふつうになります。どちらも、「ば」がついて事実に反する仮定を作る点は同じです。くわしくは助動詞「き・けり」のページで扱っています。
よくあるまちがい
まちがい1:「まし」を「〜だろう」とだけ訳す
反実仮想の「まし」は「〜だろうに」「〜のに」と、事実とちがう残念さが出るように訳します。「もし〜だったら」の仮定も忘れずに。
まちがい2:「ましか」をいつも已然形と答える
下に「ば」がある「ましかば」の「ましか」は未然形。已然形は「こそ〜ましか」の結びのときです。
まちがい3:「まし」と「まじ」を混同する
「まし」は未然形接続の反実仮想、「まじ」は終止形接続の打消推量。上の語の活用形で区別します。
練習問題
やさしい
- 助動詞「まし」の接続と、いちばん大事な意味を答えなさい。
答えと解説を見る
接続は未然形。いちばん大事な意味は反実仮想「(もし)〜だったら、…だろうに」。
- 「金あらましかば、家を買はまし。」(自作)を訳しなさい。
答えと解説を見る
「もしお金があったなら、家を買っただろうに」。「ましかば〜まし」の反実仮想。事実は「お金がない」。
ふつう
- 「いづれの道をか行かまし。」(自作)の「まし」の意味を答え、訳しなさい。
答えと解説を見る
疑問語「いづれ」と係助詞「か」があるのでためらいの意志。「どちらの道を行こうかしら」。
- 反実仮想の4つの型を、前半(仮定)の形で答えなさい。
答えと解説を見る
①〜ませば、…まし ②〜ましかば、…まし ③〜せば、…まし ④未然形+ば、…まし。
むずかしい
- 次の傍線部の「ましか」の活用形を答えなさい(自作)。
① 花見ましかば ② 花をこそ見ましか答えと解説を見る
① 下に「ば」があるので未然形(仮定「もし花を見たなら」)。② 係助詞「こそ」の結びなので已然形(「花を見ただろうに」)。
- 「早く告げなましものを。」(自作)を、省略された内容を補って訳しなさい。また「な」を文法的に説明しなさい。
答えと解説を見る
「(こうなるとわかっていたら)早く知らせてしまっただろうに」。仮定が省略された反実仮想で、後悔の気持ち。「な」は完了(強意)の助動詞「ぬ」の未然形で、「まし」が未然形接続なので「な」になる。
関連ページ
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- 助動詞の接続:未然形接続の仲間
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- 古文文法辞典の目次
助動詞全体の流れは、記事「古文の助動詞一覧」でも、和歌の読み方は記事「和歌の修辞」でも読めます。
読みもの(合格大作戦の記事)
- 古文の助動詞一覧
接続・意味・活用をまとめて見る地図 - 百人一首 全百首
全首の現代語訳・品詞・修辞 - 和歌の修辞
枕詞・序詞・掛詞・縁語・本歌取り - 徒然草 第百八十八段
兼好法師の文章を読む - 枕草子「春はあけぼの」
冒頭の段を品詞から読む
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よくある質問
反実仮想とは何ですか?
事実と反対のことを仮に想像する表現です。「〜せば…まし」などの形で「もし〜だったら、…だろうに」と訳し、事実ではない残念さや後悔がこもります。
助動詞「まし」の意味はいくつありますか?
反実仮想・ためらいの意志・実現不可能な希望の3つが中心です。中世以降の文章では「む」と同じ推量の意味で使われることもあります。
反実仮想の4つの型は?
「〜ませば…まし」「〜ましかば…まし」「〜せば…まし」「未然形+ば…まし」の4つです。前半の「〜ば」が事実と反対の仮定を表します。
「ましか」は未然形ですか、已然形ですか?
どちらもあります。下に「ば」がつけば未然形(仮定)、係助詞「こそ」の結びなら已然形です。
「まし」と「まじ」の違いは?
「まし」は未然形接続の反実仮想、「まじ」は終止形接続の打消推量(「べし」の打消)です。上の語の活用形で見分けます。
あわせて読みたい
出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:古今和歌集(春上・在原業平)、万葉集(巻八・光明皇后)、徒然草(第十一段・第二百三十五段)、枕草子(跋文)、百人一首(44・59番)。表記は読みやすいように一部改めています
- 高校の古典文法の標準的な説明(「まし」の意味・接続・活用、反実仮想の型)にもとづいて作成。「せば」の「せ」の扱い、中世の推量用法、「なくは」の文法には説が分かれるものがあり、本文中に両説を記した
- 画像:百人一首の絵札(パブリックドメイン、Wikimedia Commons)
最終更新:2026年10月21日/作成:大学受験合格大作戦



