- 歌
- 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
- 意味
- あなたの心は、さあ、どうだかわかりません(変わってしまったかもしれません)。けれども、なじみのこの土地では、梅の花だけは昔と変わらない香りで美しく咲き匂っていることだ。
- 作者
- 紀貫之(きのつらゆき)
- 出典
- 『古今和歌集』春上・42番
- 決まり字
- 「ひとは」(3字決まり)

人はいさ 心も知らず ふるさとは
花ぞ昔の 香ににほひける
読みひとはいさ こころもしらず ふるさとは
はなぞむかしの かににおいける
歴史的仮名遣いひとはいさ こゝろもしらず ふるさとは
はなぞむかしの かににほひける
人の心は変わるかもしれないけれど、このなじみの土地では、梅の花だけは昔と同じ香りで咲いていることだ——『古今和歌集』の中心人物・紀貫之の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| いさ | いさ | 「さあ、どうだか」。下に「知らず」などの打消を伴います。 |
| ふるさと | ふるさと | 昔なじみの土地。ここでは、昔よく泊まった家のある土地です。 |
| 花 | はな | ここでは梅の花。古今和歌集の時代、「花」は桜を指すことが多いですが、この歌は梅とされます。 |
| 香ににほひける | かににおいける | 「香りよく咲いていることだ」。「ぞ」を受けて「ける」が連体形で結んでいます。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 人 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| いさ | 副詞 | さあ(どうだか) |
| 心 | 名詞 | |
| も | 係助詞 | |
| 知ら | 動詞・ラ行四段「知る」未然形 | |
| ず | 助動詞「ず」終止形 | 打消 |
| ふるさと | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| 花 | 名詞 | |
| ぞ | 係助詞 | 強意 |
| 昔 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 香 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| にほひ | 動詞・ハ行四段「にほふ」連用形 | |
| ける | 助動詞「けり」連体形 | 詠嘆(係り結び) |
表現技法・文法のポイント
変わるかもしれない「人の心」と、変わらない「花の香り」を対比しています。
「ぞ」を受けて「ける」が連体形になっています。
「心も知らず」で切れます。
歌の背景・鑑賞
『古今和歌集』春上に入っています。詞書によると、作者が奈良の長谷寺へお参りするたびに泊まっていた家に、久しぶりに立ち寄ったところ、家の主人から「宿はこのように変わらずあるのに(ずいぶんご無沙汰でしたね)」と皮肉を言われました。そこで、梅の枝を折って詠んだのがこの歌です。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
詞書に出てくる「宿の主人」が、男性なのか女性なのかははっきりしません。もし女性だったとしたら、「ご無沙汰ね」という皮肉に、「あなたの心はわからないけれど、梅の香りは昔のまま」と返したやりとりが、恋の駆け引きのようにも見えてきます。
貫之は『土佐日記』を、「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」と、女性のふりをして仮名で書きました。漢字で書くのが男性の常識だった時代に、仮名で心を自由に書こうとした、新しいことに挑戦する人だったのです。
貫之も、大江千里(23番)と同じ是貞親王家の歌合に参加したとされます。のちに『古今和歌集』を編集する若き貫之と、学者の千里が、同じ秋の夜に歌を競ったのかもしれません。
作者:紀貫之
平安時代前期から中期の貴族・歌人、紀貫之(きのつらゆき)です。醍醐天皇の命で、日本最初の勅撰和歌集『古今和歌集』を編集し、仮名で書かれた序文(仮名序)を書きました。土佐守(今の高知県の長官)の任期を終えて帰る旅を、女性のふりをして仮名で書いた『土佐日記』の作者としても有名です。三十六歌仙の一人です。
決まり字と覚え方
上の句が「ひとは」まで読まれたら、取り札が決まります。「ひ」で始まる歌は3首あります。
覚え方:「ひとは」と聞いたら「はなぞむかしの」。人は(ひとは)変わっても花ぞ(はなぞ)昔の、と覚えます。「ひと」で始まる歌は4首あるので、3字目の「は」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 「いさ〜知らず」の呼応
- 係り結び(ぞ→ける)
- 作者(古今和歌集・仮名序・土佐日記)=文学史の超重要人物
よくある質問
「人はいさ」の「いさ」とはどういう意味ですか?
「さあ、どうだか」という意味で、下の「知らず」と呼応して「さあ、わからない」となります。
この歌の「花」は桜ですか?
梅の花とされます。詞書に、梅の花を折って詠んだとあるためです。
紀貫之はどんな人ですか?
『古今和歌集』を編集し、仮名序や『土佐日記』を書いた、平安時代を代表する歌人です。
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