徒然草「相模守時頼の母は(松下禅尼)」原文と現代語訳(印刷用・A4)

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原文は教科書で広く読まれる形に整えたもの(本によって語句が少しちがいます)、現代語訳は合格大作戦のオリジナルです。

原文現代語訳
1相模守時頼の母は、松下禅尼とぞ申しける。相模守(北条)時頼の母は、松下禅尼と申し上げた。
2守を入れ申さるる事ありけるに、すすけたる明かり障子の破ればかりを、禅尼手づから、小刀して切り回しつつ張られければ、(禅尼が自分の家に)相模守(時頼)をお招き申し上げなさることがあったときに、すすけた明かり障子の破れた所だけを、禅尼が自分の手で、小刀で(紙を)切りまわしながらお張りになっていたので、
3兄の城介義景、その日のけいめいして候ひけるが、「給はりて、なにがし男に張らせ候はん。さやうの事に心得たる者に候ふ」と申されければ、(禅尼の)兄の城介(安達)義景が、その日の準備をしてお控えしていたが、「(その仕事を)いただいて、だれそれという男に張らせましょう。そういうことに慣れている者でございます」と申し上げなさったところ、
4「その男、尼が細工によもまさりはべらじ」とて、なほ一間づつ張られけるを、(禅尼は)「その男は、この尼の細工にまさか勝ってはおりますまい」と言って、やはり一こまずつお張りになっていたので、
5義景、「皆を張り替へ候はんは、はるかにたやすく候ふべし。まだらに候ふも見苦しくや」と重ねて申されければ、義景が、「全部を張りかえますほうが、ずっと簡単でございましょう。(新しい紙と古い紙で)まだらになっておりますのも、見苦しくはございませんか」と、重ねて申し上げなさったので、
6「尼も、後はさはさはと張り替へんと思へども、今日ばかりは、わざとかくてあるべきなり。物は破れたる所ばかりを修理して用ゐる事ぞと、若き人に見習はせて、心づけんためなり」と申されける、いとありがたかりけり。(禅尼が)「この尼も、後ではさっぱりと全部張りかえようと思っているけれど、今日だけは、わざとこうしておくのがよいのです。物は破れた所だけを修理して使うものだと、若い人(時頼)に見て習わせて、気づかせようと思うためです」と申し上げなさったのは、たいそうめったにない(りっぱな)ことであった。
7世を治むる道、倹約を本とす。女性なれども聖人の心に通へり。天下を保つほどの人を子にて持たれける、まことに、ただ人にはあらざりけるとぞ。世の中を治める道は、倹約を基本とする。(禅尼は)女性であるけれども、聖人の心に通じている。天下を治めるほどの人を子としてお持ちになっていた(その人は)、本当に、ふつうの人ではなかったということだ。